急患センターの廊下で、真純と大手芸能プロダクション社長・郷沢善児が対峙している。
怒りのこもった厳しい表情を見せる真純に対して、郷沢は汚物でも見るような目つきを崩そうとしない。
輝男、瑠奈、静流、豪、そして泉は、重苦しいにらみ合いを前に、愕然と言葉を失う。
「郷沢社長、あなたが決して、他人に対して謝罪などしない人であるのは、私も嫌というほど承知しております。
明らかな加害者であるにも関わらず、被害者を執拗に責め立て、法外にお金を巻き上げ、社会的に抹殺することさえ、あなたにとっては造作も無い。
……ですが、愛する義息(むすこ)を持つ母親として、義息があなたの部下に惨たらしく痛め付けられたことに対して、言葉に言い表せない憤りを告げずにはいられません」
必死に感情を抑えながら言うと、真純は泉の方を一瞥する。
「きっかけが、こちらにいる泉梓さんであったとしても……
今回の件の責任は、郷沢社長、あなたにあると言わざるを得ません。
あなたの力を持ってすれば、私の義息(むすこ)に対する暴力を防げることは、わけ無かったはず」
義母(ははおや)として義息(むすこ)を思う気持ちを切々と訴え、精一杯にとがめようとする。
しかし郷沢は、真純の痛切な思いに動じるどころか、傲然とした面持ちを崩そうとしない。
「今すぐ、現金、三億円を私に支払いたまえ」
今しがたの言葉など無かったかのように、法外な要求を再度、言ってくる。
今の郷沢の言葉に、真純は表情を険しくさせ、輝男は怒りに歯を食いしばる。
どうあってもこちらの話を聞こうとしない郷沢に、如何ともしがたい思いにとらわれてしまう。
それでも、怒りに満ち満ちている気持ちを示そうとする。
一方の郷沢は、今の要求に対する応諾の返事が無いことに、半ば苛立ったような顔を見せる。
冷やかなまなざしで真純をにらむと、
「その小僧は、君の子供かね?」
傍にいる輝男を一瞥しながら、傲然とした口調でたずねる。
「はい……。血はつながってない義理の息子ですが……」
真純が淡々と返答すると、
「まったく……義母子(おやこ)揃って虫けらだ……」
吐き捨てるような口調でさげすみの言葉を平然と言い放つ。
すると、
「社長、そろそろ、ここを出ないと、今後のスケジュールに支障を来たします」
横にいる長身の男が、耳元で郷沢にささやく。
男が注意をうながすと、郷沢は改めて輝男たちを傲然とにらむ。
「本来ならば、すぐにでも迷惑料三億円を支払ってもらいたいところなのだが……
私はかなり忙しい身でね……
君のような虫けら以下のクズ如きと遊んでいる暇など無いのだよ。
だが、私に下らん足労を強いた償いは、必ずしてもらうからな」
輝男を冷たくにらみながら、一方的、かつ、理不尽に責め立てる。
怒りに歯を食いしばる輝男を無視し、彼の傍にいる泉に目で合図を送る。
郷沢の目線に、泉は輝男の方を振り向かず、郷沢のすぐ傍に歩み寄る。
すると、郷沢たちは、泉を伴いながらその場から去って行く。
遠のく郷沢の後ろ姿を見つめると、
「俺、今まで、色んなムカつくヤツを見てきたが……
ガチで殺してやりたいくらいにムカついたのは、あのクソジジイが初めてだ!」
憤怒に表情を浮かべながら、郷沢に対する抑えようの無い怒りを吐く。
「アタシだって、あの爺さん、思いっきりぶん殴って、蹴りを入れてやりたいわよ!」
愛する義兄を痛め付けておきながら、被害者である義兄を悪者のように扱って平然とする郷沢に、瑠奈もまた凄まじい怒りをあらわにする。
二人が怒りをあらわにする傍で、輝男は厳しい表情を見せながらも、激しい怒りと憤りを何とか抑えようとする。
泉に対する心痛と郷沢に対する凄まじい怒りは決して消え失せていないが、ここで怒りを爆発させても無意味であることを否が応にも思い知っている。
輝男は後ろを振り返ると、豪に向かって口を開く。
「大富、今日のことは、絶対、小春に内緒にしてくれ。
アイツのことだ。事が知れたら、ただじゃ済まない」
「わかってるさ。アイツ、あれでも、大の泉梓アンチだから。
今日のことがバレたらヤバ過ぎるくらい、俺の方がよくわかってる。
可愛い妹にバカなマネはさせねぇよ」
輝男と豪は、共に神妙な面持ちを見せながら言葉を交わす。
火の粉が余計に振りかかるのを避けたい気持ちでは、二人とも同じだ。
すると、輝男はまたも豪に向かって口を開く。
「ところで……お前に助けてもらった手前、こんなことを言うのも何だが……
どうして、今日、ここまで遠出して来たんだ?」
豪が遠く離れた東京都心に住んでいることを踏まえ、心に引っかかった疑問を言う。
すると、豪は何故か恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「そ、それは……暇つぶしに、“ダチ”たちとたまたま、こちらに遠出して来ただけだ」
顔を赤くしながらも、今回の遠出を説明する豪。
そのすぐ傍では、何故か、静流も恥ずかしそうに頬を赤らめながら、顔をうつむかせている。
幸いと言うべきか否か、輝男は二人の今の態度をまったく気に留めていないようだ。
◇ ◇ ◇
夜空を突き抜ける雨が、タワーマンションに降り注がれる。
マンション内のリビングでは、パジャマに着替えた輝男と真純が、テーブル越しに向き合っている。
二人とも神妙な面持ちで互いを見ている。
「じゃあ、彼女は輝男さんの小さい頃の幼なじみだと言うの……」
「うん……。ずっと一緒で、とても仲良しだったんだ」
神妙な面持ちを崩さずに言葉を交わす義母と義息。
“泉梓”こと海原泉のことを話しているのだろう。
「五年以上も離れ離れになってもずっと忘れず……
ずっと一緒で仲良しだった思い出を今もちゃんと肌身離さず抱えている……
あなたにとって、海原泉さんって、とても素敵な人だったのね……」
真純は輝男をまっすぐに見つめたまま、しみじみと話しかける。
神妙な面持ちを見せ続ける真純からは、大好きだった幼なじみのことを忘れずにい続ける義息に対する深い感銘が、否が応にも認められる。
しかし、すぐに厳しく表情を切り替えながら、義息とまっすぐに向き合う。
「輝男さん……その泉さんのことだけど……
彼女のことは今すぐに忘れなさい……!」
努めて感情を抑えながら、一転して、無情な一言をあたかも命令でもするかのように言い放つ。
義母の今の一言に、輝男は思わず愕然とした表情を見せる。
「あなたにとっては、今でも大切な幼なじみかもしれないけど……
今の彼女は、輝男さんの記憶にある泉さんとはまったく違う存在でしかないわ。
みにくく腐り果て、この世の中で最もおぞましい泥沼に、自らその身をどっぷりと浸からせている……
これ以上、泉さんに少しでも関われば、間違いなく、あなたは無事ではいられないわ。
輝男さんにとっては、絶対に受け入れがたい話かもしれないけど……
あなたの知っている海原泉さんは既にこの世に亡く……
今日、あなたが出会った彼女は、その泉さんとは似ても似つかない、忌まわしい俗輩にその身を汚されるためだけにこの世に生きることを許されている哀れな…」
無情の通告を補足するかのように、延々と言葉を言い連ね、話を続ける真純だが、
「義母さん、どうして、彼女をそこまで責めるんだ!?」
輝男は表情を険しくさせ、声を荒げながら、義母の話を中途でさえぎる。
思わず怒りをあらわにする輝男に、真純は厳しい表情を崩さない。
「義母さんの言うことを否定するつもりはないけど……
いずちゃんだって、好き好んで、あんな境遇に我が身を置いたわけじゃないんだ……
やむにやまれぬ事情があって、あんな風に変わり果ててしまったかもしれない。
義母さんは、いずちゃんを忌まわしい汚物のように見なして毛嫌いし、俺に彼女のことを忘れろと言ってるけど……
義母さんだって、本当はいずちゃんのことを可哀想だと思ってるじゃないか!」
泉の忌まわしい境遇を認めつつも、彼女のことをなおも庇う輝男。
義息の今の言葉に、真純は厳しい表情を見せながらも唇を固く閉ざす。
一呼吸、間を置いた後、輝男は義母をまっすぐに見つめながら、口を開く。
「それより、義母さん……どうしても聞きたいことがあるんだ……」
厳しい表情を見せながら義母に話しかけると、
「“佐倉春花”……って、一体、何なんだ……?」
搾るような声でそうたずねる。
義息からの今の問いかけに、真純は一瞬、表情を強張らせる。
義母と向き合う輝男は、今日の日中、病院内で義母と郷沢が対峙した時の記憶をよみがえらせる。
まるで、久しぶりに会った古い知人のように話し合う義母と郷沢の姿が、輝男の脳裏から離れられずにいる。
不快感と嫌悪を募らせながら言葉をかける真純に対して、郷沢は、汚物でも見るような傲慢極まりない態度で真純と接する。
その時、彼が真純に向かって言い放った別の名前を、今、義母に向かって問いただそうとする。
輝男が返答を聞こうと、まっすぐ見つめる中、真純はキッと唇を固く閉ざす。
数分程――体感的にはその倍以上――重苦しい沈黙を続けた後、ようやく唇を開かせる。
「こんなこと、言いたくないけど……
世の中には、知ってはいけないことがわずかだけど、存在するものよ。
あなたにとって、“佐倉春花”なんて知る必要も無いし……
仮に知ったとしても、あなたにとっては何の意味も無いんだから」
重々しい調子で言葉を返すと、スッと腰を上げた。
そして、輝男一人を残して、一人、寝室へと向かう。
「義母さん!」
背後から呼び止めようとする輝男の声に、真純は一瞬でも振り向こうとしない。
そのまま真純が寝室に消えると、輝男は一人、その場で愕然と立ち尽くす。
(義母さんが俺にあんな態度を取るなんて……
よっぽど、俺に知られたくないことなんだろうか……?)
愕然とした表情の奥で、底知れぬ苦悩の念をつぶやく。
幼なじみとの絶縁をうながされ、義母の秘密の一端に触れた輝男は、どうしたらいいかわからないといった様子で、愕然とし続ける。
外からは、音量を増す雨音が聞こえてくるが、輝男の耳にはまったく入って来ない……
◇ ◇ ◇
一夜、明けた空を分厚い雨雲が覆う。
途切れることの無い雨が、タワーマンションを濡らし続ける。
マンション内の自室で、輝男は椅子に腰を下ろしている。
「体の方は大丈夫なの?」
「あぁ、幸い、大事には至らず、入院するほどでもなかったよ。
ただ、しばらくは家で大人しくした方がいいって」
ベッドの淵に腰を下ろす桜月に向かって、輝男は自らの具合を話す。
こうして普通に会話をしているが、昨日、悪漢たちによって痛め付けられた傷は、未だ輝男の体に刻み込まれたまま、消え失せずにいる。
「瑠奈ちゃんから連絡を受けて、矢も楯もたまらず見舞いに来たけど……」
「瑠奈も余計なことをして……
……でも、こうして見舞いに来てくれて、とても嬉しいよ」
輝男が言葉を返すと、桜月は神妙な面持ちを輝男に見せる。
「輝男君……あの泉梓が、あなたが小さい頃、一緒だった幼なじみって本当なの……?」
真剣みを帯びた口調でたずねる桜月に、輝男は首を縦に振る。
「信じてもらえないかもしれないけど……
彼女、小さい頃、俺と一緒に撮った写真をずっと肌身離さず、持っていたんだ……」
輝男はそう言うと、手にしているスマートフォンを操作し、幼い頃の自分と泉を写した写真を桜月に見せる。
「この前、うちの学校にロケに来た時に会って、その後、昨日、一緒にお店にでも行ってお茶を飲んでたってわけね?」
「あぁ……」
一言、そう返事すると、輝男は沈痛な面持ちを桜月に見せる。
「彼女、人気アイドル、女優として華やかなスポットライトを浴びて、息つく暇も無いくらいに活躍しているように見えるけど……
俺が、君や葵、七海ちゃん、それに瑠奈たちと一緒に仲良く日々を過ごしている同じ頃……
彼女……いや、いずちゃんは、みにくく腐り果てた老いぼれたちに毎日、嫌になるほど犯され、その身を散々に汚され果てていたんだ……
彼女の身を当てるスポットライトも、本当は、栄光どころかおぞましい恥辱でしかなかった……」
幼い頃、ずっと一緒で仲よしだった幼なじみを取り巻く忌まわしい境遇に、輝男は言い知れぬ心痛をあらわにする。
幼なじみの悲痛を憂う輝男を、桜月は黙って見つめる。
輝男への共感を示すかのように、桜月の表情はいつになく陰鬱なものとなっている。
一方、すぐ近くのリビングでは、真純がテーブル越しに誰かと向き合っている。
「まさか、先生方が、義息(むすこ)の見舞いに来て下さるなんて……
申し訳無い気持ちでいっぱいです……」
神妙な面持ちを見せながら、テーブル越しにいる相手に向かって深々と一礼する。
テーブルを挟んだ真向かいには、真白と石上に挟まれるようにして理華が腰を下ろしている。
「担任として当然のことをしているまでです。
可愛い教え子が手ひどく痛めつけられたと聞いて、そのまま放っておくわけにはいかないじゃないですか」
「それで、天江君の具合はどうなんですか?」
中央にいる理華と向かって右側に着席する真白が、真純に向かって言葉をかける。
「幸い、大事には至らなかったのですが、当分は安静にしておくようにと言われまして」
「そうですか……重傷に至らず何よりです」
真純の返答に、理華はホッと安堵の吐息を漏らす。
すると、真純は、向かって左側の席に着いている石上に目を向ける。
「石上先生、義息(むすこ)の担任でもなければ、顧問でもいらっしゃらないあなたが、わざわざ、義息(むすこ)の見舞いに来て下さるなんて……」
「確かに、私は彼の担任でも顧問でもありませんが、天江君とは割と仲良くさせているものですから。
雨宮先生と那須先生が見舞いに行くと言うので、無理を押して同行した次第です」
申し訳なさそうに言う真純に、石上は真剣みを帯びた面持ちで言葉を返す。
彼の言葉に、真純は若干、表情を和らげる。
普段から仲良くしている理華や真白に加えて、他の教諭まで義息のことを心配してお見舞いに来てくれたことを、心から嬉しく思っているようだ。
すると、石上は、半ば訝しげな顔で真純を凝視している。
「あの……どうしたんですか? 先生」
石上のまなざしに気付き、真純が訝しげにたずねる。
「あ、いや……自分の思い違いかもしれませんが……
あなたが、どうも“彼女”に似ている……と言うか、うり二つな気がして……」
「どなたのことを言ってるんですか?」
「天江君のお義母(かあ)さん……
初めてお会いして、こんなことを言うのも失礼極まりませんが……
あなた、まさか、“佐倉春花”ではありませんよね?」
石上がそうたずねると、真純は表情を強張らせ、言葉を詰まらせてしまう。
「ヤダ、もう、石上先生ったら、何、変なことを言うんですか?」
理華がすかさず、苦い顔で石上の方を振り向き苦言を言う。
理華の横にいる真白は、真純の表情が強張っているのを認め、神妙な面持ちを見せる。
「真純さん、どうしたんですか?」
心配そうに呼びかける真白に、真白は表情を重くさせ、顔をうつむかせる。
輝男と深く関わる教諭三人が心配そうに見つめる中、真純は重くうな垂れたまま、唇を固く閉ざす。
沈痛な様子を見せる真純に、石上は今更のように気まずい表情を見せる。
「誠に申し訳ありません……
自分は昔、“佐倉春花”の大ファンでして……
あなたが、どうも彼女に似すぎているものですから、つい……」
深々と一礼し、詫びの言葉をかける石上。
石上の詫びの言葉を聞くと、真純はゆっくりと顔を上げる。
石上の目に、努めて柔和な笑顔を見せる真純の姿が映る。
「石上先生、どうか気になさらないで下さい。ちょっと、私、どうかしてまして……」
真純が石上に向けてそう言葉を返すと、
「真純さん……」
石上の横にいる理華が、厳しい表情を見せながら真純に呼びかける。
真純が真向かいにいる理華の方を振り向くと、
「あなた、もしかして、我々に何かを隠してますね……?
それも、絶対に触れて欲しくない一生の汚点みたいなものを……」
理華は真純をまっすぐにとらえながら、努めて感情を抑えてたずねる。
「さっき、石上先生が、あなたは“佐倉春花”ではないですかとたずねた時……
あなたはすぐに否定せず、暗い顔でうな垂れていた。
全然、違うのならすぐに否定すれば済むはずなのに……
今しがたの真純さんの振る舞いは、どうも腑に落ちないものがあってなりません」
「私も、できることならこんなこと言いたくないんですが……
あなたは、どうも“訳あり”な感じが強くてしょうがないんです。
実年齢より若々しく、人一倍気立てがよく、常人を凌ぐような魅力等を、我々は強く感じていました。
でも、一方で、他とは違う雰囲気と言うか、何かしらの事情を抱えているような様子も、認めていました。
少なくとも、私や雨宮先生は、あなたは他の人とはどこかが違うと言い合ったものです」
理華と真白は、自ずと神妙な面持ちを見せながら、真純に向かってそう言葉をかける。
ずっと心に引っかけていたことを言ってきた二人に、真純は神妙な面持ちを見せる。
真純は、理華たちをまっすぐに見つめつつも、言うべき言葉が中々、出ずにいる。
沈黙する真純を見ると、一呼吸、間を置いた後、理華が口を開く。
「もし、やましい隠し事など何も無いのであれば、別に構いません。
……でも、もし、ずっと隠していたことがあると言うのなら……
せめて、輝男君にだけは言ってくれませんか……?」
理華の今の言葉に、真純はまたも、一瞬、表情を強張らせる。
「私たちに内緒にする分には構いませんが……
大事な義息(むすこ)さんにまで伏せておくのは、本人のためにも望ましいことではありません」
「例え、それが忌まわしいことであっても……
あなたが頑なに秘密を隠し続け、何も言ってくれないことを、天江君は許してくれると思いますか?
義母(ははおや)なら、彼がどんな人か、十分、わかってらっしゃるはずです」
「これからも、義母(ははおや)として十分、愛情をもって接してあげても……
隠し事を抱え続けるあなたを、輝男君はきっと拒絶するはず。
彼にとって、大好きなお義母(かあ)さんに隠し事をされるのは、手ひどく裏切られるのと同じことなんです」
理華と真白は、自ずと真剣みを帯びながら、真純に向かって切々と言葉をかける。
切実に訴える二人の言葉に、真純は重い表情を見せながら唇を固く閉ざす。
真純の沈黙を真正面から見ると、真白は顔色一つ変えず、口を開く。
「……もし、お気に障るようでしたら、今の話、軽く聞き流して結構ですから……」
ずっと心に引っかかっていたことを言いつつも、目の前の真純の様子を顧慮してか、詫びの言葉にも似た一言をかける。
真純の横にいる理華は、申し訳無さそうに表情を曇らせながら、真純とまっすぐに向き合う。
「今更ですが……
私どもが言い過ぎたことでかなり気分を害したようであれば、この場を借りてお詫びしたいと思います……」
理華は真純に向かってそう言うと、深々と頭を下げ、謝意を示そうとする。
そして、真白、石上と一緒にスッと席を立つ。
「長居をして本当に申し訳ありません。
では、これから、輝男君の部屋に参りますので」
本来の来訪の目的である輝男の見舞いのために、真白、石上と一緒に輝男の部屋に向かおうとする。
理華たちが真純に背を向け、二、三歩、前へ進もうとすると、
「待って下さい」
理華たちの背後から、切々と呼び止める声が聞こえて来た。
理華たちが振り返ると、半ば、陰鬱な表情を見せながら席を立つ真純の姿が認められた。
真純は、陰鬱な表情を崩さずに、理華たちをまっすぐに見つめる。
「先生方……これから話すことを必ず、他言無用にしていただけるのであれば……
先生方にだけは、お話し致しますが……」
真純の今の言葉に、理華たちは一瞬、唖然となる。
「一体、何のことですか……?」
半ば戸惑いながら石上がたずねると、
「私……実は昔、“佐倉春花”だったんです……」
真純は必死に感情を抑えながら、ずっと隠し通していた秘密を告白した。
まさかの告白を聞かされ、理華、真白、石上は、言葉を詰まらせ、唖然とする……