※この作品はR-18です。

天江輝男の日常   作:原野イアン

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楽しい文化祭(5) そして終幕へ… ●

 輝男は、小春を伴ったまま一人の同級生男子と向き合う。

 目の前にいる男子生徒――2年D組の加藤は、困惑しきった顔を輝男に見せる。

 輝男は彼の顔を見ると、

 

 (まさか、俺がちょっと目を離した隙に、また厄介なトラブルでも……)

 

 内心、困惑と痛恨の念をつぶやく。

 トラブル防止のため、校内見回りを担当していた輝男だったが、何かトラブルが起きたのかと思い、痛恨の念を内心に募らせる。

 それでも、ついさっきまで男子トイレの個室で今、傍にいる少女――大富小春――と激しくセックスに興じていたなど、おくびにも出すまいとする。

 輝男は加藤に神妙な面持ちを見せると、

 

 「一体、何があったんだ……?」

 

 不安に満ちた調子でたずねる。

 すると、加藤は困惑しきった顔を見せながら口を動かす。

 

 「頼む……! 誰かお姫様役やってくれる女の子を見つけてくれないか……!?」

 

 痛切な調子で言って来る加藤に、輝男は思わず呆気に取られる。

 文化祭続行に支障を来たすような重大事かと思っていた輝男は、同級生の今の言葉につい拍子抜けしてしまう。

 

 「何だ、そんなことか……」

 

 一気に体の力が抜けたかのように、半ば呆れながらため息を付くと、

 

 「何だとは何だ、何だとは!? うちらにとっては、とてもヤバい重大事なんだぞ!」

 

 加藤はすかさず、声を上げて輝男に食って掛かる。

 

 「あぁ、すまん、悪かった。

 確か、君らD組は、この後、演劇やるんだってな? 確か『眠れる森の美女』だとか……」

 

 「そうなんだよ。

 でも、お姫様役やることになってた佐藤が、さっき、入院中のおじいちゃんが危篤になったとかで早退しちゃって……」

 

 加藤の説明を聞くと、輝男はすぐに表情を重くさせる。

 

 「そうか……身内に不幸があったのなら、仕方が無いか……」

 

 「それで、うちらで何とか代役やってくる女子がいないか探しているんだけど、中々、見つからなくて……

 天江、お前のところのクラスにも、お姫様役やってくれそうな女の子、何人か、いるはずだろ?」

 

 「あぁ、でも、彼女たちも、皆、うちの模擬カフェや他の件で付きっきりで……

 君のところのお芝居に付き合える余裕がありそうなのは……」

 

 申し訳無さそうに言う輝男に、加藤はガクッと肩を落とす。

 すると、

 

 「あぁ! お姫様役ならアタシがやる!」

 

 さっきまで輝男と加藤のやり取りを傍観していた小春が、声を弾ませながら割って入る。

 小春の今の申し出に、輝男も加藤も驚く。

 

 「おい、お姫様役やりたいって……お芝居なんて、そんな簡単にできるものじゃないんだぞ!」

 

 「でも、確か『眠れる森の美女』のお姫様って、ずっと眠ってて、最後に少しばかしセリフを言うだけなんでしょ?

 それなら、アタシでもちゃんとやれるわよ」

 

 呆れ顔でたしなめる輝男に、小春は自信満々といった様子で言い返す。

 ただし、その自信が何を根拠とするのか怪しいが……

 すると、加藤が怪訝な顔つきで輝男と向き合う。

 

 「天江、この娘、誰? 見かけない顔だけど……」

 

 小春をチラッと見ながら輝男にたずねる加藤。

 美人ではあるがいかにも“ギャル”系といった雰囲気に、否が応にも怪訝な顔を見せる。

 

 「アタシ、御学堂大附属高一年、大富小春。よろしくね」

 

 小春はエヘッと笑みを浮かべながら、加藤に挨拶する。

 小春の今の挨拶に、加藤は驚き、唖然とする。

 

 「君、あの御学堂大附属の生徒!? 嘘だろ!?」

 

 「失礼しちゃうわ! ホントよ!」

 

 当然ながら疑いの声を上げる加藤に、小春はムッと頬を膨らませる。

 百年以上の歴史を誇り、都内――否、日本でも一、二を争う名門私立高と目の前のギャル系少女が、加藤の中ではどうしても合致できないからだ。

 小春はパーカーのポケットから手帳を取り出すと、疑念を隠そうとしない加藤の目の前に手帳の表紙裏を突き付ける。

 手帳の表紙裏には、“御学堂大学附属高等学校”と記された学生証が、制服姿の小春の写真を添えて貼り付けられている。

 輝男と加藤は、小春が手にする学生証を凝視する。

 

 「どうやら、マジだな……」

 

 「あぁ……」

 

 否が応にも納得せざるを得ない加藤に、輝男は単調に相槌を打つ。

 加藤は学生証を見ると、すぐにまた小春の顔を見る。

 

 「しかし、君が本当に御学堂大附属の生徒であるのは間違いないにしても……

 俺たちより一年下だなんて信じられないよ……

 同い年か、下手すれば年上にさえ見えちゃうよ……」

 

 小春を上から下まで隅々に眺めながら言うと、

 

 「……もしかして、留年しまくってんじゃないよね……?」

 

 ボソッと疑念の言葉をかける。

 すると、小春は加藤をじろっとにらむなり、彼の腕を力強くつねる。

 

 「い、いてぇっ!!」

 

 「これ以上、ふざけたこと言うと、マジで蹴り殺すよ……!」

 

 加藤の腕をつねりながら、鋭くも怒気を孕んだ形相で脅しの言葉をかける。

 小春の容赦無い脅しに、輝男はただ閉口するばかりだ。

 しかし、小春はすぐに表情を切り替えると、

 

 「そんなことより、お姫様役の代役探してんでしょ?

 だから、アタシが代わりにお姫様やってあげるって言ってんだから!」

 

 そう言って、加藤の腕を無理矢理に引っ張る。

 

 「あ、で、でも、まだ、君に決まったわけじゃ…」

 

 「お芝居始まるまで時間が無いんでしょ! ほら、グズグズしてんじゃないよ!」

 

 ためらいを隠せない加藤を引っ張りながら、小春はその場を去って行く。

 しかし、去り際、思い出したかのように輝男の方を振り返ると、

 

 「輝ちゃん、アタシの名演技、絶対に見に来てね」

 

 嬉しそうな面持ちで輝男にそう言葉をかける。

 そして、再び、正面を向き直し、加藤を引っ張りながらその場を去って行く。

 輝男は思わず苦笑いを浮かべながら、去り行く小春の後ろ姿を見つめる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 保健室に掛かっている時計が、二時半を指している。

 テーブルの上には、パックに載せられた焼きそばとホットドッグ、それに缶ジュースが一人分、並べられている。

 テーブル前に腰を下ろす輝男は、卓上の焼きそばやホットドッグを交互に口にしている。

 すぐ傍にある机の前では、真白が腰を下ろしている。

 椅子を輝男の方に向けさせ、自身は缶入りのミルクティーを飲んでいる。

 

 「天江君の方はどうなの?」

 

 「こちらは今のところ、異常無しです。先生たちの方は?」

 

 「こっちも、トラブルに関する連絡はまったく入ってないわ。

 生徒の皆も、外から来た人たちも、皆、思い思いに楽しんでいるわ」

 

 真白は安堵の表情を見せながら、輝男に言葉を返す。

 真白もまた、トラブル防止のため、校内の巡回業務に入っているが、何一つ異常を認められずにいたようだ。

 東が引き起こした盗撮騒動が更なるトラブルにつながるのではと懸念したものの、どうやら今のところは杞憂に終わりそうな予感にある。

 遅めの昼食を取る輝男は、緊張から解き放たれたかのように、リラックスした面持ちを見せる。

 やがて、テーブルに並べられた飲食物はすべて空になった。

 輝男は昼食を終えてホッと一息を突く。

 

 「天江君、せっかくだから、少しは休んでいらっしゃい」

 

 「そうしたいですけど、まだ文化祭は続いてますから」

 

 丁重に断りの返事を言うと、輝男はゆっくりと腰を上げる。

 また再び、校内巡回の業務に戻ろうとする。

 

 「そう言えば、今、体育館で演劇をやってる最中だけど、見に行こうか?」

 

 「あぁ……確か小春が……あ!」

 

 真白にそう言い返そうとした刹那、輝男は何かに気付いたかのように慌て顔で言葉を詰まらせた。

 慌て顔を見せる輝男に、真白は首を傾げる。

 しかし、さほど気にも留めないと言った様子で、すぐに平素の表情を見せる。

 

 「たまの息抜きにいいかな……と思ったんだけど。じゃあ、私、演劇の方を見に行くから」

 

 真白はそう言うと、一人、保健室を出ようとする。

 すると、すぐに輝男が彼女の後ろを追う。

 

 「先生、僕も……」

 

 そう言いながら、真白と一緒に体育館に向かう。

 真白と同行する輝男は平素の表情を見せてはいるが、

 

 (小春のヤツ、大丈夫だろうか……?)

 

 内心、小春に対する心配を口にする。

 これから見に行く演劇では、小春が飛び入りの代役でお姫様役を演じているのだ。

 まったくの素人でありながら、興味半分、面白半分に演劇に加わった小春に対して、否が応にも不安を募らせている。

 しかし、輝男は、一緒にいる真白に対してそのことを一言たりとも言おうとしない。

 言えば言ったで色々と面倒になると思っているのだろう。

 

 

 輝男と真白が体育館に入った。

 ステージ以外は明かりが消され、大勢の観客は静かにステージ上の舞台を見ている。

 まるで、壁のように整然と群れを成す観客たちに真白は思わずため息を付く。

 

 「これじゃあ、立ち見でも舞台を見ることができないわね」

 

 小声でぼやくと、静かに足音を忍ばせながら、出入口真上の観覧スペースへと上っていく。

 輝男もまた、真白の後を追うようにして上へと上る。

 観覧スペースに上った輝男と真白の目に、唯一、明かりがともっている向こうのステージがハッキリと見える。

 ステージ上では、今回の演劇のクライマックスシーンが演じられていた。

 ベッドの上で死んだように眠り続ける姫に、主人公の王子が口づけをする。

 純白のドレスをまとい、ストレートな金髪を垂らす姫が、口づけによってゆっくりと目を開く。

 姫役の少女の鋭さを帯びた美貌、小麦色の素肌を見ると、

 

 「あれ? お姫様役のあの娘……」

 

 真白は訝しげに首を傾げた。

 そして、すぐに横にいる輝男の方を振り向く。

 

 「確か、お姫様役って佐藤さんじゃなかったの?

 なのに、別の娘がお姫様役をやってんだけど……」

 

 「彼女、この前の夏休み、海水浴に行った時に知り合った大富小春ですよ」

 

 輝男の説明に、真白は思わず信じられないと言った様子で驚く。

 

 「嘘……!? どうしてあの娘が……!?」

 

 小春のことを思い出すと、当然の疑問を輝男にぶつける。

 

 「俺に会いに文化祭に顔を出したら、お姫様役の代役を探しているD組の加藤に、自分から進んで代役を買って出たってわけですよ」

 

 輝男の説明を聞くと、真白は改めて舞台上の小春を見る。

 輝男もまた、お姫様を演じる小春をジッと見つめる。

 

 「勇者様、あなたの勇気と優しさが、この国を救い、私を百年の眠りから目覚めさせてくれました。

 この御恩は終生、忘れません。

 どうか、この国が再び、笑顔と平穏と幸福に満ちた平和な国となるよう、私と一緒にこの国を導いて下さい」

 

 小春演じるお姫様は、気品あふれる雰囲気を漂わせながら、男子生徒演じる主人公に向かって言葉をかける。

 そして、主人公と王女は優しく手を握り合い、まっすぐに互いを見つめる。

 

 (小春のヤツ、まったくの素人とは思えないくらいに、ちゃんとお姫様役を演じきっている。

 表情も見事にそれっぽいし……

 セリフだって、棒読みどころか、ごく自然に流れるような言い回しになっている……)

 

 お姫様役を見事に演じ切る小春を見て、輝男は思わず感嘆する。

 恐らく、行事か何かでお芝居などしたことすらないはずなのに、完全な飛び入り参加で入って来てごく自然な演技を見せ付けているのだ。

 そのまま、ステージ上のお姫様を見ていると、輝男の脳裏にある光景が浮かび上がる。

 

 ほんの数時間前、男子トイレで激しくセックスに興じた小春――

 

 容赦なく男に抱かれた少女が、今、そんなことなど微塵も感じさせず、気品あふれるお姫様を演じているのだ。

 輝男には、今、ステージ上にいるお姫様役の少女と、ついさっき、自らが抱いた小春がどうしても合致できずにいる。

 

 「アイツ、すごいですよ……。そう認めざるを得ない……」

 

 輝男はステージ上の小春をまっすぐに見つめ続けながら、横にいる真白に向かってそっとささやくように言葉をかける。

 今の輝男には、他に言うべき言葉がまったく出て来ない。

 輝男の今の言葉に、真白は黙ってうなずく。

 夏休みに行った海水浴で色々と場を引っかき回した小春のことは、真白の記憶にもしっかりと刻まれている。

 真白もまた、記憶の中にある小春と今、目の前のステージに立つ小春が、自分の中でどうしても合致できずにいる。

 それでも、自分たちの目の前で見事な芝居を見せてくれる小春には、真白もただ感嘆とするしかない。

 やがて、演劇の終わりを告げるかのような拍手が、体育館に響き渡る。

 観覧スペースに立つ輝男と真白も、つい自ずと拍手をし出す。

 二人とも感銘を受けたかのような面持ちで、出演者たちが勢揃いしているステージ上を見つめ続けている。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 青く晴れ渡っていた空も、今はすっかり黒ずんでいる。

 夜に差し掛かった時刻、二年A組の教室内では、輝男と桜月が机を元に戻している。

 文化祭を終え、いつもの教室に戻している最中である。

 

 「あの小春ちゃんが、午後の演劇でお姫様役を演じてたんですって?」

 

 「あぁ。正直、不安だったけど、信じられないくらいに自然にお芝居しててビックリしたよ」

 

 「私も小春ちゃんのお芝居、見たかったわ」

 

 桜月は輝男と会話をしながら、夏休みに何度も小春と顔を合わせた時のことを思い出していた。

 すると、開かれたままの正面ドアから、一人の男子生徒が顔を出して来た。

 

 「いやー、天江、ありがとう!」

 

 加藤が嬉しそうな顔で輝男に感謝の言葉をかける。

 

 「あの小春ちゃんって娘、とてもお芝居が上手くて驚いたよ!

 うちらもお客さんも、皆、大絶賛だったよ!」

 

 「……ったく大げさな。彼女の出番なんて、ほんの少しだけでしかないのに」

 

 過剰なまでに小春を褒める加藤に、輝男は呆れ顔でため息を付く。

 

 「あのさぁ、もし、よかったら、俺に彼女、紹介してくれないか?」

 

 やや恥ずかしそうに言葉を続ける加藤に、更に呆れ果てる輝男。

 しかし、加藤はそんな輝男に構わず、なおも話し続ける。

 

 「見た目キツそうだけど、良く見ると中々の美人で、その上、爆乳だし……

 あのまま放っておくのも、何だかもったいない気がして……」

 

 「別に紹介してやってもいいけど、後で痛い目に遭っても知らないぞ」

 

 若干、よこしまな感情を垣間見させる加藤に、輝男は呆れながら言葉を返す。

 傍にいた桜月は、輝男と加藤のやり取りにクスッと笑みをこぼす。

 

 「ケチ臭いなお前も……。あ? お前らも早くしないと後夜祭が始まるぞ」

 

 何かに気付いたかのような顔を見せると、加藤はすぐにその場を去って行った。

 再び、二人きりとなった教室内で、輝男と桜月は、後片付けを再開する。

 

 「そう言えば、小春ちゃんはどうしたの?」

 

 「もう、帰った……って言うか、無理矢理に帰らせた」

 

 「どうして?」

 

 「アイツ、このままずっとここにいようとしてたけど、さっさと帰らないと父さんや母さん、それに兄貴が心配するぞ……って、強く言ってやったよ」

 

 「天江君も冷たいわね。あなたに会いにわざわざやって来たのに……」

 

 二人は会話をしながらも、後片付けを進ませる。

 間も無くして、教室は元の状態に戻った。

 後片付けを終えた疲労感に、輝男はフゥーッと大きくため息を付く。

 すると、傍にいた桜月が輝男の手をギュッと握って来た。

 柔らかな手の感触を認めると、輝男はすぐに桜月と向き合う。

 桜月はほんのりと頬を赤らめながら、柔らかな笑みを見せる。

 

 「ねぇ、せっかくだから……。皆、向こうに行って、ここには私たち二人しかいないし……」

 

 やや恥ずかしそうに、何かを期待するかのように言葉をかける桜月。

 輝男は桜月の今の言葉を聞くと、

 

 「俺たちも急がないと、後夜祭が終わっちゃうぞ」

 

 笑みを浮かべながら、桜月にそう言葉を返す。

 桜月が今、言った言葉がわからないはずがない。

 しかし、今は他の同級生たちと同じように、最後まで文化祭を楽しもうと言う気持ちを見せようとする。

 桜月は輝男の今の言葉を聞くと、

 

 「うん、そうね……」

 

 彼に向かって、あっさりと応諾の言葉を返す。

 輝男との二人きりでの求め合いも大事だが、同級生たちと一緒に楽しむことも、桜月にとってはとても大事なことである。

 明かりの消えた二年A組の教室を背にして、輝男と桜月は目的地へと向かう。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 輝男と桜月は体育館に入った。

 すると、ステージの方から、高らかに鳴り響く軽音楽が二人を出迎えた。

 ステージ上では、男子生徒四名によるバンドグループが、ハードな曲調の歌を演奏している。

 ハイテンションな演奏につられて、ステージ下にいる生徒たちは歓声を上げている。

 二人は出入り口手前の壁にもたれながら、

 

 「皆、すっかり盛り上がってるな」

 

 「うん……」

 

 他の生徒たちと距離を置くようにして、彼らの興奮ぶりを眺めている。

 やがて、男子のバンドグループは演奏を終え、ステージの袖へと引っ込む。

 数分程、間を置いた後、今度は、女子生徒四名が袖の方からステージ上へと姿を現した。

 彼女たちは、エレキギターやベース、エレクトーン等を手にしている。

 すると、エレキギターを手にしている女子生徒がマイクを手にしながら中央に立った。

 

 「皆、アタシたち、さっきのヤツらに負けないくらいに盛り上げていくから、ちゃんとついて来てよ―――!!」

 

 女子生徒はテンションを上げながら、眼下の生徒たちに向かって声を上げる。

 

 「私たち、精魂尽きるまで歌いまくるから、皆、最後までお願いね!」

 

 ベース担当の女子生徒の言葉に、生徒たちは歓声を上げて応じる。

 

 「実は今回、この後夜祭のために、アタシたち、最強の助っ人を用意したんだ」

 

 「それじゃあ、登場してもらうよ! カモーン!!」

 

 バンドグループの女子生徒たちはそう告げると、一斉に演奏を始めた。

 ハイテンポな前奏が響く中、ステージの袖から、一人の女子生徒が姿を現した。

 女子生徒の出現に、観客の生徒たちは元より、輝男と桜月も思わず驚いた。

 

 「皆―――!! 最後までガンガン行っちゃうからね―――!!」

 

 ブレザーを脱ぎ、ノーネクタイでワイシャツの袖を思いっきりまくり上げ、スカートの下に黒のスパッツをはいた葵が、マイクを手にして、叫ぶように声をかける。

 葵のまさかの登場に、生徒たちは一斉に驚きの声を上げる。

 

 「あ、葵……!?」

 

 「嘘でしょ……!?」

 

 予想だにしなかった葵の登壇に、輝男と桜月はその場で驚きの声を上げる。

 信じられないと言わんばかりに、壇上の葵を凝視する。

 しかし、葵は驚きを隠せない輝男たちに構わず、歌を歌い始めた。

 人気女性シンガーのロックナンバーだが、当人になりきったかのように熱唱していく。

 始めの内は驚いていた生徒たちも、葵の熱唱につられるように、足踏みジャンプを繰り返し、握り拳を上げていく。

 誰も彼もが、熱気と興奮を共有しながら、“鬼の生徒会長”の熱唱に耳を傾ける。

 全校集会、体育の授業、運動部の部活等で使われるこの体育館も、今は大きなライブハウスの類と化している。

 最初の歌を終え、葵は汗をにじませ、息遣いも荒いが、その気力が萎えることは無い。

 

 「こんなのまだまだ序の口だよ! 今度はもっとガンガン行くからね―――!!」

 

 更にテンションを上げたマイクパフォーマンスをすると、すぐに次の歌を歌い始めた。

 アップテンポのバラードナンバーを、情感込めて熱唱する。

 観客の生徒たちも、今度は葵の流れるような歌声にジッと耳を傾ける。

 輝男と桜月もまた、離れた場所から葵の熱唱を静かに聞き入る。

 熱唱を続ける葵を見て、輝男の脳裏にある光景が浮かび上がる。

 

 昨日のちょうど同じ時間、保健室で葵を繰り広げたひそやかで激しい情事――

 

 色白の素肌と大きな左右のふくらみをさらしながらみだらに耽りきり、自ら進んで腰を激しく振り続けた葵と、今、ステージ上で熱唱を続ける葵が、輝男の中で合致していく。

 

 (葵……やっぱり、彼女はただ真面目で厳しいだけの娘じゃなかったんだ……!

 他の皆と同じように、喜びや楽しみを存分に味わいたい……

 今の彼女は、他のどんな時と比べてもすごく生き生きしている……)

 

 遠くから葵を見つめながら、輝男は内心、しみじみとそうつぶやく。

 葵が普段の学校生活では決して見せない一面――あるいは、もしかしたら心からの素直な姿――を見て、感銘を受けたかのような気分にさえ陥っている。

 こうして輝男は、他の生徒たちと一緒に、色々とあった今年の文化祭の終幕を曲がりなりにも無事に迎えたのであった……

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