※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

43 / 82
第43話 Profitez de l'air frais 《シャバの空気を楽しむ》

 年に一度のクリスマス。それは、大切な人と一緒に過ごす、聖なる夜の特別な記念日。

 

 柔らかな雪が地上に降り注ぐ外界。龍明の街は赤と緑で着飾られ、この日ばかりは治安を無視して多くの人々が出歩き出す。普段は淀んだ空気が漂うこの地域も、クリスマスの季節になると男女の若者で溢れかえるのだ。

 

 そんな自分はこの日も、夜のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)を最後まで堪能していった。

 煌びやかな装飾が施されたクリスマスツリーに、山積みにされたシャンパンのグラス。鳴らされたクラッカーの紙吹雪が祝杯の名残を感じさせ、それを清掃するホステス達は閉店後の後片付けに追われていた。

 

 今日はクリスマスと言えども、彼女達は通常通りに深夜まで働き詰めとなっていた。その姿を終始と見守っていた自分は後片付けに手を貸して、最後に彼女らはこちらへお礼を伝えてくるなりと、疲れた様相と共に控室へと歩き出していく。

 

 今日もお疲れ様です。何度も口にした言葉が内心で反響し続ける自分の胸。そうして自分はホステス達を見送っていた中で、次にもこちらへ駆け寄ってきた一つの足音へと振り向いていった。

 

 すぐにも目に入ったのは、こちらを目指して真っ直ぐと駆け付けていたシュラの姿。直後にも目が合うなり、彼女はタキシードを身に纏った服装で、膝丈まで伸ばしたミルクティーベージュの長髪を低い位置で結んだツインテールを揺らしながらそれを呼び掛けてきた。

 

「ニーチャァーーーーンッッッ!!!!」

 

 佇んでいたこちらへと、容赦の無いダイブをかましてきたシュラ。目の前から飛び付いてきた彼女に自分は「うおっ!?」と声を上げながらも、その健康的な身体を抱き留めるようにして迎え入れていく。

 

 数歩と引き下がった自分は、懐に顔を埋めてきたシュラの頭を撫でていった。すると、彼女は快活な表情で顔を上げながら、とても満足そうな様子で喋り出してきたものだ。

 

「ニーチャぁン、会いたかったでぇ……!! ウチ、ニーチャンと一分一秒でも離れてもうたら、寂しさのあまりに軽率に爆発してまうわぁ……!!!」

 

「そ、それは大変だね……。でも、夕方まで一緒だったからそんな久しぶりって状況でもないと思うけど……」

 

「せやけど、今日はクリスマスやないか!! そんな特別な日にアホほど忙しい仕事を入れられてみぃ!!! ウチらが発情したニーチャンらを相手しとる間にも、外の連中は愛するパートナーとアホほどどえらいエッチをしとるんやで!? そんなん、センチメンタルな気分の一つや二つくらいなるやろ?? なぁ??」

 

「まぁ、どえらいエッチかどうかはさておいて……確かにクリスマスの日もお仕事っていうのは憂鬱になるよね」

 

「せやろぉ?? やっぱニーチャンなら分かってもらえると思うたわぁ……! せやから、ニーチャン。今日のお勤め頑張ったウチのこと褒めてぇな!!! な!!」

 

 と言い、この胸元に顔を擦り付けながらお願いしてきたシュラ。

 ……なんか、久しぶりに帰ってきたご主人様をお迎えする犬みたいだな。内心で抱いた感想と共にして、自分はちょっとだけシュラにトキメキを覚えながら彼女の頭を撫でていった。

 

「よしよし、今日もよく頑張ったねシュラ」

 

「へへへっ……えへへへへへ…………っ。ニーチャン……ニーチャン……グヘヘヘヘヘっ……」

 

 ……大丈夫かな。相当疲れたのかな。

 ちょっとアブない感じで喜び始めたシュラを見て、冷や汗を流しながら彼女を抱き留めるようにした自分。その最中にもこの意識は他に歩み寄ってきたホステスへと向いていき、次にもシュラに続くよう合流してきたタキシード姿のメーとも会話を交わしたものだった。

 

「あぁ、メー。今日もお疲れ様」

 

「あーい、カンキ君もおっつー。それにしても、相変わらずのシュラの懐き具合だねー。もしかして前世で兄弟だったとか、割とそんなのあったりするんじゃない?」

 

「かなぁ。もし本当にシュラと何らかの繋がりがあったなら、それはそれでなんだかロマンチックだね」

 

「ま、さっきは兄弟って言ったけど、今の様子から見るにどっちかって言うとペットと飼い主って感じかな~?」

 

 小悪魔のように微笑むメーを脇にして、顔を上げたシュラが「ほんなら、ニーチャンの前世はポチって名前だったかもしれへんなぁ」と言葉を口にしてくる。

 

 それを聞いた自分は「いや俺が飼われる側なのか」と呟いていく中で、メーは思い出したように話し出してきた。

 

「あぁそうそう。それでシュラ、最後に軽くミーティングするってオーナー言ってたから早く来て」

 

「ぅえーーー、そないなもんウチがおらんくてもできるやろ。ウチはここでニーチャンの護衛しとるから、ミーティングはジブンらで勝手に済ませといてやー」

 

「これ連帯責任でみんな待たされるんだからさー、なるはやで来てくれないと困るんだよねー」

 

 困ると言う割には、勝気な笑みを浮かべながら返答したメー。そんな深刻でもない雰囲気を出しながら彼女は頭を掻いていくと、次にもメーはこちらへと歩み寄ってくるなり、シュラを引き剥がすようにこちらを引っ張りながらそう言葉を続けていった。

 

「そういうわけだから、カンキ君は私が没収しま~す。はいじゃ、オーナーんとこに行くよーカンキ君」

 

「え? あ、あぁ」

 

 言われるまま歩き出した自分と、こちらを引っ張るメー。オーナーが待つという方向へと二人で向かい始めると同時にして、置いていかれたシュラは慌てるような声音で「う、ウチからニーチャンを取り上げるっちゅう残酷な仕打ち、ジブン鬼かいな!!! ま、待ってやぁニーチャァン!!!」と言いながらこちらを追い掛けてきた。

 

 そうして、メーは思惑通りに彼女をオーナーの下へと連行していった。ついでに、釣り餌にしたニーチャンも一緒に連れていくように……。

 

 

 

 

 

 会場を少し歩いた先にて、店の従業員らが集合していた。ホステスもボーイもタキシード姿でそこに佇んでおり、彼女らが見遣る先にはスーツ姿の荒巻が何かを喋り出していく。

 

 常備しているサングラスがイカした彼。風貌もキャバレーを仕切るそれであり、いつもの飄々とした雰囲気を醸し出さないオーナーらしさを一同に見せていきながら、荒巻は何かを言い切っていった。

 

 そうすると、集まっていた従業員達は解放されたようにその場から散り始めた。各々が談笑を交わしながら控室に向かっていくその様子を遠目に、自分らはそこに残っていたメンツと合流するよう歩み寄っていく。

 

 少しして、こちらの足音に気が付いた一同。オーナーとしてこの場を仕切る荒巻を始めとして、ユノやラミア、レダやミネ、そしてノアやクリスといういつもの顔ぶれが振り向いてくる。そうしてメーとシュラが連れてきたこちらを見てホステス達が挨拶を口にしてくると、次にも荒巻がニッと陽気に笑みながら言葉を投げ掛けてきた。

 

「よーぅ、カンキちゃん!! 世間じゃクリスマスを謳歌してるっつーこんな時期にも、わざわざこんな薄汚れたアンダーグラウンドの世界に顔を出してもらっちまってすまないねぇ。カンキちゃんを見てるとオレちゃん、なんだかカンキちゃんの人生を狂わせちまったみたいで申し訳なく思えてきちまうぜ」

 

「いえそんな。俺はそういう血筋にあったってだけの話ですから、誰のせいってわけではありませんよ」

 

「つまり、これも運命だったってことか?? その割り切りの良さ、つくづく親父さん似で思わず面影を感じちまうねぇ」

 

 飄々としながらも、懐かしむような声音で喋る荒巻。続けてユノが凛々しいサマで「柏島くんが存命する限りは、柏島オーナーの魂も健在ということでしょう。彼に世話になったこれまでのご恩は、柏島くんを通じて返していくべきでしょうね」と口にした。

 

 なんだか真面目な空気になった店の中。かと思えば、荒巻はその場にいるホステスへと酒の席を誘い始めたものだった。

 

「っつーことでよぉ、いきなりにはなっちまうんだが~……ホステスの誰かさんでよぉ、オレちゃんの酒の席に付き合ってくれる心も美人なお姉ちゃん、ここにいねぇモンかなぁ??? オマエさんら、どうせ一緒に過ごす恋人なんかいねぇだろ?? なら、このクリスマスはよぉ、オーナーであるオレちゃんと一緒に酒を酌み交わして、しっぽりと、それでいて熱々な歓談を交わし合うっつー有意義な時間を過ごすべきだと思うんだけどよぉ……その辺どう思うよ?? オマエさんら」

 

 プレイボーイ丸出しの露骨な誘惑。色気は十分に伴っている荒巻はものすごく自信あり気なサマでホステスらを誘うのだが、ユノとラミア、メーとレダ、ミネとシュラに、ノアというその場の彼女らは突き放すように言葉を返していく。

 

「それ以上そのくだらない寝言をのうのうと垂れるのであるならば、この蹴りで路地裏に寝かしつけてあげましょうか」

 

「あー、ちょっとオーナーさんは下心が見え見えなんでパスでお願いしまーす」

 

「あは、オーナー冗談上手くなった? マジでウケるんだけど」

 

「ウフフ……オーナーの挑戦的なその姿勢だけは、素直に認めてあげる。その姿勢だけは、ね?」

 

「アタシは、うーん……今日は早く帰りたいかな」

 

「何言うとんねんジブンは。ウチはニーチャンと熱々の聖夜を過ごすんや。ウチらの邪魔せんといて」

 

「ボクが荒巻と対等な立場にあると、キミはそう勘違いをしているみたいだね。悪いけれど、ボクはホステスになったからって心まで荒巻に下ったわけではないよ。その辺を履き違えないでくれるかな」

 

 みんな容赦が無さ過ぎる。

 

 怒涛の返答に、荒巻は石化するように硬直した。

 あまりにも辛辣な言葉の数々。それは、自分だったら人生に絶望するレベルで挫ける勢いの刺々しい言葉達であったものだが、一方で言われた本人はどこか満足そうに笑みながら、ひそめた眉でこちらに向いて『お手上げ』のジェスチャーを見せてくる。

 

 ……けっこう余裕ありそうだな。

 洗練された心構えに、自分は汗を流しながらただただ見遣ってしまった。尤も、これによって彼と目が合うなり、荒巻は良い釣り針を見つけたかのようにこちらへとズカズカ歩み寄ってくると、次にもこの肩に自身の右腕を掛けながら、得意げに、それでいて拗ねるような調子でそれを喋り出してきたものだ。

 

「あーそうかいそうかい!!! じゃー仕方ねぇなぁ!!! だーれもオレちゃんに付き合ってくれねぇんならよぉ!! オレちゃんこれから、カンキちゃんと二人だけで飲みに行っちまうもんねーだ!!!」

 

「え、俺ですか……!?」

 

 見せつけるように絡んできた荒巻と、そちらへ振り向く自分。そんなこちらもお構いなしに胸を張る荒巻と、連れ出す宣言に食いついたシュラが会話を交わしていく。

 

「ちょお待ちぃや!!! ニーチャンはウチと一緒にクリスマスを過ごすんや!! ヒトのニーチャン勝手に取らんといて!!!」

 

「いいや!!! オレちゃんもう決めたもんねー!!! オレちゃんこれからカンキちゃんと酒飲むからよぉ、オレちゃんの誘いを断ったオマエさんらは、断った同士でクリスマスの夜を楽しんでおきな!!!」

 

「アホかいな!!! ニーチャンのおらへんクリスマスなんか、ルーが無いカレーライスみたいなモンや!! 白米だけじゃ味気ないやろ!!! はよニーチャン返して!!!」

 

「オーナー権限発動ッ!!!! シュラちゃんはもう、オレちゃんの決定には逆らえないッ」

 

「あぁァーーーーッッ!!!! ずるいでほんま!!! そんなん権限の濫用やぁ!!!」

 

 さ、騒がしい。

 本気で怒るシュラに対して、意地悪な微笑で彼女をからかう荒巻。二人の様子にユノが鼻でため息をついていくと、軽く腕を組んだその佇まいで荒巻へと言葉を掛けていった。

 

「オーナー、これから酒の席を手配するとでも言うのかしら。今宵は年に一度の聖誕祭。宴会の席など今さら手筈のしようがないでしょう」

 

「フッフッフ……実はな、既に手配済みなのだよユノちゃん。オレちゃん、今宵のクリスマスを誰かと飲み明かすこと前提に、事前に宴会の席を押さえてあったのさ」

 

「団体で訪れることを前提に、じゃないでしょうね。そうだとしたらお店側が不憫で仕方がないわ」

 

「いやいや! ちゃぁんとご厚意に預かってますっての!! そこの店主、以前にも柏島さんが受けた依頼の依頼主でなぁ。んで、柏島さんが亡くなった後も色々と気にかけてくれててよ、今日も、柏島さんに世話になったお礼も兼ねてっつーことで、特別にオレちゃん達専用の席を残しておいてくれたってワケなのよ」

 

「……柏島さんの、元依頼人?」

 

 なんか、流れ変わったな。

 親父の名前を耳にして、荒巻への当たり方が和らぎ始めたユノ。直後にも彼女は間髪入れずにそんな返答を行っていった。

 

「……そうね。せっかくと賜った柏島さんへの恩義を無下にするわけにはいかないわ。それが店主さんからのご厚意であるのならば、その宴会に私も参加させなさい。Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)を代表する者として、直々にお礼を伝えなければならないものですから」

 

「ほい来たぁ!!! ユノちゃん一丁!! っつーことでオマエさんらぁ! これでオレちゃんの下には、カンキちゃんとユノちゃんの二人がついたことになるがぁ?? このメンツを見て、考えを改めた輩はあと何人いるかなぁ???」

 

 周囲のホステスへと向けて、煽るよう得意げに喋り始めた荒巻。目の前の状況に対して、残る一同は平然としたサマで顔を合わせていくと、再度と荒巻へ向いていくなり、ラミアとメー、レダとミネ、シュラとノアは先までの辛辣さをうかがわせない調子でそれぞれ言葉を口にしていった。

 

「まー、今日はクリスマスですからねー。せっかくなので、ウチも参加しまーす」

 

「なんか面白そうだから、私も参加しよっかな~。あとビールもたくさん飲めそうだし!」

 

「ウフフ。カンキ君が行くのなら、わたしもついていこうかしらぁ」

 

「ん、みんなが行くならアタシも行こっかな」

 

「ウチはニーチャンについてくで!!! ニーチャンの居る場所にシュラ在りや!!」

 

「ボクも、ユノとの宴席を共にしたいな! もちろん、柏島歓喜の護衛も兼ねてね!」

 

 圧倒的手のひら返し。

 ドリルのように回転する手のひらに、荒巻はしてやったりな笑みを浮かべながら「よーぅし!!! これでメンバーは揃ったな!!」と言ってみせる。彼の言葉にユノだけが不満そうな表情を見せていく中で、自分は荒巻に連行されるような形で歩き出していった。

 

 ……のだが、自分はふと視界に入ったクリスの姿を見て、反射的に彼へとその声を掛けていく。

 

「クリス、良かったらクリスも来ないかな? せっかくの特別な日だし、みんなと時間を共にしてみるのも悪くないかもしれないよ」

 

 まぁでも断られるかな。確信に近い内心が自分の中で呟かれる。だが、こちらの予想とは裏腹にクリスは不敵な調子でこんな返答を行ってきた。

 

「それじゃあ、僕も同席してみようか」

 

「え? あぁ、良かった! なんか新鮮だよ、クリスも一緒に来てくれるのは」

 

「そうだね。宴会なんて僕の性分に合わないからね。でも不思議なことに、今日ばかりは周りと過ごす時間に悪い気がしてこない。どうしてだろうね? うん、本当に不思議だな。フフッ」

 

 こちらを真っ直ぐ見据えながらも、どこか言葉を探すような喋り方で不気味に喋ってみせたクリス。彼の様子に、自分は頷きながら「もしかしたら、向こうで何か分かるかもね。とにかく、思い立ったが吉日だよ!」と答えていき、こちらの返しにクリスもまた無言の視線を投げ掛け続けていたものだった。

 

 

 

 

 

 龍明の駅前にある居酒屋。団体用の座敷に通された自分らは、焼き鳥や刺身、揚げ物や枝豆などの豪勢な夜食のフルコースと向かい合っていく

 

 そして、皆の手には握りしめられたジョッキがそれぞれ一つずつ。ビールやチューハイ、烏龍茶などの様々な飲み物が注がれたそれを一同で掲げながら、あぐらをかいて座るスーツ姿の荒巻が乾杯前の挨拶を口にしていった。

 

「えー、まぁここでオーナーのオレちゃんから一言。っつっても、みんな今年もよく頑張りましたっつーことで、ホイ! お疲れさんの乾杯だ!! かんぱーい!!!」

 

 あまりにも適当だった。

 荒巻の乾杯の音頭に、テーブルを挟んだ向かい側に座る私服姿のラミアが「ちょっとオーナーさん、それじゃークリスマス感なんてあったモンじゃないですよ。それに今年はまだ残ってますし、忘年会ですかコレ」とダメ出しを食らわせていく。

 

 彼女の言葉に、荒巻は「まぁまぁ、細けぇこたぁ気にすんな」と能天気に返答した。そして、ゴリ押すように「そんなわけで、かんぱーい!!!」と声を上げ、彼に続いて皆がジョッキを上げて乾杯を交わしていった。

 

 席の一番奥側で烏龍茶をいただく自分。この左隣にはシュラがおり、ニーチャン呼びを連呼しながら料理の味についての実況などを行っていく。自分の向かい側には同じく奥側に座るクリスがいて、彼の右隣にはビールをがぶ飲みするメーがいたものだ。

 

 シュラとメーの隣には、それぞれラミアと荒巻。そのラミアの隣にはミネと続いてノアが座っていて、荒巻の隣にもレダと続いてユノが座っていた。

 

 皆が和気藹々と談笑を交わし合う中で、自分は周囲の様子を見渡していく。

 座敷の入り口のところでは、男性の店主と会話するユノの姿が見られた。彼女の美貌を前にして店主が照れ混じりに何度も会釈を繰り返していく脇で、ノアは隣で料理を頬張るミネへとそれを喋り掛けていく。

 

「み、ミネ。キミ、そんな一気に詰め込んで大丈夫なのかい? さすがにその量は胃袋がビックリしてしまうと思うんだが……」

 

「? 別にヘーキだけど。いつものことだし」

 

「そ、そうなんだ……いやそれならいいのさ。ただ、ちょっと意外だったよ。普段、学校で見るキミからはあまり考えられない姿でね。ミネ、実はけっこう大食いなんだね」

 

「なに、悪い?」

 

「悪くはないさ! いやでも、あれだな。大食いに関しては、さすがのボクもミネには勝てそうにないかもしれないな……キミの食べっぷりを間近で眺めていると、ちょっと自信が湧いてこない」

 

「へぇ、なんか珍しいじゃん。弱気になるの。まぁ、大食い勝負ならいつでも受けて立ってあげる。生憎とアタシ、まだまだいっぱい食べられるから」

 

「うーん、ミネを少し侮っていたな……。勝負を申し込む前に、まずは胃袋を大きくしなければならないか……」

 

 初対面の際は気まずい空気が流れていた二人だが、今となっては普通に会話を交わす同業者としてのやり取りを行っていたものだ。

 

 少女らの向かい側では、ユノと会話していた店主がレダに誘惑されていた。ユノの後ろから顔を出した彼女による、豊満な乳を寄せながら前屈みになって行われる艶やかなその喋り。思わず店主がガン見した視線にレダがひとり興奮を覚える中で、ユノは「公共の場で色目を使うのは控えなさい」と口にして、レダを自身の後ろへと退かしていく様子がうかがえた。

 

 そんなホステス達の傍らでは、ラミアと荒巻による口喧嘩が行われていた。

 

 荒巻が取ろうとしたエビフライをラミアが取ったとして、また、ラミアが取ろうとした唐揚げを荒巻が取ったとして、互いに指を差し合いながら色々と言葉を交わしている。

 

 そうして、労働に勤しんだホステスを労わるべきだと主張するラミアと、自身を雇ってくれているオーナーを尊重するべきだと主張する荒巻の双方がぶつかっていくその脇では、既に泥酔していたメーが隣のクリスに寄り掛かり、静かに迷惑そうにする彼へと酔っ払いの絡みを行っていたものだった。

 

 ……なんか、カオスな状況だな。

 一人一人の個性が強い分、それが集合するととんでもないことになる。ある意味で雰囲気が良いとも言えるかもしれない宴会の空間に、自分はどこかほっこりするような気持ちで目の前の光景を眺めていた。

 

 で、自分の隣に座るシュラは、こちらにしか興味が無いと言わんばかりに言葉を投げ掛けてくる。

 

「ニーチャン、しっかり食べとるか? せっかくのクリスマスパーティーやさかい、食べられるだけ食べとかな損やで??」

 

「あぁ、大丈夫だよシュラ。シュラもしっかり食べてる? 俺のことを気にしてくれるのは嬉しいんだけど、俺としてはシュラが料理を堪能できているかが気になってさ」

 

「ウチは、ニーチャンと一緒にメシ食えるだけで大満足やねん!! ニーチャン、食べたいもんあったら教えてな。ニーチャンの届かへんやつは、ウチが取ったるから!!」

 

「あ、ありがとうシュラ」

 

 太陽のように微笑むシュラを見て、自分はちょっとだけ言葉に詰まりながらお礼を伝えていく。そうして自分を慕ってくれている彼女と会話をしていると、次の時にも向かいの席にいるクリスからささやかなヘルプが投げ掛けられてきた。

 

「ちょうどいい。君に一つ訊きたいことがあるんだ。僕はこれまで、だる絡みしてきた酔っ払いに対して、銃弾を撃ち込むことでそのトラブルを解決してきた。だけど、今回は拳銃の使用を制限されてしまっている。この場合、君ならどのようにしてだる絡みから切り抜けるものかな? ぜひともご教授願いたいね」

 

「あー…………」

 

 肩に腕を掛けられて、アルコールのにおいを放ちながら寄り掛かってくる隣のメー。彼女はビールが入ったジョッキを片手に持ちながら、ふにゃふにゃになったサマで言葉にならない声を出していく。

 

 彼女も周りに引けをとらない容貌の持ち主だったものの、メーに顔を近付けられたクリスはものすごく厄介そうな表情を見せていた。そんな彼の困り顔を目撃するのは初めてだったため、自分は返答に困りながら、ただただ汗を流して彼の静かなる奮闘を見守っていたものでもあった……。

 

 

 

 

 

 数時間と経過して、直に夜明けを迎えるだろう時刻となった今現在。スノードームのように雪が舞う店の外にて、宴会を終えた自分らは会計を終えると同時に二次会の会場について話し合っていた。

 

 特に、クリスマス明けの本日はLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)が休業日となっていたため、ホステスらは三次会まで、下手したら四次会まで盛大に遊ぶつもりで会話をしていた。そして、当然の如く最後まで付き合わされそうになっていた自分を他所にして、クリスはこちらを囮にするかの如く、逃げるように一足先と帰っていった。

 

 荒巻も、二次会で切り上げないと探偵業に支障が出ると言って、あまり乗り気ではない様子を見せていた。そんな風にして、元気を持て余したホステスらに男性陣が苦笑いで向かい合っていくその中で、適度に酔いしれたレダが頬を赤らめながらそれを口にしてきた。

 

「あらごめんなさい、わたしちょっと催してきちゃったかもぉ~。二次会の前にぃ、お手洗い、だけ済ませてきちゃってもいいかしらぁ?」

 

 狙いすましたように、こちらを見遣ってくるレダ。お手洗いを強調する言い方に自分は思わず意識をしてしまいながらも、彼女へと「あぁ、ここで待ってるよ」と返答を行ってからレダを見送っていく。

 

 で、酔い潰れたメーに肩を貸していたラミアも、「じゃー、ウチはメーさんをそこら辺で吐かせてきますねー」と言ってから、メーを引き摺るように路地裏へと歩き去っていった。

 

 散り散りとなり始めたホステス達。シュラも思い付いたように「せやったら、ウチもお手洗い行ってくるわ!!」と言って走り出し、そしてノアも「じゃあ、ボクも少しだけ済ませてこようかな」と口にしてから、レダやシュラを追うようにこの場から姿を消していく。

 

 

 

 しばらくして、レダやシュラ、ラミアやメーが帰ってきた。

 

 しかし、ノアだけはすぐに戻ってこなかったのだ。まるで、お手洗いだけではない所用へと赴いていたかの如く……。

 

 

 

 

 

 払暁の薄明り。宵闇の名残が煉瓦の足場を青色に染め上げて、来(きた)る明け方の予感を知らせていく。

 

 舞い散る粉雪を掻き分けて、銀髪の少女は街中を颯爽と駆け抜けた。

 背後に存在する彼女らの視線を振り切るように気配を殺し、走らせた足には迷いを感じさせない。消灯した街の中を少女はウサギのように跳ねるよう突っ切っていくと、次第と足元に差した自身の人影を引き連れて、少女はひと気の無い路地へと進入していった。

 

 チキンとタバコの残り香が入り混じる一本道。加えて、廃棄されたゴミ袋から鮮度の良い生臭さが放たれるそこを辿っていくことで、銀髪の少女は次第と薄暗がりの細道へと踏み入れていく。

 

 この瞬間にも少女は、暗喩として敷かれていた最後の警告を振り切ったのだ。

 直後にも、周囲から気配を放ち始めた複数もの存在感。それらはどこからともなくと少女を取り囲んで見張り始めるのだが、そうして醸し出されたドス黒い殺気は、一転して敬意や温厚の淡い暖色へと変貌し、次にも一人の黒服の男性がすかさず少女へと駆け寄るなり、彼はその頭を下げ、両膝に両手を乗せるような独特な中腰の礼を行いながら喋り出していった。

 

「お嬢。長時間に渡る勤務、ご苦労様でございやす」

 

「あぁ、別にこれくらい大したことは無いよ。後半はみんなと駄弁っていただけだったからね。キミ達こそ、夜通し働き続けて疲れただろう。ボクの名義でこの場からの撤収を命ずるよ。みんな、今日も頑張ったね。無事に帰ることができた暁には、ゆっくりと身を休めてくれたまえ」

 

「撤収の命、承知いたしやした。直ちに周辺のモノへ伝えて参りやす」

 

「最後まですまないね。あともう少しだけ、どうか頼んだよ」

 

 黒服を従えるような調子で喋る少女は、走り去っていった男性の背を見送るようにしてから歩み出していく。その間も、周囲では殺した気配の数々が音も無く路地を行き交う中で、銀髪の少女は僅かながらと薄明りが射し込んだ建物の隙間へと近付くなり、そこにひとり佇んでいた存在へと言葉を投げ掛けていった。

 

「どうだい、久方ぶりのシャバの空気は。実に爽快なものだろう。特に、冷え切った極寒の早朝で行う深呼吸は、器官の隅々まで凍り付く感覚が巡ってきて非常に気持ちが良いものだ」

 

 透明感のある中性的な声音で喋る少女を傍らに、佇む存在はアウターのポケットに両手を突っ込んだ状態で隣の少女へと振り向いていく。

 

 それは、百七十ほどの背丈を持つ人物だった。外見の特徴としては、ふわっと扇状に広がる腰丈程度の茶髪ロングヘアーがその人間のシルエットを象っており、加えて、黒色の帽子を深く被ることによって目元を隠したスタイルと、黒色の分厚いジャンパーのようなアウターに、そこから覗き込む白色のシャツ、そして青色のダメージジーンズに白色の運動靴という格好がそれの風貌を生み出していく。

 

 至ってシンプルなストリート系ファッション。しかし、その人物から醸し出されるオーラは機関車が如くパワフルであり、今にも発車しそうなほどに有り余った活力が溢れ出している。現に、少女を見遣る視線は力強く、今すぐにも叫び上げながら街中へと走り出しそうな制御不能の不安定さが、もどかしさとして周囲に滲み出てしまっている。

 

 少女の言葉を耳にした人物はニッと鋭く笑んでみせ、右手でキャップのつばを持ち上げながら薄明りの街中を眺めていった。この際に差した明かりがその人物の“膨らんだ胸”を照らしていくと、次にも少女と相対する存在は落ち着いた女性の声で、しかし無邪気で強気な調子も孕みながら冗談めかすように喋り出したのだ。

 

「ったくよ、厳重な部屋ん中に押し込まれて三千里ってとこか? 命の安全を保障に、ありとあらゆる自由と行動が制限されちまったこの生活を、アタシはあと何年続けなきゃなんねぇんだか。こりゃ筋肉どころか生殖機能も衰えちまうよ。あーあ、せっかく青春を捧げて搾精テクニックを磨き上げてきたっつーのにさ。これじゃあ、龍明に住む男共の精巣すっからかん大作戦の遂行予定日が大幅に繰り下げになっちまうじゃんかよ。……ん? 繰り下げ? 繰りは、クリ。つまりクリちゃんで、要するにマンちゃんとも言える。で、下げは言葉通りに下げで……あ? じゃあつまりアタシ、このままだと下げ〇ンってことになるんじゃ……!!?」

 

「キミの言動は、この数年じゃまるで変化しないね。いや変わらないキミのその個性にボクは強く惹かれたんだ。ボクは、そんなキミ達のような破天荒な大人に憧れる。そして、その思いは今でも変わらないよ」

 

「おうおう、それならもっとアタシに憧れてもいいんだぜ? 何なら惚れてみる? 恋してみる? それか、歪んだ愛情の証として殺し合いでもしてみようか? ……あ、てか今からタイマンしない? アタシとアンタのガチンコ勝負だ。んま、お互いにチ〇コついてねぇけどな!! そうなるとこれ、ガチンコ勝負じゃなくてガバマ〇コ勝負になっちゃうかな?? なんちゃって、あっははは!!!」

 

 一人で大盛り上がりする女性を相手に、銀髪の少女は清涼感ある微笑みを浮かべながら彼女と並び立っていく。そして、光が差し始めた明け方の龍明へと視線を投げ掛けると、少女は女性に対して、顔色をうかがうようにそれを訊ね掛けたものだった。

 

「本当に、会わなくてもいいんだね? この日を逃したら、下手したら二度と“彼女達”と再会できなくなる可能性だってあるはずだ」

 

「あぁー、いいっていいって。そん時はそん時だろ。まぁ、ただでさえアタシは特別狙われてんだから、尚更と“アイツら”にアタシとの余計な接点を作るわけにいかないでしょ」

 

「キミを知る人物達は皆、キミに会いたがっている様子だった。それでも顔を出さなくてもいいのかい?」

 

「いいんだって。巻き込みたくないんだよねぇ、アタシの勝手な都合にさ」

 

「そうか。いやキミがそれで納得しているなら、別にいいんだ」

 

 女性との会話を介して、少し寂しそうな表情を浮かべたのは少女の方だった。

 

 アウターのポケットに両手を突っ込み、建物の壁に寄り掛かる女性へと向き直る少女。その何か言いたげな視線に女性が「まだなんか用あんの?」と問い掛けると、少女は暫し思考を巡らせるようにしてから、声のボリュームを下げつつその再確認を行い始めた。

 

「ユノはまだ、未練を絶ち切れていない様子だった。荒巻とレダもキミの行方を探っているし、あの柏島歓喜も、突如と失踪したキミという存在を未だ気にかけているようでもあった。でも、やはりとも言うべきだろうか。彼らの中で一番不憫な思いをしているのは間違いなく、キミの“妹さん”だろうね」

 

「…………」

 

「本当に、いいんだね? キミがシャバに出られる時期は、クリスマスのように地上がカタギで溢れかえるほんの僅かな期間に限られる。これでまたキミは、身を隠すために厳重な監視による屋内生活へと戻ることになるけれど、そうしてキミが部屋で過ごしている間にも、もしかしたらユノやミネ……いや、キミの“元愛人”や“実の妹”が、鳳凰不動産といった敵対組織に始末される可能性だって考えられるわけだ」

 

「それこそ、そん時はそん時だろ。人間、死ぬ時は死ぬしよ。ま、裏社会に自分から足突っ込んだ以上は、ユノも菜子も死ぬ時は自業自得だ。もちろん、アタシもアンタも他人事なんかじゃねぇからな」

 

「随分と分かったような口を利くじゃないか。歴だけで言ったら、ボクはキミの先輩にあたる程度にはこの世界を渡り歩いてきたつもりだけどね」

 

「いやいや、経歴とか上下関係とかマジでどうでもいいし。この世界でどんなに偉かろうが、結局アタシらは所詮、孕ませるか子供を産むかくらいしか役割がない脊椎動物の一環に過ぎねぇからな。だったらさぁ、もっとこう、そういう常識とか概念とかをぶち壊しちまう勢いでこの世を生きた方がさ、なんか絶対に楽しいとアタシは思ったりするわけなんだよ」

 

「キミは常識に囚われなさ過ぎなのが問題なのだけどね。でも、そういうキミの姿勢こそがボクの憧れそのものでもある。……キミの意思を尊重しよう。そして、いずれかは再び……太陽の下をキミと一緒に歩き回りたいものさ」

 

「そうそう。そうしてアタシを現世に解き放つべく、獅子奮迅の活躍を果たしてくれたまえよ~銀嶺のお嬢さま。無事にアタシを解放した暁には、このアタシが世の男と暴力、あと金と龍明その他諸々を悉く掌握してしんぜよう~」

 

 言葉の全てに含んだいい加減な調子も、この人物にとっては当たり前に過ぎなかったのかもしれない。

 

 気だるそうに首を傾げながら、夜明けの光に背くよう路地へと歩き出した女性。そんな彼女の背を少女は真っ直ぐ見据えていく中で、二人は最後にこのような会話を交わしていったのであった。

 

「堪能するのはシャバの空気だけでいいのかい? そろそろ部屋に戻る時間だ。最後に悔いが無いようにしてもらえると、匿う身としてはたいへんありがたいのだけどね」

 

「あ~、いいって。もうないもうない。今日はだいじょーぶ。陰からこ~っそり覗いてきたから、それで十分だっての。まぁそれにしても、近所のあのガキは一丁前にハーレムなんか築いて生意気に成長していたもんだし、ユノはなんか一段と綺麗になってたような気がするなぁ。でも、やっぱり一番は菜子の成長した姿かな。妹の成長を生きて見れただけでも今日の収穫は上々。それだけで得した一日になったって感じだよ」

 

「キミが、また彼女達を抱きしめることができる日を迎えられるよう、ボクも全力で戦い抜いてみせるよ。だから、どうか……キミにも最後まで諦めないでいてもらいたい。きっと、キミが望む未来も、そう遠くない内に叶うハズだろうから。今はそれを信じて、明日への希望を胸に前へ進み続けようじゃないか。……なぁ、そうだろう? “ヒイロ”」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。