俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
リニューアルオープンした夜の
盛況である大人の世界。酒と女に溺れたアダルトな光景を前にして、自分はいつもの席でホステスを待ち続けていく。
見渡すと、周辺の席には今も接客するタキシード姿のいつメンがうかがえた。特に本日の営業はフルメンバーで出動していたためか、ホステスを待っている間にも度々と、マスクや手袋を外したラミアやユノ、レダやミネに、シュラやノアといった顔ぶれが、こちらの様子を見に顔を出してくれたものだった。
ボーイのクリスも、仕事をサボりにちょっとだけこちらの席に立ち寄ってきた。彼とも一言二言と会話を交わしたりする中で、クリスは接客中のユノから無言の視線を向けられては何食わぬ顔で業務に戻ったりなど、今も視界に広がる光景は実に、
そんな自分が席で待っていると、直にも担当してくれるホステスが歩み寄ってきた。
二人分の足音が聞こえてきて、耳にしたそれへと振り向いていく。すると視線の先からはタキシード姿のハオマと、同じくタキシードを身に纏ったヴィクトリアが姿を現していた。
橙色のシャツを着るハオマに、鮮やかな緑色である
尤も、ヴィクトリアという人物は、一人にするには少々危なっかしくもあった。その貴族風な風貌にフワフワとした人当たりのいい性格も、この裏社会ではむしろマイナスに働いてしまうだろうその様子は、言うなれば『世間知らず』と称することができたのかもしれない。
そのため、新人であるヴィクトリアが接客にあたる際には、誰か一人は傍にホステスが付くよう彼女らは指示を受けていた。そして本日の当番はハオマだったらしく、ハオマもまた小動物のような朗らかなオーラで喋り掛けてきたものだ。
「カンキ君おまたせー! 待たせちゃってごめんね! ちょっとヴィクトリアちゃんに接客のアレコレを教えていたら、けっこう遅くなっちゃった! ……ぁあのねあのね!! 別に、相手はカンキ君だし少しくらい待たせても大丈夫かなぁ~とか、これっぽっちも思っていなかったからねッ!?」
あ、これは思っていたな。
内心で冷静にツッコみながら、自分は「いえ、お気になさらず」と答えていく。その間にもヴィクトリアは椅子を持ってくると、次にも大人っぽいタキシード姿で、裕福な実家で躾けられたのだろうサマになる優美なお辞儀を行ってきた。
「ごきげんよう、カンキ様。今宵は楽しい夜を共に過ごしましょう」
「そう言えば、ヴィクトリアの接待は初めてかも。なんだか、すごく新鮮で楽しみになってきたな……! 今日はよろしくね、ヴィクトリア」
「はい! このヴィクトリア、カンキ様に満足していただくためにも、最高のおもてなしやひと時を提供できるよう尽力いたす所存でございます」
と言って、最後にヴィクトリアは品のある穏やかな声音で「マジ卍~」と言葉を付け加えてきた。
一気に不安になってきたこちらの様相を他所にして、ヴィクトリアの一言に一切とツッコまないハオマはニッコニコでそう喋り出してくる。
「カンキ君カンキ君! 前にも話したと思うけど、今回から私も事務員じゃなくてホステスとして働くことになったから、私のこともよろしくね!! こんなおばさんで良ければじゃんじゃん指名しちゃって!! 最年長として、まだまだ周りに負けていられないし!」
「え、えぇ、よろしくお願いします。あと、ハオマさんは全然現役でイケますんで、そんな卑下なさらなくてもいいかと思います……」
「あらやだもぉ~!! カンキ君ったら、お上手だことぉ~。オホホ~」
特有の、空を軽く叩くような手の素振り。これに自分が汗を流しながら見遣る最中にも、ヴィクトリアは向かい側の席に座りつつ、お上品なサマで手を叩いてボーイを呼んでみせていく。
すぐにも、タキシード姿のボーイがやってきた。
一体なにをするつもりなんだろう。途端に巡ってきた悪寒と共に視線を注いでいきながらも、自分はヴィクトリアとボーイの会話へと意識を向けていく。
「ウーロンハイをお願いします」
「ウーロンハイですね。かしこまりました」
「ウーロンハイを、メロンソーダで割ってください」
「ウーロンハイを、メロンソーダで……え?」
「ヴィクトリアオリジナルブレンドを、カンキ様に提供いたします。
「しょ、承知しました……?」
すぐにもボーイを困らせ始めたヴィクトリアのそれ。彼も内心で「本当にそれでいいの?」という目をこちらに向けてきたものだったから、自分は慌てながらヴィクトリアへと言葉を投げ掛けていった。
「ま、待って待ってヴィクトリア!! そんな強引に決めちゃダメだって!! ドリンクはお客さんに選んでもらうことを前提にして、まずはお客さんに寄り添うよう軽くでも会話を交わしてから、自分を気に入ってくれたであろうそのタイミングでさり気無くドリンクをおねだりしなきゃ!!」
「まぁ! カンキ様、ホステスの心得をご存じなのですね!」
「え? いやまぁ、ずっと通ってはいるから……って、そうじゃなくて!」
なんで俺が焦っているんだろう。
冷静にそんなことを思いながらも、ヴィクトリアに伝わるよう言葉を思考し始める自分。その脇ではハオマがボーイへと「ごめんねー。また後で呼ぶかもだから、ひとまず他のテーブルをあたってもらってもいい~?」と声を掛けていく。これに彼は困惑気味に頷きながらも歩き去っていく中で、ハオマも席に座りながらヴィクトリアへとその指導を行っていった。
「ヴィクトリアちゃん。カンキ君も言ったように、ドリンクはお客様に選んでもらうものなんだよー? だから、まずはお客様と仲良くお話しをしていって、会話の流れでそれとなくメニューを手渡していく。それから全力で媚を売って相手の機嫌を取ってから、なるべくお高めなドリンクを頼んでもらえるよう渾身のおねだりをかまして売り上げを稼いでいくのが定石だよ?」
いやいやいやいや、あながち間違いじゃないのかもしれないけれど言い方よ……。
店の稼ぎ頭と言われていた程の実力を持つハオマ。彼女からとんでもない発言が出てきたことで、圧倒されるよう呆然と二人を見遣っていく自分。これに対してヴィクトリアは「渾身のおねだり……! つまり……日本の伝統芸能である“ドゲザ”をするべきでしょうか?」と訊ね掛けたことから、ハオマは涙目で大笑いしながら「ブァッハハハ!!! すごく面白いけどちょっと違うよぉ~ッ!!」と腹を抱え始めたことで、何故か自分がひとり頭を抱えてしまったものだった。
こんな光景を繰り広げる二人用席の様子に、こちらへ歩み寄る一つの足音が聞こえてくる。自分はそちらへ振り向いていくと、そこにはタキシード姿に白色のシャツを着たボーイのイザナが佇んでいた。
ミズキという名で呼ばれていた少年。いつものキャスケットの代わりに、スタッフ用の黒いキャップを被る彼がそのツバで目元を隠しながら、乙女色の黄みを含んだ淡い赤の髪を帽子の中でまとめ上げた風貌と、なんだかこちらを哀れむような視線で喋り出してくる。
「随分と苦労してるみたいだな」
「あぁ、イザナ。ちょうど良かった……」
「近くを通っただけだ。悪いが、おれは面倒事に深入りしないからな」
「まあまあ、ちょっとだけでもいいから俺の傍に居てくれない?」
「生憎と、おれには業務があるんでね」
「うぉォん……」
イザナからも見放された。
言葉にならない音を口から出していく自分。その間にも手前では、イザナに挨拶するハオマとヴィクトリアの姿が映し出されており、彼女らに対しても彼は端的に「あぁ」と口にして歩き去ろうとした。
と、その時にもまた別方向から駆け寄ってくる足音が聞こえ始める。それに自分が気付いた時には、タキシード姿であるメーが正面から突っ込むようにこちらの輪に混ざってきたのだ。
痛ましい骨折から数ヶ月。安静な治療の末に骨が回復した彼女は、病み上がりとは思えない程の元気なサマで勝気に喋り出してくる。
「ほいほ~い皆の衆ー!! 何やら楽しそうにしてんじゃ~ん? そんな皆の下に、完全復活したメー様が来てあげたぞー??」
そう言いながら、イザナの肩に左腕を掛けて寄り掛かっていく。そうして体重を掛けられたイザナがよろけていく脇で、メーは間髪入れずに一同へとそれを伝えてきた。
「今日のお仕事が終わったら、ここにいる全員はエントランスに集合~! ヴィクトリアとイザナの歓迎会やるから、今日は皆で夜通し焼肉食いまくるぞーッ!!」
耳元で大声を上げられたイザナが、迷惑そうに顔を背けながらも「お、おい。本人の了解も無しに勝手なこと決めんじゃねぇよ! てか焼肉っておまえが食べたいだけだろそれ!」と律儀な返答を行っていく。それに対してメーはイザナの顔に頬を擦り付けながら「良いではないか良いではないか~。そういうわけで皆よろしくぅ!」と伝え終えると、彼女はすぐさま駆け出してはお客のいる別のテーブルへと移っていったのだ。
思わず眉をひそめたイザナが立ち尽くす中で、ハオマとヴィクトリアは和気藹々と歓迎会に喜んでいた。その話題で盛り上がるホステスらにイザナがため息をついていくその光景もまた、新たな
業務が終わり、エントランスに集合した顔ぶれが揃って店を出た。
直にも、最後に鍵を閉め終えた私服姿のユノが合流してくる。そうして本日の歓迎会に参加するメンバーが集まると、次にも店前で待っていた一同は龍明の駅前を目指して歩き出していった。
本日の面子は、ラミアとメーという傷が完治した二人を始めとして、レダにミネ、シュラにノア、ハオマやヴィクトリアに、イザナと自分という顔ぶれ。そうしてユノを先頭に歩き出したメンバーは皆、仕事終わりとは思えない元気な様子で、和気藹々と談笑を交わしながら街中を歩き進めていく。
主に、先頭を往くユノとレダが、興味本位でフラフラと道を逸れていくヴィクトリアの軌道を修正していき、その後ろでラミアとメーとミネがスマートフォンを見せ合いながらSNSの写真を眺め合ったりして、更に後ろではシュラとノアに引っ付かれた自分が歩きにくい足取りで何とか前へ進んでいく。そして最後尾では、ハオマとイザナが店についての会話を行っていく光景が展開されていたりと、主に美人が集合した大勢の団体は周囲の人目を大いに引いたものだった。
その中で、今も自分はシュラとノアに取り合いをされていた。
両腕にそれぞれが引っ付いて、引っ張り合ってくる。この板挟みに「ちょっと、シュラ……ノア……!」と声を掛けていくのだが、二人はこちらを気にせずいがみ合うように言葉を交わしていた。
「なぁなぁ銀嶺のジョーチャン、ジョーチャンまだニーチャンを独り占めする気なんか? もぉ十分ニーチャン堪能したやろ? せやから、ええ加減ウチにニーチャンよこしぃや!」
「悪いが、たとえ相手がシュラであろうとも、ボクはカレを譲るつもりは毛頭ないのさ。……ボクは心に決めたんだ。
「フィアンセって……ジブン、ヤクザの家系やないか!! おいワレ、ニーチャンをヤクザに引き込むつもりなんか!? そないなこと、ウチは絶対に認めへんからなッ!!!」
「これはボクとカレの問題なんだ。部外者であるキミは口出し無用で頼むよ? そういうことで、柏島歓喜っ……誰にも干渉されない永久の愛をボクと一緒に育もうじゃないかっ……!」
必死な形相でこちらの右腕を引いてくるシュラに対して、瞳にハートを浮かべた乙女のノアが、うっとりとした様相でこちらの左腕に引っ付いてくる。
なんか、色々と複雑な関係になってきてしまった……。
惚れてくれたノアの好意はありがたいものの、シュラの気持ちも汲み取りたいジレンマ。片方しか選べない究極の選択に答えを出せずにいた自分が困り果てていく間にも、シュラは懸命な顔でこちらを全力で引っ張っていき、ノアもまた引っ付いたまま抵抗することでズブズブの地獄な空気が生み出されていく。
そんな様子に、前にいるラミアやメー、ミネが振り向いてくる。続けてラミアが適当な調子で「カンキさんを取り合うのは別にイイですけど、痴話喧嘩なら他所でやってくださいよー??」と喋り出していき、メーは「あは、マジでウケるんだけど。カンキ君モッテモテ~」と言いながら面白半分にスマートフォンを向けて写真を撮ってくる。更にはミネがボソッと「選べないクセに女たらし。カッシーの変態……」と口にしてきたことから、ホステスらに向けられた様々な要素に頭が真っ白になってしまった。
で、こちらに気を遣ったレダが、呆れた様相で「ちょっとあんた達、前を見ながら歩きなさ~い?」と注意し始めてくる。これに反応したヴィクトリアが「まぁ! これが本物の“シュラバ”!!
後ろからは、イザナの「何やってんだおまえら……」という困惑気味の呆れ声が聞こえてくる。これに自分が苦笑していく中で、イザナと共に最後尾にいたハオマは、日常を見守るとても穏やかな眼差しで眼前の光景を眺め遣っていたものだ。
それからしばらく歩を進めて、駅前にある焼肉店に到着した自分ら。真夜中でも営業しているそこに入っていくと、遅い時刻にも関わらず盛況である光景に混じるよう、一同で座敷の席へと上がり込んだ。
そして、ビールやお茶などが入ったジョッキやコップを打ち鳴らし、皆と乾杯を交わし合った。
ようこそ、
喜び、おどけて、愚痴り合う。団体に混ざる男の目も気にせずに喋くるホステス達は、下品な言葉や笑い声を盛大に響かせた。主にラミアやメー、レダやシュラが豪快に盛り上がっていき、これに苦笑するミネやノアが巻き込まれていく。そんな彼女らの会話に眉をひそめるユノが微笑して、言葉の意味を理解できないヴィクトリアがポカーンとしながら首を傾げていた。
酒が入ったやり取りに、引き気味であるイザナが途方を見遣っていく。そんな少年に同情できる自分も苦笑いしながら他所へと視線を投げ掛ける中で、内心では「せっかくだからクリスも来れば良かったのになぁ」と、誘いを断ってきた彼の姿を思い浮かべながら烏龍茶を啜っていった。
その最中にも、ミネとノアがサラダバーへ向かうために席を立った。
ラミアやメーも皿を持って駆け出していき、駆け出した二人に対してレダが注意しながらも、彼女はそのままヴィクトリアのお手洗いに付き添っていく。そうした彼女らの動きを見てからというもの、それじゃあ自分もサラダバーに向かおうかなと思い立ったところで、ユノが付き添うべく立ち上がったその瞬間にも、ふとハオマが名乗り出てきたのだ。
「ユノちゃん! 私がカンキ君の付き添いをするよ! ずっと座りっぱなしで腰が疲れちゃってね~……腰をゆっくり伸ばしながら、カンキ君と一緒にぶらぶら~っとサラダバー見てくるよ~」
朗らかに笑みながら口にしたハオマのそれに、ユノは凛々しいサマで「では、よろしくお願いします」と敬語で答えてくる。そうして年上の女性を敬う彼女の返答にハオマは「ラジャ!!」と口にすると、一応シラフであるハオマと一緒に、自分はサラダバーへと赴いた。
皿を手に持ち、席から少し歩いた先にあるサラダバーのコーナーを見て回る自分ら。今も目の前には焼肉に合うサッパリとした野菜から、柑橘系の果物まで用意された色鮮やかな光景が広がっており、全て無料で頂ける
最年長とは思えない、天真爛漫な微笑み。その瞳を輝かせながらこちらの腕を引いてきた彼女は足早にサラダバーを一通り確認していき、二周目になってようやくトングを手に取って野菜を皿に盛り出していく。そんなハオマに勧められるよう自分の皿にも彼女セレクトのサンチュやレモンが乗せられていく中で、キャッキャと喜んでいたハオマはふと、思い出したように落ち着きながら喋り出してきた。
「ねぇカンキ君、最近どう?」
「え? えっと……」
「色々と楽しめているかなぁって。ほら、ちょっと大変な時期があったりしたからさ、なんかカンキ君のことが急に気になっちゃって」
「最近というのは、お店とか、ホステスと過ごす日々のことについてですかね。それについてでしたら、今も充実とした毎日を過ごせているなぁと実感できていますよ。みんなと一緒に居られる今の時間は、この俺にとっての生き甲斐のようなものですから」
「そっかそっかぁ~、生き甲斐かぁ~。カンキ君にそう思ってもらえていたら、なんか安心してくるなぁ~」
のほほんと喋るハオマが、トングでオレンジを取っていく。それを見て自分も「俺もそれ欲しいです」と口を出していくと、彼女は子供のように明るく反応しながら振り向いてきて、微笑しながら快くこちらの分のオレンジを取ってくれたものだった。
ミカンのようなオレンジ色の瞳と、彼女から見て左側に結った同色のサイドテール。
橙色は、ハオマのイメージカラーだ。そんなことを内心で思いながらオレンジを眺めていると、次にも大人の雰囲気を醸し出し始めた彼女から言葉を掛けられた。
「なにかあっても、全部一人で抱え込もうとしないでね? カンキ君の傍には、助けてくれる人がたくさんいるんだから。そのことを忘れないで。もちろん、私もお役に立てそうならドンドン力になるからね!」
「お気遣いいただきありがとうございます。……そうですね。この際ですから正直にぶっちゃけてしまいますと、最近はシュラとノアの仲をちょっと気にしておりまして」
「シュラちゃんとノアちゃん?」
「その……自分で言うのも何ですが、最近、俺のことで二人の仲が悪くなったように見えるんですよね……」
先にも交わしていた、シュラとノアの言い合い。二人の気持ちをどうにかして汲めないか考えていたものだったが、これに対してハオマは、落ち着いた声音でその返答をしてくれた。
「シュラちゃんとノアちゃんなら平気だよ? カンキ君が気にするほど二人は不仲じゃないと思う。今日も控室で普通にお話ししてるところを見たし、心配は要らないと思うなぁ」
「そうなんですか? それなら良かった……」
「うんうん! 今日も控室で、カンキ君にどんだけエッチな奉仕をしてあげたかの自慢勝負で盛り上がっていたから平気平気! 大丈夫大丈夫!」
「そ、それはそれで……どうなんでしょうか……?」
まぁ、ある意味で
内心でそれを思いながらも、苦笑と共に汗を流してしまう自分。こちらの反応にハオマは小動物のような柔らかさで健気に笑いかけてくると、次にも彼女は、今までの子供らしい調子からは考えられないほどのしっかりとした声音でそれを話し出してきたものだ。
「カンキ君、いつもみんなのことを見てくれてありがとね」
「え?」
「カンキ君にとって、みんなはそれなりに長く一緒に居る女の子達だから、カンキ君の中にはもしかしたら、特別に意識している意中の子がいるのかもしれないよね。でも、カンキ君はそんな本心とは別にして、みんなに対して、平等に……均等になるように、同じ分だけの愛情を注ぎながら接してくれている。そんな、誰かをひいきしない、一人だけを特別扱いしないその中立的な立ち回りに、周りの女の子達は救われているところがあるんじゃないのかなぁ」
「でもやっぱり、こういう関係はいずれハッキリとさせるべきですよね。これじゃあ俺、みんなに対して良い顔をしているだけの、女たらしのろくでなし男になっちゃいますから……」
「まぁ、世間的に見るとそうかもしれないよね。でもでも、少なくとも
「けっこう有難い、ですか?」
「あまり、底辺って言葉は使いたくないんだけどね……そうして、“落ちるところまで落ちちゃった自分のこと『も』気に掛けてくれている”、っていうのが、みんなにとって重要なことだと私は思うんだ。……私達からするとね、カンキ君って男の子はさ、『ホステス達を対等に見てくれている心優しい八方美人』って印象で映っているんだよ? 八方美人って言葉自体は、あんまり良い意味では使われないものだけど、カンキ君っていう人はそれだけ、社会から見放された私達のこともきちんと気に掛けてくれる存在でもあるんだよね。例えるなら~……私達にとっての、オアシスのようなものかなぁ」
「オアシス、ですか」
「荒れ果てた薄暗い荒野の中で、潤いや輝きを与えてくれる平等で特別な存在。オアシスが誰かの所有物じゃないように、
「これじゃあ本当に、俺ってただ都合の良いだけの男ですね」
「遠回しな言い方になっちゃったけれど、意味としてはそんなカンジかも。でも、今の扱われ方もカンキ君的には、意外と満更でもないんじゃないかな?」
「普段であれば、あまり快くは思わないです。でも……なんででしょうね。
「何だかんだで分け隔てなく関わってくれるから、みんなカンキ君に心を寄せてくれるんじゃないかなぁ? それに、カンキ君が自分達に与えてくれた希望の分だけ、みんなは同伴とか身体とか、何かしらの奉仕で感謝を形にして返してくれているものだから、それで結果的に信頼関係が出来上がって、カンキ君は都合が良いだけの男じゃなくなった……。ってカンジなのかもね? ……今はもう、みんなもカンキ君のことを大事な仲間だと思ってくれているよ。そんなみんなのことを、日頃から気に掛けてくれてありがとねって、なんか、急にお礼を言いたくなっちゃった」
改めて思うと、我ながら
不純とされる行為から始まり、今では互いに信頼を寄せ合える仲となった彼女達。それは、表の社会ではまず築けぬであろう関係性で成り立つ非常に奇妙な繋がりであり、決して褒められはしないものの、だからこそ通じ合えたフィーリングで紡がれた信頼の糸は特別に強固でもあった。
果たして素直に喜んでいいものなのだろうか。とても複雑な感情に苛まれて俯いた自分が、皿に盛られたサンチュやオレンジを見遣っていく。その虚ろな意識で
「ねぇカンキ君? 私にもさ、お礼……させてもらえないかな?」
「お礼、ですか?」
「そう。私もそろそろ、日頃の感謝を形にしないといけないかなぁって思ってさ?」
「えっと……一応お訊ねしますが、その感謝は一体どのような形で果たされるものなんでしょうか……?」
「そうだなぁ~。カンキ君は何がい~い? 甘いケーキをたっくさん食べられるケーキバイキング? 搾りたての生ジュースが飲める果物園へのお出掛け? それとも……“あの夜”からずっとおあずけにされていた、カンキ君が堪らず興奮しちゃう私の“カラダ”とか、どうかな……?」
途端にして全身を駆け巡ってきたのは、野獣に目をつけられたことを確信した身震いするほどの悪寒と、眼前の色気に対する極度の欲情。
目を細め、唇の肉感が浮き彫りとなる艶めかしい顔つき。まるで別人格と入れ替わるようにハオマという女性からメスのフェロモンが溢れ出し、先ほどまで小動物の皮を被っていた人物が、瞬く間に狩る者へと変貌を遂げた彼女からの“誘惑”に晒されることによって、自分は不可抗力に近しい意識の芽生えと共に、抵抗もままならずに生理的な現象を働かせてしまった。
……
彼女の本質を直に触れ、魅了と畏怖が同時に襲い掛かる身体。自由が利かなくなったそれへと彼女は遠慮なく手を這わせてくると、こちらが身に着ける衣類越しの肌を滑らかに撫で掛けながら、ハオマは舌なめずりを行いつつ、熱のこもった吐息と共にその言葉を口にしてみせる。
「カンキ君の身体……すっごく熟成してて美味しそう……っ。前とは比べ物にならないほど男らしいニオイを放ってて……公共の場なのに私が我慢できなくなっちゃうなぁ。……ああぁぁぁ~~~。最ッッ高。今すぐに食べたい。今すぐにしゃぶりつきたい。若くて新鮮な男の子。知能のある今が食べ頃な成人の男の子が、まるで犬みたいに元気に“発情”して私のことを欲しがってくれている……!」
「は、ハオマさん……っ!?」
「外にいるのに、健気に欲しがっておねだりしちゃってる姿が本当に可愛いなぁぁ……。いっそのこと、みんなに黙ってカンキ君を秘密で飼い慣らしちゃおうかな……っ? そうしたらどうしよう。どんな芸を覚えさせようかなぁ。どんな教育方針で“躾けて”あげようかなぁぁ。はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~ッッ。悩むなぁ。悩んじゃうなぁぁぁ。お姉さん、困っちゃう~~~」
な、なんだか非常にマズいスイッチが入っている気がする……!!!!
もはや、命の危機さえ感じ取れたハオマからの圧。オスという生物を震え上がらせる彼女のオーラに圧倒されていると、直後にも歩み寄ってくる足音と共にして、サラダバーを見て回っていたラミアとメーが顔を出してきた。
「あー、カンキさん達もいらしてたんですねー。もーホント困ったモノでして、皆さん、酔っ払ったメーさんの世話を全部ウチに押し付けてくるんですから。せっかくの食べ放題なのに食べるコトに集中できなくて、ホントに参ったモンですよ全く……」
「んにゃあ……私ぁまだまだ酔っとりませんぞラミア警部殿ぉ~っ! ささっ、お次はビールに合うおつまみ探しの旅に出ますぞぉ~! ラミア隊長に続けぇ~~! ひっく」
と言って、皿を手に持つラミアの肩へと寄り掛かったメー。その衝撃と共にラミアが不満げに目をジッと細めていく中で、彼女は何気無いサマでハオマへと喋り掛けていく。
「ちょうどイイところにハオマさんもおられますし、ココはひとつ、最年長としてウチの助け舟に来ていただける、心優しい先輩の一人や二人、都合良くこの場におられないモンですかねー?? ……チラッ」
「わー、なんだかラミアちゃんも苦労してるねー。……よっし!! ここは先輩のハオマさんに任せなさ~い! 私がメーちゃんの面倒を見るから、ラミアちゃん代わりにカンキ君の傍についていてあげて!!」
……あれ。さっきまでの捕食者は一体どこへ……?!
まるで何事も無かったかのように、ケロッといつもの小動物に戻ったハオマ。全くのいつも通りである朗らかでフワフワした雰囲気に、ラミアが不安に思いながらもメーを託していく脇で、自分はついさっきまでの鬼気迫る圧力から敢え無く解放されたことで、思わず困惑のままに首を傾げながらハオマの背を見遣ってしまっていた。
そんなこちらの視線に気が付いたのだろうか、背を向けていたハオマが振り返るように顔を向けてくる。そして、最後にも彼女は片目だけウインクをしたあどけない仕草を見せながら、子供っぽくも明るい調子で、こちらへとその言葉を伝えてきたのであった。
「お返事、待ってるからね! 私はいつでもいいから、考えてもらえると嬉しいな!! ハオマさん、首をキリンみたいに長くして待ってるから!! ……それじゃあ行こっかぁメーちゃん。せっかくだから私も一緒におつまみ選んで、今日はガッツリ飲んじゃうぞぉ~!!」
おーっ!! というハオマの掛け声に、メーもまた酔っ払った調子で「ウェーイ! その意気ですぜ三十路の姉御ぉ~っ!!」と共鳴したものだったから、これにハオマは慌てて「ちょちょちょっとッ!! 公共の場で年齢バラすのやめて~っ!!!」と騒ぐように困り果てながら、なんとも愉快げな様子で歩き去っていった。
……彼女が言っていたお返事。それはつまり、同伴のお誘い、ということなのだろう。
おそらく次回は、正式にホステスとなったハオマとの同伴になる。そしてきっと、同伴先では肉食の獣に貪り尽くされることとなるのかもしれない。
……覚悟、決める時が来たか。
ひとり、すぅっと深呼吸を行うことで精神を落ち着かせていく自分。それを達観した様相で行ったものだったから、隣にいたラミアは不審なものを見るような目を向けつつ、「おひとりでナニやってるんですか??」と冷静にツッコんできたものでもあった。