代わりに思いついたくだらないネタ
シロマ「わたし、シロマ。白魔導士のシロマ、よろしくね」
テルマ「わたし、テルマ。青魔導士のテルマ、山にいるよ」
男の傷が癒えるのを待って、二人は行動を開始した。
あの握手の当日より既に動ける程度には回復していた男は、すぐにでもダンジョンに赴こうとしたのだが、万全になるまではシロマのほうがそれを許さず、数日の間男がやっていたのは無理のない範囲で彼女に代わり村へと買い出しに行くことだった。
少女がその村に行きづらい理由は、入った瞬間に理解した。そのモンスター村の住人が男へ向ける視線が、明らかに人間を歓迎していない色をしていたからだ。
(なるほど、シロマが逡巡するわけだな)
とはいえ、目線から感じる色は敵対的ではない。敬遠感の方が強いもので、今すぐに襲われるという類や、人間にありがちな「食い物にしてやろう」というようなねばついたものでもないということは、各地を転々としてきた男には直感的に理解できた。
村の入り口付近には、見慣れた外壁の建物。おそらく村におけるシロマの家だろうが、男の此度の目的はそこではない。
「さて、ここだな」
男が訪れたのは、道具屋の看板を掲げた村の南西に位置する建物。シロマの幼馴染が経営しているらしいそこが、彼女に頼まれた男の目的地であった。
「すまない、誰かいるか」
ノックを二回ほどして、扉に手をかけると、施錠はされていなかった。中に入り、再度声をかける。
すると、外からでは聞こえていなかったのか、店の奥から返答があった。
「はぁ~い、お客さんかなぁ?」
変に間延びした、しかし流暢な人語。それに続いて奥からのっそのっそと現れたのは、
(あの黄色いのの近縁種か?)
丸々と太った、白い羽毛の鳥型モンスターだった。モンスター村なので、少女の幼馴染が人間ではないという可能性は薄々考えていた男は、そこに対してはさほど驚きを感じない。
驚いたのは、あのダンジョン前で見た鳥のモンスターと、目の前のモンスターが同種なのではないかと思えたからだ。体格は明らかに違うし、こちらは人語を話すあたり、別種でもおかしくはないが。
「あれ、珍しい。人間のお客さんだぁ」
「ああ、シロマの遣いで来た、スティルという」
しかし、同種であろうとなかろうと、自分のやるべきことが変わるというわけでもないと男は切り替えて、自分がシロマに頼まれた遣いの人間であることを告げる。
モンスターはもともと見えているのか怪しい細い目をピクリとさせて男を見る。
「シロマちゃんの?」
「ああ、俺は旅の者なんだが、数日前に、道中怪我をしたところを彼女に救われてな。恩を返そうと、彼女のダンジョン探索を手伝うことにしたんだ」
疑われているのかと思われるその仕草に、男が己の来歴を伝える。相手が人間であれば、あのような年端も行かぬ少女の元にこんな素性も知れない男が転がり込み、あまつさえ遣いを任されたなど、より疑いが深くなってもおかしくないが、相手はモンスターだ。
「ダンジョンを調べるの、まだ諦めてないんだねぇ」
「ああ、君も供だって行ったことがあるんだろう? その時に無理に付き合わせて怖い目に遭わせてしまったから、少々顔を合わせづらいらしい。まあ、どうもここに寄り付かない理由はそれだけじゃなさそうだが」
「ああ、そこまで聞いてるんだねぇ。シロマちゃんらしいや。確かに怖かったけど、明日にでも顔を出そうとは思ってたんだよぉ。あんな場所じゃ、生活するのも大変だしねぇ」
「君が彼女のところに品々を提供していると聞いてね。そこで俺が代わりに村まで買い付けに来た、というわけだ」
「なるほど、確かに、お兄さんからはシロマちゃんの匂いがするよぉ」
だが、目の前の白い巨鳥は、男の言を信じたようだ。数日ほど彼女の寝台を占領してしまった副産物だろうか、男の衣類には彼女の家の香りが、少なくとも彼には感じ取れるほどに付いていたらしい。
「そういうことなら、いらっしゃい。ボクはデブチョコボ。よろしくぅ」
またものっそのっそとカウンターの中に移動する白い鳥は、自分をそう名乗った。
「お兄さん、シロマちゃんの手伝いをするってことは、ダンジョンに入るんだよねえ? あそこ、本当に危ないけど、大丈夫?」
「知ってるよ。一度入ったんだが、実を言うと先ほど言った怪我も、そこで罠にかかって負ったものでね。ダンジョンというものがどういうものかも知らずに入るべきではなかったな」
「ええ~……そんな目に遭ったのにまたあそこに行くって、お兄さん怖くないのぉ?」
「俺にとってシロマは命の恩人だ。そんな彼女があそこを調べたいというのに、救われておきながらはいそうですか、というわけにもいかない」
「はぁ、お兄さん良い人なんだねぇ。だったら、これとかこれは絶対買って行ってよぉ」
そして、道具屋の主人らしく、今後の男にとって必要な道具を見繕ってくれたのである。
デブチョコボから必要なものを買い付けて、ついでにアイテムについてや、村についても、いくつか知識を仕入れて、男は道具屋を後にする。
去り際に、
「ありがとうデブチョコボ。暫くは俺が買い付けにくるだろうから、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくねえ。ボクもシロマちゃんのところまで行くのは結構大変だし、助かるよぉ」
そうやりとりして、それとなくデブチョコボがあの家に近づかないよう誘導する。
彼の移動の仕方を見るに、そう険しくない道とはいえ岬のシロマの家まで赴くのも一苦労ではあるのだろう。なにより、男の上っ面は善意に満ち満ちていたので、ついにデブチョコボは幼馴染に迫る毒牙に気づけず、その男の口車に乗ってしまった。
(よし、これで、何日かおきにシロマの近況を伝えつつ買い付けに来れば、こいつがそうそう来ることはないだろうな)
店を出た男は、扉を背に内心でほくそ笑む。
まず一つ。少女と男はこれでしばらくは二人きり。買い込んだ道具類で荷物は重くなったが、足取りは軽く、男は少女の家に戻っていった。
「お帰りなさい、どうだった?」
「ああ、君の言う通り、良いやつだな、デブチョコボは」
着くなり迎えられた少女の屈託のない笑顔に、荒ぶりそうになる己の股間を律して、男はすんでのところで猫を被った。
封を解き、少女とともに買い込んだものに間違いがないか確認していく。
性欲そのものは勿論あるが、それ以上に彼らが赴くのは死地である。男はそれを身をもって知っているし、少女は何度も探索を繰り返しているとあれば今更だろう。なればこそ、ここで半端な仕事をすることは、少女に見限られる危険性だけではなく、己が身の危険性に直結するため、男は遣いに関しては実直にこなしていた。
「うん、テレポのしおりもあるし、ポーションもお願いした分ある。ありがとう、お兄さん♡」
その見返りが、この少女の愛らしい笑顔ともあれば、男の中では踏むべき面倒な手順さえも苦役ではなかった。
そのあとは、男の体調を確認した後、ダンジョンへもぐる日取りを決めていき、その他それぞれの役割などを再確認していく、当然の作業が待っていた。
基本的には男が前衛となり、アイテムを集めつつ少女のダンジョン探索に協力していくという大筋が固まった時点で、すでに外は夕闇に暮れつつあった。
「ふう、なんとか段取りは取れたな」
「うん、ありがとうお兄さん」
男の体調が万全になり次第、それこそ早ければ明日にでもダンジョンに潜ることが決まり、窓の外を見た二人は、思った以上に時間が過ぎていたことに気づく。
「さて、それじゃあ俺は失礼するとしよう」
男は、ここで一度この家を立ち去るそぶりを見せた。
これは全き本心からの行動であり、今まで寝所を占領していたことで十全な睡眠をとれなかったであろう少女への気遣いでさえあった。無論、それが「少女を万全にすることで自分の生存率を上げる」という目論見の下であることは言うまでもないが、少なくとも、この時点で男は完全に野営で夜を明かすつもりだった。
「え、なんで?」
それを、本当に疑問であるという少女の声が引き留めた。
「なんで?」
「うん、なんで?」
聞き返した男が呆気にとられるほど、あまりにも無防備に首をかしげる少女。
「だって、お兄さんまだ全部は治ってないよね? お遣いを頼んじゃったわたしが言えることじゃないけど」
「いや、そうじゃなく。明日からでも俺たちはダンジョンに潜るって決まったろう? だとすれば、しっかり休まなくちゃならないのはシロマ、君の方だ。少なくとも、俺がここを使っていた間、満足に眠れていないだろう」
「それは、怪我してたお兄さんも一緒でしょ。お兄さんがベッド使っていいよ。今日は病み上がりにお遣いも頼んじゃったし、私は床でいいよ。お布団の予備はあるから」
言いつつ、棚から布団を取り出し始める少女。
男はポカンとしていた己を再起動させ、その手を止める。
「きゃっ!?」
「驚かせてすまん。だが、それは駄目だ。君は家主だし、そもそも君を床で寝かせて俺がベッドを使うというのは普通に無いだろ」
「だって、お兄さん」
「だってじゃない。互いに万全で臨むべきだというなら、君がベッドで俺が床だ。そもそも野営しようとしてたんだ、俺にとってはそれでも十分すぎる」
少女が余りにも据え膳過ぎて逆に毒気を抜かれてしまった男は、自らその据え膳を片付けていることに気づいていなかった。
少女の手から布団を半ばひったくるように奪い、有無を言わさず床に敷いてさっさと上に寝転がる。こうなってしまえば、いかに少女とてその布団を取り返すわけにもいかない。
(ん? 俺はいまとんでもなくもったいないことをしなかったか?)
寝転がったところでそんなことを考えても、いまさら遅い。少女は困ったように笑い、ついで棚から取り出した掛け布団を男に放った。
「うおっ、仮にも怪我人だぞ俺は」
「そんな頑固で乱暴な怪我人さんなんて知りません。全く、お兄さんいい人なんだね」
男はその言葉をそっくりそのまま少女にお返ししてやりたかったが、やめた。
(まあ、こうして信用させたところで一気に頂くというのも、趣向が変わって面白いか)
自分を見下ろす少女を見て、毒気ついでに機を見て一気に手篭めにするという今までの手法への興味まで抜けた男は、少女に背を向けて掛け布団を羽織る。
しかし、抜けた毒気は「今この場のチャンスで少女を襲う」という部分だけで、グラグラと煮立つ情欲という毒そのものは未だ男の中にある。
むしろ少女の純粋さ、無垢さを再確認して、男の中に今までとは違う欲求が沸いた。
「無理やり襲って自分の性欲を発散させる」のでは足りない。この少女のそうした美点すべてを、「女の快感」が塗りつぶしたとき、この少女がどんな表情を浮かべるのか。
穢されてなお清らかなのか、それとも男がかつて見たこともないような表情に変わるのか。
(ああ、布団があってよかった)
掛け布団によって少女の目からは隠れた己の股間。そこにある男の逸物は、かつて無いほどの怒張を見せていた。しばらくすると、少女の寝息が聞こえてくる。その寝息さえも甘いものに変えたとき、その時を夢見て、男もまた、眠りについていく。
本格的な眠りにつく前に、男は思考の中で現状を整理した。
明日からは、ダンジョンに彼女とともに潜っていく。チャンスはまだまだこれからだ。
野営覚悟だったのに床で寝る権利までドサクサで得たのは、据え膳を片付けても余りある利点でさえある。
そういえば、今日仕入れた道具類に似たものは、ダンジョンの中でもいくつか見た。生命線であったがゆえに、その模様の違いもある程度覚えている。
飲んでみないと分からないような薬品はともかくとして、特に、カード類には有用なものがあったはずだ。投げつければモンスターを眠らせるカードや、錯乱させるカード。もし、例えば前者が人間―――少女にも有効なものならば……
(これは、ダンジョン探索ついでにアイテムを詳しく調べることも必要そうだな……)
思考の海に没頭する男の意識は、次第にまどろんでいく。
しかし、意識が沈むその時まで、男の股間は怒張を続け、少女から見えないその顔には、下卑た笑みが張り付いていた。
次からはちゃんとダンジョン入りますー