※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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Chapter 6
第61話 agitation 《不穏》


 驚くほど何気無い、至っていつも通りの平穏な日常。この日も昼食のために、自分は開店前のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)へと顔を出していた。

 

 もうじき夏を迎える、日差しが眩しい快晴の下。顔パスで入店した自分がエントランスへと踏み入れていくと、すぐにも奥のカウンターでは四名ほどの人物が会話を交わしていた。

 

 内の三人は、タキシード姿のラミアとメー、スーツ姿の荒巻というもの。だが、残る一人に関しては、全く見知らぬ“少年”が三人に混じって会話を行っていたのだ。

 

 百六十一くらいの背丈である、その人物。深々と被った灰色のキャスケットで目元を隠した彼は、スリムな顎の骨格や、キャスケットのツバを右手で摘まむようにしたその佇まいも相まって、どこか他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。

 

 帽子からわずかにはみ出した、乙女色の黄みを含んだ淡い赤の髪。ショートヘアーというよりは、帽子の中でまとめ上げているような髪の毛のはみ出し具合に、ついつい意識が向いてしまう。

 

 服装は、下から開くタイプのストリート風な灰色パーカーを着用しており、それを半分だけ開けることで華奢なくびれやへそを出していた。他、下に着ている黄色のショート丈トップスに、ポケットがたくさん付いた、くすんだ緑色のストリート系ボトムス。後は灰色の運動靴に黒色のチョーカーというファッションで佇むその彼は、直にもこちらに気付いて振り返ってくる。

 

 少年の視線により、他の三人もこちらを見遣ってきた。それでいて、今も歩み寄る自分を迎えるように、荒巻は陽気な表情で、しかし神妙な声音で言葉を投げ掛けてくる。

 

「よぅ、カンキちゃん。今日もお疲れさん。いつもホステスの面倒を見てくれてサンキューなっ」

 

「どうも、こんにちは。今日は一人の客として来ただけですから、面倒だなんて大層なものではありませんよ」

 

「ホント、カンキちゃんは謙虚な姿勢を忘れねぇなぁ。どこぞの強欲なホステス共と違って、カンキちゃんは人間性がデキているぜ。どこぞの、強欲な、ホステス共と違って、なァ??」

 

 チラァッ。流し込むようなねっとりとした視線を、ラミアとメーに投げ掛ける荒巻。これにメーは、からかうような調子で「どこぞのヤリ〇ンプレイボーイなサングラスおじさんよりも謙虚だと思うけどね~?」と口にしたことで、荒巻は頭を掻く仕草で眉をひそめながら、こちらを見遣ってきた。

 

 いや、反応に困るんですけど……。

 内心で困惑する自分。そんな他愛ないやり取りを交わしてから、荒巻は両腕を組みつつ、仕切り直すようにこれを喋り出してきた。

 

「それにしても、グッドタイミングだぜカンキちゃん。ちょうど、オマエさんも他人事じゃねェ大切な話をしていたトコだったんだ。っつーワケだからよ、ちょっとだけオレちゃん達の話に加わっていけ。な?」

 

「大切な話ですか。最近は銀嶺会と鳳凰不動産の抗争とかもありますからね」

 

「まさに大切な話っつーのは、それのことだ。……避難の準備を進めておけよ。もう間もなくと、ヤツらは戦争をおっぱじめるつもりでいるぜ」

 

 荒巻の言葉を耳にして、途端にもこの背筋には寒気が迸る。

 ……とうとう、始まるんだ。現代の日本とは思えない、あらゆる暴力を行使する本気の殺し合い。以前にも彼らによって引き起こされた抗争は『龍明抗争』と名付けられ、今でも歴史の教科書で扱われる程度には、日本で起きた大事件として記録されている。

 

 避難勧告によって、シェルター付きの公民館に誘導されたこともある当時の体験。外では銃火器による発砲音や、爆弾などによる爆発音などが絶え間なく響き渡り、まるで戦争と代わりない状況に自分は本気で死を覚悟したこともあった。

 

 その、第二次となる抗争が、もう間もなくと引き起こされる。

 ホステスらと過ごした平和な時間が、今にも恋しくなってくるほどの絶望感。それに加えて、自分は銀嶺会の相手である鳳凰不動産から狙われている身分でもあるため、彼らはこの争いに紛れて、こちらを強奪しに襲撃してくる恐れもある。

 

 そのことから、最近は護衛であるホステスを二人つけてもらったりなどして、守りを強化してもらっていた。

 これは他人事なんかじゃない。自分は唾を飲み込むようにしながら喉を鳴らしていき、荒巻と向かい合っていく。そんなこちらの反応に荒巻も、事の重大さを理解してもらえたことによる頷きを何度か行っていくと、次にも彼は少年へと向きながらそれを話し出していった。

 

「もう察しはついているだろうがよ、このあんちゃんが、例のカンキちゃんだ。あの、柏島長喜の実の息子さんで、今、鳳凰不動産や“骸ノ市(むくろのいち)”に狙われてるっつー、オレちゃん達の要のような存在。カンキちゃんが捕まったら最後、カンキちゃんをダシに使われたオレちゃん達は、金や土地、資産や権限を根こそぎ搾り取られて、ヤツらは“前の社長”の仇としてオレちゃん達を散々拷問した挙句、身ぐるみに留まらず皮や肉を剥いで八つ裂きにしてからその臓器を売り飛ばすだろうよ。こいつぁ、何の比喩でもない。ヤツらは、一般的に残虐とされる行為を容易く行える連中だ。何なら、最初から焼却炉で消し炭にしてもらえた方がマシかもしれねェくれぇにな」

 

 物騒なワードが飛び交う、荒巻の説明。これだけでも自分はしかめっ面となってしまったのだが、一つ、気になる言葉が聞こえてきたために、思わずそれを荒巻へと訊ね掛けてしまう。

 

「あの、“骸ノ市”とは何ですか……? 俺、それ初めて聞きますけど……」

 

 こちらへと向いてきた荒巻。彼は腕を組んだ姿勢のまま説明を始めてくる。

 

「骸ノ市。こいつは裏社会に蔓延る巨大な組織でよォ、んま、言っちまえば人身取引を商売とするグループの名前さ。ヤツらのスローガンは、『骨になっても働ける人間の販売』。肉が無くなり、骨だけになったとしても働ける奴隷を売りますよ、という意気込みを大々的に掲げた、日本屈指の巨大な奴隷貿易を運営する組織って認識でいいぜ」

 

「じ、人身取引、ですか……?」

 

 とても、日本にあるとは思えない組織だ。

 裏社会には、そんな外道じみた連中まで存在していたのか。という驚きが込み上げつつも、同時にして、龍明では人身取引も行われているという噂が、実は本当だったことによる絶句が、こちらの思考を暫し停止させてくる。

 

 呆然と佇むこちらの様子に、荒巻は頭を掻く仕草を交えていく。そして、次にも彼の代わりとして、ラミアが説明の続きを行ってきたのだ。

 

「骸ノ市はですね、女性を主とした身よりの無い日本人から、様々な理由で行く当てが無くなった不法滞在者といった人々を拉致して売り物とする、正真正銘、極悪非道な組織です。カレらの商売の特徴としましては、まず、どこからか拾ってきたオンナや子供を、組織内で協力しながら育てます。お次に売り物となるカノジョらの品質を上げるべく、カレらはストレスや負荷をかける意味での、それ相応の最低限の食事や寝床を与え、そして拾ってきたヒト達に、“奴隷として売るための教育”を施すんです」

 

「売るために育てるとか……なんだかそれって……」

 

「まー、所謂“家畜”のようなモノですよね。ウチらはより高値が付く“高級品”として扱われるべく、カレらが組んだプログラムに沿って、一日を過ごしていきます。言葉の響きは良く聞こえるかもしれませんけど、要は、奴隷として一人前になる修行を強いられるんです。恫喝はモチロンのコトですけど、言うコトを聞かなければ“教育”として身体に思い知らされます。言うコトを聞いても、カレらの期待に応えられなければ“お仕置き”です。教育の内容はご想像にお任せしますけど、性暴力なんて当たり前ですし、カレらの糞便を食べさせられたり、裸で街の中を歩かされたり、時には射撃訓練の的にされたりもします。モチロンですけど、撃ち出される弾は実弾です。ビー玉なんかではありません」

 

 想像を絶する彼らの非道に、自分は絶句を通り越した無の感情でラミアの説明を聞いていた。

 

 世の中に、そんな組織が存在するだなんて。

 人道から遥かに逸れた行いに、胸糞悪いどころではない悶々とした面持ちでラミアと向かい合っていく。だが、それを説明した彼女は淡々とした表情のままであったため、自分は恐る恐るといった視線を投げ掛けながら訊ね掛けた。

 

「……でも、商売として売り出す人間を、そんな荒っぽく扱ってしまってもいいものなのかな……?」

 

「イイんですよ。カレら曰く、『奴隷というモノは、手先の器用さや奉仕の術なんかより、胆力が必要だ』とのコトですから。身近なモノで例えますと、体罰を主体とした教育とも言えるんでしょうかねー。とにかくまずは暴力で言い聞かせて、そこで培われた胆力や体力、丈夫な体や、恐怖に慣れた精神などで、そのニンゲンの、売り物としての価値を定めます」

 

「…………っ」

 

「次に、暴力による教育の中で身に付いた奉仕能力を売りにします。主に、洗い物や洗濯といった日常的なお仕事から、ご主人様を疑う余地の無い忠誠心であったり、夜のお供といった性奴隷としての心得などなど。そういった、より“高品質な奴隷”を作るための教育が組織内で行われておりまして、十分に教育が行き届いた又は価値が無いとして見放されたニンゲンは、成熟を迎えたという体(てい)で商品として市場に売り出されます。カノジョらを購入する客層は主に、国内外を問わない富裕層であったり、海外のマフィアやギャングなどでしょーか。……売れれば奴隷。売れなければ“処分”。強制される日々の中、商品としての価値を高めなければならない生活を強いられる苦行。生きている心地なんてしませんよホントに」

 

 一連の説明を終えて、ラミアは気分悪そうに眉をひそめながら視線を途方へ投げ遣っていく。彼女の様子に、自分も壮絶な実態に渋い表情をしてしまいながらも、ふと気になった疑問点を問い掛けた。

 

「あれ……。今、話を聞いていて思ったんだけど。ラミア、さっき『ウチら』って言った……?」

 

「ッ……」

 

 説明の最初に口にしてきた、ラミアの言葉。これを訊ねた瞬間にも、ラミアの隣にいたメーが視線を逸らすように気まずい面持ちを見せていき、荒巻の傍にいた少年もまた、身に着けていたキャスケットのツバを持って、それを一層と深く被っていく。

 

 荒巻は、腕を組んだまま見守るように無言を貫いてくる。この空気に自分はやらかしたと思いながらラミアを見遣っていくと、次にも彼女は複雑な様相でそれを喋り出してきた。

 

「……ウチとメーさん、それと、そちらにいらっしゃるコの三名は、骸ノ市出身の元奴隷です」

 

「…………ッ」

 

「カンキさんが、そんなカオをする必要ありませんよ。ただ……特にウチは、骸ノ市で長年育った身と言いますか。物心つく前の幼い頃に攫われた、ほぼ骸ノ市が実家とも言えるほどの奴隷歴ですからね。クチを滑らせたウチもウチですけど、できるなら、あまり反応してもらいたくはありませんでした。特に、カンキさんには……」

 

 次第にも、悲しげな表情へと変えていくラミアの様子。これに自分は「ラミア……」と言葉を掛けていくのだが、彼女は無言の視線でこちらに静止を訴え掛けてくると、次にもラミアは真っ直ぐとした眼差しで、且つ、顧みるような静かな声音で喋り続けてくる。

 

「……長年と過酷な労働を強いられる中で、ウチは今現在に至る実年齢を忘れてしまいましたし、本当の誕生日も忘れてしまいました。親のカオも今となっては思い出せませんし、思い出そうとしても、骸ノ市でウチの教育を担当した調教師のカオしか浮かんできません。そしてウチは、幼い頃から性奴隷の調教を施されて、また、幼げない体つきやアソコの締まりなどの、カラダの具合を骸ノ市のニンゲンに気に入られたコトから、ウチは売り物としてではなく、骸ノ市に所属する慰安婦として長年働かされておりました」

 

「……慰安婦」

 

「今では、骸ノ市で培われた知識や技術が、コチラのお店における何でも屋の奉仕で役に立っておりまして。コレは一体、何の皮肉なんでしょーね。……まー、労働環境や人付き合いには雲泥の差がありますけど。ただ、ウチという存在は特に、性奴隷として、慰安婦として生まれてきたかのようなトコがありますから。そーいう星の下で生まれた以上は、長年の教育によって施された奴隷としての使命を果たすまでですよ」

 

 どこか、諦めたかのような眼差し。光の無い、希望を見出せない彼女の眼は、今までを不自由無く暮らしてきた自分に深く突き刺さってくる。

 

 ラミアは、想像を絶する過去を持つホステスだった。しかも、彼女の人生を破壊した組織は今も、裏社会の闇に姿を潜めている。

 

 それでいて、自分もまたヤツらに狙われている身分でもあった。

 である以上は、自分も決して他人事なんかではない。そうしてラミアの話に真剣と向かい合う自分が、彼女に掛ける言葉を探していたその最中にも、今度はメーが喋り出してきた。

 

「私が初めてラミアと出会ったのも、骸ノ市だったんだ。私もね、運び屋として骸ノ市にブツを配達した際に、秘密を知ったとかいう言い掛かりをつけられてヤツらに捕まったんだよね。で、そのまま性奴隷の教育としていろんな酷いことをされてきたんだけど、その中で私は、ラミアとその子に出会った」

 

 その子。メーの言葉と共に自分の意識は、今も無言で佇んでいる少年へと向いていく。

 

 こちらの反応に構わず、メーは説明を続けてきた。

 

「私が捕まっていたのは数ヶ月程度の期間だけだったんだけど、ラミアはもう、十何年もこの環境に居るかもしれないってことを知ってさ。私、ラミアの人生に同情しちゃって、当時は思わずもらい泣きしちゃった。……本当に、酷い場所だったんだよ。私達のような奴隷には人権なんて無い場所で、食事や寝床は与えられていたけれど、それも飽くまで商品にするための品質管理に過ぎないものだった。栄養の無いカビたようなパンに、トイレの水かと思うくらいに臭う飲み物。掃き溜めのような生活環境で、毎日のように犯されてさ。その数ヶ月だけでも私は気が狂いそうなほど苦しかったのに……ラミアはここに、ずっと閉じ込められていたんだって考えたら……さ……っ」

 

 話している内にも、涙ぐんできたメー。彼女の背にラミアは手を添えていき、優しく慰めていく。

 

 当時の過酷さをうかがわせる彼女らの様子。しかし、メーは涙ぐみながらも話を続けてきた。

 

「っ……そんな私達の下に、ユノさんが現れたんだよね。前にもオーナーが話してくれた、柏島オーナーが鳳凰不動産と決着をつけた時のあれ。不動産の社長が三つの組織と手を組んでいて、柏島オーナー達が四つのグループに分かれてカチ込みをかけたっていう話。その時に、不動産の社長に加担していた骸ノ市の制圧を担当したのがユノさんだった。ユノさんが率いる集団が、当時の骸ノ市が拠点にしていた廃坑を制圧して、ユノさんはユノさんで、組織を仕切っていた親分を倒してくれた。それで私とラミアは解放されて、しばらくはユノさんに面倒見てもらってからLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)を紹介してもらって、ラミアと一緒に此処に来たんだ」

 

「そんな経緯があったんだ……」

 

 Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に加わるキッカケとなった出来事。店に辿り着いた二人のホステスの事情を知り、自分は彼女らに同情してしまう。

 

 しかし、それでは脇にいる少年はどうしたのだろうという疑問から、そのようなことをメーに問い掛けていった。

 

「それじゃあ、こっちにいる彼もメー達と一緒に……?」

 

「ううん……。その子は、ユノさんがカチ込みする前に売られちゃって、既に骸ノ市からいなくなってた。でもね、その売られた先でも色々とあったみたいで、最終的には骸ノ市を調査する探偵さんに拾われたんだ。……今でもその子は探偵さんに面倒を見てもらっていて、しかもその探偵さんは荒巻オーナーと同じ事務所の後輩? とかだから、大丈夫、安心できる人。それで今日、骸ノ市も今回の抗争に関わるかもしれないって情報を知らせに、此処に来てくれてたんだよ」

 

「そういうことだったのか……」

 

 視線を少年に投げ掛けるのだが、彼は一切と目もくれない。ただただ寡黙に、クールに佇む少年の姿に自分は視線をゆっくり逸らしていく中で、荒巻がこちらへと喋り出してきた。

 

「とにかくだ。今回、銀嶺会と鳳凰不動産の抗争に、骸ノ市が介入してくる可能性が示唆された。だが、ヤツらの動向がイマイチと不安定でな。っつーのも……さっきの話にも出てきた、骸ノ市を調べるオレちゃんの後輩ちゃん曰く、ヤツらは鳳凰不動産に加担している様子が無い、と言うんだ。……骸ノ市の野郎共は、第三勢力として抗争に乱入をかましてくる可能性もある。そうとなりゃァ、龍明市街では三つ巴の戦争が勃発して、更なる波乱が起こるかもしれねェ。つまり……カンキちゃん。オマエさんは、抗争に便乗して迫り来る、鳳凰不動産以外の連中にも狙われかねねェって話なのよ」

 

「…………俺、その時になったら、一体どうすればいいんでしょうか」

 

 鳳凰不動産と骸ノ市。シュラやハオマ、ラミアやメーを追い詰めた、非道なる人間集団。彼らの目的がそれぞれ別にあれども、自分の身が狙われることに代わりない。

 

 末恐ろしい現実を前にして、呟くようにその言葉を口にした自分。これに対して荒巻はニッと笑みを浮かべながら、こちらへと歩み寄ってきては肩を優しく叩いてくる。

 

「んまっ、オレちゃん達はカンキちゃんの防衛に精を出すさ。それが今のオレちゃんらの使命とも言えるだろうし、天国から見守ってくれている柏島オーナーへの恩返しにもなるってモンよ。……そう心配なさんな。いや、まぁ危機感を持ってくれるのはありがたいコトなんだけどよ。オレちゃん達は、命に代えてもオマエさんを守り切る。だから、カンキちゃん……オマエは、オレ達のことを信じてくれ。いいな」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

「いいってコトよ。オマエさんも居てこその、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)だぜ? こんなアンダーグラウンドの連中と一緒にされんのも不本意だろうけどよォ、オレちゃん達は、カンキちゃんのコトをれっきとした店の一員として快く迎え入れているのさ」

 

「不本意だなんて、そんな」

 

 むしろ、店の一員として受け入れられていることを、嬉しく思ってしまった自分。こちらの反応に、荒巻は陰鬱とした空気を振り払うかのような微笑を見せてくると、次にも彼はこの肩をトントンと叩いて慰めつつ、それから陽気な調子で、ラミアとメーへとその指示を送ったものだった。

 

「ラミアちゃん! メーちゃん! もう間もなくと開店時間だ! 直にも客が入ってくるぜぇ。今は気持ちを前に! 直進に! 真ん前だけを見据えて、目の前の業務をこなすことだけを考えるんだ! Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)を選んでくれたお客様に、最上級のおもてなしを。心から満足してもらい、また、この店でしか味わえない幸福感を提供するために。今はただ、目の前にあるこなすべき役割にしっかり勤めていけよ! まずは、気分の切り替えとして、こちらの柏島様をお席に案内して差し上げろ。さっ、仕事だ仕事! ラミアちゃんとメーちゃんで、カンキちゃんに夢のような至福のひと時を提供してあげなさぁいっ」

 

 

 

 

 

 ラミアとメーにホールへと案内された自分は、いつもの席に座ってオーダーした料理を待ち続けていく。

 

 既に客が入り始め、早くも盛況な様子を見せてくる店内の空気。上品な賑わいに包まれるこの空間の中、自分は気長な心持ちでボーッとしていると、ふと、フラッと姿を現したラミアがトコトコとこちらへ歩み寄ってくるなり、適当な調子で淡々とそれを訊ね掛けてきたのだ。

 

「カンキさん。イマ、ちょっとだけイイですか??」

 

「あぁ、ラミア。どうしたの? 何かあった?」

 

「そーいうワケではありませんけどね。強いて言えば、カンキさん成分を摂りに来ました。なので、ちょこっとだけウチに付き合ってもらいますよー」

 

「いいよ、大丈夫」

 

 ラミアの何気無い言葉に頷いていく自分。そんなこちらの返答を聞くことなく彼女は向かいの席に腰を掛けていくと、次にもラミアはちょっと気まずそうに、しかしそれを隠そうとする繕ったかのような平然とした調子で、こう訊ね掛けてきた。

 

「率直に訊きますけど、カンキさん、ウチに失望しましたよね??」

 

「え? 失望?」

 

「先ほどのおハナシですよ。ウチが慰安婦として働いていたコトです」

 

「あぁ……骸ノ市のことか。それで、失望って?」

 

 本気で分からない。こちらの様子にラミアは一瞬だけ眉をひそめながらも、そう喋り続けてくる。

 

「決まってるじゃないですか。今まで関わっていたオンナのコが、そーいう経験をしていたんですよ。こんなの、オトコなら失望くらいして、スキだった気持ちも冷めますよね??」

 

「いや、ラミアの言う事に心当たりが無いんだけど」

 

「と言いますと??」

 

「ラミアの過去が何であれ、俺はラミアに失望なんかしなかったし、むしろ、ラミアの事を守ってあげたい、ラミアを幸せにしてあげたいって、そう思えた。ラミアは過酷な労働を強いられてきた、被害者側なんだ。そんな女の子に対して、勝手に失望したりなんかしないよ。……俺にできることがあるなら、何でも言って。ラミアのためにできることならば、どんなことでもしてみせるから」

 

 意識せずに口にした言葉の羅列。これを耳にしたラミアはちょっとだけ意外そうなサマを見せてくると、少し間を置いてからその返答を行ってくる。

 

「それ、ホンキで言ってます?? ジブンがどんなに恥ずかしいセリフを吐いたのか、自覚くらいしてますよね??」

 

「そのつもりだよ。俺はそう思った、ってことを率直に伝えただけだから」

 

 真っ直ぐと向かい合い、彼女に真意を伝えていく。これを受けて、ラミアは視線を逸らしながら静かに「ふーん……」と呟いていくと、彼女は控えめな動作で何度か頷きつつ、どこか噛みしめるような雰囲気で暫しの沈黙を貫いてから、次にもラミアはニッと笑みながらも上目遣いでその返答を行ってきたのだ。

 

「カンキさんって、生粋のお人好しですよね。そーいうトコ、気に食わないです」

 

「え? あぁ、ごめん……」

 

「いえ?? 責めてるワケじゃないですよ?? ……その、他人に無関心なくらいにサッパリとした態度、ウチはキライじゃないです。むしろ、その優しさを、その愛想を、ウチ以外の他のホステスにも振り撒いているコトに対して、気に食わないなーと思っただけですから」

 

「え? あ、あぁ……。ごめん……」

 

「別にイイですよー。この、みんなのアイドルラミアちゃんに免じて、カンキさんの生意気な態度を特別に許して差し上げます。ただ、その代わりとしましてー……カンキさん。その優しさを、これからもこのラミアちゃんに振り撒いてあげてください。そして、ウチのご機嫌をとって、ウチの気分を良くしてください。そしてそして、これからも……ウチのコト、気にかけてくださいね。それが条件です。イイですね??」

 

「それなら、お安い御用だよ。そんなの、条件にもならないくらい当然なことだから、もっと難しい要求をしてもらってもいいくらいだ。とにかく、これからもよろしくね、ラミア」

 

「ホント、カンキさんってそーいうトコ鈍感ですよね。無自覚ってコワイですねー」

 

 言葉の刺々しさとは裏腹に、ラミアはとても満足そうに微笑みながら頬杖をついてくる。彼女の様子に自分も微笑を浮かべてしまう中で、いつの間にか近付いていたメーが、面白げな表情をしながらこちらに横槍を入れてきた。

 

「おや? 公衆の面前で惚気話なんて良いご身分ですなぁ?? 居合わせたついでに、この私も混ぜてもらっちゃおっかなぁ~?」

 

「惚気話って……メーは俺をからかいたいだけだよね?」

 

「あは、バレた? よく分かってんじゃーん。伊達に長い付き合いしてないねー?」

 

 小悪魔な笑みを浮かべ、ラミアへと近付くメー。そうしてラミアの肩に右腕を掛けたメーがそのまま寄り掛かり、これにラミアは平然としたサマを見せながらも二人はその会話を行っていく。

 

「そーいえばですけど、ウチらで秘湯巡りしましょーってハナシあったじゃないですか。それにカンキさんも誘うのはどーでしょーか??」

 

「あーね? 二人揃ってたから、私もちょうどそれを切り出そうかなって思ってたんだよね~。いやぁ~、やっぱ私とラミアって気が合うねぇ。相思相愛って言うのかな? 考えることも似ていて、私達は良いコンビですなぁ」

 

「そーやって、メーさんは勝手なコトばかり言いますよね。まー、ウチとしても異論はありませんけど」

 

「だよね~。そんな私達のコンビに挟まれるカンキ君は幸せ者よのぉ? こんな美人コンビを独占できて、しかも、心も体も思うがままにできるその権利。やっぱり選ばれた血筋の人間は一味違いますな~」

 

 ニヤニヤ。終始とからかうような調子で喋り続けるメーに、自分は汗を流してしまいながらも反応する。

 

「権利はともかくとして……秘湯巡り? ってのは二人で巡ってきても良いんじゃないかな。俺がいるからって、そんな気を遣ってもらわなくても大丈夫だよ」

 

「ねぇカンキ君。それマジで言ってんの? せっかくの美女達からのお誘いなのにさ、女の私からしても、その返事は勿体無いと思うんだけどな~。それか、遠慮でもしてる? あは、だったらその必要は無い無い。……私達と巡る秘湯の旅。こんなに魅力的なお誘い、これ以上の贅沢は他に存在しないとは思わないもんかね? こんな機会、二度と巡ってこないかもよ? それでもいいのかな? ん? 後悔しない?」

 

「そ、そんなに迫られると、やっぱりちょっと、参加してみたくなっちゃうな……」

 

「はいじゃあ決まり~! カンキ君も参加ってことで、今のいざこざが落ち着いたら三人で秘湯巡りするぞ~!」

 

 半ば強引に決められたような予定。しかし、悪い気なんか全くしない魅惑的なお誘いに、自分は苦笑いを交えながら頷いていく。

 

 それでいて、ラミアもまた微笑しながら「これじゃー、余計に死ねなくなりましたねー。旅行をモチベーションに、ウチも頑張って生き残るしかありませんね」と言葉を口にする。これにメーは、勝気に微笑みながら「そうだぞ~? カンキ君と一緒に旅行する予定を生き甲斐に、お互いに生き延びようではないか~」と冗談めかした調子で返答したことで、ラミアは呆れ気味に笑みながらも、いつもの適当な調子で「そーですねー」と答えたものであった。

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