俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
ユノとの同伴当日。
龍明の駅前で待ち合わせという予定通りに、自分は部屋を出る前に鏡の前で身だしなみのチェックを行っていた時のことだった。
部屋の奥では、人のベッドに引きこもるメーがスマートフォンで音ゲーをプレイしている音が聞こえてくる。それを横目に自分は、そろそろ出発すると彼女に外出を伝えようと顔を覗かせた時にも、自分の背後にあった玄関の扉がひとりでに開けられるなりラミアが入ってきた。
この音に自分は振り返っていく。だが、「おかえり」と声を掛けようと口を開いた時にも目撃したラミアの様子に、迎える気持ちよりも心配の気持ちが勝ってしまったのだ。
病み系コーデという勝負服姿のラミアが見せてきた、死人の如き青白い顔色。目の下につくった黒いくまと、疲労困憊で死に掛け状態なその表情は、げっそりとした頬で更に強調されていたことで、もはやホステスが見せていい顔ではなかったものだ。
限界状態のラミアは、朦朧とした意識でこちらを捉えながら「ただいま帰りましたー……」と弱々しく言葉を口にしてくる。これにはベッドにいたルームウェア姿のメーも様子を見に歩み寄ってきたその中で、自分はラミアをうかがうようにしながらその言葉を掛けていった。
「お、おかえり……。いや、本当にお疲れ様……」
「うー……もうまぢムリです……。ホントに信じられない地獄のような同伴でした……。足がイタいって言ってるのに気合いが足りないとか言われて歩かされ続けたり、ウチのハナシを最後まで聞かないで自分の話を始めてきたり、周囲への態度が悪すぎて一緒に居るのが恥ずかしく思いましたし、挙句には薬を飲んでないのに許可も無く中に出されたりして……なんだかジブンが惨めに思えてくる同伴でした……。どーしてウチがこんな仕打ちを受けないといけないんでしょうか……なんかもうやってられませんよ……」
ラミアの様子からして、だいぶ参ってしまっているな……。
玄関先で呆然と佇むようにする彼女は、部屋に着くなり涙を浮かばせながらそれらを話したものだった。それに対し、話を聞いたメーが「最低なクズ。そんなヤツ死んじゃえばいいのにね」と容赦なく言いながらもラミアに近付いていって、彼女はラミアの頭を優しく撫でながらも部屋に上がるよう促していく。
だが、そんなラミアは顔を上げるなり、こちらの顔をじっと見据え始めてきた。
これに、自分は首を傾げながらも向き合っていく。そして次の時にもラミアは、迷うことなくこちらに抱き付いてきたのだ。
突然のそれに、自分は一瞬ばかり焦ってしまった。だが、無心で抱きしめてくる彼女の頭を撫で始めていくと、彼女はこちらに顔を埋めながらもこもった声でそれを喋り出していく。
「カンキさん。ウチを慰めてください……」
「よく頑張ったねラミア。お仕事のためにずっと我慢して、本当にえらいよ。よく頑張った」
「ご褒美が欲しいです」
「冷蔵庫の中にショートケーキが入ってるよ。三つ入ってるけど、頑張ってきたラミアが全部食べてもいい」
「食べたいです……。甘いもの大好きですから……。でも、お昼のシフトまでに睡眠もとっておかないといけません……」
「それじゃあ、今はゆっくり休まないとね。……メー、ラミアのことを任せてもいいかな。俺、そろそろ出ないと」
ラミアの頭を撫でながら、靴を脱いだ彼女をメーに引き渡していく。これにメーは、「カンキ君は行ってきて。こっちは大丈夫だから」と口にしてラミアを抱きとめつつ、こちらに勝気な視線を向けてきたものだ。
そして自分は、「ラミアのこと、お願いね」とメーに伝えて部屋を後にした。
同伴というものも大変だな。そんなことを考えながら歩き出すこの道のり。且つ、この後にもユノとの同伴を控えていた身として、相手に失礼の無い対応をしなきゃなという意識が一層と強くなったものでもあったのだ。
朝方の龍明。都会らしく発展し、高層ビルに囲まれた交通機関と横断歩道が巡らされたその空間。しかし街の空気はどこか黄色く濁っているように感じられ、その淀んだ雰囲気が無法地帯らしさを醸し出してくる。
そんな街中にある龍明の駅前へと移動した自分は、待ち合わせ場所である駅の柱で暫しと佇んでいた。
時折と腕時計を確認する。待ち合わせに遅れてはならないと思って、張り切って時間前に到着した現在。だが、ちょっと早すぎたこともあって自分はしばらくそこに棒立ちをかましていく。
と、待ち合わせの時間きっかりとなったその時刻。ちょうど針がその数字を示したその瞬間にも、自分は近付いてくる気配へと振り向いては歩み寄る“彼女”の姿を捉えていったものだ。
とても見慣れた、分厚い白色のポニーテール。色白の肌で気高き風格を醸し出すあの存在感は、相も変わらずといった具合に女帝とも言える凛々しさを纏っている。……はずだった。
黒色のノースリーブトップスに、赤と黒のチェック柄ロングスカートというそのコーディネート。加えて、黒色のローファーに赤色の靴下という組み合わせと、肩に掛けた黒色のカバンに黒縁の伊達メガネという格好で“彼女”は姿を現すと、あまりにも見慣れないファッションに思わず呆気に取られていたこちらの顔をうかがいながらそう喋り出してくる。
「待たせてしまったかしら、柏島くん」
「いえ、そんな……」
「どうかしら、この格好。男性との同伴ということで趣を変えてみたのだけれど、やっぱりこういった系統は私には合わないわね」
「いやいや! むしろその逆で……めっちゃ似合ってて綺麗です、ユノさん……」
これまでに見てきた彼女の姿は、凛々しく麗しいデキる女上司という頼れるお姉さんとしての姿だった。だが、今こうして目の前に存在する彼女は、女性という温もりと愛らしさを兼ね備えたファッションを身に纏っており、女性らしさを全面的に押し出してきた彼女はもはや別人のようにも思えてきてしまえる。
そう言ってしまうと失礼なのかもしれない。だが、ホステスとしてのタキシード姿や、私服であるライダースジャケットとバイクパンツという凛としたスタイルから一転としたその姿を目撃して、自分はこの瞬間にもユノという人物を改めて異性として意識してしまったものだった。
もう、何時間でも見惚れてしまえる。そんな勢いで彼女のことをじっと見遣っていたこちらに対して、ユノは申し訳なさそうに眉をひそめながらそれを言い出してきたものだ。
「そんな注目されてしまうと、さすがに私でも恥ずかしいわ」
「あ……すんません……。でもそれくらい、めっっっちゃ綺麗です……」
「ありがとう、柏島くん。ただ、そこまで驚かれてしまうとかえって失礼に思えてくるものよ。私もれっきとした女性なのだから」
「ご、ごめんなさい!! 普段のカッコよさとのギャップで、つい……!!」
「ふふ、冗談よ。柏島くんは分かりやすくて助かるわ。ポーカーフェイスが苦手であるその素直な性格、いとも容易く貴方の真意を汲み取ることができるからこそ、私は安心して貴方に同伴を頼むことができるというもの」
こちらに歩み寄ってくるユノ。そして彼女は悠々としたサマで右手を差し伸べてくると、こちらよりも背の高いそのアプローチと共にユノは、穏やかな調子でそれを口にしてきたのだ。
「さぁ、私との同伴を開始いたしましょう。今日は楽しいデートにしましょうね、柏島くん」
人々の視線を吸い寄せるその存在感。コツコツと靴音を鳴らしていく度に、彼女を認知した周囲の人間はその女神に見惚れていく。
ユノと出歩く龍明の街は、いつになく気持ちが落ち着かないある種の緊張感を伴っていた。
周囲から向けられる視線に心拍数が上がっていく。別に自分が見られているわけでもないのに生じるこの緊張に気が引き締まっていく一方で、当の彼女は人目を気にすることなく駅前を歩き進めていっては、更に駅ナカへと移動してブティックを吟味していくその様子。
この同伴は、基本的にユノの後をついていくお出掛けとなっていた。尤も、時折と彼女はこちらの腕に手を回してきては、「あのお店とかどうかしら」と言葉を投げ掛けてきたりなどの親密的なコミュニケーションも交わしてきたものだったが。
女性に恋愛感情を抱くというユノは、男性である自分に対してこれといった抵抗を見せることなく駅ナカを巡っていたものだ。彼女としても、男性との同伴を始めるにあたってどのように接するのかを確かめている最中なのだろう。
メンズものを取り扱うブティックを暫しと眺め、「ここにしましょう」と短く断言したユノ。そして彼女はこちらの手を優しくとってくると、先導するように店内へと入っていっては店の中を一通りと回っていく。
この、導いてくれる安心感こそが、女性からの支持を得ている部分なのかもしれない。ユノが併せ持つ気高き風格は、身近の者に絶対的な安堵を与えてくれる。
今も手を取りながら店内を歩き回っていくその最中に、逐一とこちらの様子をうかがっては気に掛けてくれるその対応。加えて絶世の美貌というその風貌も合わさることで、男である自分でさえもまるで女神の加護に包み込まれたかのような安心感を得ることができていたものだ。
ユノが選んでくれた服を、試着室で身に纏っていく自分。そうして着替えが完了したということで自分はカーテンを開いていくと、その前で凛々しく佇んでいたユノが納得の頷きを見せながらその言葉を掛けてくる。
「いいんじゃないかしら。その服装ならば、ホステスの子達もきっと大喜びで同伴してくれるわよ」
「そ、そういうもんですかね……。俺、この格好ちょっと恥ずかしいんですけど……」
と言いながら、自分は背後の鏡へと振り向いて自身の姿を改めて確認していく。
黒と白とオレンジが入り乱れるカーディガンのようなアウターに、内側にはフード付きの黒色のパーカーと、腹部に巻き付けたベルトのような白色のアクセサリー。暗い青色のボトムスに、黒色のスニーカーというストリート系に近しいその格好。
なんか自分らしくないと思えてしまうその一式。これに違和感が拭えないと言わんばかりの顔を映していくこちらとは反対に、ユノは鏡越しに満足そうな顔を見せていたものだった。
あとは髪をいじれば完璧。というユノのアドバイスをもらって、自分はそれら一式を購入。それらの衣類もユノが店の経費で支払うとか言い出したことで、実質無償で手に入ってしまったものだ。
そして、早速とその格好に着替えて龍明の街へと出ていく自分ら。その際にもユノはこちらの左手を握ってくると、手を繋いだその状態でこちらに提案を投げ掛けてくる。
「長時間、私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさい。時間も時間だから、昼食にでもしましょうか?」
「わがままだなんて、そんな。俺のためにコーディネートをしてくださってありがとうございました。それでお昼なんですが……」
俺、友達とはファミレスぐらいにしか行ってなかったしなぁ……。という内心を呟きながら周囲を眺めていく自分。
女性とのデートの際、どんな店に行くべきなのだろうか?? そんなの全然知らないぞ??
ふと訪れた謎の危機感。行き先によってはユノを失望させてしまうんじゃないかという不安感にも駆られ始めたこの緊張が、心臓の鼓動となって何度も胸に打ち付けてくる。
だが、そうして挙動不審のような見渡しを行うこちらに対して、ユノは悠々としたサマでそれを口にし始めたのだ。
「なにも恥ずべきことではないわ、柏島くん。誰にだって、知らないことくらい存在するものよ」
「まぁ自分は男でもあるんで、デートの時くらいはそういうところもしっかり調べておけば良かったなと、今になって反省しております……。この周辺にあるオシャレな飲食店を知らないだなんてラミアやメーに知られたら、数日はそのことをネタにされてしまいますからね……」
「仲睦まじくて、たいへんよろしいこと。日頃からあの子達の面倒を見てくれてありがとう。それじゃあ……日頃のお礼も兼ねて、今回はとっておきのお店を貴方に紹介してあげようかしら」
「本当ですか? めっちゃ助かります……!」
「私が女の子と同伴する時に利用するお店なの。だから、店内の雰囲気や料理の味といった品質は保障するわ。ここから徒歩で十五分くらいの場所にあるから、ついてきてちょうだい」
それらを口にして歩き出したユノ。そうして手を繋ぐ彼女が導くように先を歩き出したことで、自分は更なる安心感を抱きながらユノおすすめのレストランに連れていってもらった。
ビルの九階に位置するレストラン。全体的にシックな雰囲気の店内に、昼間でも宝石のような照明が灯る空間が高級感を醸し出している。加えて、ビルの外にある観葉植物と、ナイフとフォークでいただく料理の形式が一層とオシャレでもあった。
最初こそは色々と身構えたものであったのだが、お値段は非常にリーズナブルで、デートの際にふらっと訪れた際にも安心して利用できるのがポイントだった。これを受けて自分は良い武器を手に入れたなという身に付いた知識に自信を持ちながら、今も二人用の席で向かい合うユノと穏やかな食事を行って昼食を終えていく。
かと思えば、駅前に戻るなり今度はデパートの中を二人で歩いていたものだった。
人混みがごった返すこの空間。その中を自分はユノと足並みを揃えながら巡っていき、時には若者に人気なアイスクリーム屋の列に二人で並んで、同じものを頼んでアイスクリームを堪能したりなどといったラフな付き合いも行っていく。
ユノという人物は、色々な意味で可動域が広かった。
コーン付きのアイスクリームを手に持って、二人で店内のベンチに座ってそれを食べているその最中。今も隣にいるユノの存在に未だ緊張が拭えない自分が、顔を赤らめながらもちょっと気まずそうにしてアイスをかじっていた時のこと。
提げているカバンからスマートフォンを取り出したユノ。赤色のそれでカメラを起動していくと、不意にも彼女はこちらの肩に手を回してきながらインカメラを向けてくる……。
「とても良い表情」
「え?」
パシャッ。
カメラの存在に驚いた自分の顔が、なんとも間抜けに写されていたその写真。それでいて、まさかユノがこのような行動を取ってくるなんてという想定外の事態に困惑が隠し切れず、自分はそんなことを訊ね掛けてしまう。
「ユ、ユノさん!? ユノさんってこういうことする人だったんですか……!?」
「私がしてはいけない理由なんて無いでしょう?」
「そ、それはそうですけど……!!」
「柏島くんが私のことをどう思っているかなんて知る由も無いけれど、私もれっきとしたホステスである以上はこういうこともできるのよ」
と言うなり、ベンチの背に腕を掛けたユノが、次にもその手でピースをつくってこちらに凛々しいドヤ顔を行ってきたのだ。
あっっっ。なんてことだっっ。
思わぬヤンチャなギャップに昇天しかけた自分。途端に愛らしく感じてしまったユノのアピールに鼻血が出そうになると、ユノはノースリーブのトップスでおもむろに腕を上げてきては、再びこちらの肩に腕を掛けてきてインカメラを構えていく。
「次はカメラ目線をちょうだい。その服装の柏島くんの写真を、いつものホステスの子に送信するつもりでいるから」
「え、ラミアとかメーですか?」
「あとは最近、レダとも仲が良いみたいじゃない?」
「まぁ……レダとは最近になって関わるようになりましたけど……」
「彼女達に先ほどの写真を送ったら、どんな反応をするでしょうね?」
「それは勘弁してくださいよ!! 絶対ネタにされます!!」
「それじゃあ、ネタにされないようこの写真はカッコよく写っておきましょう?」
「どちらにしても送るんですか!?」
パシャッ。
問答無用すぎる。もはや無慈悲とも言えるシャッターが切られ、自分は必死な形相のそれに頭を抱えてしまったものだった。尤も、自分の顔以上にユノの勝負服姿の方に意識が向くことだろうけれど。
そんなやり取りを交わしつつ、自分らは再びデパートの中を巡り出す。その途中に見つけた映画館へと続く通路に視線をやっていくと、その突き当たりにはちょうど話題となっているアクション映画の特大ポスターが張り出されているのを視界に捉えたものだ。
走行中の貨物列車から大量の荷物が流れ出し、その上を駆け抜けようとしている男の俳優が手を伸ばしているその図。貨物列車の上には、武装した男に囚われる女性というなんとも派手な様子に自分は暫しと眺めていると、それに気が付いたユノもまたポスターを見遣るなりそんなことを口にし始めてきた。
「今、話題になっているアクション映画みたいね。お店に来てくれるお客様が、あの主演の俳優さんのファンって方が多いの」
「ポスターの左上に写っている顔を見れば、一発で納得できますね。まだ二十代前半で若くありながらも、なんともまぁハードボイルドで渋い演技をするもんですから、男から見てもカッコイイなと思っちゃったりするもんですよ」
「共感できる部分はあるわね。私も、若い女の子には目移りしてしまうもの」
「同性でも、カッコ良かったり可愛かったりすればついつい注目してしまうものですね」
たわいない会話だった。だが、そんな話をしている最中にもユノは腕時計を確認していくなり、おもむろにこんなことを提案してきたのだ。
「柏島くん。貴方が良ければ、これからあの映画を観てみない?」
「あはい、構いませんが……ユノさんってアクション映画をご覧になるんですね……。ちょっとだけ意外でした……」
「私自身それほど嫌いではないのだけど、それ以上に話題の引き出しを増やしておくことに意義があるのよ」
「なるほど、お客との会話に活かせますもんね。話題の映画ですから尚更。そうとあれば行きましょう!」
接待が主となる仕事であるため、世間の流行には敏感であることも重要になるんだ。
そんなユノへの感心に自分は心の中で頷いていきながら、映画館へと向かうためにそちらへ歩き出していく。が、今は彼女と手を繋いでいた状態であったために、自分が歩き出したその時にもユノをエスコートするかのような光景を生み出してしまった。
その瞬間に巡ってきた、互いに視線を交わし合うこの沈黙。
……いつもと逆だ。自分がユノという女性を先導する今のシチュエーションには、自分もユノも気まずそうにしながらゆっくり視線を逸らしていってしまう。だが、次にもユノが再び向き合ってくると、その凛々しいサマでありながらも頬を赤く染めながらそれを喋り出してきたのであった。
「……いいわ、柏島くん。貴方の男らしい紳士な姿を私に見せてちょうだい。柏島くんのエスコートに、期待しているわよ」
映画を見終えた現在でも、先ほどユノから掛けられた言葉に未だドキドキが鳴り止まない自分。感想を二人で話しながら映画館を後にしていくと、夕方になりつつある現時刻でデパート内のゲームセンターを楽しんで、気付けば夜という時間帯を迎えていたものだ。
ゲームセンターでは主にメダルゲームで遊んでいた。とても意外に思ったのが、ユノという人物がメダルゲームに随分と夢中になっていたことだろう。
彼女はどんなことでも手を抜かない。それ故に、遊びにも常に全力となって取り組んでいた。それも、メダルゲームの筐体にしっかりと張り付いて、真剣な眼差しを画面に向けながらゲームに熱中していたその姿に自分は呆気にとられてしまうほどのもの。
また、ユノとエアホッケーで遊んだ際にはとんだ目に遭わされたものだった。
さすがは負けず嫌いの彼女。普段はあまり触れないそのゲームでも、敗北する度に鬼のような形相で再戦を臨んでくるその光景。それが何十回と繰り返されたことで自分は疲れ果て、しかし疲労とは別にして自分は、その短時間でユノに実力を追い抜かされてしまう。
彼女、一戦毎に良い所と悪い所の研究を行っていた。その揺ぎ無い姿勢に感服する形で自分は完敗を認めていくと、ユノは満足したようにその瞬間だけ無邪気な笑みを見せて喜んでいたものだった。
こうして、デパートのゲームセンターも堪能した自分ら。その時間も夜を迎えて、そろそろ解散しようかという話が出始めた時のこと。
デパートの出口まで歩いてきたところで、自分は自動ドアのセンサーを踏みながらも思い出すようにそれを口にしたものだった。
「あ、最後に地下で買い物でもしていこうかな」
こちらが足を止めたことによって、手を繋いでいたユノが悠々としたサマで振り返ってくる。
「どうかしたのかしら」
「あぁいえ、ちょっと今晩のご飯と甘い物を買って帰ろうかと思いまして。家を出る時、ラミアがすごく辛そうにしておりまして。同伴で嫌なことがあったってことで相当参ってしまっている様子でしたから、甘い物で少しだけでも元気を出してもらいたいなと」
「ラミアのことを気遣ってくれているのね。これには、店を代表してお礼を言わないといけないわ。柏島くん、ホステスのことを大切に扱ってくれて本当にありがとう。この私から、心からの感謝を表明するわ」
「扱って、ってそんな……」
こちらの言葉を遮るように、握る手を持ち上げてきたユノ。そしてこちらと向かい合いながら彼女は真っ直ぐと瞳を見据えてくると、次にも穏やかな微笑みを見せながらそれを口にしてきたものだった。
「そのお買い物、私にも手伝わせてくれないかしら。私は彼女らが喜ぶものを把握している。だから、私の知恵は今の貴方の役に立てるかもしれない」
「役に立つとか、そんな大層なもんでもありませんが……! ですが、ついてきてくださるのであれば本当に心強く思いますし、何よりも俺が嬉しいです……」
最後は純粋な気持ちを口走ってしまったものだった。
と、その嬉しいという言葉を耳にしたユノ。それに対して穏やかな微笑を返してくると、ふとユノは一歩近付いてくるなり、こちらに軽い抱擁を行ってきた。
背丈的に、ちょうど彼女の鎖骨あたりに顔が埋まる。且つ至近距離によるユノの香りと懐の弾力に自分は堪らず顔を赤くしていくその中でユノは、割と早めに抱擁を解いてきては手を引く形でデパートへと歩き出しつつその言葉を投げ掛けてきたのであった。
「男性をハグしたのは、これが初めてよ。つまり貴方は、私の初めてを体験した男性とも言えるでしょうね。……さぁ、立ち竦んでいないで買い出しへ行きましょう? 私にとって、お客様としても、男性としても特別な存在の柏島くん」
住宅街の夜道に響かせる、両手に提げたビニール袋の音。それを二人で持ちながらアパートに帰ってくると、扉を開いた直後にもルームウェア姿のラミアとメーが飛び出すように顔を出してきた。
それと同時にして、こちらとユノの格好に二人が驚きの声を上げていく。
「カンキさんユノさんおかえりなさーい!! もー、ユノさんからお写真が送られてきた時はウチ、ホンキで驚きましたよー!! 見た目が変わりすぎていたモンですから、最初どちらも分かりませんでした!!」
「うはー!!! やば! 生だと二人の印象めっちゃ違うじゃん!! ウケるんだけど! てかユノさんそんな格好もできんの!? やばくない!? チョー可愛い!! え、別で写真撮ってもいい?」
アイスクリームを食べている時にも不意に撮られた写真で、ラミアとメーは興奮している様子だった。
女の子ってこういうの好きなんだなぁ。と、そんなことを思いながら自分は提げていたビニール袋をラミアへ手渡していく。
「ラミア、これにシュークリームとかティラミスとかいろいろ入ってるから、好きなの取って食べていいよ」
「え、ウチにですか?? うわー、なんかスゴイいっぱいありますね!! コレ、ホントに全部ウチがいただいちゃってイイんですか!? すごく嬉しいです!! ありがとうございます!!」
全部とまでは言ってないけど、これで元気を出してくれるならまぁいいか……。
内心で呟いたその言葉も、既に背を向けて部屋へ戻っていったラミアを見送る最中に忘却していく自分。この脇ではユノがメーへとビニール袋を手渡しながら、そんな会話を展開していたものだ。
「お惣菜が中心ではあるけれども、お寿司や天ぷらが入っているから好きなように食べてちょうだい」
「さっすがユノさん! しかもビールまで入ってる!! ユノさん分かってるぅ~! あぁ二人も上がって上がって!! みんなで一緒に晩ご飯食べよ!!」
と言いながらウキウキで部屋に戻っていくメー。
これに対して自分は、「いやここ俺の部屋なんだけど……」というセリフを呟いた。そんな感じで大喜びなラミアとメーの反応を見送ったものであったのだが、最後に隣のユノが靴を脱いで上がっていくと、今も玄関に佇むこちらへ振り返りながらも彼女は穏やかに微笑みながらそれを伝えてきたものであったのだった。
「まだまだ楽しいひと時を過ごせそうね。それじゃあ、お言葉に甘えてもうしばらくだけお世話になろうかしら。……柏島くん、お邪魔します」