天江家のリビングで、制服姿の瑠奈が憮然としている。
「いいなぁ……。お義兄ちゃん、こんな時に海水浴に行けて……」
「そんなこと、言うもんじゃありません。
輝男さんにとっては、せっかくの機会なんだから。
今回の海水浴が終わったら、否が応にも受験勉強に励まなきゃいけないんだから」
テーブルに着きながら愚痴をこぼす瑠奈に向かって、真向かいにいる真純がやんわりとたしなめる。
「桜月さんと行くならまだしも、あのババアどもも一緒だなんて嫌な予感しかしないわ。
絶対、お義兄ちゃん相手に死ぬほど散々、ヤりまくるに決まってるんだから」
「何てことを言うの、瑠奈。
先生方も、輝男さんたちのことを思ってついてあげてるんだから」
「あ――あ、アタシもお義兄ちゃんと一緒に海水浴に行きたかったなぁ……
……って言うか、こんな暑い日に、部活なんか行きたくな――い」
「いつまでも愚痴をこぼしてないで、早く行きなさい」
「は――い」
ため息を付き、つまらなそうな顔を見せながら、瑠奈がようやく腰を上げる。
部活に行くべくリビングを出て行く瑠奈の後ろ姿を、真純はほほ笑ましげに見つめる。
◇ ◇ ◇
まばゆい陽光が、海沿いの車道に注がれる。
車道を軽やかに疾走する赤の軽自動車の後部座席に、輝男が腰を下ろしている。
車窓から遠く見える海を眺めていると、
「お盆前に皆の都合が付いてよかったわね」
運転席でハンドルを握る理華が、後ろにいる輝男に向かって呼びかける。
「そうですね」
「受験前の貴重なひと時だけど、今は受験も勉強も忘れて、思いっきり羽根を伸ばしましょう」
またも理華が輝男に言葉をかけると、助手席に座る桜月が理華の方を振り向く。
「ところで、黒山さんと那須先生は?」
「向こうで合流することになってるから」
「黒山さんも今回の海水浴、とても楽しみにしてたから。
…って言うか、黒山さんと一緒の海水浴って初めてだわ。ねぇ、輝男君」
「あぁ。黒山もきっと楽しい思い出を作れるだろうな」
桜月に話を振られると、輝男は和やかな表情で言葉を返す。
輝男たちの乗る車の目指す先に、青々とした海が徐々にハッキリとした姿を見せていく。
◇ ◇ ◇
快晴の空とまばゆい太陽が、青々とした海原と人で賑わう砂浜を見下ろす。
海辺の砂浜にとある一行が足を踏み入れる。
「きれいな海ね」
「でも、随分と人が賑わってるみたいですけど」
「私たちも他の皆も、考えることは皆、同じ…ってことかしら?」
前を行く理華、葵、真白が、海水浴場の様子を眺めながら感嘆する。
彼女たちは、水着の上にパーカーを羽織った格好をしている。
その後ろには、クラ―ボックスとビーチパラソルを両脇に抱えた輝男と、丸められた敷物を脇に抱える桜月がいる。
二人もまた、水着の上にパーカーを羽織っている。
やがて、海水浴場の出入り口から向かって左手五十メートルほど離れたところに、ビーチパラソルを掲げ、敷物の上に重石代わりにクーラーボックスを置く。
すると、葵はすぐに着ていたパーカーを脱ぎ出した。
競泳水着を思わせるような黒のワンピースタイプの水着をさらす葵。
均整の取れた肢体と相まっているが、やはり、Eカップはあろう特徴的な左右の盛り上がりが否が応にも目に付く。
「どう? 天江君、競争でもしない?」
「おい、いきなりかよ」
葵の申し出にため息を付きながらも、輝男もパーカーを脱ぎ、水着姿を見せる。
トランクスタイプの水着をさらすと、葵と一緒に海の方へと向かう。
「さぁて、どちらが勝つのやら」
「二人とも、結構なところまで行きそうね」
「無茶して溺れなければいいんだけど」
水泳競争に臨む輝男と葵を、理華、真白、そして桜月は、後ろから見つめる。
準備運動を終え、海に入った輝男と葵は、共に沖に向かって泳ぎ出した。
輝男も葵も、軽やかなクロールで水をかき分け、向こうへ向こうへと進んでいく。
「あの二人、結構、上手そうだな」
「水泳でもやってんじゃないのか?」
「下手したら、一キロ向こうまで行っちゃうんじゃね?」
傍で泳いでいた他の海水浴客たちは、ほぼ横並びに泳ぐ輝男と葵を見て驚嘆する。
百メートル向こうまで達するも、二人の表情からは疲労の色は認められない。
動きに鈍りが生じないまま、輝男と葵はUターンをする。
桜月たちのところへ戻りながら軽やかに泳ぎ続ける。
輝男も葵も、いつの間にか、本物の試合に臨んでいるかのような真剣な表情を見せている。
文字通り、一進一退と言った様子でゴールを目指す。
やがて、輝男と葵は、ほぼ同時に元の砂浜に戻った。
海に濡れた体をさらし、数歩、砂浜を歩くと、緊張が解けたのか、二人の表情に疲労の色が見えてくる。
「黒山、どうやら、この勝負、引き分けのようだな」
「悔しいけど、そう認めざるを得ないわね」
輝男と葵はそう言葉を交わしながら、互いの健闘を称え合う。
二人はそのまま、桜月、理華、真白のもとへ戻る。
「もう二人とも、今の勝負、かなりガチだったわよ」
輝男と葵の競争を見て理華が驚嘆すると、
「今からこんな調子じゃ、終わり頃には死ぬほどバテちゃうんじゃないかしら?」
真白が間を置かずに、からかい半分の言葉を返す。
途端、一同の間からドッと笑い声が上がる。
一時間ほど経った頃――
輝男はビーチパラソルの下、敷物の上でのんびりと寝そべっている。
仰向けに寝そべる視線の先には、青々とした空が広がって見える。
(ホントに綺麗な空だな……
この空を見ていると、ホントに何もかも忘れてしまいそうだ……
嫌なこともつらいことも……
願わくば、ずっとこのままでいられたいいけど……)
本来の自らの状況に思いを馳せ、率直な思いを心の中で吐きながら、青空を見つめ続ける輝男。
どれだけ時が経とうと、変わることなく青々とした姿を見せる大空が、輝男にはうらやましく思えたのだろう。
日々の疲れ、受験のプレッシャー等とは無縁でいられるありのままの自然に、羨望の念さえ抱いてしまうかのようだ。
すると、
「あぁ――また―――」
「黒山さんって、泳ぎは抜群だけど、ビーチバレーの方はからっきしみたいね」
向こうの方から、楽しげに弾む声が聞こえて来た。
ふと、顔を上げると、目の前の砂浜で桜月、葵、そして、理華と真白が水着姿でビーチバレーに興じている姿が見えた。
桜色のセパレートタイプの水着を着ている桜月――
黒のビキニをまとう理華――
濃いめのパープルを基調とした柄物のビキニを着た真白――
桜月たちは、楽しそうに声を弾ませながら、天高く弾くビーチボールを追いかける。
桜月と葵は、日頃の疲れや受験勉強のストレスを忘れ、理華や真白と一緒に楽しそうにボールをパスし合う。
心から楽しむ桜月たちの顔を見て、輝男は自ずと表情をほころばせる。
しかし、次の瞬間、輝男の目は、別のところに視線を注いでしまう。
ボールを追いかけ、パスするたびに、桜月たちの胸がハッキリと揺れていく。
水着越しに揺れる彼女たちのふくらみに、輝男はつい顔を赤らめる。
特に理華のDカップバストと葵、真白のEカップバストは、まるで挑発でもするかのように揺れを止めずにいる。
途端、輝男はまたも仰向けになって寝そべり、真上の青空だけをジッと見つめ続ける。
(桜月たちが楽しんでいるのは結構だけど、正直、目の毒だよ)
知らず知らずの内に淫欲を煽らせる桜月たちに、内心、煩悶の声を上げる。
内心の煩悶を反映するかのように、恥ずかしそうに顔を赤らめてしまう。
そのまましばらく寝そべっていると、
「ねぇ、あなた、今、暇?」
どこからか、輝男に呼びかける声が聞こえて来た。
輝男が体を起こすと、目の前に水着姿の女性が二人、立っていた。
彼女たちは、二人とも歳にして二十代前半くらいである。
片方は、黒のセミロングをし、小麦色の素肌にミントグリーンのビキニをまとい、均整の取れた肢体を見せ付ける。
もう一方は、亜麻色の長い髪をし、輝男とほぼ大差無いくらいの背丈にスレンダーな体型をしている。
胸元から盛り上がるDカップはあろう大きなふくらみを白い紐無しビキニで覆っている。
「もしかして、今、僕のことを?」
輝男が二人の女性に向かってたずねると、亜麻色の長い髪をした女性が、一歩、前に出て輝男をマジマジと見つめる。
「な、何ですか?」
自分を凝視する女性に輝男が思わずたじろぐと、
「君、もしかして、天江輝男君?」
亜麻色の髪の女性が、輝男に向かってそうたずねる。
初めて出会った女性から自分の名を言われて、輝男は戸惑いを強める。
戸惑う輝男を見ると、女性は柔らかな笑みを輝男に見せる。
安堵をうながすかのように笑みを見せると、
「あなたのことは、弟から聞いてるわ」
柔らかな声で輝男にそう呼びかける。
「弟…って、誰のことですか?」
「あなたと同じクラスの小中高大のことよ」
首を傾げながらたずねる輝男に、女性はそう即答する。
女性の今の返答に、輝男は驚きの表情を見せる。
「まさか……あなた、小中のお姉さん?」
輝男が、亜麻色の長髪をした長身の女性に向かって驚きの声を上げると、
「初めまして。私、小中香菜子。こっちは、私と同じ大学でゼミも一緒の新田麗良」
「よろしくね」
長身の女性――小中香菜子(こなか・かなこ)と黒のセミロングに小麦色の素肌をした新田麗良(にった・れいら)が、輝男に自己紹介をする。
「は、初めまして。僕、弟さんと同じクラスの天江輝男です」
輝男は、驚きが収まらない様子で、香菜子と麗良にあいさつを返す。
予期せぬ出会いに気持ちが落ち着かずにいる。
輝男からのあいさつを受けると、香菜子は輝男に笑みを見せる。
「輝男君、せっかくだから、私たちと付き合ってくれない」
「え? でも……」
「心配しないで。ほんの少しだけでいいから」
ためらう輝男に、香菜子は重ねて輝男を誘おうとする。
十数分、経った頃――
桜月たちの間を飛び交っていたビーチボールが、海の方へ飛んで行った。
水面に浮かぶビーチボールを桜月が拾い上げる。
桜月が戻ると、葵も理華も真白も、熱っぽい表情に汗を噴き出していた。
「さすがにちょっとはしゃぎ過ぎたかしら」
「そうですね……。ちょっと疲れちゃったみたい……」
荒く息を弾ませながら、理華と葵が言葉を交わす。
暑さが増す中、ビーチボールを飛ばし合う内に、熱気と疲れが彼女たちをバテさせようとしている。
「でも、こうして女四人、楽しそうに遊んでいると、変な輩が絡んできたりしないか心配で仕方が無いわ」
「那須先生ったら、こんなところで、変なこと言わないで下さい」
冗談半分に言う真白を桜月がたしなめると、
「心配しないで。
もし、どこかのバカが私たちをナンパしようとしても、私たちには天江君が…」
理華が自信を請け負うかのように言葉を返して、向こうのビーチパラソルの方に目を向ける。
しかし、次の瞬間、信じられないと言わんばかりに驚きの表情を見せる。
「あれ? いないわ」
驚く理華の目の前には、パラソルの下、敷物の上でゆっくりしているはずの輝男が影も形もなくなっていたのだ。
まさかの輝男の不在に、桜月も葵も真白も驚きと不安の色をにじませる。
◇ ◇ ◇
桜月たちのいる場所から百メートル離れた砂浜に、輝男の姿がある。
輝男が見下ろす先には、敷物の上でうつ伏せになる香菜子と麗良の姿がある。
二人ともビキニブラを外し、裸の背中を輝男に向けている。
輝男は、左右の手のひらにサンオイルをかけると、麗良の背中に丁寧にすり付ける。
「どうですか?」
「うん、いいよ。気持ちいい」
麗良が嬉々として言葉を返すと、輝男はそのまま、彼女の背中に満遍なくオイルを塗り付ける。
背中を塗り終えると、細く締まった左右の脚、二の腕にもオイルを塗り付ける。
塗り終えると、ボトルからサンオイルを出し、またも左右の手のひらにかける。
麗良の横でうつ伏せる香菜子の背中に、サンオイルを塗り付ける。
オイルを塗り付けながら色白の背中に手を触れると、
(小中のお姉さん……色白でスタイルもいいし、肌もスベスベだ……)
クラスメートの姉の感触に、内心、驚嘆の声を上げる。
いつも、クラスで顔を合わせる小中と、今、間近で接する香菜子が、輝男の中でどうしても合致できずにいる。
やや軽薄そうな小中と整った美貌を見せる香菜子が実は姉弟だなんて、すぐには信じられずにいる。
「香菜子さんって、確か、東大に通ってるんですよね?」
「うん、そう。今は東大理学部四年。就職の内定をもらったお祝いに海水浴に来てるの」
香菜子の説明を聞きながら、彼女の背中にオイルを満遍なく塗り付ける。
背中を塗り終え、太ももにオイルを塗り付けようとすると、
「天江君って、今、高三なんでしょ? 大学はどこを受けるの?」
背中を向け、うつ伏せになりながら、香菜子が輝男にたずねる。
「俺、東大を受けるために、今、猛勉強している最中なんです。
今は、ほんの息抜きで海水浴に来てるんですが……」
輝男は、香菜子の細く締まった両脚にオイルを塗り付けながら、自らの状況を説明する。
輝男の今の話を聞くと、香菜子はそのままの状態で神妙な面持ちを見せる。
「私、東大を受けようとした時……
“東大なんて絶対、無理だ”、“相当、厳しい”って、周りから散々に言われたわ」
「……僕も同じです……」
オイルを塗られ、塗り付けながら、東大受験にまつわる話をし出す香菜子と輝男。
輝男は自ずと神妙な面持ちを見せながら、香菜子の二の腕に手を触れる。
「でも、ダメだ、無理だと言われてあきらめたら、大学受験はおろか、そこから先のことは何一つ、上手くいかないわ。
私は、周りから散々に言われようと、当たって砕けるくらいの気持ちで東大受験に臨んだわ。
そして、万に一つの奇跡みたいな形で無事に東大に受かって、今に至るってわけ……」
輝男の手のひらが腕にすり付けられるのを感じ取りながら、香菜子が言葉をかける。
「天江君も本気で東大を受ける気なら……
周りが何と言おうと、最後まであきらめずに頑張り通して。
あきらめないで頑張って勉強を続ければ、必ず思いは報われる。絶対、東大に入れる。
私だって、嫌になるほどダメだ、無理だと言われながら、結局は東大に入れたんだから……
天江君もあきらめなければきっと行けるわ」
輝男は香菜子の今の言葉を聞くと、自ずと表情を和らげる。
同じクラスメートの姉というより、自分にとっては年上、先輩にあたる現役東大生の励ましの言葉に、心に引っかかっていたものが取り払われたかのように感じた。
輝男はそのまま、手のひらにこびり付くオイルが切れるまで、香菜子の素肌にオイルを塗り付ける。
「香菜子さん、終わりましたよ」
輝男が声をかけると、香菜子はそのまま体の体勢を変える。
体を180度反転させ、今度は仰向けの体勢で輝男と向き合う。
「か、香菜子さん……!」
途端、輝男は顔を真っ赤にしながら、恥じらいと驚きに言葉を詰まらせる。
香菜子は、にこやかな笑みを輝男に見せながら、ビキニブラを外したままの裸の胸を見せ付ける。
なだらかな丸みを帯び、大きくふくらむ左右の肉の果実が、輝男の目に否応なく焼き付かれる。
「ちょ、ちょっと香菜子ったら……」
先にオイルを塗り終え、ビキニブラを着け直した麗良が、恥ずかしそうに香菜子をたしなめようとする。
しかし、香菜子は構わず、裸の胸をさらしながら輝男と向き合う。
「天江君、今度は私のオッパイに……お願い」
にこやかな笑みを見せながら、輝男に向かってうながすかのように言葉をかける。
「そ、そんな……」
「どうしたの? そんな顔して。まだ、オイルは残ってるんでしょ?」
「えぇ……。でも、まさか、オッパイにまで……」
「さっさとしてくれないと、誰かに見られちゃうじゃない」
ためらう輝男に、香菜子は笑みを絶やさずに輝男に強くうながす。
輝男は困り果てた顔を赤らめながらも、ボトルに残っているサンオイルを左右の手のひらにかける。
オイルにまぶされた左右の手のひらを、クラスメートの姉の美巨乳に迫らせる。
すると、
「天江君! こんなところで、何、やってるの!?」
背後から、叱り付けるかのような声が、輝男の耳元に叩き付けられた。
背後からの声に驚き、振り返ると、鬼の形相で両腕を組みながら仁王立ちする葵の姿があった。
葵の横には、桜月が半ば気まずそうな顔を見せながら立っている。
目の前にいる葵と桜月をすぐに認めると、輝男はたじろぎ、狼狽し出す。
「ち、違うんだ、黒山。これは…」
輝男がしどろもどろに弁明を試みようとすると、
「あなた、もしかして、黒山 葵さんね」
輝男の後ろから、葵に向かって呼びかける声が聞こえて来た。
輝男が後ろを振り返ると、紐無しのビキニブラを着け直した香菜子が、こちらの方に歩み寄る。
香菜子は輝男の真横に立つと、葵、桜月と向き合う。
「黒山さん、あなたって、三年A組に在籍して、生徒会長をやっているんですってね?」
「え、えぇ……そうですが……あなたは?」
初めて顔を合わせた女性が知り抜いたかのように言葉をかけてきて、葵は思わず戸惑う。
「うちの弟がいつもお世話になってるわ。私、小中の姉です」
自己紹介する香菜子に、葵と桜月は信じられないと言わんばかりに驚きの表情を見せる。
「小中って……あの小中君のこと!?」
「嘘? 小中君にお姉さんがいたなんて……」
「信じられないかもしれないけど、本当なんだ」
驚きを隠せない葵と桜月に、輝男は言葉を返す。
一方、香菜子は、目の前の桜月と葵を見ると、横にいる輝男の方を振り向く。
「天江君、この娘たち、あなたのお友達なの?」
「えぇ……そうですが……」
口ごもりながらも返答する輝男に、香菜子はフーンと笑みを浮かべる。
すると、横から輝男の腕にギュッと抱き付いて来た。
「天江君、せっかくだから、このまま私と一緒にエッチしない?」
艶めかしく笑みを歪めながら、ささやくように言葉をかける。
香菜子の今の言葉に、桜月と葵、そして、当の輝男は驚きの表情を見せる。
「エ、エッチ!?」
「天江君にオイル塗ってもらったら、何だか気持ちがムラムラしちゃって……
初対面だけど、君とだったら、気持ちいい最高のエッチができそうな気がするわ」
本気か冗談か判断しかねるような艶めかしい形相で、輝男に言葉をかける香菜子。
そのまま左手の手のひらを輝男の腹から下に這いずらせ、水着越しに輝男の股を撫でさする。
「こんな美人に手を付けないなんて一生分の大損になっちゃうわよ」
「何、言ってんですか!? 俺はあなたとエッチしたいだなんて、これっぽちも思って無いのに。
第一、あなたとエッチなんてしたら、アイツに合わせる顔が……」
恥じらいと戸惑いの混ざった顔を赤らめながら、拒むかのような言葉をかける輝男。
香菜子は、今の輝男の言葉に身を引くどころか、更にギュッと体を寄せ付ける。
左右の大きなふくらみがビキニブラ越しに押し付けられ、輝男の身を固くする。
「あの愚弟のことなんか、君が気にする必要なんて無いから。
それよりも、エッチするための絶好の穴場があるんだから、さっさと行きましょう」
「そんな……。でも、俺は…」
輝男はなおもためらいながら、目の前にいる桜月と葵を見る。
すると、
「あんな小娘たちなんかほっときなさい。
私とエッチすれば、私にだけ夢中になれるから」
香菜子は、桜月たちをさげすむような言葉を吐きながら、輝男に性交をうながす言葉をかける。
と、次の瞬間、輝男は勢い良く香菜子の身を振り払った。
突然に自分を突き放す輝男の行為に、香菜子はすぐに驚きの表情を見せる。
香菜子の視線の先には、険しい表情でにらみつけながら仁王立ちする輝男の姿がある。
「いい加減にして下さい!
俺とエッチしたいだけならまだしも、桜月や葵たちをバカにするようなことを言うなんて……!
例え、仲良くさせてもらってるクラスメートのお姉さんでも、それだけは絶対に許せない!」
輝男は香菜子を鋭く見据えながら、真っ当な怒りを彼女にぶつける。
同級生の姉、人生の先輩であろうと、強く絆を結ぶ相手をさげすむ者に対して、怒りを隠そうとしない。
真正面から怒りを叩き付けられ、呆然とする香菜子を一瞥すると、すぐに香菜子に背を向ける。
「日向、黒山、行こう……」
厳しい表情を見せながら桜月と葵のもとへ歩み寄ると、そのままその場から去ろうとする輝男。
すると、
「さすがだわ……。素晴らしいくらいに友達思いね」
背後から称えるかのような柔らかな声が聞こえて来た。
輝男たちが後ろを振り返ると、香菜子が柔らかな笑みを浮かべながら輝男たちと目を合わせた。
「目先の誘惑ではなく、友達の方をちゃんと選ぶなんて立派だわ。
これがうちの愚弟だったら、大事な友達を足蹴にしてまで、女の子の尻を追っかけてたかもしれないのに……」
香菜子の今の言葉に、輝男は一瞬、唖然とした後、何かに気付いたかのような顔を見せる。
「香菜子さん、まさか、俺を試すために……!?」
驚きながらたずねる輝男に、香菜子はすぐに首を縦に振る。
「天江君、これからもこの娘たちとちゃんと仲良くしなさい」
笑みを絶やさず桜月たちとの絆を認める香菜子の言葉に、輝男は何とも言えない面持ちで言葉を詰まらせる。
しかしすぐに一礼すると、桜月、葵と一緒にその場から去って行く。
遠のく輝男の後ろ姿を、香菜子はいつまでも見つめている。
「香菜子、あなたも人が悪過ぎるわよ」
傍で一部始終を見ていた麗良が、呆れ果てた調子で言葉を返す。
弟の同級生を挑発、誘惑し、試そうとした友人の愚挙に、呆れずにはいられなかった。
香菜子は、傍で呆れる友人の方を振り向かず、口を開く。
「あの子、真面目で優しくて……うちの愚弟(おとうと)とはエライ違いだわ……」
輝男と自分の弟を思い比べると、香菜子は深くため息を付く。
「さっきは試しちゃったけど……
でも、できることなら、本当に彼とエッチしたかったわ」
続けて本音をつぶやく香菜子に、麗良は更に呆れながら頭を抱え、深く嘆息する。
◇ ◇ ◇
「行くわよ、ほらっ!」
「やったわね!」
桜月と葵は、海に入りながら、声を弾ませ、水を掛け合う。
楽しそうに水を掛け合う二人を、向こうにいる理華と真白が遠くから見つめる。
「あの娘たち、子供のようにはしゃいじゃって」
「私たちにもあんな頃があったけどね……」
二人は、日よけ代わりのビーチパラソルの下で、桜月と葵を見つめながら感慨深げにつぶやく。
敷物の上でうつ伏せの状態になると、共にビキニブラを外し、裸の背中を見せ付ける。
背後では、サンオイルを左右の手のひらにかけた輝男が、まずは理華の背中にオイルを塗り付ける。
「天江君、さっき、小中君のお姉さんにオイルを塗ってあげたんですって?」
「えぇ、そうですが」
「じゃあ、私たちにもちゃんとオイルを塗ってくれない」
「わざわざ言わなくても、ちゃんとやりますよ」
理華、真白と言葉を交わしながら、理華の背中、両脚、二の腕に満遍無くオイルを塗り付ける。
理華にオイルを塗り終えると、改めてボトルから出したオイルを手のひらにかけ、今度は、真白の背中にオイルを塗り付ける。
「天江君、背中が終わったら、次はオッパイもお願いね」
輝男に背を向け、オイルを塗ってもらいながら、真白が声をかける。
真白の今の言葉に、輝男は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「何、言ってんですか? 冗談はやめて下さい」
「あら、小中君のお姉さんには、オッパイにもオイルを塗ってあげたんじゃなかったの?」
「小中君のお姉さんにしてあげたんなら、私たちにだってしてあげられるのに」
「ホントにしてませんよ!」
恥じらいに顔を紅潮させて反論する輝男に、理華と真白は笑みをこぼす。
その後、輝男は桜月たちと昼食を食べた後、桜月、葵と一緒に海で泳いだり、砂浜を歩いたりした。
輝男たちと入れ替わるようにして理華と真白は海で泳ぐと、戻って日光浴に興じた。
「どう? 皆、楽しかった?」
「はい。とても楽しかったです」
「こんなに楽しくはしゃいだの、小学校以来です」
海水浴場を出ながら、理華と桜月、葵が言葉を交わす。
彼女たちの後ろでは、輝男がクーラーボックスと畳まれたビーチパラソルを両脇に抱えながら歩く。
海水浴を存分に楽しんだ余韻に浸る桜月たちの後ろ姿を眺めながら、
(楽しいひと時って、ホントにあっという間だよな……
これが終わったら、否が応にも受験勉強に本腰を入れないと……)
平素の表情の奥で、これから待ち受ける事態に思いを馳せる。
またものしかかるプレッシャーを必死に押し隠しながら、海水浴の終わりを迎えようとする輝男。
すると、
「さぁ、皆、これから宿に向かうわよ」
理華は、横にいる桜月と葵、そして、後ろにいる輝男の方を向きながら言葉をかける。
「宿?」
輝男と桜月、葵は、理華の今の言葉に立ち止まり、共に怪訝な声を上げる。
訝しる輝男、桜月、葵に対して、理華と真白は平然とした表情を彼らに見せる。
「実は今回、一泊二日で宿を取ってあるの。もちろん、皆、全員の分で」
「え――嘘!?」
理華からのサプライズの言葉に、輝男、桜月、葵は共に驚きの声を上げる。
彼ら三人は皆、普通に日帰りだとばかり思っていたのだろう。
まさかの事態に、当然とも言える驚きの表情を見せる。
驚く輝男たちに向かって、真白は落ち着いた面持ちで笑みを見せる。
「心配しないで。皆の親御さんたちには、私たちの方で既に了解を取り付けてあるから」
「さぁ、皆、行くわよ」
真白、理華が続けて言うと、桜月と葵は、驚きを隠せないまま二人の後について行く。
その後ろでは、輝男が数歩遅れて、女性陣の後を追う。
(まさか、こんなことになるなんて……)
担任と保健教諭が仕組んだサプライズに、輝男は内心、深く嘆息しながらも、追随せざるを得なかった。