※この作品はR-18です。

その着せ替え人形はラブドールになる   作:猪熊夜離

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第1話でこっぴどく海夢に振られた「割とイケメン」くんの逆襲。

続きます。

次は8時!


塩対応の代償は
女の友情がチンポに負けた日


 けたたましい音量で鳴り響いていた曲が終わると、カラオケボックスの一室で菅谷乃羽はギャラリーに向かって手を振る。

「いぇ~い、ありがとー」

 それを受け止める人間はひとり。乃羽の友人・喜多川海夢だ。明るく染めた髪を腰の辺りまで伸ばし、耳にはいくつものピアスを開け、カラーコンタクトレンズで瞳を大きく見せている。強めのメイクも決まっている。三百六十度どこから見ても十人が十人とも典型的なギャルと認識するであろう少女だ。

 バイトで読者モデルも務めるだけあり小顔、高等身、スタイル抜群。街を歩けばナンパは日常茶飯事。この前もサロンモデルを務めるヘアサロンで髪を切ってもらった帰りしなに声をかけられた。普段からナンパ野郎には塩対応で相手にもしない海夢だが、その日の男は特に彼女の神経を逆なでする言動があったため冷ややかに切り捨てた。

 一緒にいた乃羽曰く「割とイケメン」の部類らしいが顔なんてどうでもいい。他人の好きな物を笑うところから入るのがコミュニケーションだと思ってるような、無神経で失礼な男とは口も利きたくない。

「やっぱ大きな声出すの楽しい。カラオケ最高! 今日は歌いまくるし」

 連続で入れた曲を歌い終えたばかりだというのに、席に戻ってきた乃羽は休まず次の曲を選ぶ。小さい身体のどこにそんな体力がと思うほどパワフルな友人の姿に海夢は苦笑した。

「海夢も歌えし。うちばっか歌ってて不公平じゃん割り勘なのに」

 はい、と乃羽が海夢にマイクを手渡す。

「せっかく久しぶりに海夢を独り占めできるんだから今日は完全燃焼するよ。半端じゃ返さないから」

「今夜は寝かさないぜって?」

「そうそう。うちの美声で酔わせてお持ち帰りしてやる」

「あっはっは。マジかよ。あたし、お嫁に行けなくなるじゃん」

 友人との他愛もない会話に自然と笑みがあふれる。

 学校では同じグループに所属して仲のいい二人だが、海夢が放課後に誰かと出かけるのは珍しい。友人たちによれば、彼女は「いつも放課後は消える」のだ。

 もともと放課後はバイトで忙しかったが最近さらに趣味の時間が増えた。

 学校の友人には教えてないが、実は海夢はコスプレイヤーでもある。ギャルギャルしい見た目に反して重度のガチオタである彼女は、推しキャラへの究極の愛情表現としてキャラになりきるコスプレを楽しんでいる。もともとはひとりで挑戦しようとしたのだが、手先が不器用で自分では衣装を作れなかった。いまはクラスメイトの五条新菜に手伝ってもらっている。家が雛人形屋さんの彼は人形用の服を作るのに慣れている。経験を生かして現在は海夢のコスプレ用衣装も手掛ける。

 学校で海夢がコスプレイヤーであることを知ってるのは新菜だけ。秘密を共有する二人は放課後よく彼の家でコス活動をするようになった。

 初めて二人が完成させたコスチュームは十八禁ゲーム『聖♡ヌルヌル女学園 〜お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2〜』の黒江雫たん。慣れない作業に四苦八苦したもののコスチュームの完成度は海夢の理想どおり。全力で自分の夢を叶えてくれた新菜に海夢は、彼の真面目で誠実な人柄もあって惹かれた。

 有り体に言えば初めてコスイベに参加した日から、新菜のことがしゅきしゅきだいしゅき♡ になったのだった。

 いまも「お嫁に行けなくなる」という自分の言葉から、新菜と結婚して五条海夢になった己の姿を想像して身悶える。

(ごじょーくん大しゅきすぎりゅ♡♡♡ 思い出しただけでマジしんどい。無理すぎ。ほんとすき♡)

 今日も放課後はコス衣装の相談名目でしゅきぴの家に上がり込む予定だったのだが、どうしても海夢と二人っきりで遊びたいと乃羽が食い下がって譲ってくれなかった。

 その様子を見た新菜が「急ぎで喜多川さんに確認しないといけないこともないので、今日は友だちを優先してあげてください」と言ってきた。

(あ~~~~もう♡ 他の人のことまで思いやれるごじょーくん優しすぎ)

「なんか喉乾いちゃった。ドリンク取ってくるね。ついでに海夢の分も持ってくるけどお茶系でいい?」

 乃羽が立ち上がりながら言う。

「気が利くじゃん。いい嫁になるぜ」

 行ってきまーすと乃羽がドリンクバーに向かうと、すかさず海夢はスマホを手に取った。

『ごじょーくん!』

『はい なんですか』

 送ったラインに即レスが返ってくる。たったそれだけのことで好感度ゲージ振り切った状態の海夢は、ごじょーくん女の子からの連絡で返事を待たせないなんて優しい♡ 全力で推せる♡ とさらに彼のことを想って心拍数が上がる。

『今日ごめんね

てか乃羽ずっとマイク握って放さないし

ほぼヒトカラ状態あたし来た意味なくてウケる』

『いえ。最近放課後は衣装作りに付き合わせてしまうことが多かったので逆にすみません。

今日は菅谷さんと楽しんでください』

『いやいやいや。あたしがお願いして作ってもらってるんだから手伝えることは手伝うの当然だし』

「は~、ごじょーくんやさしー♡♡ だけどもっとガツガツきてほしいってか、あたしに対して独占欲を持ってくんないかな。俺は海夢と毎日会いたいぜ、みたいなんないの?」

 そんなことを軽々しく言えない真面目なところも好きなんだけど……。

「やばっ! 身体あっつくなってきた」

 五条の顔や声を思い出し、彼のことを考えるだけで体温が三度は上がってしまう。手汗をおしぼりで拭き、ついでにとポテトへ手を伸ばしたところで乃羽が部屋に戻ってきた。

「なにひとりで笑ってんの」

「なんでもなーい。ドリンクありがとう」

 海夢は飲み物を受け取ると一息で飲み干してしまう。

「イッキじゃん。そんなに喉乾いてたの。全然歌ってもないのに」

「もうカラッカラ。この部屋乾燥してんのかな」

 五条のこと考えて火照った身体を鎮めましたなんて言えない。海夢は手を内輪代わりにパタパタと顔を仰ぐ。

「スマホ見てニヤニヤしてるし。さては男か! 男だな。うちにも見せろ」

「なんじゃねーし」

「海夢が選ぶ男だから芸能人並にイケメンなんだろうな」

「男は顔じゃないって」

 まあ、ごじょーくんは世界一かっこいいけどねと海夢は心の中で付け足し、また頬が緩んでしまう。

 海夢を見た人は誰もがモテそうと言う。異性から興味を持たれるという意味では確かにモテる。だが、これまで二次元全推しで趣味に没頭してきた彼女は、見た目で判断されるほど恋愛経験がない。三次元の存在を激推ししたのは五条が初めてだった。

「乃羽って彼氏とか欲しい系の人だっけ?」

「まあ高校生にもなったら男くらい作りたいよね」

 ちんまりしてて可愛い乃羽なら焦らなくてもできそうなものだが。

「ぶっちゃけセフレはいるんだけどね」

「はぁぁぁあああああ!」

 いつもの飄々とした感じそのまま、とんでもない爆弾を落としてきた。

「セフレってなに!」

「エッチするだけの関係の人。海夢そんなことも知らないの」

「知ってるし! じゃなくてエッチするだけ? 身体目当てってこと」

「そだよ。がっこー終わったら合流してホテル行ってエッチして解散」

「そんなんでいいの!」

 ありえない。乃羽は大事な友だちだ。どこの馬の骨とも知れない男に都合よく身体だけ使われるなんて。そんなの、許せない。

 勢い込んで立ち上がった海夢。だが乃羽の友人を見る目は冷ややかだった。

「なんで海夢がそんなに興奮してるの。うちにセフレいても海夢には関係なくない?」

「そうかもしれないけど……」

 本人が納得して身体だけの関係を受け入れてるなら彼女の言うとおり海夢が口を出すことではないかもしれない。しかし感情的なしこりは残る。モヤモヤしたまま海夢はソファに座り直した。

「海夢は優しいなー。心配してくれてんでしょ。うちが変な男に引っ掛かって都合よく利用されてんじゃないか。安心してよ。うちも身体目当てだから」

 あっけらかんとコーラに口を着けながら乃羽が言う。

「余計安心できないって!」

「イケメンだし、チンコ大きいし、エッチ上手いけど彼氏にはならないやつ。うち以外にもセフレキープしてるヤリチンにマジなるわけないじゃん。いろんなこと教えてくれっし気持ちいいからエッチはするけど付き合うのはないわー」

「そ、そんなものなの」

「海夢そんな見た目(なり)してピュアすぎ。こんくらいの遊びみんな経験してるし。モテるんだから適当なチンコ捕まえれば」

「あたしはいいかな。そういうのよく分かんないし」

(好きでもない相手とエッチするなんて考えられない。そういうのは本気で好きになった人と結ばれてからするもんじゃん。だいたい好きでもない相手として気持ちいいもんなの?)

「このトーク終わり。あたしもなんか歌うか!」

 海夢は明るく言って話題を変える。長々と続けたい話題ではなかった。同い年の友だちのエッチ事情は気になるが、興味本位で聞いていい話題とも思えない。

 曲を選ぼうと海夢はリモコンに手を伸ばす。

 ――と、そのときだった。

「んっ……」

 クラっときて彼女の身体が傾ぐ。手に力が入らずリモコンを握れない。貧血で具合が悪くなる前兆のような怠さが急に襲ってきた。

「なんか……急に眠く……あれ、なんで……?」

「やっと効いてきたんだ」

 海夢の疑問に答えたのは乃羽だった。

「さっきのお茶、眠くなる薬入り。味でバレたら面倒だなーと思ってたけど、海夢イッキで飲み干すから分からなかったっしょ」

 言われてみればいつもはない苦味があったような。

「マジ意味分かんない。友だちにクスリ盛るとかないから。冗談でもタチ悪すぎ」

 瞼が重い。気を抜けば落ちてしまいそうな意識を繋ぎ止める。なけなしの力を振り絞り乃羽を睨んだ。

「こっわ~い。だけどなんもできないよね。うちも飲まされたけどマジやばい効き目だよね。お昼食べたあとの数学の授業くらい眠くなるじゃん」

 ケラケラと乃羽は笑う。

 そんな生易しいもんじゃない。自分の身体なのになにひとつ自由にならない。意志の力では太刀打ちできない眠気に支配される。

「寝てるうちに全部終わるから心配しないでね。いや始まるのか? まっ、どっちでもいいかー」

「……乃羽……」

 うるさくて馬鹿っぽくて賑やかな少女。海夢の乃羽に対するイメージだ。今日で彼女への認識を改めねばならない。

 寝落ちする海夢に向けられた乃羽の笑顔は歪だった。過去に彼女が見せたいかなる表情とも違う邪悪さを内包した顔。

「おやすみ海夢」

 

 重く深く沈んでいた意識が、ゆっくり浮上する。水底で発生した気泡が水面を目指すように海夢は眠りから目覚めた。

(……ここ、どこ?)

 未だ半覚醒状態の彼女は記憶にない天井を見上げる。

 身体を包む布が気持ちいい。なにか柔らかいものに寝かされている。ベッド? 寝心地は悪くない。気になるのは周りの物を素肌で感じること。脱いだ? 脱がされた? いずれにしろ自分は裸のようだ。難点をあげるとしたら枕。頭に当たる面積が小さくて変に柔らかい部分と硬い部分とが混ざってる。使い勝手は最悪。よくこんなので眠れたものだ。

「お、起きた」

 すぐ隣で男の声がした。聞き覚えあるような、ないような。

 ……男!

 一気に海夢の意識が覚醒する。慌てて起こした上半身から布団が落ちる。予想どおり海夢は裸だった。張りのあるバストが外気に触れて室温を素肌で感じた。

「――っ、ぅ」

 めまいにも似たふらつきを覚えて海夢は再び倒れ込む。意識は戻ったがまだ完全な状態ではない。

「急に動かないほうがいいよ。まだクスリ抜けきってないから」

 声のしたほうを見ると男が海夢の顔やおっぱいに視線を注いでいた。やけに寝心地悪い枕は彼の腕枕だった。年齢は二十代。明るい髪色で顔は整ってる。世間的に言えばイケメンの部類だろう。声に続いて顔にも覚えがあった。しかし思い出せない。どこで会ったのか。

 男の正体より先に確かめねばならないことがあった。

「ここ、どこ」

「ラブホ」

 男はいやらしいニヤつき顔で言う。せっかくのイケメンフェイスが台無しのスケベな本性丸出し顔だった。

「……は? ふざけんなし。ちょー意味分かんないんですけど。つまらない冗談言ってると本気でおこっから」

「冗談じゃないんだよな。海夢ちゃんは寝てる間にラブホ連れ込まれて、ないわ~なんて言ってた男にヤラれちゃったわけ。いまどんな気持ち」

 その台詞で思い出した。コイツ前に乃羽といるとき声かけてきたナンパ男だ。

(シオンたんのグッズを「オタク、ないわ~」なんて頭の悪いイジり方してきたやつじゃん。おめーのほうがねーよと返したら固まってたっけ)

「逆恨み。バカじゃないの。くっだらねー。そんなんで犯罪者になって人生棒に振るとか性格だけじゃなく頭も悪いのかよ」

「好きに言ってろよ。この身体もう俺のもんだから」

 男が海夢の胸に手を伸ばす。乱暴な手付きで乳房を揉まれ「んっ♡」と声が漏れる。

「一度抱いた女は自分の物とか思っちゃうタイプ? んっ♡ やっ♡ バカじゃ、ないのっ♡ 女はそんな単純じゃねーし」

 海夢は男の手を振り払おうとするも力が入らない。まだクスリの影響が残っている。たとえ全快でも成人男性の本気に腕力で勝てるとは思えないが……。

「って言いながら乳首立っちゃってるじゃん。寝てる間にたっぷり弄ってやったから睡眠学習は完了してるんだよな」

 言いながら男が海夢の乳房に顔を近づけ、自己主張し始めた突起を口に含む。

「ちゅばッ……んちゅ……れろ……ちゅっ……」

 たっぷり唾液をまぶした舌で乳首を可愛がられ海夢は腰を跳ねさせた。

「ちゅ♡ れろッ♡ れろれろ♡ はむ……♡」

「やっ♡ ちょっと、胸そんなに吸っちゃ♡ あっ♡ んんっ!」

「どうよ上手いだろ。おっぱいだけでイケるまで調教してやるから。楽しみにしてろ」

「こんなの余裕だし。つか気持ち悪いだけ。ヤリチンのくせにヘタクソな」

「言ってろ、言ってろ。生意気オンナ」

 男は咥えた乳首を舌で転がしたまま、反対側の乳首も指で弾く。ちくピン攻撃で生まれた快感は海夢の下腹部に貯まる。それを逃がすためモゾモゾ腰を揺らすと、まるでそっちも触って欲しくて誘ってるような動きになった。

「やあ……やだ……! あっ、ん……やだ……」

(やばい! コイツ本気で上手い)

「あっ♡ あっ♡ はっ、あっ……い、やだ……やめろよ……」

「そう言いながらよくなってきたろ。乃羽ちゃんも俺に乳首されるとイッちまうからな」

 乃羽の名前が出てきたことで思い出す。海夢にクスリを盛ったのが彼女だったと。あたしを乃羽が嵌めた。なんで。友だちじゃん。

「乃羽ちゃんから聞いてないの? 俺たちセフレなんだよ。あの日、海夢ちゃんはさっさと帰ったから知らないだろうけど、店を出る前に乃羽ちゃんに連絡先を渡したんだよね。そしたら簡単に釣れちゃって。だけど初デートでエッチは嫌だとか面倒なこと言うから、海夢ちゃんと同じおクスリで眠ってる間にいただいちゃいました」

 男は輝かしい戦績を誇るように述懐する。女を眠らせて無理やりヤッただけの話、なぜそんなにも誇らしげに語れるのか海夢には理解できない。

「一回ヤッたら乃羽ちゃん懐いちゃって。いくらエッチなことに興味津々の女子高生(としごろ)っても(チンポ)くれる男に靡いて、友だちを売っちゃうような友だち甲斐のない糞ビッチと連れだったのが不運だな」

「乃羽のことバカにすんな!」

「裏切られたのに庇うんだ。海夢ちゃんやさしー」

「許さない。ぜってー許さない。警察に行ってお前なんか犯罪者にしてやる」

「怖いな~。だけどやめたほうがいいよ。そんなことしたら海夢ちゃんの恥ずかしい動画が出回ることになる」

 男は乳房から手を放し、ベッドサイドに置いたスマホを取る。

「眠ってる間になにされちゃったかよく見な」




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