輝男は今、ベッドの上で仰向けに寝そべっている。
机の上に置いてあるデジタル式の目覚まし時計は、“AM.0.15”と表示されている。
既に真夜中に達している時刻だが、輝男はまだ寝付けないでいるようだ。
引き締まった裸体をさらけ出しているが、熱の収まらない素肌は汗が乾き切っていない。
寝付けずにいる輝男の顔は、心地良い疲労に浸っているかのようだ。
そのすぐ横には、抱き付きながら輝男の裸体に密着するもう一つの裸体がある。
あどけない美貌を恍惚に火照らせながら、桜月がニコッとほほ笑む。
「日向……さっきはさすがに痛かったか?」
輝男はさっきのセックスで桜月を痛がらせたことを、今更ながらに詫びる。
輝男の今の詫びを聞くと、桜月はほほ笑みながら首を横に振る。
「気にしないで。痛くなかったと言えば嘘になるけど……
……でも、天江君に抱かれていると思うと、痛みよりも気持ち良さの方が大きくなって……」
ささやくように優しく言って来る桜月に、輝男は、彼女の頭を優しく撫でる。
「俺、君のような素敵な娘に巡り会えて、嬉しく思うよ」
「私も……」
桜月はそう言葉を返しながら、輝男の左胸に耳を当てる。
「輝男君の鼓動……ハッキリ聞こえてる……」
笑顔を絶やさずに言う桜月に、輝男もつられてほほ笑む。
そして、二人はそのまま眠りにつく。
三度もセックスをしたせいで体力を消耗したのか、すんなりと寝入っている……
◇ ◇ ◇
心地良い日差しが、窓をすり抜けて部屋の中に差し込まれる。
窓の外には、快晴の青空がどこまでも広がっている。
高々と昇る朝陽が、輝男たちのいるタワーマンションを見下ろしている。
日差しが差し込む中、輝男と桜月は共に生まれたままの姿で密着しながら、ベッドの上で眠り続けている。
二人とも安らかな寝顔を見せながら、静かに寝息を立てている。
机上の時計は“AM.7.50”と表示されている。
もう起きてもおかしくない時刻なのに、二人とも目を覚ます気配を見せない。
すると、ドアが外から開かれた。
ドアの開く音に、輝男と桜月は依然として目を覚まそうとしない。
しかし、眠り続ける輝男と桜月に構わず何者かが部屋に入る。
「おはよう、お義兄ちゃん!」
制服姿の瑠奈が、部屋に入るなり元気な声をかけて来た。
しかし、次の瞬間、目の前にある光景を見て、思わず愕然とした。
瑠奈の目には、最愛の義兄と見たこともない別の少女が一緒になって寝ている姿があった。
一瞬の沈黙の後、
「きゃあ――――――!!」
瑠奈の口からけたたましい悲鳴が聞こえて来た。
すると、閉ざされた輝男のまぶたがかすかに震え出した。
うっすらと目を開け、半ば寝ぼけながら体を起こす。
「…ったく、何だよ、うるさいなぁ……」
寝ぼけ眼でぼやくと、すぐに目の前にいる者の存在に気付き、驚愕した。
「る、瑠奈……!!」
ようやく義妹が目の前にいるのを認めると、冷や水をぶっかけられたかのように意識を覚ました。
驚愕する輝男の横で、桜月もまた目を覚まし、体を起こした。
桜月もまた目の前の瑠奈を認めると、驚きと羞恥に顔を赤らめ、裸の胸を布団の毛布で隠した。
「ア、アンタ、誰なの!?」
瑠奈は険しい表情で桜月をにらみながら、彼女に鋭くたずねる。
そこへ、長袖のニットセーターにロングスカートといういで立ちの女性が入って来た。
「まぁ、どうしたの? 瑠奈ったら朝からそんなに騒いで」
瑠奈の横に立つ真純が、苦笑混じりに言葉をかける。
「か、義母さん……!」
真純がやって来たのを認めて、困惑し、すがるような面持ちを見せる輝男。
助けてくれと言わんばかりの義息に、義母は柔和な笑みを浮かべる。
「義母さんたち、向こうで泊ってるはずじゃなかったの?」
「今日の午後からお葬式があるから、その支度で一旦、戻って来たの」
真純はそう言い返すと、輝男の横にいる桜月に目を向けた。
真純の目に、恥ずかしさと気まずさが混ざり合った桜月の顔が映る。
「あなた、輝男さんのお友達なの?」
「……は、はい……お邪魔してます……」
優しく問いかける真純に、桜月は萎縮しきった様子で深々と頭を下げる。
ただただ謝る桜月の横で、輝男は気まずそうに沈黙する。
全裸姿で同衾しているところを抑えられた以上、下手な言い訳はできないと観念でもしたのだろう。
そんな二人を前に、真純は柔和な笑みを絶やさない。
しかし、横にいる瑠奈は怒りに満ちた面持ちでムッと口を閉ざす。
◇ ◇ ◇
一時間ほど経った頃――
リビング内のテーブルで、輝男と桜月、そして、真純と瑠奈が向き合っている。
もちろん、輝男は私服、桜月は制服に着替え直している。
申し訳なさ、気まずさをさらす輝男と桜月に対して、真純は穏やかな表情を見せ続ける。
そして、瑠奈は依然として不機嫌な表情を絶やさない。
「じゃあ、あなた、うちの義息(むすこ)とは同じクラスなのね?」
「はい。輝男君は勉強ができるだけじゃなくて、とても真面目で思いやりがありまして……」
真純と桜月がそう言葉を交わすと、輝男が口を挟む。
「昨日、一緒に勉強しようと思って日向さんを家に連れて行って、そのまま……」
拙いながらも事情を説明しようとすると、
「勉強そっちのけでずっとエッチしまくってたんでしょ?」
瑠奈が唇を尖らせながら話に割って入る。
「おい、瑠奈!」
輝男が表情を険しくさせながら、瑠奈をたしなめようとすると、
「信じられないわ! アタシやママがいながら、他の女の子にうつつを抜かすなんて!」
瑠奈は怒りに満ちた形相で輝男をにらみながら、唇を尖らせて言い返す。
「お前、何を言ってるんだ!? そもそも、お前や義母さんとの関係は…」
「お義兄ちゃんが抱いていいのは、瑠奈とママだけなんだから!」
声を張り上げる瑠奈の今の一言に、輝男のみならず桜月も愕然とした。
「お義兄ちゃんが抱いていいのは…って……それってどういうこと!?」
困惑の念を隠し切れないまま、桜月は輝男と瑠奈を交互に見ながら言う。
「アタシ……お義兄ちゃんに“初めて”をあげて……それから何度もお義兄ちゃんに抱かれたんだから!」
困惑する桜月をにらみながら、瑠奈は最もあってはならないことを平然と言ってのけた。
禁忌を暴露する後ろめたさの代わりに、自慢、誇りにも似た気持ちが今の瑠奈の言葉からうかがわれる。
瑠奈の今のカミングアウトに、桜月は愕然としたまま言葉を失う。
輝男は、瑠奈と桜月を交互に見ながら困惑の度合いを増していく。
すると、
「輝男さん、悪いけど、ちょっと付き合ってもらえないかしら?」
真純が柔和な笑顔を見せながら言葉をかける。
「でも、義母さん……」
「ほんの少しだけでいいの。
それに、今、この場は、瑠奈と日向さんの二人だけにした方がよさそうだから」
輝男のためらいを、真純は笑みを絶やさずにはね付ける。
口調こそ柔らかいが、有無を言わせぬ調子を込めているのを、輝男はすぐに認めた。
気まずい表情を見せながら席を立つと、輝男は真純と共にリビングを出た。
リビングのドアが閉まる音を聞くと、桜月はハッと我に返ったかのような顔を見せた。
瑠奈と二人きりになったせいもあってか、厳しい表情を見せる。
恐らく、輝男に対しては一度も見せたことの無いような表情を、彼の義妹に対して鋭く見せる。
「あなた……お義兄ちゃんに抱かれたって言ったけど……それって冗談なんでしょ?」
信じられないと言わんばかりに鋭く問いかける。
「アタシがこんなこと、冗談で言うわけがないでしょ!」
瑠奈は険しい表情で桜月をにらみ返しながら、鋭く言葉を返す。
「もし、本当だと言うのなら、どうしてお義兄さんに抱かれたの!?
あなた、そのことが何を意味するのかわかってるでしょ!?」
「アタシだってちゃんとわかってるわよ!
兄と妹がエッチするなんて、絶対にあってはならないって……!
でも、それでも、アタシは輝男お義兄ちゃんが大好きだから!
お義兄ちゃんが好きだからこそ、アタシはこの体も純潔も、皆、お義兄ちゃんにあげたんだから!」
「お義兄さんが好きなのはわかるにしても……
……そのためにタブーを犯してしまったら……得るものよりも失うものの方が大きいわ」
「アンタみたいな薄汚いメス犬に、大好きなお義兄ちゃんを簡単に奪われるくらいなら……
タブーの一つや二つを犯すくらい、アタシにとっては何にも怖くないわ!」
「う、薄汚いメス犬……!?」
瑠奈の今の悪罵に、桜月は愕然と言葉を失いを、身を震わせた。
わずかな沈黙の後、桜月はキッと鬼の形相で瑠奈をにらみ付ける。
「大好きな人の妹さんだから、何とか気を遣ったつもりだけど……
あってはならないタブーを犯すことを何度も思わない常識知らずにけなされる筋合いは無いわ!」
桜月は腹の底から怒りの声を張り上げ、瑠奈にぶつける。
近親相姦の禁忌に動じないばかりか、自分と輝男との関係をけなす最愛の人の義妹に、桜月は自尊心を踏みにじられたかのような不快感と怒りを覚えずにいられなかった。
「瑠奈に輝男お義兄ちゃんを返して!」
「返すも何も、近親相姦を繰り返して何とも思わないあなたが、そんなことを言えた義理なの!?」
「だって……だって……! 輝男お義兄ちゃん……とても優しくてカッコよくて……!
瑠奈にとって、この世で一番大切な人なんだから!!」
瑠奈は声を震わせながらも、怒りに声を張り上げる。
瑠奈の今の言葉を聞くと、桜月は唇を閉ざし、無言で瑠奈をにらむ。
桜月の目に、怒りをあらわにしながらも目元に涙をためる瑠奈の顔が映る。
「瑠奈……真純ママの連れ子でこの家に来て、お義兄ちゃんの義妹(いもうと)になったけど……
例え、兄妹でも何でもない赤の他人であっても、アタシ、輝男お義兄ちゃんのこと、好きになってたわ!
お義兄ちゃんの優しさが無かったら、瑠奈、とっくに身も心もボロボロになってたんだから!!」
声を上げて痛切な思いを吐露する瑠奈。
身を震わせながら、目元にたまる涙を必死にこらえようとする。
涙をこらえながら怒りを込めてにらむ瑠奈に、桜月は厳しい表情と沈黙で応じる。
しかし、やがて固く閉ざした唇を開く。
「……タブーを犯してまでも、ずっと傍でつなぎ止めておきたい……
……あなた、そんなにお義兄さんのことを強く愛しているのね……
そして、お義兄さんも、あなたのその気持ちを汲んで、あえてタブーを犯して……
ホントに素敵で立派な人ね……あなたのお義兄さん……」
桜月は努めて感情を抑えながら、感嘆の念を瑠奈に向かって言う。
今の桜月の言葉には、皮肉の類はまったく認められない。
裏表の無い正直な気持ちを愛する人の義妹にぶつける。
「あなたにとって素敵なお義兄さんであるのと同じように……
私にとっても、輝男君は、頼りがいのある優しくて素敵な人だわ……
……少なくとも、“初めて”を捧げる相手としては、十分すぎるくらいにふさわしいわ……」
桜月がそう言葉を続けると、
「え……?」
瑠奈は信じられないと言わんばかりに驚きの顔を見せる……
◇ ◇ ◇
瑠奈と桜月が激しくやり合っている頃――
輝男と真純は真純の寝室で向き合っていた。
「じゃあ、あの日向さんという人とは、クラスメートでありながらも、恋人同士として付き合っているわけなのね?」
「いや、恋人同士というわけじゃないけど……
二人きりの時はそれに近いような付き合いをしてて……」
柔和な笑みを絶やさずにたずねる真純に、輝男はやや気まずそうに言葉を返す。
「皆の目を気にして、人前では余り恋人のように振る舞わないようにしている……というわけね?」
「まぁ……そんなところ……かな?」
そう言葉を濁す輝男は、真純が柔和な笑みを見せ続けているのを認める。
「……ダメ……かな? 僕と日向さんの関係……」
「何を言うの? 義母さん、全然、反対じゃないから。
余り羽目を外さず、誠意を込めてお付き合いし続けるのであれば、喜んで認めるわ」
真純の今の言葉に、輝男はようやく安堵の表情を見せる。
すると、
「義母さんや瑠奈、それに先生との関係に比べれば、十分に許されることだから」
間を置くこと無く、真純はそう言葉を続けた。
真純の今の言葉に、輝男の表情から安堵の念がすぐに失せた。
地上へ這い上がれたと思った瞬間、奈落の底に突き落とされたような衝撃が輝男を襲った。
唖然とした表情を見せながら真純と向き合う。
「せ、先生との関係って……?」
輝男が唖然としながら問いかけると、
「この前、担任の先生がうちにお邪魔したでしょ?
その時、先生があなたと事に及んだことを教えてくれたの」
真純はわずかでも揺るがない調子で、輝男にそう言ってのけた。
最も隠したかったことをあっさりとバラされて、輝男は愕然とする余り言葉を失う。
愕然としたまま黙り込む義息を見ると、真純は顔色一つ変えず、言葉を続ける。
「義母さんも瑠奈も、あなたとあってはならない関係を結んでいる手前、先生のことを強く咎めなかったわ。
ただ、今まで通り、義息(むすこ)のことをよろしくお願いします……
色々と大変かもしれませんけど、そのことは是非とも、秘密にしていただくように……
そう言ってあげたわ……」
真純はそう言葉を続けると、一呼吸、間を置いた後、またも口元を動かす。
「……輝男さん、あなた、クラスメートの人だけでなく、担任の先生とも体を重ねたのね……?」
真純の今の問いかけに、輝男は気まずい顔で黙ってうなずく。
「いつまでも気落ちしないで。
義母さん、そのことであなたを責めるつもりはまったくないから」
柔和な笑みを絶やさずに言葉をかけたと思った刹那、真純はそのまま表情を切り替えた。
一転して、真剣な面持ちを見せる真純に、輝男はつい緊張してしまう。
「……あなた、日向さんだけでなく、雨宮先生との関係も大切にするつもりなの……?」
「……うん……。二人とも、仲良く付き合っていきたい人たちだから……」
目の前の真純につられるように、輝男もまた真剣な面持ちを見せながら言う。
「あなたがそのつもりなら、義母さんはあえて釘を刺したりしないわ……
単なる使い捨てのように扱うことなく、自分と同じ一人の人間としてそれ相応にちゃんと付き合うのであれば、誰と関係を結ぼうと、義母さんは決して反対しないから。
あなたもそのつもりなんでしょ?」
「もちろんさ。僕は誰一人、仲良く付き合う人を簡単にポイ捨てなんかしないから」
「……でも、これだけは絶対に肝に銘じておいて……
……あなたは、最も厳しい選択肢を選んだことになるのよ……
この先、もしかしたら、色々と大変なことがあるかもしれないけど……
あなたの今のその気持ち、絶対に捨てないで……」
今まで見せたことの無い真剣な面持ちで、強く念を押すように言葉をかける真純。
真純の言わんとしていることを理解したのか、輝男は真剣な表情を崩さずに首を縦に振る。
すると、真純はまた柔和な笑顔を輝男に見せた。
「さぁ、もう、瑠奈や日向さんのところに行っていいわよ」
真純が承諾の言葉をかけると、輝男はそのまま寝室を後にする。
輝男が寝室を去ると、真純は傍に置いてあったスマートフォンを拾い、誰かと電話し出す……
◇ ◇ ◇
輝男が再びリビングに入った。
すると、そこには桜月一人が腰を下ろしている。
そこにいたはずの瑠奈は、既に影も形も無い。
「瑠奈は?」
「お葬式の支度があるからと言って、自分の部屋に戻ったわ」
真向かいの席に座った輝男に、桜月はそう答えた。
桜月は平素の表情を見せているものの、どこか気まずさが見え隠れしているようだ。
わずかな沈黙の後、輝男が口を開いた。
「何か、随分と揉めたみたいだけど……」
「ヤダ、聞こえてたの?」
輝男の今の言葉に、桜月は気まずそうにうつむく。
桜月はそのまま唇を固く閉ざし、輝男の方を見ようとしない。
一見、無表情のように見えるも、どこか曇りがちな顔をしている。
輝男は桜月の今の表情を見ると、
「すまん……。隠すつもりは無かったんだが……」
気まずい面持ちで詫びの言葉をかけようとする。
すると、桜月はうつむいたまま、顔色一つ変えず、口を開く。
「何も謝ることなんてないじゃない。別に悪いことをしたわけじゃないでしょ?」
淡々と言う桜月の言葉が、輝男の耳に流れ込む。
輝男が気まずい顔で黙ると、桜月はそのまま言葉を続ける。
「妹さん……あなたのことを好き過ぎて、あんなことをしてしまったみたいだし……
天江君も妹さんの気持ちを知って、ダメだとわかっていながら体を重ねちゃったんでしょ?」
桜月の今の言葉に、輝男は無言でうなずく。
しかし、すぐに重く閉ざした口元を開く。
「瑠奈のヤツ、生意気で気が強いところがあるけど……でも、とても可愛い妹でもあるんだ……
可愛くて、積極的で、その上、ほんの数年前までは赤の他人でしか無かった血のつながらない妹……
だから……つい……」
輝男の口から、義妹を抱いたことに対する今更ながらの後悔の念が漏れ出た。
桜月は義妹を犯したことに対する輝男の罪悪感を耳にすると、
「……私、さっきまで妹さん……瑠奈ちゃんと激しく争ってたけど……
……瑠奈ちゃん、本気だった……」
うつむきながらも神妙な面持ちで言葉を返した。
輝男は桜月の今の言葉を聞くと、驚きながら桜月を見据える。
「大好きなお義兄さんを渡すまいと、本気でぶつかって来たわ……!
もし、ちょっとでも自分が引いてしまったら、すぐにお義兄さんを取られてしまう……
一番、大切なものを奪われてしまう……
それが嫌だから、自分が不利なのを承知で、私を相手に激しくぶつかったんだわ……」
淡々と言い連ねる桜月に、輝男は神妙な面持ちを見せる。
さっきまで激しく瑠奈と衝突していながらも、彼女の内側に潜む思いを見抜いたのだろう。
実際のところはどうなのかわからないが、少なくとも桜月は、近親相姦も辞さない輝男の義妹の思慕が強すぎるくらいに本気であることを理解したのだろう。
輝男は桜月の今の言葉を聞くと、一呼吸、間を置いた後、口を開く。
「瑠奈……小さい頃に、お母さん、お父さんと、実の親を続けて亡くしちゃって……
もし、真純義母さんがいなかったら、アイツ、今、どうなっていたか……
少なくとも、俺と義兄妹(きょうだい)になっていなかったばかりか、まったくの赤の他人同士……
……いや、それよりももっとひどい境遇に追いやられていたのかもしれない……」
輝男は神妙な面持ちを見せながら、沈痛な調子で瑠奈のことを語り出す。
彼の表情と言葉からは、義妹に対する少なからぬ憂慮が垣間見える。
すると、桜月がようやく顔を上げた。
桜月の目に、神妙な面持ちを見せる輝男の姿が映る。
「輝男君って、本当に優しいのね……
妹さんの寂しさを受け取るために、あってはならないことをあえて犯す覚悟をするんだから……」
「俺だって、できることなら、義妹(いもうと)を犯すようなことなんかしたくない。
俺も瑠奈も、いつまでもそのような関係でい続けられるはずがない。
……かと言って、アイツを見放すようなマネなど絶対にしたくない……」
輝男はそう言うと、桜月をまっすぐに見つめながら、
「もちろん、君との関係も、これまで同様に大事にしたい……」
真剣な調子で、桜月にそう言葉をかける。
義妹と同級生を同じように愛する……
そんな輝男の思いに、桜月は神妙な面持ちと沈黙で応じる。
すると、リビングのドアが外から開いた。
ドアの向こうから、真純と瑠奈が一、二歩、リビング内へと足を踏み入れる。
二人とも黒の喪服に着替えている。
「じゃあ、輝男さん、これから式場に向かうから、後はお願いね」
「あ、あぁ……二人とも、気を付けて」
輝男が言葉を返すと、真純は踵を返してリビングを出て行く。
瑠奈もまた、義母の後を追うようにしてリビングを出ようとする。
しかし、次の瞬間、後ろを振り返り桜月の方を向くと、
「ベェ―――だ!!」
憎々しげに顔を歪めながら、桜月に向かって舌を出した。
「おい、瑠奈!」
桜月に対するあからさまな敵意に、輝男は声を上げて、瑠奈に怒る。
しかし、瑠奈はそのまま真純の後を追ってリビングを出た。
「まったく、瑠奈のヤツ……」
輝男は苦い顔でため息を付きながら、義妹の不躾な態度に気分を害する。
すると、どこか気まずい沈黙がリビングを覆っていく。
再び、二人きりとなった輝男と桜月は、半ば困惑したような顔を見せる。
これから、どうしたらいいのかわからないといった雰囲気をかもし出す。
「どうしようか……?」
困惑した顔つきでたずねる輝男に、桜月は半ば恥ずかしそうに顔を赤くする。
「このまま帰るんだったら、家まで送ってやろうか?」
「あ、いいよ、別に。自分でちゃんと帰れるから」
「でも、もうしばらく厄介になるのも……」
「私、全然、構わないよ。それより、昨日の勉強の続きでもしようか」
輝男と桜月は、どこかぎこちない会話を交わす。
すると、向こうの方から呼び鈴の音が聞こえて来た。
輝男は呼び鈴の音を聞くと、席を立ち、玄関の方へ向かった。
玄関ドアを開けた途端、輝男は驚きの表情を見せた。
輝男の視線の先には、私服姿の一人の女性が立っていた。
「こんにちわ。また来ちゃった」
「せ、先生!!」
驚く輝男に笑顔を見せながら挨拶したのは、私服姿の雨宮理華であった。