※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第54話 Crocs cachés, orange carnivore 《隠し持った牙、肉食の橙》

 昼のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)で食事を終えた自分が、通路を抜けてエントランスに踏み入れていく。そうして、真っ直ぐとした足取りで出口を目指していたその最中にも、奥のカウンターにいたタキシード姿のハオマから、このような言葉を掛けられた。

 

「あ、カンキくん! おーい! こっちこっち!」

 

「え? あぁ、ハオマさん。どうかされましたか?」

 

 無邪気に手を振って呼び掛ける彼女のそれに、自分は尋ねながら歩み寄っていく。その間にもハオマからは、ニヘラ~と微笑むサマで「あーいや、見かけたから呼んでみただけだよー」と言葉を掛けられたことから、自分はちょっと癒された気持ちになりながら「そ、そうですか……」と返答したものだ。

 

 彼女曰く、『私はLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の中だと最年長になるんだよね~』とのこと。以前のやり取りでも三十路であることが明かされた彼女だが、それでもなおハオマという女性と会話をしていると、どのホステスよりも若々しいものを感じ取れてしまって仕方が無い。

 

 ハオマの下へと歩み寄り、カウンター越しに向かい合っていった自分。今もほわほわとした天真爛漫な笑顔を浮かべる彼女に見惚れるよう視線を向けていると、次にも彼女は口を三角形のようにしてハッとしながら、急にキリッとした表情でそれを問いかけてきた。

 

「カンキくん、これでお帰りになられますかな!?」

 

「まぁ、そうですね。俺に何か御用でしょうか?」

 

「はい、御用です! このあとヒマなら、私のお昼ご飯に付き合ってもらえると嬉しいな~とか思ったりして!」

 

「お昼ご飯、ですか」

 

「お昼ご飯です! 私、これでお仕事上がるんだけど、一人で食事するのも寂しいなぁ~と思って、カンキくんを誘ってみました! どうかな、私とのお昼ご飯!」

 

 キリリッ。気楽な敬語でハキハキと喋るハオマの勢いに押されるように、自分は快く頷いていく。

 

「俺でよろしければ、ぜひご一緒させてください。ただ、俺は先ほどこちらで食事を済ませてしまいましたので、話し相手くらいにしかなれないと思いますが……」

 

「あぁいいっていいって、だいじょーぶ! 心配ナッシング! 一緒に居てくれるだけで嬉しいから気にしないで! それじゃ、着替えだけ済ませてくるからね!」

 

「分かりました。ゆっくりで構いませんから」

 

「おぉ、お気遣いどうもです! それじゃお言葉に甘えまして、このハオマ、ゆっくりと着替えて参ります!」

 

 ビシッと敬礼を行ったハオマ。彼女の様子に自分が汗を流していく間にも、彼女は「それじゃあ、ちょっとだけ失礼しますっ」と言いながらこの場を後にして、関係者以外立ち入り禁止の扉を開いてその姿を消していった。

 

 閉じられた扉の音と、その先へと響かせた彼女の靴音。遠ざかるそれに何気無く耳を澄ませていた自分はこの時にも、彼女から感じ取れるギャップの要素に萌えのようなものを抱いてしまっていたものだ。

 

 

 

 

 

 店の前で待つこと十分ほど経過しただろうか。スマートフォンで周辺のオシャレなカフェなどを探す自分がそれに熱中していると、店の裏からはヒールの靴音を鳴らすハオマが駆け寄ってきた。

 

 そう言えば、私服姿のハオマは初めて見るかも。初見であるラフな姿に自分は心をときめかせながら振り向いていくと、そこには想像以上に若々しく映える彼女の姿が視界に入ってきた。

 

 ジレという、ベージュ色でミドル丈のアウター版ベストに、ドレスのような質感の白色ブラウス。そして、暗めの赤いクロップドパンツに黒色のハイヒールという、非常に大人びたスリムなシルエットが、健全な色気を放ってくるその格好。

 

 一目にして、自分は熱いものを心に覚えた。

 

 ……あれ、可愛い……? いや、カッコいい……? いや、綺麗……?

 思考が困惑する、ハオマの柔和な存在感。灰色の手提げバッグを持つ彼女がカツカツとヒールを鳴らしながら歩み寄ってくると、さすがはホステスと言うべきか動揺するこちらを瞬時に見抜き、ハオマは一気に距離を詰めるように顔をこちらへ近付けながら、無邪気に微笑んでみせたのだ。

 

「おまたせ~カンキくん。……むむ! その顔、もしや私に惚れてしまったかな!?」

 

「え? まぁ、そうですね。今、けっこう、相当、かなりキてます。惚れそうです。惚れかけてます。もう少しで惚れゲージがマックスになりそうです」

 

「おほー、最近の若者はゲージって言葉を使うんだぁ。なんかゲームみたい。勉強になるなぁ。……で、そのゲージ、あとどれくらいで満タンになりそう?」

 

「完全に落としにかかってますよね……? そうですね……男という生き物は本当にチョロいので、あとは一緒にお食事をして、距離感が自然と縮まってしまったらもう、完全にハオマさんに恋してしまいそうな勢いですよ」

 

「むむむっ、もう一息ってとこだね! ならお姉さん、ホステス経験者としてもうひと踏ん張りの本気を見せてあげちゃおうかな! カンキくんに告ぐ!! 今の内に、私に貢ぐお金を用意しておきたまえー!!」

 

 いや、なんだこの会話は。

 腕の袖を捲る仕草を交え、ハオマはやけに張り切った様子で気合いを入れ出していく。彼女の豊かな言動に余計と魅了される中で、ハオマは次にも無邪気に笑い掛けながら手を差し伸べて、日向(ひなた)のように柔らかな温もりを帯びた声音で、そう誘(いざな)ってきたものだった。

 

「それにしても、カンキくんも物好きだねぇ~。こんなおばさんに惚れちゃうとかさぁ。さっきのも、ただのリップサービスとかだったりする? それならそれで嬉しいけどね。私もまだまだ若い男の子に口説かれちゃうくらいには現役かぁって思えるし! ……さぁさぁ! 口説き合いは一旦置いといて、今は一緒にご飯を食べに行くぞ~!! 私もうお腹ペコペコ。だから、このハオマ。今だけオンナを忘れて、お昼からガッツリ大盛りでいかせてもらいますっ!!! カンキくん!! 私オススメのしゃぶしゃぶ専門店にいざ、レッツラゴーだー!!」

 

 

 

 

 

 仕切りで区切られた席の並び。中央に鍋が置かれたテーブルで向かい合う自分とハオマは、タレや野菜、薬味などを用意した万全な状態でお肉を迎えていく。

 

 運ばれてきた、豚のロースやバラ肉、牛カルビの生肉。本能的に食欲をそそるそれらに自分らは目を輝かせていくと、鍋の中で二つに分けられたそれぞれの空間で、一緒にお肉をしゃぶしゃぶして堪能していった。

 

 ハオマから教えてもらった、ポン酢と刻みオクラを合わせたダブルコンボ。これに悶えるよう声を漏らす自分が美味に浸っていると、次にもハオマから無邪気にその言葉を掛けられた。

 

「おぉ~! 良い食べっぷり! カンキくんほんとに良い顔して食べるねぇ! ……あぁぁ~、いいなぁ。男の子がお肉を美味しそうに食べてる姿って、どうしてこんなに可愛く見えるんだろう」

 

「なんだか、食べてる様子をまじまじと見られるのはちょっと恥ずかしいですね……」

 

「ああぁそうだよね!! ごめんね!! お姉さんに気にせず、どんどん食べて食べて!!」

 

 熱い視線を向けてくるハオマに対し、ちょっと照れ臭そうにそう口にした自分。これに彼女は慌てて手で催促してくるのだが、再び食事に集中し始めた自分へと、再度と投げ掛けられた温かい眼差しがやはり気になってしまい……。

 

 ……チラッ。上目で確認する自分。これによって彼女と目が合っていくと、今度はハオマの方が申し訳無さそうに苦笑いを浮かべつつ、それでも彼女は頬杖をついたその姿で、食事を行うこちらをまじまじと見遣り続けてきたものだ。

 

 他人が食事している様子を眺めるのが好きなんだろうか。

 向けられた眼差しはまるで、実家に帰ってきた息子の食事を見守るお袋のよう。ハオマの柔和な微笑みがそれを思わせて、今もうっとりとした目で見遣る彼女の様子に、自分は食べ辛さと気恥ずかしさの両方を感じてしまう。

 

 ……それにしても、ハオマさんも美人さんだなぁ。

 ついつい、何気無く眺めてしまった彼女の顔。そうしてお互いに視線を合わせていくと、直にも柔らかく微笑んできたハオマが、ゆっくりと首を傾げながらも無邪気にその言葉を投げ掛けてきた。

 

「あはは……ほんとに、私のことは気にしなくていいからね。何なら、今日は私の奢りにしてあげる! だからその分、カンキくんの食べてる姿をしばらく眺めさせてもらえないかなぁ? ……可愛い男の子が美味しそうにお肉を頬張る姿がね、私にとっての大好物みたいなものなんだ。そういうワケだから、お願い! お金は払うから、どうか仕事終わりの私に癒しと尊さをお恵みください!!」

 

 途端に、両手を合わせて頭を下げてきたハオマ。

 なんともまぁ、彼女の思考は読みにくい……。そう思いながらも自分は、これが彼女のためになるならばと考えた末に、「奢りはともかくとして、俺の食事している姿でよろしければ、まぁ……」と答えていく。

 

 すると、ハオマは盛大に両手を上げながら「え!! ほんとにいいの!? え、やった。ありがとう! ヤッター!!! 神様ーッ!!!」と全身で喜びを表してきたため、自分は内心で「世の中にはいろんな人がいるなぁ」と悟るように思いながら、しばらくと食事を行うサマをハオマに見せ続けたものでもあった。

 

 

 

 

 

 お腹いっぱいだったにも関わらず、意外とたくさん食べてしまえたしゃぶしゃぶ。支払いはハオマのお世話になってしまったため、自分はお礼を述べながら彼女と共に店を後にする。

 

 で、これで解散かと思いきや、このあともヒマならちょっと寄り道しない? とハオマに提案されたものだった。これに自分は快く頷いたことで、この日にもハオマとは同伴のようなひと時を過ごすこととなる。

 

 ダーツやビリヤード、ボウリングやローラースケートなどの様々な施設が用意された遊技場。二人きりの親睦会という名目で訪れたエンターテインメント空間において、自分らは夜になるまで大人げなく存分にはっちゃけたものだ。

 

 過去にホステスを経験しただけはあって、同伴者とも言えるだろうこちらをリードしてみせたハオマのエスコート。それは、喉は乾いていないか、お手洗いは平気かなどの些細な気遣いをはじめとして、彼女は柔和な雰囲気でこちらの手を優しく引きながら店まで連れていき、年上としての責任感からか、受付から何までのすべてを自ら引き受けていく積極的な姿勢が目立っていく。

 

 そして、店内においては子供のようにはしゃぐ姿を見せてきた彼女。ダーツではへっぴり腰で投擲する様子が可愛く見えてきて、ビリヤードでは手に持つキューでこちらを小突いてきたりと軽いノリを披露してくる。ボウリングでは、片手で持っていたボールの重量に振り回されるようにフラついていたり、ローラースケートにおいては恐怖と興奮の悲鳴を上げながら、共に滑るこちらにリードされる形で楽しんでいた様子だった。

 

 とにかく大はしゃぎだったハオマは、休憩としてイスに座っていたこちらへと小走りで駆け寄りながら、ニッコニコの笑顔で買ってきたスポーツドリンクを差し出してくる。それを受け取っていくと、彼女も「どっこいしょ」と言いながら隣に座ってきて、無邪気に微笑みながら「楽しいね~!」と話し掛けてくれるのだ。

 

 ホステスとしてのリップサービスなどではなく、どんな人間との交流も心から楽しめるタイプの人なんだなと思わされた彼女の調子。良い意味でも悪い意味でもお気楽で健気な彼女は子供のような素直さを持ち合わせており、背を伸ばして頑張る姿は頼りになる反面、かえって守りたくなる場面も所々と見受けられる。

 

 子供のまま成長した大人。これでは響きが悪く聞こえてしまうかもしれないが、それだけハオマという女性は健気で明るい乙女であるとも言える。そんな、自らも言うように店の年長者という立場でありながらも、取り繕わないありのままの自分で勝負する彼女の姿勢から、自分は次第にもハオマという女性に心が惹かれ始めていたような気がした。

 

 ……さすが、ユノさんと並ぶ実力者だっただけはある。

 自分がこの人を守らねば……。女性としての強さと、女性としての弱さを両方曝け出した彼女という存在に、男として謎の使命感を抱いてしまう。そうして彼女の横顔に見惚れるよう視線を投げ掛けている間にも、ハオマはどこかうずうずとした様子で周囲を見渡しながら、「カンキくんも楽しめてるー?」なんて尋ね掛けてきたものだ。

 

 ニヘラ~と笑うハオマから、小動物のような心温まるものを感じていく。これに少しだけ頬を赤く染めてしまった自分は、照れ隠しのように視線を逸らしながらも「そ、そうですね。ハオマさんとの同伴、めちゃめちゃ楽しめています」とそんなことを口走ってしまった。

 

 それを耳にしたハオマは、微笑しながらこの言葉を口にしてくる。

 

「あはは、同伴かぁ~。懐かしいなぁ。私もこうして、いろんな人とお出掛けしたりしたっけなぁ。今でもそう言ってもらえると、私もまだまだ現役だな~って思えたりしてくるよー」

 

「あぁいや、その。これは同伴ではありませんでしたね。すみません、錯覚しました」

 

「別に謝ることはないよ! むしろ、カンキくんに『俺、同伴してる!』と錯覚させることができたのは、ホステスをやっていた身として普通に嬉しかったというか、自信になったっていうか。まぁそんな感じで、イヤだなんて思ってないからね! ……えへへ、あとで荒巻さんに追加のお給料でもせびってみようかな~。カンキくんと同伴してきました! ボーナスください! って! それでほんとにお金出たらどうするー? 二人で焼肉にでも行っちゃおっか~!」

 

「いいですねそれ。頼りにしてますよ、お姉さま」

 

「お、おねえさま……っっ!!!! カンキくん、私の扱い方が分かってきたみたいだね。おぬしもワルよのぉ~」

 

 そう言って、肘でこちらを小突いてきたハオマ。表情も非常に豊かであり、衝撃を受けた白目のガビーンッという顔から、ジト~っとしたニヤけた細目の芸当も行ってきたりと実に多種多様。

 

 見ていて飽きない彼女の様子に、自分は微笑しながら応えたものだった。そうして自分らはエンターテインメント空間で色々な遊戯を満喫していき、夕暮れを迎えた時刻になってからというもの、店を出た足でそのままカラオケ店にも立ち寄ったりもした。

 

 そこでは、女児向けアニメの主題歌などを熱唱するハオマの姿を見ることができた。

 何となくテレビで観たそのアニメが、とても面白く感じられたそう。これをキッカケに女児向けアニメにハマったハオマは、今では歴代ヒロインの変身シーンのポージングやセリフを全て覚えたりなどの、マニアックな知識を披露したりしながら、関連する歌を歌ったりしていた。

 

 大人げなく、全身全霊でキラキラとした夢のある歌詞を熱唱する彼女。ここまで振り切っているとかえって清々しく、自分もハオマの勢いに乗るように合いの手を入れたりなどして、ハオマとのカラオケは盛り上がりをみせたものだ。

 

 こちらも全力を尽くした、ハオマとのお出掛け。彼女も息切れするほどに疲れ切った様子で共にカラオケ店を後にし、それじゃあそろそろお開きにしようかという話が出た時にも、自分はハオマとこのようなやり取りを交わすこととなる。

 

 ……喉も枯れてしまった。二人で夜の龍明を歩く中で、心底からの充実感が巡ってくる心地良い疲労に浸るようそんなことを思っていく。こうして暫し会話を交わすことのない静かな空気が漂うのだが、次にもハオマは朗らかな顔をしながら、やんわりとした調子でそれを喋り出してきた。

 

「今日はたっくさん楽しいことをしたね~! いやぁ、年甲斐もなく久しぶりにはっちゃけて、なんかカンキくんに恥ずかしい姿を見られちゃった気がするよ~」

 

「そんなことはありませんよ、ハオマさん。楽しむことに年齢は関係ありませんから、俺でよろしければまたご一緒させてください。そして、ハオマさんの楽しそうなところを俺に見せてください」

 

「あんな姿を見ても引かないなんて、寛容だね~カンキくんは。……そんなこと言われちゃったら、年下の男の子なのにちょっと意識しちゃうじゃんかぁ」

 

 急に、どことなく色気を伴った声音で、勿体ぶるように口にしてきたハオマのそれ。彼女の言葉に自分は「え?」と振り返っていくと、その瞬間にもハオマに身体を押され、ちょうど通り過ぎようとした横道へと引きずり込まれてしまったのだ。

 

 ひと気の無い路地裏に踏み入れた自分ら。今もハオマに連れられるようにその道を進んでいくと、しばらく進んだところで彼女は立ち止まり、こちらを壁に押し当てながら急接近してくる。

 

 一体、何がなんだか。現在の状況に困惑した自分が言葉を投げ掛けようと、口を開いていく。だが、次にもこちらの襟を両手で掴んできたハオマに引き寄せられると、その開きかけた口は彼女の唇によって塞がれ、唐突な口付けを交わし合うこととなったのだ。

 

 ……非常に手慣れた、ハオマのテクニック。咀嚼するようなキスは惹かれ合うように離れることがなく、一定の間隔を刻む彼女の濃厚なそれによって、オスの本能が心底から掻き立てられていく。

 

 これまでに感じたことのない高揚感。急激に上がった心拍数で沸騰しそうになった脳みそが、こちらの思考を奪い去る。

 

 何て、天にも昇るような気持ち良いキスなのだろう。

 場数を踏んだ熟練のテクニックは一瞬にしてこちらのハートを虜にし、もう、ハオマという性的な女性にしか意識が向かなくなる。そんな、彼女の突発的なアプローチによって骨抜きにされていく中で、直にも互いの唇は名残惜しむように離れ出し、今も目の前で艶めかしい視線を向けてくるハオマと向かい合った自分は、ただただ呆然と佇んでしまう。

 

 ……もっと、してくれないものだろうか。

 無意識にも、ねだるような視線を投げ掛けていた自分。こちらの様子にハオマは意地悪するように微笑んでみせると、次にも彼女は襟を優しく引っ張りながら、大人のフェロモンを醸し出す恍惚な表情でそれを言ってみせたのだ。

 

「あまり、私をその気にさせない方がいいよ? 私、カンキくんのような、可愛いと思わせてくれる男の子が大好物だから……」

 

「……ハオマさん?」

 

「もっと欲しそうな目をしちゃって、子犬みたいで愛らしいなぁ。そんなに、さっきのキスが気持ち良かった? そう思ってくれていたら嬉しいなぁ。だって、カンキくんのような若い男の子を夢中にさせるために、男を落とすテクニックを頑張って磨いてきたんだもん。……私だってあのお店のホステスだったから、男の落とし方くらい心得ているんだよ?」

 

 香ってきたメスのフェロモン。彼女の年齢がそれを一層と醸し出し、発情期特有の魅惑な色気を演出してくる。

 

 柔らかい雰囲気で癒しを与えてくれる人だ。そんな認識を大いに覆す肉食の姿を目の当たりにして、自分は未だ追い付かない思考でハオマを見遣り続けていく。その間にも彼女は再び唇を近付けてきたものだったから、今度は自分から迎えるようにこちらから接近し、ハオマの妖美なそれを咥えるようにして熱烈なキスを交わし合っていった。

 

 こちらから抱き寄せて、発情した年上の女性を包み込んでいく。そして抱き抱えるようにしてディープな口付けを行っていき、必死に食らいつくように彼女の唇に執着して、それを貪るようにしながら、自分はその牙を隠し持った妖艶なる女豹との行為に浸っていったのであった。

 

 

 

 

 

 完全に陽が落ち、夜の時刻を迎えた帰り道を辿る自分ら。アパートに到着すると、初めて招き入れるハオマというお客様へと手で入室を促しながら、自分は玄関扉を開けていった。

 

 共にして、奥からは二名のホステスが顔を出してきた。それぞれ、ラミアとレダ。二人とも寝間着姿の完全なラフの状態でこちらを迎えてくるのだが、思わぬ客人にラミアとレダはちょっと驚きつつも、先輩であるハオマを歓迎して部屋へと招き入れていく。

 

 ……ここ、俺の部屋なんだけどな。

 とても久しぶりに抱いたような気がするその言葉。これを思いながら自分も部屋に入り、扉を閉めて鍵をかけていくのだが、その最中にも顔を覗かせたラミアがそんなことを口にしてきたのだ。

 

「あれ、カンキさん。腰のベルト緩んでますよ??」

 

「え? ベルト?」

 

 ラミアの言葉を耳にして、視線を下げていく自分。するとそこには、だらしなく垂れ下がったベルトがウミヘビのようにぷらぷらと揺れており……。

 

 ……一瞬だけ、心臓をキュゥッと引き締めた自分。これにラミアは首を傾げながら、ジト目でそれを伝えてくる。

 

「ハオマさんから少しだけお話をうかがいましたよー。なんでも、お二人さんでデートをキメてきたみたいじゃないですかー。ズルいですよ、ホント。ウチらが大変な思いをして働いている間、お二人さんはイチャイチャとお出掛けを楽しむなんてー」

 

「ごめんごめん。俺、ハオマさんとは出会ったばかりだったから、今日のお出掛けは親睦会も兼ねてのものだったんだよ」

 

「ふーん?? まー、別にイイですけど。……それよりもですよ。まさか、ハオマさんとのおデート中、ずっとそのベルトでそこらを歩き回ってたんですか?? だとしたら、滅茶苦茶ダサいですよカンキさん。そんなんじゃ、カンキさんの部屋に泊まり込んでるウチらの面目が立たないじゃないですか。ウチらの面子を保つためにも、もっとしっかりしてくださいよ??」

 

「分かった、次からは気を付けるよ。……いや本当、ベルトをこんなにしてダサかったな俺」

 

 ぷらぷらと垂れ下がるベルトを眺めながら、呟くように口にした一言。何気無いそれを聞くまでもなく、言いたいことを言い終えたラミアが部屋へと戻っていく光景を横目にして、自分はベルトを眺めながらも先ほどまでの行為を思い返してしまっていた。

 

 ……ヘビの行為が如く、路地裏で絡み合った自分とハオマ。そこでは、子種を産み付けんとばかりに接近した男女が身体を寄せ合い、全身からフェロモンを出し合いながらも濃厚なキスに没頭する構図が展開されていく。

 

 それは、白熱するあまりに本番直前にまで至ってしまっていた。

 ベルトを外し、履物を下げた自分。これを見たハオマも求めるように自らクロップドパンツを下げると、セクシーな青色のショーツに指を掛けて、自身の聖域を晒してきたものだ。

 

 露わとなった、オレンジ色の密林。手入れが行き届いた三角形に、年齢による熱を帯びたそれが一層もの興奮を煽ってきたことで、自分は本能のままにそそり立つ“モノ”を彼女の“入口”に押し当てていく。だが、そうして彼女の太ももの隙間を抜けるように数回と運動を行い始めた時にも、来た道からは一人の男性の声が響き渡ってきたのだ。

 

 急に聞こえてきたそれに、二人で我に返るようハッとする。共にして急ぎで物陰に身を隠していき、先まで自分らがいた場所で酔っ払いの男性が嘔吐し始めたそれを耳にする中で、自分とハオマは共に向かい合いながら、二人で気まずく視線を逸らしたものだった。

 

 ……あのまま行為を続けていたら、もしかしたら取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。

 道具も着用しない無責任かつ衝動的なそれに、今となっては反省ばかりが巡ってくる。だが、一方でハオマのテクニックで骨抜きにされていたことから、できるならば、あの続きをしたいなと心のどこかで願ってしまってもいた。

 

 ……さすが、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の稼ぎ頭だっただけはある。思い出しただけで鼻血が出そうになった自分は慌てて鼻を抑えていき、今も脳みそが沸騰する感覚で静かに悶えながらも、ティッシュを使用するべく部屋へと足を運んでいく。それからというもの、ハオマが今日ここに泊まっていく話になったことから、自分は居合わせたホステス共々、最大限のおもてなしを提供するべくお客である彼女に尽くしたものであった。

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