俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
夕方を迎えつつある龍明の外界。寒さは一層と増していく冬季の寒波に晒されながら、自分は龍明高等学校の校門前でホステス達を待っていた。
少し距離を置いた、敷地外の植林の木陰。下校時間である故に、制服姿の生徒達が学校から出てくる様子をまじまじと眺めていく。
懐かしいな。自分もここを卒業した身として、感慨深い気持ちに浸り始めたこの感情。だが、そんなこちらの思いとは別にして、目の前を往く生徒達は皆、自分という存在を避けるように歩いていたものだ。
近付いてはならない雰囲気。そういった恐れを感じさせる、冷ややか且つ控えめな視線を浴びせてくる彼らの様子。おもむろに避けられている光景を目の当たりにして、自分は「まぁそりゃそうだろうな」と思いながら周囲へと視線を投げ掛けると、それと共にして、何気なく視界に入った一人の男性と目が合うなり、胸元を開けた黒いスーツ姿の彼は濃い髭と刈り上げの容貌で穏やかに話し出してきた。
「兄ちゃん、どないしたんや。そないにヤクザの護衛が不満かいな。念を押しとくがな、我々ぁ組長の送迎や護衛の任務に長けた、守りの精鋭隊や。要は、ボディーガードのプロっちゅうとこやな。そないなわけで、敵襲なんぞの余計な心配はせんでもええんやからな。……兄ちゃんの不信は、我々の不信にも繋がること、よぉく覚えとき。せやさかい、お互い心を許していこうや。な?」
「ど、どうも……心から頼りにしております……」
普通に話しかけられるだけで心臓がバクバクする、緊迫としたドス黒い重圧に染まるこの空間。
今も会話した男性が他所へと向く様子の周辺では、こちらを囲うように佇むもう二名の男性らが存在していた。彼らもまた白色や濃い赤色のスーツ姿というスタイルで、周囲に威圧を放ちながらこちらを守ってくれていたのだ。
どうして、こうなってしまったのか。
事の発端は、ノアによる迅速な手配の結果とも言えるだろう。そもそもとして今日、自分に話があると言うミネに呼び出されたことから始まったのだが、しかし自分一人で龍明を歩き回るのは、拉致や襲撃の可能性を鑑みて危険極まりないという話に至った。
ホステス達も多忙が故に手が離せない状況にあり、護衛役がついてくれない人手不足に陥った自分。そこでノアは急遽、“銀嶺会”の一員にこちらの送迎を命令し、召集を受けた三名の“本職さん達”が、外出中の自分を守る話になったことで、このような状況になってしまっていた。
……いやいや、それにしても気まずすぎる……。
三人のヤクザに囲まれて、傍から見た自分の立ち位置にさぞ疑念を抱くだろうこのシチュエーション。中に混じってる男一人だけが一般的な冬服を纏っている様子から、只者ではない雰囲気を醸し出していてむしろ余計に目立ってしまっている。
だが、ノアから下された、『ボクとユノの大事な客だから、八百万の高値がつけられたダイヤモンドのジュエリーよりも丁重に扱ってくれ』という命令により、彼らは殺気を引っ込めた佇まいでこちらの護衛に命を懸けてくれていたものだった。
……ミネ、早く来てくれないかなぁ。遠い目を学校に向けながら、内心で呟いていく自分。その想いが届いたのだろうか、直にも学校の校門からは、制服姿のミネとノアが肩を並べながら真っ直ぐと歩いてきた。
それぞれ、黄色のマフラーと水色のマフラーを首に巻いた少女達。……と、彼女らの後ろには人相の悪い五名ほどの男子生徒がついてきている。すぐにも少年らを連れたホステス達が合流してくると、次にも自身の胸に手を添えたノアが、中世的な声音で仰々しくも爽やかに喋り出してきた。
「やぁ、柏島歓喜。随分と待たせてしまってすまないね!」
「二人とも、今日も学校お疲れ様。……えっと、それで護衛の方々はどうする感じかな……?」
「無論、この場から引き上げてもらうさ。そういうわけでキミ達、柏島歓喜の護衛の命はこれにて完遂だ。急に呼び出してすまなかったね。けれども、キミ達のおかげで、カレの日常は無事守られた。ボクはキミ達プロの働きに感謝を、そして、心からの敬意を表するよ。後で、ボクの方から“オヤジ”に褒美の件を話しておくから、今回の報酬はぜひとも期待しておいてくれ!」
ノアがそれを清々しいサマで言い放つと、護衛の三名は揃って頭を深々と下げ始めた。それから、内の一人が「へい、承知しやした。お嬢」と口にしていくと、これにノアは満足するように頷きながらも、続けて彼らへとそんなことを喋り出してくる。
「そうそう。本部に戻るついでに、もう一件引き受けてもらえるかな。銀嶺会に入りたいと志願する、五名の有望な学生を連れてきたんだ。皆、喧嘩慣れしているから即戦力になってくれるはずだよ。……もう間もなくと勃発するだろう鳳凰不動産との抗争も控えている今、カレらには銀嶺会の礼儀や作法を徹底的に叩き込んでくれると実に助かるな」
「新入りの件、承知
「あぁ、ありがとう。キミ達のような頼れる自慢の家族を持つことができて、ボクは本当に嬉しく思うよ」
ガラス細工のように透き通った銀色のショートヘアーを揺らし、爽やかに微笑するノア。少女の透明感ある存在感がまた不可思議な風格を醸し出していく中で、少女に一礼したヤクザの男性達は荒々しい声音で男子生徒らを呼び付け、一気に殺意を振り撒きながら団体を連れてこの場から歩き去っていった。
……こうしてまたヤクザが増えて、銀嶺会という組織が発展していくんだなぁ。
もはや、しみじみと思えてしまえた目の前の出来事。立ち会って良かったのかどうかも分からないそれに呆然とする自分の脇からは、右手に持つ鞄を肩に掛けたミネが、いつもの不機嫌そうな表情でこちらへと言葉を投げ掛けてくる。
「……ごめんね、カッシー。急に呼び出したりなんかして」
「いいよそんな。全然大丈夫だから。それで、話があるみたいだけど、一体どうしたの?」
「あぁうん、いや、そんな大層な話じゃないから、身構えなくても平気なんだけど。ただちょっと……カッシーに相談したいなって、思っただけだったから……」
「分かった。ミネの助けになれるのならば、喜んで相談に乗るからね」
「だから、そんな大層な話なんかじゃないから……!」
ちょっと慌てるように口にするミネ。どこか気まずそうに振る舞う少女に自分は微笑みかけていくその最中にも、こちらの視界に入るよう横からひょっこり顔を出してきたノアが喋り始めてくる。
「まぁ、学校前で立ち話も何だろう? せっかくだから、どこかで軽食を取りながら話をするとでもしようか!」
「え? あ、ノアも一緒についてくる感じ?」
「もちろんだとも!! ボクだけ仲間外れだなんて寂しいじゃないか!」
さも当然といった具合に返答したノアだが、彼女を見遣るミネの視線はナイフのように鋭く尖っている。それを受けてもなお、ノアは「それじゃあ、どこで食事をしようか! そう言えば、近くの喫茶店で季節限定のパフェのフェアが開催されているらしいんだ!」とノリノリで話し出してきたものだったから、少女の様子にミネはため息をつきながらも、ちょっと不機嫌そうにそれを口にしてきた。
「ねぇ、ほんとについてくる気なの? アタシ、カッシーと二人だけで話がしたいって、学校で何回も伝えたじゃん」
「そんなにボクが一緒ではダメなのかい? 今のボクはね、キミ達と価値ある憩いのひと時を共にしたいという貪欲な欲求に駆られてしまっているんだ。そんな、人間の精神力ではとても耐え難いであろう苦痛が如き羨望を引き摺ったまま、ボクに大人しく帰路を辿れとキミは言うのかい? まるでボクを突き放すかのようなその宣告は、些か残酷な仕打ちであるとボクは思えてしまうわけなのだよ」
「何それ……。今朝からずっと、そんな調子でアタシについてこようとするじゃん……。何なのそれ、ホント意味分かんない。……なんかもう……いいや……。面倒くさいし……」
「それはつまり、ボクもついていって良いということだね!? ボクも仲間に入れてくれるという解釈でいいんだね!? そうなんだろう!?」
「あぁぁぁぁもういいからっ!!! もうそれでいいから……っ!!」
「あぁ、ありがとうミネ!! その寛容なる心持ちによって、ボクという一人の人間は孤立せずに済んだのさ!! キミはボクの救世主だ! ありがとう、ミネ! ボクの心からなる感謝をどうか、キミに贈らせてほしい!!」
「あぁはいはい分かったから……。ハァ……」
不機嫌を越えた、諦観の表情。思考停止に近しいやつれた顔のミネへと抱き付いたノアは、自身の頬をミネの頬にくっ付けてスリスリしていく。
……まぁ、二人の間で話がまとまったのなら、別にいいのかな。
特に口出しもせずに眺めていた自分は、取り敢えず「えっと、じゃあパフェのフェアをやってるっていう喫茶店に移ろうか……?」と二人に提案する。これにミネとノアが同意したことから、自分は二人の女子高校生を連れて龍明内の喫茶店へと向かったのだった。
よくあるオシャレな喫茶店の店内。運ばれてきたイチゴのチョコレートパフェに気分を良くしたノアは、とてもウキウキとした表情でそれを受け取ってから、堪能するように食し始めていく。
テーブルを挟んだ向かい側に、二人並んで座っていたミネとノア。今もノアが頬に手を添えつつパフェを味わっていたその脇で、ミネは不機嫌そうな様相で脚を組み、ブレザーに両手を突っ込んだその姿でこちらと向き合ってくる。
自分とミネはパフェを頼まず、飲み物だけを頂いていた現状。自分はそのカップを持って紅茶を一口啜ってから、ミネと視線を合わせてそれを尋ね掛けていった。
「それで、相談があるんだよね。ここでもできる話? それか、アパートに戻ってから話をする?」
「ここでも平気。大丈夫」
「そっか」
「…………」
「…………」
…………。
急に巡り出した、沈黙の空間。目の前には厳しい表情をしたミネが存在しており、何やら話を切り出せずにいたようだ。
自分自身と闘っているかのような、葛藤に苛まれた顔。そこに加わる気まずい感情が、余計に少女を追い込んでしまっているのだろう。何にせよ、ミネの様子からしてこちらから切り出した方がいいなと感じた自分は、会話のキッカケとなる一言を掛けるために口を開いていくのだが……。
それとほぼ同時にして、パフェを食べていたノアが何気無いサマでそんなことを喋り出してきた。
「う~ん……!! 美味だ。実に美味だね! 身体の芯にまで行き渡るチョコアイスとイチゴの冷たい甘味がまた、冬の季節ならではの清涼感となって体内に駆け巡ってくるよ!! あぁ、ボクはなんて幸せな人間なのだろうか! 願うならば、この甘美なるひと時を永劫に味わい続けていたいものだね……っ!!」
いつもの爽やかな表情でありながらも、意気揚々とした声音が少女の高揚を表している。普段は見せない年相応の姿に自分とミネが振り向いていく中で、ノアはミネへと向くなりパフェを掬ったスプーンを差し出しながら喋り続けてくる。
「ミネも一口どうだい? ボクの欲求を満たしてくれる甘美なるひと時をぜひ、キミとも共有し合いたい!」
「え、えぇ? あ、アタシは別にいいってば……」
「いいから! ほら、ボクにその可愛らしい小さなお口を開いてみせてくれ!」
「な、なにそれ……ちょ、ちょっと」
ずいずいっ、と迫るノアに
……もぐもぐとパフェを味わうミネ。そして、ゴクンとそれを呑み込むと、少女は不機嫌そうにムスッとしながらも、尖らせた口でボソッと「……まぁ、美味しいんじゃない?」と言葉を口にしてきた。
ミネの反応に、ものすごく満足そうな顔を見せたノア。晴れ晴れとした満面の笑みを浮かべて少女は微笑むと、次にもノアはミネをうかがうような視線で、穏やかにそれを尋ね掛けていったのだ。
「それでミネ、キミは柏島歓喜に相談があると言っていたね。甘美なるスイーツによって、少しはその緊張が解れたのではないかな? ならば次は、その胸に秘めた心の突っかかりを柏島歓喜に曝け出してみようじゃないか。大丈夫さ。不安に思うことはなに一つ無い。カレならば、ミネのあらゆる姿を受け止めてくれる。キミもそれを承知しているからこそ、カレに相談を持ち掛けたのだろう? ほら、あとはその一歩を踏み出すだけだ。キミならできる」
「…………っ」
清涼感ある声音に、清々しい表情でその言葉を掛けられたミネ。少女は暫し俯くように視線を伏せていくと、すぐにも勇気を振り絞るようにこちらへと顔を上げて、それを喋り出してきた。
「……カッシー。……話があるの。でも、ホントに些細な相談事だから、そんな本気にならないで。ただ、思ったことだけを教えてくれればいいからさ……」
「あぁ、いいよ。大丈夫」
見守るようにミネを見遣り、ゆっくりと頷いた自分。こちらの反応を見たミネは少しだけ安堵したように微笑むと、どこか気まずそうな面持ちでありながらもその相談を持ち掛けてきたものだ。
「……アタシ、告白されたんだよね」
「告白? それは、学校でってこと? それともお店?」
「学校。まぁ、クラスメートの男子なんだけど。最近、少しだけ話すようになっててさ。それで向こうから、その……教室で、告られた」
「いいね。青春って感じで、なんだか羨ましいよ。……それで、ミネはどのように返答したの?」
「んっとね……そのことで、カッシーにちょっと相談したいなって思ってさ」
もじもじと、そわそわと、落ち着かない様子のミネは少しだけ視線を逸らしてから、こちらへと向き直ってくる。
「…………ねぇカッシー。アタシ、何て返事したら良いと思う?」
「え? あ、返答の仕方ってこと? はいか、いいえのどちらかで答えた方が良いと思うけど……?」
「そうじゃなくって。んー……何て言うんだろ。アタシもよく分かってないんだけど、今、返事は保留にしてあって。その……そいつと付き合った方が良いのかどうか、なんかよく分かんなくなっちゃって……」
困惑に近い声音で、眉をひそめ始めたミネ。少女の悩みに自分はしばらく思考を巡らせてから、アドバイスするようにそう返答していく。
「返事に関しては、ミネが率直に思った方で良いと思うよ。付き合うのも良し、断っても良し。そのどちらを選ぶかは、俺じゃなくてミネが決めるべきだと思う。それを踏まえた上で俺から少しアドバイスをすると、余程そのお相手さんのことが嫌じゃなければ、取り敢えず付き合ってみても良いんじゃないかなとは思うかな。それが人生経験になることはもちろんだろうし、せっかく今しか経験できない学生生活の、それも高校生という一番青春できるんじゃないかという大切な時期をミネは過ごしているわけだから、この際に経験できることは前向きに、とことん経験してみるのも一つの手なんじゃないかな……なんて、俺は思ったかな」
まぁ、無難な返答はできたのかな。
内心でホッと一息ついていく自分。この気持ちと共にミネを見つめていくのだが、こちらの返答を耳にしたミネは次第と表情を曇らせ始めると、次にもこちらをうかがうような目で、どこか切なそうな声音でこの言葉を口にしてきたのだ。
「…………カッシーはさ、アタシが他の男と付き合うことを否定しないの?」
「え?」
「……ううん、何でもない。ごめん」
……もしかして、地雷を踏んだ?
女心が分からない。そこから来る焦りが内心に巡り、自分は嫌な汗を流しながらミネを見遣っていく。で、ミネはミネで沈んだ顔をしながら俯いてしまったものだったから、この重圧的な空気感を前にして、自分は軌道修正を図る余裕を失ってしまっていた。
……どうしようもない。
行き渡る沈黙は圧し掛かり、この空気が続けば続くほど、一層と重みは増していく。そうして自分とミネは共に俯くように視線を下げていく中で、一人だけ、この空気感の中でも平然としたサマでパフェを食べ進める人物がいたものだ。
もぐもぐと口を動かすノア。少女は深刻さもうかがわせない普段通りの様相で視線を投げ掛けていると、ふと、何の前触れもなく、唐突にそれをミネへと喋り出してきた。
「どうやら、駆け引きは失敗してしまったようだね。まぁ、それも当然だろう。何せカレという人間は、それに応じるほどの情念を持ち合わせてなどいないものだからね。それは、非常に割り切った考えの持ち主であると言えるだろうし、感情的というよりは客観的な視点で物事を捉えることができる人間……と称することもできるだろう」
「…………なに、何なの。何が言いたいわけ?」
「要は、遠回しな言い方では、カレに真意を伝えることができないということさ。それが何を意味するか、分かるかい?」
睨みつけるようなミネの視線に対して、ノアは平然としたサマで向かい合っていく。この、少女らで火花を散らすようなそれを、自分は気まずい面持ちで眺めていると、次にもノアはこちらへ視線を投げ掛けるなり、清々しい様相でこんなことを喋り始めてきたのだ。
「柏島歓喜。ミネは最近、キミという存在を“あるもの”に利用しているらしい。それは一体、何だと思うかな?」
「え? あるもの……? いや、急にそう聞かれても……えっと、そうだなぁ。学校の課題で出される作文の題材とか、ゲーム内のニックネームでカッシーって名前を使ったりとか?」
「オ〇ニーさ」
ドドン!!!!
躊躇いも無いカミングアウト。圧し掛かっていた空気感は一瞬にして身軽となり、むしろ凍てつく極寒の地が如く場が凍り付く。
あまりにも唐突で、理解が追い付かない。全てを置き去りにされたかのような面持ちでポカーンとする自分は、空っぽになった思考でノアを見つめてしまっていた。
……次第にも理解が追い付いたミネが、じわじわと顔を真っ赤に染め始めていく。
両目はグルグルと渦を巻き、沸騰し始めた脳みそが蒸気を噴出する。そして、わなわなと震え出した両肩と共にして、ミネは錯乱した状態で慌てて喋り出していった。
「ぇ、ぁ。……え、ちょっと。え? ……いや、なんで? なん……ま、まって。カッシー待って。違うの。待って、ねぇ。お願いだから。てか、なんで。アンタどうしてそんなこと知ってんの……ッ!!? だってアタシ、こんなこと話したりなんかしてないし!!!」
「いや? ボクはミネから直々に聞いたものだよ?」
「は??? いやなんで。は? いや、知らないんだけどそんなの」
「それもそうだろうね。だって、あの時のキミはひどく酔っ払ってしまっていたから、これは喋った記憶も残らないだろうなとボクは確信したものだよ」
「よ、酔っ払って??? アタシが??? いつ??」
「数日前、ホステスの仕事でひどく疲労したキミは、深夜の帰宅時に冷蔵庫内の缶チューハイを誤って飲んでしまったんだよ。その時のキミは、『このぶどうジュースなんかやけに苦いけれど、この苦味がむしろクセになって美味しいかも』と言いながら、ボクが止める間もなく一気飲みしてしまった。それで、度数七%の慣れないアルコールでたちまち酔っ払ったキミは、普段から抱いていた不満や不安の数々を、愚痴るようにボクへと話し始めてきたのさ」
「は、はぁ……???」
「その内容には、このような話も混じっていた。それは、『カッシーが同伴に誘ってくれない』という、カレへの不信から来た、極度の不安を孕んだミネにとっての深刻な悩み事だ。その時のキミは、最も信頼しているのだろうカレから同伴に誘われないことに対して、自分は見限られてしまったのではないか。自分は周りのホステスよりも魅力が無いから、見向きもされなくなってしまったのではないか。などなど、とにかく柏島歓喜という人物に対して募らせた本音の不安を、ボクに赤裸々と曝け出してくれたものだったよ」
「え…………?」
放心に近い顔をして、思考停止した脳みそでノアを見遣るミネ。そんな少女の様子をうかがうこともなく、ノアは淡々と言葉を続けてきた。
「その時に聞いたのさ。一人でいる時間なんかには、そこから来る寂しさを紛らわすためにカレをオカズにしてしまっている、と。普段はイケメンアイドルグループの男の子と致しているシチュエーションを妄想するものだが、同伴に誘われない不安から、ここ最近は柏島歓喜との行為を妄想して、自分でも信じられないほど激しく擦ってしまっている、と……」
「わ、わぁーーーーーー!!!! わーーーー!!!! 分かったから!!! 分かったからもうやめて!!!」
「で、致した後にも、カレをオカズに使ってしまった罪悪感で一層と自己嫌悪に陥ってしまうと……」
「もういいから!!!!」
止まらないノアを静止するべく、少女に飛び掛かるよう力ずくで口を塞いだミネ。これにノアは満足そうに眉をキリッとさせていく中で、ミネに顔面を鷲掴みにされながらもこちらへと視線を投げ掛けて、清々しく喋り出してくる。
「どうだい、柏島歓喜。これだけハッキリとモノを言えば、さすがのキミでも、カノジョが伝えたかったであろうその真意を汲み取ることができたんじゃないのかな?」
「え、えっと……? つまりミネは、俺に構ってもらいたい……って感じでいいのかな?」
「まぁ、そんな認識でもいいだろう。敢えて告白という話題を持ち出してきたカノジョではあるものだが、この行動はキミという、最も信頼している人物との絆を再確認するための試みであったことを理解してもらえれば、ひとまずそれでいいものさ」
ドヤ顔のように得意げな表情を見せたノアに対して、ミネは真っ赤にした顔で「なにその、アタシの全てを分かってるかのような物言い!! すっごくムカつくんですけど!!」と必死に声を荒げていく。だが、姿勢を直すために自分がほんのわずかな動きを見せた途端にも、ミネはその動きにピクッと反応するなり、グルグルにした目で機敏にこちらを見遣ってきたものだった。
恥ずかしさのあまりに爆発してしまいそう。引きつらせた頬から伝わってくる、極限まで高まった少女の羞恥。複雑に入り混じった感情からミネは声を出せずにいたようであり、緊張を孕みながらただただ訴え掛けてくる真っ直ぐな瞳と自分は向かい合いながら、尋ね掛けるようにそれを提案していく。
「……ミネ。今までミネの気持ちを汲み取れずにいて、本当にごめん。俺はいつもミネのことも気にしているもんだし、かけがえのない大切な親戚として、俺はずっと、ミネのことを特別に思い続けているよ」
「な、なに。なんなの急に。だ、だから何なの……!? お、ぉォ、ォカズにしてたことの何が悪いのッ!!? なにがいけないって言うのッ!!? この変態!!」
「何も悪くなんかないよ。だからミネ、良かったら俺と同伴してくれないかな」
穏やかに言葉を掛けた自分。こちらの提案を耳にしたミネは、次にも唖然とした顔をしながら、次第と抜けていく力で両手をゆっくり下ろし始めていく。
ノアから離れた少女の両手。それでいて、今にも泣き出しそうな目元の痙攣を伴いながら、ミネは複雑な心境によって無言で俯いてしまう。そんな少女の様子を見てからというもの、自分はテーブルから身を乗り出すように右手を伸ばしていき、この手をミネの頭に優しく乗せていってから、そこから慰めるように自分は、少女の頭をゆっくり撫で始めていった。
……撫でる手に身を委ね、頭を揺らしていくミネの姿。不機嫌そうに頬を膨らませた少女は、鋭い視線をこちらに投げ掛けながらも、それとは相反する心境で、素直に頭を撫でさせてくれたものだ。
複雑で気難しい、純真なる乙女。こちらの手に心地良ささえ覚えていたのだろうミネは、ねだるような視線をこちらに向け続けてくる。そんな少女の期待に応えるべく自分もなでなでに興じることによって、ミネが抱きし不安の種を摘み取ることができたような気がした。
……素直になれない不愛想な表情で落ち着いたミネ。ムスッとしながらもその場に収まった少女の様子に、ノアもやり切った表情を見せながら、ミネの背にそっと手を添えていく。
こうして自分らになだめられたミネは、取り戻した平常心で直にも微笑を見せてきた。
良かった。心から安堵した自分が、同伴の内容について切り出していく。それからは、自分とミネはその内容を二人で話し合い、結果、家デートという形でまったりとした同伴をしようという方向性でそれを定めていった。
次回はミネとの同伴だ。それも、レダに続く濃厚な昼の予感がする同伴になることだろう……。