俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
あけましておめでとうございます。今年も『俺のハーレムはワル女子だらけ』をよろしくお願いいたします。
夕方の龍明。鳴り響く下校のチャイムを前にして、自分は私服姿のシュラとハオマの二人と一緒に、龍明高等学校の校門付近で佇んでいた。
直にも、下校する生徒達が姿を見せ始めた。彼らは何気無い日常を謳歌するよう歩を進めていき、中にはシュラとハオマに見惚れる素振りも交えながら、各々は学校を後にしていく。
特に、若い男の子が大好きだというハオマは、まるで大量のご馳走を見送るかのような恍惚の表情を浮かべていたものだ。
回転寿司において、レーンを流れていくお寿司を眺めるかのような視線。持ち前のフワフワとした朗らかな雰囲気が醸し出されているものの、真っ直ぐな眼差しの奥に秘めた内なる欲求はきっと、獲物を品定めするかの如く牙を剥いていたに違いない。
そんなハオマが、思わず「年頃の男の子がいっぱい……。みんな若々しくて、新鮮で、美味しそう……うへ……うへへへ……」と言葉を漏らしていく。これにシュラはジト目を向けながらもハオマへと喋り出していった。
「事務員のネーチャン、ここは堪え時やで。今ここで手ェ出したら、もれなくお縄になるからな……。抗争も控えとる今パクられたら、サツと裏で繋がっとるかもしれん鳳凰不動産の連中に、牢屋ん中で粛清されかねないんやからな……」
「わ、分かってるよ……っ!! わ、私だって、これでもお店の最年長なんだから……! みんなのお手本になれるよう、我慢の一つや二つくらいどうってことないからね……っ!」
「ウチからしたらむしろ、事務員のネーチャンがホステスん中でも断トツで不安やねん……」
「だ、大丈夫だって!! こ、こんなに入れ食いフィーバーな男の子達が目の前にいても、せめて視線でよぉ~~しよしよしよしって気持ちで撫で掛けるだけに留めるからっ!! ……ぁ、あの子、すごい筋肉……。身体おっきいし男気ムンムンしてるし……はわぁ、今ドキの高校生ってしゅごぃ……。ぁ、……やだ、子宮の奥がピクピクしてきてムズムズしてきちゃっ……ッ、じゅるり。ッハ、よ、よだれっっ」
「ホンマに大丈夫なんか…………? 事務員のネーチャン連れてきたの、間違いやったんやないかこれ……?」
顔がめちゃくちゃ良いだけに、色々と残念な有様を晒すハオマ。今も袖で口元を拭う彼女の様子に年下のシュラが汗を流しながら見遣る中で、自分は校門からこちらへと歩いてくる三人の女子生徒に意識が向いていった。
制服姿のミネ、ノア、そして彼方。歩いてきた少女らが合流してくると、先頭にいたミネが不機嫌そうな調子で「お待たせ」と言葉を投げ掛けてきたものだ。これに自分は「今日もお疲れ様」と返していく最中にも、彼方の姿を見たシュラが興味深そうに喋り出してくる。
「ほぉ~、ジブンが友仁っちゅうジョーチャンやな? 店ん中でウワサになっとるで。蓼丸のジョーチャンにお熱な同級生がおるってな。あぁ、ウチはシュラっていうんや。よろしゅうな。……それにしても背ぇ高いなぁジブン、ウチも見上げんと顔が見えへんわぁ」
百七十三という背丈は伊達ではなく、ユノを除けば女性陣の中で彼方が最も背が高かった。
とはいえ、彼方はカタギの人間。少女は宵闇の化身が如く無感情の視線でシュラを見遣り、揺らめく濃いピンク色の瞳を光らせながら、表情ひとつ変えずに返答を行ってくる。
「噂をしてもらう分には構いません。貴女も蓼丸さんが狙いですか?」
「ちゃうちゃう、ウチはニーチャンにぞっこんなんや。そっちのジョーチャンはくれたるから、そないに敵意剥き出しにせんといて」
「? ニーチャン?」
こちらへと向いてくる彼方。その無感情な目に自分はちょっとだけ気圧されるように向かい合い、その間にもシュラがそれを説明し始めた。
「せやで。ウチとニーチャンは兄妹だと思うてもろてええからな。そないなわけで、よろしゅうな!」
「そうですか。よろしくお願いします」
なんか、流れでシュラと兄妹設定になった。
特に口出ししない自分が眺めているその脇では、ミネがぶっきらぼうな調子で「自己紹介はここでする必要無いでしょ。デパートに向かいながら話さない?」と提案したことで、一同はそれに頷く形で歩き出していく。
この団体に彼方もついてくるのだが、少女はちょっとだけ表情を明るくしながらも、しかし眉をひそめた様子でミネへとそれを訊ね掛けたものだった。
「蓼丸さん。蓼丸さんからのお誘いはとても嬉しかったわ。けれど、蓼丸さんが勤めるお店のパーティーに、どうして私が招待されたのかが分からない」
「ん、あまり気にしなくてもいいから。なんか、ユノさんが『友仁さんを誘って』って言ってたから、言われた通りに声を掛けただけだし」
「ありがとう蓼丸さん。蓼丸さんが傍に私を置いてくれるその気持ちはすごく嬉しい。でも、自分が場違いのようにも思えて気まずいわ」
「いいんだってば。お店の人達はみんな、余計な事は言わない人達だから安心して。もし万が一なんか言ってきても、アタシがそいつ直々にぶっ飛ばして黙らせるから」
「蓼丸さん……。カッコいい……」
「えぇ……? カッコいいって言われても、うーん……」
「好きです。付き合ってください」
「ぅ、うーん……ひ、ひとまず返事は保留で……」
さり気無い動作で、ミネの左腕に引っ付いた彼方。少女のアプローチにミネが困ったサマを浮かべていく光景を眺めながらも、自分は隣を歩いていたノアへとそれを喋り掛けていく。
「それにしても、急遽、夜のキャバレーが休業になったから、
「しかし、提案者である当の本人は多忙につき欠席ときた。きっと、“戦い”に備えての準備として休業を設けたんだろうね。何にせよ、本日の業務が免除された以上、もたらされた束の間の平穏を利用しない手はない。それも、店の厨房のみに留まらず、会場の全てを使い切る勢いで、ド派手に、豪快に楽しもうじゃないか! これは英気を養うに十分な交流となるだろうし、“
胸に右手を添え、語るように喋るノア。透明感ある中性的な声音で口にした言葉の裏には、今にも始まりかねない『龍明抗争』の可能性を考慮した意味合いが含まれていたことだろう。
……明日にも自分達は死んでいるかもしれない。
自身らが置かれた状況を理解しているからこそ、後悔が残らないよう今を生きていく。表面では一般的な暮らしや仕事で日常を装っているものだが、
そして、鳳凰不動産や骸ノ市に狙われている自分も例外ではない。
今夜のパーティーのため、複数のグループに分かれて外に駆り出されていた自分達。他にもラミア、メー、レダ、クリスの四人で何か買い物をしているのだろうし、ユノは現在、荒巻と行動を共にすることで“抗争”に向けた準備に取り組んでいる。
他のホステス達やボーイ達も各々で何かを用意しているだろうから、自分の護衛も兼ねた、ミネ、シュラ、ノア、ハオマのグループも、そろそろ買い出しを済ませて店に向かわなければならない。
今も前方では、愉快げに絡むシュラと煩わしそうにする彼方、そんな彼女らに囲まれる困り顔のミネという三人がわちゃわちゃと戯れていた。
この光景をハオマは見守るような視線で眺めていく中で、この隣を歩いていたノアは前方のやり取りに加わることなく、どこか落ち着かない様子で歩いていたものだ。
自分の右側を歩く少女は、迷子になった左手の置き場に困らせていた。それは、こちらへ近付けるとそれは引き返し、しかしまたこちらへ近付いては、ササッと素早く引っ込めていく。
時々、何かを掴もうと手は開かれるのだが、それはすぐにも閉じてしまって引き戻してしまう。この、一部分だけが忙しなく動く様子を不思議に思ったことで、こちらから問い掛ける形でノアへと喋り出していった。
「ノア? 大丈夫? 何かあった?」
「あ、あぁ!! 柏島歓喜! 別に、どうってことはないさ! ちょっとだけ、ボクの中に巡る内なる優柔不断な一面が、ボクの意思に反発するよう勝手に指示を送り出してきてしまってね……!」
「うーん……? とにかく、なんかあったらすぐ誰かに言ってね。相談に乗ることなら、俺にも務まるかもしれないし。な?」
「あぁ、そうだな……! ありがとう、柏島歓喜……! キミに対する重度な期待を上回るそれら優しき言葉の数々に、ボクの胸の内は天使の翼が授けられたかのように軽くなる。キミから差し伸べられるその手が神々しくさえ見えてくるよ。ボクは本当に、男には恵まれたな……っ」
軽快に喋る様子とは裏腹に、どこか誤魔化すような印象を受けるノアの喋り。少女の落ち着かないサマに自分はイマイチ把握し切れないことから首を傾げていくのだが、次にもこちらの話に介入するように、見守っていたハオマが歩み寄りながらその言葉を掛けてきたのだ。
「ノアちゃん! もっと仕事とプライベートを割り切ってみよ~! もちろん、カンキ君を守ることが私達の最重要任務でもあるけどさ、何かあっても何とか対応できる戦力や人数はいるんだから、今は一緒にカンキ君とのお出掛けを心から楽しんでいこうよ!」
「は、ハオマ……」
「あはは~……おばさん余計なお節介だったかなぁ。でもでも! 抗争や銀嶺会のことがプレッシャーになっていても大丈夫だから! このハオマさん、約束してあげる! そういうワケでぇ~……カンキ君。ノアちゃんの手、握ってあげて」
急に振られたことで、自分は「え?」と返事してしまいながらも、言われるままノアの左手を優しく取っていく。
生気を思わせない色白の肌は、色味とは相反して非常にきめ細かい質感を伴っていた。
例えるなら、水晶だろうか。工芸品を扱うように慎重な手つきでノアの手を取っていくと、これに少女は意外そうに見開きながらも、満更でもなさそうに相手から手を繋いでくれたものだった。
ハオマにそそのかされて、二人で手を繋いだこの道のり。ノアの手をしっかり掴んで、自分はエスコートするように少女へとそれを話し出していく。
「ノア。気付けなくてごめんね」
「柏島歓喜……! キミは、手を繋いでみたいというボクの、心底なる欲求を察してくれたというわけなのかいっ……!?」
「ノアが今歩いている方は、車道側だ。俺のような男が車道側を歩かないといけないのにね。初歩的な部分を忘れていて申し訳無かった。この際だから、場所を入れ替えてからも手を繋いでデパートに向かおうか」
「…………。もう、全くもってその通りだよ。ようやく気が付いたと言うのかい? こんな初歩的なエスコートの知識も抜け落ちてしまっているのに、これではボクのエスコートなんてとても務まりそうにないね」
「う、耳が痛いな……」
「いや、責めているわけではないんだ。ただ、ボクの気持ちを理解してくれようとしたその姿勢こそは、ボクにとって好印象だったよ。……さぁ、柏島歓喜。このボクをエスコートする権利をキミに与えようじゃないか! 見事ボクを納得させるエスコートができた暁には、現役JKのボクによる天使の口付けを賜ってみせよう!」
「おお、それを聞いたら俄然やる気が出てきたよ。ノアのキスがご褒美なんて、これは頑張るしかないな」
立ち位置を入れ替えて、ギュッと強く手を繋ぐ自分とノア。その時にもノアとハオマの距離が近くなったことで、ノアはハオマへとその言葉を掛けていく。
「ハオマ。ありがとう。キミの気配りのおかげで、ボクは思い描いていた理想の絵図を実現することができた」
「ん~? なんのことかなぁ~。とにかく、めでたしめでたしって感じ? なら、良かった良かった~」
「アハハ、決めるべき場所できちんと決めてくるハオマという人物には恐れ入るよ」
それを口にしてから、ノアはこちらの手を引くように前方へと駆け出し始めた。
え? 俺がリードするんじゃなかったの?
内心に巡った疑問を自覚する前にも、いつの間にか走らされていたこの両脚。それも、けっこう容赦の無い速度でノアが駆け始めたものだったから、自分は唐突な激しい運動に振り回される形で目の前の三人に合流した。
余計にわちゃわちゃとし始めた集団。話はややこしくなり、ミネを囲うライバルが増えた彼方の、無感情な威圧が余計と目立ち出したその光景を、ハオマは遠目から見守るように眺めていたものだ。
そして、軽く両腕を組みながら鼻でため息を一つ。ふぅっと言って大気に溶け込むそれに目もくれない彼女は、妖艶な大人の雰囲気を醸し出しながらもにんまりと笑んで、そう呟いていったのであった。
「眩しいほどの輝かしい青春だなぁ。ノアちゃんもやっぱり女の子で、しかも、どのホステスよりも乙女なのかも。……些細で気にも留めない場面なんかじゃ王子様なのに、本当に大事な所でひよっちゃうのがまた愛おしくっていいねぇ~。年上のお節介なお姉さんとして、背中を押してあげたくなっちゃうなっ!」
場面はデパートの中に移り、自分らは食品売り場を見て回っていた。
カゴのカートを押すシュラと、シュラについていくミネ……についてくる彼方。彼女らの後を追う形で自分とノア、ハオマが他愛ない会話を交わし合う中で、シュラとミネもまたこんな話を行っていく。
「お肉にお刺身、ピザにメロン……っ!! ええなぁええなぁ……! 並んどるだけで眼福やぁ……! どれも魅力的やさかい、全部買うてやろうか思うくらい美味そうやなぁ……!」
「……今日はパーティーだもんね。少しぐらい、高そうなの買っても許される……よね?」
「今日の出費は店の経費から出るさかい、バレへん程度に高級な食材でも混ぜたろ!! これでなんか言われたら、『同級生のジョーチャンっちゅう客へのおもてなしや』でも言うとけばええやろ!」
「なんか、友仁さんに対して謎の罪悪感……」
迷いの無い手つきで、牛肉をカゴにわんさか入れ始めたシュラ。これを眺めるミネが複雑な表情を見せていく脇で、彼方は無感情に少女へと話し掛けていく。
「本当に調理もしないで食材を持ち寄るだけなのね」
「あぁうん、まぁね。アタシ達、こういうトコは結構雑っていうか。きっちりしてる人もいるけど、基本的にその場のノリで決める自由人が多いから」
「蓼丸さんはストレス無い?」
「ストレスは無いよ。アタシ的には気が楽。でも、ちゃんとしてる友仁さんからしたら、アタシらってホントに不真面目かも」
「不真面目な蓼丸さんも素敵。どこへでもついていくわ」
「あぁ、うん……。ありがと……?」
返答に困るミネが眉をひそめていく。これに対して彼方は構う事なくミネに引っ付いていく光景の手前、シュラが刺身のパックを手に持ちながら二人へと声を掛けていく。
「ジョーチャンらも遠慮なんかせんで、食べたい思うたモン全部カゴん中に入れていきや。今日だけやで、女帝のネーチャンがこないに寛容なのもなぁ。ウチらも何があるか分からへんもんやから、贅沢できる内に贅沢しとくで!」
「シュラは遠慮しなさすぎでしょ……。牛肉のパックだけで山積みになってるじゃん……」
「ええんやってええんやって!! 根拠はあらへんけど大丈夫やって!! ッへへ、こないに牛肉あったら、どないな料理でも作れるんやないか? ビーフシチューやローストビーフ、しゃぶしゃぶなんかもできるなぁ! あぁ~~もう今から楽しみやねん!! 銀嶺のジョーチャンも厨房で腕を振る舞う言うて張り切ってくれとるからな! ジョーチャンの手に掛かった牛肉は悉く絶品料理に生まれ変わること請け合いや!!」
「まぁ、ノアが料理してくれるんなら安心できるよね。……なんか悔しいけど」
ボソッと呟くように言葉を口にするミネ。そうして唇を尖らせるようにした少女を彼方は見遣っていくと、無感情ながらも首を傾げてそれを訊ね掛けていった。
「銀嶺さんのこと? 彼女は料理が得意?」
「そっか、友仁さんは知らなかったよね。アイツ、料理の腕はピカイチなんだよ。意外だよね」
苦笑いしつつも、確信めいた声音で喋るミネ。少女の様子に彼方はじっと視線を投げ掛けていくと、心無しかムッとした顔つきでミネとの会話を続けたものだ。
「…………」
「友仁さん?」
「料理ができる銀嶺さんが好き?」
「え? いやいや、う~ん……。まぁ、キライじゃないけど……」
「蓼丸さんは、銀嶺さんのことが好き?」
「えぇ、それは飛躍しすぎ。別に恋してる意味での好き嫌いじゃないからっ……」
「私も料理できる」
「え? ホント? でもなんか、全然意外じゃないかも。友仁さんはなに作れるの?」
「……冷凍ギョーザと、カップヌードル」
瞬間、隣でカートを押していたシュラが「ブフッ!!!」と盛大に噴き出した。
ミネから目を逸らす彼方がまた、哀愁を漂わせていたものだった。これにミネが返答に困りながらもシュラの背中を力強く叩いていき、シュラはシュラで痛がりながらも、「だってぇ!! だってぇッへへッ!!!」とツボにハマった様子で暫し笑いこけていた。
……何とも愉快げに絡む三人を、後ろから眺めていた自分。平和を感じさせる日常の一コマにほっこりとした気持ちでそれを見ていると、傍についていたノアもそちらへ視線を投げ掛けつつ、しみじみとした調子で喋り出してきたのだ。
「柏島歓喜。ボクはこの店に預けられて正解だったと、心から思うことができるんだ。最初こそは、
「オヤジさんにとって、ノアは愛する一人娘だろうからね。オヤジさんの気持ち的には、娘には極道という道を歩んでほしくなかったのかなって、一般人の俺からするとそう推測しちゃうものだよ」
「オヤジの組は、ボクの実家と同等さ。それは今でも変わらない考え方だし、そんな"家族達"と一緒にボクも前線で戦いたいと、今も心の奥底で懇願しているものだよ。しかし……ボクはワガママばかり言ってられないのかもしれない。オヤジは、ボクの身を案じたからこそ荒巻に預けた。極道にとって、借りを作るということは、メンツを潰すことにも繋がるからね。メンツこそが極道の在り方であって、我々の全てでもあるのさ。特に、会長という立場の人間は絶対になめられてはいけない。だけど、それでもオヤジは頭を下げてまでして、ボクを荒巻に預けたんだ」
「俺が言えた義理じゃないとは思うけれど、きっと“家族のみんな”もオヤジさんの判断に納得してくれていると思うよ。見た目こそは娘をひいきする親御さんに見えるかもしれないけれど、ノアは組の人間を家族として大切に想っている、立派な組織の一員なんだ。それも、お年頃の可愛い女の子ときた。そんなノアが傷付く姿を、家族のみんなは見たくないんじゃないかな」
「そう……だろうか?」
「そうだと思うよ。みんな、ノアには傷付いてほしくなんかないんだ。だからこそ、みんなは納得してくれていると俺は信じたい。苦悩の末に選んだであろう会長さんの判断によって、むしろ自分達の“親父”の印象が良くなった方にね。……メンツは潰れてなんかいないよ。ノアが守られることで、オヤジさんの威厳が保たれている。今はそう信じてみよう」
極道の世界を知りもしないため、推測でしか説得することができずにいた自分。
だが、こちらの言葉にノアは次第と表情を明るくしていくと、次にも少女は苦笑しながらもコクリと頷いてみせて、困ったように眉間にシワを寄せながらもそう返答を行ってきたものだ。
「……そうだね。ありがとう、柏島歓喜。ボクはいつになっても、キミの言葉に救われているな。キミが口にする言葉の数々が、ボクにとってすごく心地が良い。その意味に根拠や真実が含まれていなくても、ボクは不思議とキミの言葉に納得してしまえて、安心してしまえる。どうしてだろうね。キミに慰めてもらえると、ボクの胸が軽くなるんだ」
「ノア……」
「……いつもありがとう、柏島歓喜。ボクはもう、キミ無しでは生きていけない身体になってしまったかもしれない。キミから賜れる言の葉に最大限もの敬意を。そして……親愛なる存在に、心からの誠意を表したい」
右手を自身の胸に添えて、貴族のような華麗な佇まいでそれらを口にしたノア。しかし、自身が述べた言葉を自覚した少女は次にも、色白の頬をポッと赤く染めながら、ボフッと頭を沸騰させるように爆発させつつ、先のセリフを誤魔化すように両手をブンブン振りながら早口でそれを喋り出してきた。
「ち、違うぞ柏島歓喜ッ!!! い、ぃや、違うことはないものだがっ。決して、そのだなっ。ボクの言葉で何かしらの語弊を招いたようであれば、そのっ、か、勘違いをしてもらいたくはないのであって……。いや、別にそれは勘違いというワケでもないのだがっ!!!」
「の、ノア……?」
突然どうした?
内心で訊ねつつ首を傾げた自分の反応に、今までずっと傍で眺めていたハオマがノアへと歩き出していく。それから少女の後ろにくっ付いて両手を肩に乗せていくと、ハオマは穏やかな面持ちでそれを説明してきたのだ。
「ノアちゃんは、自分の気持ちを上手く言葉にできずにいるだけだもんね~?」
「ハオマ……っ? このボクが、自分の気持ちを上手く言葉にできずにいる、とは一体……?」
「今までその気持ちを、一度も知ることなくここまで来ちゃったのかなってこと。恋しちゃったのかどうかは分かんないけど、その気持ちは多分ね、『カンキ君のことが好きで好きで仕方無い』って感情なんだと私は思うんだ~」
「す、好き……? このボクが、柏島歓喜のことを……?」
「ムフフ……良い顔してるね! そんなノアちゃんにクエスチョン。こんなにドキドキした経験は、今までにあるかな~? 記憶の隅々まで遡って思い出してみよ~!」
「っ……。初めてコンバットナイフを人間に突き立てた時の感情に似ているような気がするが……。もしかしてこれが…………恋、なのか……ッ?!」
「うーん、さすがにそのドキドキはちょっと違うかなぁ……」
アハハ~……と朗らかに苦笑いするハオマの様子と、頬を赤く染めて両手を胸にあてがいながら口を尖がらせたノアの姿が微笑ましい。そんな彼女らにほっこりさせられながらも、こちらからの注目を浴びつつハオマとノアは会話を続けていく。
「でもねぇ、ノアちゃん。そのノアちゃんの感情と、今の『カンキ君大好き~』って感情は、実は似ているところがあるのかもしれないね?」
「似ているところ……? ハオマ、どうかボクのことを焦らさないでくれ。今もボクの胸の中では抑え切れないほどの鼓動が脈打っていて、ボクに対して何かを訴え掛けてきてすごくうるさいんだ……っ!」
「うんうん! それそれ! ノアちゃんのそのドキドキは多分、ナイフを突き立てた~って時にもなっていたと思うんだけど。経験豊富な年長者の私から見たら、それはね、『知らないことに対する恐怖』によるものだと思うんだよ~」
「知らないことに対する、恐怖…………? ボクが、柏島歓喜に怯えていると……?」
「んまぁ、そういうことになるのかな? でもでも! 悪い意味なんかじゃなくってね。むしろ、良い意味で、ノアちゃんは怖がっているの。……恋のように、胸に熱く滾る抑え切れないほどの淡い感情。まだまだ若いノアちゃんだけど、その気持ちを経験するにはちょっと遅かったのかもしれないから、理性や知識が伴って、大人に近付いた今になって初めて経験する新しい気持ちの芽生えに、もしかしたらノアちゃんの潜在的な部分が怖がっちゃっているのかもしれないねぇ~。って、このハオマさんは思うわけですよ!!」
ノアの後ろから両手を伸ばしたハオマは、その両腕を下げていってノアの両手を掴んでいく。そうしてゆりかごのように揺れ始めたハオマのそれにつられるよう、ノアも前後にフラフラ身体を揺らしながら、こちらをまじまじと見つめてくる。
……上辺の強がりで塗りたくった、その奥で眩く光る無垢の瞳。乙女が乙女である所以を自覚し始めたその淡い瞬間に立ち会う中で、ノアは暫しこちらと見つめ合ってから、透明感ある面持ちで、されど自信に満ちたハキハキとした声音でそう言葉を伝えてきたものだった。
「柏島歓喜!! …………ボクはおそらく、キミに恋をしてしまっているらしい! キミと見つめ合っていると、胸の奥の鼓動が一層と速まり始めて、ボクの身体が芯からポカポカと温まり出してくる。……自覚できないこの、むず痒くて、どこか切ない胸の感覚。ボクはこれを、キミとの交流によって、無意識と育んできたのだろう」
「……ノア」
「柏島歓喜! ……どうか、助けてくれないか? 胸の奥がムズムズとしてしまって、どうも落ち着かないんだっ! キミに見つめられると心が温まり、しかし、意識してもらえない現実に切なくも思えてきてしまえるっ! そんなボクのことを、キミが良ければぜひ、救ってもらえないものだろうかっ!?」
ハオマの両腕を優しく解いたノアが、こちらを真っ直ぐ見つめながら歩み寄ってくる。
右手を胸にあてがい、左手は緊張でピンと張っている。その歩みは乙女さながらの前のめりなものであり、可憐で年相応な愛嬌ある顔が迫る光景に、自分は気圧されるように後ずさりしながらも向かい合っていくその最中にも、ノアはノアで言葉を熱心に続けてきたものだ。
「……柏島歓喜。ボクは、この感情の正体を知りたいんだ。もしかしたら、この未体験となる世界の広さを知ることこそが、オヤジがボクを
「……なんだか、聞いている俺が恥ずかしくなってきちゃったな」
「フハハッ、同士よ。ボクも今、熱烈なるアプローチによって、体中の穴という穴から火が吹き出そうなほど恥ずかしい思いをしているよ……!」
「っ……ノアの、穴という穴……」
「ふふ……フフフ……っ。柏島歓喜が……ボクのことを意識してくれると……こんなにも嬉しくて嬉しくて……心が弾む……っ。世間のカップルは、このような高揚感を伴いながらひと時を一緒に過ごしているのだろうか……。知りたい……知りたい……知ってみたいぞ……! この、ドロドロに溶けそうなほどに灼熱な、胸の内の正体を……ッ!!!」
な、なんだか変にスイッチが入ってしまった……?
こちらの懐に飛び込むように接近してきたノア。そして、制服姿の少女はスカートがめくり上がる勢いで姿勢を下げていくと、そのまま左膝を床に着けていき、少女は右手でこちらの右手を取りながら、左手を胸にあてがいつつ渾身なるイケメン顔でそれを誘ってきたのであった。
「柏島歓喜。ボクと同伴してくれないか!? これは、ボクから捧げる誠意の形さ。ボクはキミを、そしてキミはボクに心身ともに寄り添っていき、二人の関係性によって生じる感情の正体を二人で育んでみせるんだ。……あぁ、恥ずかしいよ。すごく恥ずかしい……! ほっぺたが真っ赤なリンゴになってしまいそうなほどに、熱が顔中に迸っている……っ!! さぁ、柏島歓喜。ボクと愛し合おう。