チート能力会得してダンジョン潜り ~たまにエロい事します~ 作:塞翁が馬
存在が確認されてから数百年が経っているにも拘らず、未だに探索が続けられているダンジョン。その謎と未知に溢れた場所に、プレアは好奇心に満ち満ちた輝きを瞳に灯していたが、プレアならずとも人並みに好奇心があればどんな場所なのか興味くらいは湧くだろう。しかして、その実態は…。
「―――ねえお兄ちゃん。なんでこんなに店がいっぱいあるの?」
ダンジョンの地下一階、何故かそこかしこから響く商人の威勢のいい客寄せの声に、プレアは何か納得がいかない様子でディットに問い質す。とはいえそれも無理はない。これでは昨日探索の準備のために散々歩いた街中の市場と何ら変わり映えがないのだ。そもそもダンジョンの中がこんなに活気があっていいのか? という点も含め、肩透かしに感じるのは当然と言えた。
「ここの出店の人達はちょっと事情があるんだ。よーく商人の人達を見てみるんだ。ある特徴がある筈だ」
対して、ディットは周囲を見回しながら諭すように口を開く。その言を聞き改めて一人一人の商人を確認するプレア。程なくして「ん…?」と何かに気づいた様だ。
「女の人しかいない…?」
「そう、全て…とまでは言えないが、ここの商店の殆どは女性が切り盛りしてるんだ」
ポツリと呟いたプレアの言葉に、ディットは頷きながら答えを返す。次にプレアが視線でその理由を問うが、それにディットは答えず、ダンジョンの奥へ首をクイッと動かす。理由はこの先で教える…という事だろう。
そうしてなかなかに活気のある一本道を進んでいくと十字路にたどり着いたのだが、左右の道は共に下りの階段だ。ここから更なる地下へと進めるのだろう。問題は正面だ。すぐ行き止まりなのだが、大きめの机の上に”何か”を乗せ、それを椅子に座りながらいじっている女がいたのだ。
「メグミさん」
「んー? お、えーと……………………あ、ディットさんですね」
その女の名前を呼ぶディットに、女…メグミは振り返り返事をする。
大きな目がぱっちりとしていて可愛らしい人物だ。しかし、それ以上に目を引くのはその長髪だろう。膝裏近くまである長さも勿論だが、それ以上に如何とも形容しがたいどぎづい色で発光しているのだ。
「新しい人を登録して欲しいんです。この子で名前はプレアって言うんですけど…」
「おお、新しいチャレンジャー! はい、プレアさんね。じゃ、今から登録しますー」
その不可思議な髪の色に呆けているプレアを他所に、登録とやらをメグミに依頼するディット。それを受け、嬉しそうにプレアを一目見た後、先ほどの”何か”にカタカタと打ち込み始めた。
「はーい、登録完了でーす。それじゃプレアさん、このダンジョンについて説明しますねー」
「…へ? あ、はい! よ、宜しくお願いしますっ!」
程なくして、登録を完了したらしいメグミがプレアに向き直る。名指しされて我に返ったのかプレアは慌てて姿勢を正していた。
「あーそんな緊張しなくて大丈夫ですよー。まず最初に、このダンジョンにはいろいろなお宝があります。地下に潜れば潜るほどその品質は高く良くなっていきますが、それを邪魔するかのように罠や魔物も闊歩しています。当然こちらも潜れば潜るほど強く、また厄介になっていきます」
少し緩い感じで説明を開始するメグミに、プレアは真剣な表情でコクコクと頷く。
「ハッキリ言いますが、この罠も魔物も只の人間では太刀打ちできません。そこで登場するのがレベルという概念です。これが高ければ高い程その人は強くなっていきます」
「れ……べる?」
「ま、経験みたいなもんだと思ってください。ほら、人間…いえ、生物は経験を積めば成長するでしょう?
それを可視化している様なもんです。更に、このダンジョンの中ではその成長に限界がないので、気が済むまでレベルアップできますよー」
聞きなれないらしい単語に首を傾げるプレアに、やはりどこかゆるーい感じで説明するメグミ。
「ただ一つ注意点を。このレベルという概念が通用するのはこのダンジョン内だけです。この中でいくら超常的な力を身に付けても、このダンジョンを出たら普通の人なので、そこは注意してくださいねー」
「はあ…」
「ただ一度上げたレベルは『死なない限りは』下がったりはしませんから、再びこのダンジョンに戻ってきたときは以前のレベルで探索できますよー」
「…っ」
その緩い説明の中で唐突に出てくる『死』という単語。兜の中から小さく息を呑む音が聞こえたが、恐らく困惑に浮ついていた心が一気に現実に引き戻されたのだろう。
「補足だが、このレベルの恩恵はかなり強力だぞ。なにしろ、5レベル違えば女魔術師が男戦士と『肉弾戦』を互角に行える程だからな」
そのタイミングでディットから追加の説明が入る。それを聞いて驚愕に目を見張るプレアを見るに、その恩恵の強さに驚いている様だが、少し間を置いてから「あっ…!」と声を上げる。
「まさか、ダンジョン内の商店に女性が大半な理由って…」
「そう、この恩恵を常時受けたいからだ。この恩恵の下にいる限り、男からの理不尽な暴力に悩まされずに済む。加えて、立場向上も実感できるのだろう。女の立場は比較的まともなメイハ―共和国ですら立身を目指せば嘲笑の的になり、一番厳しい帝国に至っては、そんなこと許されすらしない程低いからな…」
「なるほど…。昨日の女性だらけのパーティーも男性がいなくてまともに探索できるのかと少し疑問だったんだけど、そういう理由があったんだね…」
言葉通りになるほどなーという感じで何度も首を縦に振るプレアだったが、ここでふとディットに視線を移す。
「因みに、お兄ちゃんはそのレベルってのはどれくらいなの?」
「俺は今…。25…だな」
「現在の最高レベルはミジマルさんという方の63ですー」
プレアの疑問にディットは少しうつ向きがちに答える。直後にメグミがその数字を比較できるように現行最高の数字を口にした。
「25…。という事は、お兄ちゃんは中堅に入りたて…くらいかな?」
「ああ…まあ…その辺りくらいだな…」
「レベル操師はレベルが極端に上がりにくいですからねー。ま、どんまいですよー」
確認を取るプレアとドンドン顔が曇っていくディットだったが、ここでまたメグミから聞きなれない謎の単語が飛び出す。当然プレアは「レベル操師?」と小首をかしげる。
「このダンジョンでは稀にダンジョン専用の特殊技能を覚える人がいます。レベル操師はその名の通りレベルを操れる人で、他人のレベルを術者のレベルのプラス10の範囲で操作可能になります。ディットさんなら0から35の間ですね」
再びゆるーい説明モードに入るメグミに、しかしプレアは「ややこしいなぁ…」と愚痴をこぼす。
「とはいえ、この特殊技能にはデメリットもあり、レベル操師の場合は術者本人の基礎レベルアップが大幅に遅れるという欠点があります。因みに、この特殊技能の取得は強制で拒否権はありません」
そんなプレアを意に介さず解説し、そしてきっぱりと言い切るメグミにプレアは「横暴だね…」とこれまた率直な感想を漏らす。まあ、前述の説明を聞く限りレベル至上主義にならざるをえないこのダンジョンで、レベルが上がりにくくなるはかなり厳しいデメリットだ。それを強制取得となれば横暴と感じるのも無理はない。
「技能自体は強力ですからねー。頑張ってレベルを上げてもらうしか………」
ケラケラ笑いながら再び”何か”にカタカタと打ち込み始めたメグミだが、程なくしてその動きが止まる。と、同時に笑顔だった表情が少しずつ真顔になっていく。
その不気味な様子にディットとプレアは不思議そうにお互いに顔を見合わせるが、
「ディットさん。一昨日から今日までの間に何かありましたか?」
不意にメグミから今までと違う真剣みをおびた声色で尋ねられる。
「へ? 何かって、プレアが訪れてきた以外は何も…。な、何かあったんですか?」
その恐ろしい程の真剣な様子のメグミに、若干しどろもどろになりながらも答え、ついでに不安げに聞き返すディット。
「驚かないでくださいね。ディットさんのレベルなんですけど…異常に上がってるんですよ。具体的には1024という途方もない数字に」