暑い空気が漂う中、三年A組の教室内では、生徒たちが次々と着席する。
輝男もまた席に着くと、カバンからテキスト、ノートを取り出す。
すると、横から一人の男子生徒が歩み寄って来た。
「お前、昨日、補習が終わった後、理華先生と二人きりで話してたけど、何を話してたんだ?」
小中がじろっとにらみ付けながら、その身を前に迫り出してたずねる。
昨日、他の生徒たちが皆、帰った教室内で、輝男と理華が話をしている光景を脳裏によみがえらせる。
追及するかのようにたずねる小中に、輝男はまったく動ずる気配を見せない。
「進路相談に決まってるじゃないか」
平素の表情で淡々と嘘の返答を言うと、
「進路相談だったら、皆がいる時でも十分、やれるじゃないか。
なのに、何で皆が帰った後で、二人きりで隠れるように話なんかしてたんだよ?」
納得するどころか逆に追及を強める小中に詰め寄られる。
「先生だって、色々と都合があるんだよ。
たまたま、あの時しか話ができるタイミングが無かっただけだから」
「ホントか?」
もっともらしい弁明をする輝男に、小中はなおも承服しがたいと言った面持ちを見せる。
すると、
「おい、小中! そんなところで何をしてる!? 早く、席に着け!」
教室の正面入口から入って来た石上が、一人だけ着席していない小中を認め、声を荒げる。
叱り付けるようにうながす石上に、小中は慌てて自席に着く。
教卓に向かう石上を向こうから見据えながら、輝男は安堵の吐息を漏らす。
自分の秘密を勘ぐり、色々と探りを入れようとする小中の追及を、石上の入室が結果的に阻んでくれたからだ。
「……以上のことから、この数式の答えはそのように証明されます」
「よし、その通りだ。席に着け」
問題の解答を終えた輝男に、石上は着席をうながす。
「では、テキスト11ページを開け」
輝男が席に着くと同時に、石上は生徒たちにそう指示する。
黒板に文字や数式を記しながら、テキストに記された問題文を読む石上。
今、輝男たちは、夏休みの補習の二日目のただ中にある。
石上による数学の補習授業に、輝男は他の生徒たちと共に真剣な表情を見せる。
真剣な表情で別の生徒を指し、問題の解答をうながす石上を見ると、
(理華さん、“イシテツ”とは上手くやってるんだろうか……?)
真剣な表情の奥で、授業とは無関係なことに思いを馳せる。
輝男の脳裏には、昨日の補習後、理華の自宅で彼女と事に及んだ時の光景が脳裏に浮かぶ。
バスルーム、ベッドの上で繰り広げた淫交が、輝男の脳裏から離れずにいる。
羞恥の念と気まずさを必死に押し殺しながらも、正面に見える石上をまっすぐ見据える。
(理華さん、俺と何度もエッチしてくれてるけど……
まさか、“イシテツ”をないがしろにしてまで、俺と体を重ねているわけでも無いはず……
理華さんにとっては、俺よりも“イシテツ”の方が自分の相手にふさわしいはずなのに……
理華さんは俺に何も言ってくれないけど……
まさか、“イシテツ”に聞くわけにもいかないし……)
補習授業のただ中であることを忘れて、理華と石上の関係について思いを馳せる。
一生を添い遂げる伴侶となるか否か、そのことを見極めるために、輝男たちが卒業するまでの間、付き合うことにした理華と石上だが、事の進展を中々、教えてもらえない以上、余計ともいえるもどかしさが輝男の中で募る。
担任でもある理華との愛欲も大事にしたいが、将来に向けた理華と石上の関係も、輝男にとっては大いに気がかりだ。
もちろん、理華が本当にふさわしい相手と絆を結び、共に幸せを築いていけることを、他の誰よりも強く望んでいる。
しかし今は、そのことをおくびにも出さず、他のクラスメートたちと一緒に授業を受け続ける。
◇ ◇ ◇
校舎第一棟二階の廊下が、教室から出て来た生徒たちでわき返る。
今日一日の補習授業を終えて、生徒たちが下校の途に着こうとしているのだ。
数分、遅れた後、輝男もまた教室から出て来た。
すぐ近くの階段に差し掛かり、そのまま下階へと下りていく。
一階と二階の間に踊り場に差し掛かると、制服のスラックスのポケットから振動音が鳴り出した。
輝男はポケットからスマートフォンを取り出し、電話に出る。
「もしもし…」
『あ――輝ちゃん、アタシよ、アタシ』
電話の向こうから、活発な少女の声が聞こえて来た。
電話の向こうから聞こえて来る少女の声に、輝男は思わず嘆息する。
「一体、どうしたんだ?」
『ねぇ、これから輝ちゃんのところへ遊びに行ってもいい?』
「あいにくだが、俺、午後から予備校に行かなきゃいけないから」
ぞんざいな口調で輝男が断りの返事を言うと、
『え――? 予備校なんて、一日くらいサボっちゃってもいいじゃん』
電話の向こうから、少女が不満げに言葉を返す。
電話相手の今の言葉に、輝男はムッと不機嫌な顔を見せる。
「バカ! 俺、受験の真っただ中なんだぞ!
今が一番、大事な時なのに、大した理由も無しにサボるわけにもいかないんだよ!」
『こっちだって、今のところ、今日ぐらいしか会いに行けないんだから』
「悪いが今回は我慢してくれ」
ため息交じりに吐き捨てるような口調で言うと、すぐに電話を切った。
「……ったく、アイツったら、よりによってこんな時に……」
スマートフォンをしまいながら、困り果てたかのようにつぶやいていると、
「お前、今、誰と電話してたんだよ?」
横から、何者かの声が輝男にたずねてきた。
突然に呼びかけてきた声に驚き、輝男が横を振り向く。
振り向いた先には、下校しようとした小中がその場に立っていた。
「おい、小中、ビックリさせるなよ」
「随分、話し込んでたみたいだけど、誰と電話してたんだ?」
「義妹(いもうと)。アイツ、買い物に付き合ってくれってしつこくて……」
ウンザリしたような面持ちで、本当かどうかわからない返答を言う。
「義妹(いもうと)?
確か、この前の体育祭で、お前を応援しに来た女の子の中で一番、小さいあの娘か?」
小中はそう言いながら、体育祭で小春、静流たちと一緒に輝男を応援してた制服姿の瑠奈を思い返す。
「あの娘、ちっちゃくて気が強そうだけど、結構、可愛いよな」
瑠奈のことを思い返しながら、感慨深げにつぶやく小中。
まるで、極上のお気に入りでも見つかったかのような喜悦の色を隠そうとしない。
途端、正面から伸ばされた片手が、小中の胸倉を力一杯につかんだ。
「お前、まさか、俺の義妹(いもうと)を……!」
輝男は憤怒に表情を険しくさせながら、小中の胸倉をつかみ、鋭い声を上げる。
可愛い義妹に満更でもないと言った面持ちを見せる小中を見て、彼が義妹によからぬ感情でも芽生えたと思ったのだろう。
一方の小中は、義妹を思う輝男の憤怒を目の当たりにして、困惑と狼狽の入り混じった顔を見せる。
「お、おい! 勘違いするなよ!
俺、別にお前の義妹(いもうと)さんに唾を付けようなんて、これっぽちも思ってないから!」
「例え冗談半分でも、俺の義妹(いもうと)に色目を使うようなマネは、死んでも許さんぞ!」
必死に弁明する小中に、輝男は義妹を思う気持ちと憤りを真正面からぶつける。
「わ、わかったよ……。だから離してくれ……」
困惑しきった調子で小中が訴えると、輝男はようやく小中の胸倉から手を離す。
思っても見なかったクラスメートの憤怒を目の当たりにして、小中は弱り果てた面持ちでたじろぐ。
下手に怒らせたらただでは済まないことを、否が応にも思い知ったようだ。
「……お前、義妹(いもうと)のことが大事なのはよくわかったけど……
これだけは言わせてくれないか?
あの娘、今はまだ子供だけど、俺たちと同じくらいの歳になった、文句無しの美人になるぜ」
小中と向き合う輝男は、彼の今の言葉を聞くと、表情を徐々に落ち着かせながらも何も言い返そうとしない。
しかし、数秒ほど経った後、再び口を開くと、
「……そのことだけなら、俺もお前に同意する……」
同意の念を、一言、小中に返す。
◇ ◇ ◇
暗くなり始めた空が、GTT・青春校の建物を見下ろす。
建物の正面入口からは、若者たちが次々と出て来る。
既に夕方に差し掛かった時刻、講義を終えた受講生たちが予備校を後にしていく。
退去する受講生たちに混じって、夏の制服姿の輝男も予備校から出て行く。
午前、学校での補習授業を受けた輝男は、その足でGTT・青春校に向かい、午後いっぱい大学受験のための講義を受けていたのだ。
受講生たちの群れからはぐれ、一人、帰宅の途に着こうとする輝男。
すると、
「天江君」
背後から冷たく呼びかける声が聞こえて来た。
輝男が振り返ると、私服姿の一人の少女が、片手にカバンを持ちながら、輝男をまっすぐ見据えていた。
黒のショートヘアを伴った、知的だが鋭く冷たい美貌――
白の薄手の半袖ブラウスとデニムのショートパンツがまとう細く引き締まった肢体――
「何だ、稲田か。どうしたんだ?」
輝男は、目の前で向き合う稲田千早(いなだ・ちはや)を認め、声をかける。
間も無くして、輝男と千早は、横に並びながら歩道を歩く。
彼らの向かう先には、青春中央駅の駅舎が大きく見えて来る。
「あなた、どうも予備校をサボりがちみたいだけど……」
輝男の横を歩く千早が、輝男の方を振り向かずに冷たく声をかける。
追及するかのような千早の言い様に、輝男は気分を害する様子を見せない。
「こっちも色々と事情があって、行きたくても中々、行けない時があるから……」
平素の表情を崩さずに輝男が言い返すと、
「夏休みに入って、私や他の皆は、毎日、一日中、予備校で講義を受けてるけど……
天江君も予備校に通っているはずなのに、前と同じようにサボりがちじゃない」
千早は冷淡な口調で輝男を詰る。
「だから、俺の方でも色々と事情があるんだよ。
今週なんか、丸々、一週間、午前中、学校で補習を受けなきゃ…」
「あなた、本当に東大に入る気があるの?」
さげすみ、責めるかのような千早の冷たい声が、輝男の言葉を中途でさえぎる。
千早の今の言葉を聞くと、輝男はその場に足を止め、彼女の方を振り向く。
不機嫌に表情を重くさせる輝男に、千早は冷たく鋭い形相を崩さない。
「そんな下手な言い訳をする時点で、あなたにはやる気などまったく無いことが嫌でもわかったわ。
あなた、親に予備校に行けと言われて、無理矢理に行かせられているのね。
東大を志望しているのも、親に東大に行けと無理強いでもされて…」
「俺だって、ちゃんと頑張って受験勉強を続けているんだ。
予備校に毎日、一日中、かじり続けているのがすべてじゃない」
「でも、自分一人だけの力で受験勉強しても、たかが知れてるわ。
それに、今のあなたの言葉、どうも嘘丸出しの戯れ言にしか聞こえない」
失望と軽蔑が混ざった千早の冷たい言葉に、輝男は人前であるのを忘れて不快感に表情を険しくさせる。
「随分な言い様だが……そもそも、どうして、君は俺なんかにそんなにこだわるんだ?
俺に遠慮なく噛み付いているが、俺に関わることが、君にとって何のメリットがあるとでも…」
不快感をにじませつつも、肝心の問いを千早にかけようとすると、
「もう、輝ちゃんったら、何してんのよ!?」
輝男の言葉をさえぎるようにして、横から何者かの呼び声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た方を振り向くと、半袖のプリントシャツにデニムのミニスカートを身にまとう、小麦色の肌をした少女が、こちらの方を見つめていた。
「こ、小春! どうして、ここに!?」
「どうしてって……輝ちゃんとこに遊びに来たに決まってんじゃない!」
突然に姿を現した小春に輝男が驚くと、当の小春は、輝男の真ん前につかつかと歩み寄る。
間近で向き合う小春に、輝男は困り果てたような顔でため息を付く。
「昼の電話でも言っただろ。
今日は、学校の補習と予備校で、お前と遊んでる暇なんて無いって」
「いいじゃん、そんなこと。来ちゃったものはしょうがないんだから」
困惑の言葉をかける輝男に構わず、小春は輝男の腕を引っ張り、そのまま連れ出そうとする。
すると、
「天江君」
後ろから冷たく呼びかける声が、輝男と小春の耳に届いた。
二人が振り返ると、眉間にしわを寄せ、表情を険しくさせながら、両腕を組んで仁王立ちする千早の姿が認められた。
「天江君……あなた、そんなガラの悪い娘と付き合っているの……?」
努めて感情を抑えつつも、輝男、そして小春に対するさげすみの念を遠慮なく吐く。
「何よ、ガラの悪いって偉そうに……!」
千早の侮蔑の一言に、小春は表情を険しくさせ、千早に詰め寄ろうとする。
しかしすぐに、輝男が小春を押し留める。
「稲田、今のは礼を失するぞ。確かに見た目はアレだけど、小春は決して悪い子じゃない」
自分をとがめ、小春を庇う輝男の言葉に、千早は冷たく険しい形相を崩さない。
一呼吸、間を置いた後、輝男を冷たくにらみながら、口を開く。
「天江君、今すぐ予備校を辞めて、東大受験も諦めなさい。
こんなろくでもない不良なんかと付き合ってる時点で、東大はおろか、三流以下の地方大学に行けることさえ絶望的だから」
最後通牒にも似た無情の言葉を、輝男に向かって容赦無く吐く。
輝男に向けて冷たく吐き捨てた今の千早の言葉に、当の輝男より先に、小春が怒りをあらわにして食って掛かろうとする。
「てめぇ!
何様の分際で、アタシの輝ちゃんをボロクソにけなしやがるんだ、コラァッ!!」
憤怒に声を荒げながら、今にも殴り倒さんばかりの勢いで千早に詰め寄ろうとする小春。
しかし、すぐに輝男が小春を抑え、引きずるようにしてその場から連れ去ろうとする。
「ちょっと放してよ!
このクズ野郎、ボロクズ以下にまで痛め付けてやらないと気が済まないんだから!」
「お前の気持ちは良くわかる! だけど、暴力だけはやめろ!」
千早への怒りを募らせる小春を、輝男は切羽詰まったような調子で押し留めようとする。
輝男本人も、千早の今の言葉にはかなり気分を害しただろうが、それでも、最悪の事態を避けねばならないという判断力はちゃんと持続している。
千早はその場に立ち止まりながら、目の前から去って行く輝男と小春をいつまでも見つめ続ける。
その表情は、氷よりも冷やかに見える。
◇ ◇ ◇
青春中央駅構内のベーカリーカフェ。
店の末席に、輝男と小春がテーブル越しに向き合っている。
「何なの、アイツ!? 偉そうなツラして輝ちゃんをボロクソにけなして」
「まったく、俺だって理解できないよ。
彼女にとって、俺は別段、気に留めるべき相手でもないのに」
未だ千早の件で怒りが収まらない小春の真向かいで、輝男は戸惑いの念を吐く。
小春の件でけなされたことに対する憤りがないわけではないが、それと同じくらいに、千早が自分に絡んでくることがどうしても理解できずにいる。
通う高校も違えば、予備校が同じである以外にいかなる接点も無い千早が自分に接して来ることを、輝男は普通に受け止められずにいる。
しばらくした後、テーブルの上に並べられ、トレイの上に置かれている注文の手作り菓子パンや総菜パンを食べ始める。
「どうして、今日、わざわざ足を運んで来たんだ?」
「バイトが忙しくて、今日しか会える日が無かったから」
「バイト?」
小春の今の言葉に、輝男は信じられないと言った様子で驚く。
「うん。一学期の期末が終わってすぐにバイトをやり始めたの」
「どうして?」
「パパとママが、『学校の勉強も結構だけど、少しは社会勉強でもして小銭を稼ぎなさい』って……
ぶっちゃけ、面倒くさくて嫌だったんだけど、パパとママが紹介してくれた手前、断るわけにもいかなくて……」
小春の今の話に、輝男は感嘆したような面持ちを見せる。
「しかし、お前がバイトだなんて珍しいこともあるもんだな……」
「ねぇ、輝ちゃん。アタシのバイト先に遊びにでも来てくれない?
輝ちゃんが顔を出してくれたら、アタシも少しはやる気がわくから」
「あいにくだけど、俺、学校の補習や予備校で忙しいから。
お前のバイト先に顔を見せたいのは山々だが、そうのんびりとはしていられないから」
「もう、輝ちゃんの意地悪!」
輝男のつれない態度に、小春はムッと不機嫌に表情を曇らせる。
そして、食べかけのパンや飲みかけのジュースを勢い良く飲み食いする。
半ばヤケでも起こしたかのような小春に、輝男はついつい苦笑いする。
やがて、卓上に置かれた二人分のトレイの上は、パンもなくなり、ジュースが注がれたグラスも空になっている。
「あ――美味しかった」
「じゃあ、俺はこれで。お前も気を付けて帰れよ」
完食し、満悦の声を上げる小春の傍で、輝男は腰を上げ、その場を去ろうとする。
途端、傍から伸ばされた手が、輝男の腕をつかみ、彼を押し留める。
「ちょっと、何、帰ろうとしてんの!?」
小春は輝男の腕をギュッとつかんだまま、放そうとしない。
小春の動きを認めた輝男は、足を止め、小春の方を振り返る。
一方の小春は、輝男の腕をつかんだまま、彼とまっすぐ向き合う。
「何って……今、何時だと思ってんだ?
早く帰らないと、親父さんやおふくろさん、それに兄貴だって心配するだろうが」
「アタシがご飯、食べて、おしゃべりしただけで帰るとでも思ってるの?」
小春の今の言葉に、輝男は表情を曇らせて嘆息する。
小春が言わんとしていることを理解すると、途方に暮れたかのような面持ちを見せる。
「お前、明日、バイトがあるんだろ?
俺だって、明日も学校の補習と予備校の講義を受けなきゃいけないし」
「わかってるわよ。だから、ほんのちょっと付き合ってくれるだけでいいから」
「“ほんのちょっと”…と言っておきながら、結局、一晩中、付き合う羽目になったらどうするんだ?」
「大丈夫よ。輝ちゃんと一緒だったって言えば、パパもママも納得するから。
アタシが輝ちゃんと付き合ってるのは、パパもママもお墨付きなんだから」
まったく引き下がる気配を見せない小春に、輝男はヤレヤレとため息を付く。
どうあろうと最後まで突き進まないと気が済まないようだ。
輝男が途方に暮れ、何も言い返さないのを見ると、小春は輝男の腕にギュッと抱き付いた。
「さぁ、善は急げよ!」
そう言いながら、輝男を引きずるようにして店を飛び出そうとする小春。
「おい、待てよ! 会計がまだ済んでないぞ!」
輝男は、はやる小春に制止を呼びかけながら、その場に必死に踏み止まろうとする。
◇ ◇ ◇
暗くなった空が、中心街の裏通りを見下ろす。
着の身着のままといった様子の輝男は、小春に腕を絡まれながら歩を進める。
二人の目の前には、見慣れた三階建ての建物がある。
「結局、ここか……」
「本当だったら、ゲーセン行って、カラオケ歌って…といきたいところだけど……
時間が時間だから、ラブホだけで我慢してあげる」
「何、言ってんだ? ラブホでエッチが一番の目当てだったくせに」
「そんなこと言わないでよ。
無理して付き合ってくれたお礼に、今回はアタシがおごってあげるね」
呆れる輝男に構わず、小春は輝男を連れ立って、ホテル・ラブベストの中に入って行く……
ホテル・ラブベスト内の大きめな部屋に、ワイシャツやスラックス、半袖のプリントTシャツやデニムのミニスカート、下着類が脱ぎ捨てられている。
部屋の向こうにあるガラス戸の内側から、水の流れる音が聞こえて来る。
ガラス戸の内側にあるバスルームでは、生まれたままの姿をさらす輝男に向けて、やはり全裸姿の小春がシャワーのお湯を浴びせかける。
「気持ちいい?」
「まぁな……」
「今日、蒸し暑くてベタベタしたから、思いっきりスッキリさせないと」
そう言いながら、暑さで汗ばむ輝男の裸体の隅々にシャワーを浴びせかける。
全身にお湯をかけてくれる小春の体を、輝男はついつい目で追う。
後ろに束ねられた長い金髪――
小麦色の素肌に覆われた細く引き締まった裸体――
胸元から大きく盛り上がるGカップの美巨乳――
肉付きのいいプリッとした美尻――
小春の裸体に見取れている内に、輝男はつい顔を赤らめる。
小春は、輝男の今の態度に気付くことなく、彼の裸体に一通りシャワーを浴びせていく。
シャワーヘッドをかけ直すと、置いてあったボディーソープをGカップバストに満遍無くかける。
ソープにまみれた裸の胸をこすると、すぐに左右の大きなふくらみは泡にまみれた。
泡まみれの美巨乳を見せながら、輝男とまっすぐ向き合う小春。
輝男をバスチェアに腰かけさせると、膝の上にまたがり、抱き付く。
そして、股を前後に動かしながら、泡まみれの美巨乳を輝男の胸板に押し付け、上下に動かす。
「お、おい、小春……」
戸惑い気味に声を上げる輝男に構わず、小春は動きを繰り返す。
裸の股の奥にあるイヤらしい肉の感触が、輝男の膝に何度もすり付けられる。
と、同時に、上下に腰をくねらせる小春の動きに合わせて、泡まみれのGカップバストが、上下に動きながら輝男の胸板にすり付けられる。
スポンジ代わりに優しくこすり付けられる美巨乳の柔らかな感触に、輝男は成すすべがないと言わんばかりに身を固くする。
小春は自分の胸だけでなく、大事なところも輝男の身にこすり付けていく。
「あぁ……ハァ……」
やがて、小春の口から、切なそうな喘ぎがかすかに漏れる。
感じ入ったかのように、小春の気の強そうな美貌は恍惚にとろけていく。
スローペースな腰の動きは徐々に速まっていき、数分もしない内に、小春の胸は、強めの摩擦を輝男の胸板に仕掛ける。
「輝ちゃん、気持ちいい? アタシ、何だか変な気分」
半ば恍惚としたような声で、小春が呼びかける。
「小春、せっかくさせてもらって悪いが、何だか動きが慣れてるみたいだな」
「え――、そんなこと無いよ」
「お前、まさか、今、やってるバイトって淫売関係のヤツじゃないだろうな?」
「失礼ね。ちゃんとしたバイトだよ」
怪訝な様子でたずねる輝男に、小春は冷や水でも浴びせかけられたかのように我に返り、不機嫌な顔を見せる。
そのまま輝男にギュッと抱き付くと、彼と唇を重ねる。
一瞬のキスの後、小春は輝男とまっすぐ見つめ合う。
「輝ちゃんが受験勉強で大変な思いをしているのは、アタシもちゃんとわかってるわよ。
でも、毎日のように顔を合わせられないのがもどかしくて……
だから、今、会える機会を存分に利用して、輝ちゃんをスッキリさせてあげなきゃ……
受験勉強で心が折れまくって、ダメダメな結果に終わって落ち込む輝ちゃんなんて、アタシ見たくないから」
「小春……」
愛する男が置かれている状況を痛く理解し、自分なりに手を尽くそうとする小春の切なる思いに、輝男は思わず感銘を受けたかのような顔を見せる。
感極まった顔をした輝男を見ると、小春は輝男の後ろに回る。
輝男の背中にギュッと抱き付くと、押し付けられた左右の大きなふくらみを上下にこすり付けさせる。
ムニュッ…と大きく押し潰された柔肉がゴシゴシこすり付ける感触に、輝男は顔を真っ赤にして身を固くする。
左右の大きなふくらみが直にもたらす肉の摩擦が、みだらな刺激となって輝男の神経を伝う。
「あぁ……ハァ……あぁ…ハァ……」
切なそうな喘ぎとかすかな吐息が、小春の口から漏れ、輝男の耳に流れ込む。
背中越しに伝わる美巨乳の感触と、耳元に吹き込まれる艶やかな物音が、輝男を否応なくのぼせ上げる。
しかし、小春との夏の一夜はまだ始まったばかりである。