俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
朝日が射し込むアパートの自室。今も隣で可動するドライヤーの音を横目にして、歯磨きを終えた自分は歯ブラシを片手に髪を乾かすラミアへと言葉を投げ掛ける。
「俺はもうじき準備が終わるけれど、焦らなくても大丈夫だからね。ラミアが準備できるまで、適当に時間を潰してるからさ」
掛けたこちらの言葉に対し、白色のタンクトップに赤と青のボーダーの長パンツという格好のラミアが、ドライヤーの音にも負けない声で「お気遣いどーもでーす」と適当な調子で答えてきたものだった。
ラミアとの同伴もとい、ラミアを借受した疑似的デートの当日。水族館に行こうという話が出てからあっという間に迎えたその朝であったものだが、ラミアが寝坊したことによってその出発が若干と遅れてしまっていた。
とはいえ、彼女には未だ疲労が残っているのも事実。昨夜も死んだような顔をしながら夜遅くに此処へ訪ねてくると、そのまま部屋に上がり込んでは死んだように眠りについていたものだ。人のベッドを占領することによって。
部屋の隅に畳まれた布団の塊。昨日はそこで就寝した自分がその塊に腰を掛けていくと、準備を終えた安心感でふぅっと一息をついていきながらも、ふとベッドに視線を投げ掛けてはその領域を占領する“別の存在”へと話し掛けたものだった。
「メー、今日はずっとここにいるつもりなのか?」
「そのつもりだったけど、ダメ?」
「いや、別に構わないけど……」
人のベッドに横たわり、カタツムリのように布団を纏ってはスマートフォンで音ゲーをしていくメーの姿。ラミアについてきた彼女も当然の如くこの部屋で一泊していくと、今日はオフということでメーは着替えもせずに人の部屋に滞在していたものだった。
休日であることも相まって、彼女はいつものリボンのような髪型を解いた状態でベッドに寝転がっている。そうして解かれたメーの髪は無造作なストレートとして投げ出されていて、腰まで届く長さのそれを揺らしながらこちらを見遣ってきたものだ。
「私のことは気にしなくてもいいから、今日はラミアとたくさん楽しんできな~?」
「いや、ここ俺の部屋だから訊いたんだけど……」
「どうせ朝帰りでしょ? ラミアと愛を育むんだもんね?」
「朝から何を言ってるんだ……」
変な汗を流しながら返答する自分。そんなこちらの反応をメーは見るなり、彼女はイタズラに吊り上げた口角でニヤニヤしながらそのセリフを口にしてくる。
「あぁそうそう。土産話、楽しみにしてるからね。今日のデートで、ラミアをどんだけ満足させてあげられたのか、とかさ!」
「なんか、二重の意味で聞こえてくるんだよなぁ……」
「あは、カンキ君いけないんだー。ヘンタイじゃん」
「メーに言われると心外だなー……」
返す気力も無い。自分はそんな具合に答えながら途方を見遣っている間も、メーはまるで勝ち誇ったかのような表情を見せてきたものだった。
と、メーとそんなやり取りを交わしている最中にも、着実と準備を進めていたラミアが顔を覗かせてくる。そして廊下からチラッとこちらを確認してくると、次にも「お待たせしましたー」と言いながらラミアはその姿を現してきたものだった。
ふわふわなカールがかけられたヴァイオレットカラーの長髪。アクセントとしてキラキラと光るヘアピンが存在感を醸し出すその中で、メイクやネイルをバッチリと決め込んだあどけない風貌の彼女が真っ直ぐとこちらに歩み寄ってくる。
着用する黒色のパーカーからは白色のフードが顔を出していて、黒色と白色のチェック柄ミニスカートに、黒色のルーズソックスというコーディネートという以前にも見かけた勝負服。それを改めて正面から捉えていくと、自分は静かにゆっくり立ち上がりながら、ラミアの姿に見惚れるようにしながらその言葉を投げ掛けたものだった。
「その格好、準備が大変だって言ってなかったっけ……?」
「そーですけど、それがナニか??」
「いや、俺のためにそこまでしてくれたってことが、なんかすごく嬉しく思えて。でも、相手が俺ならば、いつもの服装でも良かったんじゃないかなとも思えてきてさ……」
「なんですか?? ヒトが苦労して整えた支度にケチをつけるんですか??」
「いやいやいや!! そうじゃなくて!」
本気で嬉しく思っていたからこそ、ラミアの返答に本気で焦った自分が慌てふためいていく。この様子にラミアはフフッと微笑んでいくと、次にも彼女は適当な調子ながらもそんなセリフを口にし始めた。
「ジョーダンですよ。カンキさん、以前にもお見せしたコチラの格好に見惚れておりましたからねー。なので、今日はちょっとだけ頑張っちゃいました。テーマ自体は地雷風病み系女子コーデというモノでありまして、ウチとしましてもあまり気が進まない格好ではあるんですけれど……どうしてでしょうねー、カンキさんがこの格好を喜んでくださると考えたら、なんか自然と抵抗感が無くなっちゃいました」
「え……?」
男を落とす熟練のテクニック。それを思いながら自分はラミアの顔を眺めていくのだが、そこでうかがえた彼女の表情からは打算的なものをまるで感じ取れない。
本気で首を傾げて不思議がっているその様子。これに自分は意外だと思いながら困惑していくと、そんなこちらの手をラミアは取ってきながらも、玄関へ歩き出しながらそのセリフを投げ掛けてきたものだった。
「まー、そんなコトはどうでもイイんです。それよりも、デートですよデート。ホラ、行きましょー。カンキさん」
「そ、そうだね……! 行こっか、水族館」
敢えて確認はしなかったものの、心なしかベッドの方角からものすごく熱い視線を向けられている気がした。
共にして脳裏には、小悪魔が見せてくるイタズラな笑みが思い浮かんでくる。
これ、帰ってきたら絶対ネタにされる。そう思いながらラミアと玄関に向かっていき、そして扉を開けて部屋を後にする自分。その最中にも「二人とも楽しんできな~?」という小悪魔の言葉が投げ掛けられてくると、そうして閉ざした扉を背にして自分は、ラミアと共に水族館を目指したものだった。
この日、東京は晴天の祝日を迎えていた。
清涼感あふれる白色のタイルが、香る磯を一層と引き立てる。共にして隣接する海辺から流れてくる潮風が撫で掛けてくるこの空間を、自分らは水族館へと続く歩行者用の橋を渡る形で堪能していくのだ。
見下ろせば、そこには穏やかな海が視界に広がっている。加えてカモメの鳴き声や船の汽笛なども聞こえてくるこの環境は、大勢の人混みというシチュエーションも踏まえてデートと呼ぶに相応しい条件が揃っていたものだった。
挙句には、ラミアはノリノリでこちらの腕に引っ付きながら歩いている。傍から見ればちょっとイタいくらいのカップルに見える彼女のくっ付き具合は、もはやこちらがちょっと恥ずかしいレベルだった。
尤も、本人であるラミアは気にしていなかったものだ。彼女にとっては、これも”商売の内”なのだろう。そうして自分だけが気にする中でラミアは、ふと歩く先を指差しながらこちらに言葉を投げ掛けてくる。
「カンキさん!! アレを見てください!!」
「水族館が見えてきたね。パンフレットに書いてあったように、確かにピラミッドのような形が特徴的だな……」
「違います!! もっと手前を見てください!!」
「え? 手前にあるソフトクリームの屋台のこと?」
「海の塩味って書いてありますよー!! しかも、ソフトクリームです!! ねーねーカンキさん、今すぐ食べましょうよー!!」
「花より団子だなぁ……」
頬を膨らませて、猛烈に食べたいアピールをかましてきたラミア。これによって自分はぐいぐい引っ張られていくと、自分もまた観念したように進路を屋台へと変えていっては、そこで二人分のソフトクリームを購入したものだった。
買ったソフトクリームを手に持って、それを二人で口に含みながら水族館を目指していく。その道中では、海の塩味という奇抜な売り文句も伊達ではない塩気を堪能したことで、ラミアと共に複雑な表情を見せながらも穏やかな会話を交わしていたものだ。
祝日という誰にとっても特別な日。これによって賑わいを見せる混雑の水族館に入館していくと、自分は引っ付いたままのラミアを丁重に扱うようにしながら彼女を連れ歩き、彼女もまたこちらへと意識的に身体をくっ付けてきながら、マイナスイオンに満ち溢れたアクアリウムの空間の中を二人で歩き進めていたものだった。
深海エリアや海中トンネル、爬虫類などを観察できる室外エリアといった様々なフロアを回っていく自分達。その間も目についた生物についてラミアとたわいない会話を交わしていき、時には意図的にこちらへ顔を近付けては甘えた声で話し掛けてくるラミアのアプローチに内心ドキドキとしていくこのひと時。
今もこちらの腕に引っ付きながら、魚を指差しては「もっと近くで見たいです」と声を掛けてくるラミアのそれ。これを受けて自分が動き出していくと、ラミアもまたこちらに寄り掛かりながら、常に密着した状態でピッタリとついてくる。
もはや、魚どころではない状況だった。これは、終始と収まらない心臓の鼓動を抱え込んだ至福の時間であり、いつまで身が持つだろうかという奥に控えた鼻血との戦いにばかり神経が向いてしまうというもの。
そんなこちらの状況も、ラミアにはまるで関係無し。むしろ、意識しているこちらに気が付いていたのかもしれない。そうしてラミアはこちらの腕に沿うよう身体の前面を押し付けてくると、温もりと共にこちらの肩らへんに顎をくっ付けてきながら、ぎゅーっと腕を抱きしめつつ顔を見上げながらそのセリフを口にしてくる。
「ラミア、ちょっと疲れちゃいました。カンキさん、どこかで一緒に休憩しませんか……??」
自分の武器を熟知している。
あどけなさを押し出した猛烈な甘え攻撃。これに自分は顔を赤くしながら「じゃ、じゃあ空いてる席を見つけたらそこに座ろうか……」と、視線を逸らしながら答えていく。
するとラミアは、腕に抱き付いたままこちらの視線を追うように移動し始めて、しかしこちらの視界に身体が届かないとなると、それでも頑張って視界に入り込もうとピョンピョン跳ねながら彼女はそんなことを喋り出してきたのだ。
「ウチ、お腹が空いちゃいました。イルカショーまでまだ時間がありますし、カンキさんがよろしければ昼食にしませんか?? もちろん、カンキさんの奢りです」
「すぅー……、奢らざるを得ない……」
一体何の衝動か、思わず深く息を吸ってしまった。
頑張る姿を含めて、なんてあざといんだ……。呻くように内心でそれを呟いた時には既に、自分はラミアにハンバーガーを三個も奢ってしまっていたものだった。
今も魚が優雅に泳ぐ、アクアリウムに囲まれた球体状の神秘的なフードコート。小さな魚からサメまでのあらゆる種類が共存する外の景色も相まって、まるでガラス張りの海底基地の中で食事を行っているかのような感覚を覚えていく。
非日常的で、とても幻想的な空間だ。そう思って自分は見惚れるように周囲を見渡していくものであったのだが、テーブルを挟んだ向かいの席に座るラミアが視界に入ると、その度についつい彼女の食事に気を取られて眺め遣ってしまう。
既に三つ目。そんな、両手に持つハンバーガーを軽く平らげてしまうほどのいっぱい食べる女の子というその構図。そうして自分は彼女のことをボーッと眺めていると、ふと視線を上げてきたラミアと目が合っては、おもちゃを見つけたような目でニヤニヤされてしまったものだった。
「どーしましたかー?? カンキさん、もしかしてですけど、ラミアちゃんに見惚れちゃっていたんですかー??」
「そういうことになるかな。とても可愛いなって思って」
変にはぐらかさず、素直に答えてみる。するとラミアは意外そうに一瞬だけキョトンとするのだが、直後にも作戦変更と言わんばかりに上目遣いを繰り出してきながら、ラミアは猫なで声でそう喋り出してきたのだ。
「やっぱりそーでしたか。ウチですねー、カンキさんにたくさん見られちゃってもイイように、おめかし頑張ったんですよ?? ですから、カンキさん。ウチのコトを思う存分、好きなだけ眺めちゃってイイんですからね?? だって今のウチは、カンキさんのモノなんですから」
破壊力が高すぎる。
シフトチェンジしたラミアのアピールに、自分は思わず照れ混じりの困惑を見せていく。そうして屈するように視線を逸らしていくと、こちらの様子に彼女は両手で頬杖をつきながら、してやったりなイタズラの笑みでジロジロと眺めてきたものだ。
「ハイ、今回もウチの勝ちですねー。まったく、カンキさんはホント、オンナのコに弱いですねー。チョロすぎます」
「ラミアが男の扱いを知り尽くしているだけだよ……」
謎の敗北感で頭を抱える自分。ラミアはその様子を余裕な表情でまじまじと見つめてくるのだが、ふと思い出すように身に付けている黒白の腕時計を確認していくと、時間を見るなり彼女は慌てて顔を上げながら、立ち上がりつつこちらに言葉を投げ掛けてきたものだった。
「あー!! カンキさん!! イルカショー!!」
「俺はイルカショーじゃないよ」
「ナニ言ってるんですか!! 時間です!! もうすぐ始まっちゃいます!!」
そう言えば、もうそんな時間か。
なんていう呑気なことを内心で呟いていく自分。その間にもラミアはハンバーガーの包み紙を近くのゴミ箱に捨てて戻ってくると、次にも彼女は急にこちらの腕を引っ張り始めては半ば強引に立ち上がらせてきたものだ。
そんな力任せのアプローチに、若干と戸惑いを見せながら従っていく自分。そうしてこちらが立ち上がるのをラミアは確認していくと、次にも彼女は健気な調子で「さーさー、行きましょう!!」と言葉を口にしながら、こちらを先導するように駆け出していったのであった。
円状のホールは吹き抜けとなっており、イルカやシャチが泳ぐ巨大な水槽が中央に設置されている。
イルカショーの会場に自分らは到着すると、会場に着くなりラミアは最前列の席を確保して待機し始めたのだ。
これに自分は、「下手すれば水が降りかかるかもしれないよ?」とラミアに投げ掛ける。だが、それに対して彼女は「それがどーしましたか?? むしろ、イルカショーの醍醐味じゃないですかー」と、バッチリ決め込んだメイクの姿でそんなことを言ってきたものだった。
同時にして、やけにイルカショーにこだわるラミアの様子に自分は、「そんなにイルカショーが楽しみだったの?」と訊ね掛けてみる。すると彼女は、そんな返答を行ってきたのだ。
「イルカショーと言いますか、ウチ、イルカという動物が大好きなんですよ」
「へぇ、ラミアはイルカが大好きなんだ」
「そーです。だって、カワイイじゃないですかー。形とか鳴き声とか、あと健気なトコロも大好きです」
「今回のショーはシャチもいるみたいだけど、シャチはどうなの?」
「シャチはダメです。ニガテですね。だって、コワいじゃないですかー。姿かたちこそはイルカと似通っておりますけれど、シャチは非常に獰猛なトコロがどーしても受け付けられないです」
「海洋系の生物じゃ最強の動物だもんね。俺もカッコいいなって思うけど、近付きたいかと言うとちょっと敬遠しちゃうところはあるかも。そう考えると、イルカって馴染み深いものを感じるよね」
ラミアはイルカが好きだった。そうして彼女がイルカショーにこだわっていた理由を知ったところで、間もなくとショーが開始されるのであろう音楽が流れ始めたものだった。
そこで行われたイルカとシャチによる雄大なショーは、会場の席が満席になるほどの大盛り上がりを見せていった。もちろん、それを最前列で見ていた自分らも、ショーの迫力に声を上げながら楽しんでいたものだ。
だが、目の前で豪快に跳ね上がったイルカが、目の前で着水しようとするその光景を目にするなり、自分は「もしや……?」と思いながら若干と身構えていく。
そして、巡った予感が現実となった。
イルカが目の前で着水していくと、同時にして大量の水飛沫が跳ね上がってきた。その勢いや量は想定よりもずっと深刻なものであり、これを見た瞬間にも自分は、せっかくのラミアのおめかしが落ちてしまうんじゃないかとひとり不安の念に駆られていく。
そして、彼女に水を浴びせるわけにはいかないと考えたその時のこと。
最前列に降り掛かってきた大量の飛沫を前にして、自分は咄嗟にラミアへ覆い被さるようにして彼女の目の前に立ってしまう。
ラミアの席の背もたれに手を掛けて、彼女の視界に割り込んでいった自分。その直後にも降り注いだ大量の水が、周辺の客席を容赦なく水浸しにしていった。
……自分の背中や尻らへんが、ぐっしょりと濡れていく。だが、それと共に目にした光景は、身代わりとなった自分の顔を真っ直ぐと見つめるラミアの、とても意外そうに思う驚きの表情というものだった。
彼女の席の背もたれに掛けた両手。覆い被さる姿勢によって近付いた、お互いの顔の距離。
暫しもの間、自分とラミアは間近で見つめ合っていた。そして思考が追い付いてきた頃に自分は「あ、ごめん……」と立ち上がっていくと、次にもラミアはこちらの手を取りながら、いつもの適当な調子でそのセリフを口にしてきたものだった。
「あーあ、みっともない格好になっちゃいましたねーカンキさん。そのままじゃ一緒に居るウチが恥ずかしいです。ちょっとコッチ来てください」
と、ラミアは立ち上がるなりこちらの手を引いて歩き出していく。そんな彼女に引き連れられる形で大盛況のショーを離れていくと、人混みの無い展望台に連れてこられるなりベンチに座らされ、ラミアは提げていた黒色のカバンからハンカチを取り出しては、びしょ濡れとなったこちらの背中を拭き始めてきたのだ。
小さな布で、頑張って水気を取り払ってくれる彼女の気遣い。これに自分は申し訳なく思いながらもじっとしていくと、ラミアは適当な調子でそれを訊ね掛けてきたものだった。
「ウチのコト、守ってくれたんですよね??」
「え? まぁ……お化粧とかしているし……」
「ありがとうございます。まーウチとしましては、せっかくのイルカショーでしたので、存分に水を浴びるつもりでもありましたけれど」
「余計なことをしてごめん……」
出しゃばりすぎたなぁ。そんなことを思いながら自分は謝っていくと、次にもラミアは目の前で屈んできては、こちらの顔を覗き込むようにしてそれを口にし始める。
「見直しましたよ??」
「見直した……?」
「そーです。おかげさまでですね、ショーよりももっとイイものを見ることができました」
「ショーよりも? それって何の事かな……?」
「なんでもありませーん」
適当な調子で、ニヤニヤとしながら答えてくるラミア。そんな彼女の様子に自分は微笑を見せていくと、次にも彼女は囁くようにその言葉を投げ掛けてきたものだった。
「服が乾きましたら、水族館の周りを歩きに行きませんか??」
「水族館の周りを? でもそれって、契約を破ることにならないかな」
「だいじょーぶですよ。そこは、ホステスの匙加減に委ねられておりますから。ホラ、余計なコトを考えていないで、さっさと服を乾かしますよー」
そう言ってラミアは、屈んだ状態で濡れた背中を拭き始めてくる。そのために彼女は敢えてこちらに近付いてきて、息が掛かり合うような至近距離を維持してくるラミアに自分は、終始と頬を赤らめながら視線を逸らしてしまっていたものだった。
ラミアと過ごしたこの一日も、迎えた夜の時刻によって終わりを告げていく。
街灯に照らされた、海沿いの通り道。一定の間隔でベンチが置かれた人通りのあるその道で、真横で波打つ海のさざ波を聞きながらラミアと向かい合う。
後ろで手を組んだラミアの立ち姿。共にして彼女は甘えるような仕草で首を傾げていくと、こちらにそんな言葉を投げ掛けてきたものだった。
「今日はありがとうございました。思っていたよりも楽しむコトができまして、ウチとしましても大満足な同伴でしたよー」
「こちらこそ、付き合ってくれてありがとね。俺も想像していたより何倍も楽しい時間を過ごすことができたものだから、ちょっと同伴に味をしめた部分があるかもしれない」
「それでしたら、またウチを指名してくださっても構いませんよ?? 次はドコに行きます??」
「さ、さすがに気が早いよ!」
取り乱すこちらの反応に、ラミアはイタズラな笑みを見せていく。
と、次にもおもむろにこちらへ歩み寄ってきた彼女。これに自分は不思議に思いながら立ち尽くしていると、ラミアは両腕を広げるなりこちらをぎゅっと抱きしめてきたのだ。
「ラミア……!?」
「本来なら有料のオプションです。今回は大サービスですよ??」
ぎゅーっと抱きしめて、こちらを見上げてくるラミアの視線。且つ、自身の身体を擦り付けるようにして顎や上半身を密着させながら、彼女はそんなことを喋り出してきた。
「これにて、ウチとの同伴は終了です。お疲れ様でした。初めての同伴、いかがでしたか??」
「とても良い夢を見させてもらったなぁ。こんな恋人がいたら、人生楽しいだろうなって思ったよ」
「でしたら、夢の続きでも見せてあげましょーか??」
……え?
目で問い掛けた自分。見下ろすこちらの反応にラミアは微笑を見せてくると、次にも甘く囁くような猫なで声でそれを喋り出してくる。
「ウチとの同伴は終わりましたから、お次はプライベートとして一緒に過ごしてみませんか?? 様は、ノルマやお給料と関係ない、接待抜きの純粋なお付き合いです」
「それって……」
「カンキさん。夜はこれからですよ??」
思わず、心の中で大きな深呼吸を行った。
ギリギリを保つ理性の境界線。抱き付かれる彼女の温もりで、心臓が高らかと打ち鳴らされていく。
彼女の期待を裏切ってはいけない? いや、それらしい理由で自分を正当化させたいだけなんじゃないか?
自分の中の葛藤と戦い始める自分。これに暫しと無我の境地で考えをまとめていくと、今も上目遣いで眺めてくるラミアへとゆっくり向いていきながら、声を震わせながらも紳士を気取るようにそれを口にしていったものだった。
「……もう少し、親しくなったらの方がいいんじゃないかな……? その方が、俺も、ラミアも、あとで後悔しなさそうだし……?」
自分でも分かっている。だが、これを勿体無いと考えてしまったら負けのような気がしてしまう。
精いっぱいの紳士気取りで返答したその言葉。これにラミアは「そーですか」と答えてくると、彼女はゆっくりとこちらから離れながらも手を差し伸べて、微笑を交えた適当な調子でそのセリフを口にしてきたのであった。
「では、今日は真っ直ぐ帰るとしましょーか。ホラ、一緒に帰りますよー。紳士気取りのカンキさん」
自室の玄関扉を開いた瞬間にも、奥からは鍋の匂いが香ってきた。
共にして、玄関に並ぶ二人分のブーツに意識が向いていく。それでいて、直後にも奥からルームウェア姿のメーが顔を覗かせてくると、とても意外そうな表情を見せながらそう声を掛けてきたものだった。
「あれ? 帰ってきた? おかえりー。なんだ、今頃お楽しみ中かなって思ってたのに。どうしたの? ゴム忘れた?」
「素の表情でそれ言うのやめてくれない……?」
変な汗を流すこちらの脇では、靴を脱いだラミアが足早に部屋の奥へと向かっていく。そんな彼女に続くよう自分も部屋に上がっていくと、そこではぐつぐつと煮え滾った鍋のアクを取り除くユノという光景を目の当たりにしたものだった。
白菜や牛肉を始めとする、大量の具材が詰め込まれた眼福料理。これにラミアは喜びを示しながら飛び付いていく中で、その横では私服姿のユノが「おかえりなさい。お邪魔しているわ」とこちらに挨拶を掛けてくる。
そして、メーがこちらの肩に腕を回してきながら、あたかも当然であるかのようにその言葉を投げ掛けてきたものだった。
「カンキ君も良かったらどう? ユノさんがさ、良いお肉を取り寄せてくれたんだよ。せっかくだから今食べておかないと、絶対にあとで後悔する美味しさだよ~?」
「……あぁ、うん。いや、ここ俺の部屋なんだけど……」