カフェ・ホーリーのカウンターで、輝男は一人の女性客と向き合っている。
グレーのキャミソールに白のパーカー、デニムのミニスカートといういで立ちのその女性客は輝男とほぼ同世代のようだ。
「うん……。このアイスティー、とても美味しいよ」
グラスに注がれたストレートアイスティーを飲みながら、感心したかのように声をかける。
「お口に合って嬉しいよ」
輝男はにこやかな顔で、真向かいに腰を下ろす小春に言葉を返す。
小春はアイスティーを飲んだかと思うと、アップルパイを食べる。
その横では、真理が別の客に飲み物を差し出している。
「ところで、今日はどうして、ここに来たんだ?」
「どうしてって……買い物しに来たに決まってんじゃん」
輝男からの問いかけに、小春はすぐに返答する。
空いてある隣席には、買い物をしに行ったお店の買い物袋がドサッと置いてある。
袋の中には、衣服やらコスメ商品の類やらが積まれてある。
「買い物をするなら、東京でも十分だろ?
あそこだったら、ここよりもお店も品物も充実してるし」
「もう、東京なんて行けそうなお店はほとんど行ったし。
ちょっと遠出すれば、いいお店の一つや二つ、見つかるんじゃないかな…と思ってね」
小春はそう言うと、飲みかけのアイスティーを飲み干そうとする。
アイスティーを飲み終えると、やはり食べかけだったアップルパイを食べる。
輝男は美味しそうにアップルパイを食べている小春を見つめながら、
(この近くの店なんて、東京のお店とさほど大差無いし……
しかも、閉店間際にやって来るなんて……どう考えても偶然とは思えない……)
努めて平素の表情を装いながら、小春が店にやって来た思惑を内心、探ろうとする。
アップルパイを食べ終えると、小春は持っていたウェットティッシュで、口を綺麗に拭っていく。
一呼吸、間を置いた後、輝男とカウンター越しに向き合う。
「輝ちゃんさぁ、今年の夏休みどうだった?」
「結構、充実した……って言うか、色々とあったな……
色んな人たちと出会って、色々と体験して……
もしかしたら、今年の夏休みは、人生の中で忘れられない一ページになったんじゃないかな……?」
小春からの問いかけに、輝男は感慨深げに返答する。
初めてのバイト――
海水浴での色々な出来事――
まさかのお見合い――
その他、諸々――
小春に言葉を返しながらも、この夏に起きた出来事の数々が輝男の脳裏に自ずと浮かび上がる。
すると、
「やっぱり、わかってんじゃん!」
嬉しそうに声を上げる少女の声が、正面から叩き付けられた。
ハッと我に返ると、ニヤッとほほ笑む小春の顔が、正面を見据えて来る。
「アタシもまったく同感だよ、輝ちゃん。この夏休みはとっても素敵な人と出会ったからね」
小春は笑みを絶やすこと無く、輝男をジッと見つめながら言って来る。
食い入るようなまなざしに、輝男は思わず苦笑いをする。
ニ十分ほど経った頃――
カウンター奥の事務室兼休憩室で、輝男は真理と向き合っている。
真理は輝男と向き合いながら、彼に一枚の封筒を差し出す。
「輝男さん、いつもいつもご苦労様」
真理がそう言うと、輝男は彼女から封筒を受け取る。
封筒の中には一万円札が六枚入っている。
輝男は封筒を受け取り、中身を覗き見すると、再び真理と向き合う。
「マスター、ありがとうございます。短い間でしたけど、お世話になりました」
バイト代を受け取った輝男は、笑顔で感謝の言葉をかけ、深々と一礼する。
すると、
「輝男さん、実はあなたに折り入って頼みがあるんだけど」
真理はすかさず、輝男に用件を申し出て来た。
「あなた、今回、夏休みの間だけ、うちのお店でアルバイトをするって話だったけど……
夏休みの後も、何とかうちのお店でバイトをしていただけないかしら……」
柔和な笑みを浮かべながら、輝男に向かってアルバイトの延長を申し出る。
真理の今の申し出に、輝男は思わず驚く。
今の真理からの申し出をまったくの想定外と思ったのだろう。
「どうしてですか?」
「あなた、結構、評判がいいし、メニューの作り方も上手だから、もうしばらく、うちでアルバイトをしてくれたら嬉しいんだけど……」
「それはとても嬉しいですけど、僕、学校がありますし、お店やってる時間とか考えたら、バイトに行ける日にちや時間がかなり限られますが……」
「そんなこと、別に構わないわ。学校がお休みの日だけでも結構だから。
それ以外の日も、私の方で色々と考えてあげるわ。
お店に来るお客様、皆、あなたの顔を見に来て下さる方が結構、いらっしゃるから、その人たちのためにも……」
「いや……そんなことを言われると……
でも、そうおっしゃるのでしたら、もうしばらくお世話になります」
自分を必要とする真理の今の言葉に、輝男は恥ずかしそうに顔を赤らめ、思わず照れてしまう。
そして、すぐに快諾の言葉を真理に返す。
やがて、表情を落ち着かせると、今度は輝男の方から話を切り出す。
「ところで、先輩は……神楽さんはどうしてますか……?」
「あの娘は、大学受験のために一生懸命、勉強してるわ。
息抜きでこのお店に顔を出すこともほとんど無くなったし……」
真理はそう言葉を返すと、何故か寂しそうに笑顔を曇らせる。
「……でも、できることなら、神楽には別の人生を歩んで欲しかったわ……
立派な大学に入って、卒業し、立派な会社に就職して一人前の社会人になるのも一つの生き方だけど……
……でも、必要以上に片肘を張らずに、ささやかだけど確実に心を満たされるような生き方も大事だと思うの……
あの娘が自分で選んだ選択肢だから、私は余り強く言えないけど……
このお店でお客様に美味しいお茶やメニューを差し出し、時には気の置けない会話をしたりしながら……
地味でささやかだけど、でも、和やかな雰囲気の中で穏やかに人生を過ごすのも、一つの選択肢じゃないかなと私は思っているの……」
しみじみと理想的な人生を話す真理を、輝男は黙って見つめる。
(もしかして、真理さん、神楽さんに一緒にこのお店をやって、ゆくゆくは継いでもらいたいと思っているのでは……?)
真理の内に秘めた思いを察した輝男だったが、何も言わずに真理を黙って見つめる。
自ら選んだ将来のために、今の苦労を惜しまない神楽。
地味だけど穏やかな人生を生きることを第一と考え、娘にも同じ道を歩んで欲しいと願う真理。
どれが正しくて間違っているか?
どれがよくてどれが悪いか?
一概に決め付けることはできないが、いずれも選択肢としては決して間違っていない。
少なくとも、輝男はそう思っている。
だからこそ、真理の今の言葉に何も言い返さず、黙って彼女を見つめる……
◇ ◇ ◇
カフェ・ホーリーのあるタワーマンションから輝男が出て来た。
すぐ傍にある駅舎に向かってしばらく歩いていると、目の前に道端で腰を下ろしながらスマートフォンを弄る一人の少女の姿を認めた。
輝男は呆れ顔でため息を付きながら、少女の真ん前に歩を進める。
「小春……もう、帰ったんじゃないのか?」
目の前で腰を下ろしている小春に、呆れながら声をかける。
すると、小春はスマートフォンを弄るのをやめて、輝男とまっすぐに向き合う。
「やっぱり、俺、目当てだったか」
「エヘッ、わかった?」
「わかったも何も、君がお店に来た時にすぐに察したよ。
君のような娘が閉店まで一時間もない時に、店にやって来るなんて……
それも、俺がいる日を狙って来るなんて、どう考えても偶然じゃないから」
「そんな言い方しないでよ。こんな可愛い娘がわざわざ来てくれたんだから、少しは喜んで」
小春の今の言葉に、輝男はウンザリしたような面持ちでため息を付く。
しかしすぐに、輝男と小春は駅に向かって横並びに歩く。
「もう、夏休みも終わりだね」
「あぁ、お互い、明後日からまた、学校の授業で忙しくなるから」
「ぶっちゃけ、アタシ、メッチャ寂しいの。輝ちゃんと当分、会えなくなると思うと……」
「そんなこと言って、休みの日には、こっちの都合なんか関係無く俺に会いにわざわざ来るくせに」
「さすが輝ちゃん、アタシのことをよくわかってる!」
嬉しそうに言葉を返す小春に、輝男は思わず閉口する。
駅の構内に入りかけた刹那、小春は密着するように輝男に抱き付いて来た。
小春の突然の行為に、輝男は顔を赤らめて困惑する。
辺りには、仕事帰りのサラリーマンや、その他の目的で駅を利用する人々で賑わっている。
人目をはばかって小春を我が身から引き離そうとするが、
「輝ちゃん……シよ?」
小春はまっすぐに輝男を見つめながら言って来る。
今、小春が言った言葉に、輝男は更に顔を赤くさせる。
「まさか、今、こんなところで…か?」
信じられないと言わんばかりに困惑の声を返すと、
「だって、今じゃないと、当分、輝ちゃんと一緒にいられないから……」
小春は柄にもなくときめくような形相を赤らめ、乞うようなまなざしを向ける。
目の前の小春の美貌に、輝男は困惑しきった顔を赤らめる。
「ほんの短い間だけでもいいから……お願い……」
艶を帯びながら懇願する小春に、輝男は何も言い返さない……
◇ ◇ ◇
駅のすぐ手前にある高層ビル。
そこには、一階から三階にかけて、コンビニをはじめ幾つかの店舗がテナントを持っている。
その駅前ビル一階奥にある男性用トイレの奥が、固くドアを閉ざしている。
きれいに清掃されているトレイ奥の個室の内側で、輝男はふたをした洋式便座に腰を下ろしている。
輝男が見下ろす先には、
「んんっ、んっ、んむっ、んんぅ……」
小春が身を屈めながら、甘くくぐもった声を漏らしている。
小春は、輝男のはいているジーンズから取り出した陰茎をくわえ込み、前後に口を動かしている。
(小春のヤツ、相変わらず上手いな……)
輝男は眼下でフェラチオに耽る小春に感嘆する。
小春の口内では、生温かく柔らかい口腔が輝男の陰茎を何度も撫で、しごいている。
ゆっくりとした口の動きは、いつの間にかその動きを速めている。
フェラチオのペースアップと共に、唾液の跳ねる音と、
「んっ、んぐっ、んうっ、んむっ、んぐ……!」
小春の艶やかなうめき声がトーンアップする。
「こ、小春……そんなに強くしたら……!」
輝男はたまらず、フェラチオを続ける小春に声をかける。
輝男のモノは、小春の口内で徐々に固さと大きさを増している。
すると、小春は輝男のモノを口から離した。
「ヤダ、もう、輝ちゃんったら……そんなに大声出すとバレちゃうよ……」
小春は輝男を見上げながら、半ば呆れたような笑みを浮かべて言い返す。
小春の細い手は、唾液に表面を隈なくまぶされた陰茎をしっかりと握っている。
小春はペロッと舌を出すと、下から上、上から下という風に、輝男の陰茎に舌を這わせる。
表面を舐め回すだけでなく、根元にも口を含む。
やがて、小春は陰茎の先端を凝視すると、柔らかな唇でチュッとキスをする。
しゃぶりくわえるだけでなく、舌で舐め回すことで、得も言われぬ刺激を輝男にもたらそうとする。
彼と出会うまで、別の男たち相手に数えきれないくらいに淫行に耽っていた小春にとっては、この程度のことは造作も無い。
やがて、輝男の陰茎は、天を向くようにガチガチに固く、大きくなっていく。
自分自身のひどい充血ぶりに、輝男は顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに言葉を失う。
一方、小春は羞恥に極みにある輝男の傍で、
「あはっ、もうすっかり出来上がっちゃったね」
彼の剛直を見つめながら、嬉々として声を上げる。
すると、パーカーのポケットから小さな一包を取り出した。
すぐに一包を破くと、中にあったコンドームを口にくわえる。
フェラチオをする要領で、口でもって剛直をピッタリと包み込ませる。
「さすがに、今日は生だとヤバいか?」
「危険日だからじゃないけど、この場合、ゴムがあった方が始末がいいからね」
小春はそう言いながら、スカートの中に手を入れ、黒とピンクのパンティーをスルッと脱いでいく。
細く引き締まっている右脚にパンティーを引っかけると、そのままの状態で輝男と向き合う。
「いいよ、輝ちゃん、来て……」
笑みを浮かべながら、輝男に行為をうながす。
密閉された男子トイレ奥の小さな個室。
室内の向かって右側、別のトイレと両隣になっている壁には、小春の買い物の荷物がぶら下がっている。
その向かい側、トイレの最深部に当たる壁に、小春は背もたれに立っている。
輝男が小春の右脚を持ち上げると、小春は残る左脚で床を踏み締めながら、輝男の左右の腕をギュッと抱く。
ミニスカートの内側、持ち上げられた右脚の隙間から秘裂がかすかに見える。
輝男はコンドームに包まれた剛直を秘裂にあてがう。
そして、間を置かずに一気に腰を沈める。
「あぁっ……あんっ……!」
輝男自身の猛進に、小春はのけ反りながら声を殺すようにして喘ぐ。
輝男は何も言い返さず、小春に向かって何度も腰をぶつける。
輝男と小春の間に肉と肉がぶつかり合う乾いた音が響き、
「あっ、あんっ、んんっ、ハァッ、ハァッ、んうっ……」
必死に抑える小春の喘ぎが重なる。
小春の喘ぎに、輝男はかすかな息遣いで応じる。
そのままがむしゃらに腰をぶつけ続けると、
(小春の中……締まってる……!)
収縮していくヴァギナの感触に内心、感嘆する。
場所が場所ゆえ、裸になったり、大声で喘ぐこともできないが、ハンディが大きい危険な状況にあることが、却って、輝男と小春の気分を昂ぶらせているようだ。
輝男の荒い吐息が真正面から振りかかると、小春は輝男に顔を近付けた。
唇を重ね、舌を絡ませ合いながらも、輝男の腰は小春に当たり続ける。
(す、すごい……! 輝ちゃんの……もっと固く……大きくなってる……!)
小春は輝男とディープキスを続けながら、自分の中で固く膨張していく陰茎の感触に内心、感嘆する。
内側から染み出る愛液と熱が、輝男自身の動きを更に加速させている。
勢いよく繰り出される強烈な摩擦に、
「うっ、うぅっ……ん、くぅ……」
輝男と舌を絡ませ合う小春の口元から、艶やかなうめき声が漏れる。
(ヤバい……小春の中……ますます締まりが止まらない……!)
収縮を続けるヴァギナの感触に、内心、苦悶の声を上げる輝男。
輝男自身を拒み、あるいは逆にギュッと締め付けるかのような膣内の動きに、何故か輝男の動きは減退する様子を見せない。
むしろ、逆に、激しく小刻みに腰を繰り返しぶつける。
輝男の激しい動きに、小春は彼にギュッと抱き付き、ディープキスを続けながらも、その身をわなわなと震わせる。
(ヤダ、もう、輝ちゃんったら……奥に当たって……お腹が壊れちゃう……!)
輝男自身の凶暴な動きに、小春は内心、苦悶の声を上げる。
摩擦を繰り返す剛直によって削られる肉襞の代わりに、蜜のようなものが秘裂の隙間からこぼれていく。
やがて、輝男と小春はディープキスをやめた。
「プハァッ……ハァ、ハァ、ハァ……!」
呼吸を取り戻した小春が、輝男に向かって荒く甘い吐息をかける。
小春は壁に両手をつけながら、床を左右の足で踏み締めている。
依然として密閉されているトイレの個室で、輝男に背中を向けている。
輝男と小春の間には、コンドームに包まれた剛直が秘裂に突き刺さっている。
輝男は小春のスカートをめくり、裸の美尻を左右からつかむと、またも勢いよく腰をぶつけた。
「あっ、あぁんっ……」
小春はのけ反りながら、声を殺すようにして喘ぐ。
輝男は荒く息を弾ませながら、背後から何度も腰を打ち据える。
パン、パン…と乾いた衝突音と、
「もっと……もっと突いてぇ……」
か細くも艶やかな懇願の声が、輝男の耳に重なって聞こえる。
しかし、すぐに、壁に付けた小春の左右の手がわなわなと震え出す。
小春は苦痛と恍惚が混ざった形相をしかめさせ、紅潮する。
(て、輝ちゃんの……またまた大きくなって……こ、これ以上はもう……)
限界まで膨張しきった剛直の感触を、ヴァギナを通して感じ取り、内心、苦悶の声を上げる。
しかし、輝男は小春の内心の苦悶など知らないかのように、激しく小刻みに腰をぶつけ続ける。
いわゆる“立ちバック”で黙々と小春を犯している輝男だったが、彼の表情にも余裕の色が失せていく。
汗をにじませ、歯を食いしばりながらも、ギャル系美少女の膣内を熱心に荒らし続ける。
まるで、今を逃したら、当分、抱くことができないと言わんばかりだ。
すると、小春は体の震えが止まらぬまま、必死に我が身を支えると、
「ダ、ダメ……ア、アタシ……イく……イきそ……」
か細い声で自らの限界を痛切に訴える。
「こ、小春……俺も……!」
輝男はすぐに、荒い呼吸を繰り返しながら小春に言葉を返す。
共に限界が差し迫っている中、激しい律動を繰り返す輝男。
ラストスパートをかけるかのような輝男の動きに、
「うぅっ、あっ、ん、くぅっ……あぁっ、ハァッ、あんっ、んうぅっ……」
小春は声を殺しながらも艶やかな喘ぎを繰り返す。
輝男の耳には、小春の喘ぎと荒い吐息、そして、肉と肉のぶつかる乾いた音しか聞こえない。
やがて、小春が体をブルッと震わせながらのけ反ると、
「ダメッ、もう……あぁ、イくぅっ……!」
痛切な調子で自らの絶頂を告げる。
「お、俺もそろそろ……!」
小春の背後で、輝男が腰をぶつけ続けながら、絞るような声で自らの限界を告げる。
「お、お願い……お願いだから早く…」
震える声で小春が輝男に懇願すると、
「あぁっ……イ、イヤァッ……!」
次の瞬間、体を大きくのけ反らせながら、息詰まるような口調で自らの絶頂を叫んだ。
小春が限界に達すると、収縮しきった膣内で輝男は思いっきり果てた……
◇ ◇ ◇
輝男と小春が果ててから三十分ほど経った頃――
二人は駅内正面の改札口で向き合っていた。
さっきまで激しいセックスに耽っていた痕跡は、今の輝男と小春からはまったく認められない。
「小春、元気でな」
輝男が言葉をかけると、小春はニコッとほほ笑みながらキスをした。
他にも大勢の人間が行き交う中、不意打ちも同然のキスをして来る小春に、輝男は一瞬の唖然の後、困惑した顔を赤らめる。
「お、おい……!」
「輝ちゃんこそ、元気でね。アタシ、また遊びに行くから」
困惑する輝男に平然とした調子で言い返すと、笑顔を見せながら別れの挨拶をした。
そして、そのまま改札口の向こうへと消えていく小春を、輝男はほほ笑ましげに見つめる。
色々と困らせることもあるが、どうしても憎みきれない愛おしさを、輝男は小春の中から感じ取っている。
◇ ◇ ◇
暗くなっていく空が、タワーマンションを見下ろす。
マンション内に入って行く輝男は、すぐに十階へと差し掛かった。
十階廊下の端、正面に見える玄関ドアの前に立つと、
「ただいま」
帰宅を告げながらドアを開けた。
そのまま家に上がり、廊下を進む。
「ごめん、急に用事ができて遅くなって…」
リビングのドアを開けるなり、輝男は帰宅が遅くなった弁明をしようとする。
しかし、弁明をしようとした途端、目の前にある光景に驚き、思わず、言葉を失う。
「あ、お義兄ちゃん、お帰りなさい」
リビング内には、いつものように瑠奈が挨拶を返すが、その横には別の少女が一人いた。
「静流さん……!?」
輝男は信じられないと言わんばかりに、瑠奈の横にいる少女――最上静流に向かって声を上げる。
テーブル前の席に腰を下ろしていた静流は、輝男の帰宅に気付き、彼の方を振り返る。
「輝男さん、お邪魔してます」
静流は席を立つなり、輝男をまっすぐに見据えながら、柔和な笑みで言葉をかける。
深々と一礼する静流に、輝男は唖然とする。
静流だけではない。
「もう、天江君ったら、遅いぞ」
静流、瑠奈の向かいに座っている席で、理華がすっかり酔ったような顔で輝男に言葉をかける。
そんな理華の傍で、真純が腰を上げ、キッチンの方へ向かう。
「ちょっと待ってて、今、輝男さんの分も用意しますから」
柔和な笑みを浮かべながら、輝男に言葉をかける真純。
しかし、今の輝男は、予期せぬ静流の来訪に未だ戸惑っている。
「静流さん、どうして君がうちに……?」
柔和な笑みを見せ続ける静流に、輝男は戸惑いながらたずねる。