※この作品はR-18です。

天江輝男の日常   作:原野イアン

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葵・絶体絶命(2) ●

 輝男の目に、険しい表情で仁王立ちする葵の姿が映る。

 一方、葵は、努めて感情を抑えつつも厳しく自分を見据える輝男の顔をハッキリととらえる。

 彼女の手には、自分のもとに送り付けられた脅迫文と、自身の痴態を盗み撮りした写真がある。

 一歩も引かない輝男を威嚇するかのように鋭くにらみ続けるが、輝男は頑として動こうとしない。

 すると、葵がわなわなと口元を震わせる。

 

 「あなた……私のことを知ってどうするつもりなの……!?

 私の弱みでも握って、私を徹底的に追いつめるつもりなの……!?」

 

 葵は険しい表情はそのままに、声を震わせながら輝男に問いかける。

 葵の今の問いかけに、輝男はすぐに口を開く。

 

 「初めから君を追いつめるつもりなら、最初から、わざわざここまで来ないさ。

 わざわざ君の家に足を運ぶ暇があったら、君を完全に打ちのめすための罠を張り巡らしていたよ……

 ……俺は、同級生として、仲間として、君に会いに来たんだ……

 誰にも言えないようなつらい事情を抱えたまま、今、こうして、一人、家に閉じこもっている君に会いに……」

 

 輝男はそう言葉をかけながら、葵に真剣な表情を見せる。

 葵の目に映る輝男の真剣な表情からは、彼女が危惧するようなやましさはまったく認められない。

 本当に仲間の窮状を憂う思いやりの方が、彼の今の表情に強く出ている。

 輝男の今の言葉に、葵は重苦しい沈黙で応じる。

 わずかの間――体感的にはその倍以上――沈黙が続いた後、葵は重くうな垂れながら口を開く。

 

 「……一昨日の放課後、東君から私の動画を突き付けられたの……」

 

 葵は沈痛な面持ちでうつむきながら、過去の忌々しい記憶を思い出す。

 

 一昨日の放課後、下校しようとした刹那、東 大一郎から突き付けられた自身の盗撮動画――

 

 そして、自分の痴態を盗み撮りした動画を突き付けながら、脅しの言葉をかける東の姿――

 

 「彼……私のクラスの皆から、私の盗撮動画を送り付けられ、自分たちの代わりに私を脅して来いと言われたと言うの……」

 

 淡々と語る葵に、輝男は表情を厳しくさせる。

 

 「ヤツは……東は君の盗撮動画を突き付けて、君にどうしたんだ……!?」

 

 輝男は必死に感情を押し殺しながら、葵に向かってたずねる。

 一呼吸、間を置いた後、葵は、暗くうつむいたまま口を開く。

 

 「私に、今すぐ生徒会長をやめて、学校を自主退学しろ……と。

 彼は、うちのクラスの皆が、そのことを強く望んでいると言ってたわ……

 もし、言う通りにしないと、クラスの皆が私の盗撮写真とハレンチ動画を全校生徒全員にばらまくって……」

 

 淡々と語りつつも、葵はその身をわなわなと震わせる。

 どうしようもない困惑と悔しさに、気持ちが大いに乱れているのだ。

 いつの間にか、自分の自慰行為が盗み撮りされ、それらすべてが同級生らの手に握られていることに、深く打ちのめされているようだ。

 これ以上は無い悲嘆と悲哀の中にある葵を、輝男は黙って見つめる。

 その表情は、鈍感な者でもすぐにわかるくらいに怒りに険しくなっている。

 直接には葵と向き合っているが、内心に沸き上がる怒りは、卑劣なやり方で彼女を脅した者たちに向けられている。

 またも、重苦しい沈黙が、わずかの間、葵の自室を覆う。

 やがて、葵をまっすぐに見据えながら、輝男がゆっくりと口を開く。

 

 「まさか……連中の脅しに屈して、君は学校に行きたくなくなったと言うのか……?」

 

 努めて感情を押し殺しながらたずねる輝男に、葵は重くうな垂れたまま黙り込む。

 何も言い返そうとしない葵に、輝男はすぐに口火を切る。

 

 「黒山……また、明日から学校に来い……。いや、来てくれ……」

 

 輝男が真剣な面持ちで言うと、葵はハッと顔を上げた。

 輝男とまっすぐに向き合うなり、険しい表情で彼をにらむ。

 

 「あなた、私が今、どんな状況に追い込まれているのか、わかって言ってるの!?」

 

 葵が怒気を孕んだ声で怒りに満ちた反論を言おうとすると、

 

 「このまま家に閉じこもっても、状況は何も変わらない。

 もし、仮に君が脅しに屈して生徒会長をやめて、学校まで退学しても、それで君が助かる保証なんかまったく無い!」

 

 輝男は真剣な表情で声を上げて、葵の反論をさえぎる。

 輝男の今の言葉に、葵は愕然とした面持ちで言葉を失う。

 

 「ヤツらは、君が要求に応じなければ、君の盗撮写真とハレンチ動画をばらまくと脅したが……

 君が要求通りに動いたとしても、ヤツらは平然と君の盗撮写真とハレンチ動画を絶対にばらまくはず……

 いずれを選んでも、君は絶望に苦しむだけでしかない」

 

 葵に脅しをかける者たちの卑劣さを、輝男は当の葵本人に言い聞かせる。

 盗撮などと言う恥知らずな所業を働く者は、輝男の言うような卑劣な行為に打って出ることなど簡単である。

 輝男はもちろん、葵もまた、そのことは嫌でも思い知っているはず。

 それでも葵は、輝男をまっすぐ見つめたまま、何も言い返そうとしない。

 

 「このまま家に閉じこもった末、生徒会長をやめて、学校を自主退学するなど……

 イジメを苦に自殺することとまったく変わりないじゃないか」

 

 沈黙を続ける葵に、輝男はなおも言葉を続けると、

 

 「……だから、私に明日からまた学校に来いと言うのね?」

 

 葵は厳しい表情を見せながら、ようやく輝男に言葉を返す。

 

 「君が苦痛を強いられるようなことは、俺が……いや、俺たちが絶対にさせないから……」

 

 安心を請け負うかのように言って来る輝男に、葵は厳しい表情を見せ続ける。

 葵が今の自分の言葉に承服していないことを、輝男はすぐに理解する。

 それでも、目の前にいる葵の態度に気分を害する様子を見せない。

 

 「盗撮と脅しの件は、俺に任せてくれ。どんなことをしてでも、連中にやめさせるから」

 

 輝男はそこまで言うと、葵とすれ違うようにして部屋を出ようとする。

 輝男が葵の自室を出ようとした刹那、

 

 「待って」

 

 背後から、制止を訴える呼びかけが聞こえて来た。

 輝男が振り返ると、葵が顔色一つ変えず彼をジッと見つめていた。

 

 「天江君……聞かないの……?」

 

 「え?」

 

 「盗撮された写真や動画の内容……」

 

 葵は、厳しい表情はそのままに、半ば困惑したかのように言葉をかける。

 すると、

 

 「そんなこと……問題が解決し、状況が落ち着いてから聞くよ」

 

 輝男はそう言い返すと、すぐに部屋を出た。

 輝男が去った自室の真ん中で、葵はまるで取り残されたかのように立ち尽くす。

 その表情は、いつの間にか憂いを帯びたものに変わっていた。

 

 (天江君……どうして、私なんかのために……?)

 

 内心、そうつぶやきながら、輝男に対する思いをひそかに募らせる……

 

 ◇ ◇ ◇

 

 明朝学園高校校舎廊下の端で、輝男は、二人の男子生徒と向き合っている。

 

 「俺たちが、東に黒山への脅しをけしかけたって!?」

 

 「天江、お前、何、変なことを言ってんだ?」

 

 二人の男子生徒は、呆れ顔で輝男に言う。

 二人の反応に、輝男は厳しい表情を見せる。

 

 「本当に何もしていないんだな?」

 

 念を押すようにたずねる輝男に、

 

 「当たり前じゃないか。

 俺たち、黒山と同じクラスだけど、アイツを陥れて学校から追い出そうなんて、これっぽちも考えたこともねぇよ」

 

 「そうだよ。そもそも、あの東が俺たちとつるむなんて絶対にあり得ないじゃないか」

 

 葵のクラスメートである男子生徒二人は、輝男の疑念をキッパリと否定する。

 

 「だが、東は君たちに脅されて、君たちの代わりに黒山を脅せと言ってるんだ」

 

 「そんなの、冗談でも受け付けられないぜ」

 

 「もし、それが本当なら、すぐに東のヤツをぶん殴ってやるさ」

 

 男子生徒二人は、東が葵に向かって言った言葉を即座に否定する。

 彼ら二人の今の言葉に、輝男は何も言い返そうとしない。

 

 (間違いない。盗撮を利用して黒山を脅したのは、東本人だ)

 

 厳しい表情の奥で、薄々、感付いていたことを強く確信する。

 すると、輝男は男子生徒二人と別れて、向こうの方へ歩を進める。

 しばらく歩くと、こちらの方へ近づく一人の男子生徒の姿を認めた。

 

 (東……!)

 

 輝男はすぐ目の前に東大一郎が近付くのを認めると、すかさず彼の前に立ちはだかった。

 

 「何だ、君は?」

 

 と、東がたずねようとすると、輝男はすぐに彼の右手首を引っ張り、手前にある階段の壁際に連れて行った。

 輝男は東と向き合うなり、彼を厳しい表情でにらみ付ける。

 

 「東、お前、一昨日の放課後、盗撮動画を使って黒山を脅したんだってな?」

 

 怒りを必死にこらえるかのような調子で、輝男は鋭く東を問い詰めようとする。

 しかし、東は輝男の今の問いに呆れ顔を見せる。

 

 「いきなり、変なマネをしたかと思ったら、そんなバカげたことを言うなんて……」

 

 「黒山本人が、お前がクラスの連中の代わりに自分を脅して来たと言ってるんだ」

 

 「ハァ? 君、そんな根も葉もないことを、何、大げさに言ってるんだ?」

 

 「お前、とぼけるつもりか!? 黒山は間違い無くお前に脅されたと…」

 

 「僕は一昨日、学校の授業が終わってすぐに下校したよ。

 あの日は、黒山とは一度も顔を合わせていないし」

 

 「東、この俺にふざけた嘘は通用しないぞ。そもそも、アイツに突き付けた例の盗撮も…」

 

 呆れ果て、さげすむかのような態度を見せる東に、輝男の声は徐々に怒気を孕むが、

 

 「君、僕がどんなヤツかわかっているだろ?

 この学校に入学して以来、定期考査では常に総合成績学年トップ。

 誰一人、僕にテストで勝ったことなど一度も無い。

 そんな僕が、どうして、自分より成績が低い者を脅したり、陥れようとしたりするのかね?」

 

 東は輝男の言葉をさえぎると、呆れ果てた調子で反論し、自分の潔白を訴えようとする。

 輝男は東の今の言葉に納得するどころか、怒りを募らせるかのように表情を険しくさせる。

 

 「じゃあ、誰が黒山を陥れようとしているんだ?」

 

 「そこら辺にゴロゴロと転がっているのではないか?

 彼女のことを快く思わぬ輩など、探せばすぐに見つかるから。

 少なくとも、僕はそんなゲスなマネはしないけどね」

 

 東は吐き捨てるような口調で輝男に言い返すと、そのまま輝男の前から去る。

 みすみす疑惑のターゲットを取り逃がす格好となるも、輝男は何故か東の退去を許してしまう。

 

 (今、東をとっ捕まえるのは得策じゃない。

 東が黒山を脅し付けた証拠をつかまないと……)

 

 今の時点で状況が有利ではないことを、輝男は心の中でつぶやく。

 東に対する疑惑と不快感を募らせつつも、そこから先へ進めなさいもどかしさが輝男の中で渦を巻いている。

 そんな輝男の苦悩をあざ笑うかのように、チャイムの音が校舎内に鳴り響く。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 校舎内・生徒玄関手前にかかっている時計が、三時五十分を指している。

 保健室の入口まで、輝男は真白と向き合っている。

 

 「じゃあ、黒山さん、ずっと保健室に?」

 

 「えぇ、学校に来てくれたのはいいけど、どうしても皆に顔を合わせるのが怖いって……」

 

 「どうして、皆と顔を合わせたくないんですか?」

 

 輝男の横にいる七海が、憂いを帯びた面持ちで真白にたずねる。

 

 「彼女、ずっと学校を休んでた理由を洗いざらい話してくれたけど……

 今の彼女の心境だと、この学校に足を踏み入れること自体、かなり億劫だから……」

 

 真白は今まで見せたことの無いような沈痛な面持ちで、七海に言い返す。

 真白の今の言葉に、七海は何も言い返そうとしない。

 すると、真白は輝男の方に目線を移す。

 

 「ところで、例の犯人は目星がついているの?」

 

 「大体は……でも、どうも決定打が欠けていると言うか……」

 

 真白からの問いかけに、輝男はやり切れないと言った様子で言い返す。

 輝男の返事に、真白は深くため息を付く。

 輝男たちがいる場所の壁の向こう側には、葵が生気の無い面持ちでベッドの淵に腰を下ろしている。

 かつて、生徒会室で鬼のように厳しく振る舞っていたのが嘘のように、死んだように静まり返っている。

 

 

 ちょうど、同じ頃――

 

 体育館の入り口脇にある女子更衣室に、一人の男子生徒がいる。

 他に誰もいない女子更衣室のロッカーの上に手を伸ばすと、そこに置いてあった箱を手づかみで取り上げる。

 男子生徒――すなわち、東大一郎は、箱の中から緩衝用の紙を数枚取り出すと、小型のデジタルビデオカメラを取り出した。

 ビデオカメラを手にすると、ニヤッと不気味にほくそ笑む東。

 すると、更衣室のドアが外から開かれた。

 

 「ちょ、ちょっと、アンタ、何、してんの?」

 

 ドアの向こうから体操着を着た女子生徒が、東を見るなり、驚きの声を上げた。

 すると、東はギクッと驚き、すぐにその場から逃げ出した。

 

 「大変! 変態、痴漢がうちの更衣室に忍び込んだわ!」

 

 女子生徒は応援を求めるかのように、辺り構わず叫び声を上げる。

 途端、体育館で部活をしていた他の女子生徒たちが、彼女のもとへ駆け寄る。

 一方、東はデジタルビデオカメラを抱えながら、一目散に逃げていく。

 そこへ、女子生徒たちが足早に追いかけて来る。

 

 「誰か捕まえて! うちの更衣室に忍び込んだ痴漢よ!」

 

 女子生徒の叫びが、真白と話をしている輝男の耳に流れ込んだ。

 輝男はすぐに、叫び声が聞こえて来た方へ駆ける。

 途端、こちらに急接近する東と真正面に向き合う。

 すると、輝男はすかさず、東を抑え、そのまま床の上に組み伏せる。

 東は組み伏せられた拍子にビデオカメラを離すと、制服のポケットから何枚かの写真を取りこぼしてしまう。

 輝男は東を組み伏せながら、床に散らばった写真を一瞥する。

 写真には、葵の自慰行為を盗み撮りしたものや、更衣室で着替えのために下着姿になる女子生徒たちの姿が写っていた。

 

 「東、これは一体、どういうことだ!?」

 

 輝男が鬼の形相で問い詰めようとすると、

 

 「お、俺は何もやってない、潔白だ!」

 

 東は声を震わせ、今にも泣き出しそうな声でむなしい訴えを叫ぶ。

 東の今の言葉に、輝男は更に怒りを募らせる。

 

 「ふざけるな! そのカメラと写真は一体、何だ!?」

 

 怒りに任せて声を張り上げる輝男に、東はわなわなと身を震わせる。

 泣きべそでもかくかのようなみっともない顔を見せる東を、追って来た女子生徒たちや駆け付けて来た教諭たちが取り囲む。

 ある者は戸惑うような顔を見せ、また、ある者はさげすむような険しい目付きで東を見る。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 校舎・第二棟一回、渡り廊下を抜けてすぐのところに、“生徒指導室”と横書きで記された札を掲げた正面ドアが見える。

 ドアの向こう側――生徒指導室内で、東は萎縮しきった様子で椅子に腰を下ろしている。

 彼の真向かい、左右に並べられた机を挟んで、理華と四十代くらいの男性教諭が座っている。

 一方、東の左右には、輝男、真白と葵、そして七海が、彼を挟むようにして立っている。

 輝男はキッと唇を閉ざしたまま、怒りに満ちた険しい表情で東を見下ろしている。

 真白もまた、さげすむような冷やかなまなざしで、東を鋭くにらむ。

 そして、葵は重い表情を見せ、七海は沈痛な面持ちを見せながら黙り込む。

 理華と男性教諭は、東が持っていたデジタルビデオカメラと写真を一つ残らず見通す。

 カメラに備え付けられているモニターには、女子更衣室で女子生徒たちが着替えている姿がハッキリと映っている。

 理華が手にしている写真には、葵の痴態を始め、女子生徒たちを盗み撮りした姿がとらえられている。

 カメラと写真を見終えると、理華と男性教諭は東をまっすぐに見据える。

 

 「理由はどうあろうと、お前が女子更衣室に忍び込み、このような盗撮画像を所持していたことは否定しようのない事実だ」

 

 「東君、君ともあろう人が、このような明らかな校則違反を犯して、ただで済むと思ってるの?」

 

 男性教諭と理華は努めて感情を抑えながら、東に対して卑劣な違反行為をとがめようとする。

 すると、東は顔を上げ、憮然とした表情を理華たちに向ける。

 

 「先生たちは、僕はいかなる人間がわかってらっしゃるでしょ?

 一年の一学期から、中間、期末考査では常に学年トップ。

 誰もが認める非の打ちようの無い優等生である、この僕ですよ?

 先生方なら、その程度のことで、校内随一の優等生である僕を責める必要なんか何も無いのに」

 

 明らかな事実で批判されているにも関わらず、逆に、自分の立場を鼻にかけてシラを切り通そうとする。

 

 「その程度だと……!」

 

 輝男は、東の今の言葉に搾るような声で怒りをあらわにする。

 すると、

 

 「天江君、今は下がって」

 

 理華が鋭い口調で、輝男に制止をうながす。

 不承不承ながらも輝男が引き下がると、理華がすかさず話しかける。

 

 「東君、正直に言って、あなたがやった盗撮行為は今回だけじゃないでしょ?」

 

 「これだけの盗撮画像は、ほんの一、二回程度で撮れるものじゃない。

 余程の常習犯でなければできんことだ」

 

 理華に続き、男性教諭が盗撮写真とスマートフォンを左右の手に持ちながら言う。

 東から取り上げたスマートフォンには、葵の痴態の他にも、別の女子生徒のパンチラや着替えを盗撮した動画が収められている。

 

 「今までやってきた盗撮行為の一切をすべて白状しなさい。

 さもないと、あなた、退学は避けられないわ」

 

 横で東をにらんでいた真白が、厳しい口調で彼に言い聞かせる。

 しかし、東は要求に応じるどころか、逆ギレも同然に不機嫌な顔を見せる。

 

 「皆、よってたかって、俺をイジメて……

 俺がちょっとばかり成績がいいからって、根も葉もないことで陥れようとして……」

 

 東はなおも自分の非を認めず、逆に、輝男たちに非を求めるかのようにブツブツと愚痴をこぼす。

 すると、葵が東の真ん前にまで迫って来た。

 キッと険しい表情でにらみつけながら、手にしていた用紙を東の前に突き付ける。

 東のすぐ目の前には、葵の生徒会長辞任を要求する例の脅迫文がある。

 

 「この脅迫文を書いたのはあなたでしょ? それに、私を盗撮したのも……」

 

 葵は表情を強張らせ、怒りに身を震わせながら、東に言う。

 

 「正直に言え! もう、すべてはわかってるんだ!

 後は、お前が素直に自分の罪を認めるかどうかだけだ!」

 

 「東君、君もバカでなければ、自分が取るべき選択肢ぐらい、すぐにわかるはずでしょ?」

 

 間を置くこと無く、輝男と理華の怒りの声が、東に強く迫る。

 正に四面楚歌といっていい状況の中、東は苦々しく口を閉ざす。

 しかし、わずかな沈黙の後、東はゆっくりと口を開く。

 

 「正直に言えば、僕の罪とやらを許してくれますね?」

 

 東はなおも、理華と男性教諭を前にして、ふてぶてしい態度を見せ付ける。

 東の今の言葉に、理華と男性教諭は厳しい表情で沈黙する。

 明らかに許す気など無い二人の態度に構わず、東は口を動かす。

 

 「そうです……。僕は、黒山や他の女子生徒たちを長いこと盗撮しました。

 ちゃんと白状したから許して下さい」

 

 平然とした口調で自分の罪を認め、告白する東。

 しかし、彼の傲然とした表情と口調からは、わずかな反省も認められない。

 すると、横から伸ばされた手が、東の胸倉をつかんだ。

 

 「ふざけるな! それが罪を犯した者が取る態度か!?」

 

 輝男は東の胸倉をつかみながら、鬼の形相で怒りの声を張り上げる。

 これまで誰にも見せたことの無いような憤怒の形相に、その場にいた一同は驚愕する。

 

 「おい、天江、やめろ!」

 

 男性教諭は困惑しながら輝男に声をかけるが、

 

 「お前のくだらない悪ふざけのために、黒山がどれだけ傷付いたか考えたことがあるか!?

 しかも、黒山ばかりか、他の女子たちまで平然と辱めて……!

 もし、お前やお前の大好きな女の子がそんな目に遭っても、お前はそうして平然としていられるか!?」

 

 輝男は男性教諭の制止の叫びを無視して、東にまっとうな怒りをぶつける。

 しかし、東は輝男の怒りを目の当たりにして、萎縮するどころか、逆に不快感をあらわにする。

 

 「テストではいつも俺に勝てなかったから、こんなことで俺をぶちのめそうとする腹づもりか……

 汚いヤツめ……」

 

 反省するどころか、逆に居直りの態度を見せる。

 どうあっても状況が不利なのは、輝男ではなく東の方だが……

 しかし、東は輝男の怒りを前にして、なおも言葉を続ける。

 

 「俺の盗撮を校則違反だと騒ぐが、黒山が校内でオナニーに耽っていることの方が、もっと校則違反じゃないか?

 真面目ぶって威張り散らしているくせに、裏ではバカみたいにオナニーに耽る変態女がこの学校で生徒会長などと、冗談でも笑えない話だろうが」

 

 「だが、黒山は他の誰も傷付けていない。

 しかし、お前は、黒山だけでなく、他の女子たちもたくさん傷付けた。

 それだけでも、お前がしでかした所業は、絶対に許されるものじゃないぞ!」

 

 「黙れ。お前は女の子たちが可愛いからそんなことを言えるかもしれんが……

 結局のところ、女なんて、欲望のはけ口でしか無いんだ。

 美少女、巨乳女、美人教師、女の生徒会長……

 そんな連中なんか、犯される以外に何の存在価値も無い。

 盗撮程度で済まされただけでもありがたく思え」

 

 輝男に追い込まれたせいで、自ずと、下劣な本性をサラッと言ってのけた東。

 心ある者なら誰でも傷付かざるを得ない一言を、彼は平然と、吐き捨てるかのように言い放つ。

 彼の今の言葉に、その場にいた一同は、否が応にも愕然としてしまう。

 学校でも指折りの優等生と思われていた東は、実はとんでもない盗撮魔であるだけでなく、救いようのないくらいの女性蔑視をさらけ出す、恥知らずの下衆、外道だと思い知ってしまったからだ。

 一番の被害者である葵は、東の今の言葉に、思わず怒りを忘れて唖然としてしまう。

 東の胸倉をつかんでいた輝男は、一瞬、唖然とした後、彼に向かって、握り拳を勢い良く振り上げる。

 すると、

 

 「やめて!」

 

 向こうから聞こえて来た制止の叫びが、今まさに東を殴ろうとした輝男の耳に入った。

 輝男が振り向くと、未だ愕然とする七海が、こちらの方へ歩み寄って来た。

 近付く七海に、輝男は拳を下ろし、東の胸倉から手を放す。

 間も無くして、七海は東の真ん前に着いた。

 東が七海の方を振り向くと、次の瞬間、彼の頬を力強い平手がぶった。

 七海が怒りに満ちた形相で東をにらみながら、彼の頬を平手打ちしたのだ。

 まさかの七海の行為に、輝男たちは驚きの余り、言葉を失う。

 東もまた、予想だにしなかった相手からの殴打に驚きを隠せない。

 驚きの余り、一瞬、唖然とした東だったが、すぐに汚物でも見るような険しい目付きで、七海をにらむ。

 

 「お前、何様のつもりだ!?

 落ちこぼれにも等しい成績しか取れないバカなメス犬の分際で、学校一の優秀な成績を誇るこの俺を殴るとは……!」

 

 なおも、下賤な者を相手にするかのような傲慢な態度で、七海を強くなじる。

 七海は東の今の言葉を聞くと、握り拳を震わせ、目元に涙をにじませながら、東をにらみ続ける。

 

 「最低だわ……あなた、最低過ぎるわ!

 何が優等生よ! あなたなんか、世界で一番の最低最悪の卑怯者よ!

 今すぐ、私たちの前から消え失せて!!」

 

 東に向かって、腹の底から怒りの叫び声を上げる七海。

 しかし、すぐにその場で力無く屈し、重くうな垂れた。

 

 「うぅ……うぅっ……」

 

 わなわなと身を震わせ、涙をこぼしながらすすり泣く。

 大事な仲間、先輩である葵を辱められた怒りと悔しさに、感情が爆発してしまったのだ。

 すると、七海の右肩に何者かが優しく手を添える。

 涙に濡れた顔を上げると、心配そうに見つめる輝男の顔が、七海の目に映った。

 

 「百川、どうして君が、ヤツにあんなことを……?

 本当は、俺がヤツを何度もぶん殴るつもりだったのに……」

 

 申し訳なさそうに言う輝男に、七海は泣きべそをかきながらも口を動かす。

 

 「いいえ……。私もこればかりはどうしても我慢できなかったんです……

 黒山先輩をあれだけ傷付けておきながら、ごめんなさいの一言も言ってくれないから……」

 

 七海は涙交じりの声で輝男に言い返す。

 すると、七海の左肩に、別の何者かの手が添えられた。

 七海が振り向くと、葵が沈痛な面持ちで彼女を見つめていた。

 

 「私ともあろう者が、こんなことであなたの手をわずらわせるなんて……

 こんなこと言いたくないけど……

 初めから、ごめんなさいと言ってちゃんと反省するくらいなら、元々、あんな卑劣な行為などしなかったのだから……

 あなたでも天江君でもなく、私こそが真っ先に彼を殴るべきだったのに……」

 

 葵は沈痛な調子でやりきれない思いを七海に言う。

 怒りと悔しさ、悲しみが、三人の心の中で混ざり合い、乱気流のように渦を巻いている。

 そんな輝男たちを、理華たち教諭三人はただ黙って見つめる。

 東に対して向けた怒りや嫌悪とは大いに違う、温かく見守るかのようなまなざしが輝男たちをとらえる。

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