「ふぅー、やっと準備が終わった」
男子生徒の一人が疲れたような顔でため息を付く。
彼の他にも、何人かの男子生徒、女子生徒がいる。
その中には、輝男と桜月の姿もある。
今、彼らがいるのは、自分たちのクラスである2年A組の教室内である。
しかし、教卓や机の並びはかなり変えられている。
教室内の前半分は、前後に重ね合わせた机が二つ、七組ほど配置されている。
そして、後ろ半分の方は、教卓を境にして一メートルほどのアクリル板で仕切られている。
アクリル板の向こうでは、一つにまとめられた残る全ての机が配置されており、紙コップ等が置かれている。
「皆、ご苦労様。後は、明日の文化祭を待つだけね」
理華がにこやかな顔で、生徒たちに言葉をかける。
実は輝男たちは、明日、明後日に行なわれる文化祭で自分たちがやる模擬店の準備をしていたのだ。
放課後に入ってから、レイアウトと品物の材料調達で忙しく動き回り、日が暮れて久しい時刻になって、ようやくすべての準備を終えたのだ。
「しかし、上手くいくかしら?」
女子生徒の一人が半ば心配するかのように言うと、
「大丈夫。ちゃんとお客さんは来てくれるさ」
「そうそう。うちには格好のイケメンがいるから、女性客に限っては心配無いぜ」
傍にいた男子生徒二人は、自信に満ちた調子で言葉を返す。
そして、すぐに輝男の方に視線を向ける。
「お、おい、お前ら、冗談は無しだぞ」
クラスメートたちの視線に、輝男は恥ずかしそうに言葉を返す。
今の輝男たちのやり取りに、その場にいたクラスメートたちから笑い声が上がる。
桜月もクラスメートたちに混じって笑みをこぼす。
「とにかく、お店をやる以上は、ちゃんと稼がないと意味無いからね。
もし、万一、とんでもない赤字で終わるようなことになったら……皆、覚悟しなさい」
理華が不敵な笑みを浮かべながら言うと、沸き上がった笑い声はすぐに止んだ。
模擬店でも、実戦さながらに臨む姿勢をうながす担任に、生徒たちは否が応にもプレッシャーを感じる。
◇ ◇ ◇
漆黒の夜空がタワーマンションを見下ろす。
マンション内のとあるリビングに、三人分のメニューが並ぶ。
テーブルに並べられたメニューを、輝男と桜月が口にする。
二人とも制服のブレザーを脱いでいる。
「うん、美味い」
「どう? お口に合うかしら?」
「えぇ、とても美味しいです。
……って言うか、私までご飯に誘って下さるなんて」
「一生懸命、お店の準備をしたお礼よ。でも、これは皆には内緒だからね」
「でも、まさか、先生と天江君が同じマンションに住んでたなんて」
桜月は箸を進ませながら、横に座る輝男と真向かいにいる理華を交互に見る。
「天江君も水臭いわね。どうして、今まで日向さんに黙ってたわけ?」
「わざわざ言う必要も無い…と言うか、言えば言ったで、何だか面倒なことになりそうな気がして」
輝男は理華が作ってくれた夕食を口にしながら、半ば気まずそうに言葉をかける。
担任でありながら何度も体を重ねた間柄、しかも、その上、同じマンションに住むご近所さん。
普通であれば、他人に言いふらすのもはばかれる事柄かもしれない。
そんな輝男の内心を知ってか知らずか、理華はクスッと笑みをこぼす。
「別に隠さなくてもいいのに。日向さんに限って言えば…ね」
不敵な笑みを浮かべながら言って来る理華に、輝男は顔を赤くし、桜月は表情を曇りがちにする。
理華の今の言葉が大きな含みを持っているのは、容易に理解できる。
三十分後――
テーブルの上はすっかり片付いている。
さっきまでメニューを載せていた皿は、キッチンにいる理華によって洗われている。
鼻歌交じりに皿を洗っている理華の後ろで、輝男と桜月は何やら話をしている。
「じゃあ、去年はフリマをやってたの?」
「あぁ。日向の方は?」
「私は今回、喫茶店なんて初めてだから……。正直、右も左もわからなくて、不安なの」
「大丈夫さ。この前の夏休み、コンビニのバイトで接客してたんだから、その感じでやれば心配無いよ」
そう言葉を交わすと、輝男と桜月はしばし、黙り込んでしまう。
何故か、そこから先に話を進ませることができずにいるようだ。
しかし、わずかな沈黙の後、桜月が口を開く。
「……いいわね、先生……」
桜月は半ば表情を曇らせ、うつむきながらポツリとつぶやく。
「天江君のすぐ近くに住んでて、状況が許せば、いつでもすぐに互いに家を行き来できる間柄なんだから……」
寂しそうにつぶやきながらも、輝男のすぐ近所に住む担任に対する羨望に似た思いをつぶやく。
桜月の今のつぶやきに、輝男は半ば困惑したような顔を見せる。
「何、勘違いしてんだよ?
俺と先生は、同じマンションの別々の部屋に住んでるけど、いつもヤってるわけじゃないし……
元々、先生と俺は、担任と教え子の関係なわけだから……」
桜月に向かって、しどろもどろに弁明を試みようとするも、
(まったく、先生も余計なことを……!)
可愛い教え子の一人に平然とプレッシャーをかけようとする理華に、内心、嘆息する。
すると、理華が二人の方に歩み寄って来た。
「悪いけど、私、これからシャワーを浴びるから」
輝男たちの前に近付くなり、理華はすかさずそう言い放った。
あっけらかんと言って来る担任に、輝男と桜月は思わず顔を赤らめる。
しかし、理華は輝男たちをほったらかすかのようにすぐに背を向ける。
バスルームの手前に差し掛かると、すぐに輝男たちの方を振り返る。
「あ、言い忘れたけど、覗いたりしちゃダメよ」
ニコッとほほ笑みながら言って来る理華に、
「するわけ、ないじゃないですか!」
輝男は恥ずかしそうに顔を赤くしながら声を上げる。
輝男の反応に笑みをこぼすと、理華はそのままシャワールームの中に入って行く。
理華の姿が消えると、輝男は困惑しきったかのようにため息を付く。
(理華さんったら……俺と桜月のことをとことんからかってる……)
自分たち――特に桜月――を挑発して来る理華の態度に、輝男は嘆息せずにはいられない。
すると、横から伸ばされた手が、輝男の手をギュッと握った。
輝男が横を振り向くと、桜月が頬を赤らめながら、乞うようなまなざしで輝男を見つめている。
「お、おい、日向……」
「ねぇ、天江君……シよ……?」
半ば戸惑い気味に呼びかける輝男に、桜月はやや恥ずかしそうに言葉を返す。
「な、何、言ってんだ?」
輝男がそう言い返すと、桜月はすかさず、輝男の制服のスラックスのジッパーを下ろす。
下ろされたジッパーの内側から、肉の棒を取り出し、その先端にチュッとキスをする。
「日向、一体、何のマネだ?」
輝男が困惑しきった様子でたずねると、桜月は肉の棒を手にしながら、輝男を上目遣いで見る。
「明日、明後日、文化祭で色々と忙しくなるから、今から元気づけてあげようと思って……」
「気持ちは嬉しいけど、わざわざそんなことをしてもらう必要は……」
「……それに、今、先生、お風呂に入っているし……」
桜月の今の言葉に、輝男は言葉を詰まらせる。
彼はすぐに、桜月の狙いを理解した。
担任でもある理華に嫉妬心を煽られ、自分を嫉妬させた理華が目を離している隙に、同じ愛する男と体を重ねようとしているのだ。
しかも、ドアを一枚隔てた向こう側で……
輝男が自分と事に及ぼうとする桜月の心意に思いを巡らしていると、当の桜月は、身を屈めながら彼の肉の棒をくわえ込む。
「んっ、んんっ……んっ、んむぅ……」
陰茎でふさがれた口元から、かすかなうめき声が漏れる。
口を前後に動かしながら、陰茎に生温かい刺激を与える。
「さ、桜月……」
輝男は真上から頭を撫でながら、口で奉仕する同級生に言葉をかける。
生温かく柔らかい口腔が陰茎に触れる感触が、心地よい刺激となって神経に伝わっている。
(そう言えば、二学期に入ってから、桜月とはご無沙汰だったからな……)
神楽、真白、七海、そして、葵――
二学期に入ってから体を重ねた女性たちのことを思い出しながら、桜月によるフェラチオを甘受する。
すると、ドアの向こうから、シャワーの流れる音が小さく聞こえて来る。
シャワーの音を耳にした途端、輝男の脳裏にある姿が浮かび上がる。
バスルームでシャワーを浴びている理華の裸体――
心地良く緩む美貌――
お湯の雨が流れるようにこぼれていく色白の細く引き締まった肢体――
そして、お湯の水玉が跳ねる大きな左右のふくらみ――
ドアの向こう側で、実際にそうなっているであろう理華の今の姿が、輝男の脳裏に否応なく浮かび上がる。
桜月が自分のモノをしゃぶり続けているのを忘れて、よこしまな妄想に顔を真っ赤にする。
そんな輝男の心境を知ってか知らずか、桜月は口の動きをペースアップさせる。
向こうからかすかに聞こえるシャワーの音をかき消すかのように、桜月の口元から唾液の跳ねる音が小さく響く。
「んんっ、んっ、んうぅっ、んうぅ……!」
ペースアップする口の動きに合わせて、桜月のうめき声も艶やかにトーンアップする。
聴覚を通して襲い来るみだらな妄想と、今、実際に直撃する口淫に、輝男自身は否が応にも充血する。
「んっ、んぐっ……んむっ……!」
輝男のモノをくわえ続けている桜月が、眉をしかめ、息詰まるようなうめき声を上げる。
桜月の口内で、輝男のモノは固さと大きさを増しているのだ。
(桜月のフェラ、とても気持ちいいし……。バスルームには理華さんが……!)
同級生美少女のみだらな献身――
時を同じくして、ドアの向こうで艶めかしい姿をさらしている美人担任――
他の誰も中々、味わえないシチュエーションに、輝男は嫌でも劣情を催し、自分の中が容赦無く沸き立つのを抑え切れずにいる。
すると、桜月がようやく輝男の陰茎を口から離した。
荒く息を吐く桜月の目の前には、唾液と別の液で表面をまぶされた輝男の陰茎がビンと突っ立っている。
「ヤダ、もう、こんなに大きくなっちゃって……」
「君のせいでこんなになっちゃったんじゃないか」
笑みを浮かべながらからかうように言って来る桜月に、輝男はため息交じりに言い返す。
◇ ◇ ◇
バスルーム横の壁に、桜月が両手を付きながら立っている。
既に、制服のブレザーは脱いでいるが、左の太ももに水色のショーツが引っかかっている以外は、そのままの制服姿でいる。
一方の輝男は、ブレザーを脱ぎ、スラックスから剛直をさらけ出している以外は、やはり制服姿のままだ。
「ホントにここでヤるのか?」
輝男がためらいがちに言うと、
「お願い、早く、来て」
桜月は後ろを振り返りながら懇願する。
桜月の今の懇願に、輝男は困惑した面持ちでため息を付く。
(桜月のヤツ、理華さんに当て付ける気、満々じゃないか……)
今、桜月が両手を付いている壁の向こうで、理華は入浴中である。
そのことを知っている輝男は、今、自分を求める桜月の行動に嘆息する。
同じ男と関係を持つ担任への嫉妬心を押し殺しきれない桜月に、思わずため息を付いてしまう。
しかし、コンドームに包まれた剛直は、主(あるじ)の意思に関係無く、目先の淫欲にいきり立っている。
もちろん、輝男自身も、下手にためらって中途半端な状態で止まるよりは最後まで突き進んだ方がマシだと思う性分である。
桜月の背後から彼女のスカートをめくり上げ、裸の美尻に剛直の先端をあてがう。
「あっ……」
桜月のかすかな喘ぎを耳にすると、彼女の美尻を左右両脇からつかむ。
そして、剛直の先端を桜月の秘裂に入り込ませる。
「うぅ……あっ、あぁっ……!」
剛直の前進に、桜月は声を上げながらのけ反る。
桜月の今の悲鳴を聞くと、輝男はいきなり大きく腰を動かす。
「あっ、うぅっ……ハァッ、あっ、んうぅっ……!」
勢いよく前後運動を仕掛ける輝男に、桜月は艶やかな喘ぎで応じる。
(理華さんが風呂から上がる前で早く、片付けておかないと……!)
万一の事態に対する不安を頭の片隅に置きながら、輝男は激しく腰を振り続ける。
やがて、輝男と桜月の間に、パン、パン…と乾いた衝突音が響く。
「あんっ、んんっ、うぅっ……す、すご……すごい……!
今日の輝男君……いつにも増して……激しい……!」
荒い吐息と艶やかな喘ぎを繰り返しながら、桜月が歓喜の念を言って来ると、
「そ、そうか……? 君の中も……締まってるよ……」
輝男は熱に浮かされたかのように言葉を返す。
剛直の激しい前後運動に応じるかのように、桜月のヴァギナはギュッと狭まっていく。
狭まる四方の肉壁に囲まれ、その生温かい感触に触れると、輝男の剛直は更に固く、大きくなっていく。
「う、うぅっ……! ヤダッ、輝男君…ったら……ますます固く、大きくなって……!」
自分の中で固く、膨張する剛直に桜月がうめくと、
「君こそ、すごくキツキツになってるじゃないか……!」
輝男は荒く息を弾ませ、激しく腰を動かし続けながら、自分自身を締め付けるヴァギナの感触を言って来る。
まるで、どちらか一方に非があるかのような言い分をお互いにしているが、実際には、剛直の膨張とヴァギナの際限無い収縮が同時進行で進んでいるのだ。
膨張を続ける剛直と狭まる一方のヴァギナは、すぐに強烈な摩擦を引き起こす。
「あっ、ハァッ! んうぅっ……!」
自分の中で生じる強過ぎる摩擦に、桜月は大きく体をのけ反らせながらうめき声を上げる。
「イヤ、ダメ……! お、お腹……破けちゃう……!」
摩擦の源である背後からの激しい律動に、艶やかな苦悶の声を上げる桜月。
すると、輝男の両手が、桜月の美尻から離れた。
輝男の左右の手は、桜月の両手首を後ろからつかみ取った。
桜月の両腕を後ろから引っ張ると、そのまま腰を強く打ち据えて来る。
まるで手綱でも引くかのように両腕を引っ張られた状態で、背後からの男の腰に美尻を激しく小刻みにぶつけられる桜月。
「あぁっ……あっ、あっ、あっ、あっ……ハァッ……んあっ……」
桜月は体を大きくのけ反らせたまま、艶やかな喘ぎを上ずらせる。
あどけなさの残る美貌は紅潮し、恍惚の度合いを増している。
輝男は額に汗をにじませながらも、繰り返し桜月に腰を打ち据える。
桜月の手首をつかむ左右の手は、彼女の手元がわなわなと震えているのをすぐに認める。
そして、自らが荒らすヴァギナは、熱と愛液を帯びながらギュッと締め付けを強めている。
「て、輝男…君……もっと……あぁん、もっとぉ――――――……」
桜月は体をわなわなと震わせながらも、うわ言のように更なる責め苦を求めている。
輝男は桜月の懇願に応じるかのように腰をぶつけつつも、
(桜月、そろそろ限界が近いか……?)
依然として収まらない体の震えと狭まる一方のヴァギナから、今の彼女の状態をすぐに察する。
一方の輝男も、ヴァギナの締め付けによって自らも限界に至る沸騰感にさいなまれている。
しかし、そのことはおくびにも出さず、逆に、ヴァギナを覆う熱と愛液に煽られるようにしてラストスパートをかけようとする。
腰と美尻がぶつかり合う音がトーンアップして響く中、
「あぁ、いい……すごい……!
輝男君の……あたしの中……奥に……何度も当たってる……!」
桜月の口から歓喜のうわ言が漏れる。
四方の肉壁を突き破らんばかりの勢いで、剛直は桜月の中、最深部に何度も突き当たる。
コンドームに包まれてはいるが、固く膨張しきった状態で剛直が行き来を繰り返す秘裂の隙間からは、削られた肉壁のかけらの代わりに、蜜のようなものがこぼれて来る。
輝男の手につかまれた左右の手元も、我が身を支える細い左右の脚も、遠目にもわかるくらいにわなわなと震えている。
やがて、桜月は痙攣でも起こしたかのように、ビクッとのけ反ると、
「イヤ、ダメ……! も、もう、イく…イっちゃう……!」
声を震わせながら、自らの限界が近付いたことを告げる。
桜月の今の言葉に、輝男は激しく腰をぶつけ続けながら、
「さ、桜月……俺もそろそろ……」
荒く息を弾ませ、自分も限界間近であることを桜月に告げる。
「あぁ、ダ、ダメ……! 早く……早く……!」
限界にさいなむ桜月の震える声を耳にしながら、何度も腰をぶつけ続ける輝男。
桜月のヴァギナは、輝男自身を拒み、あるいは締め付けるかのように強く狭まっている。
既に、桜月の体は限界間近であるが、あえてそれを無視するかのようにがむしゃらな動きを繰り返す。
しかし、間も無くして、輝男の腰が桜月の美尻に強い一突きを食らわすと、
「あぁっ……! イ、イくぅ――――――……」
桜月は体を大きくのけ反らせながら、絶頂の声を上げた。
桜月が悲鳴を上げて間も無く、ギュッと締まり切った桜月の中で輝男は勢いよく果てた……
◇ ◇ ◇
雲一つ無い夜空と黄色い半月が、静まり返った住宅街を見下ろす。
住宅街の一角にある一軒家での手前で、輝男と桜月は向き合っている。
今、二人がいるのは桜月の自宅前である。
キチンと制服を着ている二人の姿からは、ほんの一、二時間前まで激しいセックスに耽っていたことなど、まったくうかがい知ることはできない。
しかも、担任の自宅で、当の担任がシャワーを浴びている間に……
「わざわざ付き合わなくても良かったのに」
「こんな夜遅くに女の子を一人歩きさせるのは、危険じゃないかと思ってね」
輝男が言い返すと、桜月はクスッと笑みをこぼす
「そこまで私のことを心配してくれるなんて……」
「何かあって明日の文化祭に支障を来したらマズいじゃないか。それに…」
そう言葉を返す輝男の頬に、桜月の柔らかな唇が触れた。
「わかってるわ……輝男君……」
「桜月……」
柔らかな笑みで呼びかける桜月に、輝男は一言、呼び返すだけである。
「天江君、明日からの文化祭、頑張ろうね」
「あぁ、お互い、頑張ろうな」
二人は共に笑みを見せながら、明日へ向かっての意欲を交わす
輝男の今の言葉を聞くと、桜月は自宅玄関へと向かう。
家に入りかけた刹那、後ろを振り返り、輝男と目を合わせる。
「じゃあね、天江君」
「あぁ、お休み、日向」
挨拶を交わした後、桜月はようやく自宅へと入っていった。
桜月の帰宅が無事に済むと同時に、輝男の制服のブレザーのポケットから振動音が鳴り出した。
ポケットからスマートフォンを取り出すと、すぐに電話に出る。
『天江君、あなた、どこにいるの?』
「今、日向を家に送ってたところですよ」
『何だ、そうだったの。
お風呂から上がったら、あなたも日向さんもいなくなってたから心配してたのよ』
「すいませんでした、先生」
輝男は気まずそうな顔を見せながら、電話の向こうから言ってくる女性――即ち、理華に謝る。
『まったく……私に黙って家を出るだけならまだしも……
私がお風呂入ってる傍で、二人して激しくエッチするなんて、どういう了見をしてるのかしら?』
半ば糾弾し、半ばからかうかのような電話越しの声に、苦い表情で言葉を詰まらせる輝男。
輝男が何も言い返さないのを見ると、電話の向こうにいる理華が続けて声をかける。
『罰として、戻ったら私と夜通しヤりまくってもらうから』
「せ、先生!!」
『冗談よ冗談。今夜はもう遅いし、明日のためにもゆっくりと休みたいんでしょ?』
「まったく……理華さんも冗談が過ぎますよ」
『とにかく、気をつけて帰りなさい』
電話の向こうの理華は、何度も体を重ねた可愛い教え子をからかいつつも、担任として然るべき言葉をかける。
『じゃあ、輝男君、明日の文化祭、頑張りなさい。お休み』
「先生もお休みなさい」
輝男は電話越しに理華に挨拶すると、そのまま電話を切った。
電話を終えた輝男は、一人、帰路に就こうとする
(明日から文化祭か……)
心の中で自らに気合いを入れる輝男の身に、心地よい秋風が吹き付ける。
そして、雲一つ無い夜空と黄色く色づく半月が、はるか真上から輝男を見下ろす。