※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第66話 Porteuse de la mort 《死をもたらす者》

 深夜のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)。キャバレーの営業は終わり、店の従業員もほぼ全員が退散したであろう物静かなエントランスに、自分はひとり佇んでいく。

 

 先までの賑わいが、まるで嘘のよう。広大な空間の奥には受付カウンターがあり、周囲には地下である室内を支える柱がいくつか見受けられる。そして、今も煌々と照らすシャンデリアの下、なんだか夜の世界を独占しているような気分になっていたこちらへと、一人のホステスが歩いてきた。

 

 私服姿のレダ。淫魔が如き微笑を浮かべ、艶やかな視線を投げ掛けながら、彼女は色っぽい声音で言葉を掛けてきたものだ。

 

「カンキ君おまたせぇ~。私のこと、ずっと一人で待っていてくれたのかしらぁ~?」

 

「やぁ、レダ。今日もお疲れ様。レダや他のみんなを待っていたんだけど、こんなにひと気の無いエントランスもちょっと珍しかったから、何となくここでボーッとしていたんだよね」

 

「さながら、賢者タイムみたいにかしらぁ」

 

「こらこら、まだ外だよ」

 

 歩み寄ってきたレダへとツッコミを入れるように、ビシッと右手を出していく。これにレダは愉快げに「うふふ」と微笑んでみせると、豊満な乳を擦り付けるように接近し、こちらの右手を手に取りながら、何の躊躇いもなくそれをワンピースの中へと滑り込ませてきた。

 

 触れたショーツの感触に、未だ慣れない興奮が心臓を跳ね上げる。しかし抵抗はしないこちらの様子にレダは一層と乳を擦り付けてくると、それによる上下の摩擦を伴いながらも、ショーツの内部へと誘われたこの右手が彼女の“密林”に迷い込んでいった。

 

 シャリ……という乾燥した音が指を伝い、しかし、羽毛のようにフワッとした弾力が実に欲情的だ。

 ずっと触っていたい。意識が全てレダの“密林”に吸われていき、巡ってきた欲望が下半身に集中し始める。そんな、骨抜きにされたこちらの様子に、レダはお触りを催促する視線を投げ掛けてきたものだったから、自分は期待に応えるよう右手で満遍なく質感を堪能し、“密林”を摘まんだり撫で掛けたりしながら、レダを抱き寄せつつ囁くように感想を口にしていった。

 

「もしかして、“形”変えた?」

 

「ウフフ、大正解。自然な形のまま整えたナチュラルってやつから、丸みのある逆三角形のトライアングルってやつに変えてみたの。どうかしらぁ、新しい私の触り心地は……」

 

「最高だよ……。このままずっと、レダの“ここ”を愛でていたい。……触っていると、無意識に想像もしちゃうな。実際に見たらどうなっているんだろう。生やしているレダのことを考えるの、俺、大好きなんだ……」

 

「何なら、このあと二人でホテルにでも寄っちゃおうかしらぁ? 大丈夫よ、気配に敏感な私がついていれば、他のホステスがいなくても平気。新しくなった私を心行くまで抱ける大チャンスよ~?」

 

「ひ、一人では抗えない誘惑だ……っ。レダが欲しい……。レダの“ここ”を直で眺めたい。この目でしっかりと焼き付けておきたい……っ。でも、ダメだ……。ここで待つと他のみんなに伝えた以上は、その約束を破るわけにもいかない……」

 

「抜け駆け、しちゃいましょうよ~? 私の“ココ”も、カンキ君の決断を待ち望んでいるんだからぁ。……おっぱいも唇も、脇もへそもお尻も太ももも好きなように独占できる、とびっきりに熱々な一夜がカンキ君を待ってくれているんだから……」

 

「ぅ……。せめて、この“形”だけでも手で覚えて、一人で想像しながら自分で済ませるから……今日のところはそれでひとつ……」

 

「あぁんっ。そんなことを言われちゃったら、もっとその気になっちゃう……っ。カンキ君のおててに、私の“形”が覚えられちゃうのぉ……。今もがっつくように撫でているくせに、その気にさせたレディーを放置するだなんて、重罪よ?」

 

「レダ……っ」

 

 もう我慢できない。爆発した本能がレダを力ずくで抱き寄せて、その勢いで彼女の唇を奪い去っていく。この無理やりな行為で興奮したのだろうレダもまた、応じるようにして彼女から唇や舌を絡め始めたものだったから、静寂のエントランスの中央において、自分らは熱烈で深々とした口付けの生々しい音を響き渡らせてしまっていた。

 

 彼女の口と温もりと、彼女の“形”を余すことなく記憶していく。このシチュエーションに燃えたレダも自ら求めるようだらしなくも艶やかな表情でキスに臨んでいくその最中、こもった湿気の音を伴った口付けが落ち着きを取り戻した瞬間にも、背後からは私服姿のメーが顔を覗かせてきて……。

 

 ギョッと驚いた自分と、幻滅するような目をしたレダの両方から注目されたメー。彼女は面白おかしそうにニヤけながらこちらの肩へと右腕を掛けてきて、それから寄り掛かるようにこちらにぴっとりくっ付きながら、小悪魔風にからかう勝気な声音でそう喋り出してきたものだ。

 

「破廉恥警察のメー様だぞ~? キャバレーのエントランスにて、公然の乱れを察知したであります。ダメだよ~二人とも~。こんなひと目のつく場所でイチャコラなんてしていたら、このメー様が逮捕しちゃうぞっ??」

 

 と言って、この身体をレダから引き剥がしたメー。

 まるで、我が物とするような強奪。そこから軽いキスをこちらの頬に行い、悪戯に微笑む勝気な表情で魅了してきたものだったから、自分は瞬く間にメーへと心変わりするよう意識がそちらへ向いてしまい、「メー……」と呟きながら彼女の身体を抱き寄せていく。

 

 ……メーとの唇が触れ合おうとする。この光景にレダは残念がる調子で「ちょっとぉ~! せっかく良い所だったのに~」と言葉を掛けてくるのだが、そうしてメーともキスをしようと双方の唇が触れた瞬間にも、次は通りすがった地雷風コーデの私服ラミアからその言葉を投げ掛けられてきた。

 

「ホント、どこでも発情期ですねー皆さん。ウチは別にイイんですけど、せめてアパートに帰ってからにしませんか?? 仕事場からさっさと退散しましょーよ」

 

 呆れたように喋るラミアに、メーもレダも表情で「それもそうか」と答えていく。これに自分は欲情した二人から解放され、しかし持て余した情欲が切なくも思える今の気分に、内心で「部屋の中でメーとレダを抱こう」とか考えながら歩み出していく。

 

 と、その時にも察知した気配で後ろへと振り向いた自分。

 そこには、ホステスらと同じくして私服姿で帰ろうとしていたクリスの姿があった。彼はこちらの状況に目もくれず、不敵な空気はそのままに猫背の姿勢で入り口へと向かっている。

 

 その彼を見てからというもの、自分は反射的に彼へとそんなことを訊ね掛けていったのだ。

 

「やぁ、クリス。今日もお仕事お疲れ様。この後さ、良かったら俺の部屋にでも寄ってみない?」

 

「僕を部屋に招き入れると? 君、面白い発想をするね。僕も想定していなかった言葉を掛けてくれたその意外性に、ちょっとだけ面白そうだなとさえ思わされたものだよ」

 

「泊まっていけるスペースも一応あるから、良かったらみんなで仕事終わりの小さな慰労会でもしてみないか? みんなと過ごす夜遅い時間って、きっと楽しいと思うんだ」

 

 他者との交流とは疎遠であるクリスだが、最近はこちらから誘えば、それが大所帯であっても彼はついてきてくれるようになった。

 

 人を寄せ付けない雰囲気とは裏腹に、人付き合いはきちんとこなせるクリスという人物。こちらの言葉に彼は不敵に笑みながら左手を顎に添え、途方を眺めつつその場で暫し考え込む様子を見せてきてから、チラリと流した視線でこちらを捉えながらそう返事をしてくれたものだ。

 

「興味が無い、と言ったら嘘になるね。人間である以上は好奇心も大事にしてみたいな。……いいね。君の部屋に招かれてみよう。ただ、酒に酔いしれたホステス達があまりにもうるさいようであれば、その時点で僕は退出する。生憎と、泥酔したメーに振り回されてからは、彼女らに関する面倒事は勘弁願いたいと心に誓いさえしたものだからね」

 

 

 

 

 

 帰ってきたいつものアパート。ラミアが扉を開いていき、彼女に続いてメーとレダが部屋へと入っていく。その様子はさながら、我が家に帰ってこられたかのような安堵がうかがえて、自分は内心で「ここ、俺の部屋なんだけどなぁ」と呟きながらクリスへと手で催促していった。

 

「どうぞどうぞ。ちょっと狭いかもしれないけれど」

 

「気にしなくていいよ。僕は僕で自由に過ごさせてもらうさ」

 

「何なら今日、泊まってく?」

 

「それは勘弁願いたいね。僕は一人じゃないと寝付けないんだ」

 

「そうなんだ。無理強いはしないから大丈夫。まぁまぁ、上がって上がって」

 

「フフッ、お邪魔するよ」

 

 部屋に入る際、クリスは後方を気にするような素振りを見せてきた。

 

 追手がいないか、気にしてくれているのかな。そんなことを思っていく自分の視界を横切るように、玄関へと踏み入っていくクリス。彼を部屋に招き入れてから、自分は扉を閉めて鍵をかけ、それからクリスを案内するように二人で部屋へと向かっていくと、そこには既にプライベートな気分で過ごすホステスらの姿がうかがえた。

 

 テレビのリモコンを手に持つラミアと、片手にビール缶を持つメーがチャンネル争奪戦を繰り広げていく。この様子にレダはため息をつきながらコートを脱ぎ、それをベッドの上に置きながら、ワンピースをはたはたさせて放熱を行っていた。

 

 クリスには、適当に座るよう声を掛けていく自分。これにレダが彼を案内するように言葉を投げ掛けていき、その間に自分は脱ぎ捨てられたレダのコートを付近のハンガーに掛けたりなどしていった。

 

 背の低いテーブルには、チューハイといったアルコールが用意されている。この空間に囲まれる中、クリスは壁に寄り掛かるように座りながら、見渡すようにして部屋の中を眺めていき、それからレダに手渡された麦茶のペットボトルを受け取ることで、彼はそれを口にしたものだ。

 

 今も、テレビの前で言い合いをするラミアとメー。一旦、彼女らは放っておいた自分はクリスの傍に腰を下ろし、騒がしい空間に誤魔化すような苦笑いを見せながらも、くつろいでもらえるよう何とか気に掛けることで、クリスと過ごす暫しものひと時を送っていった。

 

 気を利かせたレダがおつまみなんかを持ってきて、それを皿の上に出していく。すると、その音に反応を見せたのはラミアとメーであり、今度はおつまみの取り合いを開始した二人。ある意味で日常的な光景とも言えるだろうそれに自分は、クリスに「まぁ、あまり気にしないで……」とフォローを入れていくと、彼もまた不敵に微笑しながらも淡々とした声音でそう返答してくれたのだ。

 

「僕にこそ、気を遣わなくても結構だよ。この空間こそが君の癒しなのだろうし、僕はそれを煩わしく思ったり、咎めるつもりもない。面倒事が僕に降り掛かりさえしなければいいのさ。そういうわけで、君は彼女らと過ごすいつも通りの時間を大切にしてくれればそれでいい」

 

 クリスも案外と、寛容的だよなぁ。

 内心に抱いた感想を呟きつつ、「そっか。ありがとう」と答える自分。だが、この話を他所で聞いていたレダは、片手に持つチューハイの缶を軽く振りながら、どこか呆れるような声音でクリスへと喋り掛けていった。

 

「他人と関わることがまず面倒なんでしょう? 私からすれば、そんなあなたがどうしてカンキ君の部屋についてきたのか、イマイチ理解できずにいるのよねぇ」

 

「人間は、協調性を主とした集団でしか生きることができない生物。僕もその例外に漏れず、時として集団の空間に身を置くことで孤独感をある程度と軽減できるのさ」

 

「孤独感、ねぇ~……。なんか意外だわぁ。あのクリスが協調性って言葉を使うなんて、昔だったら絶対にあり得ない」

 

「君は僕を何だと思っているのかな」

 

「狂人。それしか無いわよ。普通、七十階の高さから飛び降りるバカなんていないでしょ?」

 

「柏島長喜の最終決戦のあれだね。建設中のビルに爆弾を仕掛けたのは君だったから、君も同罪だよ?」

 

「だからって、仕掛けた本人達が現場に残っている状況で爆発なんてさせないでしょ! あなた、ただでさえ体中に弾丸を食らってて死ぬ直前だったじゃないの」

 

「あぁ、そうだね。……あの戦闘は楽しかったなぁ。忖度の無い明確な殺意が僕を真っ直ぐ捉えていて、ビルの柱に身を隠しながら銃撃で応戦した命懸けの攻防が忘れられないね……! 僕の瞼の裏には、今もその場面がこびりついていてね。ひとり静かに過ごす暗闇の中、目を瞑って、当時の景色やニオイを全神経に巡らせながら行う手淫は、当時の駆け引きに通ずるあの、全身の性感帯に行き届くような興奮が脳髄にまで上ってきて、実に格別なんだ」

 

「うっわ……。さすがに私でもドン引きよ、それ……」

 

「特に、君をかばった際に、この右手に受けた二発の銃弾の衝撃。右手を使用する度に古傷が疼く後遺症に悩まされていたものだけれど、行為の際にはむしろ、その刺激が最高に堪らないのさ」

 

「私、性癖の寛大さには自信あったけれど……さすがにクリスのそれは本気で最悪な気分になるわよ……」

 

「加えて、七十階から脱出する際に使用した、落下してきたクレーン車があったね。ひっくり返って、窓際に沿って落ちてきたあれのフックめがけて、君を担いだ僕は外へと飛び出した。そして、フックに掴まってからはクレーン車と共に落下したけれど、フックに括りつけられていたワイヤーをターザンのような要領で揺らしていって、その勢いを利用して、地面から海に落下地点を逸らしたことによって、僕と君は衝撃を流す入水姿勢で無事、海に着水した」

 

「話だけでも頭おかしくなってくるのに、本当に経験したことなのが馬鹿みたい……。あの時はさすがに、私もあなたも死んだと確信していたわよ……。まず、ワイヤーの摩擦であなた、擦り減った手のひらから骨が丸見えになっていたじゃない。入水する際も、私に衝撃がいかないように庇ってくれたこともあって、全身の骨が粉砕する致命傷まで負って……」

 

「いいよね。体中の骨が、内部で粉々に粉砕するあの感覚……。まるで、袋を開ける前のスナック菓子をクシャクシャと潰していくかのような快感……。直後の激痛にはさすがに嘔吐を繰り返したものだったけど、摩擦で手の肉が擦り減ったことで、内部に残っていた二発の弾丸を取り除くこともできた」

 

「私を銃撃から庇ってくれたアレのことよね……」

 

「それに、後遺症で当時の摩擦を度々と思い出すんだ。その度に耐え難い激痛がこの右手に迸るんだけど、僕はこの痛みの訪れが日々待ち遠しくて仕方がない。……あぁ、早く来てくれないかな。火花を散らしながら、摩擦で肉が削ぎ落とされる刹那的痛覚が伴うこの右手で、僕の生殖器官をしごいてあげたい。そして、僕自身に実感させるんだ。この痛覚と摩擦によって生じた子種が存在することを。それらは全て、僕の体内によって生まれ出でることを」

 

「…………」

 

 ガチのドン引き。あの、男なら誰でも食べてしまうレダが、クリスに対しては欲情するどころか死んだ目を向けてしまっている。

 

 一方で、クリスの話を聞いていたラミアとメーは、おつまみであるスルメやビーフジャーキーをモシャモシャ食べながら、平然としたサマで彼と向かい合っていた。

 

 クリスらの話を疑わないところがまた、彼女らが生きてきた世界の熾烈さをうかがわせる……のか?

 自分だけが置いてけぼりをくらう中で、メーは缶ビールをグイッと飲んでいき、ラミアはいつもの適当な調子でクリスへと質問を投げ掛けたものだ。

 

「イマの話で思ったんですけど、クリスさんもフツーにオ〇ニーするんですね。クリスさんって、“そーいうの”とは無縁に感じていたので、なんだか意外です」

 

 え、そこ?

 今の話でツッコむべき箇所の違いに、自分はギョッとした目でラミアを見遣っていく。その間にも、クリスはラミアへとその返答を行っていった。

 

「人間である以上は、欲求という本能には抗えないものだ。君達もそうであるように、僕もごくごく一般的な欲求をこの身に感じて、それを解消するべく行為に浸ることだってある」

 

「そーですよね。クリスさんもヒトですから、そりゃ性欲くらいありますよねー。ソレとは別に、イマの発言は立派なセクハラですよ??」

 

 と、何も気にしていない適当なサマで口にするラミア。相変わらずスルメをモリモリ食べている様子にクリスは不敵に「フフッ」とだけ答える中で、次はメーが酔っ払った調子でそんなことを口にし始めてくる。

 

「うぃー……。あのさぁ~、ずぅ~~~っと前から気になってたんだけどさぁ~……。クリスってホント、女の子に関心無いよねぇ……。そんなんじゃキミぃ、彼女できないぞぉ? そのままちん〇んしごいてるだけの人生でいいのかぁ? 何だったらぁ、ふひひ……私が“筆下ろし”、してあげよっかなぁ??」

 

 下品すぎる。色々と。

 アルコールで顔を真っ赤にしたメーが、テーブルに寝転がるようなだらしない姿勢でクリスへと言い寄っていく。これにレダが、眉をひそめながら「クリスとはやめときなさいよ……」と、彼女にしては珍しい反応でメーへと言葉を掛けていくのだが、一方でクリスはと言うと、不敵な笑みはそのままに、誰を見ることもない視線でそう返答を行ってきたのだ。

 

「面白い提案だね。でも残念だ。僕にはもう、下ろせる筆は存在しない」

 

 つまり?

 彼の返答にラミアとレダが意外そうに見開いて、メーは食い付くように身を乗り出しながら彼へと喋り出してくる。

 

「へ?? てことは!? うっそでしょ!!? アッハハハハハハ!!! え~~~~、クリスがぁ!? あのクリスがぁ~~~!!? マぁジィィ~~~ッ??? やば、めっちゃウケるんだけどッ!!! え、いつ? いつ“卒業”したの!? 相手は誰!? ホステスの誰か!?」

 

「柏島長喜と出くわす以前だったかな。相当前だろうね、“彼女”と出会ったのは」

 

「うっはぁ!!! あのクリスが彼女とか言ってる!! マジでウケるんだけどッ!! え、え、その子って今どこにいるの? 会いたい会いたい会いたい会いたい!! チョー見たいんだけど!!」

 

「少なくとも、メー。キミには彼女の下に案内はできないかな」

 

「え~~~、なんでぇ。いいじゃんかぁケチぃ。なに、そんなに会わせたくないの? 別に私、ちょっかい出しに行くわけじゃないんだよ? それか、あれ? もしかして恥ずかしかったりするぅ~?? だとしたらウケるんだけど!!」

 

「彼女はもう、“此処”にはいないんだ。僕がこの手で殺したからね」

 

 淡々と語る彼の言葉に、一瞬にして部屋の中は静まり返った。

 

 爆笑していた表情のまま硬直したメー。そんな彼女と向かい合うように視線を投げ掛けたクリスは、不敵に笑みながらもそれを語り出す。

 

「彼女から依頼されたんだ。殺し屋の僕に、自分を守ってくれと。彼女はあろうことか、この僕に護衛の依頼を持ち掛けてきてね。殺し以外の仕事は引き受けるつもりが無かったから、僕はそれをすぐに断った。だけどね、それでも彼女は僕に縋りつき、なけなしの大金をはたいてまでして、僕を雇おうとした。そんな彼女の懇願……いや、見苦しいほどにまで生に執着する必死な有様を見て、僕は不思議と彼女に気を許してしまい、試しに護衛の依頼を受けてみることにしたんだ」

 

 クリスの掠れるような声音と、俯きながらもどこか遠くを見つめるようなその眼差し。深紅の瞳は血のような輝きを放ちながら、彼は話を続けてくる。

 

「結果として、依頼を引き受けて正解だったよ。彼女はどうやら命を狙われていたみたいでね、彼女の追手が次から次へと押し寄せてきた。……入れ食い状態で楽しかったなぁ。僕には彼女の護衛という明確な目的があったから、僕は気兼ねなく追手を撃つことができたんだ。おかげさまで、僕はたくさん銃を使うことができた。躊躇いもなく、周囲の目も気にすることなく。僕は依頼されたという体(てい)で、追手に銃口を向けて、その引き金を引くことができたんだ」

 

 淡々と語りながらも、右手を拳銃のような形にしていくクリス。しかし、その手を力無く膝の上に落としていくと、彼は不敵に笑みながらもそれを語り出してくる。

 

「数週間に渡る、長期の依頼だった。その間ずっと、僕は彼女を抱え込むようにして、日本のあちこちを渡り歩いたよ。……だから、なんだろうね。共にする時間が増えていくにつれて、彼女は次第と僕に好意を寄せ始め、恋情を抱き、そして、生涯のパートナーとして嫁ぎたいとまで言い出した。僕にはその気が無かったものだから、せめて彼女の機嫌をとるために、僕はその場しのぎとして、何度か彼女と身体を重ね合った」

 

 不敵な調子はそのままに、口を止めてくるクリス。彼の様子をうかがうように一同が視線を投げ掛けていく中で、クリスは一息置いてから話を続けてきたものだ。

 

「結果として、僕は彼女を守り切ることができなかった。最終的に流れ着いた龍明という街において、あまりにも強大な力を有する裏の組織が立ち塞がってきたんだ。……僕へと撃ち出された弾丸が左腕を掠って、庇っていた彼女の左胸に着弾してしまった。致命傷だったよ。治療しようにも龍明にはあてがなくて、僕は彼女を抱え込んだまま、追ってくる組織から逃げるように街中を走り回った」

 

 目撃したわけでもないのに、脳裏にはその情景が思い浮かんでくる。

 お姫様抱っこの要領で、女性を抱えながら必死に駆け回るクリスの姿。夜を迎えた龍明には暗闇が落ち始め、ひと気の無い路地裏の、ビルの一角にある外階段の途中に身を隠した彼は、抱え込んだ女性を壁に寄り掛からせて、容態を確認していった。

 

 ……彼女の口から溢れ出る流血。どくどくと流れるそれは左胸にもうかがえて、もはや生存は見込めないであろう絶望的な状況に、クリスは彼女をゆっくりと抱き寄せながら向かい合っていく。

 

 女性の顔は見えない。しかし、彼を真っ直ぐと見つめていたことだけはよく分かる。そんな情景の最中にも、クリスは言葉を続けてきた。

 

「彼女の傷は性質(たち)が悪くてね、緩やかな激痛に悶え苦しんでいた。僕から見ても、その様子は痛ましく思えたな。そんな僕が様子を気にしていると、彼女はそれを提案してきた。……せめて、僕の手によって死を迎えたい、と。僕の手で、楽に殺してほしい、と」

 

 膝に置いていた右手を持ち上げたクリス。その右手は未だ拳銃の形を維持しており、まるで構えるかのように“それ”を前方へ突き出しながら、彼は話を続けてくる。

 

「僕にそんな義理は無かったからね。僕は断ったよ。今から闇医者を探してくるから、ここで待っていてほしいと、そう伝えてね。でも……彼女は僕のことをよく理解していた。彼女は最後に、依頼してきたんだ。『私を殺してほしい』、とね。……僕は殺し屋だ。引き受けた依頼通りに対象を抹殺する、殺しを生業(なりわい)とする人間。僕はその依頼を引き受けて、目の前に存在する“対象”へと銃口を向けた。その際に彼女は、この依頼の報酬となる言葉を述べてきたよ。最後に、今まで守ってきてくれた恩人に対する、『ありがとう』、という言葉をね。そして、彼女からの“報酬”を受け取った僕は、眉間を捉えたその拳銃の引き金を引いたんだ」

 

 持ち上げていた右手をゆっくりと下げたクリス。淡々とした調子はそのままに、彼は不敵に「フフッ」と笑みながらそれを喋り出してくる。

 

「せっかく部屋に招いてくれたのに、空気の読めない話をして悪かったね。僕はこれでお暇(いとま)でもしようか」

 

 そう言って、音も無く立ち上がったクリス。彼の動作に自分も反射的に立ち上がり、「じゃあ、玄関先までお見送りするよ……!」と口にすることで、彼と一緒に玄関先まで移動したものだった。

 

 

 

 

 

 扉を開き、深夜の龍明へと踏み出す自分ら。クリスのお見送りとして一緒に外に出た自分は、クリスへと「また、いつでもここに寄ってよ。歓迎するからさ」と言葉を掛けていくのだが、これに対してクリスは暫し無言のまま周囲を眺め遣っていくと、次にもそれを喋り出してきたのだ。

 

「前々から思っていたけれど、君って危機感が無いよね」

 

「危機感もなにも、クリスは仲間であって友人でもあるからさ。殺し屋……でもあるけれど、俺は、クリスとは普通に接していきたいって思ってるんだ」

 

「なるほど。お人好しとは君のような人間を言い表すために生まれたんだろうね。まぁ、僕が言う『危機感が無い』という言葉の意味は、殺し屋とも気安く接触する君の身を案じてのものではないことは伝えておこうかな」

 

「えっと、それって……?」

 

 彼の顔色をうかがうような視線を投げ掛ける自分。そんなこちらの眼差しに対して、彼は不敵に微笑みながらそれを告げてくる。

 

「“君は狙われている”。今、この時も。どこかから、その銃口を向けられている」

 

「え……?」

 

「情報が入ってきたんだ。僕も知っている殺し屋の一人が鳳凰不動産に雇われて、君の身柄を狙っている」

 

「え……。今も狙っているって……でも、気配に敏感なレダは何も言ってこなかった……」

 

「レダも気が付けないでいるのさ。気配を消すことに関してなら、“彼女”の右に出る者はいないだろう。……監視カメラ越しの視線にさえ気付けるレダでさえ、“彼女”の気配は感じ取れない。それは僕も例外ではないし、多分、野生の動物でさえ、“彼女”の姿を捉えるまでその存在を察知することはできない。かもね」

 

 首を傾げるようにして、不敵に笑みながら言い切ったクリス。それから彼は踵を返すように振り返り、「気が向いたら、ここに寄らせてもらうよ。それじゃあね」と言葉を口にしてから、淡々とした足取りで歩き出していった。

 

 ……今も狙われている? この瞬間も、こちらの様子をうかがっているとでも言うのか……?

 謎が残るクリスの言葉に、自分は不安に思いながらも周囲を軽く見渡していく。それから、寒気を感じたために急ぎで玄関へと引き返し、扉を閉めてから鍵をかけて、それを入念に確認してから部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 覗き込んだスコープから、“対象”の姿が消え去った。

 構えたスナイパーライフルから顔を上げ、数十メートルも離れた途方のアパートを眺め遣る存在。“彼女”はそのまま立ち上がっていくと、百七十五はあるだろう高身長の背を真っ直ぐと伸ばし、今も吹きすさぶ建物の屋上の、その風に晒されるように、腰辺りにまで伸ばした深紅の長髪をなびかせた。

 

 ……トップスインスタイルの、白色の襟付きブラウスに、赤色と黒色のチェック柄ミニスカート。上下を繋ぐ黒色のバックルベルトに、白色のルーズソックスとミルクティー色のシューズというその格好で佇む女性。

 

 今もその背は、宵闇の龍明に溶け込むように実在していた。

 それは、気配を殺し、音を絶ち、空気に扮した質量を伴わない存在感。目立つはずの深紅の長髪が、風と一体化するようになびかれるその中で、スナイパーライフルを持つ“彼女”は龍明と同化するように、虚無を纏いながら月の光を浴びていたものだ。

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