輝男は今、とある教室で数学の講義を受けている。
しかし、そこは明朝学園高校内の教室ではない。
明朝学園高校の制服を着ている輝男の周りには、別の学校の制服を着ている者や私服を着た同い年くらいの若者たちがいる。
今、輝男がいるのは、青春中央駅南口にある三階建ての建物の二階にある教室である。
建物の正面入り口には、
GTTスクール 青春校――
と、建物の名称を記したプレートが貼られてある。
輝男は他の若者たちと一緒に、GTT・青春校という予備校で講義を受けている最中である。
教室の窓からは、すっかり暗くなった空が広がって見える。
しかし、輝男も他の若者たちも、わき目もふらず、正面に立つ男性講師と机上にあるテキスト、参考書、ノートを交互に見る。
一時間ほど経った頃、ようやく講義は終了した。
「このAコースで講義を受けている以上、君たちは必ず東大、もしくは都内、首都圏の国公立大に合格するつもりでいるだろう。
しかし、我々は、東大受験がいかなるものかを教えてやることはできても、君たちの合格を助けてやることはできん。
東大に入れるか否かは君たち自身の実力に掛かっている。
この予備校に入った以上、君たちは二つの選択肢しかない。
見事、東大に入るか、東大に入れないまま、人間のクズ、社会のゴミとして、みじめに朽ち果てるかのいずれかだ。
他の選択肢など存在せん。
人間のクズ、社会のゴミとしてさげすまされ、社会の最底辺に追いやられ、惨めで無意味な人生を強いられたくなければ、必ず東大に入れ。
来週には、大学入試のための学力診断テストを行なうが、本番と同じ気持ちで臨むように」
講師は輝男たち受講生に向かって、威丈高に言葉を言い連ねる。
もっともらしい言葉と傲慢かつ不要な失言が混ざり合った講師の言葉を、輝男たちは黙って聞く。
間も無くして、講師が教室を出ると、受講生たちは一人、また一人と教室を出ようとする。
講義を終えて帰ろうとする雑音が響く中、輝男は腰を下ろしたまま、疲れたような面持ちで深くため息を付く。
「予備校って、思ってたよりもしんどいところだよな……」
疲弊の念を隠し切れずにボソッとつぶやくと、
「しかし、あの講師も、いくら何でも言い過ぎだよ。
東大に入らない、入れないヤツは皆、虫けら以下のクズだのゴミだのと……
言ってることが、親父とまったく同じだぜ」
さっきの講師のメッセージに対する不快感をつい口走る。
三学期の終わり頃、大学受験を巡って父親と激しく言い合ったことを思い出してしまう。
東大受験を念頭に置いている輝男だが、東大以外の選択肢を完全に排除したわけでも無く、まして、東大生、東大卒以外の者すべてを汚物のようにさげすむ気など毛頭無い。
すると、
「言い過ぎなものか……。当然ではないか……
東大生、東大卒以外など、虫けらより劣るただのゴミクズだ」
横から、吐き捨てるような調子で言って来る男の声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た方を振り向くと、グレーのブレザーにベージュのスラックスをまとう同い年くらいの若者が、こちらの方を振り向いてきた。
どこかの学校の制服を着用しているその若者は、輝男より若干、背が高く、短い黒髪を七三分けに整っている。
その容姿は知的で端整だが、どこか冷やかな雰囲気が漂って来る。
「君も東大に入るためにこの予備校に入っているのなら、東大に入れなければ死ぬくらいの覚悟で臨め。
それができないのなら、ただのゴミクズとして、その辺の有象無象と一緒に踏みつぶされるがいい」
冷淡に言い放ってくる若者の言葉に、輝男は呆れ果てたような面持ちでため息を付く。
「確かに、俺も東大を受けるつもりだが……
そこまでして自分自身を追い込まなければ入れないところなのか?」
「君は世の中のことを何も知らんから、そんなことが言えるんだ。
この世の中は、東大生、東大卒以外はすべて人間のクズ、社会のゴミだ。
東大卒でなければ、他の大学の出であろうと、まともな仕事に就けないばかりか汚らしい賤業に携わることさえままならん」
「初めて見る顔だが……東大卒はこの世の中にどれだけいると言うんだ?
ほんの一握りの連中以外は、すべてただのゴミか虫けらだなんて、そんなバカげたことがあるか?」
若者の傲慢な言いように、輝男は自ずと刺々しい態度に出る。
些細なことで他人と争うのは本望では無いが、人を人と思わぬ傲慢な態度は、どうあっても許容できるものではない。
例え、その相手が、自分と同じ東大受験を目指す者であっても……
怒りを隠し切れない輝男を冷やかににらみながら、若者はゆっくりと口を開く。
「君こそ、初めて見る顔だが、どこの学校だ?」
「明朝学園高校三年、天江輝男だ。そういう君は?」
「聖清学院高校三年、鬼頭良真」
鬼頭良真(きとう・りょうま)は、輝男を冷たくにらみながら、自らの名を名乗った。
鬼頭の自己紹介に、輝男はハッと何かに気付いたかのような顔を見せる。
「聖清学院高校って……静流さんと同じ学校の?」
「静流さん……一体、誰のことだ?」
「俺の友達の最上静流さん。彼女も聖清学院高校の三年生なんだ」
「ふん、知らんな……。定期試験で総合成績十番以内に入っていない者のことなど……」
あからさまなさげすみを込めた鬼頭の今の言葉に、輝男はキッと表情を険しくさせる。
自らが深く関係を結ぶ少女を平然とバカにされて、否が応にも怒りを募らせる。
「お前……! 同じ学校の同級生を…」
怒りの声を上げようとした輝男を、鬼頭は迷うことなく突き放す。
「おい、鬼頭! まだ話は…」
自分に背を向けて教室を出ようとする鬼頭に、輝男は怒りの声をかけるが、
「君のような頭の腐ったバカをこれ以上、相手にしてたら、こっちの頭も腐り果ててしまう」
鬼頭は輝男に背を向けたまま、露骨にさげすむような言葉を平然と吐く。
鬼頭がそのまま教室を出ると、輝男は怒りを隠せぬ面持ちでその場に立ち尽くす。
講師からの不要かつ傲慢なプレッシャーとそれに勝るとも劣らない同じ受講生の傲慢な態度に、否が応にも不快感を募らせていく……
◇ ◇ ◇
雲一つ無い快晴の空に、朝陽が高々と昇っている。
温かな日差しが、窓をすり抜けてタワーマンションのリビングに差し込まれる。
リビング内では、輝男が、真純、瑠奈と一緒に食事をしている。
いつものように、輝男と瑠奈、そして真純が、テーブル越しに向き合いながら朝食を食べている。
「今日、学力診断テストがあるけど、大丈夫なの?」
「まぁ、やれるだけのことはやったから」
朝食を口にしながら、真純と輝男が言葉をかける。
「受験勉強するのは結構だけど、一人きりだとどうしても限度があると言うか……
どの程度の学力があるか?
志望大学に行ける確率はどのくらいなのか?
その道の専門の人に一度、見てもらわないとどうしようもないから」
真純が真向かいにいる輝男に向かって心配するかのように言葉をかけると、
「お義兄ちゃん、ぶっちゃけ、予備校ってキツイ?」
瑠奈が横から振り向きながら、輝男にたずねて来る。
横から問いかけてくる義妹に、輝男は振り返ることなく食事を続ける。
「正直、ギリギリ頑張っていける程度…ってところだな。
お前だったら、入って一時間もしない内に耐え切れずに逃げ出すけどな」
「ひどい! もう、お義兄ちゃんの意地悪!」
素っ気無くもからかうかのように言葉を返す義兄に、瑠奈はムッと不機嫌な顔を見せる。
テーブル越しに繰り広げられる義兄妹のやり取りに、真純は思わずクスッと笑みをこぼす。
「でも、輝男さんが行ってる予備校の先生方は、皆、東大を出た方ばかりだから……
東大受験のための勉強をするには申し分無いかもしれないわね」
「そうだよ。お義兄ちゃんも頑張れば、絶対に東大に入れるよ!」
にこやかに言葉をかける義母につられて、瑠奈が背中を押すような言葉をかける。
「お義兄ちゃんが無事に入試に受かって東大に入れたら、パパだってきっとお義兄ちゃんのことを認めてくれるよ」
瑠奈がそう言葉を続けると、輝男は朝食を進めていた手を止めた。
それまで平素の表情を見せていた輝男だったが、瑠奈の今の一言に表情を重くさせる。
輝男の表情の変化に、真純と瑠奈もつられて表情を曇らせる。
特に瑠奈の場合、とんでもないミスでもしでかしたかのように気まずい顔を見せる。
わずかの間――体感的には、その倍以上――の沈黙の後、輝男はゆっくりと口を開く。
「俺が無事に東大に入れても……父さんは俺のことを、決して認めてくれないよ……」
食事の手を止め、淡々とつぶやく輝男に、真純と瑠奈は返す言葉が出てこない。
受験勉強と父親の存在が、輝男にとって大きな苦痛を伴う重石でしかないことを改めて思い知ってしまう……
◇ ◇ ◇
数時間後――
輝男は、GTT・青春校内の教室でテスト答案と向き合っていた。
他の受講生と同様、学力診断テストを受けている。
死んだように静まり返っている静寂の中、かすかにペンの走る音が聞こえるだけである。
輝男はもちろん、鬼頭良真、その他の受講生たちは、皆、息詰まるくらいの真剣な面持ちでテストに臨んでいる。
現文、数学、英語、化学、公民――
日中を通して、幾つもの教科のテストを続けて行なっている。
やがて、教室内の窓の外は、薄暗くなった空が広がって見えた。
しかし、輝男たちは、窓の方を振り向かず、正面に立つ試験官役の講師を見る。
講師の手には、さっきまで行われたテストの答案がすべて握られている。
「これで今回の学力診断テストを終える。
診断結果は遅くとも今週末までに全員に通告する。
君たちは今回の結果を踏まえて、今後の大学受験を検討しておくように」
冷厳とした調子で言うと、講師は集めた答案を手にしながら教室を出た。
間も無くして、受講生たちが一人、また一人と教室を出て行く。
輝男もまた、他の受講生たちと同じく、テストを終えて帰途に着こうとする。
教室を出ようとした刹那、数歩前にいる別の若者の後ろ姿を認めると、
「鬼頭」
若者に向かってそう呼びかける。
間も無くして、鬼頭良真が後ろにいる輝男の方を振り返った。
先日と同じように、知的だが冷やかな面持ちで輝男を見据える。
輝男は、鬼頭の刺すようなまなざしに臆することなく、彼の真ん前に歩み寄る。
「今回のテスト、どうだった?」
さっきまで臨んでいたテストについて輝男がたずねると、鬼頭はフンとあからさまに鼻であしらう。
「君如きに言うことなど何も無い」
さげすみに満ちた冷やかな面持ちで、吐き捨てるように言葉を返す鬼頭。
彼はそのまま輝男を置いて教室から出て行く。
しかしすぐに、輝男は鬼頭のすぐ横に回る。
並んで廊下を歩きながら、鬼頭に向かって口を開く。
「君、どうして、東大を受けようとしているんだ?」
「義務だ」
輝男の問いかけに、鬼頭は輝男の方を振り向かず、冷淡に即答する。
鬼頭の今の返答に、輝男は理解できないと言わんばかりに訝しげな表情を見せる。
「義務って……一体、どういうことなんだ?」
「俺は東大を受ける……いや、受けねばならん。それだけのことだ」
「だから、どうして東大を受けなければいけないんだ?」
「君に言う必要など何も無いと言ったはずだ。
頭から東大に入れる見込みの無い君なんかに……」
肝心の問いを繰り返す輝男を、鬼頭は冷淡に突き放す。
彼はそのまま、軽蔑のこもった冷やかな形相を崩さず、予備校を後にする。
視界から消えて行こうとする鬼頭の後ろ姿を、輝男はその場に立ち尽くしたまま見つめる。
(鬼頭良真……アイツ、何だか変だ……
…というか、東大を目指すヤツらって、まさか、皆、こんなヤツらばかりだと言うのか……?)
人間性を殺してまで受験勉強に没頭しようとする鬼頭を見て、輝男は内心、戸惑いの念を募らせる。
輝男が通う明朝学園高校は、首都圏の高校の中ではかなり学力、偏差値が高い方だ。
そんな明朝学園高校内でも、輝男は常に定期考査では十番以内の成績に入る。
かなり学力が高い方である輝男だが、自分と同じように予備校で講義を受け、同じく東大受験に臨む鬼頭の態度には、悪い意味での違和感みたいなものを痛感してしまう。
鬼頭に遅れること一分余り、輝男もまた、GTT・青春校から出て来る。
さっきまでの学力診断テストでの精神的疲弊と、今しがたの鬼頭の態度に対する戸惑いに、その表情は重々しくなっている……
◇ ◇ ◇
明朝学園高校屋上手前の踊り場に、一組の男女生徒がいる。
制服姿の輝男が仁王立ちしながら、目の前で膝立ちの体勢になっている女子生徒の頭をつかんでいる。
女子生徒の口には、制服のスラックスからさらけ出された陰茎がくわえられている。
輝男は、左右の手で女子生徒の頭を抑えながら、強く腰を振り続ける。
「あぐぅっ! んぐぅっ! んぐぉっ!」
女子生徒は苦痛に顔を歪めながら、餌付くようなうめき声を上げる。
あからさまに息詰まっている女子生徒の顔と、苦痛のうめき声に、輝男は腰の振りをペースアップすることで応じる。
頭を抑え付けられた女子生徒は、口内に突っ込まれた陰茎が喉に突き当たる様に、成すすべがないと言った様子である。
我を忘れるかのようにイラマチオを強いる輝男は、苦痛を隠せない女子生徒の形相と生温かい口内の感触に、自分の中の昂ぶりがわき立つのを否応なしに痛感する。
しかも、輝男が今、イラマチオを強いている相手は、ただの女子生徒ではない。
自らのクラスメートであり、“鬼の生徒会長”の異名を誇るあの葵である。
他の誰よりも真面目で厳しく、鬼よりも怖いと評判の葵が、今、なされるがままに、男のモノをくわえさせられ、強制的に刺激を与えさせられている。
輝男は、真上から葵の頭を抑え付け、二、三回、腰を強く振ると、ようやく葵の口を解放する。
むせび、咳き込んだ後、ようやく呼吸を取り戻し、荒く息を吐く葵。
彼女の目の前には、さっきまでのイラマチオで固く膨張した剛直が、表面を唾液にまみれさせながら天を向いている。
葵が呼吸を落ち着かせるのを見ると、輝男が口を動かす。
「葵、いいか……?」
努めて感情を抑えながら、念を押すようにして輝男がたずねる。
輝男の今の問いかけに、葵はゆっくりと立ち上がり、輝男とまっすぐ向き合う。
着ていたブレザーの胸ポケットから、小さな一包を取り出す。
一包の中には密閉されたコンドームが収められている。
「ゴム着けてくれるのなら、サせてあげてもいいけど」
鋭く厳しい表情で言って来る葵に、輝男は表情を硬くする。
「あっ、あぁっ、あっ……」
明朝学園高校屋上手前の踊り場に、声を押し殺すような喘ぎ声が漏れる。
踊り場の壁際では、葵が壁に両手を押し付けながら、何度ものけ反り、喘いでいる。
彼女の背後では、輝男がブレザーとスラックスを脱ぎ捨て、裸の腰を、葵の美尻にぶつけている。
一方の葵は、ブレザーを脱ぎ捨て、スクールネクタイを緩め、ワイシャツをはだけた格好で直立している。
右の太ももには白のショーツが引っかかっており、めくられたスカートの下にある肉付きのよい色白の美尻は、何度も裸の腰に打ち据えられている。
美尻と腰の間には、固く膨張した剛直が行き来を繰り返している。
パン、パン…と引っぱたくような衝突音を耳にすると、
「あ、天江君……今日はいつになく激しいけど……」
葵は、荒く息を弾ませながら、背後から犯し続ける輝男に声をかける。
「そ、そうか? いつもと変わらないが……」
「そんなこと無いわ……。何だか、イライラしていると言うか……
溜まりに溜まった苛立ちを吐き出そうとしている風に見えるわ」
そう言葉をかけた途端、葵はビクンと体を大きくのけ反らせる。
「んうぅっ! ヤダッ! お、奥に……当たってる……!」
輝男自身が自分の中、最奥に突き当たったのを認め、苦悶の声を震わせる。
しかし、輝男は構わず、葵に向けて激しく腰をぶつけ続ける。
「あんっ、イヤッ、ダメッ! お、お腹……壊れちゃう……!」
額に冷や汗をにじませ、苦痛に顔をしかめながら、悲痛の念を訴える。
葵の中はかなり強く狭まっており、剛直の猛進を容易には許そうとしない。
(葵の中、かなり締まってる……!)
限界まで収縮を強めるヴァギナを認めながらも、輝男は腰の振りを激しく小刻みにさせる。
輝男の荒い息遣いと葵の息詰まるような喘ぎに、肉と肉の衝突音が重なる。
背後から犯す動きに押されて、葵の体は前後に揺れ、胸元から盛り上がるEカップバストは絶えず震えている。
やがて、葵の身を支える手足が、遠目にもわかるくらいにわなわなと震え出した。
「イヤ……ダメ……! イ、イく……イっちゃう……!」
その身と声を震わせながら、自らの限界を痛切に訴える葵。
葵の哀訴を耳にすると、輝男の中で昂ぶりが沸々とわき立っていく。
ラストスパートをかけるかのような荒々しい律動に、
「あっ、あぁ……ハァッ、あっ、んうぅっ……」
葵は息詰まるような艶やかな喘ぎで応じる。
「あ、葵……葵……!」
熱に浮かされたかのように輝男が呼びかけると、
「あ、天江…君……き、来て……はや…」
葵は息詰まるような調子で口をパクパクさせ、途切れ途切れに求め返す。
と、次の瞬間、輝男が背後から美尻に向かって腰を強く打ち据えると、
「あぁっ、あぁ――――――……」
喉を突き出すかのように大きくのけ反りながら、絶頂の声を上げた。
輝男は葵の今の叫びを聞くと、ギュッと締まり切った葵の中で思いっきり果てた……
着替え直した輝男は、右手に持つものを見ながら呆れ顔でため息を付く。
「我ながら、よくもこんなにいっぱい、出しちゃったものだな……」
呆れ果てた調子でつぶやきながら、右手に持つコンドームを見る。
コンドームは、五分の四程度に溜まった白濁の重みで垂れている。
すると、
「天江君……」
傍から、鋭く呼びかける声が聞こえて来た。
輝男が振り向くと、やはり制服に着替え直した葵が、いつも見せるような鋭く厳しい面持ちで自分を見つめているのに気付いた。
「今日…と言うか、この頃のあなた、どこか変よ」
「そんなことないだろ」
「この私に見え透いたデタラメは通用しないわ」
さっきまで激しいセックスに興じていた余韻をかなぐり捨てて、輝男を鋭くにらむ葵。
追及するかのような葵の言い様に、輝男は重い表情を見せながら口をつぐむ。
「受験勉強、かなり行き詰まっているみたいね……
そうでなければ、こんな時にわざわざセックスしようなどと言ってくれなかったはず。
それも、本物のケダモノのように私を好き放題にして……」
鋭く厳しい形相を崩さずに言って来る葵に、輝男は気まずい面持ちで何も言い返せずにいる。
今更のように罪悪感をにじませたのか、気まずい沈黙を続ける輝男を、葵は鋭くにらみ続ける。
「別に怒ってはいないわ。
もし、嫌だったら、初めからあなたとこんなことなんかしなかったわ。
ただ、一人で悩みや苛立ちを抱え込んでばかりいたらダメだって言いたいだけだから」
鋭くにらみながら言って来る葵に、輝男は一呼吸、間を置いた後、口を開く。
「俺のことをとやかく言ってくれてるけど……
君だって、かなり溜まってるみたいじゃないか。
そうじゃなきゃ、さっきみたいに、俺に進んで抱かれたりなんかしなかったのに」
輝男がそう言うと、葵は羞恥に顔を真っ赤にしながら言葉を失う。
思いっきり図星を指された葵を目の当たりにして、輝男はつい苦笑いを見せる。
やがて葵は、頬の赤みはそのままに、鋭く厳しい表情を輝男に見せる。
「ところで、受験勉強の方はどうなっているの?」
「この前、予備校で学力診断テストを受けて、今日、結果が出るんだ」
「そう……。見込みはどうなの?」
「正直、見当がつかないよ。
俺、これでも前々から受験勉強を続けた方だけど、どこまで通用するかわからなくて……」
大学受験、そして、この前、受けた学力診断テストについて、輝男は容易に消えない不安をさらけ出す。
不安を隠せない輝男を、葵は厳しい表情を見せながら黙って見つめる。
間も無くして、チャイムの音が校舎中に鳴り響く。
◇ ◇ ◇
薄暗くなった空が、GTT・青春校を見下ろす。
校内にある小部屋で、輝男は、背広姿の男と一対一で向き合っている。
神妙な面持ちを見せる輝男に対して、男は冷淡な面持ちで輝男を見据える。
「天江君、これがこの前の学力診断テストの結果だ」
男はそう言うと、手に持っていた一枚の書類を手渡す。
A4版で見開きされているその書類には、テストの点数と判断結果が記されている。
書類内に記入されている事項を見ると、輝男は信じられないと言わんばかりに愕然とした表情を見せる。
英語 57/100――
数学 64/100――
化学 51/100――
輝男が受けたテスト、すべての教科の点数は、一番高いものでも70まではいかなかったのだ。
愕然とする輝男を一瞥すると、男は口を開く。
「今回のテストは、過去の東大入試問題を踏まえた上でそれを更に応用した問題ばかりを出題した。
皆、かなり苦戦を強いられたようだが、君の場合、話にならん結果となっている。
だが、君がこれから受けるであろう東大入試問題は、この程度のものでは無い」
男の冷淡な言葉が耳に流れ込むと、輝男はハッと我に返った。
男をまっすぐに見ると、自ずと表情を厳しくさせる。
「自分の今の学力では、余裕で東大に入れるなんて思ってもいませんでしたが……
まさか、ここまで散々な結果になるなんて……」
絞るような声で、信じられない気持ち、やり場の無い思いを言う輝男。
テスト結果に打ちのめされている輝男を真正面から見て、男は冷淡な面持ちを崩さない。
むしろ逆に、さげすみの念を強めるかのように、更に表情を冷やかにする。
「君は東大の他にも二、三、大学を志望しているようだね」
「はい、関東国大と御学堂大です」
「東大は言わずもがなだが……関東国大と御学堂大学も、今の君の学力では絶対に入れんよ」
淡々と吐き捨てるように言い放つ男に、輝男は愕然とする余り、言葉を失う。
これまで積み重ねて来た受験勉強を頭から全否定する男の今の言葉に、驚きや怒りを忘れ、ただ呆然とするばかりである。
輝男が何も言い返せないのを見ると、男は輝男を冷やかににらみながら、口を動かす。
「君は、東大に受かりたいために、我が校に来て、講義を受けているようだが……
このまま頑張っても、結局は、東大は無論のこと、三流、四流の地方大学に入れることすらままならん。
我々とて、初めから東大に入れる頭など持ち合わせていない空っぽ頭のクズの遊び相手をやるほど、暇でもなければ物好きでもない。
それでも、ここで講義を受けたいと言うのならば、引き続き、講義を受けるがいい。
だが、その結果、どうなるかは君の自己責任となる。
万一、どこの大学にも入れなかったとしても、我が方には一切の非は無いことを、この場を借りて念を押させてもらう」
わずかな温情を見せない男の無情な言葉に、輝男は愕然とうな垂れるしかない。
ここに来て、今まで体験したことがないような分厚く巨大な壁にぶち当たり、成すすべがない状態にいることを、否が応にも思い知らされてしまう。
それでも、今、輝男にできることと言えば、悔しさに表情を歪め、歯を食いしばり、テスト結果の書類を震える手で握り締めることだけである。