※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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【注意書き】

 第70話~第71話において、暴力的な表現が含まれる描写を行う予定です。

 極力オブラートに包むものの、中にはゴアな表現であったり、ヒロイン達に対する物理的または性的な暴力の描写も含まれるかと思います。

 そのため、『人体欠損といった刺激の強い描写が苦手』な方や、『ヒロイン達の可哀想な姿を見たくない』という方は、第72話までお話を飛ばしていただけますと幸いです。


第70話 Seconde conflit Ryumei 《第二次龍明抗争 前編》

 曇り空が不穏である昼の時刻。寂れた廃墟の中において自分は、ラミアと共にする時間を噛みしめるように日々を過ごしていた。

 

 第二次龍明抗争が開戦し、ここ数日は昼夜問わずに銃声や爆発音が聞こえ続けている。たまに混じる男性の絶叫が一層もの生々しさを知らしめてくるのだが、その度にラミアがベッドにいるこちらに寄り添ってくれては、適当な調子で「ウチがついてますから、大丈夫ですからねー」と落ち着けてくれたものでもあった。

 

 可憐ながらも度胸がある彼女に支えられることで、自分は今も何とか正気を保つことができている。そうしてこちらの不安を取り払ってくれるラミアに日頃から感謝し、彼女と一緒にいられるこのひと時を心から大事にするように、自分はラミアの言葉に頷きながら、その小さな身体を抱き寄せた。

 

 ……彼女の声が、彼女の温もりが、彼女の存在が、現状における唯一の癒しだ。

 抱き寄せられたラミアは、抵抗することなくこの懐に収まっていく。それから彼女は身を寄せるように頭をこちらの肩に乗せてくると、そこにじっと留まりながら、この不安に寄り添うよう穏やかに言葉を口にしてきた。

 

「大丈夫ですよ。また、今までのような日常が戻ってきますから」

 

「でも……ここまで聞こえてくるほどの戦争をしているんだ……。こんな派手な戦いをされたら、街も、人も、絶対に無事では済まされないよ……」

 

「まー、まず無傷で終わるだなんて思いもしませんけどね。ただ、ウチらに関しましてでしたら、皆さんはなんやかんやあってLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に辿り着くことができた、云わば選ばれしヒト達ですからねー。この悪運こそが、ウチらの一番の長所だったりもします。だから大丈夫ですよ、カンキさん。また皆さんとお会いできますよ」

 

「そう、だといいな……。そうであってほしい……。一人でも欠けてほしくなんかない……誰も、いなくならないでほしい……」

 

 ラミア、メー、ユノ、レダ、ミネ、シュラ、ノア。クリス、荒巻、ハオマ。

 これまで一緒に過ごしてきた、ホステス達を始めとするLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の仲間達。皆が裏社会で生きる、決して褒められた存在ではないことを認識した上で、いつからか自分は、そんな皆のことをかけがえのない人達として、心から大切に思っていたらしい。

 

 誰も消えてほしくなんかない。

 降り掛かる不幸に怯え、頭を抱えるようにしてふさぎ込んでしまう。この様子にラミアは背中をさする形で気持ちをなだめようとしてくれるのだが、次の時にもラミアの右耳に着いていたイヤホン型の無線機から、機械混じりのシュラの声が響いてきたのだ。

 

『紫のネーチャン、そこにおるか?』

 

「はい、どーかしました??」

 

『覚悟を決める時が来たで。“骸ノ市と思しき連中”のお出ましや』

 

 自分も同じ無線機を右耳に着けていたことから、シュラの同じ言葉が耳に入ってきた。

 共にしてラミアはため息をつきながら立ち上がっていくと、平然としたサマで「分かりました。引き続き、メーさんのバックアップもお願いします」とシュラに伝えてから、ラミアはこちらへと振り向きつつその言葉を続けてくる。

 

「周辺の監視カメラで見張っていたシュラさんからの通達です。どーやら、ウチらの隠れ家がバレたみたいですね」

 

「ヤバいな……っ。早く逃げよう……!! この部屋に、裏口へ続く隠し階段があるんだよね……!? なら早く行こう、ラミア……っ」

 

 もう、今にも泣き出しそうな程に極限な気持ちとなった自分。この訴えと共にラミアの身体を揺すっていくのだが、彼女は一歩も動かないどころか、真剣な面持ちでこちらと真っ直ぐ向かい合いながら、非常に落ち着いた声音でそれを伝えてきたのだ。

 

「ウチとはココまでです。ウチはコチラで骸ノ市の連中を引き留めますので、その隙にカンキさんは裏口の階段で一階まで下りて、すぐ到着すると思われるメーさんの車に乗って逃げてください」

 

「でも、それじゃあラミアがっ……」

 

「イイんですよ。この時のための、ウチなんですから」

 

 そう言って、ラミアはこちらの身体をゆっくり押し出してきた。

 

 優しくも、突き放されたそれを受けて、自分は説得しようと言葉を言い掛ける。だが、それでもなお真っ直ぐ見つめてくるラミアの覚悟を前にして、自分はその眼差しに納得させられながらも、恐る恐ると彼女へそれを訊ね掛けていった。

 

「…………ラミア。生きて帰ってくる……よね?」

 

「善処はしてみます。ですけど、元々ウチらのようなニンゲンはロクな死に方しないので、あまり期待はしないでください」

 

「なら、一緒に逃げようっ……」

 

「イイから、早く行ってください。カンキさんが捕まったら、ソレこそウチらの最期なんですから。だから、お願いします。Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の皆さんのためにも」

 

「っ…………」

 

 こんなにもやるせない別れになるなんて、思いもしなかった。

 

 時間が無い。巡ってきた焦燥に、自分はラミアを置いて駆け出していく。そうして部屋の隅にあった、壁に擬態した隠し扉を押して開いていくと、最後にラミアへと振り向いて、彼女の顔を確認していった。

 

 こちらと向かい合い、微笑しながら無言で頷いてみせたラミア。送り出す視線に自分は悲しみのあまりに涙を溜めながらも、感情を振り切るように扉を閉めてから、音を立てないよう慎重な足取りで閉鎖的な内階段を下り始めていった。

 

 

 

 

 

 内階段を下り切って、脇の扉を開いて外に出ていく。

 今までいた建物の裏側。振り返って数十歩の地点に道路があり、自分はそちらへ駆け出した。

 

 すると、タイミングを見計らうように一台の白い車が目の前で停車してきたのだ。

 開かれた車の窓。奥には、運転席に座るメーが「早く乗って!」とこちらを急かしてくる。その言葉のままに自分は助手席に乗り込んでいくと、メーはアクセルを踏み込んで即座に走り出したものだった。

 

 シートベルトを着けながら、自分はメーへとそれを訊ね掛けてしまう。

 

「メー……! ラミアは、ラミアはどうすればいい……!?」

 

 こちらの問い掛けに、メーは苦悶に等しい表情を浮かべながらそう答えてくる。

 

「ごめん、カンキ君……。私にはとても答えられない。私もカンキ君と同じ気持ちだけど、今は自分が捕まらないことを最優先に考えて……」

 

「でも……」

 

「いいから。お願い。ラミアのことは後。抗争が終わり次第、ユノさんと話し合うから……っ」

 

 喋る最中にも、涙ぐんだメー。彼女の返答に自分は絶望するよう俯くその中で、周囲の景色は次第にも見慣れた街中へと移り変わっていった。

 

 走行する車を滅多に見かけない、恐ろしいほどに静まり返った龍明の市街地。まるで荒廃したかのような静けさに不気味な印象を抱きながらも、自分は後ろを走る数台の車に意識が向いていく。

 

 同じくして、サイドミラーを確認したメー。そしてほぼ同時のタイミングで、自分とメーが装着していた無線機からシュラの声が響き渡ってくる。

 

『運び屋のネーチャンの車、確認したで。既に尾けられとるみたいやな』

 

「あの車って、鳳凰不動産? 骸ノ市?」

 

『車だけやと判断つかへんわ。せやけど、高画質のカメラで一瞬だけ捉えた運転手の服装が、なんや、タンクトップ? のような身軽なモン身に着けとったような気もするで』

 

「だったら、骸ノ市かなぁ。鳳凰不動産は一応スーツとか身に着けて活動しているし、骸ノ市のあいつらは清潔感なんて気にしない輩ばかりだから」

 

『せやけど、連中は姿無き人攫いやろ? そないな連中が、車っちゅう姿丸見えな手段で来るんかいな』

 

「それだけ、向こうもなりふり構ってらんないってことじゃないの?」

 

『どないする? 後ろの連中スピード上げてきとるで』

 

「なら、振り切るまででしょ!」

 

 交差点に差し掛かった道。それを見据えたメーがギアに左手を置いていくと、次にも大声でこちらへと警告を促してきたのだ。

 

「カンキ君ッ!! 掴まってて!!」

 

「え!? どこに!?」

 

「どっかに!!!」

 

 交差点に進入したその瞬間だった。ギアを操作したメーは思い切りハンドルを切ったことで、彼女はまるで映画のワンシーンのようなドリフトを披露し始めたのだ。

 

 タイヤが擦れる甲高い音が響き渡り、U字を描いた軌跡に火花が散っていく。その間もメーは手慣れたハンドル捌きで交差点を曲がっていくと、反対車線に入るなりハンドルを手早く戻し、通常の運転へと切り替わると同時にしてアクセル全開で直線を爆走し始めた。

 

 車内のエンジンが悲鳴を上げるほどの全速力。急加速したメーの車は、反対車線にいる数台の車を一気に振り切っていく。

 

 身体がシートに押し付けられるほどの猛スピード。フルスロットル全開なメーの走りは瞬く間に後方の車を置き去りにするのだが、直ぐにも向かい側から逆走してくる三台ほどの黒い車が、メーの車めがけて突っ込んでくる景色がうかがえたものだ。

 

 それに対しても、メーはすかさずハンドルを切ることでドリフトを伴った左折を行っていく。この、慣性を置き去りにするような猛スピードのそれに自分の身体が持っていかれる中で、メーはその先にあるいくつもの曲がり角においても、荒々しくも正確なドリフトで曲がりながら、後方の追手を振り切るようジグザグに走行し始めたのだ。

 

 見慣れた龍明の道路を、無法な程に爆走している。

 他の車がいないからこそのドライビングテクニックだ。しかし、それだけこちらの居場所もバレやすく、いくら後方の車を振り切っても、次から次へと異なる車がこちらを追い掛けてくる。

 

 キリがない。そう判断したのだろうメーはハンドルを極限まで切り、ドリフトによる左折を終えながらも決死な声音でそれを口にし始めた。

 

「カンキ君ッ!! この道をもう一回左に曲がって、その後にもう一回右に曲がって狭い路地裏の中に入るから、そうしたらカンキ君はこの車をすぐ降りてもらえるかな!!」

 

「え?! 車を降りる……ッ?!」

 

「大丈夫だから!! これでもLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)にだいぶ近いところまで来てるから、後は自分の足で店に向かって!!!」

 

「でも、メーは!? メーはどうするんだ!?」

 

「私は囮になる! 連中はカンキ君がこの車に乗り続けていると思うだろうから、そのまま後ろのしつこい奴らを連れてなるべく遠ざける!!!」

 

 でも、それだとメーまで危険な目に遭うんじゃ……!?

 そう言葉を口にしようとした時にも、メーはそれを遮るかのように「喋らないで!! 舌噛むから!!」と忠告してくる。その瞬間にも豪快なドリフトで左折し、すぐに右折することで建物と建物の隙間である細い路地裏へと進入してから、その場で急ブレーキをかけつつこちらへ振り向いてきた。

 

「行って!!! 早く!!」

 

「メー……!!」

 

「お願い早く!!!」

 

 早くしないと追い付かれる。そんなメーの切羽詰まった声に急かされるまま、自分は考える暇さえも与えられずに車から追い出された。

 

 扉を閉めて、窓が開いたその隙間から彼女と向かい合っていく。そうしてメーと目が合っていくと、次にも彼女は繕ったようなとびっきりの笑顔を浮かべながら、空元気が混じったとても勝気な声音でその言葉を告げてきたのだ。

 

「カンキ君!! 楽しかったよ!!! この世でもあの世でも、私達はズッ友だから!!! ……じゃあね!! 元気でいなよ!!」

 

 口早に済ませた、別れの言葉。こちらの返答を聞くまでもなくアクセルを踏み込んだメーは、タイヤが空回りする音と共にして颯爽と走り出してしまった。

 

 すぐに右折して、車道に合流したであろう音。そこからドリフトを織り交ぜた爆音を立てて走り去った直後にも、猛スピードで道路を走り抜ける数台の車の音が、メーを追うように真っ直ぐ突っ切ったものだった。

 

 ……ラミアに続いて、メーとも別れてしまった。

 短時間に失った二人の存在。これに込み上げてきた激しい悲しみで歯を食いしばるこちらへと、シュラが無線機でそう言葉を掛けてくる。

 

『ニーチャン……気持ちはよぉ分かるけど、今は立ち止まっとる場合やないで。Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)までウチが案内したるから、はよ他のみんなと合流せなニーチャンがキケンや』

 

「っ…………分かってる、分かってはいるんだ……」

 

『紫のネーチャンも、運び屋のネーチャンも、覚悟の上でニーチャンをここまで送り届けてくれたんや。そないなネーチャンらの覚悟を無駄にせんよう、今は前に進む他あらへん。……ネーチャンらの覚悟があってこその、今のニーチャンや。せめて今だけでも、二人の気持ちに応えたってな』

 

「あぁ……っ、そうだ……っ。ラミア、メー…………っ!」

 

 涙を拭い、重い足取りで振り返ってからその一歩を踏み出していく。そうして路地裏の更に細い道を辿り、シュラの案内でひと目のつかないその道を進んでいくこと十分くらい経過した頃だろうか。

 

 縦長に伸びた外の光。それに飛び込むよう急ぎで道を抜けていくと、次にも自分は非常に馴染みのある店前の道路に出ることができた。

 

 歩き慣れた光景だ。内心で思うと同時にして、周囲を見渡していく。そして直ぐ見つかったLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の看板を目にしてからというもの、自分はすかさず駆け出してその階段を下り、見慣れた扉を全力で開いて“安息の地”へと帰ってきた。

 

 ……はずだった。

 

 

 

 

 

 外界の光が店内に射し、その瞬間にも照らされた足元の物体に意識が向いていく。

 

 見知らぬ男性。スーツ姿で仰向けに倒れるそれを見てからというもの、視界に広がった想像を絶する光景を目の当たりにした。

 

 エントランス中に転がる、大量の男性達。ほとんどがスーツを身に纏い、気を失う程度の様相で力無く倒れ込んでいたものだ。

 

 それらに紛れるよう、床に両手をついて息を荒げていた勝負服のミネ。更に奥では、受付カウンターに腰を掛けて一服している荒巻の様子がうかがえた。

 

 射した光に、二人が振り向いてくる。直後にもミネは喜びに満ちた明るい表情を見せて、感極まった声音で「カッシー!!!」と叫びながら駆け寄ってきた。

 

 倒れる障害物を飛び越えながら、勢いのままに抱き付いてくる。これを受けて自分はその場で横に一回転しながら少女を抱き留めていき、再会の喜びを分かち合う抱擁を交わしたものだ。

 

 そんなこちらの様子を、静かに眺めていく荒巻。サングラス越しの視線を受けながらも、自分はミネと一緒に歩き出しては荒巻へと言葉を投げ掛けていった。

 

「オーナー! これは一体……」

 

「よーぅ、カンキちゃん。まずはご苦労さん。よくここまで無事に戻ってこられたな」

 

「これも全て……ラミアとメーとシュラのおかげです」

 

「シュラちゃんから、粗方の成り行きは聞いているぜ。色々と思うトコがあるだろうが、今はオマエさんの身柄が最優先だ。すぐに割り切れはしねェだろうけどよ、この抗争が終わるまでは自分を優先に物事を考えて行動してくれや」

 

 普段よりも静かな調子で喋る荒巻。吸っていたタバコをカウンターの灰皿へ移していくと、次にも彼は「よっ」と足をつき、カウンターに乗せていた二つの武器を手にして歩き出してきた。

 

 両手に装着する、トンファーという打撃武器。白色のそれを手に持って、T字型の持ち手で器用にクルクルと回しながら荒巻はこちらへ歩み寄ってくる。そうして彼とも再会を分かち合うハグでもするのかなと待っていると、直にも彼はこちらの真横を通り過ぎては、慣れた様子でトンファーを回しつつも、ミネに対してそれを告げてきたものだ。

 

「ミネちゃん。オマエさんはカンキちゃんについてやってくれ。オレちゃんの部屋にある“秘密の隠し通路”は覚えているな?」

 

「え? 覚えてるけど……」

 

「なら上出来よ。……ここで突っ立っている場合じゃねェぞ。既に“次の来店客”がお出ましだ」

 

 荒巻の言葉と共にして、店の扉が開かれた。

 ……外の光を背に、ぞろぞろと数を連れて歩いてきた何十名もの男性達。ほとんどがスーツ姿を身に纏うその光景に、自分は彼らを“鳳凰不動産”の人間であることを認識する。

 

 皆がナイフやバット、刀といった武器を所持していた。これに血の気が引いていく思いをよぎらせていく中で、ミネは持参していたのだろう足元の金属バットを拾い上げながら身構えていく。

 

「も、もう次のが来たの!? ペース早いって……っ!!」

 

 既にヘトヘトであるミネが、疲れを滲ませた表情で呆れながら喋っていく。だが、そんな少女を荒巻は左腕で静止していくと、ミネに構えを解かせながらそれを口にしてきたのだ。

 

「シュラちゃんから連絡があったのよ。連中の反応からして、おそらくカンキちゃんの行方が知れ渡っているらしいってな。そんなモンで、カンキちゃん捕獲隊が大量に動員されて、その連中が既に裏口にも回ってカンキちゃんを出待ちしていやがる。つまり、オレちゃん達は鳳凰不動産に包囲されちまったってコトなんよな」

 

「それって……今までで一番ヤバい状況じゃない……!? 確かにオーナー意外と強くてビックリしたけど……だからってこの人数、アタシ達だけで何とかなるの……?」

 

「だから、ミネちゃん。オマエさんはカンキちゃんを連れて、オレちゃんの部屋にある秘密の隠し通路からここを脱出するのさ」

 

「でも、それだとオーナーがっ……」

 

 トンファーを装備した荒巻が、ゆっくりとこちらへ振り返ってくる。

 ……サングラスの隙間から覗いた、深海のように落ち着いた深い青色の瞳。力強い輝きを放つそれと、ハッキリとした勇ましい目つきで彼はこちらを見遣りつつ、ニッと陽気に笑みながら言葉を続けてきたものだ。

 

「これぐれェの喧嘩、柏島さんと駆け巡った修羅場と比べりゃァ甘っちょろいモンだぜ。これでも腕が鈍っちまっている方なんだけどよ、あれぐれェのゴミ掃除ならオレ一人でも十分だろうさ」

 

「ほ、ホントにイイの? それなら、カッシー連れていくけど……」

 

「おう、任せとけ。その代わりに、菜子。オレがコッチで頑張る分、オマエにも柏島さんの息子のために命張ってもらうぜ」

 

「……うん、分かった。アタシ、カッシーを守るから!」

 

「おう、その意気だ! ……ソイツはな、オレの第二の心臓のようなモンなんだよ。ソイツを今、オマエに託したぜ。ヒイロちゃんの妹さん」

 

 瞬間にも、振りかぶられていた相手の刀。空気を読むことなく接近していたその人物は、一切の躊躇いもなくその鋭利な陰りを荒巻へと振り下ろしていったものだ。

 

 だが、次にも自分は荒巻の真髄を見せつけられた。

 こちらに視線を向けたままの荒巻が、身に着けたトンファーで死角からの刀攻撃を防いでいく。それから刃の甲高い振動が音となって響き渡ると同時にして、荒巻は巧みに扱うトンファーで相手の刀を弾き、それから隙を晒した頭部に二発ほどの殴打を食らわせた後に、急所である喉元をトンファーの先端で突くことで、瞬く間に相手を倒してしまったのだ。

 

 泡を吹いて倒れ込む男性。白目を剥いて敢え無く転がるそれに目もくれないまま、荒巻は敵が群がる店の入り口へと歩み出していく。

 

 外界の光で陰りとなった黒き集団。次々と横並びになっていくそれらの光景を他所にして、ミネはこちらの手を引っ張りながらそれを伝えてきた。

 

「カッシー! こっち! オーナーの部屋に行くよ!」

 

「あ、あぁ……!」

 

 ミネに引っ張られる形で、関係者以外立ち入り禁止の扉へと向かい始めた自分。その間も背後では荒巻の戦闘音が響いてきたことから、最後にもトンファーで攻防一体の戦いを繰り広げる彼の姿を見送るようにして、自分はミネと共に照明の無い専用通路を駆け抜けていったのだ。

 

 

 

 

 

 不気味なほどに静まり返った一本道を辿り、その先にある突き当たりを左に曲がって両開きの扉を開けていく。

 

 開かれた扉の先。落ち着いた赤色の絨毯が視界に入ってくると、次には焦げ茶色の壁と、それに沿うよう設置された大量の本棚という空間に自分は迎え入れられる。

 部屋の奥の事務机に、中央の長テーブル。ミネの面接以来となる久々の部屋に懐かしさを抱きながらも、その立ち並ぶ本棚の一つへと駆け寄るミネへとついていって、自分は少女の様子をうかがっていく。

 

 本棚を力いっぱいに引っ張り出したミネ。そうして後ろの壁が見えてくる程度に本棚を退けていくと、その壁にあった凹みのようなものへと少女は手を掛けていき、横へスライドするように力を加えていく。

 

 すると、次にもその壁はガチャンッと音を立てるなり、脇の壁へと収納されるよう部分的に横へ開き出したのだ。

 

 ちょうどこちらの身長くらいの高さである穴。奥へと続く暗がりに自分は「これが、秘密の隠し通路……」と呟いていく中で、ミネは「いこ! カッシー!」と声を掛けながらそちらへと駆け出したものだ。

 

 言われるまま、ミネの後をついていく。

 地下防空壕のような通路だ。そんな印象を受ける直線の道を走り続けること五分くらいして、結構な距離は稼げたであろうその終点とも呼べるハシゴが目の前に現れた。

 

 それを上っていくミネについていく形で、自分もハシゴを上り始めていく。そこで突き当たった天井をミネはノックしていくと、直にも頭上では何かが押し退けられる音が響き出し、次にそこが蓋のようにパカッと開いてから、地上で待機していたのだろうレダが手を差し伸べてきたのだ。

 

 いつの間にか合流を果たしていた彼女。それでいて、本当にマズい状況に限り寄越される予定だったレダの姿により、自分は本気で窮地に立たされていることを認識させられる。

 

 すぐにも、地上に出たミネの次にレダが「カンキ君!!」と呼び掛けながら手を差し伸べてきた。

 彼女の手を取り、地上に引き上げられる自分。そこは裏路地とも言える人目の無い空間であり、押し退けたのだろうゴミ箱が脇にある様子の中、レダがこちらの手を引きながらそう喋り出してきたものだ。

 

「すぐに追手が来るから!! わたしと一緒に行くわよ!!」

 

「あぁ、分かった……! でも、どこへ逃げればいいんだ……!?」

 

 訊ね掛ける最中にも、既に駆け出していたレダ。それに引っ張られる自分と、金属バットを携えたミネがついていく形で路地裏を駆け巡っていく。

 

 途中にも、そう遠くない場所から足音のようなものが聞こえてきていた。

 きっと、鳳凰不動産か。いや、骸ノ市という可能性もある。どちらにせよ極限の状況にまで追い詰められた立場に戦慄するこちらへと、レダはそう言葉を返してきた。

 

「これから、銀嶺会の拠点に向かう! そこもいつ襲撃されるか分からない危険な場所だけれども、もう、そこ以上に安全な場所が無くなっちゃったから、銀嶺会で匿ってもらう運びになったのよ!」

 

 レダが説明する最中にも、脇道から突如と飛び掛かってきたスーツ姿の男。それがこちら目掛けて両手を伸ばしてくるのだが、掴みかかるという瞬間にも彼の顔面には金属バットがぶち込まれた。

 

 頭蓋骨ごと振り抜く、非常に生々しい鈍い音。共にしてミネが立ち塞がっていくのだが、その少女の先には十数名ものスーツ姿の男達が存在しており、狭い路地裏の空間で、我先にと押し退けるようにミネへと襲い掛かってきたのだ。

 

 振り向くことのないレダに手を引かれながらも、自分は思わず「ミネッ!!!」と叫んでしまう。だが、少女はこちらに目もくれないで「先に行って!!」と返答し、直後にもなだれ込んできた男達の手を凌ぐよう金属バットで応戦し始めた。

 

 一人、また一人と減っていくホステス達。今まで時間を共にしてきた彼女達が消えゆく光景に、自分は喪失と後悔の念に苛まれる。

 しかし、今も全速力で駆け抜けるレダがそれを許さなかった。彼女もまた噛みしめるような力んだ調子で、必死な声音で喋り出してくる。

 

「振り向いちゃだめ……! カンキ君、あなただけは生き残らないとだめなの……!」

 

「でも……っ! みんなを犠牲にして生き残った俺なんかの命に……ッ!! こんなにしてまで守られるに等しい価値なんて本当にあるのか……っ?!」

 

「わたし達、穢れた罪人の命は……! あなたの命の重みに匹敵すらしないのよ……ッ!!! あなたという存在は、柏島さんが遺してくれた希望なの……! あなたには、わたし達の命を乗り越えてまで生き延びてもらわないといけない……! そうじゃなきゃ……あの人が命を張ってまで取り戻した日常が……! あの人が、本当に守ろうとした……大切な大切な、心から大事に想っていた息子さんの人生が……失われてしまう……っ!!」

 

「結局それも、俺が親父と血が繋がっているからってだけの理由だろ……ッ!!! だったら……だったら……! 賢明に生きているみんなの命の方が大切だろ……!!! ……頼む。レダ……レダだけでも俺と一緒に生き残ってくれ……! 俺と一緒に、最後まで来てほしいんだ……! お願い、レダ。頼むよ……っ!!!」

 

 悲愴のあまりに、レダに強く当たってしまった。

 どうしようもない悲しみが胸に溢れ出してくる。この感情は爆発するように彼女へと訴え掛けるのだが、その間にもレダはアウターのポケットから防犯用のネットランチャーを取り出し、次にも押し殺すような低い声音で、言い聞かせるようにそれを伝えてきたのだ。

 

「ッ…………。カンキ君、前を見てちょうだい。もう三分ほど走った先に、はみ出るようにダストボックスが置かれた左へ続く道が見えてくるはず。そのゴミ箱を退けて、下にある蓋を開いて中のハシゴを下りていってほしいの。そこは下水道に繋がっていて、それを道なりに進んでいけば銀嶺会の拠点すぐ近くの場所に出ることができるわ……」

 

「近道か……! なら、一緒に入ろう! レダも一緒に……!!」

 

「カンキ君、それは約束できないわ……」

 

「え……?」

 

 ネットランチャーを握りしめるレダ。彼女の返答に力の抜けた声を出していくこちらを他所に、レダは耳に着けた無線機でシュラとそのようなやり取りを交わし始めた。

 

「監視カメラの方はどうなっているかしら!?」

 

『やっぱアカンわ。この道のカメラはほとんど壊されとる……! 死角からやられたんか? やけど、ウチの目があるのに、どうやってバレずに壊せたんや……!?』

 

「骸ノ市にかかれば、監視カメラを探り当てるところから、姿も映らずにカメラを処理することも容易いんでしょうね」

 

『現地におる闇医者のネーチャン的には、周囲は今どう映っとるんや!?』

 

「映るっていうか、飽くまで気配による感覚に過ぎないけど。既にわたし達は大勢に囲われているわね。でも、その大勢で何か揉め事を起こしているみたい。たぶん、カンキ君を追う中で出くわした鳳凰不動産と骸ノ市が衝突しているのかも」

 

『せやったら、その騒ぎに便乗してニーチャンを目的地に連れていけそうやな!』

 

「少なくとも、彼だけは届けるつもり。……ダストボックスの手前にある、右に続く道の角。そこに、大勢と思われる気配がわたし達を待ち伏せている。わたしは彼らの気を引くつもりだから、シュラ……カンキ君の誘導は頼んだわよ」

 

『……分かったで。ネーチャンの覚悟、無駄になんかせぇへん』

 

 ……一体、何の話をしているんだ?

 

 悪寒が全身に駆け巡る二人の会話。それを終えたレダが引いていたこちらの手を前へ出していくと、並走するようなその状態で、レダは繋いでいた手を離してこちらの背に添えながら、静かな調子でそれを告げてきたのだ。

 

「次の右に曲がる道に、人がたくさん隠れてる。わたしはその待ち伏せている人達を押さえるから、あなたはわたしに構わず、ダストボックスを退けて下水道に入ってちょうだい」

 

「ッ…………」

 

 やはり、こうなってしまうのか……。

 悔やむように俯くこちらへと、レダは背に添えた手のひらを力強く押し当てながら穏やかに喋り続けてくる。

 

「そんなに落ち込まないの。他にホステスがいるんだから、その子達の相手をしてあげてちょうだいな。……カンキ君。血の繋がりは関係無く、あなたは一人の男性としてとっても素敵なオトコだったわよ。その調子で、他の子の面倒も見てあげなさい? いいわね?」

 

 間もなく、人が待ち伏せているという右の曲がり角に差し掛かる。その瞬間にもレダに「さぁ行って!!」と背を押され、この勢いによって自分は一心不乱にダストボックスへと駆け出していった。

 

 ……すぐ後ろから聞こえてくる、ネットランチャーによる発射音。共にして複数の男性の声が響いてくるのだが、同時にして掴みかかられたのだろうレダの声も路地裏に響き渡った。

 

 あまりにも無力な自分が情けない。オーナーのように戦えたら、こうして仲間達を見捨てる必要もなかったのだろうか。

 

 非力を恨み、そんな自分に嫌気が差してくる。しかし、彼女達の覚悟を背負いし今、この自分が生き残ることこそ命を張ってくれた彼女達への報いともなるのだろう。

 

 ……生き残らなければ。皆の想いを無駄にしないように。

 

 眼前のダストボックスへと飛び掛かっていく自分。縋(すが)りつくよう張り付いたそれに両手を掛け、全ての気力を振り絞るように横へ押し退けていく。

 

 ……下水道へと続く蓋。埋め込まれた取っ手を目にして、自分はそちらへ真っ直ぐ手を伸ばして掴み取ろうとした。

 

 だが、直前にも視界を埋め尽くした人影に、心臓が飛び跳ねるような感覚を覚えていく。

 

 その瞬間、自分は何者かに真横からバットで殴られたのだ。

 

 

 

 

 

 …………斬首された際に残る意識とは、こういうことを言うのだろうか。

 

 力無く転がった視界。首は確かに繋がっているものの、その視界には小汚い男達に取り押さえられたレダの姿が映し出されている。

 

 ……直にも巡ってきた、頭部の鈍い痛み。共にして温かな液体も感じ取れたことから、自分は我ながら冷静にも、それが流血であることを認識する。

 

 朦朧とするボヤけた感覚と、耳の奥で響く耳鳴り。周囲の音が聞き取れないほどのそれに苛まれる中で、次第と戻ってきた聴覚には木製バットを持つ男の声が響いてきた。

 

「気配に敏感なホステスがいるとは聞いてたが~……おれ達は人攫いを生業(なりわい)にする集団さぁ……。そいつがどんなに気配を感じ取ろうがよぉ~……その気配自体を消すことくらいなら、おれ達にとってお茶の子さいさいなんだよなぁ~……?」

 

 ねっとりと喋る男が、こちらの髪を鷲掴みにして持ち上げてくる。

 嫌でも視界に入った男の顔。まるで骸骨のように彫が深いやつれた顔面と、黒いシミがついたスキンヘッド。そして、瞼が無いんじゃないかと言わんばかりに見開いたガン開きの眼が実にあからさまだ。

 

 汚れた黄色のタンクトップと、泥だらけの灰色カーゴパンツ。瘦せ細った身体とは対照的にありったけのパワーが込められたバットのスイングは、男性を無力化するに十分な威力を伴っていた。

 

 直にも、意識が薄れ始めていく。そんなこちらへと、男は仲間なのだろう集団を後ろに連れながらそれを話し出してきたものだ。

 

「今日は最高に気分が良いからよぉ~……特別に色々とお喋りしてやるよぉ……。せっかく銀嶺会に匿ってもらえると思ったのによぉ~……残念、だったなぁ~……? それもそのはずでよぉ~……。ここまで連れてきてくれた、誠実な女共とは違うありきたりなホステスさんがよぉ……おれ達に拷問された挙句、あっさりとこの隠し通路のことを喋っちまったのさぁ……」

 

 男は掴んでいた髪を離し、この頭を血だまりにボチャッと落としていく。

 

「あとは、ここで気配を殺して待つだけでいいよなぁ~……? 最後の最後に、ついてなかったなぁ~……? でも、安心してくれよぉ……? その秘密を喋っちまった女はぁ、とっくに“処分”しておいたからなぁ~……? 今頃“バラまかれて”、カラスの餌になっているか、タンポポに混じって野良犬のションベンでもかけられているんじゃないのかなぁ~……?」

 

「ッ…………」

 

 男はこちらの視界を覗き込み、長い舌を出してヘビのようにうねらせる。そして彼は顔を上げていくと、レダを押さえ込む男の集団へと向くなり、先までの気色悪い調子からは想像できないほどの鋭い声音でそれを端的に告げていったのだ。

 

「その女は上玉だ。“教育”すれば高く売れる。殺さない程度に弱らせてから連れていけ。手段は任せる。まずは存分に“可愛がって”やれ」

 

 男の指示に、周囲の人間は「へい」と答えてからレダを連行し始めた。

 

 この視界から姿を消すまで、彼女は力いっぱい抗っていた。だが、こちらを心配する悲痛な叫びを最後に、レダは男達に連れ去られてしまったのだ。

 

 ……何もかもが絶望的だった。

 今も耳の無線機からは、こちらを呼び掛けるシュラの声が聞こえてくる。彼女もまた喉が張り裂けんばかりの悲痛な声を出しながら物音を立てて、次第にも駆け出すような音を最後に、繋がったままの通信からは気配が無くなった。

 

 直にも、右脚が持ち上げられた。そして、この身体が引き摺られていく。

 

 動かない。言う事が聞かない。視界も暗くなってきた。

 レダと同様に連れていかれる己が身体。地面に擦り付けられる痛みで皮膚が悲鳴を上げる中、自分は心身ともに巡ってきたショックがあまりに目を見開いたまま失神してしまったのだ。

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