※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第52話 Sortez avec moi ! 《ボクとお出掛けをしよう!》

「柏島歓喜!! ボクと同伴してもらえないだろうか!!」

 

 夜のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に響き渡った、王子の求婚が如きノアのアプローチ。席に座るこちらへと、床に右膝を着きながら仰々しく右手を差し伸べた少女を前にして、自分は唖然とするようにノアを見遣ってしまう。

 

 水色のシャツに黒色のタキシードという格好。それに加えて、元から中性的な顔立ちや声音が宝塚を彷彿とさせる少女の雰囲気に、あちこちから影響を受けたのだろう独特な喋りが印象に残る。そうして掛けられた透明感ある凛々しい声に自分は言葉を失っていると、次にもノアは立ち上がりつつも、取り繕った苦悩の表情で大げさに喋り続けてきた。

 

「あぁ、それ以上の言葉は要らないよ! キミならば、ボクの期待に応じてくれるだろうと心から信じていた! 嬉しいよ。ボクという存在が、キミのような崇高なる血族の人間に認められたこの事実が。さぁ、こうして共に外出する契りを交わした今、次は同伴の詳しい内容をボクと一緒に考えようじゃないか!!」

 

「いや、まだ何も言ってないけど……」

 

「案ずるな!! ボクとキミの仲だろう!! 大丈夫さ。安全性ならボクがついている時点で十分に保障されている。それに、現役女子高校生のボクと共にする合法的休息はきっと、心安らぐ束の間のひと時となること請け合いだろう。キミもそう思わないかい? なぁ、そうだろう柏島歓喜。そうだと頷いてみせてくれ!」

 

「まぁ、そうかもしれない……?」

 

 少女に流されるまま、首を傾げながら答えた自分。だが、この返答にイマイチ納得しなかったのか、次にもノアは少しだけ寂しそうな顔をしてから、なんとも悩ましい表情をしつつ、仰々しくも控えめに両腕を広げながら天井を仰いで言葉を続けてくる。

 

「……それか、ボクでは役不足かい? ヤクザの娘では、キミという柏島の血を受け継ぎし気高い一族のお眼鏡にかなわないということなのだろうか?」

 

「え、いや、そういうわけでは……」

 

「確かにボクのプロポーションは控えめだ。スリーサイズは、バスト七十四、ウエスト五十五、ヒップ七十八。色気が伴っているかと問われると、ボク自身も決して安易に頷くことはできない数字の羅列だろう。加えて、ミネはバスト七十、ウエスト六十、ヒップ八十八の、一部を除いて年相応のムチムチな体つきをしていることから魅惑的に思えるかもしれないし、さらには、ユノのバスト八十九、ウエスト五十四、ヒップ八十七の黄金比には到底敵わない上に、レダのバスト九十九、ウエスト六十三、ヒップ九十三の爆裂ボインボイン体系のようなエッチさも無いかもしれない……っ!!」

 

「いや、あの……」

 

「だがっ!!! ここは人柄で勝負だ! ボクは色気では他のホステスに勝てないかもしれないが、誰よりも人情的で、義理堅く、友好的だと自負している!! その、アクティブな性格でキミという一人の男性を心で魅了し、そして挙句には恋愛的感情を抱かせるほどの猛烈な好意を抱かせてみせると約束しようっ!! それならば異存は無いだろう!! ということで、さぁ!! ボクと同伴しよう!!!」

 

 バッ!!

 左手を胸の前にやり、右手を鮮やかに差し伸べたノア。高貴かつ自信満々に並べた言葉の数々に、内心の「決まった……!」というセリフが聞こえてくるような少女のサマを目にする。これに、自分は心の中で「断ったら、なんだか可哀想だな……」と呟いていくと、顔色をうかがうようにしながらも自分は頷きつつそれを伝えていった。

 

「分かった。それじゃあ同伴しよっか」

 

「本当かい!!? 恩に着るよ柏島歓喜っ!! ハッハッハ、これでボクはミネよりも先に今月分のノルマを達成できる!! 今回の勝負、ボクが貰ったも同然だな!」

 

「え? ノルマ?」

 

 途端にして、活気に溢れた少女。水を得た魚が如くノアは渾身のドヤ顔を見せてくると、次にも少女は、フンスッといった鼻の穴が広がった豊かな表情を浮かべながらそれを説明し始めてきたのだ。

 

「知らなかったのかい? 柏島歓喜。キミと同伴するとね、普段のポイントに加えて、柏島ポイントとなるボーナスポイントが貰えるのさ!」

 

「え、そうなの? 知らなかった……」

 

 だから皆、やけに俺と同伴したがるのだろうか……?

 今までの彼女らのアプローチに納得さえしてしまった自分と、これまでの彼女らの好意に疑心暗鬼となった複雑な心境。尤も、彼女らの喜んでくれていた姿から、きっとそれ目的だけではなかったと信じたいのだが……。

 

 一年経って、ようやくと知った店のシステム。これに自分が呆然とするように言葉を失っていた中で、ノアはウキウキとしたサマで年相応の喜びを見せながら、かと思えば直後に思い出したように少女はそれを口にし始める。

 

「そういうワケで、柏島歓喜! 後日、ボクと同伴するにあたっての、何処へ外出するかの相談をしよう!! キミが望むならば、密会や逢瀬(おうせ)という形でその時間を設けてもいい! ただし、ボクは今勤務中なものだからね、ボクと共にする有意義な時間は一旦お預けとさせてもらうよ。しかしその分、プライベートではずっとキミの傍についてみせるから、その時にはキミに、同伴先の候補をできれば十個ほど考えてもらって、ボクに提案してもらうつもりだ!! 無論、ボクはその倍、二十個考えてみせるから、その提案し合ったプランを二人で厳選し、同伴の一日の日程に組み込めるだけ組み込んでいこうじゃないか!!」

 

「え?? え??? てか、待って。ノア、俺の接客をするためにここに来たんじゃないの?」

 

「じゃあ、柏島歓喜! また数時間後に会おう! キミとの会話が俄然楽しくなってきたよ! それじゃあまたねっ!!」

 

 ピューン。

 コミカルな効果音を伴いながら、離脱するように走り去ったノア。その、行動力があるというか、どこか忙しないというか、仰々しく喋るサマとは裏腹にアクティブな一面を見せてくる少女のそれに、自分は終始置いていかれる形でこの会話を終えたものだった。

 

 

 

 

 

 それからというもの、自分は事ある毎にノアと会話を交わすこととなる。

 

 昼のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)で昼食を堪能する自分。本日は定番のカルボナーラで蕩けるようなひと時を味わっていたところで、ふと視界の隅から顔を覗かせたタキシード姿のノアと目が合った。

 

 ひょっこりと現れて、宝石のような水色の瞳を向けながら期待に満ちた表情を見せてくる少女。キリッとした顔がまた無言で訴え掛けてきたものだったから、自分は一旦フォークを置きつつノアへと話し掛けた。

 

「えっと、同伴のことだよね?」

 

「柏島歓喜、まさかボクの思考が読めるのかい!? さすがは柏島の血を受け継ぎし崇高なる血族! 言葉を介さずとも相手の意図をハッキリと汲み取り、更には尊重することもできるお手本のような気遣いに感動した……!! ボクはキミの感受性に驚かされると共にして、改めて柏島という人間の偉大さを再認識したものだよ!!」

 

「まぁ……何となく分かっただけだから……」

 

「それで、同伴についてなのだがー……」

 

 ノアによる、自身を中心とした会話のテンポにも次第と慣れてきた自分。言葉を遮られてもなお少女を受け入れるように口を噤んでいき、今もワクワクした様子で胸ポケットから紙を取り出したノアと、同伴の予定についてしばらく話し込んだものだった。

 

 

 

 別の日。夜の自宅を一人で過ごしていたところに、インターホンが鳴らされる。

 映像を確認してみると、そこには両手で鍋を持つ三角巾とエプロン姿のノアがいた。これに自分は慌てて扉を開けていくと、そうして向かい合うなり少女は、自信満々な表情を見せながら鍋を持ち上げるようにして、こう喋り出してきたのだ。

 

「柏島歓喜!! 今晩の夕食でお困りかな!?」

 

「え? あぁ確かに、もうそんな時間か」

 

「その反応はつまり、困っている、ってコトだね!? ならばボクが、今晩のキミの面倒を見るとしよう!!」

 

 ちゃんとミトンを着けた両手で、蓋付きの鍋を持ち上げてくるノア。そこからはカレーのスパイシーな香りが流れ込んでいて、食欲をそそるそれに自分は感化されるよう、魅了されるままに尋ね掛けていった。

 

「それってカレーだよね? まさか、わざわざ持ってきてくれたの……?」

 

「遠慮することはないさ! 心配に思う必要もない! 部屋は違えど、ボク達は同じ屋根の下で生活する住人であり、言ってしまえば同居人で、つまり家族のようなものだからね!! 家族は互いに支え合ってこそだろう? さぁ、夕食に困っていた柏島歓喜に、ボクのカレーを恵んであげよう! 気が済むまでたんと食べてくれ!」

 

「あぁ、ありがとう?? あまりにも急でビックリしちゃったけれど、正直すごく嬉しいよ。……あぁ、それ重いでしょ。俺が持つから、ノアは先に部屋に上がってて」

 

「むむっ、ボクをなめないでくれるかな。ボクはれっきとした女の子ではあるけれど、伊達にヤクザの娘をやってるワケではないことを忘れないでもらいたいな」

 

「いやいや、そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど……それじゃあ、部屋の中まで運んでもらえるかな?」

 

「それくらいお安い御用さ!! それと、部屋に上がったら同伴の予定を考えようね!」

 

 たぶん、それ目的の接触だったんだろうなぁ。

 内心でそれを思いつつも、快く迎えるように「そうだね。とりあえず入って入って」と言ってノアを部屋に迎えていく。そうしてノア特製の絶品カレーをいただきながら、自分らは同伴の予定についてしばらく話し合ったものだった。

 

 

 

 別の日。ちょっとしたサークルの仲間達と外出していたその先で、ノアから電話がかかってきた。

 

 休日ではあったものの、振替の登校日ということで学校に行っていた少女。しかし、時刻はちょうど下校のそれでもあったため、駅でスマートフォンを取り出した自分は周囲に待ってもらいながら、その着信に応答していく。

 

「ノア? どうしたの?」

 

『柏島歓喜!! 今、どこにいるかな!?』

 

「え? 今はちょっと他の街に出掛けちゃっているんだけど、もうそろそろ龍明に向かう電車に乗るところだったかな」

 

『龍明行きの電車に! つまりキミは、直にも龍明の駅で降りるということだ!』

 

「まぁ、そうなるね……?」

 

『分かった! ありがとう! それじゃあまたねっ!!』

 

「え? あちょっ」

 

 ブツッ。

 切られた電話に、自分は呆然とする。それと共にして、一体何だったんだろうという思いをずっと抱えながら周囲の人間と電車に乗り、直にも龍明の駅に到着してその出口を目指していた時のことだった。

 

 改札を抜けて、サークルの人間と談笑しながら歩いていた自分。その最中にも何気無く視界に入った、腕を組んで柱に寄り掛かる制服姿の美少女へと、自分は何となく視線を投げ掛けていく。

 

 ……ガラス細工のように透き通った銀色のショートヘアー。その時にも、胸元辺りまで伸ばしたもみあげも特徴的である少女の、真っ直ぐでキリッとした眼差しと目が合った。

 

 右肩に掛けていた鞄から察するに、下校したその足で駅に来たのだろう。少女の姿に自分は驚きを隠すことができず、思わず声に出して少女を呼び掛けてしまったものだ。

 

「え? の、ノア!?」

 

「やぁ、柏島歓喜。随分と楽しそうだね。キミが他人と笑い合っているその姿、正直、ちょっとだけ嫉妬しちゃうな」

 

 中性的な顔立ちの、堂々とした顔つきで言葉を口にしたノア。共にしてこちらへ歩み寄ってくると、少女はこの右腕を掴むなり、周囲の人間から引き剥がすように引っ張ってくる。ノアのそれに自分は困惑気味に身を委ねていると、次にも少女はサークルの集まりへとそれを言い放っていったのだ。

 

「すまないね、ボクのオトコが世話になったようだ。あぁ、なに。カレとは別に、特別な関係にあるわけではないのだけどね、ボクは今、カレに用があってここまで迎えに来たのさ。そういうことだから、この先のカレのエスコートはボクに任せてくれたまえ」

 

「ノア。ちょっと……」

 

 ぎゅっ。

 両手でこちらの腕を握りしめ、心なしか頭もくっ付けるようにそれを傾げながら、上目遣いで見遣ってくる。その、今までに見たこともない可憐な乙女アピールを仕掛けてきたノアを前にして、自分は思わずときめいた気持ちのままに、周囲の人間へとそれを伝えてしまった。

 

「……ご、ごめんねみんな。そう言えば、人を待たせていたのを忘れてたみたい。ま、また。またこっちに顔を出すから! 今日は、俺は一足先に上がらせてもらうとするよ! それじゃ……!」

 

 グイグイと引っ張られた腕。ノアが他所へと歩き出したその力に従うまま自分も歩き出し、気まずい面持ちで手を振りつつノアに連行されていく。

 

 駅の中をしばらく歩き、完全にサークルと離れた自分。これにノアは満足そうな顔を見せてくると共にして、腕に引っ付いたその状態で、どこか甘えるような声音で、しかし不機嫌とも見て取れる様相で言葉を口にしてくる。

 

「ダメじゃないか、柏島歓喜。ホステスの監視を付けずに他の街へ出掛けてしまうだなんて、不用心にも程があるよ」

 

「やっぱだめだったかな。周りに人が居てくれているからと思って、今までもこうしてサークル仲間とお出掛けはしてきたんだけど……」

 

「キミを狙う連中も決してバカじゃない。今は、ボク達お店の人間が睨みを利かせているから連中は迂闊に手を出せないでいるだけで、ここは龍明じゃないから狙われない、安心、ってワケではないことも自覚してもらいたいんだ」

 

「心配させてごめんね、ノア。心配をかけたお詫びに何か奢るからさ」

 

 迂闊に口にした、いつもの奢る文句。事ある毎にホステスへと伝えては、調子に乗られて財布が寂しくなるそれを癖のように繰り出してしまったことで、自分は「あっ」と思って少女を見遣っていく。

 

 時すでに遅し。この言葉にノアもまた身を乗り出すように反応を示してくると、次にも少女は小さくピョンピョン跳ねながらそれを口にしてきた。

 

「本当かい!? 同伴の話で会いにきたものだったけれども、キミ、ボクが小腹を空かせていたことにも気が付いて食事を提案できるだなんて、とんだ気配り上手だね!! オンナの些細な変化にも気が付けるオトコはモテるよ! さすがの対応だ、柏島歓喜!」

 

「あーいや、これは完全に偶然だったというか……なんか、まぁいいか」

 

 表情は一転として、キラキラと輝かせた目でこちらを見遣ってきたノア。未だ腕に引っ付いたままの少女に自分は汗を流してしまいながらも、「それじゃあ、ノアの行きたい場所に行こうか」と言葉を掛けたことで、自分らは夕暮れの龍明を巡ることとなったものだ。

 

 

 

 

 

 ノアとの同伴を約束してから数日が経過した。

 もう間もなくと、少女との同伴予定日となる。だが、その内容はと言うと一向に何をするかが定まっておらず、毎日のようにプランを出し合っては話し合ってという繰り返しの日々を送ってしまっていた。

 

 昼のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の出口で、ノアを待つ自分。直にも店の裏から私服姿の少女がひょっこり現れて、自信に満ち溢れた表情で近付いてくる。

 

 久しぶりに見たその私服。腕部分が膨れ上がった黒色と灰色のスタジャンに、前を開けているそこからは水色のTシャツと、ジャラジャラと首にさげたチェーンのようなネックレスが覗いている。身に付けている膝丈までの黒い短パンはメンズものであり、しかし防寒の黒色タイツからうかがえる細身の脚が、どこか女々しさを思わせる。

 

 他、黒色と水色の運動靴に、腰にもジャラジャラと着けたチェーンのアクセサリー。後は、左手の五本指すべてに銀色の指輪が嵌められているそのファッションは、ヤンチャなストリート系を彷彿とさせた。

 

 一見すると、年頃の男の子と思わせる格好。初めて会った際の印象もこの一式だったことから、自分は感慨深い気持ちになりながらもノアへと言葉を投げ掛けた。

 

「ノア、今日もお疲れ様。男性客にも女性客にも人気で、レストランスタッフでも引っ張りだこな一日だったね」

 

「ふふん、ボクにかかればこれくらいお茶の子さいさいだよ。ボクも伊達にホステスやっているワケじゃないんだ。日に日に増えていくボクのファンは老若男女、多岐に渡っていて、そんな性別や年齢を限定しない守備範囲の広さを、ボクは売りにしているのさ。場所も限定しないよ。自宅でも出先でも、山でも海でも何処でもオッケー。他のホステスが気乗りしない昆虫採取の同伴もボクならば喜んでご一緒するし、何なら海外でのバカンスもドンと来いなのさ」

 

「本当、ノアってアクティブだよね。元気な女の子って一緒に居てくれるだけで楽しい気持ちになれるから、ノアを指名する人やファンになる人が増えていくのも、なんだか納得がいくなぁ」

 

「まるで他人事のように話しているけれども、キミだって例外じゃないことを自覚したらどうなんだい?」

 

 ニマッ。口角を上げた微笑みで覗き込み、上目遣いで見遣ってくるノア。そして、鏡のように反射する瞳をこちらに向けながら、少女は決め台詞のようにそれを口にしていった。

 

「ボクのファン第一号。それは、紛うことなき柏島歓喜、キミだろう?」

 

「え?」

 

「そうだろう? そう言ってくれよ」

 

「あぁ、そうだね」

 

「だろう? つまりキミは、ボクらの護衛対象であると同時にして、ボクにとっては、最初にファンとなってくれた記念すべき人間であるということでもあるんだ。これが何を意味するか、分かるかい?」

 

「えっと……?」

 

「特別に、何でもしてあげる。ということだ。……キミが望むならば、ボクはこの身体を捧げることだって厭わないのさ……」

 

 仰々しい物言いから一転して、急に艶めかしい声音を出して寄り添ってきたノア。

 こ、こんなこともできるの……!? 内心で抱いた動揺が、ついつい表情となって表れてしまう。そんなこちらの様子にノアはドヤ顔を見せてくると、次にも腕に絡みついて引っ張り始め、歩き出しながらもそれを口にした。

 

「柏島歓喜。同伴の予行練習をしよう。これからキミは、ボクとデートする。より良い同伴にするためにも、本番に備えてボクと一緒にそこら辺を散歩してみよう。……キミに拒否権は無いよ。だって……たった今、ボクがそう決めたのだから」

 

 リードしてくれる安心感。どこかユノに似たものを感じさせたためか、自分は流されるままに「……は、はい」と答えてしまう。この返答に少女は気分を良くしたように満足げに頷いていくと、仰々しくも凛々しい声音で「それじゃあ、行こうか。ボクに全て任せてくれていいからね」と言い、ノアはこちらをエスコートするように歩き出したのだった。

 

 

 

 昼下がりの路地を歩いていた自分ら。向かう先は特に決まっておらず、行き当たりばったりに進んだ結果、二人は中央の水路が真っ直ぐと伸びる桜並木の道路に辿り着く。

 

 普段は来ない方向の道路。近くに住んでいるのに、全く馴染みの無い景色に新鮮味が生まれてくる。

 昼下がりの穏やかな時刻に散歩する老人や、脇道で会話する主婦達という日常的な光景が展開されているその空間。今も静かな風によって桜の花吹雪が舞う中で、隣を歩いていたノアが同伴についての話題を切り出してきた。

 

「春の風物詩か。ボクとキミの同伴は、お花見でもいいのかもしれないね。今のところの有力候補だと、ケーキバイキング、釣り堀、カラオケ、登山、映画、肝試し、ショッピング、ボルダリング、美術館、シュノーケリング、エトセトラ、エトセトラというプランが挙がっていたものだけれど、意外とこういう身近な自然を満喫する時間も有意義に思えてきて、尚更と同伴で何をするか悩んでしまうものだね」

 

「なんか、所々と疑問に思う案も混じってはいるけれど……ちょうど桜の季節だし、綺麗な花を見に行くお出掛けなんかも良さそうだよね」

 

 二人で交互に出し合ったプラン。前者が自分で後者がノアという繰り返しで提案した出先の数々だが、このどれを同伴に取り入れるかは未だ定まっていない。

 

 この散歩の行き先も含めて、ノアと過ごす時間の大半は行き当たりばったりなような気がした。計画性が無いと言えばそれまでかもしれないが、ノアとのお出掛けは、行動力が旺盛で、柔軟性に富んだ新しいことだらけのお出掛けが楽しめると考えれば、人によっては響きが良く聞こえてくるかもしれない。

 

 これもきっと、ヒイロの影響による『型に囚われない生き方』を真似た結果なのだろうか。何にせよ、自分は計画性の無い、揺蕩(たゆた)うようなお出掛けも苦にならない性質(たち)だったため、ノアとのお出掛けを素直に楽しめているところもあった。

 

 と、そんなことを思っていると、ふとノアは見上げるようにしながら、唐突にこんなことを尋ね掛けてきたのだ。

 

「柏島歓喜」

 

「どうしたの?」

 

「キミは、ボクのことが好きかい?」

 

 え?

 あまりにも急な質問。思わず呆気にとられるように暫し思考停止する中で、ノアは真っ直ぐとした眼差しでこちらを見つめ続けてくる。

 

 ……宝石のようなその瞳には、反射する自分の顔が映っていた。

 とても綺麗で、透き通るような透明感のある少女。抱いた印象を胸に、自分はようやくと思考を働かせてからその返答を繰り出していく。

 

「……恋愛的に好きかと言うと、まだそういった距離感じゃないかもしれない。けれど、人としてなら好きかもしれない……?」

 

「今はそれで十分さ。ただ、そうだね……。もっとこう、キミが照れ臭そうにして、でも勇気を振り絞るように胸を張って、ハッキリと『好きだっ!!!!』と言ってもらえる返答を勝手に期待していたものだったからね。正直、先のキミの返事にはちょっとだけ納得がいかないな」

 

「一目惚れならまだしも、俺達はさすがに出会ってからまだ間もないからね。でも、急にどうしたの? 俺に好きって言ってもらっても、特に得るものなんて無いと思うけど」

 

 何気無く口にしてしまったその言葉。声に出してから、ちょっとマズかったかなと若干後悔してしまう。

 

 だが、こちらの不安とは裏腹に、ノアは清々しい声音でそう喋り出してきた。

 

「柏島歓喜には、人類の国宝とも言えるだろう父親がいた。そんなキミには、他に家族と呼べる人物はいたりするものなのかな?」

 

「家族か。そうだなぁ……母親が幼い時にいなくなっちゃって、それから親父も家を出たっきり、全く帰ってこなくって。俺には兄弟と言える人もいなかったから、家族と言える人物は親父だけだったのかな。……んまぁ、それもつい最近までの話だけどね」

 

「兄弟もいなかったのか。いや、ボクも一人っ子である故に、キミほどではないだろうがその寂しさは多少と共感することはできるかもしれない」

 

 なんだか、しめやかな雰囲気で喋り出したノア。どこか真面目に話す少女の言葉を自分は口を噤んで聞いていると、次にもノアはこちらへ振り向きながらも、年相応の乙女の顔を見せながらそれを言い出してきたのだ。

 

「ならば、柏島歓喜。ボクのことを、妹だと思ってくれてもいいよ」

 

「え? 妹??」

 

「何なら、姉でもいい!!」

 

「え! 姉!?」

 

「ははっ、冗談だ。半分ね」

 

「半分……!?」

 

 終始、振り回されるように返答してしまう。

 こちらの反応に、ノアは面白おかしく微笑していたものだ。そんな少女の微笑むサマに自分もつられて笑っていき、お互いに微笑んだ後にもノアからその言葉を掛けられる。

 

「本音を話してしまうとね、ボクは兄弟と言える存在が欲しかったんだ。家族も、今はオヤジしかいなくて、そのオヤジも常に仕事で手一杯で、ボクにかまってくれやしない。……家族の愛情を受けられない寂しさは、たとえボクのような人間でも身に応える。だから、柏島歓喜。ほぼ同じ境遇にいるキミとは仲良く手を取り合って、そして、まるで本物の家族であるかのように、キミと共にこの先の人生を歩んでみたいなと、ふと、そう思えてしまったのさ」

 

「これは、遠回しの告白……ってわけではないんだよね?」

 

「キミが望むならば、告白として言い直してもいいんだよ?」

 

「お、おおう……めっちゃ堂々としてる……。まぁ、何て言うか……俺としては、とても魅力的な提案ではあったもんだけどさ……これで安易に頷いてヤクザの世界に引き込まれるのもちょっと怖いから、ひとまず返事は保留ということで、ここはひとつ……」

 

「あっははは、キミらしい返答だな。曖昧にしてさり気無く断ってみせたようにもうかがえるが、確かに相手はヤクザの娘、カタギの人間からすれば警戒するのも必然だろう。大丈夫さ、そう無理強いはしない。別に、ヤクザに引き込むつもりもなかったさ。ただ……」

 

 ちょっと俯くようにして、口を噤む少女。ノアの様子に自分は心配に思っていると、少女は再び顔を上げ、こちらへと真っ直ぐ目を合わせながらそれを口にしてきた。

 

「……キミと共に歩む人生というのも、悪い気はしないなと思えただけなんだ。キミと過ごす時間は、ボクが想像していた以上にとても心地良く、それでいて、楽しい。……義兄弟としても、生涯のパートナーとしても、どのような形でもいい。ただ、何かしらの形式でキミと結ばれる未来に少しだけ、淡い期待を抱いてしまっただけなんだ」

 

 清々しい表情で、されど切ない声音でそれを言い切ったノア。少女の言葉を聞いた瞬間にも自分は、ノアという一人のホステスに対して一瞬ながらも純情な好意をよぎらせてしまったものだった。

 

 ……この手でノアを幸せにする未来。それも案外、悪くないのかもしれない。

 ちょっとだけそう思わせた少女のアプローチに自分は、相手がヤクザの娘であることを忘れて本気でときめいてしまった。そんなこちらの心情が表情なりで表れていたのだろうか、次にもノアは初めて見せる照れ臭そうな顔をしながらも、真っ直ぐと投げ掛けた視線で清々しくそれを口にしてきたのであった。

 

「あっははは……っ! なんだか、ボクらしくないね……!! 段々恥ずかしくなってきてしまったよ……! ……柏島歓喜。ボクにとってキミは、家族のようなものなのさ。それが何を意味するか、分かるかい? つまり、キミには……ボクの“アニキ”として、大事な妹分を楽しませる義務があるということだ!! さぁ、同伴のプランについて再び話し合おう! 二人だけで過ごす時間を、より有意義なものとするためにね!」

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