※この作品はR-18です。

天江輝男の日常   作:原野イアン

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葵・絶体絶命(1) ●

 小ぶりの秋雨が、明朝学園高校の校舎に当たる。

 小雨が降る中、正面生徒玄関に生徒たちが次々と入って来る。

 黒山葵もまた、傘を閉じながら生徒玄関に入る。

 下駄箱に向かい、ふたを開けて内履きに履き替えようとする。

 すると、内履きの上に、大きめの封筒が入っているのに気付いた。

 葵は内履きに履き替えると、封筒を手にする。

 そして、封筒の中から一枚の紙を取り出す。

 A5版の白い紙が三つ折りで入れられていたが、その紙を広げる。

 恐らく、手紙か何かと思われる件の用紙を見ると、

 

 ――黒山 葵様

 今すぐ生徒会長をやめないと、同封の写真とハレンチ動画を、全校生徒全員にばらまく。――

 

 葵に当てた脅迫文と思しき一文が、ワープロ打ちで表記されていた。

 差出人の名前が一切無いこの一文に、葵は唇をキッと結んだまま厳しい表情を見せる。

 何者の仕業かわからない脅迫に不快感をあらわにしながら、封筒に入ってある写真を拾い上げる。

 手中にある写真を見た瞬間、葵はここが生徒玄関内の下駄箱近くであるのを忘れて、血の気が引いたような驚愕の表情を浮かべた。

 葵が見ている写真には、葵本人の姿が写っているが、その内容たるや、人には見せられないものばかりであった。

 

 とある教室で裸の胸を揉みしだきながら恍惚とする葵――

 

 やはり、教室内で、制服を着ているが、裸の股をこすり付けている葵――

 

 他にも色々とあるが、いずれの写真にも、葵が校内で自慰に耽っている姿がハッキリと撮られている。

 驚愕しきった様子で一瞬、身を固くするが、すぐに脅迫文と写真を封筒の中にしまう。

 そして、何も無かったかのように、つかつかと校舎内に足を踏み入れる。

 何も無かったかのように振る舞っているつもりでも、遠目にもわかるくらいに表情はひどく強張っている。

 容易に他人を近付けさせない雰囲気をかもし出しつつも、動揺している様子を自ずとさらけ出している。

 葵は内心の動揺を押し隠しながら、自分の教室へと階段を上る。

 何者かによる盗撮に対する怒りと不快感、そして、盗撮の件による恐喝に対する驚きと不安を募らせつつも、そのことにもおくびにも出すまいとする。

 

 

 登校時間から八時間後――

 

 葵は生徒会室で何やら作業をしていた。

 室内には、葵の他に輝男と七海、生徒会役員である男子生徒一人、そして、顧問である真白がいる。

 葵と真白は、手にしてある用紙を上から下までジックリと見通す。

 用紙には、

 

 ――現在、学校生活において、改善すべき問題点は何か?

 

 と、問いかけの一文が記されている。

 二人が今、見ているのは、全校生徒を対象としたアンケート用紙である。

 

 「うん、これで万全ね」

 

 葵がアンケート用紙の原本を見ながら言うと、

 

 「後は、印刷して皆のもとに配布すればOKね」

 

 真白は満足そうに言葉をかける。

 

 「わかりました。では、明日にでも印刷します」

 

 輝男が真白に言葉を返すと、

 

 「本当は今すぐにでも取り組むべきだけど、時間が時間だし……

 でも、今回の件は遅滞無く取り組まなければいけないことだから。

 ほんの少しでも怠慢に及べば、すぐにでも取り返しのつかない大事(おおごと)になりかねないわ」

 

 葵が鋭い口調で苦言を呈する。

 相も変らぬ厳しさに、輝男は苦笑いを浮かべながらため息を付く。

 

 

 十分ほど経った頃、輝男と七海が生徒会室を出て、生徒玄関の方へ向かっていた。

 すると、

 

 「あら、天江君、百川さん」

 

 傍から、輝男たちに呼びかける声が聞こえて来た。

 輝男と七海が振り向くと、桜月が階段を下りながらこちらに近付いて来た。

 

 「どうしたの? こんな時間に」

 

 「ちょうど、図書委員の仕事が終わったところよ」

 

 「なぁんだ。こっちも生徒会の仕事が終わったところだよ」

 

 輝男と桜月はそう言葉を交わすと、七海と一緒に生徒玄関に向かう。

 

 「七海ちゃん、あれから黒山さんとは上手くやってる?」

 

 「え、えぇ、何とか……」

 

 同じ図書委員の先輩からの言葉に、七海は控えめな調子で返事をする。

 

 「百川も前よりは物怖じしなくなったし、元々、生徒会の仕事自体、ちゃんとやれる方だから」

 

 二人の傍で、輝男が七海をフォローするかのように言葉を添える。

 

 「そう、それなら安心だけど」

 

 桜月はにこやかに笑みを浮かべながら、輝男の今の言葉に返事をする。

 すると、先に内履きから履き替えた七海が、輝男と桜月に向かって一礼する。

 

 「では、先輩、先に帰りますので。また、明日……」

 

 七海はそう言うと、一人、生徒玄関を出て、下校の途に着く。

 輝男は、去り行く七海の後ろ姿を見つめながら、横にいる桜月に向かって話しかける。

 

 「百川から何も心配無いよ。生徒会の仕事も今まで以上に頑張ってくれるから」

 

 輝男の今の言葉に、桜月は何故か沈黙する。

 何か物思いに耽るかのようにずっと唇を閉ざしている。

 輝男は桜月の沈黙に気付き、彼女の方を振り向く。

 すると、桜月は真正面を見据えながら口を開く。

 

 「まさかと思うけど……もしかして、七海ちゃんとも……?」

 

 平素の表情を見せながら、淡々と口走る桜月。

 桜月の今のつぶやきに、輝男は思わず、顔を赤らめながらギクッと驚愕する。

 図星を指された輝男だったが、すぐに平素の表情に切り替える。

 

 「何、言ってんだよ、日向。考え過ぎだよ」

 

 平素の表情を装いながら、ため息交じりに言葉を返す。

 しかし、その脳裏には、先日、七海をラブホテルで抱き、“初めて”を奪った時の記憶が克明によみがえる。

 何とか桜月の詮索をかわそうとする輝男だが、彼の内心を察してか否か、桜月はにこやかな顔で輝男の方を振り向く。

 

 「うん、そうよね。私ったら、つまらないことを考え過ぎちゃって」

 

 自らが抱く疑念を即座に否定し、安堵をうながすかのように言葉をかける。

 輝男は目の前に突き付けられたにこやかな顔を見ると、

 

 (桜月のヤツ、俺と百川のことをすっかり見抜いてる……!)

 

 安堵とは程遠い心境を内心、独白する。

 いわゆる“女の勘”によるものかもしれないが、輝男と七海が関係を持ったことを察したようだ。

 少なくとも、当事者の一人である輝男は、平素の表情の奥で強く確信している。

 

 

 更に十数分後――

 

 生徒会室から葵が出て来た。

 葵もまた、輝男たちに遅れて下校の途に着こうとする。

 生徒玄関への途上、階段手前に差し掛かると、

 

 「おい、黒山」

 

 階段の方から、葵に呼びかける声が聞こえて来た。

 葵が階段の方を振り向くと、一人の男子生徒が階段を下りて来た。

 短く整った黒髪をし、メガネをかけ、平々凡々とした容姿をしたその男子生徒は、葵とまっすぐに向き合うなり、

 

 「黒山、お前にどうしても見せたいものがあるんだ?」

 

 神妙な面持ちを見せながら、自分が持っているスマートフォンを葵の目の前に突き付けた。

 葵はスマートフォンのディスプレイを見ると、次の瞬間、驚愕に満ちた形相を浮かべた。

 驚愕の余り、言葉を詰まらせるその視線の先には、

 

 『あっ、あぁ……あ、んんっ……』

 

 更衣室と思しき場所で、ユニフォームを片手に持って自慰に耽る葵本人の姿がハッキリと映っていた。

 男子生徒は一旦、スマートフォンを引っ込めると、簡単な操作をした後、再び、葵の目の前に突き付けた。

 再び、突き付けたスマートフォンのディスプレイには、

 

 『うっ、んんっ、あぁ……んぅうっ……』

 

 誰もいない静まり返った教室の片隅で、椅子に座りながら、自分の胸を両手で揉みしだく葵の痴態が映し出されている。

 次々と突き付けられた自分の痴態に、葵は血の気が引いたように言葉を失っている。

 まるで、静物か死人のように硬直している葵を見て、男子生徒――すなわち、東 大一郎(あずま・だいいちろう)は、してやったりとばかりにほくそ笑む。

 一瞬、陰湿な笑みを浮かべた後、再び、神妙な面持ちを葵に見せる。

 すると、葵はハッと我に返るなり、東を厳しい表情でにらむ。

 

 「東君、あなた、どうしてこんなものを!?」

 

 声を荒げて問い詰めようとする葵に、東は、彼女の痴態を映し出したスマートフォンを制服のポケットにしまう。

 

 「実は、今日、君のクラスメートから、君のハレンチ動画を送り付けられたんだ。

 君がオナニーに耽っているところを盗撮した写真と一緒にね」

 

 神妙な面持ちを装いながら葵に言葉を返す。

 

 「嘘? 私のクラスメートがそんなことを……!?」

 

 表情を強張らせつつも、信じられないといった様子で声を上げる葵。

 動揺を隠し切れない葵を見据えながら、東が話しかける。

 

 「彼らから、自分たちの代わりに黒山のハレンチ動画とオナニー写真を突き付けて、アイツを脅せって言われたんだ。

 もし、断ったり、失敗したりしたら、黒山の代わりに、お前がひどい目に遭うぞ……ってね」

 

 「何をふざけたことを……! クラスの皆が、そんな卑怯なことをするはずが無いじゃない!

 そもそも、どうして、彼らがこんなふざけたものを……!」

 

 葵は驚愕と怒りに身を震わせながら、声を上げて東に反論する。

 思いもしなかった事態を前にして、怒りをあらわにすると同時に、困惑の念をさらけ出す。

 しかし、目の前の東は、怒りと動揺の入り混じった葵を前に、不気味なくらいに落ち着いている。

 

 「今、見せたのは、体育館の男子更衣室でオナってる黒山。

 それに、もう一つは、3年E組の教室でオナってる黒山。

 他にも、いろんなところでオナニーに耽っている黒山の写真やら動画があるんだ」

 

 「そ、そんな……」

 

 淡々と言い聞かせる東に、葵は呆然と立ち尽くしながら力無くつぶやく。

 遺憾ながら否定しようのない事実であるためか、東に対してこれ以上の反論が言えずにいるようだ。

 葵が何も言い返せないのを見ると、東はすかさず言葉をかける。

 

 「君は気付きもしないだろうけど……

 君が生徒会長になる前、“鬼の級長”として振る舞っていたことに、君のクラスの連中はひどい反感を覚えているんだ。

 その結果が、君自身の痴態をとらえた写真や動画なんだ。

 彼らは、君が自分たちの望みを完全に受け入れない限り、学校の皆全員に君の痴態を必ず全部ばらまく。

 僕一人の力じゃどうにもできない」

 

 東がそこまで言うと、葵はハッと我に返ったかのように、彼を鋭くにらむ。

 

 「……一体、望みって何なの……?」

 

 葵が搾るような声で問いかけると、

 

 「君が生徒会長をすぐに辞めること。できれば、そのまま学校を自主退学すること……

 それこそが、君のクラスの連中が最も望んでいることだよ」

 

 東は葵をにらみ返しながら、淡々とした口調で返答する。

 東の今の言葉――要求、ないし、脅しに、葵は驚愕しきった様子で言葉を失う。

 そんな葵に、東大一郎は、一瞬ではあるが勝ち誇ったかのようないやらしい笑みを浮かべる……

 

 ◇ ◇ ◇

 

 晴れやかな空が明朝学園高校を見下ろす。

 一人、また一人と、生徒たちが校門をくぐって、生徒玄関へと向かう。

 輝男もまた、他の生徒たちに混じって、生徒玄関へと入って行く。

 すると、下駄箱の辺りで、数名の生徒が群がりながら何やらヒソヒソ話をしている。

 輝男はすぐに下駄箱の方へ向かうと、

 

 「おい、何やってるんだ?」

 

 群がっている生徒の一人に話しかける。

 すると、

 

 「あ、天江君、見て」

 

 すぐ横にいた桜月が、輝男に声をかけながら正面を指差す。

 桜月が指差した先には、

 

 “鬼の生徒会長→オナニーの鬼”――

 

 “鬼の性と快調 黒山葵”――

 

 一瞥するのもはばかれる下品な落書きが、下駄箱の扉に黒々と記されていた。

 輝男は目の前の落書きに、驚きの表情を見せる。

 

 「これ、黒山の下駄箱じゃないか!」

 

 信じられないといった様子で輝男が驚きの声を上げると、

 

 「どこの誰の仕業かわからないけど、黒山さん相手に卑劣過ぎるわ!」

 

 横にいる桜月が眉をひそめながら、葵の下駄箱に記された卑劣な落書きに怒りをあらわにする。

 驚きと怒り、そして、不快感が混ざり合ったような険しい表情を見せると、

 

 (一体、誰がこんな卑怯なことを……!?

 そもそも、どうして、黒山がこんな謂れの無い仕打ちを受けなければならないんだ……?)

 

 明らかに葵を狙った卑劣な企みに対して、色々と思いを巡らす。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 校舎の二階と三階の間の踊り場で、輝男は二人の女子生徒と向き合っている。

 彼らのすぐ傍では、他の生徒たちが次々と階下へと下りていく。

 

 「あの落書きができてから二日も続けて黒山さんが休むなんて……」

 

 「重い病気で学校に行けそうにないと言うのなら、仕方が無いかもしれませんが……」

 

 桜月と七海は、輝男と向き合いながら心配げに言う。

 二人とも、葵がずっと学校を休んでいることに憂慮しているようだ。

 憂いを帯びた顔を見せる桜月と七海に、輝男は厳しい表情を見せる。

 

 「いや、黒山は病欠なんかじゃない。

 誰かからの脅しや嫌がらせに耐え切れずに、ずっと学校に来ようとしないんだ」

 

 輝男は迷いの無い口調で、葵の欠席についてキッパリと断言する。

 

 「でも、黒山さんが来ない限りは、私たちにはどうしようも…」

 

 「だから、俺がこれから黒山の家に行って、彼女と直に会って来る。

 このまま放っておくわけにはいかない」

 

 「天江君、それなら私も一緒についていくわ」

 

 「先輩、私も」

 

 輝男の提案に、桜月と七海が力添えを申し出ると、

 

 「君たちの気持ちは嬉しいけど、ここは俺に任せてくれないか?

 それに、君たちはこれから図書委員の大事な仕事があるし」

 

 当の輝男本人が、申し訳無さそうに断りの返事を言う。

 確かに、桜月と七海には、図書委員の仕事が控えているのは事実だ。

 しかし、それ以上に、確実に嫌な気分に陥る事態に愛しい同級生と可愛い後輩を巻き込むことを避けたい気持ちが、今の丁重な断りに至ったのだ。

 すると、輝男はそのまま、桜月と七海を置いて、一人、階下を下りる。

 

 

 「黒山さんの住所と番号を?」

 

 保健室で、真白が訝しげにたずねる。

 彼女の目の前には、輝男が真剣な表情で腰を下ろしている。

 

 「どうしても、黒山さんに会って、何故、ずっと学校を休んでいるのか聞きたいんです。

 先生、生徒会の顧問をやってるから、黒山さんの住所や番号を知っているかと……」

 

 用件と憂慮を告げる輝男に、真白は神妙な面持ちを見せる。

 

 「黒山さん、病気にかかって、当分、学校に来られない……って連絡があったのよ」

 

 「先生、そんなこと、本当に信じてるんですか?」

 

 輝男の反論に、真白は顔色一つ変えず、黙り込む。

 

 「黒山の下駄箱に落書きが書かれたのと同じタイミングで彼女が学校を休み出すなんて……

 どう考えても変だとは思いませんか?」

 

 「……正直言って、私もずっと腑に落ちなかったわ……」

 

 「きっと、黒山さんに何かあったと思うんです。だから……」

 

 切実に言って来る輝男に、真白はフッと笑みを浮かべる。

 

 「わかったわ。そこまで言うのなら、教えてあげてもいいけど……」

 

 真白は不敵な笑みを浮かべながら応諾の返事を言うと、

 

 「……でも、タダでは教えてあげられないわね……」

 

 制服のスラックス越しに、輝男の股を丁寧に撫でさすりながら言葉を続ける。

 真白の今の言葉と態度に、輝男は顔を赤くしながら愕然とする。

 

 「先生、そんなことやってる場合じゃないでしょ!」

 

 輝男はすぐに、驚きと怒りの混ざった声を上げる。

 すると、真白はすぐに手を引っ込めてクスッと笑みをこぼす。

 

 「ヤダ、もう、天江君ったら、冗談よ」

 

 「……ったく、冗談にも程がありますよ」

 

 ついついからかって来た真白に、輝男は顔を赤くしながら憮然とする。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一時間後――

 

 学校から西へ十キロほど離れた閑静な住宅街を、輝男が辺りを見渡しながら歩いていた。

 

 「確か、この辺りのはずだけど……」

 

 辺りの家々を見渡しながら独り言を言っていると、二階建ての白塗りの一軒家が前方に見えて来た。

 他の家々と大差無い造りをした件の一軒家に向かい、玄関前に立つ。

 玄関ドア横の表札には、“黒山”と横書きで刻まれている。

 

 (ここだな)

 

 輝男は内心、そう確信すると、玄関ドア横に備え付けられている呼び鈴を押す。

 呼び鈴の鳴る音が家の中から漏れるが、何の反応も無い。

 輝男は二、三回呼び鈴を押すが、やはり無反応だ。

 

 (もしかして、今、誰もいないのでは?)

 

 内心、首を傾げながらも、玄関ドアに触れる。

 すると、ドアはそのまま開いてしまった。

 輝男はすぐに玄関内に足を踏み入れる。

 しばらくその場に立つも、家の中は静寂に包まれており、人の気配が認められない。

 不気味なくらいに静まり返った家内の雰囲気に、輝男は表情が重くなる。

 しかし、不安を募らせながらも、家内に足を踏み入れ、静かに二階へと上がる。

 二階に上がってすぐのところに、固く閉ざされたドアが見えた。

 輝男はドアをノックするが、何の応答も無い。

 二度、三度、繰り返すが、反応は同じだ。

 

 (もしや、ここが黒山の部屋か?)

 

 心の中で確信したかのようにつぶやくと、意を決したかのように厳しい表情を見せて、ドアを勢いよく開ける。

 ドアを開けた途端、視線の先に、私服姿の一人の少女がベッドの上で横たわっているのに気付いた。

 

 「黒山」

 

 厳しい表情を見せながら、ベッドの上にいる少女――すなわち、黒山葵に声をかける。

 すると、葵は輝男の今の呼びかけにすぐに体を起こした。

 そして、輝男と顔を合わせるなり、表情を強張らせ、険しくにらみ付ける。

 

 「あ、天江君……! どうして……!?」

 

 「黒山、君がずっと学校を休んでいるから、心配になって見舞いに来たんだ」

 

 輝男が用件を告げると、傍にあった本や枕を勢いよく投げ付ける。

 

 「出てって! 出て行って!!」

 

 怒りに声を張り上げて、輝男に物を投げ付ける。

 しかし、輝男は葵に両手首を抑えて、彼女の暴走を止めようとする。

 

 「落ち着け! 俺は、君をイジメるために来たんじゃないんだ!」

 

 声を上げて葵に自制をうながす輝男。

 輝男の今の叫びを聞くと、葵はすぐに、厳しくも真剣な表情で自分を見つめる輝男を認めた。

 間も無くして、表情を厳しくさせつつも、物を投げ付けようとする手を下ろす。

 そのままベッドの淵に腰を下ろす葵を、輝男は真剣な表情で見つめる。

 

 「ずっと無遅刻無欠席を誇ってた君が、あやふやな理由で学校をずっと休むなんて、どうしても変だと思ったから……

 黒山、どうして、ずっと学校を休んでいるんだ?」

 

 真剣な表情を見せながら、憂いを帯びた調子で葵に問いただす。

 しかし、葵は唇をキッと結んだまま、何も言わず、輝男の方を振り向こうとしない。

 厳しい表情で静止し続ける葵を見ると、

 

 (やっぱり、何かしらのヤバい事情があるんだ……)

 

 輝男は内心、葵が危機的状況にあるのをすぐに認めた。

 そして、間を置かずに、再び口を開く。

 

 「病気で学校に来られないって連絡して来たけど……

 本当は、誰かからの嫌がらせか何かに苦しめられて、学校に来たくないんじゃないのか?」

 

 改めて問いただす輝男に、葵は重くうつむいたまま何も言い返そうとしない。

 すると、輝男はふと、机の方に目を向ける。

 机の上には、一枚の封筒と用紙、そして、何枚かの写真が置いてあった。

 輝男は静かに机の方へ歩み寄る。

 机上に並べられている用紙と写真を拾い上げると、驚きながら手中にあるものを見た。

 輝男が手にする写真には、葵が校内で自慰に浸る姿が盗撮されていた。

 そして、もう片方の手にある用紙には、

 

 ――黒山 葵様

 今すぐ生徒会長をやめないと、同封の写真とハレンチ動画を全校生徒全員にばらまく。――

 

 葵に宛てた脅迫文が記されていた。

 次の瞬間、横から伸ばされた手が、輝男の手から写真と用紙をひったくった。

 

 「あ、天江君……あなた……!!」

 

 葵が写真と用紙を握りながら、身を震わせ、輝男をキッとにらみ付ける。

 これ以上は無いくらいの鬼の形相でにらみ付ける葵に、輝男はまったく動ずる気配を見せない。

 むしろ、逆に厳しい表情で葵をにらみ返す。

 

 「黒山、その脅迫文と写真は一体、どういうことだ?」

 

 輝男は努めて感情を抑えながら、葵に向かって事を問いただす。

 しかし、葵は険しい表情でにらみ付けたまま、肝心の返答を言おうとしない。

 

 「教えてくれ、黒山。でないと、君はもっとひどい状況に追い込まれるぞ」

 

 葵を厳しくにらみつつも、彼女の身を憂うかのように言って来る輝男。

 薄暗くなる空の下、二人の男女がただならぬ雰囲気の中、にらみ合いを続ける。

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