俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
桜の季節が過ぎ、新生活の始まりを告げるピンク色は葉桜へと姿を変えていく。
昼下がりの時刻にて、龍明高等学校の前でミネとノアを待っていた自分。彼女らは今日、下校が早いということから、夜のシフト前に少し遊んでいこうという話になったらしく、自分はそれにお呼ばれする形でこちらに訪れていた。
既に、制服姿のノアが自分と合流していた現在。いつもの透明感ある仰々しい物言いでこちらと他愛ない会話を行っていると、直にも校門からは制服姿のミネが歩いてきた。
鞄を肩に掛け、ブレザーのポケットに両手を突っ込んだヤンキースタイルの少女。いつもの不機嫌そうな表情でこちらを確認するなり、ミネは真っ直ぐとその歩みを進めてくる。
だが、そんなミネの隣には、見慣れない“一人の女子生徒”が存在していた。
ミネに歩調を合わせる女子生徒。同じく学校の制服を身に纏うその少女は、ミネが目指すこちらへと視線を投げ掛けてきた。
背丈は、百七十三くらいだろうか。隣のミネを凌駕するその身長の女子生徒は、腰辺りまで伸ばした、大和撫子を彷彿とさせるストレートの黒髪ロングと、光源が如く眩い光を放ち、歩いたところに残像の軌跡を残すほどの濃厚なピンク色の瞳が特徴的だった。
闇夜のそよ風を体現したかのような、とても物静かで不気味なほどに落ち着いた風貌。一目にして、喜怒哀楽の感情を表に出さないポーカーフェイスであることが理解できる、おしとやかでガードが固そうな印象を与えてくるその有様。
一見すると、図書館で静かに本を読んでおりそうな、清楚なお嬢様という印象を与えてくる美少女だった。そんな、ミネと行動を共にする……というよりは、ミネについてくる女子生徒に自分は意識を向けていると、直にも二人はこちらと合流を果たし、ノアも含めた三名の女子高校生に囲まれた自分は、見渡すようにしながらその言葉を口にしていった。
「みんな、今日もお疲れ様。……ミネ、遊びに誘ってくれてありがとう。だけど、この集まりに俺が混ざってもいいもんなのかな」
さすがに、ちょっと申し訳無く思えてくる。
女子生徒達に混ざる男性という絵面も、傍からしたら不審に思えてしまうだろう。そこから来る恐縮な心情でそれを尋ね掛けていくのだが、これに対してミネは不機嫌そうに「ん、別に」と返してきた。
ミネの「別に」は、ほぼ肯定と捉えていい。このことから、自分は安堵したように息をついていく。だが、そうしてミネと会話を交わした時にも、隣にいた女子生徒はおもむろに動き出すなり、こちらとミネを遮るようにしてこの視界に入ってきたのだ。
まるで、ミネを守るかのような動作だった。
自分とミネの間に立ち、感情の無い眼差しでこちらと向かい合う少女。どこか人形みたいな印象も受ける女子生徒に自分は困惑していると、次にも背後のミネが顔を出しながら、焦った様子でこれを喋り出してきた。
「ちょっと、“
そう言って、女子生徒のブレザーの裾を引っ張っていくミネ。その訴えによって女子生徒は一瞬だけミネへと視線を投げ掛けるのだが、それは再びこちらへと向けられると、次にも女子生徒はどこか儚さを感じさせる物静かな調子で喋り始めていったのだ。
「不純。危ないわ」
「この人は……う、うーん。まぁ不純と言えば不純だけどさ、でも悪い人なんかじゃないから大丈夫なんだってば……!」
「蓼丸さんの知り合い?」
「知り合いっていうか、親戚。アタシにとって、すごく大切な人。だから大丈夫。そんなに警戒しなくてもいいから……!」
「親戚。大切な人……?」
「え? ……あ、いや。大切な人って……まぁ、確かにそうは言ったけどさ……っ」
口にしてから、自身の言葉で恥ずかしがり始めたミネ。
モヤモヤするような、照れ隠しのような。じんわりと頬を赤くした少女が視線を逸らしていく中で、女子生徒はこちらと真っ直ぐ向き合うと、次にも儚さを含めた調子でこれを口にしてきたのだ。
「
「え?」
「友仁彼方。私の名前」
「あぁ、どうも……? 柏島歓喜です……?」
「柏島歓喜。蓼丸さんの親戚。大切な人」
「まぁ、そういうことになるのかな」
「私の恋敵」
「え、恋敵!!?」
爆発的なカミングアウト。思わず驚愕したこちらの反応を一切と気にしない、女子生徒こと友仁彼方。あまりにも急な展開にミネもポカーンとした唖然の表情を見せてくる中で、彼方は無感情にこちらへと言葉を続けてくる。
「私はバイです」
「え?」
「私はバイです」
「え、えっと……。ほうほう……?」
「蓼丸さんに一目惚れしました」
「な、なるほど……?」
「彼女を私にください」
「え?」
「彼女を私にください」
「えっと……」
い、今までに無いアプローチで迫ってくる少女だ……。
彼方に圧倒される自分は、ずっと言葉を詰まらせながら相槌を打っていく。その様子にミネが、彼方の顔色をうかがうように覗き込みながらも話し出してきた。
「ちょっと、ちょっと待って友仁さん……! あの告白、ホンキのやつだったの……!? え、てかアタシ……?! なんでまた、急に……」
「私は蓼丸さんに救われた」
「救われたって……まぁ確かに、友仁さんがリンチされてたトコに割って入ったけどさぁ……」
「蓼丸さんは私を守ってくれた」
「守る……んまぁ、守った、のかな……? 友仁さんが可哀想で見てらんなくって、アタシがアイツらをボコっただけだったけど……」
「蓼丸さんに惚れました」
「即堕ちっ!!? スピード感ヤバくない……ッ!?」
ガビーンッとしながら白目でツッコんだミネ。しかし、それでもなお彼方は依然として無感情な様相のまま、静かにコクリと頷くことで肯定を示してきたものでもあった。
なんだか、また新しい人が増えたな……。
内心で呟いた自分が、ここからどう言葉を切り出そうか悩んでいく。そうして思考を巡らせていると、助け舟とも言うべきだろうか、この様子をずっと脇で眺めていたノアがようやくと、清々しい調子でそれを切り出してくれたものでもあった。
「いいね、友仁彼方! 以前からキミの存在は認知していたものだったけれど、蓼丸菜子との会話の中で、ボクはすこぶるキミに興味が湧き始めてきた!! 友仁彼方。もしキミが良ければ、ボクらと共に来ないかい? 勉学から解放されし放課後の甘美なるひと時にぜひ、キミを招き入れたい!! ……ここで立ち話も何だろう。柏島歓喜、蓼丸菜子。ここは一旦、場所を変えようじゃないか。そうだな……駅前のクレープ専門店に立ち寄るのはどうかな? そこではどうやら、季節限定のバナナフェアをやっているみたいでね……」
場面は変わり、龍明の駅前まで移動を終えていた自分ら。友仁彼方という女子生徒を加えた四人でその店に立ち寄ると、ポップな店内で席についたそのメンツで、クレープを手に持ちながら向かい合っていた。
自分の隣に座るノア。それでいて、テーブルを挟んだ向こう側に座る、ミネと彼方。今もノアが満足そうにクレープを頬張る様子を傍らに、自分もクレープを口にしながらも、移動中にうかがっていた話に返答するように彼方へと喋り掛けていった。
「なるほど。それじゃあ友仁さんは、今回のクラス替えで菜子ちゃん達と同じクラスになった、クラスメートなんだね」
こちらの言葉に対して、彼方はクレープを片手に無感情な様相でコクリと頷いてくる。
本人からうかがっていた、ミネに惚れるに至った事の経緯。尤も、経緯と言っても少女らの出会いそのものは、本当にまだ間もないものでもあったようだ。
学年が上がる際に、ミネ達の間ではクラス替えがあった。それをキッカケに彼方はミネとノアの二人と同じクラスになり、特にミネは席も近かったことから、会話をする機会にも恵まれていたらしい。だが、本人曰く自身がミネに惚れることとなったのは、クラス替えから間もない頃に遭遇した、八名ほどの同学年男子らによる校内のリンチ事件なのだという。
以前から、彼方に対して不満を抱いていたという男子生徒ら。まず彼方自身が優秀な生徒であり、身長は平均よりも高く、成績は優秀で生徒会の委員も務めていたことから、先生らにもひいきされるその真面目さを標的にされたのだそうだ。
出る杭は打たれる。優秀が故に災難に見舞われた、不運で気の毒な少女。だが、そうして降り掛かった災難から救ってくれた人物こそが、たまたま現場に居合わせたミネだったのだ。
ミネは、学校内で恐れられる程度にはその悪名を轟かせていた。常に不機嫌なサマでノア以外の生徒を寄せ付けずにいた少女は、持ち前の腕っぷしで彼方を襲う男子生徒らを悉く蹂躙。後に、校長直々に呼び出しを食らうほどの大暴れをかましたミネの活躍によって、彼方は全治一週間程度の怪我で済んだのだそう。
彼方の働きかけもあり、先生達からの説教は軽く済んだというミネ。それでいて、この一件によって彼方は、当時の暴君っぷりを発揮したミネの雄姿に一目惚れ。以来、クラスメートという機会に恵まれた少女は、まるでジンベエザメにくっ付いてくる小魚が如くミネと行動を共にするようになったのだという。
恋情を抱く際には、相手の性別を問わない自身の性質。それを自覚する少女は、今も無感情にクレープを口いっぱい頬張りながら、さり気無い様子でミネへとすり寄っていく。これに気が付いたミネはちょっとやり辛そうな表情で視線を逸らしつつも、彼方を拒否することなくその場に留まりながら喋り出していった。
「まぁ、友仁さんに好意を寄せられること自体は、別に悪い気はしないんだけどさ……。なんか、何て言うの……? ホントにアタシで大丈夫? って思っちゃって、友仁さんのことがすっごい不安になってくる、って言うのかな……」
呟くように口にしたミネの言葉。それに対して彼方は、物静かながらも平然とした調子で「つまり両想い?」と尋ね掛けたものだったから、ミネは汗を流しながらも彼方とそのような会話を繰り広げていく。
「いやいや、いくら何でもそうはならないでしょ……」
「蓼丸さんは私が嫌い?」
「別に、嫌いって言ってるワケでもないんだけどさ……」
「蓼丸さんには他に好きな人がいる?」
「好きな人……?? いや、別にいないけど……」
「柏島さんのことが好き?」
「は??? なんでそこでカッシーが出てくるの。意味わかんないんですけど」
突如と出てきたこちらの名前に、ミネはものすごく不機嫌そうな顔をしながら語気を強めてそれを口にした。
共にしてミネは、こちらを見遣るなり不愉快そうに眉をひそめてくる。そんな少女の反応に自分も困惑気味な視線を向けていくと、直にもミネは不安そうな顔をしながら「あ、いや。そ、そういう意味じゃなくて。ご、ごめん……」と申し訳無さそうに謝ってきたものだったから、自分はついつい焦りつつも「気にしないで」と返答したりしていった。
で、このやり取りを眺めていた彼方もまた、まるで刃物を突き立てるかのような鋭い視線をこちらに投げ掛けてくる。その気配に気が付いた自分が向かい合っていくと、次にも彼方はそれを喋り出してきたのだ。
「カッシー」
「え? あ、俺?」
「ニックネーム。親密の証」
「まぁ、そうとも言えるかも……?」
「ずるい」
「え」
グリンッと首を曲げてミネを見遣った彼方。心なしかボキッと骨が折れる音も聞こえてきたそれにミネはギョッと驚いていくのだが、彼方は意に介することもなく無感情に言葉を続けてくる。
「ニックネーム。私にも欲しい」
「え、えぇぇぇ……??? そんな急に言われても……」
「トモニン。どうかしら。似合う?」
「う、うーん……? でもアタシ、友仁さんは友仁さんって呼びたいかも……?」
「この苗字が私に似合ってる? 嬉しいわ。ありがとう」
「え? う、うん……」
「私と付き合ってください」
「いやいやいや!! だからってどうしてそうなるのッ!!!」
なんだろう。少女らのやり取りをずっと眺めていられる気がする。
彼方に振り回される形で、声にならない声を上げながらツッコんでいくミネ。そんな、とても個性的なクラスメートに恵まれたミネの様子を遠目で眺めていた最中にも、ノアはノアでいつの間にか席を立っており、追加のクレープをオーダーして取ってきたその様子で、少女は清々しくこちらへと言葉を投げ掛けてきた。
「柏島歓喜。カノジョはとてもユニークな人物だね! ボクは友仁彼方という儚き宵闇の化身をますます気に入り始めてきたよ!」
「まぁ、ノアは喜んでくれたようで何より……なのかな?」
「そこで、柏島歓喜。この後の話についてなんだが、カノジョを連れてゲームセンターに立ち寄ってみないかな? カノジョとの親睦を深めるには打って付けの場所だろう? ここに居合わせたついでだ。キミもボクらと一緒に、友仁彼方との友情を育もうじゃないか」
「そう言ってくれるのなら、そうしようかな……? でもこれ、俺も一緒に居て良いもんなのかな……。うーん、どうなんだろうか……」
とか考えている間にも、その場のノリに流されるまま、自分は気が付いたら少女らを連れてゲームセンターに来てしまっていた。
絵面からして、やはりアウトとも言えるこの構図。そうして、三名の女子高校生に囲まれる一人の男性という状況のまま来店した自分は、今も愉快な騒音を奏でる店内において、様々な場面に出くわすこととなる。
ミネを中心に行動を行っていた自分達。その間も彼方は突き刺すような視線をこちらに向け続けていたことで、見張ってくるようなそれに自分は気まずい気持ちを抱いてしまう。
やっぱり、自分達女子高校生の中に男が混じってくるのは、あまり快く思わなかったか……。判断をミスった自分がそのような後悔に苛まれていた最中にも、目の前ではクレーンゲームにコインを入れ始めていくミネの姿が映し出されていた。
少女の目的は、まん丸で小太りな白いウサギのぬいぐるみ。抱き抱えられる程度には大きいサイズのそれにミネは心惹かれたように吸い寄せられていくと、少女は前屈みになるほどの真剣なサマで、乗り出すような姿勢でそのゲームに臨んでいたものだ。
何としてでも、あのぬいぐるみが欲しい。ミネの、狩る者としての鋭い眼光が光るその中で、そんな少女の真後ろに立った彼方は暫しその背を見下ろすなり、直後にも彼方は無感情なサマで、その場でおもむろにしゃがみ始めていったのだ。
自身のスカートを浮かび上がらせるほどの勢いで、バッとしゃがんでミネのスカートの中を覗いた彼方。これにミネは不意を突かれるように驚くと、次にも左手でスカートを押さえながらも、彼方とそのようなやり取りを交わし始めた。
「え??? ちょ、っと。友仁さん?!」
「白とオレンジの縞々」
「は?? ちょ待って。てか説明すなッ!!!」
「意外な趣味。可愛らしい。好き」
「は、はぁぁ!!? か、可愛いとか別にそんなんじゃないしっ!!」
「蓼丸さんの下着を見た。……つまり、結婚?」
「だから、飛躍しすぎなんだってば!!! てか覗くなぁッ!!!」
今も動き続ける、クレーンゲームのアームの音。それはぬいぐるみに到達する前に下へ伸び始め、空を掴んで虚しく上がっていく。
前後で起こる別々の現象に、ミネはてんやわんやとした様子でそれぞれの物事にあたっていた。そんな慌ただしい少女の光景に自分が呆気にとられている間にも、場面は太鼓のゲームをプレイするノアの様子へと移っていく。
まるでプロが如く、目にも留まらぬ速度でバチをドコドコと太鼓に打ち付けていたノア。ゲームの画面も、赤と青の二色が重なり合った訳も分からない譜面が超高速で流れていく中で、それに食らいつくノアの技術に自分があんぐりと口を開いていく。
え、めっちゃ上手いやん……。
内心で感嘆する、自分の言葉。そして画面はリザルトへと移行し、ふぅっと一息ついたノアがバチを下ろしていくと、自分と同じくゲームプレイを眺めていたミネが、ちょっと引き気味にノアへとその言葉を掛けていった。
「銀嶺さん。アンタ、ゲームとかやるタイプだったの? なんか色々と凄すぎて、見ててワケ分かんなかったんだけど……」
「アッハハハ! どうだ、すごいだろう!? ゲームセンターには日頃から通っていたものだったから、ボクにかかれば一通りのアーケードゲームなんてお茶の子さいさいだよ! ……というのもね、お嬢のお
「不本意って言ってるけど、がっつりハマってんじゃんそれ。でも、ふーん……なんか意外。こういう特技があるのって、なんか、ちょっとだけカッコイイかも」
「ハハッ、そうだろう! これでボクも、蓼丸菜子のハートを鷲掴みにしてしまったかな!?」
自身の胸に手を当てて、仰々しい物言いで華麗に振る舞ってみせるノア。これにミネが「いや、別に……」と本気の否定を口にしていくのだが、ノアの視線は次にも、ミネの隣にいた彼方へと向けられて……。
……チラッ。挑戦的なその視線を受けて、彼方は無感情なサマで歩き出していく。そして少女は無言でバチを握っていくと、筐体にコインを入れながらミネへと振り返り、物静かにそれを喋り出していったのだ。
「蓼丸さん」
「ん、なに? てか、友仁さんもこういうのするの?」
「私に惚れて」
「は???」
「カッコ良いところ。見せるから」
「あぁ、うん……。うん……?」
突然の言葉に、ミネは首を傾げながらも頷いていく。これを横目に彼方は太鼓のゲームと向かい合っていくと、次にも少女は全意識を集中させた真剣な眼差しを向けていき……?
……悉くと映し出されたMISSの文字。手の動きだけは高速だったそれは、圧倒的低評価を叩き出して即座にゲームが終了する。
異なる意味で呆気にとられた自分。これに彼方は無感情なサマでバチを戻していくと、直後にも少女はミネへと振り返るなり、渾身のガッツポーズを決めながらそれを喋り出していったのだ。
「私、頑張った。蓼丸さん、私カッコ良かった?」
「え??? う、うん……? まぁ、カッコ良かったんじゃない……? 多分……」
「そっか。……ふふっ、良かった」
ゲームセンターを満喫した自分らは、店を後にしてから暫し龍明の表通りを散歩した。
陽が落ち始めた夕方の時刻。段々と日が延びてきた季節の外界を四人で歩き進めるその中で、自分は何やら思い詰めるように俯いていた彼方の様子が気になってしまう。
少女の様子に、自分は「友仁さん、どうしたの? 体調でも悪い?」と尋ね掛けていく。すると彼方は、顔を上げながらも無感情なサマでこう答えてきたのだ。
「柏島さん」
「なに?」
「貴方にお訊ねしたいことがあります」
「あぁ、いいよ。どうしたの?」
「貴方は蓼丸さんのことが好きですか?」
「え?」
彼方の問い掛けに、真っ先に反応したのはミネだった。
どこか焦った様子で、「ちょっと友仁さん、なに訊いてんの……?!」と言葉を口にする。だが、彼方はミネの言葉を無視するようにこちらをまじまじと見つめてきたものだったから、自分は困りつつもそのように返答していった。
「その好きが、恋愛的なものなのかどうか、にもよるよね。俺はまぁ、菜子ちゃんのことは親戚として好きだよ。恋をしているか……というと、うーん、自分でも分かんないな……」
「貴方は恋敵ではない?」
「多分、違うと思うけど……」
「蓼丸さんと親しくなされた経験はありますか?」
「え」
親しくなされた経験……? それを聞いた時にも自分は、ミネとの“行為”を脳裏によぎらせてしまった。
少女の“初めて”を担い、責任を持って相手を務めた最近の記憶。他のホステスと比べて随分と小さかった“入口”がまた生々しく、思い出すだけで興奮が巡ってくるそれに自分はついつい視線を逸らしてしまう。
こちらの反応で、察しがついたのだろうか。ミネでさえ、眉をひそませながら小声で「ちょっと、カッシー」と言葉を投げ掛けてくる中で、彼方は無感情でありながらも強めた眼差しを向けてくるなり、物静かな調子でそれを口にしてきた。
「柏島さん。貴方は私の敵です」
「その、敵というわけでは……」
「私も男性との経験がございます」
「え?」
「皆さんは身体目的の接触でした。そして用済みとなった私は捨てられました。私はとても傷付きました」
「それは……」
「しかし、蓼丸さんは身を挺して私を守ってくださいました」
「う、うん……」
「蓼丸さんはこれまでのパートナーとは違います。私は蓼丸さんに惚れました」
「確かに、菜子ちゃんは勇敢な女の子だと思うよ……?」
「蓼丸さんをお譲りください」
「え?」
「私が蓼丸さんを幸せにしてみせます」
足を止め、直後にも直角のお辞儀を繰り出してきた彼方。少女の言動に、自分とミネは唖然とした視線を投げ掛けてしまう。
三人の様子を脇で眺める、平然としたノアの佇まい。まるで見守るかのようなノアの視線を受けた彼方は頭を上げてくると、直後にも少女はミネの腕を掴むなり、真横にあった路地裏へと通ずる脇道に足を踏み入れ、そこから真っ直ぐと、全力疾走で駆け出していったのだ。
突然どうした??
あまりにも突拍子の無い行動に、自分は思考停止した視線で二人の背を眺めてしまう。その間にもミネは、「ちょ、ちょっと……っ?!」と声を上げながら彼方に引っ張られていったことから、自分もまた少女らを追い掛けるために、即座に走り出していく。
自分の後を、ウサギのようにぴょこぴょことした足取りでついてきたノア。どこかウキウキとしたサマが、まるで他人事であることをうかがわせてきたものだったが、そんなノアの様子に意識を向ける余裕も無かった自分は、路地裏を駆け抜ける彼方をとにかく追い掛けて、しばらくもの時間を走り続けた。
そうして、ひと気の無い見知らぬ路地裏に連れてこられた一同。建物と建物に挟まれ、人が二人並んで歩くこともできないその閉鎖的な空間で彼方は立ち止まる。
これに、連れてこられたミネはキレ気味に「ちょっと何なの……!?」と問い掛けていった。すると次にも彼方は、追い付いてきたこちらの姿を捉えつつも、ミネに対して無感情な調子でそれを口にしてきたのだ。
「柏島さんと私。どちらかを選んでほしいの」
「は、はぁ……!? 選ぶって、なに。どういうこと……? なんか、意味分かんないんだけど……っ」
「どちらの方が蓼丸さんを幸せにすることができるか。蓼丸さんには幸せを選ぶ権利があるわ」
「どっちの方が幸せにできるか……?? そんなの、アタシが知ったこっちゃなっ……」
ちゅ。
刹那の接近により、彼方によって唇を奪われたミネ。あまりにも唐突な行為にミネは困惑混じりの驚きを見せてくる中で、彼方は手慣れた動作でミネの両手首を掴んでいき、そのまま勢いに任せてミネを壁に押し当てていく。
身長差による、覆い被さるようなディープな口付け。百合の花が咲き誇る光景に自分は置いてけぼりを食らうような視線を投げ掛けていると、しばらくと彼方に頂かれたミネは抵抗を見せながらも、次第と恍惚とした表情を浮かべながら、上の空といった具合の眼差しで彼方を見つめ始めていく。
……若々しい唇が重なり合い、唾液の音を二人で鳴らし合った本格的なそれ。経験者なだけはあるテクニックで意中の相手を骨抜きにした彼方は直にも、ゆっくりと唇を離しては見下ろすようにしてミネを眺め遣っていく。これにミネは脱力したように天を仰いでいき、壁に項垂れるように後頭部をつけていきながら、次にもうんざりしたような調子で喋り出してきた。
「っ……ホント、意味分かんない……っ。なんで、アタシがこんな……」
「蓼丸さん。私は貴女が好きです。幸せにしてみせます」
「は、はぁぁ……っ??? だから、それが意味分かんないって言って……」
ミネが喋る途中にも、機敏な動作でミネから離れ出した彼方。瞳に宿る濃厚なピンク色の、その残像を空間に残しながら行われたそれと共にして、少女はこちらへと視線を投げ掛けながら、無感情な様相で喋り出してくる。
「柏島さん。次は貴方の番です」
「え? 俺?」
「蓼丸さんには判断してもらいます。私と貴方、どちらが自分を幸せにしてもらえるかどうかを」
「え、ええぇ……?」
一体、何が起こっているというんだ……?
状況がイマイチ呑み込めずにいた自分。しかし、こちらの背後から顔を覗かせてきたノアが、なんだか面白げに微笑しながらその説明を行ってきたのだ。
「柏島歓喜。どうやらカノジョは本気みたいだね。これが何を意味するか、分かるかい? ずばり……友仁彼方は意中の存在を賭けて、キミに勝負を申し込んできたのさ! ……さぁ、キミがこれまでに培ってきた経験の見せ所だよ! 柏島歓喜、その男気を存分とボクらに見せてくれたまえ!!」
「いやいや、なんでそんなにノリノリなの……」
呆れるようにツッコんだこちらの言葉に、ノアはキリッとした眼差しで応えてくる。そんな少女の反応に自分は困惑混じりに視線を戻していくと、今も投げ掛けられていた彼方からの眼差しを受けながらも、自分はミネの下へと歩み寄り、壁ドンとも言えるシチュで少女に覆い被さりながらその言葉を口にしていった。
「何が何だかよく分からないけれど、なんか、こうしないといけない雰囲気みたいだから……。菜子ちゃん、俺のことも受け入れてくれるよね?」
「は、はぁ……っ? ちょっと、カッシーまで何言って……っ」
ちゅ。
言葉を遮り、半ば強引に口付けを行っていく。これにミネは喉から鳴らすような甲高い音を出しながらも、抵抗は一切と見せない様子でこちらとのキスに臨んでくれたものだった。
少女の顎に手を添えて、それを持ち上げるようにしながら重ね合わせた互いの唇。ミネのそれは弾力こそ無いものの、その控えめな肉付きがかえってそそることから、自分は次第と昂ってきた興奮のままにミネの唇を堪能し、段々とギアを上げるようにその熱意を剥き出しにし始めていく。
最初は軽めだった、双方の唇で跳ね合うような口付け。しかし、こちらからのアプローチで咥え込むような大胆なそれを行い出していくと、直にもミネの口を塞ぐようながっつくキスへと変貌し、唾液の音に留まらない、口と口の隙間から奏でられる卑しい音が路地裏に響き渡り始めた。
……恍惚とした表情のミネ。自身の両手を胸の前にやり、乙女のような格好でこちらの唇を受け入れてくる。直にも少女の脚には透明な液体が伝い出していき、その光景を眺めていた彼方は無感情ながらも、ただただ物静かに、じっと、佇んでいたものだ。
……数分に渡るキスを終えて、名残惜しむように離したこちらの唇。行為の終わりにミネは続きを求めるような眼差しを向けてくる中で、自分は少女の脚に伝っていた液体を指で掬い、粘り気のあるそれを本人にまじまじと見せつけながらこの言葉を口にしていく。
「菜子ちゃん、俺に応えてくれてありがとう。こうして自分の気持ちを形にして、俺にしっかりと示してくれたことが本当に嬉しく思えるんだ」
「っっ…………。ホント、バッカじゃないの……ッ!?」
カァーッと顔を真っ赤にして、必死な様相で視線を逸らしていったミネ。少女の反応に自分が微笑んでいくその脇では、こちらへと歩み寄る彼方の靴音が響いてくる。
そして、彼方はこちらを優しく押し退けた。
向けられた、真っ直ぐな眼差し。次にも彼方からはこの言葉を掛けられる。
「私にもできます」
「できる、って……?」
「蓼丸さんを魅了できるのは貴方だけではありません。今からそれを証明してみせます」
無感情でありながらも、どこか焦りを思わせる機敏な動作でミネへと覆い被さった彼方。このアプローチにミネは「は……っ?? え、ちょ」と声を上げるのだが、その言葉を遮るように彼方は再度、その口付けをミネに行っていったのだ。
両手でミネの頭部を押さえつけ、こちらへと引き寄せるようにした真正面からのキス。どこか必死なアプローチで肉食が如くがっつく彼方のそれに、ミネは溺れるような声を出しながら、上辺の抵抗を見せていく。
それからというもの、自分と彼方で交互にキスを繰り返すという謎の勝負が始まってしまった。
対象とされたミネは、ふやけたような表情でこちら側の静止を求めてくる。だが、その度に壁ドンされてはキスされたミネは、もはや抵抗することもなく諦観気味に双方を受け入れてきたものだ。
しばらくと続いた、ミネに対する熱烈なアプローチの数々。ミネの足元がぐしょぐしょになってもなお止まることがなかったこの行為ではあるが、それに加えて、面白半分に参加を表明したノアの参戦もあったことから、この日にもミネは、三名の男女から代わりばんこのキスを迫られるというプレイに見舞われた。
バイであることをカミングアウトし、ミネに恋情を寄せた女子高校生、友仁彼方。彼女との交流は今だけに留まらず、こちらを恋敵認定してきた彼方とは今後とも、何かしらの付き合いで自分と関わり続けることとなるだろう。