俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
たまにはコッチにも顔を出しておこう。
そう思って昼間に訪れた
トレードマークでもある赤色のシャツが、女帝の如き彼女の風格に拍車をかけていく。そんなユノが悠々としたサマでこちらに歩み寄ってくると、次にも凛々しい一礼と共に言葉を投げ掛けてきた。
「ようこそ、柏島くん。貴方の来店を心より待ち望んでいたわ」
「ど、どうも……。でもユノさん、ちょっとおおげさですって……」
「貴方という存在は、ホステスである我々にとって何よりも大切なお客様でもあるの。柏島オーナーの息子さんを丁重にもてなさずして、この店のホステスは務まらないわ」
「あの、ちょっとおおげさなんですって……」
「お客様に立ち話を強要してしまうのも、柏島オーナーに面目が立たなくなってしまうわね。さぁ、こちらへ。レストランという形式でも、貴方に至福のひと時を提供してみせるわ」
「あぁー……どうも……」
美人でカッコいい生ける女神のような人だけど、なんか一方的なんだよなぁ……。
それを内心で呟きながらユノに案内される自分。そうして夜間とは一転とした静かな空間に踏み入れていくと、自分はいつもの席に腰を掛けてはユノからメニュー表を受け取っていく。
と、その最中にもユノは屈むようにしながらこちらに顔を近付けてくると、次にも髪を耳にかけていく色っぽい素振りを交えながら、彼女はそんなことを喋り出してきたのだ。
「貴方を実験台に仕立て上げようという意図は無いのだけれども、もし貴方が許してくれるのであるならば、試作途中の料理の味見を貴方に頼みたいと考えていたの」
「試作途中のですか? それって新作のメニューだったり……?」
「えぇ、新作のメニューよ。ホステスにも味見を頼んだりして、既に形になりつつある商品なのだけれども、ホステスといった身内のみに留まらない客観的な感想や指摘も欲しいと話し合っていたところなの。代金はすべてお店が負担するから、貴方が良ければ味見をしていってくれないかしら」
「あの、それって無料で頂いちゃってもいいんですか?」
「構わないわ。それが、柏島オーナーの息子さんならば尚更」
「あじゃあ、ぜひともいただきます。お店の役に立つことができて、しかも美味しい料理が食べられるのなら喜んで協力します」
「ありがとう柏島くん。それじゃあ、十分ほど時間をもらえるかしら。一秒でも早く提供できるよう尽力してみせるから」
お、重いなぁ……。
思わず変な汗を流しながら、「よ、よろしくおねがいします……」と答えた自分。そんなこちらの反応にもユノは気高く凛々しいサマで頷いていくと、コツコツと靴音を鳴らしながら悠々とした背を向けて厨房へと歩き去っていったものだった。
十分ほどして、手のひらに銀色のお盆を乗せたユノが堂々と歩いてくる。
備えた気品の風格と共にして、「お待たせしました」と一言を添えながら料理の品をテーブルへ置いてきた彼女。そうして提供された四角い皿を自分は覗き込むようにして眺め遣ると、そこには照明を反射するタレがかけられたサイコロステーキに、マグロやエビといった海鮮ものが付属する彩色豊かな光景を目撃したものだ。
高級感あふれるオシャレな料理。肉と魚の欲張りセット。添えられたパセリやライムが視覚的にも楽しいその品を見て、自分は思わず食い入るようにしながら眺めていく。
「めっちゃ美味しそうですね……!!! これ、本当にタダで頂いちゃってもいいんですか? 俺、余裕でお金払えますよ!!」
興奮気味にそんなことを口にしていく自分。それに対してユノは微笑を見せていくと、凛々しい佇まいでかしこまりながらそう返してきたものだった。
「気持ちだけ受け取っておくわね。ただ、このメニューは本来、正式な商品として取り扱われていない未だ非公認のもの。そんな、品質の保障が約束できない品物を有償でお客様に提供するわけにはいかないわ」
「そ、そういうもんですか……。なんか、タダで頂くのが逆に申し訳なくなってくるクオリティではありますが……」
「その判断を下すにはまだ早いわ、柏島くん。まずは、こちらの品を心行くまで堪能していってちょうだい。今回における我々の報酬は、柏島くんから得られた感想や指摘という、お客様からの率直なご意見という非常に貴重なものでもあるのよ。それは些細なことに聞こえるかもしれないけれども、今回提供したサービスは我々にとっても将来、立派な利益へと還元される可能性も秘めているもの。これは、その可能性を模索するべく注ぎ込まれた、未来への投資という必要経費にすぎないの」
「わ、分かりました……! じゃあその分、こちらを頂いた後にお世辞の無い素直な意見をいたします」
「理解してくれて、どうもありがとう。またこちらに顔を出すわ。さぁ、ごゆっくりどうぞ」
胸の前に右手をやり、軽く一礼してきたユノ。これに自分も会釈する程度に頭を下げていくと、ユノは踵を返して業務に戻っていったものだった。
今もテーブルの上には、新作という料理が湯気を上らせている。
温かい内に頂かないと参考になる意見も言えないよな。そう考えて早速ナイフとフォークを手に取った自分は、その新作料理を心行くまで堪能した上でその感想をユノへと伝えていったのであった。
食事を終えて、一息ついていた時のこと。先ほどにもうかがったこちらの感想をメモ帳に記していたユノが、それを手に持ってスタッフ室へと戻っていったこの場面。
じゃあ、自分はそろそろお暇しようか。そう思って席から立とうと、背もたれに手を掛けていった時のことだった。
スタッフ室から出てきたユノが、こちらへ真っ直ぐ歩いてくる。その様子を自分は視界に入れていくと、次にも歩いてきた彼女からその言葉を掛けられた。
「柏島くん、少しだけいいかしら」
「あはい、俺に用でしょうか……?」
「これといった用事ではないのだけれど、もし時間が許してくれるのであるならば、少しだけお話しをしたいと考えていたところなの」
「お話しですか。大丈夫ですよ」
「ありがとう、柏島くん。飲み物を用意するわ。席で待っていてちょうだい」
コップを持ち、ドリンクサーバーからコーラを入れてこちらに差し出してきたユノ。それを自分は受け取っていくと、その間にもユノは向かいの席に腰を下ろしつつそんなことを喋り出してくる。
「私との同伴の件は、考えてくれたかしら」
「以前にも仰っていたものですね。男性との同伴も開始したいという……」
「私の活動範囲を、そして私の可能性を広げるための新たな挑戦。その領域へと一歩踏み込むにあたって柏島くんは、私にとって非常に好都合な条件を兼ね備えた存在でもあるの」
「確かに、初っ端から見知らぬ男性と……というよりは、まずは自分が慕っていたオーナーの息子と、っていう方が良いのかもしれませんね」
「理解してくれてありがとう」
話している間にもユノは脚を組み、右手で頬杖をつきながらこちらと向かい合ってくる。
そんな、真正面かつ至近距離から眺めた彼女の顔は、もはやこの世ならざる絶世の美しさを放っていた。控えめに言って人類の秘宝とも言えるユノの存在に自分は、照れを隠し切れずに頬を赤らめてしまいながらもそんなことを訊ね掛けていく。
「前々から気になっていたんですけれど、ユノさんは男性が苦手なんですか?」
「苦手とまではいかないけれども、それ以上に私は女の人を好んでしまう
「自分に正直であること。ユノさんが最も意識していることでしたね」
「覚えてくれていたのね」
そう言い、穏やかな笑みを見せてきたユノ。共にして香ってくる彼女のフェロモンに自分は冷静を装うように笑みを返していくと、次にもユノは悠々とした眼差しでそれを話し始めてきたのだ。
「でも、私は今のままではいけない。今日の自分は、昨日の自分よりも一歩だけでも成長していたい。いえ、私は人としての成長以前に、常に前進し続けていなければならないの。そのためには、これまでに踏み入ったことのない領域にも挑戦し続けなければならない宿命にあるわ」
「昨日よりも成長していたい。これはとても素晴らしい考えだと思いますし、それを実際に遂行できているユノさんには尊敬の念さえも覚えます。ですけど、だからと言って無茶をしてしまうのも、ちょっと違うような気がしてしまいますね。いや、これを無茶と言ってしまうのは失礼にあたるのかもしれませんが……」
女帝のような雰囲気を醸し出すこの人が、実は意欲に溢れた非常にアクティブな人間であることにギャップのようなものを感じてしまう。
そんなことを思いながらも、生意気にも意見してしまった自分。これにすかさず『ヤバイ』と内心で呟いてしまったものだったが、一方でユノはそんなことを口にし始めてきたものだった。
「心配は無いわ。女性経験が豊富であることに代わりはないけれど、前の職場では男性諸君を取りまとめていたものだから、男の人に対する苦手意識はそれほど無いの」
「そうなんですか。それを聞いて安心しました。でありましたら、ぜひ同伴したいです。俺がユノさん達の役に立てるのであるならば、惜しみなく協力させていただきます」
「大切なお客様である柏島くんに、あろうことか頼み事をしてしまって本当にごめんなさい。そして、ありがとう。貴方の誠意に私は心から敬意を払うわ」
凛々しくも麗しい温もりのある笑み。高貴な風格から見せてくるその微笑みによって、これまでにも数多の女性を落としてきたのだろう。
男である自分もまた、その微笑みによって思わず惚れてしまいそうになった。
だからこそ、男性客との同伴に尚更と心配に思えてきてしまう。これもきっと、彼女が言う
とにかく、この日にもユノとの同伴が決まった自分は、その話の直後にも彼女と共に、その場で当日の予定を立て始めたものだった。
メモ帳を用意してきたユノ。そして胸元のポケットから取り出したペンでスラスラとメモを取り始めていくその最中、彼女は視線をこちらへ投げ掛けながらそれを訊ね掛けてくる。
「先日のラミアとの同伴では、水族館に行ってきたそうじゃない」
「そうですね。潮風が心地良い場所でした」
「素敵なデートスポットを選んだわね。……それでなのだけど、彼女との同伴もその格好で行ってきたのかしら」
「あはい、そうですけど……」
「ラフで無難な格好だから、世間的な視点から鑑みる分には違和感は無いわね。けれども、この店に辿り着くようなホステスは皆、そんな一般的な刺激だけでは満たされない風変りな子がほとんど。世間が追い求める理想像が無難であるならば、我々が追い求める理想像は冒険とも言えるわ」
「つまり……この格好は相応しくない、と……?」
「柏島くん。貴方はこの先も
「相手も満たすことのできる……。そりゃそうだよな……同伴してくれるホステスも人間なんだし……」
そう考えると、ラミアが頑張っておめかししてくれた一方で、自分はあまりにも素朴な格好をしてしまっていた。これをラミア視点から考えると、自分の頑張りと相手の頑張りがあまり吊り合っていないように感じられてしまって、不服に思えてしまう部分が出てきてしまうかもしれない。
形式としてはホステスを一時的に雇っている身ではあるものの、やはり並んで歩くことを考えると自分もそれ相応の格好や対応をしなければならないか。それを考えた自分が顎に手を付けながら思考に耽っていると、メモにペンを走らせていたユノがその手を止めて、こちらを見遣りながらそんな提案をしてきたものだった。
「柏島くんという男性がワンランクアップするためのお手伝いをしましょうか?」
「ワンランクアップ、ですか……?」
「私が貴方を男前にしてあげる」
ドキッ。気品あふれる凛々しい表情でそれを言われるなり、自分は一瞬だけ陥落しながらも「お願いします……」と困惑気味に答えてしまったものだ。
その返答を耳にしてユノは、テーブルに両肘をついたその両手を組みながら喋り出してくる。
「それならば、同伴先は龍明の街中にいたしましょう。ここから二十分ほど歩いた先にある駅前には、貴方の中の常識を覆すに相応しい様々なお店が出揃っているわ。そこで柏島くんを男前に仕上げたその足で、私とデートをいたしましょう。柏島くんとしてはどうかしら。何か要望はある?」
「いえ、ユノさんの仰った大まかなスケジュールで問題ありません。ユノさんとしましても男性との同伴は初めてということですから、最初は馴染みのある街中から同伴を始めるべきなのかなと考えておりました」
「私のことを考慮してくれているのね。ありがとう。その計らいに私は全力で応えてみせるわ」
言葉の重さからして、あたっていく物事には常に全力であることが何となくうかがえる……。
変な汗を流していく自分。これにユノは気にすることなくメモをまとめていくと、その黒色の手帳をパタンッと閉じてはペンと共に胸のポケットにしまいつつ、ボタンを二つ外してあるその胸元に気を取られるこちらへと彼女は言葉を投げ掛けてきた。
「店のシフトの関係などで、現時点では同伴の日時を決定することはできないわ。加えて私は、ショーのキャストとしてステージに立つこともあるものだから、その練習や打ち合わせを含めた上での日時の連絡に、もしかしたら時間が掛かってしまうかもしれない。その点を留意してくれると嬉しいわ」
「ショーのキャストって、キャバレーの時にステージの上で行われる演奏や演劇のことですか?」
「えぇ、そうよ。私がキャストとしてステージに立つのは演劇の方で、そこではパフォーマーとして演技を行う他に、ダンサーやボーカルも担当することがあるものだから、練習量も他の子と比べてどうしても増えてしまうのよ」
先日にも見たあの舞台にユノさんも立つのか……!
巡ってきた高揚感。あのクオリティのショーをユノさんの演技で見られるなんて、という期待感も脳裏によぎってくる。
「すごいですね……! 俺、ユノさんのステージも見たいです……!」
「ふふ、ありがとう。話が逸れてしまったものだけれど、そういった事情から同伴の日時についての連絡は遅れてしまうかもしれない。ということを伝えたかったの」
「いやいや構いません!! いつでもお待ちしております」
「理解してくれてありがとう。とても助かるわ」
そう言って、凛々しいサマで再び微笑んできたユノ。これに自分は照れながらも「いえ」と答えていくことで、この場にて彼女とは解散になったものだった。
無償で新作の昼食を頂いてしまった上に、ユノと同伴の約束もできてしまった。
昼間から幸福度が満たされて、とても充実した良い気分で
ふと、こちらに歩み寄ってくる気配に自分は振り向いていく。するとその視界の先からは、こちらを目指して歩いてくる一人の女性がうかがえたのだ。
加えて、黒色のコートに
他、ショルダーバッグのような黒色のスーツケースを手に提げていたものであったのだが、それ以上に意識が向いてしまったのは身に付けているワンピース。それは下が見えるか見えないかの絶妙な絶対領域を作り出している極端に短い丈であったため、昼間から露出の多い格好で出歩く“彼女”に自分が恥ずかしくなってしまえたものだった。
「あらぁ、奇遇ね~。こんにちは、カンキ君」
「ど、どうも……」
「視線を逸らしちゃって、どうしたの~? 挨拶のお返事くらいは、相手の目を見ながらしないとね?」
息がかかるくらいの至近距離まで詰めてきたレダ。このアプローチに自分は頬を赤らめていくと、彼女は獲物を補足したような笑みでこちらの頬に手を掛けつつも、そのまま自身の方へとゆっくり振り向かせながらそう喋り続けてくる。
「お昼から刺激的すぎちゃったかしら~? でも、これだけで目も合わせられなくなるようじゃあ、わたし達の夜の相手も務まらないわよ?」
「そ、そういう目的で関わってるわけじゃないから……!」
「あら、ウフフ……。とっても良い反応を見せてくれるじゃない。ウブなオトコが焦っちゃっているその姿……余計にゾクゾクしてきちゃう……」
褐色の頬を赤らめるレダ。共にして舌なめずりを行ってくると、こちらの肩に両腕を回してきては大胆に顔を近付けて、唇が触れ合うというその距離で彼女は囁くようにそれを言い放ってきた。
「ねぇカンキ君。この後、予定とかあるのかしら? もし急ぎの用が無いのなら……今からわたしと気持ち良いことをシに行かない……?」
「ちょっと、昼間から何言ってるの!?」
「営みに昼も夜も関係無いのよ? 心と体が惹かれ合ったその瞬間こそが、お互いの欲求を満たすのに絶好のタイミングなんだから……」
と言うなり、誘惑的に身体をくっ付けてきたレダ。その豊満な乳も自慢げに押し付けてくる彼女のアタックを受けて、自分は焦りつつもその身体を優しく遠ざけていく。
「いやいやいや、こういうことはせめて人目の無いところで……!」
「そう言われてもわたし、ガマンできないの……。こうしておあずけにされている間も、身体の芯が熱く火照ってきちゃって……もう、歯止めが利かないんだからぁ……!」
「どんだけ溜まってるの!? いやいやちょっと、一旦離れて……」
「あぁん!」
「喘がないで!!」
通報される! その一心で自分は、必死な形相を見せながらレダを引き剥がしたものだ。
そんなこちらの対応に、レダは不服そうな表情を見せてきた。だが、そうしてこちらから両腕を解いてくる最中にも、彼女が手に提げていたスーツケースがこちらの背中にゴツッと当たり……。
その直後にも、レダはスーツケースを大事そうに抱え込んでいったのだ。
これと共にわずかながらと聞こえてきた、カラカラという中身の音。何かの軽量な機器がぶつかり合うようなそれを自分は耳にしていくと、今もレダが抱えるスーツケースを指差しながら問い掛けてみたものだった。
「だ、大丈夫? なんか、とても大切そうに見えるけど……」
「あぁいえ、平気よこれくらい。……ウフフ。ウブで弄り甲斐のあるオトコを前にして、ちょっと昂りすぎちゃったみたいね。この続きはまた別の機会にしましょう? ねぇ? カ・ン・キ・く・ん?」
色っぽく呼んでくる名前に、自分は視線を逸らしてしまった。
と、抱え込んでいたスーツケースを再び提げていくレダ。それを身体の後ろに回しては両手で持つようにしていくと、彼女はワンピースから褐色の谷を覗かせてくるような前かがみの姿勢でこちらに歩み寄りながらも、ふとそんなことを訊ね掛けてきた。
「それでカンキ君、この後はどこに行くつもりだったのかしら? あなたのアパート、そっち方面じゃないでしょう? もしかして……どこかでガールフレンドと待ち合わせ~?」
「なんでレダが俺のアパートの場所を知ってるの……。まぁそれは良いとして、この後は駅前に行こうかなって思ってたんだ」
「駅前? ふぅん……」
と、何かうかがうような視線を向けてきたレダ。その、何かを含んだ相槌で彼女は何度か頷いていくと、次にもそんな言葉を投げ掛けてきたのだ。
「もしかして、同伴だったかしらぁ? それだったら、せっかくのお楽しみのところお邪魔しちゃってごめんなさいね~?」
「いやいや、たった今お店から出てきたところで、これから一人で駅前に行ってくるつもりだったんだ」
「え?」
「え?」
え?
互いにキョトンとしたその瞳。これに何かが噛み合っていないと感じたのは、おそらく自分だけじゃなかったはず。
すぐにもレダが、言い寄るようにこちらへ数歩と近付いてきた。先ほどまでの誘惑的なオーラとは正反対の、とても真剣な眼差しを突き刺すように向けながら……。
「カンキ君、それはあまりにも不用心すぎるわよ?」
「不用心? まぁ確かに、龍明って街は犯罪の温床とか言われてるけど……」
「そうじゃないわよ。あなた、“命を狙われている”自覚はあるの? って話よ」
「…………え?」
なんだそれ。これまで耳にしたことも無いような言葉を掛けられたことで、自分は唖然としながらレダを見遣ってしまった。
この反応にレダは、『あちゃー』と言わんばかりの顔をしながら自身の口元へ手を伸ばしていく。
「その様子じゃ、ユノさんから知らされていなかったみたいねぇ……。わたし、余計なこと言っちゃったのかも~……」
「いや……。え? 本当なの、その話」
「え、えぇ、まぁ……。いまさら隠してもしょうがないわよねー……」
冷や汗を流すレダが、こちらから視線を逸らしていく。だが、彼女はすぐにもこちらへ向き直ってくると、次にも艶やかな声音ながらも真剣な調子でそれを話してくれたのだ。
「わたしの方からじゃ、あまり詳しくは話せないのだけど……。結論から言ってしまえば、カンキ君。あなた日頃から、命の危機が脅かされている状況に置かれているのよ」
「なんでまた、俺なんかが……?」
「至極単純な話、あなたが柏島オーナーの息子さんだからよ」
「…………俺の命と親父に、何か関係が……?」
「考えられる最もな原因としては、あなたのお父さんが裏社会に恨みを買ってしまっているから、かしら? 柏島オーナーへのヘイトは非常に根強いものになっているらしくって、既に亡くなられたことで本人が不在となった今になっても、そんな彼への報復として、実の息子さんであるあなたの命を狙っている……という線でわたし達は考えているわね。その真相は闇の中ではあるのだけど」
「…………」
言葉にし得ない感情。同時にして巡ってきた、『だから親父のやつ、俺と関わらないように距離を置いていたのか』という認めざるを得ない納得の言葉。
そんな自分の様子に、レダは神妙な顔でこちらの手を取りながらその言葉を掛けてきたものだ。
「大丈夫だから、カンキ君。裏ではユノさんがぬかりなく手を回してくれていて、そのおかげであなたは今も平穏な日常を送ることができているのよ。まぁ……今でこそわたしが余計なことを言っちゃったものだから、あなたに不安を与えてしまったものなんだけれども、大丈夫、わたし達は責任を持ってあなたのことを最後まで守り抜いてあげるから」
「…………気を遣わせてごめん。今度からは俺も、周囲に気を付けながら生きていくよ」
「あなたは何も悪くない。全部、柏島オーナーに悪行を暴かれるに至った裏の組織が発端なのであって、そんな彼らがカンキ君のことを逆恨みしているだけなのよ」
その言葉を喋りながらもレダは、手に取ったこちらの手の甲を自身の顔に近付けてはおもむろに口づけを行ってくる。これに自分は心臓の鼓動を静かに鳴らしつつも、与えられた温もりによって少しばかりと落ち着きを取り戻したものだった。
共にしてレダは、こちらの手を引くようにしながら駅の方角へと歩き出した。そして彼女は髪を揺らしながら振り向いてくると、褐色の魔性な笑顔でありながらも純粋な優しさを滲ませたその表情で、上目遣いを交えながらその言葉を掛けてくれたのだ。
「あなたの用事に、わたしが最後まで付き添ってあげる。その方が安心できるでしょう? だから今は、一緒に居ましょ? ね? カンキ君が安心できる毎日を送れるように、こうしてわたし達が見守っていることを証明してあげるから!」