その割には、肝心の入試描写がおざなりになるかもしれませんが……(死)
みぞれ交じりの雨が、曇天から街に降り注がれる。
GTT・青春校の建物も、みぞれ交じりの雨に濡れていく。
予備校内の教室では、輝男たち受講生が、今までに無い真剣な表情で机上の答案と向き合っている。
輝男も千早も、そして、他の受講生たちも、問題用紙とマークシート方式の解答用紙を交互に見ながら、マークを付けていく。
重苦しい静寂の中、刻々と時が過ぎていく。
教室の黒板には、
全国大学入学共通テスト 第二日目――
という一文が大きく記されている。
輝男たちは今、予備校内で、大学入試の最初の難関である全国大学入学共通テストを受けている最中である。
これまでの日々の勉強の成果を発揮せんと、問題文に目を通し、フルに思考を発揮し、必死になって正解を見い出そうとする。
誰も彼もがこの難関を突破せんと、思いっきり張り詰めた気分に陥る。
同じ時刻、同じ空の下、タワーマンションの一室で、真純と瑠奈がテーブル越しに向き合う。
二人とも、カップに注がれたホットココアを飲んでいるが、共に浮かない顔をしている。
「お義兄ちゃん、大丈夫かなぁ……」
大学入学共通テストのさ中にある義兄に対する憂いを口走る瑠奈。
真向かいに座る真純は、義娘の憂いを耳にしながら、黙々とホットココアを飲む。
一旦、ココアを飲むのをやめ、手にしていたカップをテーブルの上に置く。
一呼吸、間を置いた後、瑠奈をまっすぐ見つめながら口を開く。
「輝男さんの頑張りを信じるしかないわ……」
最愛の義息を心配する気持ちを隠さないまま、重い表情で言葉を返す。
「でも、お義兄ちゃん、この前のクリスマスに食事会をした後は、毎日、ずっと勉強漬けだったから。
大みそか、元旦…と、予備校の合宿で勉強したまま年明け迎えちゃったし……
いくら、大学入試で必死になってるからって、さすがに無理し過ぎだよ。
このままだと、本当に、ちょっとしたことで壊れちゃいそうな気がするし……
それでなくとも、いつものように声をかけることさえ、気が引けちゃって……」
「瑠奈としては、とてもやり切れないかもしれないけど……
大学入試を受けることを決めた以上、誰もが避けて通ることなどできないから……
そのことを理解しているだけでも、大したものだわ」
「そうかなぁ……」
「つらいのはわかるけど、とにかく、今は辛抱するしかないわ。
まずは、輝男さんが今回の共通テストを無事に突破できるか否かが大事だから……」
輝男を心から心配する気持ちを言い合う義母と義娘は、すぐに飲みかけのココアを飲み干す。
空になったカップをテーブルの上に置くと、真純は瑠奈を見つめながら口を開く。
「輝男さんのことを心配するのも結構だけど、自分のことを少しは心配しなさい」
そう言いながら、義娘に向かって柔らかな笑みを浮かべる真純。
「何のこと?」
瑠奈が思わず首を傾げてたずねると、
「あなた、高校は絶対、明朝学園高校に行くんだって決めているんでしょ?
今年の二学期の成績だと、正直な話、明朝学園高校に入れるかどうか極めて微妙だから。
だから、明朝学園高校に入れるためにも、今まで以上に勉強に励みなさい」
真純は柔らかな笑みを絶やさずに、やんわりとした調子で釘を刺す。
義母の今の言葉に、瑠奈はたまらず苦い表情を見せる。
三時間ほど経った頃、輝男は青春中央駅構内の改札口手前にいた。
横にいる千早は、心配そうに表情を曇らせながら、輝男を横目で見る。
千早の目に、何とも言えない表情を見せる輝男の横顔が映る。
見た感じ、どんな気分なのか判別しかねる。
何か言いたげな様子だが、中々、言い出せずにいる千早。
すると、
「千早、昨日、今日の共通テスト、手応えはどうだった?」
横から、輝男が千早にたずねてきた。
努めて感情を抑えながら言ってくる輝男に、千早は正面を見据えながら口を開く。
「正直、自分でもよくわからない。
とにかく、解答を引き出すのに精一杯だから。
自信があるか無いかまで考える余裕なんて……」
おおよそ自信満々とは程遠い沈痛な表情で、自らが抱える憂いを口走る千早。
輝男は千早の今の憂いを聞くと、一呼吸、間を置いた後、口を開く。
「大丈夫さ。俺よりもずっと長く東大入学を目指して勉強してきたんだから。
それだけの頭をちゃんと持ってるなら、共通テストくらい、余裕で突破できるよ」
自信をうながし、励ますかのような言葉をかけると、ごく自然な笑みで千早の方を振り向く。
千早はすぐに、笑顔を見せる輝男の方を振り向く。
しかし、その表情は依然として憂いを帯びている。
わずかの間、黙って向き合った後、千早は一人、改札口の方へ向かった。
改札を経てホームへ向かう千早を見届けると、輝男はそのまま駅構内から出て行く。
(天江君、かなり不安がってる……)
千早はホームへ向かう途上、同じ予備校の受講生にして同じ目標に突き進む最愛の男に対する憂いを、心の中でつぶやく。
輝男の笑顔を目の当たりにしたばかりだが、心を晴れさせるどころか、逆に大きく曇らせていく。
輝男の内心に潜む、暗雲の如き不安と苦悩を見抜いたかのように……
◇ ◇ ◇
曇天が見下ろす中、明朝学園高校校舎の周囲を粉雪が舞う。
教室内では、いつものように生徒たちが一人、また一人と入って行く。
あいにくの曇天模様の中、生徒たちは今日一日の始まりを迎えようとする。
教室裏手ドアから小中が入って来て、すぐに自分の席に着く。
すると、
「よぉ、小中、おはよう」
一人の男子生徒が、すぐ傍から小中の方へ歩み寄りながら挨拶をかける。
小中はすぐに、声をかけられた方を振り向く。
振り向いた先には、輝男が一人、立っていた。
「何だ、お前か」
「何だ…はないだろ。お前も随分と素っ気ないな」
傍から言い返す輝男に、小中は呆れ顔でため息を付く。
「天江、俺に何の用だ?」
「小中、お前、元気でやってるか?」
「元気……って言うか、そんなことをお前に心配される筋合いはないぜ」
輝男からの問いかけに、小中はぞんざいな態度で言い返す。
しかし、輝男は構わず、小中に向かって話を切り出す。
「ところで、この前、聞きそびれたけど……
お前のとっておきのストレス解消法って、一体、何なんだ?
よかったら、俺に教えてくれないか?」
輝男からの申し出に、小中は一瞬、顔を赤らめた後、苦い顔を輝男に見せる。
「お前なんかに教えてやれるものじゃねぇよ。
……ってか、俺だって、このところずっとご無沙汰だし……
俺もアイツもそんなことをしてる余裕なんか、全然ないから……」
そう言いながらソッポを向くと、半ば、恥ずかしそうな表情を赤らめる。
小中のつれない態度に、輝男は落胆したかのようにため息を付く。
「小中、お前って、結構、付き合い悪いな」
小中に向かって呆れながら言って来る輝男を、向こうの席から一つのまなざしが見つめる。
桜月は席に着き、今日一日の授業の支度を進めながらも、向こうで小中と一緒にいる輝男を見つめる。
輝男を見つめる表情は、憂いに満ちているかのようにひどく曇り切っている……
◇ ◇ ◇
教室内に掛かっている時計が一時五分を指している。
教室内では、生徒たちが昼休みを利用して、仲間内で昼食を食べたり、雑談を交わしたりしている。
桜月は一人、自席で昼食の弁当を今、食べ終えたところである。
空になった弁当箱をカバンの中にしまうと、
「日向」
傍から桜月に呼びかける声が聞こえてきた。
桜月が呼び声に気付き、声が聞こえてきた方を振り向くと、輝男が目の前に立っていた。
輝男は平素の表情で桜月を見下ろし、別段、おかしなところはまったく認められない。
「日向、この後、何か用事でもあるか?」
「ううん。別に無いけど」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれるか? 少しくらいは息抜きしたいから」
輝男からの申し出に、桜月はすぐに首肯する。
間も無くして、輝男と桜月は教室の裏手ドアから出て来る。
平素の表情を崩さず黙々と歩く輝男の横で、
(輝男君、やっぱり変だわ……)
桜月は内心、輝男に対する憂いをつぶやく。
曇天の下、粉雪が風に乗ってチラチラと舞っている。
粉雪が舞い続ける中、輝男と桜月は学校の屋上にいる。
舞い続ける粉雪の他には、彼ら二人しかいない。
輝男は屋上のフェンスにしがみ付きながら、遠くに見える光景を眺める。
学校校舎のある丘陵の下には住宅街が広がっており、そこから先には中心街が遠くに見える。
「あいにくの曇り空だけど、いい景色だなぁ。
教室にいる時はわからないけど、家々や街をどこまでも遠くまで見渡せられて……
まるで、広い世界のど真ん中にいるような気分だよ」
屋上から見える光景を眺めながら、仰々しいくらいに感嘆の声を上げる輝男。
輝男の横にいる桜月は、フェンスの網に指をかけながら、輝男の今の言葉を黙って聞き入る。
その表情は何故か浮かなく、憂いに満ちているかのようだ。
桜月はそのまま、輝男の方を振り向かずに黙り続ける。
一分ほど沈黙が続いた後、固く閉ざされた桜月の唇が開く。
「輝男君……あなた、相当、気持ちがモヤモヤしているわね……」
憂いに満ちた重々しい表情で正面を見据えながら、横にいる輝男に向かって憂いを言ってくる。
桜月の今の言葉に、輝男は一瞬、驚いた後、沈痛な表情を見せる。
努めて正面を見据え、桜月の方を振り向くまいとするも、図星を指されたのは火を見るよりも明らかだ。
「この前の大学入学共通テストに自信が持てなくて……
このまま受験勉強を続けても、望み通りの結果になれないのではという不安が、頭から離れて仕方がない。
その不安を少しでもまぎらしたくて、私や小中君に色々とまとわりついている……
……違うかしら……?」
憂いを帯びた形相を崩さぬまま、輝男の心境を見抜いたかのような言葉をかける桜月。
それでも、すぐ横にいる最愛の男の方を振り向こうとしない。
輝男は桜月の今の言葉に、重苦しい表情と沈黙で応じる。
それでも、フェンスにしがみ付く手の握力を増し、わなわなと震わせる。
心中を見抜かれた動揺を努めて押し隠すどころか、率直にさらけ出してしまう。
またも一分ほど沈黙が続いた後、輝男がゆっくりと口を開く。
「一人でいると、とても不安で仕方がないんだ……
今更ながらに、東大受験はやはり無謀だったんじゃないかって思ったり……
どれだけ勉強を積み重ねても、それが必ずしも結果につながらないんじゃないかという不安が頭から離れられず……」
何度も体を重ね、体だけでなく心も深くつながっている最愛の少女と二人きりという状況に、率直な思い――あるいは苦悩を吐露する。
輝男の今の苦悩を聞くと、桜月は数拍置いた後、口を開く。
「生意気なことを言うかもしれないけど……
下手に悩んだり、不安がったり、落ち込んだりしたら、その時点で負けだと思うの……」
憂いを帯びた面持ちを崩さず、なおも正面を見据えたまま、輝男に言葉をかける。
輝男は桜月の今の言葉を聞くと、ようやく彼女の方を振り向く。
振り向いた先には、自分に勝るとも劣らないくらいに深い苦悩に陥っているかのような、桜月の重苦しい横顔が見える。
「あなただって、勉強や人生のことで色々と不安になったり、悩んだりすることはあるから……
私も、大学受験の勉強では、自信よりも不安の方がはかり知れないくらいに大きいわ……
でも、少しでも無理だと不安がったり、ダメだと諦めたりしたら、すぐに挫折しちゃうから……
あなたは不安をまぎらそうとしているけど、それよりもっと大事なことがあるわ」
そこまで言うと、桜月はようやく輝男の方を振り向く。
桜月とまっすぐ向き合う輝男だが、彼の目には、今までに無いくらいの真剣な表情でこちらを見つめる桜月の顔が映る。
「例え、たった1%の確率でも、絶対に最後まで諦めない、頑張れば絶対に希望はかなう。
そう自分に言い聞かせることが、今の輝男君には大事なことかもしれないの」
輝男は自ずと神妙な面持ちを見せながら、桜月の今の言葉を黙って聞き入る。
輝男の反応、返事を待たずに、桜月はそのまま話を続ける。
「最後まで希望を捨てない、努力を続ければ希望は必ず実を結ぶ。
私はいつも自分にそう言い聞かせて、今も何とか頑張って、踏ん張っているから。
私だって、そうして頑張っているんだから、輝男君ならなおさら……」
そこまで言うと、桜月は輝男をまっすぐ見つめながら、一瞬、口をつぐんでしまう。
「……やっぱり、生意気だった…かしら?」
今更のように気まずい表情を見せながら、輝男に向かって言葉をかける。
輝男のことを心配する余り、つい余計な説教でもしたのかという後悔にさいなまれようとしている。
すると、輝男は桜月を見つめながら、表情を和らげる。
「生意気だなんてとんでもない。君の言うことはもっともだよ」
自ずと元気な笑みを浮かべながら、桜月に言葉を返す輝男。
「本番まであとわずかな状況でプレッシャーに押しつぶされて、希望を捨てないことを忘れかけていたよ。
もちろん、絶対、大学に受かるんだという気持ちを捨てたわけではないが、それ以上に、万一の不安や本番間近のプレッシャーばかりが、俺の頭の中でずっと渦を巻いてて……
……でも、君の今の言葉を聞いて、気持ちがスッキリしたよ」
「本当に?」
「むしろ、余計なことで君を心配させて、本当に済まなかった。
俺のことを心配したせいで、君の方の受験勉強が支障を来たしたら…」
一転して、申し訳無さそうな表情で輝男が詫びの言葉をかけると、
「私のことなら心配しないで。自分のことは自分がちゃんとわかってるんだから。
それに、天江君、あなたの気持ちだって……」
桜月は柔らかな笑みを見せながら、輝男の懸念を振り払う。
途端、二人は一斉に笑い声を上げた。
苦悩と迷い、憂いを振り払うかのように、輝男と桜月の笑い声が屋上に響く。
すると、校舎の方から、昼休みの終わりを告げるチャイムが二人の耳に届いた。
◇ ◇ ◇
静まり返った放課後の教室に、輝男の姿がある。
神妙な面持ちで着席する輝男と、伊達メガネをかけ、いつも以上に真剣な表情を見せる理華が、前後に合わさった二つの机を挟んで向き合っている。
輝男と理華の他には誰もいないが、重苦しい緊迫した空気が教室内と二人を覆う。
輝男は、目の前に置かれた二つの封筒を手にし、それぞれの中身をジックリと確認する。
A4サイズの封筒の中には、何枚かの書類と長形3号の封筒二枚が収められている。
長形3号の封筒二枚の内、一つには、
内申書在中 大学関係者以外開封厳禁――
と記された一文が、表面に記されている。
そして、A4サイズの封筒二枚の表面には、宛先を記したラベルが貼られているが、それぞれ、東京大学と御学堂大学の名称と住所が記されている。
封筒とその中身に一通り目を通すと、輝男は中身を封筒の中にしまう。
改めて、神妙な面持ちで理華とまっすぐ向き合う。
「何か、おかしなところはあったかしら?」
「いいえ。まったくありません」
「出願のための準備はしてあげたけど、ここから先は天江君自身の手でやって」
「はい、わかってます」
担任と教え子はこれまでにない真剣な様子で言葉を交わす。
すると、理華は心配するかのような表情を輝男に見せる。
「東大でも御学堂大でもどこでもいいから……必ず、受かって」
痛切な調子で恩師が精一杯の励ましの言葉をかけると、
「はい。俺、頑張ります」
神妙な面持ちを崩さずに、輝男がすぐに言葉を返す。
封筒を抱えながら席を立ち、そのまま教室を後にしていく輝男を、理華はわずかでも振り向こうとしない。
憂いに満ちた面持ちをうつむかせたまま、深くため息を付く。
可愛い教え子がプレッシャーにさいなまれながらも本番に臨むべく一歩、前へと踏み出そうとする姿を見て、憂いを募らせずにいられなかった。
理華もまた、輝男が無事に大学に進学できることを強く願うが故に、彼のことで憂慮を振り払えずにいる。
輝男は東大、御学堂大への出願を進ませつつも、学校の授業、受験勉強も今まで通りに進ませた。
依然としてプレッシャーは重くのしかかっているが、結果の是非に関わらず、ここまで来たら前へ突き進むしかないと自分に言い聞かせながら、受験勉強を進める。
それは、同じ学校の桜月、葵、小中たち、そして、予備校で一緒に講義を受ける千早も同じだった。
時は過ぎ、日にちは経ち、最大の試練が日一日と迫って来ている……
「ただいま」
リビングのドアが外から開かれ、制服姿の輝男がリビングに入って行く。
その日も、学校の授業を終えたその足で予備校に向かい、最後まで講義を受けていたのだ。
テーブルの前に腰を下ろすと、一人分のメニューが並べられている。
リビング内の時計の針は九時を指している。
既にパジャマに着替えている真純が真向かいに腰を下ろし、カップに注いだ紅茶を口にしている。
しかし、輝男は真向かいの義母に構わず、一人きりの夕食を進ませる。
十数分程経った頃、ご飯やおかずが盛られた茶碗や皿はすべて空になった。
夕食を終え、満腹でもしたかのように深い吐息を漏らすと、ようやく真向かいにいる義母に目を向ける。
「ごちそうさま。今日の夕飯もとても美味しかったよ」
夕飯を作ってくれた義母に向かって、感謝の言葉をかける輝男。
すると真純は、手元に置いてある一枚の封筒を輝男に差し出す。
「義母さん、これは?」
「後で確認して」
輝男からの問いかけに、真純は言葉少なく言い返す。
輝男は手渡された封筒を表裏続けて見る。
表面には、輝男の名前と住所が手書きで記されている。
そして裏には、御学堂大学の名称と住所が記されている。
(御学堂大学……? まさか……!?)
封筒の表面、裏面を続けて見ると、輝男は思わずその場で驚きの表情を見せる。
輝男の自室に煌々と明かりが灯る。
夕食を終え、風呂に入り、パジャマに着替えた輝男は、机の前で腰を下ろしながら、机上から封筒を拾い上げる。
さっき、真純から手渡された封筒を開封し、中にあるものを取り出す。
すると、封筒の中から、一枚の用紙と手のひらサイズのカードが出て来た。
輝男はすかさず、封筒の中にあった用紙を開き、目を通す。
用紙の一行目には、
御学堂大学 一般入学試験の案内――
と、明朝体で記された見出しがある。
そして、すぐに、封筒の中にあったカードを手にし、凝視する。
カードの表面には、バーコードと英数字が並んで表記されている。
GUE-20200194――
(これが俺の受験番号……!?)
カードに記された数字――自分の受験番号を見ながら、輝男は内心、驚きの声を上げる。
今、輝男が受け取ったのは、御学堂大学の入試案内と自身の受験票となるカードであった。
今の時点では御学堂大学だけだが、一番の難関を突破できたことに衝撃を隠せないでいる。
◇ ◇ ◇
快晴の空が都心を見下ろしている。
冬のただ中であるかを示すかのように木枯らしが吹きすさぶ中、一台の車がとある建物の前に停まる。
真純が運転席でハンドルを握り締める横で、助手席から輝男が降り立つ。
間も無くして、後部座席から瑠奈が降り立つ。
二人の目の前には、立派な門と塀に囲まれた荘厳な建物が近くに見えた。
門のすぐ横には、
御学堂大学――
と、建物の名称を刻んだ縦書きの看板が掲げられている。
「ここが御学堂大学か……」
「すごぉい……」
御学堂大学学舎の立派なたたずまいに、輝男と瑠奈は声を揃えて驚嘆する。
そこへ、車から降りて来た真純が輝男の横に寄り添って来た。
輝男はすぐに、横にいる真純の方を振り向く。
真純は輝男と向き合うと、一呼吸、間を置いた後、笑みを浮かべながら口を開く。
「輝男さん……頑張ってね……」
「うん……」
笑みを浮かべて言って来る真純に、輝男も笑みを浮かべて応じる。
すると、
「お義兄ちゃん」
後ろから、輝男に呼びかける声が聞こえて来た。
輝男が後ろを振り替えた途端、瑠奈が真正面から輝男の頬にキスをして来た。
「お、おい、瑠奈」
「お義兄ちゃん……絶対、合格してよ」
不意打ちも同然のキスに戸惑う輝男に、瑠奈は今までにない真剣な表情を義兄に見せる。
義妹の精一杯の励ましを目の当たりにすると、
「あぁ……俺、頑張るよ」
輝男は笑みを浮かべて、義妹に言葉を返す。
すると、輝男は正面へと向き直し、御学堂大学の正門へと入って行く。
不安を隠せずに見守る義母と義妹の方を振り返らず、まっすぐに敷地内に入り、そのまま学舎へと消えて行く。
輝男は今、大学入学共通テストに続く次なる試練へと、臆することなく突き進んでいく……