チート能力会得してダンジョン潜り ~たまにエロい事します~ 作:塞翁が馬
「ここが闘劇会場か…」
そう呟くディットの前には、様々な色の光に照らされた豪華で巨大な木造の建物が鎮座している。入り口には様々な人たちがごった返しているのを見るに、かなり人気の施設の様だ。
「腕に覚えのある猛者たちが集う武闘会…なんか楽しそう!」
ディットの後ろでは、プレアが興奮気味に口を開く。その言葉通りに瞳がキラキラしているが、確かに彼女はこういう過激な興行を好みそうだ。更に、その横ではアールが無言ながらもじっと目の前の建物を興味深そうに見つめている。以前の勉強への態度といいこの二人、一見陽気と冷静と正反対の性格に見えて、実は似たもの主従なのかもしれない。
「う、ウチはあまり派手な所はちょっと…」
「私もです。ここの空気はすこし煩雑ですね…」
一方、ササメアは明らかに委縮しており、ヤシュティーも微かに顔をしかめている。この二人は大人しく控えめな性格なので、こういう雑多な雰囲気は苦手なのだろう。
「まあ、地上にもこういう武闘会的な興行はあるしそこは珍しくもなんともないが…。相手を『殺しても』勝利扱いってのはかなり異質だな…」
感想が二分している中において、オルガンが建物を睨みながら真剣な表情で言う。そう、この闘劇とやらは地上に数多ある武闘興行と違い、殺害も許容されるという極めて異質な大会なのだ。そして、これがキュウビ様の悩みの種の一つでもあったのだ。
数十年前まではこの世界もエルフの村と同じく暇を持て余していたそうなのだが、この世界に数ある種族のうちの一つ…モムノフ種という者達が陰ながら長年行ってきた”儀式”に目を付けた者がいた。その者がこの”儀式”を世間に公表したところ、瞬く間に情報が拡散、あれよあれよと言ううちに巨大な会場が作られるまでになり、”儀式”は”闘劇”と名前を変え一大娯楽と化したそうだ。
「この世界の者はみな血の気が多い故な…。かくいうわらわも最初は天啓かと思えるほどの案に見えた物よ。ところが…」
事件は闘劇が始まって間もなく起きた。白熱した死闘の末、本当に選手が死亡してしまうという事態に陥ってしまったのだ。ディット達の生活する地上ならば、こんな不手際が起これば即興行中止…と言う所なのだが、残念ながらやはりそこは勝手の違う異世界。
「”儀式”とやらを行っていたモムノフ種以外には”死”という現象は初めて見るものでな。実際にその現象を確認しても興味を持つ者はいても止める者は誰もいなかった。………恐怖? なにか恐れる事でもあるのか? 何やら高揚している者ならそれなりにいたが…」
という、常識では到底考えられない感覚を吐露するキュウビ様を前に、ディット達が息を呑んだのは言うまでもない。因みに、キュウビ様もその高揚している者の一人らしいので、闘劇を廃止するなどと言う施策は論外だそうだ。
とはいえ、死んでしまえばそれだけ住人の数も減ってしまう。増やす手段がない以上これは深刻な問題と言わざるを得ない…と言うのがキュウビ様の談だった。
この問題については一応ディットには考えがあった。と言っても単純なもので、男がいないから子を産めないというのなら、地上から男を連れてこればいいのだ。とはいえ、これは死地に向かわせるための者を作るために子種をよこせと言っている様なものだ。地上の論理感を持っていると、渋られる可能性もかなり高い。
更にキュウビ様の話を聞いて新たな問題が浮上している。ディット側の問題だが、キュウビ様の言う”死”とディット達の知っている”死”の概念は全く同じらしい。つまり、死んでも復活できる…というダンジョンの概念が崩れているのだ。
ダンジョン内の生命体にはこの概念が適用されないのか、それとも知的生命体と明らかな人工技術のある階層ではこの概念が消失するのか…。前者でもヤシュティーやベラーリが危ないが、もし後者だとしたらディット達もおいそれと死ぬ訳にはいかなくなる。
この二つだけでもかなり頭の痛くなる問題だが、加えてもう一つ問題が出ているのだ。その問題はディットに肩車されて後頭部に張り付いている幼女だ。
信じられない事に、自分の娘といった舌の根も乾かないうちに、キュウビ様は事実上の親権放棄と取れる言葉を幼女の目の前で放ったのだ。
「今は自分の子供などにかまけている暇などない。子供を作れると確認を取れた以上は、あの薬の作成を急がねばならぬ。アレはわらわの力がなければ作れぬでな…。貴様らも、ディットと子を成したいのなら、そちらに心血を注いでくれた方が嬉しかろう…?」
などと抜かすキュウビ様にディットを除く五人が猛反発。ディットも無言ながらキュウビ様を睨むが、キュウビ様はどこ吹く風とまるで取り合ってくれなかったのだ。
「大丈夫だ。俺達が君の面倒を見ていくから」
明らかに意気消沈している幼女の頭を撫でながら断言するディット。その言葉に呼応するように、ディットの後頭部を掴む力を強める幼女。
色々問題は山積みだが、一つずつ解決していくしかない。まずは闘劇とやらが具体的にどういう物かを確認するために観戦する事となった。丁度いい事に、今日の試合の目玉はこの闘劇が始まるきっかけとなったモムノフ種の少女が出てくるらしい。
なんでも、小柄で盲目ながら凄まじい強さで『無明の剣聖』というあだ名で呼ばれるほどの猛者らしいのだが果たして…。