輝男と桜月は、屋上手前の踊り場で一人の女性教諭と向き合っている。
「……あ、雨宮先生……」
輝男は驚愕しながら、目の前に立つ雨宮理華に言葉をかける。
輝男、桜月と真正面に向かい合う雨宮理華は、端整な美貌を厳しくさせて、二人を鋭く見つめる。
「……ち、違うんです……これは……!」
予期せぬ者の出現に、輝男の後ろに隠れるようにして立っている桜月がひどく狼狽する。
理華は驚愕し、狼狽する二人を見ると、再び、咳払いをする。
「天江君……日向さん……」
怖いくらいに落ち着き払った口調で、輝男と桜月に言葉をかける。
「あなたたちも十分にわかっていると思うけど……
学校は勉強するための場所であって、セックスをするところじゃないのよ」
努めて感情を抑えながら、当然過ぎる言葉をかける。
理華の今の言葉に、輝男と桜月は恐縮しきったまま、何も言い返せない。
どちらに非があるのかは、誰の目にも明らかである。
すると、チャイムの音が校舎中に鳴り出した。
「色々と聞きたいこと、言いたいことがあるけど、今は無理みたいね。
今日の授業が終わったら、ジックリと話し合ってもらうけど、いいわね?」
「……はい……」
淡々と言って来る担任教諭に、輝男は成すすべが無いと言わんばかりに力無く応諾の返事をする。
桜月はというと、重くうな垂れたまま、何も言おうとしない。
「とにかく、早く戻らないと、次の授業が始まるわよ」
理華はそう言うと、輝男と桜月に背を向けて、一人、階段を下りていった。
輝男と桜月は、その場に取り残されたかのように、愕然と立ち尽くしている。
「……ど、どうしよう……」
輝男の耳に、不安におののく桜月のか細い声が流れて来る。
輝男はすぐに桜月の方を振り返ると、
「大丈夫だよ。君が迷惑を被るようなことは絶対にさせないから」
精一杯に励ましの言葉をかける。
何とか、桜月の不安を払い除けたい輝男だが、彼自身もまた、不安の極みにある。
二人っきりのひそかな楽しみに冷や水を浴びせかけられ、気分を害する代わりに、先の見えない不安に陥っているからだ。
どうあっても看破できないことを、よりによって担任教諭に見られてしまったのだ。
考えられ得る最悪の事態が、輝男の頭にこびりついて離れない……
◇ ◇ ◇
教室内に掛かっている時計が、三時四十分を指している。
教室はシンと静まり返っており、人の影はほとんどいない。
否、たった二人だけ、机を挟んで向き合いながら座っている。
緊張と不安の入り混じった形相で身を固くする輝男――
努めて感情を抑えながらも、輝男を鋭く見据えるクラス担任の雨宮理華――
ほんの十数分前まで、二十人もの生徒たちで賑わっていた教室に、今は、一人の男子生徒と一人の女性教諭が向き合っている。
「この前、一緒に勉強した時、成り行きで初めてのセックスをしてしまい……
それ以来、皆の目を盗むようにして日向さんと……」
桜月と事に及んだことを説明する輝男に、理華は顔色一つ変えず、黙って聞く。
「……でも、今回の件については、日向さんは悪くありません。
責任を取るべきは僕です。
僕がストレスを発散し、淫欲に耽りたい気持ちに負けたばかりに、あそこで日向さんを抱いてしまったんです」
輝男は一切の責任を自分が負うことで、桜月をかばい、彼女に危害が及ぶことを避けようとする。
実際のところはどうだかわからないが、輝男が桜月との淫行を断れば、あの事態は起きなくて済んだのかもしれない。
校舎内での輝男と桜月のひそかなセックスは、否定しようのない事実として起きたことだ。
輝男か桜月のどちらか、あるいは両者がセックスをしないという意思を示せば、起こりようもなかったことである。
理華は今の説明を聞くと、輝男を鋭く見据えながら、口を開く。
「天江君……理由や事情はどうあれ、校内での淫行は明らかに校則違反よ。
教職員の端くれとして、生徒…それも、自分が受け持つクラスの教え子がそのような違反行為を行なったことなど、どうあっても見逃すことはできないわ。
あなた、さっき責任を取ると言ったけど、言葉だけでなく、行動でもって示さなければならないわ。
わかってる?」
「……はい、わかってます……」
鋭く言って聞かせる理華に、輝男は緊張の度合いを増しながら、言葉を返す。
額からは冷や汗がにじみ出ている。
目の前にいる理華の厳しい雰囲気から察すれば、少なからぬ罰は免れないことは容易に察せられる。
理華は輝男の返事を聞くと、すぐにまた言葉をかける。
「あいにくだけど、先生、これから大事な用事があって、このまま君に付き合うことはできないわ。
悪いけど、夜の七時、先生の家に来て、今回の件について色々と話し合ってもらうから」
「せ、先生の家にですか?」
「ちゃんと責任を取ってもらうから」
有無を言わせぬ理華の言葉に、輝男は重い表情を浮かべながら、何も言い返せない。
すると、理華はまたも、輝男に言葉をかける。
「天江君、お家の電話番号を教えて」
「う、家の…ですか?」
「ご家族の方に、今晩の件をちゃんと伝えておかないといけないから」
輝男は理華の今の言葉に、気まずそうな顔を見せつつも、自宅の電話番号を教えた。
理華はジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、すぐさま電話をかけた。
スマートフォンの向こうから数秒ほど呼び出し音が聞こえると、
「あ、お義母さんでいらっしゃいますか?
私、明朝学園高校で、輝男君の担任をしております雨宮理華と申します」
恐らく、電話の向こうにいるであろう真純に向かって、電話越しに挨拶する。
「実は、輝男君が今日、校内でちょっとした問題を起こしまして……
その件で、色々とお話ししたいことがありまして、今晩、輝男君をこちらに預けてもよろしいでしょうか?」
輝男は不安に表情を曇らせながら、電話越しでの理華と真純の会話を黙って聞く。
「え? えぇ……。なるべく、厳重処分にならないように手を尽くす所存ではありますが……
輝男君の態度次第では、どう転ぶかわからないのが今の現状です」
電話越しに真純と話す理華の言葉が、輝男の心に不安を募らせる。
「えぇ、えぇ……。はい、わかりました……」
理華は電話相手に向かってそう言うと、すぐに通話アイコンをタップし、電話を切った。
電話を終えた理華は、再び、輝男をまっすぐに見据える。
「ご家族の承諾は取ったから、七時に先生の家に来なさい」
「あ、はい……」
輝男は理華に向かって、情けないくらいに弱々しく返事をする。
今の理華の言葉は、輝男を断崖絶壁に追い込むのと同じ効果があるようだ。
もう一押しあれば、奈落の底へ突き落とされるのは避けられない。
「そう言えば、先生の住所ってわからなかったわね。
教えてあげるから、スマートフォンを出して」
理華がそううながすと、輝男はブレザーのポケットからスマートフォンを取り出した。
理華がスマートフォンを手に何やら操作をする。
やがて、輝男のスマートフォンに振動音が鳴り出し、次の一文がディスプレイに表示された。
“データの受信が完了しました”
一方、理華のスマートフォンには、データ送信の完了を告げる一文が表示されている。
理華はスマートフォンを内ポケットにしまうと、そのまま席を立った。
「じゃあ、今夜、七時、待ってるからね」
理華はそう言うと、輝男を残して教室を出た。
理華がいなくなると、輝男は力無く腰を上げた。
一人、取り残されたかのように教室内で立ち尽くす。
不安と緊張は、薄れ、消えるどころか、更に濃度を増している。
校舎内での淫行という明らかな違反行為で、どんな罰を受けなければならないのか?
内容が明らかにされないことに、輝男は否応無く不安を募らせる。
明言を避けられている以上、受ける処分は決して軽くないのは間違い無いようだ。
しかし、一人、孤独の中で不安を募らせても、何の助けにもならない。
輝男はスマートフォンを手にし、アプリを操作する。
すると、連絡用のアプリが、一件のデータを表示した。
データには、電話番号とメールアドレス、そして、家の住所らしきものが併記されている。
(先生の住所だけでなく、番号やメアドまで……)
アプリ内のデータを見ながら、輝男は内心、そうつぶやく。
今、輝男が見ているのは、さっき、理華が送信して来た自分の自宅住所のデータである。
輝男はそのまま、一番下に表記されている住所を見る。
住所欄の一番最後を見ると、輝男は何かに気がついたかのように驚いた。
住所欄の最後には、次の一文が記されている。
“――ヘブンズバベル・7F 702号室”
(ヘブンズバベル…って、うちのマンションじゃないか!)
輝男は眼下にある住所データ――恐らく、雨宮理華の――を見て、内心、驚嘆の声を上げる。
別の階とはいえ、担任が自分と同じマンションに住んでいたことに、驚きを隠せないでいる。
すると、再び、スマートフォンに振動音が鳴り出した。
ディスプレイを一瞥すると、輝男はすぐに電話に出た。
『もしもし、天江君?』
「あぁ、日向か。どうした?」
『今、雨宮先生と話、してなかった?』
電話の向こうから、桜月が心配そうにたずねて来る。
「今、ちょうど終わったところだよ。それより、日向の方はどうした?」
『それが……あの後、先生、何も言ってくれなくて……
むしろ、用が無かったら、そのまま帰っていいって言われて……』
「取り敢えず、君は無事で何よりだったな」
『そんなことより、天江君の方はどうなの? まさか、何か処分を受けたりしたんじゃ……』
「俺なら大丈夫だから、何も心配しないでいいよ」
輝男は電話の向こうの桜月に安堵をうながすと、そのまま電話を切った。
しかし、スマートフォンをしまうと、深くため息をつく。
「まさか……よりによって、俺と先生が同じマンションに住んでいたなんて……」
他に誰も無い孤独と静寂の中で、驚きと困惑の入り混じった嘆息をする……
◇ ◇ ◇
漆黒の夜空が、輝男の住むタワーマンションを見下ろす。
マンション七階の廊下に、輝男は制服姿のまま立っている。
目の前にある玄関ドアの横には、“702”と記された表札のプレートが貼られている。
輝男は手にしているスマートフォンのディスプレイを見る。
ディスプレイには、“PM:7:00”と時刻が表示されている。
緊張と不安の入り混じった面持ちで、玄関の呼び鈴を押す。
しかし、ドアの向こうからは何の反応も無い。
輝男は何度も呼び鈴を押すが、やはり何の反応も無い。
(おかしいな……。七時に来いって言ったから来たのに、何も応じてくれないなんて……
先生のことだから、余程のことが無い限り、ドタキャンなんてするはずが無いし……)
輝男は内心、首を傾げてしまう。
かと言って、何の応対も無いからそのまま引き返すというわけにもいかない。
校則違反を犯した処分を受けるか否かという瀬戸際にある輝男としては、言われるがままに担任の懐に飛び込む以外に選択の余地はない。
意を決したように、玄関のドアノブを手にかける。
すると、ドアはすんなりと開いてしまった。
(やっぱりいるんだ。でも、何だか不用心っぽいな)
輝男は内心、そうつぶやきながら、ドアの向こうへと入る。
「先生、天江です」
玄関に立つ輝男は、廊下の向こうに向かって呼びかける。
しかし、依然として、何の返事も無い。
「先生、お邪魔しますよ」
輝男は再度、部屋の主――担任である雨宮理華に向かって呼びかける。
すると、どこからかシャワーの流れる音が聞こえて来た。
明らかに近くから発せられたような、ハッキリとした音量で、輝男の耳に流れ込む。
シャワーの音を聞いた瞬間、輝男はギクッと顔を赤らめる。
(ま、まさか……!?)
輝男の脳裏に、る光景が浮かび上がった。
一糸もまとわぬ裸体でシャワーを浴びる理華の姿――
妄想か現実かわからぬ光景を脳裏に浮かばせると、輝男はついに部屋の中に足を踏み入れる。
廊下をすぐに抜けたリビングに、輝男は一人、腰を下ろす。
リビングはダイニングキッチンと直結しており、窓からは夜景が広々と見える。
「さすが、教師やってるだけあって、キチンとしているな」
輝男はリビングを見渡しながら感嘆する。
整理整頓が行き届いており、ちりやほこりが少しも認められない。
すると、後ろからカチャッと何か物音が聞こえて来た。
輝男が後ろを振り返ると、キッチンの横にあるドアが開いた。
すぐに、ドアから何者かが姿を現す。
「ふぅ、サッパリした」
安堵の吐息を漏らしながら出て来たその者に、輝男はドキッと顔を赤らめた。
「せ、先生……!」
驚く輝男の目の前には、長袖のワイシャツを羽織り、タオルで湯上りの髪を乾かしている雨宮理華の姿があった。
学校で見せる知性的で厳しい姿とは大いに異なるリラックスした雰囲気を見せ付けている。
美貌はそのままだが、スラッとした色白で細い両脚と、ワイシャツの下から自己主張する左右の大きなふくらみが、輝男の心を否応無く昂らせる。
リビングに向かった理華は、すぐに輝男の姿を認める。
「天江君、ちゃんと来てくれたのね」
ニコッとほほ笑みながら言葉をかける。
「あ、はい。先生、もしかして、さっきまで…」
「ごめんなさい。私、体、サッパリさせたかったから」
理華は輝男にそう言うと、すぐに背を向けた。
「今、ご飯、温めるからちょっと待っててね」
理華はそう言いながらリビングに向かった。
十分ほど経った後、テーブルに二人分のメニューが並んだ。
「天江君、ご飯、まだでしょ?」
「えぇ…」
「どう、美味しいかしら?」
「とても美味しいですよ」
「お世辞言っても何も出ないわよ」
「とんでもない。本当に美味いですよ」
二人は言葉を交わしながら夕食を食べ進む。
言葉通り、輝男は美味しそうに夕食のメニューを食べる。
輝男と向かい合う理華も、嬉しそうに食事を進める。
三十分が経った――
既に夕食のメニューは片付けられたが、輝男と理華はそのままテーブル越しに向き合っている。
輝男はグラスに注がれたアイスティーを、理華は缶ビールを飲んでいる。
半分ほど缶ビールを飲むと、理華は大きくため息を付く。
そして、アイスティーを飲んでいる輝男をまっすぐに見つめる。
「ねぇ、天江君……」
輝男はすぐに、神妙な面持ちで見つめる理華に気付く。
輝男が飲みかけのグラスをテーブルの上に置くと、
「日向さんとはどういう関係なの?」
理華は神妙な面持ちを崩さずに、輝男にそうたずねる。
輝男は理華からの問いかけに、戸惑いながら言葉を詰まらせる。
それでも、
「ク、クラスメートであり……友達でもあります……」
しどろもどろに返答する。
桜月が自分に好意を寄せているのを認めつつも、交際云々を明言することがどうしてもできなかった。
言葉の選択を間違えれば、自分や桜月に何かしらの不利が生じるのではという懸念が、輝男にためらいの気持ちを引き起こしているのだろう。
輝男の今の返答を聞くと、理華は輝男をジッとにらみ続ける。
酒の勢いもあるのか、輝男を見据えるまなざしが鋭く感じられる。
「友達でもエッチしちゃうんだ……」
淡々と言って来る理華に、輝男は羞恥と困惑に言葉を詰まらせる。
顔を赤くしたまま何も言えない輝男に、理華は言葉を続ける。
「しょうがないよね。天江君や日向さんの年頃だと、エッチがしたくてたまらないんだから。
それに、天江君のように、学年でもトップテンに入る成績を誇るイケメンなら、エッチしてくれる女の子には事欠かないし……」
「そ、そんなこと、ありません! 僕は先生が思ってるような……女の子なら誰とでも…」
「先生、別にあなたにエッチするなとは言わないわ。
ただ、規則に従い、ちゃんと場所を選んでやりなさいと言いたいのよ」
輝男の反論をさえぎりながら、教え諭すように言葉をかける。
輝男は担任教諭の今の言葉に、思わず唖然となる。
真面目で厳しいと思われていた理華の口から、信じられないような言葉が出たからだ。
「……先生って、セックスなんてダメじゃないんですか?」
「闇雲に禁止しても無理なことくらい、先生だってちゃんとわかってるわ。
欲望に任せて相手を傷付けたり、所構わず耽りきるようなことさえしなければ、先生だってとやかく言わないから。
それに…」
そこまで言うと、理華は輝男の真ん前に近付いて来た。
ワイシャツを羽織っているだけの美人教師が目の前に近付き、輝男はまたもドキッと紅潮する。
酒にでも酔ったかのようなほんのりと赤らむ美貌――
乞うような震える瞳――
ワイシャツの襟元からチラッと見える豊かな谷間――
目の前に突き付けられた一つ一つが、否が応にも劣情を煽っていく。
「……あたしだって、エッチの一つや二つはしたいし……」
艶を帯びたような口調で、理華は輝男にささやきかける。
輝男は理華の今の言葉を聞くと、ハッと我に返り、困惑した表情を見せる。
「な、何、言ってるんですか? まさか……!?」
何かを察した輝男が驚愕の声を上げる。
すると、理華はすかさず、輝男にキスをした。
柔らかな唇が当たり、輝男は思わず身を固くする。
間も無くして、理華は唇を離した。
「せ、先生……」
顔を赤らめながらも、困惑したかのように言葉をかける輝男。
理華は困惑を隠せない輝男をまっすぐに見つめながら、口元を動かす。
「私……天江君が欲しいの……」
艶やかな声でそっと言葉をかける。
理華の今の言葉に、輝男は言葉を失う。
意味が理解できないわけではないが、すんなりと受け入れることがどうしてもできなかった。
「じょ……冗談……ですよね……? そんなこと……?」
輝男はしどろもどろながらも、何とか言葉を返そうとする。
しかし、理華は表情もまなざしも揺るがさず、真剣な気持ちであることを示そうとする。
「冗談でこんなことを言うわけないでしょ。
私、あなたのことを、どうしてもただの生徒として見ることができないの……
A組の担任を受け持つようになってから、何故か、あなたのことが気になって……」
「先生、自分が何を言ってるか、わかってるんですか?
僕とあなたは、担任と教え子の間柄なんですよ。
それこそ、今日の昼休み、僕と日向さんがヤったことよりも更にヤバいことじゃないですか」
あってはならない思いを吐露する理華に、輝男は困惑の極みに達したような返事をする。
普段、学校、教室で厳しい態度を取る裏に秘められた思慕を目の当たりにして、輝男は困惑以外のいかなる気持ちもわき上がらせずにいた。
例え、相手が文句なしの美人教諭――しかも巨乳の主――であろうと……
理華は輝男の今の言葉を聞くと、更に瞳を震わせ、乞うようなまなざしを強める。
「……わかってる……十分にわかってるわ……。……それでも、私は……あなたが欲しいの……
生徒でも教え子でもなく……男として……天江君が欲しいの……」
艶を帯びた声で理華が言葉を返す。
突き放そうとすればするほど、逆に惹かれようとする理華に、輝男はどうしようもない気分にさいなまれる。
「先生……もし、僕とあなたが事に及べば、僕もあなたも無事でいられませんよ」
「別に、私と付き合えとは言わないわ。ただ、今だけでいいから、私を抱けばいいのだから」
「だ、抱く……って」
「あなたが私のことを抱いてくれたら、日向さんの件は不問に付して、皆にも黙っておくから」
「そんなことより、僕が先生を抱く方がもっと…」
「あなたと私だけの秘密にすれば何も問題は無いわ」
「でも、いつかはバレますよ。それに、そのような取引はどう見てもフェアじゃないし……」
「自分のやり方がお世辞にもフェアじゃないのは、私自身がよくわかってるわ。
でも、こんな強引なやり方で無いと、天江君と事に及ぶ機会なんて無いし……」
教え子ではなく、一人の男として輝男を求めて止まない理華に、当の輝男はなおもためらいの気持ちを捨てきれない。
煮え切れない教え子を前にして、理華はなおもすがるようなまなざしを向ける。
「……もしかして、年上の女って嫌なの……?」
心なしか、更に紅潮の度合いを増しているように見える美貌を近付けさせ、ささやくように言葉をかける。
真ん前に突き付けられた麗しい赤ら顔に、輝男は思わず唾を飲み込む。
「……べ、別に嫌いじゃないです……
それで、僕と日向さんのことを不問に付してくれるのであれば……
僕と先生……二人だけの秘密にするというのなら……僕は一向に構いません」
観念したかのように、輝男はようやく応諾の言葉をかける。
輝男の応諾に、理華は安心したかのように笑みを浮かべる。
「ありがとう、天江君……」
今まで見せたことの無いような満面の笑みに、輝男はドキッとしながらもまっすぐに見つめる。
(先生の笑顔、とても綺麗だ……)
ついつい、心の中で感嘆の声を上げる……