チート能力会得してダンジョン潜り ~たまにエロい事します~ 作:塞翁が馬
「ボット!」
薄暗いダンジョンの中に響く気合の入った少女の声。と、同時に謎の液体生物の周囲から炎が巻き起こったのだが、その勢いの凄まじい事! 四方八方から業火に焼き尽くされた液体生物は跡形もなく蒸発してしまった。
「はわ………はわわわ……」
「火の初歩魔術でこの威力だと…?」
「す、凄い…。こんな威力、魔術師団の中ですら見た事ない…」
その業火を放った本人である少女…ササメアですらその威力に戦慄しているのだ。その後ろで見ていたディットとプレアが驚きの声を上げるのも無理はない。
具体的にレベル1024とはどれくらいなのだろうか…と、ササメアのレベルを上げ、手ごろな魔物を見つけて試してみたところなのだが、その効果はまさしく想像以上だったのだ。
「…でぃ、ディットさん! これ、本当に凄いですっ! これなら30階から出てくる影魔物にも50階から出てくるドラゴンにも一歩も引けを取りませんよっ!!」
そうして、戦慄状態から復帰したササメアが興奮気味にディットにまくし立てるのだが、
「…ドラゴン? それって、あのおとぎ話とかに出てくる…?」
ササメアが発した単語にプレアが訝し気に尋ねてくる。
「はい、そうです! そのドラゴンです! ウチはまだ見た事ないんですけど、巨体から繰り出される圧倒的な攻撃力と、武器も魔術も通さない堅固な鱗を持つ強敵だそうです!」
「今の所、交戦経験があるのは唯一50階以下に到達しているミジマルさんのチームくらいだと思う。とにかく強くて厄介だが、小手先の技術には一切頼らずパワーのみで押し切るあの潔さは大好きだ! って言ってたらしいぞ」
対して、引き続き興奮状態で返答するササメアに、ディットも補足を入れる。と、同時にさりげなく現在の最高到達階数が50階付近である事も教えてくれる。
「ドラゴン…ドラゴンかぁ…。怖いけど、ちょっと見てみたいなぁ…。やっぱり火とか吐いたりするのかな…?」
その二人の答えを受け、何やら夢見心地な様子で息を吐くプレア。まあ、ドラゴンと言えばおとぎ話での黒幕の定番であり、一筋縄ではとてもいかない強者として描かれるのが常だ。好奇心旺盛な感じのプレアからすれば、どんなものか気になるのも当然と言えるだろう。
姿勢だけでうっとりしているのが分かるプレアを複雑そうな表情で見つめていたディット。明らかに「危ないからやめろ」とでも言いたそうな顔つきだが、不意に服を引っ張られる感覚を覚える。見ると、ササメアがディットの服の裾を掴んでいた。
「あ、あの…。もしかしてプレアさんって女性の方なんですか…?」
おずおずと尋ねてくるササメアにディットはゆっくりと頷く。どうやらプレアを男だと思っていた様子だが、確かに顔すら見えないフルフェイスの兜をかぶった全身鎧で、尚且つ目を見張るほどの高身長では男と間違えても無理はないだろう。
「名前も女性っぽいですし、自己紹介の時にやけにかん高い声だったので不思議だったんですけど…。ふあ~…女性とは思えない程大きな方ですねぇ…」
感心した様子でプレアを見上げるササメアだったが、ここでプレアがグイっとディットに顔を近づける。
「ねえねえお兄ちゃん! 早速そのドラゴンを見に行こうよ! お兄ちゃんの技能…? とか言うのがあれば、50階くらいなら問題ないでしょ!?」
「待て待て早まるなっ!」
無茶を言ってくるプレアをディットは慌てて押しとどめる。
「行くな…とは言わんが、せめて準備をしてからだ! 武器防具に階層に合った道具の準備! 人数も三人…特に純粋な前衛が一人しかいないとか不安過ぎるからもう少し仲間も欲しい! 理想は前衛2、後衛2、あと何かしらの一芸に特化した人物2の合計6人パーティーが理想だ!」
「む~…。ま、お兄ちゃんがそう言うなら仕方ないかー…。………ん?」
必死のディットの説得に一旦は諦めた様子のプレアだったが、唐突にその視線が先ほどの液体生物の魔物…のいたところに移った。
「ねえ、お兄ちゃん。あれ何?」
プレアの指差しにディットとササメアがその方を見ると、何やらキラキラ光る丸い球の様な物が…。
「おお、イキナリでてくるとは珍しいな! あれが魔物の落とす”宝物”だ!」
途端に上機嫌にその球に近づき拾い上げるディット。その隣では同じく駆けよったササメアが目を輝かせながら球を見つめている。
「よし、任せたぞササメア」
「はい! 今ならとびっきりの”宝物”が出てきそうです!」
二人の態度の急変にキョトンとしているのか動きが止まってしまったプレアを尻目に、球をディットから受け取ったササメアは両目をつむり深く念じ始めた。
すると、信じられない事に球がゆっくりと変形を始めたのだ! と、同時に光も収まっていく。程なくして、ササメアの両手には一振りの剣が握られていた。見事な白銀の刃に、天使の羽を模した柄、そして全体的に白を基調にした神聖さを感じられる剣だ。
「…ふう。えっと、直剣 フュンフツィヒ…だそうです」
「フュンフツィヒ…? 聞いた事ないな…。そもそも、こんな浅い階層じゃアインスかよくてツヴァイがせいぜいだと思うんだが…」
「これもレベルのなせる業なのでしょう。きっとすごい数字ですよ!」
なにやらワイワイと会話しているディットとササメアだが、このダンジョンの初心者であり何を言っているのかさっぱりわからないであろうプレアからすれば面白いはずがない。
「ちょっとー! 私にも分かるように説明してよー!」
私は怒ってます! と言わんばかりの声で二人の間に割って入るプレア。
「あーすまんすまん。えっと…。このダンジョンのレベルって概念な、俺達人間だけじゃなく宝物が武具だった場合にも固定で付けられてるんだ」
「勿論高い方が強く使いやすい武器です! ただ、その数字がウチ達には余り馴染みのない呼び方で…。因みに”アインス”が1で”ツヴァイ”が2です!」
「ただ、今回の”フュンフツィヒ”ってのは聞いた事が無くてな…。まあ、それは後でメグミさんに聞いてみるとして、剣だったらプレア使えるだろ?」
説明と同時にディットの言葉と共にササメアから剣を差し出されるプレア。受け取って振り心地を確かめてはいるが、なんとなく納得していない様な雰囲気がある。
「羽のように軽いのに切れ味も凄そう…。でも、せっかくお兄ちゃんに買って貰った剣を一回も使わないってのもなんか勿体ないな…」
そう言って、既に腰にさしてある剣を撫でるプレア。
「それもダンジョン産だからそれなりの剣だとは思うが…。まあ、このダンジョンじゃ武器の持ち替えなんてこの通り日常茶飯事だ。俺の買った剣に愛着を持ってくれるのは嬉しいが、装備持ち替えにも慣れないとな。とりあえず…今拾ったそれを主力にして、俺の買ったのは主力が使えない時の補助武器にすればいいんじゃないか?」
提案をするディットに、少しの間を置いてから「そうする」と小声で呟いたプレア。少し悲しそうな感じではあるが、ここでプレアはフッと顔を上げる。
「ところで、この剣の名前ってそのヒュ…フ…フュン…なんとかとかいう呼び方じゃないと駄目なの? 舌を噛みそうで凄く呼びづらいんだけど…」
「さっきも言ったけど、この”フュンフツィヒ”ってのはあくまでただの数字だ。気になるなら自分で名前を付けてみるのもいいかもな」
そうして、言葉通りに呼びづらそうにしているプレアにディットから助言が入る。それを受け、プレアはうーんと剣を見ながら考え始めたが、程なくしてよし! と一つ頷いた。
「君の名前は”ホイップソード”だ! なんかふわふわしてるし!」
「あはは…。な、なんか凄く甘そうな名前ですね…」
即興のプレアの名付けに、ササメアも率直な感想を漏らすのだった。