俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
第二次龍明抗争の終息から、早くも三日が経過した。
いつもの席に座る自分が、周囲を見渡していく。
付近には、黒色のマスクと手袋を身に着けたラミアに、主に右半身が包帯で固定された痛ましい姿のメー。顔や脚に絆創膏やシップを貼ったミネや、深刻そうに俯くシュラの姿などが見受けられた。
また、ノアやハオマ、荒巻やクリスが集まっていた。そうして、各々がいつもの服装で椅子に座るなり佇むなりして残りのメンバーを待ち続ける中で、エントランスに続く通路から歩いてきたレダが、真っ直ぐとこちらへ近付きながらその言葉を掛けてきた。
「おまたせぇ~。ミーティングに間に合って良かったわぁ~」
「レダ、おかえり。……それで、検査の結果はどうだった?」
恐る恐ると訊ね掛けたその言葉に、レダは手に持っていた検査キットを見せながら答えてくる。
「今の時点では陰性。けれど、レ◯プされてまだ三日しか経っていないから、妊娠の可能性は十分にあるでしょうねぇ」
「……そうか」
「あなたがそんな顔をしないでちょうだい。……ウフフ、そりゃあねぇ~……このタイミングの妊娠じゃあ、カンキ君との子供かどうか分かんなくなっちゃったのが、確かに問題ではあるでしょうけどねぇ?」
「ま、まぁ……ひとまず今は様子見って感じなのかな……」
人前でも容赦の無いレダの言葉に、自分は冷や汗を流しながら返答していく。
尤も、それに反応できるほどの余裕が一同に無かったことも確かだった。
ラミアやメー、ミネは心身ともにダメージが大きく、会話するのに精いっぱいなほど彼女らは弱り切っていた。シュラやノア、ハオマは三人の世話に付きっ切りであり、クリスは敢えてこちらには触れずに途方を眺めていて、荒巻はサングラス越しの深刻そうな表情で俯いていたものだ。
ホールには、せっせと清掃に取り掛かっていくホステスやボーイが見受けられる。彼女らの忙しない様子を背景にしばらく待っていると、直にも凛々しい足取りのユノが合流してきた。
召集されたメンバーが、ここに集った。一同がユノへと振り返っていく中で、彼女は荒巻へとそれを喋り出していく。
「オーナー、犠牲となった従業員の人数と身元を確認できたわ」
「……その中に、身寄りが今も健在である従業員は何人いるモンかね」
「犠牲となった人数は四名。内の三名が天涯孤独で、残る一名は高齢の祖母と二人暮らしだったとのことよ」
「そうか……。……詫びを入れに行かねェとな」
「私も同行しましょうか」
「すまねェな、ユノちゃん」
額に右手をあて、悔やむよう歯を食いしばる荒巻。その様子をユノは神妙な面持ちで見遣っていく中で、荒巻は気持ちを切り替えるように顔を上げては、集まった一同へとそれを話し出したのだ。
「……お疲れのところすまねェが、一応、直々に共有しておきてェ話があるモンでよ、こうしてわざわざ集まってもらうことに決めたんだ。まずは、お疲れさん。冗談抜きで命懸けな戦争の中、よくこれだけのメンツが生き残ってくれたモンだ。伊達に修羅場を潜り抜けてねェだけあって、オマエさんらの悪運の強さにオレちゃん改めて驚かされたモンだぜ」
喋りは陽気だが、落ち着いた声音でそれを口にする荒巻。これを一同は静かに聞き入れていく最中にも、荒巻は言葉を続けてくる。
「ここに集められたメンバーは、銀嶺会を始めとした、鳳凰不動産や骸ノ市、そして過去の柏島さんの決戦なんかと密接な関係にある、従業員の中でも特に今回の件と深い関わりのあるメンツに出向いてもらったワケだ。情報を共有する理由には主に、オマエさんらがカンキちゃんの護衛にあたってもらう主要メンバーであることや、前述した組織と因縁があり、連中の今後の動向なんかを頭の隅に入れてもらうためという目的がある。決して他人事じゃねェことを念頭に置いてもらった上で、オレちゃんからの報告を聞いてもらいたい」
腕を組んだ荒巻が、辺りを見渡していく。その視線と皆が向かい合う様子に彼は頷いていくと、次にも真剣な調子でその報告を行い始めた。
「今回の第二次龍明抗争は、実質的に鳳凰不動産の勝利で終わった。云わば、試合に勝って勝負に負けたってヤツだな。何故、抗争に勝利した銀嶺会が負け扱いなのか。そいつァ、鳳凰不動産の真の狙いは銀嶺会との縄張り争いなんかじゃなく、この抗争の騒ぎを聞きつけて姿を現した“骸ノ市の幹部の暗殺”が目的だったからだ」
居合わせていたメンバーは、薄々と気が付いていたのだろう。唯一、ハオマだけが「え……?」と唖然していた様子を他所にして、荒巻は続けてくる。
「鳳凰不動産と骸ノ市は、以前にも共闘関係にあった組織連中だ。だが、柏島さんが鳳凰不動産の前社長との決着をつけて以来、ヤツらはいがみ合っていたみたいだな。そこで鳳凰不動産は、邪魔になった骸ノ市という組織を潰すべく、銀嶺会とカンキちゃんを出しに使うことでその目論見を遂行したんだろう。案の定、銀嶺会と抗争を起こすことで骸ノ市の幹部が地上に出向き、柏島さんの遺産を狙ってカンキちゃんを攫ってみせた。……全て、鳳凰不動産の筋書き通りに物事が進んだのさ。少なくともこいつが、オレちゃんとユノちゃん、それと、オレちゃんの後輩で骸ノ市を追い続けていた探偵の三人で出した見解だな」
荒巻の報告に、鳳凰不動産から寝返ってきたシュラやハオマが複雑な表情を見せてくる。だが、荒巻は構わずとその言葉を続けてきた。
「突然、鳳凰不動産が戦線から退き始めただろう。あまりにも急に抗争を切り上げた連中の行動に、銀嶺会も度肝を抜かれたらしい。だが、その退き始めたタイミングがまさに、カンキちゃんを攫った幹部が始末された時刻と一致していた。それだから、カンキちゃんが何者かによる狙撃を受けてからものの十分程度で、抗争があっさりと終了したのさ。……また、今回の抗争において、鳳凰不動産は人員も武装も最小限に留めていた。それでも全力の銀嶺会と拮抗していたモンだからな。きっと本気の連中だったら間違いなく、銀嶺会は敗北していただろうよ」
それを聞き、ノアは「そんなことは……!!」とまで口にしてから言葉を止めていく。それから少女は悔しそうに歯ぎしりしながらも、言い返せないとばかりに黙りこくってしまった。
……銀嶺会の会長も、それを見越して愛娘を預けたのだろうか。真相は定かではないが、そんなノアを前にして荒巻はやり辛そうに後頭部を掻きながらも、再開するように一同へとそれを口にしていった。
「オレちゃんらの想像以上に、鳳凰不動産は力を蓄えていやがる。そんで、ここから連中がどのような行動を起こしてくるか全く予測がつかん。アチラさんが幸運にも頭脳派の人間を取り入れたのかどうかは知らんが、奴らは確実に以前よりも賢くなっていて、この先も常に、オレちゃん達の想像を遥かに上回ってくるだろうよ。だからこそ、現時点での情報を共有しておきたかったんだ。……んま、オレちゃんからは以上だな。他、なんか質問とか、聞きてェことがある人はいるモンかね」
サッと流すように訊ね掛けたその言葉。これに皆が沈黙を貫いていくのだが、その間もある一つの視線が、ジッと、こちらへ注がれていたものだ。
……訊ね掛けた荒巻からの視線だった。
無言で訴え掛けてくる、「聞きたいことがあるだろ?」というサングラス越しの鋭い眼差し。これに自分は少しだけ躊躇ってしまうものの、訊くなら今が絶好かという思い切りの下で、今も見つめ遣る彼と向き合いながらそれを問い掛けていったのだ。
「……じゃあ、俺からいいですか?」
「おう。ドンと来い、カンキちゃん」
「なら、遠慮なく。……骸ノ市の幹部と思しき人間から、俺の親父は病死ではなく、“何者かに殺害されたこと”を知らされました。それって、本当のことなんでしょうか……?」
皆がこちらへと視線を投げ掛けてくる。これに荒巻も暫し無言を貫いた後に、そのような返答を行ってきた。
「…………やっぱ、嘘ってつくモンじゃねェなぁ」
「ですけど、皆さんのことですから……意味のある嘘、だったんですよね……?」
「……そんな隠すことでもねェんだがよ。ただ、カタギだったオマエさんに、裏社会の人間にオヤジさんが殺されたことを伝えるのも少々
「正直に打ち明けてくださり、ありがとうございます……。……言葉通り、親父は殺害されたんですね」
病死と殺人では、死の意味が全く異なってくる。
自分にこんな思いをさせないために、店の人達は嘘を貫き通してくれたのだろう。
周囲から受けていた一種の思いやりを実感しながらも、やはり身内が殺されたとなれば気持ちは変わってくる。それから自分は決心していくと、次にも荒巻へと、訊ねようかどうかずっと悩み続けていた“その質問”を投げ掛けることに決めたのだ。
「……俺の親父を殺した犯人は、一体“誰”なんですか?」
「…………」
復讐を考えてほしくない。彼らの気持ちを承知した上で、自分は真相を知りたくなった。
どうか、教えてください。
内心で呟いたその言葉が、表情か、眼差しか、何かしらの想いで伝わったのだろう。直にも荒巻は気まずそうに視線を他所へ遣っていくと、それから再びこちらと向き直りながら、静かな声音でその返答を行ってきた。
「……こいつはオレちゃんよりも、柏島さんの最期に居合わせたノアちゃんから話を聞いた方がいいだろうな」
「ノア……?」
共にして、少女がこちらと向かい合ってくる。
いずれ、真相を明かす時が来ると心構えをしてあったのだろうか。ノアは気まずそうな表情でこちらと向き合いながらも、顔色をうかがうような視線でそれを話し出してきた。
「柏島長喜が、鳳凰不動産の前社長と決着をつけた話は覚えているものかな。その決着から年月が経ち……ちょうど、キミが柏島長喜の訃報を知らされた、その一週間ほど前の時期に……“事件”が起きた」
顧みるような声音。一同が耳を傾ける状況の中、ノアは言葉を続けてくる。
「諸悪の根源である前社長を柏島長喜が倒したことによって、鳳凰不動産はクリーンな会社へ生まれ変わった……と思われていた。実際はその裏で、当時の狂信的な残党達が柏島長喜への復讐を企てていたらしくてね。前社長の敵討ちとして、柏島長喜が殺害されたその日に、年月をかけた入念な復讐の計画を実行してみせたんだ」
「敵討ち……」
「まず、それに巻き込まれたのが……決着の後も多くの組織から狙われ続けていた、蓼丸ヒイロだった。ユノ達の前から既に失踪していたカノジョだったけれど、鳳凰不動産の手によってヒイロは、その頃になって本格的に連中に追い詰められることとなったんだ。そんなカノジョが最終的に頼ったのが、柏島長喜という英雄的探偵だった。でも、ヒイロが柏島長喜を頼ることも、鳳凰不動産は既に見越していたんだよ」
「……ヒイロ姉さんは、親父を釣るための餌にされたんだ。……この前の俺のように」
親父を殺した手口と同じそれに、ノアは控えめに頷きながら話を続けてくる。
「龍明に訪れた、せっかくの安息の日々だったからね。柏島長喜はその当時、たまたま休暇で事務所にいなかった荒巻を呼び戻すことを躊躇って、ヒイロの保護をカレ一人で請け負うことにしたんだ。だが、鳳凰不動産の作戦は柏島長喜とヒイロの体力を着実に消耗させ、餌とされたヒイロ共々、カレは絶体絶命の状況下に追い込まれた」
「でも、それじゃあノアはどうやって現場に居合わせたんだ……?」
「実は、ボクはヒイロに呼び出されていたんだよ。その頃、高校生になる妹へのプレゼントをカノジョは見繕っていてね。ヒイロから、『アタシの代わりにコイツ渡しておいてくれねぇか』って、妹と同じ高校に入るボクへとそれを渡す手筈になっていたんだ。それでボクは、カノジョと落ち合うために約束した場所へと向かっていた。でも、その道中でヒイロから連絡を受けたんだ。『柏島の旦那がヤバいから、助けに来てくれ』って」
ノアの話に、ミネは真剣な目で聞き入っていた。そんな少女の様子に、ノアはとても申し訳無さそうな表情を浮かべながらも、当時の話を続けていく。
「ヒイロと合流した時には、カノジョは何発もの弾丸を受けて瀕死の状態だったんだ。あんなに強くて頼れる、嵐が如き無敵の存在だったあのヒイロが、体中から血を流しながら項垂れて、柏島長喜に肩を担がれながら移動していた。……ボクも協力して、二人と一緒に追手からの激しい追撃を何とか凌いだものだったよ。でも……ヒイロの怪我がどんどん酷くなっていって、カノジョはもう、死に絶えそうだった。柏島長喜も脚や肩に弾丸を受けて、二人はとても移動できる状態ではなくなって……最終的にボクは、カレからヒイロを託されたんだ」
……当時の情景が、不思議と思い浮かんでくる。
そこは、建物に囲われた狭い団地だった。建物の背も高く、ひと気も無い。周辺からは追手の足音が響き渡っていて、三人は団地の中で袋小路となっていた。
血だらけとなったヒイロを、ノアへと差し出した親父。その情景と共にして、ノアは話を続けてくる。
「ヒイロは基本的に、他人に頼るようなタイプの人間じゃなかった。でも、その日だけは……どうしても死ねなかったんだよ。大切な妹へ、何とかしてプレゼントを渡してやりたいという目的があったから。だからカノジョはその日……柏島長喜を頼った。おそらく、ヒイロがカレに頼るだろうそのタイミングを、カノジョの動向を見張り続けていた鳳凰不動産も承知していたことだろう」
ヒイロを託されたノアが、親父へと問い掛けていく。『柏島長喜。キミは一体どうするつもりなんだ?』……。
両手の指で数え切れる程度にしか出会ったことのない彼の微笑みが、自然と思い浮かんでくる。そんな、メイクを施した妖艶なる容貌を持つ彼は、ヒイロを託したノアを突き放すようにしながらも、付近にあった大量の藁の山を指差しながら、そう指示したのだ。……『あの中に隠れていてちょうだい。後は私が上手くやってみせるから』。
「瀕死のヒイロを託したボクの身体を、柏島長喜は近くの物陰に隠したんだ。それからカレは堂々と佇んで、復讐に駆られた鳳凰不動産の連中と対峙した」
「……それで、親父はどうしたんだ?」
「カレは逃げも隠れもせず、ボクらを遠くへ逃がした旨を伝えて両腕を開いてみせた。その言葉もブラフであることを相手方に問われると、カレはしてやったりな得意げな微笑みを浮かべながら、堂々とその返答をしていったんだ。……『疑うのなら、ここ一帯を探してみてもいいわよ。けれど、私が今こうしている間にも、目撃者である彼女達は着実と遠くへ逃げ延びて、今回の事態を、この騒動の首謀者を、関係者へと伝えるでしょうね。……今も私の話をうかうか聞いていていいのかしら? 早くしないと、貴方の正体がバラされちゃうわよ? 私はね、将来的に貴方が負けることを確信しているからこそ、彼女達に全てを託した上で、こうして堂々と喋ることができているのよ』……とね」
「…………そのあと、親父は……?」
ヒイロを肩で担ぎながらも、藁の山から様子を覗き込むノア。そこには拳銃を構えた集団に囲まれる親父が存在しており、親父は彼らの先頭に立つ男性と向かい合いながら、先の会話を交わしていた。
その言葉に、激昂するよう引き金を引いていく男。瞬間にも銃声が響き渡り、眉間を撃ち抜かれた親父は敢え無く地面に倒れ込んだのだ。
「…………柏島長喜は、ボクとヒイロを庇って死んだんだ。倒れたカレの身体へと、首謀者であるオトコは念入りに何度も何度も銃弾を浴びせ続けて、気が済んだのだろうオトコはそれからにも、遠くへ逃げたと信じ込んだボクらの捜索へと切り出した」
「…………」
「……柏島長喜の口車に乗せられたオトコは、集団を引き連れてその場を後にした。カレは最後まで、心理戦で鳳凰不動産に勝利してみせた。しかし……その損失があまりにも大きすぎた……ッ!! ボクは…………柏島長喜を見殺しにしてしまったんだ……っ! カレの覚悟を無駄にしないため、ボクは必死な思いでヒイロを銀嶺会本部まで連れて帰った……。それでもボクは……カレを見殺しにした後悔がずっと、この胸に残ってしまっている……! ボクもあの時、物陰から飛び出して相手方の気を引けば良かったんだ……!! それなのに……それなのに……っ」
肩を震わせ、目元に溜め込んだ涙をボロボロと零し始めたノア。当時の後悔が未だ残るそれに少女が号泣し始めると、当時の相棒だった荒巻もまた目元を押さえるように俯いていく。
……かける言葉も見つからず、自分はノアを慰めようにも少女を眺めることしかできずにいた。
涙が止まらないノアが、両手で口元を隠すように嗚咽を漏らしていく。それから少女は、こちらに対して「ごめんよ……柏島歓喜……。ボクのせいで……っボクのせいで……!」と謝り続けたものだったから、自分は何とかしてその罪悪感を取り除くべく、“その言葉”を掛けていったのだが……。
「ノア……。別に、ノアが悪いんじゃないんだ……。親父もきっと、ノアに後悔させたくて身代わりになったわけじゃないんだからさ……。悪いのは……その首謀者ってやつなんだ。……親父を殺された息子として、その首謀者の正体だけは知っておきたい。ノアは、そいつのことを知っているんだろ? なら、せめて……その人物についてだけは、隠し事無しで教えてくれないものかな……?」
「…………ッ」
この言葉に、どのような意味があったのかは分からない。しかし、こちらの問い掛けに、瞬間にもノアは息を引きつるような音を立てながら泣き止んだのだ。
同時にして見開いた目が震え、まるで停止ボタンでも押したかのようにピタッと硬直する少女。その尋常じゃない様子に自分は「……ノア?」と訊ね掛けていくのだが、ノアは暫し思考した後に、声を震わせながらそれを喋り出してくる……。
「……その正体は、本当に一部の人間にしか教えていないんだ……。ボクと荒巻と、ユノとクリスの四人だけ……。でも、今じゃあここにいる全員が当事者なんだ……。みんなには、知る権利がある……。だから……その正体についてはいずれ、他のみんなにも話さなきゃとは、ボクも思っていたんだよ……」
「何かを恐れているみたいだけど、そんなに秘密にしなければならない人物なの?」
「…………っ」
こちらの問いに、ノアは同意を求めるような視線を他所へと投げ掛けていく。
少女が向けたその視線。この先には、荒巻、ユノ、クリスの三名が佇んでいた。
三名は無言で頷いて、ノアにそれを許可していく。これを受けて少女は両手を下げながらこちらと向き直ってくると、直後にも不安な眼差しで一瞬だけ“メー”を見遣ってから、再びこちらへと向いて、その首謀者と呼ばれる親父殺しの犯人を明かしたのだ。
「…………“
「雌羊……斗織……」
親父の仇。その名を記憶に刻み込むよう口にする中で、それを聞いた瞬間にもメーは血の気が引いた顔色で、信じられないといった具合に声を震わせながらノアへと訊ね掛けていったのだ。
「……雌羊、斗織……?」
「あぁ、そうさ……。間違いないよ。“カレ”は若くして鳳凰不動産を率いるカリスマであり……当時の作戦を画策し、自らその手で引き金を引いてみせた、柏島長喜の仇でもあるんだ……」
「…………うそ。だって、それ……私の“アニキ”なんだけど……っ?」
メーの……アニキ……?
振り向く視界が、スローモーションに流れ往くその感覚。とても信じ難い現実を知らされたことにより、特に自分とメーは、どん底に突き落とされるかのような絶望感を味わった。
……メーのアニキについては、以前にも彼女から話をうかがったことがある。
メーとドライブを楽しんだ際にも、彼女は自慢のアニキについて語っていたものだ。今でもメーのセリフを思い出せる。当時、彼女は『私には歳の近いアニキもいた。アニキは文武両道のテンプレみたいな学級委員で、女子にもモテモテで、私の自慢のアニキだったのだ~』と、『アニキは超難関の高校に受かって、そこでも優秀な成績を収めて周りからすごい期待されていた』と、メーはまるで自分のことのように喜びながら、それを説明してくれていた。
メーは本当に、アニキという人物を信頼していたらしい。
しかし、今となっては知人の親を殺した罪を被り、裏社会に負けず劣らずな組織『鳳凰不動産』を率いる代理社長というポジションに就いている。それを知らされたメーはゆっくりとこちらへ向いてくると、次第にも目を潤ませて、直後にも遣りようのない感情を爆発させながら、その包帯だらけの痛ましい姿で頭を下げ始めたのだ。
「ッ……ごめんなさい!!!! ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさいッごめんなさい……っ!!! 私のアニキが……私のアニキがオーナーを殺したなんて……!!! カンキ君のお父さんを殺したなんてッ……カンキ君ごめんなさいっ……!! ごめんなさい、ごめんなさい……っっ」
「メー……!!! 待ってくれ!! 落ち着いて!! メーは何も悪くない! そりゃあ、お兄さんについては色々と思うところはあるけれど……! メーは悪くないんだから。メーは何も悪いことなんてしてない!! だからそんなに謝らないでっ……」
「それでも、雌羊斗織は私のアニキなの……ッ!!! こうなったのも全部、私のせいなんだ……っ!!! 私がグレて、家族の仲を悪くしたから……っ!! ごめんなさい……みんな、ごめんなさぃ…………ッ」
こうなることが分かっていた。こうしてメーが責任を強く感じてしまうからこそ、ユノや荒巻、クリスやノアは真実を口にしなかったのだろう。
骨折した身体で、何度も何度も頭を下げてくるメー。その様子にラミアが彼女の背に手を添えてなだめていくのだが、それでもメーは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、こちらへの謝罪をずっと口にし続けたものであった……。
……迎えた初夏の季節。早朝の時刻に訪れた霊園には爽やかな気候の風が流れており、降り注ぐ日差しは人肌を撫で掛けるように優しい温もりを帯びている。
万全の管理体制からなるその区域は、設けられた芝生の空間にある立派な植林であったり、霊園を一望しながらも快適に移動できる、石造りで緩やかな通路が用意されていたりなど、弔いの地において魂の癒しともなる真心の空間が広がっていたものだ。
その霊園にある、一つの墓石の前で手を合わせていく自分。石碑には『柏島長喜』と刻まれており、親父が眠る墓であることが一目瞭然だった。
この後ろにはユノを始めとして、ラミア、メー、レダ、ミネ、シュラ、ノアといったメンツが、今も手を合わせる自分のことを神妙な面持ちで眺め遣っている。
……喋りたいことが山ほどとあり、どれから報告をすればいいのか分からない。しかし、これだけは絶対に伝えたいという決心の表明を控えていたため、自分は手を合わせたまま顔を上げ、目の前にいる“親父”へと、それを喋り始めたのだ。
「……遅くなってごめん。親父が死んでから一年と数ヶ月経って……俺、やっと初めてお墓参りしに来たもんだよ。でも、親父からしたらさ、まさか息子がお参りにくるだなんて思いもしていなかったと思うんだ。……実のところはさ、つい最近まではそんな気持ちだった。親父は、まともに息子を愛さずに死んでいった無責任な男だ。って、よく知りもしないで、そんな捻くれた気持ちで毎日を生きていたもんだよ」
話しかけていくこちらの背を、ホステス一同は静かに見守っていく。
「……探偵をやって、たくさんの人達を助けてきた親父なら、この時点でもう、ある程度の察しはついているかもしれない。……なぁ見てよ、親父。知っている顔が多いでしょ。みんな、俺の“仲間”なんだ。失いたくなんかない、かけがえのない、大切な、大切な仲間達だ。この広大な世界の中で、俺はあろうことか、親父が命を懸けて守った龍明という小さな小さな街の中で、親父も知っている人達と一緒に過ごす人生を、心から楽しんでいるんだよ」
この時に俺は初めて、親父に対して笑いかけることができたのかもしれない。
佇む“親父”からは返事が無い。しかし、その無言を返事と受け取った自分は、既に固めていた決心と共にして、目の前の親父へとその宣言を行ったのだ。
「親父が命張って打ち破ってくれたその野望。今、それが再び力を取り戻そうとしているんだ。それでいて……親父。俺は親父を殺した犯人を知っている。でも、慌てないで。俺は、親父の復讐を考えているわけじゃないことを、最初に分かってもらいたいんだ。じゃあ、犯人を知って、俺は何を考えたのか……今からそれを少しだけ喋るから、どうか、最後まで聞いてくれると嬉しいな」
合わせていた両手をゆっくりと下ろし、背を伸ばして姿勢を正しながら親父と向かい合っていく。
「俺は、この街で共に過ごすみんなとの生活を守りたい。ちょっとトラブルの多い街だけどさ、その中で笑い合って、ご飯を食べて、子供のように寝て、時には遊びに出掛けるんだ。ありきたりでしょ? 俺は、そんな平穏な生活を、親父もよく知るみんなと送っていきたい。でも……鳳凰不動産という大きな大きな敵が現れて、この日常もいつ、奴らに壊されてしまうかが不安に思えて仕方が無いんだ」
踵を上げ、膝を着けつつ正座のような姿勢で座りながら、両手を膝の上に置いて親父と向かい合う自分。今も朝日の柔らかな光が降り注ぎ、それが親父の石碑に射し込む様子を真っ直ぐと見つめながら、自分は言葉を続けていく。
「だから……俺も戦うよ。さっきも言ったように、これは復讐のためなんかじゃない。これは、みんなと人生を共にするために……俺達の日常を取り戻すために戦う覚悟なんだ。……俺も激しい戦いに巻き込まれるんじゃないか。そう心配するかもしれない。でも、俺の気持ちも、みんなの気持ちも一緒なんだ。みんなで一緒に、平和に暮らしていきたい。そのために俺も、親父を心配させない範囲で戦ってみせるからさ。親父にはどうか……“此処”で見守っていてもらいたいんだ。立派に育った息子のことを。そして……親父が作った
決心と共に立ち上がり、お墓を見下ろしていく自分。それから、瞼でチカチカッと光った日差しに一瞬だけ眩むような感覚を覚えてから、自分はお墓の真上にある大空を仰いでいった。
……青く、無限に広がる初夏の空。余韻として残る朝焼けが淡い色となって浮かぶ中、後ろにいたホステス達もみな大空を仰いで、“親父”を見つめていった。
穏やかに吹く風になびかれて。過ごしやすい気候に恵まれた今日という日。決意を表明するに、これほどまで都合の良いタイミングは他に無かったことだろう。
これもきっと、そういう巡り合わせだったのかもしれない。親父の血筋によって引き合わされた、
……打倒、鳳凰不動産。親父の仇である、雌羊斗織代理社長。
親父が守ったこの街を、次は俺が守ります。頼れる仲間達と一丸になって、親父が安心して見守ることができる龍明を取り戻します。
なので、どうか……祈っていてください。息子の安永と、仲間達の幸福を。みんなで安心して歩める、俺達が迎えし未来の結末を……!
優しく吹きすさぶ風。お参りをしてからというもの、上空から霊園に降ってきたその流れは、あたかも狙ったかのように自分達のいる通りにのみ吹き抜けてくる。
自分の髪を揺らすその風は、心なしか頭を撫で掛けられているような感覚を覚えたものだ。
それは自分だけではない。ユノやラミア、メーやレダ、ミネやシュラ、そしてノアの髪もなびかせて、どこか撫で掛ける風の流れを伴いながら、一同の隙間を通り抜けていく。
……全員でその風を見送ってから、自分は“親父”についていくように歩き出した。
今、この胸の中に溢れんばかりの勇気が湧いてくる。まるで加護を受けたかのような、力が漲り、臆することのない精神力が、この身体を自然と前へ前へと押し出してくれている。
ありがとう、親父。俺なりに頑張ってみるよ。
歩き出したこちらに続くよう、ホステスの皆も決心した表情と共に歩み出してくる。そうして心強い仲間達と共に平穏な日常を取り戻すべく、自分もまた決意を胸に新たな一歩を踏み出したのであった。
Chapter 7
【俺のハーレムはワル女子だらけ 新章】に続く…………。
【あとがき】
お世話になっております。作者の祐。です。
昨年の1月28日に投稿した、第1話『le goût du péché《罪の味》』。何気無く投稿してみたそのお話から、もうじき一年が経過しようとしています。
この一年で強く実感したのは、『作品というものは読者様によって支えられている』というものでした。
自分で言うのも何ですが、こちらの作品は小説投稿サイトにおいて“かなりイレギュラー”な内容の物語なのかなぁと思います。主に、『ハーレムなのにラブコメしてないじゃん』とか、『ヒロイン達が他の男とヤりまくってんだけど』などなど。流行りのジャンルから考えると、あからさまに反感を買いまくりそうな内容をメインコンテンツとして連載してきたものです。
それ故に、かなり人を選ぶ作品なのだろうなと自覚しています。その中で、意外にも多くの方々の目に留まる機会なども頂いたことによって、創作活動6年目の自分史上、最も多くの人達に読んでもらえた作品となりました。
物語が一つの区切りを迎えたため、ここに深く感謝の意を表します。ここまでご愛読くださり、誠にありがとうございました。本作品を楽しみに頂けている読者様の支えがあったからこその今なのだと、心より存じております。
話は変わり、本編はChapter 7へと突入します。
第1話を書いてから二週間ほどで、Chapter 12までのプロットを頭の中で立てました。プラスで考えていた後日談も、今となってはChapter 13以降の話として改めてプロットを立て直したことで、そこから大雑把に換算するに、現在は物語全体の約三分の一の所まで来たことになります。
当初の予定であれば、折り返し地点とも言えるだろう現在の進行度。そしてChapter 7からは【俺のハーレムはワル女子だらけ 新章】として、主人公とヒロイン達の新しい物語が始まります。
血筋、因縁、野望。日常系とは思えないほどに物騒な世界観ではありますが、もうしばらく本作品にお付き合い頂けますと大変嬉しく存じます。そして、彼らの結末を見届けてもらえましたら、作者冥利に尽きるばかりです。
改めまして、ここまでご愛読くださり誠にありがとうございました。引き続き、【俺のハーレムはワル女子だらけ】をよろしくお願いいたします。
祐。
(Twitterのアカウントあるよ!→@Yu_o297)