転生先の学友がちょっとエッチな件 作:豪州侍
元はこれが18話だったんですが、流れが悪いのでボツに。
加筆しての供養です。
「石山寺に戦勝祈願に行こうよ」
義定がそう言ったのは、評定が終わった夜のことだった。
三好と和議をする、あるいは戦う。
そのどちらを採ったにしても、あらかじめ俺はその舞台に石山寺を起用することを決めていた。折を見て話をつけに行く必要はある。
「じゃあ、行くか」
俺は快諾して、義定と2人で夜の石山を歩く。
石山寺は瀬田川の西岸にある寺で、平安時代の多くの文学作品に登場する。風流趣味の姫武将にとってある種の聖地のようなところだが、俺的にはそこはどうでもよく、石山寺が巨大な岩盤の上に建っているために眼下の平野を見渡せる戦略的要衝として機能する点に着目していた。
「ねえ、新十郎。明石の方って知ってる?」
のんびり歩いていると義定に問いかけられる。
「ああ、確か光源氏の恋人の一人だったな。須磨に左遷された時に光源氏と出会い、契ったんだっけか。あまり詳しくないからわからんけども」
俺は義定や他の姫武将ほど王朝文学に関心があるわけじゃない。だから、急に話を振られてもすぐに反応できない。
「その須磨の話はこの石山寺で思いついたんだってさ」
「なるほど」と素直に感心する。それを見て義定は気を良くしたのか、話を広げた。
「でさ、須磨の話の時に明石の方は光源氏の子を身籠るの。でも、光源氏は京に帰ってしまう。『いつか必ず迎えに来る』って約束を残して」
「それは知ってるよ。で、ちゃんと約束は果たされたわけだ」
「でもさ」とそこで義定は立ち止まる。
ちょうど、灯籠で辺りが照らされていて紅葉の色彩がはっきり分かるところだった。
「もし、その約束が破られて明石の方が失意の底に落ちたのなら、その子はどうなったんだろうね?」
こちらの方に振り返り、義定は問いかける。
意味ありげな微笑は普段の彼女にはない妖艶さを醸し出していて、背景の紅葉も相まってやけに絵になるものだった。
(……ああ、そうか。こいつは、義定は……)
そして、俺はようやくこの一連のやり取りの意味を朧げながら気付かされる。気づいてしまったら最後、俺は絶句する他ない。
沈黙が辺りを支配する。紅葉が賑やかに彩る中、そこだけが異様な光景だった。
「……ずるいよね、新十郎は。こういう時だけ察するんだ」
口火を切ったのは、義定だった。
「嫌な女でしょ? ずっとずっと憎んでた。けれど、君には知られたくなかった。君の前だけでは可愛い女の子でいたかった。……嫌われるのが怖かったからね」
自嘲する義定。そのニヒルな笑みはやはり俺の知る彼女のものではない。
「だったら、今晩ここに連れて来なければよかったじゃないか」
「確かにそうだね。けど、新十郎が覚悟を決めたならわたしも決める。変に気遣われて本懐を果たせなくなるのも嫌だから、はっきり言うよ」
そして、彼女は立ち居住まいを正して宣言する。
「わたし、六角義定は六角義賢を憎んでいる。それも、殺したくなるほど」
はっきりと聞こえた。同時に震えた。
まさか、彼女がそこまで激しい憎悪を抱いていたなんて気付けなかった。
「どう? 幻滅した? 復讐に取り憑かれた女。……それが、わたしだよ」
そう言って義定は悲しげに笑う。
とても痛々しくて見ていられない。だが、見過ごせないこともあった。
「なあ、義定」
呼びかけて、一歩踏み込む。
そして、右手で彼女の肩を掴んだ。このまま力を入れてしまえば砕けてしまいそうなほど細い。そんな肩にどれほど重い感情を背負っていたのだろうか。
「俺を甘く見るなよ。俺はお前が可愛いから今まで仲良くしてきたんじゃない。……お前といると楽しいから、仲良くしてきたんだ。今更復讐心を持っていた程度で、俺を幻滅させられると思うなよ」
俺はちょっとばかり怒っていたのだと思う。
むしろ、なぜ隠してきたのかと。なぜ、それを俺が受け止められないと思ったのかと。
義定は半ば呆然とした様子で俺を見ていた。
「まさか、受け入れてくれるなんて思わなかったなぁ……」
「お前が俺たちを家族と言ってくれたように、俺もお前を家族だと思っている。……信じられないなら証を示すしかないな」
そう言うと、俺は義定の肩を抱きしめた。
「他のやつなら、気恥ずかしくてこんなことは出来やしない。だが、お前なら頑張れば出来る。……家族だからな」
恥ずかし過ぎて、義定の様子を直接この目で見ることはできない。
だが、心なしかその肩は震えているように思う。気づけば、俺の胸が濡れていた。
「ありがとう、新十郎。こんなわたしを受け入れてくれて」
俺は、義定が泣き止むまで胸を貸していた。
*
石山寺から帰った義定は床についていた。
実のところ、今日は義定が一番勇気を出した日だろう。
ずっと秘して来た煮えたぎる復讐心。醜い心の内を義定は新十郎に明かした。
(受け入れてくれない、と思っていた。わたし自身でさえ醜いという自覚があるんだもん。ましてや新十郎が受け入れるはずもない、と思っていた)
しかし、現実は違った。
新十郎はあっさりと受け入れてた。それも抱きしめるという、今まで一度もなかった仕草で証明してくれるというおまけ付きで。
ずっとずっと義定が恐れていたことは杞憂でしかなかったのだ。
(それにしても、高村の胸ってけっこうがっちりしてたよね……)
少し間隔が空いた深夜でも抱きしめてくれた時の喜びは鮮明に思い出せる。そして、その逞しい身体のことも。
「はぁ、辛い……」
今、思い出すべきではなかったかもしれない。義定の身体は火照って眠れなくなってしまっていた。
「猿夜叉丸に比べると一歩劣るけど、新十郎も男前といえば男前なんだよね……。性格は善良だし、頼り甲斐もある。同じ一族ってこともあるし」
父は母の仇で、兄は価値観の違いとその劣情混じりの視線が耐えられない。
新十郎はわたしにとっては明確に家族とも言える唯一の人物だ。絆の深さでは氏郷や紀之介も入るが、何より男だ。
「今まではあまり意識しないようにしてきたんだけどね……。あんなことをされたら、ちょっと無理かもしれない」
どうやら長く新十郎といるうちに、わたしは思いのつながりだけでは満足できなくなってしまったらしい。
より決定的な繋がりが欲しい。すなわち、新十郎の子を孕みたい。
こんな思考に至ったことを、義定自身驚いている。
まさか色情魔の父を仇にして、禁断の恋に手を出す兄を敬遠し、この穢れた血を憎悪する自身が恋をするなんて、と。
(結局のところ、色恋に狂うのがこの血の定めなのかな?)
だが、もう取り繕えない。血の宿業だろうが、性欲が先走ったのかはともかく、義定は明確に新十郎を求めた。
ともあれ、ようやく恋心を自覚した義定だが、その先行きは暗い。
「でも、新十郎はわたしをそういった目で見てこない。向けたのは、猿夜叉丸……お市だけ」
考えるだけ辛くなる。
初恋は叶わないものとはいえ、相手が悪すぎた。
新十郎の無二の親友にして、絶世の美少女。容姿なら義定も劣らない自信があるが、積み重ねた絆の重みが違う。
新十郎にとってはお市がいつも一番で、義定は二番目。
「ひどいよ、新十郎……」
とばっちりもいいところの恨み言。
けれども、義定は想像してしまう。
もし、わたしが彼の一番だったならと。
きっともっと抱きしめてくれるのだろう。
愛してくれるのだろう。……もしかしたら子種だって仕込んでくれたかもしれない。
「あっ……♡」
甘く切ない吐息が口の端から漏れる。
脳裏に過ぎるのは、自分の胸を玩ぶ新十郎。自身の左手を新十郎のものと仮定して愛撫する。右手は自然と自らの秘所へと伸びていた。
「あんっ……。やめて新十郎っ♡」
義定の中の新十郎が彼女を押し倒して蹂躙する。
実際、新十郎が行為に及ぶときはそんな性急な真似はしないのだが、あいにく義定の性知識の源泉は義賢である。野獣のように求めるセックスしか彼女は知らなかった。
ともあれ、加熱する妄想に比例して右手の動きも激しいものになっていく。
義定の身体は紅潮し、すでに蜜がしっとりと寝所を濡らしていた。
『どうした、義定? 普段のこまっしゃくれたお前はどこに行った? 猫のように盛りやがって……』
想像の新十郎に罵倒されて、義定のボルテージは上がる。本人自身は自覚していないが、義定は自身の血へのコンプレックスからか罵られた方がしっくりくる体質だった。
身も蓋もない言い方をすれば、軽いMっ気である。
「そうだよ、わたしもまた本質は父上や兄上みたいな色情狂だよっ! けど、新十郎が悪いんだよ? こんな逞しい腕で抱き竦められたら、わたしはもう我慢できない……♡」
『そうか、ならわからせてやるよ。お前が俺の女だってことになあ!』
新十郎が自らの秘所に腰を押し込む姿を幻視したのち、義定は自身の弱い所……クリトリスを摘んだ。
「ひゃあああああああっ♡」
途方もない官能の高波が義定を襲い、甲高い嬌声を上げさせた。草木も眠る丑三つ時だが、もはや関係ない。義定は自らの腕で身体を掻き抱き、昂る感情に身を任せた。
*
「はあ、はあ、はあ。……何やってんだろ、わたし」
感情の波が収まったのは20分ぐらい経ってのことであった。
寝所はぐちゃぐちゃに乱れている。まるで台風が過ぎたような有様は、義定の虚無感をさらに高める作用があった。
「寝たい、けど。物理的に無理だよね……」
がっくりと肩を落として義定は後片付けを始める。全て終わったのはだいたい3時前。
翌朝、そこには珍しく寝坊してテンパる義定の姿があった。