※この作品はR-18です。

天江輝男の日常   作:原野イアン

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天江輝男の瀬戸際? ●

 明朝学園高校・二年A組の教室に、輝男と桜月、そして理華の姿がある。

 他に生徒の姿は無く、三人だけの教室はシンと静まり返っている。

 教室内に掛かっている時計は、三時四十分を指している。

 前後に向き合うように重なった机を挟んで、輝男と桜月、そして、理華が向き合っている。

 緊張を隠せない輝男と桜月を、伊達メガネをかけ、フォーマルウェアをビシッとまとう理華が厳しく見据える。

 

 「先生、一体、大事な用件って何ですか?」

 

 張り詰めた空気の中、輝男が理華にたずねる。

 理華は厳しい面持ちを崩さず、二人に向かって口を開く。

 

 「あなたたちもわかっている通り、再来週から期末考査が始まります。

 他の生徒たちもそうですが、あなたたちも前回の中間考査よりも更に上の成績を目指して頑張って欲しいんです」

 

 理華の厳しい言葉を、輝男と桜月は黙って聞き入る。

 緊張した面持ちでまっすぐに見つめて来る二人を向けて、理華は話を続ける。

 

 「特にあなたたち二人は、今度の期末考査、是非とも前回よりも総合成績順位を上げてもらわなくてはなりません」

 

 「どういうことですか?」

 

 桜月が今の担任の言葉の対して問いかけると、

 

 「野暮なことを言わせないで。あなたたち自身がよくわかっていることでしょ?」

 

 理華は鋭い口調で返答をぼやかす。

 理華の今の言葉に、輝男と桜月は互いに顔を見合わせる。

 しかし、理華が今、言ったことの意味がすぐにわからないのか、互いに首を傾げるだけだ。

 そんな二人を見て、理華は呆れ顔でため息を付く。

 

 「一体、どうしたんですか、先生?」

 

 自分たちを見て呆れる理華に、今度は輝男が問いかける。

 

 「あなたたち、今まで、何回、エッチしたの?」

 

 理華は呆れ顔を崩さず、ため息交じりに問い返す。

 今の理華の問いかけに、輝男と桜月は共に顔を紅潮して言葉を詰まらせる。

 桜月は恥ずかしそうに赤らんだ顔をうつむかせ、指を折りながら数字を数える。

 何かを思い出しながら数字を数えるも、すぐに輝男の方を振り向く。

 

 「……何回、シちゃったっけ……?」

 

 桜月が困惑しきった様子で問いかけると、

 

 「回数なんて、一々、数えてないよ。でも、結構、ヤっちゃったけど……」

 

 やはり困惑しきった顔を見せながら、輝男が言い返す。

 今の二人のやり取りを見て、理華は呆れ果てたかのように深くため息を付く。

 

 「その様子だと、数え切れないくらいにヤりまくったみたいね……」

 

 呆れ果てた調子で言葉をかけると、また厳しい表情を二人に見せる。

 

 「いいかしら? あなたたちは、お互いに好きだから何度もエッチしてる間柄だけど……

 でも、それ以上に、日々、勉強に励まなければいけない身でもあるのよ。

 エッチに夢中になる余り、勉学がおろそかになり、成績が著しく下がるようでは話にならないわ」

 

 担任教師としての理華の鋭い言葉に、輝男と桜月は冷や水を浴びせかけられたかのように身を引き締まらせる。

 理華の厳しい表情と、輝男と桜月の緊張した面持ちが互いにまっすぐ向き合う。

 

 「天江君……今度の期末考査、もし、前回より成績順位が落ちるようなら……

 その時は、日向さんをはじめ、他の女の子たちとの関係……

 特にセックスを今後、一切、厳禁とします……!」

 

 真剣みを帯びて言って来る理華の通告に、輝男は思わず愕然となる。

 

 「エ、エッチするなってことですか……!?」

 

 愕然と問い返す輝男を無視するかのように、理華は桜月に目線を向ける。

 

 「日向さん、あなたもですよ」

 

 「わ、私もですか!?」

 

 理華の今の一言に、桜月は顔を赤らめながら声を上ずらせる。

 有無を言わせぬ担任からの通告に、輝男と桜月は言うべき言葉がまったく出てこない。

 

 

 数分後――

 

 ひと気の無い静まり返った廊下に、足音が小さく重なって響く。

 

 「正直、厳しいな……。この前の中間考査でも精一杯だったのに」

 

 「私も……。前回の順位をキープするのさえ厳しいのに……」

 

 輝男と桜月は並んで歩きながら、共に困り果てた顔でため息を付く。

 今しがた、理華が言い放った言葉が、二人の心に重くのしかかっている。

 

 「……でも、先生の言うことも一理あることは認めざるを得ないな……」

 

 「うん……。勉強をおろそかにしているつもりは無いけど……

 ……でも、気が付けば、輝男君とのエッチに夢中になってることは確かだし……」

 

 一言、二言、そう言葉を交わすと、

 

 「……今度の期末考査、今まで以上に頑張るしか無いな……」

 

 「そうね……。成績が下がったせいでエッチ禁止だなんて、絶対、嫌だから」

 

 意を決したかのように言葉を続ける。

 輝男も桜月も、先行きは不透明ながらも、各々、我が身を奮い立たそうとする……

 

 ◇ ◇ ◇

 

 漆黒の夜空が、輝男の住むタワーマンションを見下ろす。

 天江家のリビングでは、真純と瑠奈が、並んでソファーに腰を下ろしている。

 二人は一緒にテレビドラマを見ているが、平素の表情をしている真純に対して、瑠奈はつまらなさそうな顔をしている。

 真純は瑠奈の曇りきった顔を一瞥すると、

 

 「どうしたの、瑠奈?」

 

 すかさず問いかける。

 瑠奈は真正面に映るドラマの映像を見ながら口を開く。

 

 「お義兄ちゃんの部屋、ドアに“絶対立ち入り禁止!!”って貼り紙が貼られたの……」

 

 憂いを帯びた瑠奈の声が、真純の耳に流れる。

 

 「輝男さん、期末考査が近いから一生懸命、勉強してるのよ」

 

 「それはわかってるんだけど、あんなこと今まで無かったわ」

 

 「どうしても頑張らなきゃいけない事情があるのよ。だから、絶対、邪魔しちゃダメ」

 

 「はぁい」

 

 優しく言い聞かせる真純に、瑠奈は憮然とした顔で不承不承ながらも応諾の返事をする。

 

 

 その同じ屋根の下、輝男は一人、自室で黙々と勉強を続けている。

 教科書、参考書を交互に見ながら、ノートに筆を走らせる。

 

 (別に、女の子たちといっぱいエッチしまくりたいわけじゃないけど……

 勉強や成績のせいで、頭から抑え付けられるかのようにエッチを禁じられるのは、さすがに受け入れられない……

 そもそも、誰かに勝ちたいとか、アイツに負けたくないという気持ちから、試験で高い成績出してるわけじゃないけど……

 でも、どうせ試験を受けるなら、少しくらいは前よりも順位を上げたい……)

 

 真剣な表情の奥で、今度の期末考査に臨む気持ちを率直に吐露する。

 試験では常に学年上位の成績を誇る輝男だが、もちろん、何もしないで高い成績を出しているわけでは無い。

 日々、たゆまぬ勉強――時折、セックスを挟むが――があってこそ、学年上位の成績をキープしているのだ。

 しかし、今回は、今まで以上に必死に試験勉強に臨まなければならない。

 孤独と静寂、そして、張り詰めた空気が、黙々と勉強を続ける輝男の周りを覆う。

 すると、

 

 『輝男さん、お夜食、ここに置いておきますからね』

 

 ドアの向こうから、柔和な女性の声が聞こえて来る。

 しかし、輝男は、ドアの向こうの声など聞こえなかったかのように、机上の本やノートに目を向け続ける。

 一方、ドアの外側では、真純が小さな盆をドアのすぐ真ん前に置いた。

 盆には、カップに注がれたホットコーヒーとフランクフルトソーセージを挟んだホットドッグサンドが置いてある。

 ドアの向こうから流れる沈黙に、真純はまったく気分を害する様子を見せない。

 穏やかな表情で唇を閉ざしながら、その場を静かに去って行く……

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一日、二日と日は流れ、期末考査まであと一週間と迫った頃――

 

 夏用の制服である白の半袖ワイシャツに赤のスクールネクタイ、チェック柄のプリーツスカートといういで立ちの桜月が、校舎内の廊下を一人、歩いていた。

 階段に差し掛かり、下の階に降りようとした刹那、桜月はその場で足を止めた。

 

 (あれは……?)

 

 桜月が見下ろす先には、階段の踊り場で、一人の女子生徒と向き合っている輝男の姿があった。

 同じく、夏用の制服である白の半袖ワイシャツに赤のスクールネクタイ、濃紺のスラックスといういで立ちの輝男は、平素の表情で件の女子生徒と向き合っている。

 

 「ねぇ、天江君……折り入って、お願いがあるんだけど……」

 

 同級生と思しきその女子生徒は、ほんのりと顔を赤らめながら、輝男に話を切り出す。

 

 「アタシと……付き合ってくれないかしら……?」

 

 「え?」

 

 「それから……もし、良かったら……アタシの“初めて”も…」

 

 恥ずかしそうにか細い声で女子生徒が話を続けると、

 

 「ごめん」

 

 輝男は申し訳無さそうに、断りの返事を差し挟んで来た。

 輝男の今の返事に、女子生徒は驚きながら輝男と向き合う。

 頬を赤らめながら、困惑したかのように見つめる女子生徒の顔が、輝男の目に映る。

 

 「どうして……?」

 

 「せっかくで悪いけど、俺、今は一人でいたいから」

 

 輝男は表情を曇らせながらも、率直に拒絶の言葉を返す。

 

 「それに、今、期末考査が近いから、試験勉強に集中しなきゃいけないし……」

 

 「じゃあ、期末考査が終わったら考えてくれるかしら?」

 

 女子生徒の今の問いかけに、輝男はすぐに首を横に振る。

 

 「君の気持ちは嬉しいけど……

 俺と君は、恋人同士よりも同級生のままでいた方が、お互いのためになるから」

 

 輝男は丁重に言葉を返すと、彼女を残し、一人、階段を上がっていく。

 上階に着くとすぐに、窓際に立つ桜月の姿を認めた。

 桜月は窓の外の光景を眺めながら、

 

 「あの娘、せっかく勇気を出して言ってくれたのに……」

 

 まるで、独り言のようにつぶやく。

 輝男は桜月の今のつぶやきを聞くと、

 

 「さっきの……見てたのか……?」

 

 気まずそうな顔で桜月に言葉を返す。

 桜月は輝男の方を振り向くと、そのまま笑顔を見せる。

 

 「わかってるわよ。天江君も、本当は気持ちを汲みたかったんでしょ?」

 

 笑みを絶やさずに言う桜月に、輝男は気まずそうに言葉を詰まらせる。

 

 「勉強に集中しなきゃいけないのはホントだけど……

 ……でも、もし、あの時、彼女の申し出を受け入れたら、他の娘も同じようにして来るかもしれないと思って……」

 

 「そんなに落ち込まないで。別に、あの娘に悪いことをしたわけじゃ無いから」

 

 桜月はそう言葉を返すと、突然、ハッと何かを思い出したかのような顔を見せた。

 

 「いけない! 図書室に用事があったんだわ!」

 

 桜月はそう言うと、慌てたかのようにその場を去って行った。

 去り行く桜月の後ろ姿を、輝男はほほ笑ましげに見つめる。

 

 

 三時間半たった頃、校舎にチャイムの音が鳴り響いた。

 チャイムが鳴り止むと、教室から生徒たちがぞろぞろと出て来た。

 今日一日の授業を終え、生徒たちは皆、下校の途に着こうとしている。

 他の生徒たちから少し遅れて、輝男が一階へと下りていった。

 さっきまで生徒たちがざわめいていた校舎は、今はシンと静まり返っている。

 一階に着き、生徒玄関に向かおうとした途端、

 

 「天江君、ちょっと」

 

 横から呼び止める声が聞こえて来た。

 輝男が振り返ると、真白がクスッとほほ笑みながら目の前に立っていた。

 真白は輝男の真ん前に近付くと、

 

 「天江君、もうすぐ期末考査だけど、勉強の方はちゃんとやってるかしら?」

 

 輝男に向かって勉強の進み具合をたずねる。

 

 「今のところ、何とか上手くやってます」

 

 輝男は迷うこと無く、真白に言葉を返す。

 すると、真白は笑みを絶やさずに、輝男の顔をジッと凝視する。

 

 「天江君……正直、勉強で相当、疲れてるんじゃないの?」

 

 そうたずねる真白の声は、どこか艶を帯びているように聞こえる。

 真白の今の言葉に、輝男は思わず戸惑いの色を浮かべる。

 

 「どうしたんですか? 藪から棒に」

 

 輝男がそう言葉を返すと、真白はすぐに輝男の股を制服のスラックス越しに撫でさすった。

 

 「せ、先生、やめて下さい!」

 

 輝男は顔を赤らめ、思わず声を上げる。

 困惑したかのように声を上げる輝男に向かって、真白は妖艶な笑みを見せる。

 

 「天江君、あなた、身も心も疲れているんでしょ? だから、先生がタップリ癒してあげる」

 

 真白は輝男の股を撫でさすりながら、艶やかな声で輝男にそうささやきかける。

 すると、輝男は勢い余ったかのように、真白を自分のもとから引き離す。

 

 「あ、天江……君……?」

 

 輝男の突然の行為に、真白は驚きを隠せないといった様子を見せる。

 驚く真白に向かって、輝男は厳しい表情を見せる。

 

 「すみません、那須先生。今はホントに勉強に集中したいんです!」

 

 厳しい表情を見せながらも、申し訳なさそうに言葉を返す。

 そして、真白を残してそのまま生徒玄関へと足早に進む。

 真白は、まるでその場に取り残されたかのように、大事な教え子の後ろ姿を呆然と見ている。

 すると

 

 「あなたも悪い人ね……」

 

 横から、半ばからかうかのような言葉が流れて来る。

 真白が振り向くと、理華が笑みを浮かべながら近付いて来た。

 

 「輝男君、必死に勉強、頑張ってるのを知ってて“ハニートラップ”を仕掛けるなんて」

 

 「ヤダ、もう、理華さんたら、人聞きが悪い」

 

 真白はすねたかのように、理華に言葉を返す。

 しかし、すぐに恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

 「天江君とは、最近、ご無沙汰だし……。彼も今、勉強でストレス溜まってるだろうから……

 お互いのためにもいいかな…と……」

 

 真白は口ごもりながらそう言葉を続ける。

 理華はそんな真白を見て、半ば呆れたかのような笑みを浮かべると、大きくため息を付く。

 

 「私たち教師が可愛い生徒にしばらくの“セックス断ち”を強いているのに……

 肝心の私たちがセックスにうつつを抜かすようでは、生徒たちに示しがつかないでしょ」

 

 やんわりとたしなめる理華に、真白は返す言葉が出て来なかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 漆黒の夜空がタワーマンションを見下ろす中、マンション内の自室で、輝男は黙々と勉強を続けている。

 今までに無い真剣な面持ちでノートに筆を走らせている。

 耳に掛けたイヤホンからは、流れるような英会話が聞こえて来る。

 机上にある小型のマイクロプレイヤーから流れる英語を聞きながら、英語の教科書、参考書に目を通し、ノートに書き込みを続けている。

 自室ドアの外側では、パジャマ姿の瑠奈が、心配そうにドアをまっすぐに見据えている。

 両手に持っている小さな盆には、ホットコーヒーを注いだカップと、分厚いベーコンにポテトサラダを挟んだ厚めのサンドウィッチを載せた皿が置いてある。

 

 「お義兄ちゃん、夜食…」

 

 ドア越しに言葉をかけようとすると、すぐ傍にいる真純が、上向きさせた人差し指を唇に当てるポーズを取った。

 静粛をうながすジェスチャーに、瑠奈は中途で言葉をかけるのをやめる。

 そして、盆をドアの前に置くと、真純と一緒にその場を去る。

 間も無くしてリビングに入ると、真純は瑠奈に向かって話しかける。

 

 「輝男さん、今が大事な時なんだから、静かにしなさい」

 

 「わかってるけど……。お義兄ちゃん、ものすごい神経、張り詰めちゃってるから……

 少しくらい、息抜きしないと、体、持たないんじゃないかと……」

 

 瑠奈は、試験勉強に集中する義兄に対する憂慮を、重い表情で訴える。

 

 「お義兄さんの心配をするのも結構だけど、自分の心配もしたらどうなの?

 瑠奈ももうじき期末テストがあるんでしょ?」

 

 落ち着き払った口調で言って来る義母に、瑠奈はウッと苦い顔を見せる。

 自分自身の痛いところを突かれてか、言うべき言葉が出ずにいる。

 その間にも、輝男は真剣な面持ちで勉強を続けている。

 瑠奈が用意してくれた夜食に、未だ気付くことは無い。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 雲一つ無い空に、朝陽が高々と昇る。

 暑い日差しが、一日の始まりを告げる街に注がれる。

 街外れの丘陵へと向かう道を、制服姿の輝男が自転車をこぎながら進んでいる。

 やがて、輝男は明朝学園高校の敷地内に入って行った。

 生徒玄関に入り、内履きへと履き替えると、そのまま校舎の中に足を踏み入れる。

 校舎内に入った途端、階段横の掲示板に、大勢の生徒たちが群がっているのに気付いた。

 

 (そうか、もう、今回の期末考査の総合成績順位が発表されたか)

 

 内心、そうつぶやくと、輝男は、生徒たちの群れをかき分けながら、掲示板の前に立つ。

 掲示板には、三枚のB4版の紙が、縦に並んで貼られており、いずれの見出しにも、

 

 “期末考査総合成績順位表”――

 

 …と、横書きの大書が記されていた。

 三枚の内の中央に、輝男は視線を集中させる。

 輝男たちの属する二学年の生徒の順位が、一位から二十位までの順に上下に表示されている。

 一位から順に下の方へと目で追うと、間も無くして輝男の視線が止まった。

 輝男が見つめる先には、

 

 八位 天江 輝男(二年A組)――

 

 の一文がハッキリと表示された。

 輝男は、順位表に表示された自分の名前を見ると、その場で思わず固まってしまう。

 気持ちが爆発する代わりに、一切の感覚が麻痺してしまったかのようだ。

 

 (前回の中間考査では十位だったのに……)

 

 輝男は、過去の試験結果を思い出しながら、内心、そうつぶやく。

 今までの熱心な勉強が今回のランクアップにつながったのだ。

 

 

 図書室で輝男はカウンターの前に立つ。

 カウンター越しに、二冊の本を差し出す。

 輝男と向き合うようにして、一人の女子生徒がカウンター席に着いている。

 “図書委員”の腕章をつけたその女子生徒は、渡された二冊の本をペラペラとめくり、中身の状態をチェックする。

 

 「問題ありません。返却、ありがとうございます」

 

 カウンター席に座る桜月は、他人行儀に言葉をかけ、一礼をする。

 本の返却が終わるなり、桜月は目の前にいる輝男に言葉をかける。

 

 「やったわね、天江君。今回の期末考査、順位が上がったじゃない」

 

 「今回は色々とあって、いつも以上に熱心にやらないといけなかったから」

 

 肩の荷が降りたかのように安堵の表情を見せながら言葉を返す輝男に、

 

 「……確かにね……」

 

 桜月は思わず含み笑いを浮かべる。

 

 「それより、日向の方は?」

 

 「私はまだわかんない……。いつも、二十位以下だから……」

 

 「大丈夫さ。日向だってちゃんと順位は上がってるはずだから」

 

 「だと、いいんだけど……」

 

 自信を持って請け負ってくれる輝男に、桜月はやや自信無さげに言い返す。

 すると、チャイムの音が鳴り出した。

 図書室に掛かっている時計は一時半を指している。

 

 「悪い、俺、先に教室に戻ってるわ」

 

 輝男はそう言うと、一人、図書室を後にした。

 間も無くして、桜月は席を立つと、隣の図書事務室に向かう。

 図書委員の仕事を終えて、教室に戻るためである。

 

 

 二時間ほど経った頃、教室に輝男と桜月、そして、理華の姿があった。

 期末考査二週間前の時と同様、他に誰もいない教室で、輝男と桜月、そして、理華が、前後に向き合うように重なった机を挟んで向かい合っている。

 神妙な面持ちを見せる輝男と桜月の前には、伊達メガネをかけ、半袖の白いブラウスに薄手の黒のロングスカートといういで立ちの理華が、不敵な笑みを浮かべていた。

 英語教諭にして二年A組の担任としての凛とした姿を見せつつも、それに若干似つかわしくない大きな左右のふくらみをブラウス越しに見せ付けている。

 

 「今回の期末考査だけど……」

 

 理華が真剣に表情を切り替えながら話を切り出した。

 

 「前回よりもかなり問題を難しくしたせいか、何人かの生徒が順位と点数を下げているのが多く目に付いたわ。

 中には、落第点ギリギリにまで落ち込んだ人もいたけど……」

 

 理華はそこまで言うと、輝男と桜月をまっすぐに見据えたまま、唇を固く閉ざす。

 わずかの沈黙の後、理華は笑みを浮かべながら再び、口を開いた。

 

 「あなたたちに限って言えば、前回を上回る結果となって大変、嬉しいわ。

 天江君は、前回、総合十位だったのが、今回は八位にまで上がったし……

 日向さんも、ワンランクだけだけど前回より順位と成績が上がっているわ」

 

 嬉しそうな笑みを浮かべながら言う理華に、輝男と桜月はようやく表情をほころばせる。

 

 「だから、あなたたち、合格よ。

 これからまた、心置きなくいくらでもエッチができるというわけね」

 

 半ばからかうかのように言って来る理華に、輝男と桜月は顔を赤らめる。

 

 「へ、変なことを言わないで下さい!」

 

 恥ずかしそうに無言でうつむく桜月の横で、輝男はたまらず声を上げる。

 

 期末考査を前に、理華が輝男と桜月に科したこと――

 

 今回の期末考査で二人とも、もしくは片方が順位を下げたら、今後、一切のセックスは厳禁――

 

 一番の試練を乗り切ったことに対して、喜びをあらわにする代わりに、羞恥の念をさらけ出してしまう。

 また、輝男に抱かれ、桜月を抱くことが嬉しいことに変わりはないが、こう率直に言われると、恥ずかしい気持ちの方が前に出てしまう。

 羞恥の余り、顔を赤らめる輝男と桜月に向かって、理華は言葉をかける。

 

 「でも、少しでも成績、順位を上げたことに間違いはないわ。

 動機は多少、不純かもしれないけど、一生懸命頑張ったことが実を結んだのだから。

 例え、また、数え切れないくらいにエッチし続けたとしても、熱心な気持ちで勉強に臨む姿勢だけは絶対に忘れないで」

 

 「……あ、ありがとうございます……」

 

 余計な一言を交えながらも健闘を称えてくれる担任に、輝男はお礼の言葉を返す。

 すると、理華は、妖艶な笑みを浮かべながら、輝男をまっすぐに見つめる。

 

 「……ところで、天江君……

 今回の期末考査で順位を上げたご褒美に、先生とエッチしない?」

 

 艶を帯びた声で、輝男に向かってとんでもない申し出をする。

 

 「な、何、言ってるんですか? まさか、こんなところで!?」

 

 理華の今の申し出に、輝男は顔を思いっきり紅潮しながら、困惑しきった調子で声を上げる。

 しかし、理華は構わず、ブラウスのボタンを上半分外す。

 ボタンが外された内側から、レース模様のパープルのブラジャーが顔を覗かせて来た。

 

 (り、理華さん……これって勝負下着じゃないか!)

 

 下着をチラ見させて来る理華に、輝男は恥じらう形相の奥で驚愕の声を上げる。

 理華が席を立ち、そのまま輝男に迫ろうとした途端、

 

 「せ、先生、やめて下さい!!」

 

 さっきまで顔を真っ赤にして黙ってうつむいていた桜月が、ハッと顔を上げるなり、理華に向かって声を張り上げた。

 思わず驚く理華の目の前には、顔を真っ赤にしながら厳しい表情を見せる桜月の姿があった。

 

 「日向さん、悪いけど、私だって今日までずっと我慢して来たんだから」

 

 「例え、担任教師であっても、していいことと悪いことがあります!

 雨宮先生ともあろう方なら、それくらいの分別は付くはずなのに……!」

 

 「あなた、今は余り乗り気じゃないみたいだから……

 天江君とエッチしたかったら、私の後にしなさい」

 

 「そんなハレンチなこと、絶対に受け入れられません!」

 

 “期末考査”という枷が外されたせいか、桜月と理華は生徒と担任教師という立場を忘れ、同じ男を愛する“女”として、激しく言い合う。

 

 (一難去ってまた一難……か……)

 

 口論を繰り広げる美少女クラスメート、美人担任に挟まれて、輝男は困惑しながら深く嘆息する……

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