生まれ持った物は有効活用しよう……それが生存競争で生き残る大前提。
私、リグリットはそれに則り……生まれ持った頭脳で成り上がっていった。
この世界がどこか見覚えがある気がした、自分の容姿にも見覚えがあった……
それを鑑みれば今の学位というのも納得な気がしてならない。
リグリット・”ペルシカリア”……白んだ栗色とも言うべきか……曖昧な髪色に獣耳のように跳ねたクセ毛……
着慣れた白衣と暖色の縦リブセーターにタイトスカート……片手にコーヒー入りのマグカップを持つ姿はなんだろう。
……リグリットとしての学位、専攻は生物、細菌学……薬品の開発等に重きを置く科学者。
でもペルシカリア……ペルシカとしてフォーカスを置くと見えてくるのはAI、機械工学の権威。
機械人形の開発者、ペルシカリア……その見た目が今の私にある。
頭脳もそれ相応によく、最初は喜んで研究に励んだけれど……
次第に研究内容、開発された物のシミュレート……何を齎すかを知って私は逃避するようになった。
アンブレラ……ラクーンを発祥地とする大手薬品会社。
その実態、中核に置かれてしまった私はもう抜け出すのが難しく……一時休職という形で逃れるしか無かった。
完全に逃げ込める訳がない、時限付の逃避行動に過ぎない……ラクーンに根を張る連中から秘密裏に逃げ出すのは容易じゃない。
どの組織にも息が掛かっていて……迂闊な行動をしたら即座に首が物理的に飛びかねない。
隠れ蓑に出来そうなのは……たった一つ、ラクーン大学だけだった。
予てよりラクーン大学で教鞭を執って欲しいという依頼はあった……非常勤講師でも良い。
これに私は飛びついた、成就したらどんな事になるか分らないあの悪夢の実験よりは……ずっといい。
ぎしっ……ぎっ……
生暖かく固く、震え跳ねるモノが私の中に入り込む。
すっかり見慣れてしまった仮眠室の天井……ボロベッドの軋む音……
見下ろすのは私の監視を命じられたらしいアンブレラの差し金の男。
見覚えがあるのはアンブレラの研究施設……ネスト時代のセキュリティ担当職員だったから、かしら。
私がアンブレラの研究をすっぽかそうとしている……サボってるのを見逃す代わりにとこうして毎日のように犯されている。
逃げようとさえしなければ……殺される事も無い。
今までの研究がこれから生み出す惨状を思うと……これは報いなのかなと思ってしまう。
肉体の快楽、好きでも無い男に貪られる悍ましさ……これで妊娠してしまうかもしれないという恐怖……
私の性自認は……正直言えば中立に近かったのかもしれない。
女にも男にも性的嗜好を見いだせずに居た……抱かれることに激しい嫌悪感を抱いたりもした。
「しっかり……今日も喘がなきゃ、ダメじゃ無いか……ペルシカ!!」
「っ……はっ……無茶を言わないで……ぅぁっ♥」
身体は……この数ヶ月で随分と性を味わってきた。
否応無しに快楽を得るに至っている……どれだけ……下唇を噛み込もうが……喘ぎが漏れてしまう。
それがまた……この男を執着させてしまう……悪循環。
私がアンブレラの蜘蛛の巣から逃れられない……現実を叩きつけられているようで……イヤだった。
私がこの大学で教鞭を執るようになり……肉体関係を持つに至った相手はこの監視員だけじゃない……
同じく、元アンブレラ職員のグレッグ……彼はBOW開発の研究をしていた。
ウィルス開発の私とはちょっと畑違いだったけど、プロジェクトのいくつかは一緒になったりもした相手。
ハンターの研究が軌道にのり……最終的な成功……タイラントの研究に入った段階で私は離脱。
……思い出してしまった、その先の惨状に耐えきれなくなった。
グレッグは……残念ながらそうではなく、タイラントを量産する事に反対した為だった。
倫理観が終わっていた、学者にはまぁ……少なくはない。
協力を仰がれたけど、私hと考えが全く違うと拒否した結果……レイプされた。
協力するまで……毎日、私の寝泊まりしている家に押し入ってはレイプ。
仮眠室に引きこもっていようが……3Pに発展して余計に私の籠の錠前が増えただけ。
開発されていく私の身体……アンブレラのウィルスに対抗する薬の研究開発の進捗と何方が進みがイイか……分らなくなる程。
正直言えば……私は件の二人からコードネーム、デイライトの研究から目をそらすデコイになってる状態だった。
そんな、爛れて陰鬱な毎日を過ごしていたけど……ラクーンの終焉はすぐ近くに迫っていた。
研究施設の一つでバイオハザードが発生、月日を少し置いてネストでも発生……食い止めが効かず廃棄処分。
研究データの即時転送と持ち出したサンプルの即時廃棄を求めるメールが着信して発覚した。
終わりが近い、逆に言えば……ここで死んだ風に見せて逃亡するのが……私が出来る過去との……
――――決別
差し当たり、まずは……監視員の確認。
私は訓練されていたけど、銃器の所持が認められていなかった。
理由は当然逃亡の危険があるから……あとは自害の阻止ね。
監視員は当然の権利で銃器の所持が認められているし……鎮圧用のスタンロッドも支給されている。
あとは……私が研究開発した神経活性剤……その失敗作の一つから生れた高濃度の媚薬も。
失敗作というのは……あまりにも神経を肥大化させて日常生活もまともに過ごせなくなるような代物。
代わりに神経系の再生能力が飛躍的に上昇して……滅多なことでは死滅しなくなるという物。
……面白がって開発したんでしょうね、そのツケがまさか自分に襲いかかるとは思っても居なかったけど。
まぁ、つまりは私の天敵と言っても良いのがあの監視員……拒めば投薬され強制的にベッド……
身体はそうして飼い慣らされて行っていた……逃げるにもあの監視員をどうにかしないとベッドに縫い付けられるのを強いられる。
「Tは間違い無く漏れ出ている……感染していたら……」
検査方法はない、Tへの抗体があるかの試験は出来ず終い……もしも抵抗がなかったら脱出出来たとしても蠢く死体になるだけ。
少しずつ狂気に飲まれていく街から脱出……出来るかしら?
私のラボ兼仮眠室になっている部屋から出てみれば……ラクーン大学のキャンパスは……騒然としていた。
噛まれた、正気ではない……逃げろ……
生徒達が逃げ惑っている……外を見ると夕暮れ……じゃないわね、火事で赤く照らされているんだわ。
真夜中で火事も起こっている……ともすればアウトブレイクはもう起きている。
武器になる物をもっていないと活性死体、ゾンビに食われて死ぬ凄惨な末路しかない。
さし当たって……手近な物と言えば……掃除用具入れにあるモノかしら。
「人を何度も殴ったら壊れそう……」
掃除用のモップ、柄は長く軽めで女性の私でも振り回しやすい。
その反面耐久性は……ほぼ期待できないと見て良い。
銃や鉈、斧といった物だったら……とは思うけど。
「ジェンキンスは……無事かしら?」
彼の書斎がドコにあったかは知らない、研究の手伝いも基本的には大がかりな実験室でやっていたもの。
危険を感じたら書斎に閉じこもる……なんて言っていたけど……
Tは空気感染もする……逃げ場は無いに等しい……デイライトの試薬製造に取りかかる段階だったしもしかしたら……
ともかく、彼の研究の段階……材料の調達具合等も調べないと。
街が焼かれるのは翌々日の朝、それまでに脱出しないと。
時間は多くは残っていない。
ラクーン大学キャンパスは……ラクーンによく見られる複雑怪奇な仕掛けが施されている。
私の部屋の鍵も無駄に凝っていて複数の本を特定配列にしなければ開かない。
部屋の薬品庫も同じく……これの並びは私しか知らないから盗まれる心配は少ない。
警察署と同じで美術館だったりしたのを改修……したのかしら?
生憎そこはまるで興味が無くて覚えていない。
ただはっきりしているのは……ロックダウンした大学を渡り歩くには不自由が過ぎる。
ヒントになるメモ書きも探し出さないと……エレベーターは使用不能になっていたし……点検用の通路を使うしか無かった。
急な故障って言うには不自然過ぎるし……十中八九アンブレラの破壊工作かしら。
「ハシゴを使うなんて……ふぅ、あとはエントランスか……ら……」
点検用通路……所謂非常用通路って言っても良い場所から脱出。
あとはエントランスから……って思った所だった。
見覚えがある部屋は……ここに転がり込む際に最終面接として通された学長の部屋。
ただ、その主たる学長の姿は見えない……その代わりに居たのは……
「ヴー……あ゙ァ゙ー……」
理性を失った白く濁った目の人間……ゾンビだった。
両腕を擡げてこちらに近づいてくる……!
「冗談じゃ……!」
活性死体の弱点は……本能的な行動しか取れないこと、つまり……!
足払いや攻撃を避けようとする事もしないってこと!!
ゴッ……ミシィッ……
人を思いきり殴った経験は生憎と持ち合わせていない。
ましてや物で殴った経験も無い……この軋む感触がモップの柄なのか、人の骨なのかは分らない。
けれど、はっきりと……不快な感触なのは分かる……!!
頭を叩いても怯むことはない、そうなれば狙う先は……首!!
人体で常に負荷が掛かり続けていて……折れれば即座に行動不能に陥る上脆い箇所!
「一発じゃ無理よね……!」
女の非力な腕力ではそりゃ……太り気味な男性の首をヤるには数発必要でしょうね!
もう一回振りかぶって……!!?動きが早い!?この個体、まさかV-ACTの兆候が……!?
「ぁ……」
がしりと肩を掴まれた、爛れた顔が近づいてくる。
大きく口をあけ、歪な歯が見える……あぁ、こんな所で幕引き……なんて……
襲い来る痛みを想像してしまい目を瞑る……
「ぃ゙たぁ……っっ!」
鋭く、食い込む痛みが肩に走った……これが最後か……
人に噛まれるなんて事はそうあったものじゃないし……うっすらとある前世でも……殴り合いの喧嘩はあっても噛まれる事は無かったはず。
取りつかれ、引き剥がそうと藻掻くけれども女の細腕で押し返せるはずもなく、ましてやTに感染したゾンビは人間の制限を超えた膂力を持つ。
儚い人生だったな……と思うけれども続いての噛み千切るような素振りが無い……?
もにゅん♥……ぐりぐり
「へ……?」
幻覚か何かと思うほどに場違いな感覚が尻から、下腹部にはいっそ慣れ親しんだ熱くて硬い感触が。
「ま、まって……そんな、活性死体が食欲以外を持ち合わせて……い、いやよ……っ♥」
悍ましい事が私を襲おうとしていた。
死んだゾンビによって犯されようとしていた。
質量も、膂力も敵わない相手にグイグイと押され……押し倒されそうになっていた。
押し倒されたら……どうなる?想像しただけでも恐ろしく……身体に刻まれた雌の喜びが浮かび上がる。
……私は存外、手遅れな女なのかもしれない。