※この作品はR-18です。

天江輝男の日常   作:原野イアン

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 今話から数話、京都での修学旅行を描いた話が続きますが、実在する建物と本作のみの架空の建物が混在することをご了承ください。
 実を言うと、作者自身、京都での修学旅行の経験もなければ、東海道新幹線を利用したこともまったくありません(死)。
 ですので、その辺の描写で、「あれ? おかしい」と思われることを前もってお伝えいたします……


修学旅行は大騒ぎ?(1) ●

 「おい、あれ名古屋城だよな!」

 

 「すげー、本物だ!」

 

 「あぁ、でも、すぐに遠のいちゃうぜ」

 

 男子生徒三人が、新幹線の車窓からまたたく間に遠のく名古屋城を見る。

 すぐ後ろの席では、他の男子生徒に混じって、輝男が車窓から名古屋城を見つめる。

 

 「天江、お前、随分と興味津々のようだな」

 

 「本やテレビの中だけでしか見てなかったから。

 実物を見られるまたとない機会を利用しない手は無いだろ」

 

 輝男は車窓越しに名古屋城を眺めながら、横にいる男子生徒に言い返す。

 しばらく経つと、今度は、別の城が輝男たちの乗る新幹線から見えてきた。

 

 「あー、大阪城よ、大阪城」

 

 「間近で見ると、ホンマに豪勢なお城やなぁ」

 

 「もう、アンタ、何、大阪人、気取ってるの!」

 

 今度は、女子生徒たちが大阪城を車窓越しに眺めながらはしゃいでいる。

 すると、

 

 「あなたたち、何、はしゃいでるの!? みっともない!」

 

 後ろから、厳しく叱り付ける女性の声が聞こえて来た。

 女子生徒たちが振り返ると、理華が呆れ顔で咳ばらいをしている。

 女子生徒たちはさっきまでの喧騒が嘘のように、シュンと腰を下ろす。

 

 「私たちは、明朝学園高校の看板を背負って修学旅行に来ているんだから。

 今の時分でそんなにはしゃいでいたら、京都に着くころには皆、くたくたに疲れているし……

 第一、我が校の顔を泥を塗るだけでしかないのよ。

 だから、少しは自重しなさい」

 

 感情を抑えながら叱責する理華に、女子生徒たちは萎縮しきった様子で黙ってうなずく。

 唯一、喧騒から外れた桜月は、クラスメートたちが成すすべなく萎縮する様に、思わずクスッと笑みをこぼす。

 輝男たちの乗る新幹線は、東海道新幹線を疾走しながら目的地へと突き進んでいる。

 

 

 三十分後――

 

 京都駅の新幹線ホームに、カバンを手にした高校生の男女と教諭と思しき男女、百人近くが降り立った。

 

 「やっぱり、京都のど真ん中の駅だけあって、すごい大きさだなぁ」

 

 「天江、お前、もしかして、京都に来るの、今回が初めてか?」

 

 「あぁ、テレビや本で京都の街並みを見たことはあるけど、実際に足を踏み入れるのは今回が初めてなんだ」

 

 「へぇ……。お前のことだから、とっくの昔に何回も行っているのかと思ったよ」

 

 「どういう意味だ? それは」

 

 京都駅内を見渡すように歩きながら、輝男たちは男子クラスメートと会話を交わす。

 やがて、輝男たち一同は、京都駅正面入り口傍の広間に整列した。

 生徒たちと向き合うようにして、理華たち担任教諭五人と添乗員が横一列に並んでいる。

 

 「これからホテルに入って、昼食を取ったら、各班に分かれて一日目の見学に入る。

 くれぐれも、ホテル内、及び、見学先で不要な騒ぎを起こさぬことを各人、肝に銘じておくように!」

 

 教諭陣の真ん中に立つ、歳にして三十前後、短く整った頭髪に厳つい容姿、恰幅のよい体格をした男性教諭が、声を張り上げて生徒たちに注意をうながす。

 

 「ハァ……“イシテツ”のヤツ、今日はいつにも増して厳しいよな……」

 

 輝男の横にいる男子生徒の一人が、今しがた指示を下した男性教諭――石上鉄也(いしがみ・てつや)に、ウンザリしたような顔で愚痴をこぼす。

 しかし、輝男本人は普通に石上の話を黙って聞き入る。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 京都駅正面口から徒歩数分のところにある広い敷地に、四階建ての壮大な建物がそびえ立っている。

 建物の正面入り口には、

 

 “ホテル・ベスト京都”

 

 と記された看板が掲げられている。

 このホテルは、最大二百人まで宿泊が可能で、大人数用の和室、洋風の個室が混在している。

 

 輝男は、自らが泊まる和風の宿泊室でカバンを置いた。

 畳の上で腰を下ろし、フゥーッと吐息を漏らす。

 

 「何だか、街中とは思えないたたずまいだよな」

 

 「それでも、ここからは、近くの名所旧跡が全部、見渡せるそうだぞ」

 

 「そりゃあ、すげぇな」

 

 同室の男子生徒たちが、口々に話をしていると、

 

 「それに、このホテル、“ベスト・グループ”が関西圏に進出した時、初めて建てたホテルだからな……」

 

 輝男は室内を見渡しながら言う。

 

 「お前、何で、そんなことを知ってんだ?」

 

 「この前、知り合いに教えてもらったんだ」

 

 男子生徒の一人からの問いかけに、輝男は平素の表情で返答する。

 そして、そのまま窓の外に広がる京都市街を眺める。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ホテル・ベスト京都から一台のミニバスが出発する。

 車内で、輝男が腰を下ろしながら車窓を眺めている。

 

 (初日に、俺のところの班が向かう先が祇園なのはわかるし……

 各クラス混成なのも理解できる。でも……)

 

 チラッと車内の方を振り返ると、他の女子生徒と話をしている桜月、そして、一人、黙々と修学旅行のしおりに目を通す葵の姿が見える。

 

 (桜月や葵と一緒だなんて、偶然にしてはでき過ぎている……)

 

 何度も抱いた同級生二人と同車という事態に、輝男は思わず気が気でない様子だ。

 しかし、そんなことはおくびにも出さず、平素の表情で二人を流し見すると、

 

 「なぁ、天江」

 

 横にいた同じ班の男子生徒が、輝男に声をかけた。

 

 「何だ?」

 

 「雨宮先生が付き添いなのは、まだわかるとして……」

 

 男子生徒はそう言いながら、一番前の左右の席に別々に着席している二人の男女を見る。

 向かって右側に理華が座り、左側の席には石上鉄也が座っている。

 

 「どうして、“イシテツ”まで一緒なんだよ?」

 

 「別に、俺たちの首根っこを抑え付けるわけじゃないから、何も問題無いだろ」

 

 「問題ありだぜ。俺たちがちょっとでも騒いだだけでも鬼のように怒るヤツなんだぜ」

 

 「ちゃんと真面目にしていれば、“イシテツ”だって鬼みたいにはならないよ」

 

 石上の存在を疎ましく思う男子生徒の愚痴を、輝男は軽くあしらう。

 やがて、前方に大きな停車場が見えた。

 

 

 輝男と桜月、そして、葵を含む生徒十人からなる班は、理華と石上に先導されながら祇園内の古寺を巡り歩く。

 最初に入った寺では、輝男たちは座禅を体験した。

 輝男と葵、そして、理華と石上は、静止したかのように座禅を組み続ける。

 彼らの横では、桜月が足のしびれに顔をしかめながらも、何とか必死に耐えている。

 しかし、他の生徒たちは、すぐに寺の僧侶によって肩を叩かれてしまう。

 次に訪れた六波羅蜜寺では、本尊に安置されている十一面観音や宝物館にある空也上人像や平清盛像を見て……

 その後、訪れた若宮八幡宮では、宮司から話を聞いた後、桜月、理華、葵ら女性陣が皆、一心にお参りをして行った。

 同神社でまつられている神功皇后にちなんで、美人祈願が盛んだと言うが……

 何を祈願したかは、本人と神のみぞ知るといったところだ。

 やがて、一同は祇園の花街に向かった。

 

 「せっかく来たんですから、何か記念になるようなことをしないとね」

 

 輝男たちを先導しながら理華が言うと、大きな和風家屋の前に立った。

 

 「確か、ここは着物の着付けとかしてくれるお店でしたよね?」

 

 女子生徒の一人が目の前の建物を見ながら言う。

 彼女が言うや否や、理華は店の中に入って行った。

 

 「すみません、着物の着付けをお願いしたいんですが?」

 

 迷うことなく店員に向かって用件を言い出す。

 

 (ど、どう言うつもりなんだよ? 理華さん)

 

 まさかの理華の行動に輝男が驚いていると、

 

 「申し訳ありません。着物の着付けは、女性の方、三名までとさせていただいております」

 

 店員は申し訳無さそうに言葉を返す。

 理華の他に、桜月や葵たち女子生徒が五人もいることを受けて、今の言葉をかけたのだ。

 半ば、断るかのような返答に理華がため息を付くと、すぐに後ろを振り返った。

 そして、すぐにまた店員の方を向くと、

 

 「それじゃあ、私と日向さん、それに黒山さんの三人でお願いいたします」

 

 改めて用件を伝えた。

 理華の今の言葉に、輝男はもちろん、当の桜月と葵も驚いた。

 

 「せ、先生、勝手に決めないで下さい!」

 

 「私たち、着物を着たいですなんて言っていないのに……」

 

 葵と桜月は驚きながらためらいの言葉を返す。

 しかし、理華はすぐに桜月、葵の後ろに回ると、彼女たちの背中を押す。

 

 「さぁ、さぁ、グズグズしないの」

 

 桜月と葵の背中を押しながらせかすかのように言葉をかけ、そのまま店内へと消える。

 十数分経った後、店内から着物姿の女性三人が姿を現した。

 白塗りの顔をした舞妓三人の出現に、輝男、そして、石上は、驚きの余り言葉を失い、顔を赤らめる。

 

 「皆様、ようこそ、京都においでやす」

 

 真ん中に立つ舞妓風の女性――すなわち理華が、本場の舞妓になりきって輝男たちに挨拶する。

 

 「うちはなり立ての舞妓ですので、どうかお手柔らかにお願い致しやす」

 

 向かって右側に立つ舞妓風の女性――すなわち桜月が、新米の舞妓に扮して挨拶をして来る。

 

 「うちが皆様を心行くまで楽しませますので、どうか今後ともごひいきにお願い致しやす」

 

 向かって左側に立つ舞妓風の女性――すなわち、葵もまた、舞妓になりきって言葉をかける。

 葵の場合、妖艶にほほ笑み、着物の下から特徴的な大きなふくらみを見せ付けることで、輝男や他の男子を思わずドキッとさせる。

 輝男たち男子生徒だけでない。

 教諭である石上もまた、ドキッと顔を赤らめながら、舞妓に扮した女性陣――特に理華を凝視している。

 理華だけでなく、桜月も葵も、最初のためらいが嘘のようにノリノリで舞妓になりきっているが、男性陣は誰一人、そのことにツッコミを入れない。

 すると、理華が着物の内側からスッとスマートフォンを取り出した。

 

 「先生、せっかく、お会いした記念に、うちたちの姿を写しておくれやす」

 

 「は、はい! 喜んで!」

 

 スマートフォンを手渡された石上は、顔を真っ赤にしながら、ぎこちなく言葉を返す。

 そして、ガチガチになりながらも、舞妓姿の理華たちを何度も撮る。

 輝男たちは、緊張を隠せない石上を見てついつい笑みをこぼす。

 更に数十分後経った後、またも店内から、着物姿の女性たちが出て来た。

 普通に赤を基調とした着物を着ている理華を挟んで、かつらを着け、江戸時代の京女といった趣の桜月と、黒と桃を基調とし、明治、大正の女学生を思わせるような袴姿の葵が左右に立つ。

 

 「せっかくだから、もう一着、着させてもらったけど、どうかしら?」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら言う理華に、

 

 「は、はい! とてもきれいであります!」

 

 石上は顔を真っ赤にしながらテンション高く言葉を返す。

 彼の傍では、輝男が呆然と着物姿の桜月たちを凝視している。

 

 「きれいだ……」

 

 自然と感嘆の声を漏らす輝男に、

 

 「もう、そんなこと言わないでよ、恥ずかしい」

 

 桜月は恥ずかしそうに顔を赤らめながら言う。

 

 「皆はどう? 私たちの衣装、似合ってるかしら?」

 

 袴姿の葵が、他の生徒たちに向かって感想をたずねる。

 

 「そんな恰好をしていたら、まさか、お前が“鬼の生徒会長”と呼ばれている娘だなんて、誰も信じられないよ」

 

 失言に似た感想を口走る男子生徒の一人を、葵はすかさずじろっとにらむ。

 葵の鋭いまなざしに、件の男子生徒はすぐに気まずい顔を見せる。

 その横では、

 

 「もしかして、雨宮先生、自分が舞妓のコスプレをしたくて、祇園に足を運ばせたんじゃ…」

 

 「しっ、野暮なことは言いっこ無しだぜ」

 

 二人の生徒がヒソヒソ話をしている。

 しかし、輝男は、同じ班のメンバーのヒソヒソ話など気に留めず、スマートフォンで着物姿の理華たちを撮る。

 

 「後で、先生たちのところにも送信しておきますから」

 

 「ありがとう、天江君」

 

 輝男は理華と言葉を交わすと、改めて着物姿の理華たちを見る。

 

 (美人は何を着てもよく似合うと言うけど……

 理華さんも桜月も葵も、本当に着物姿がきれいだな……

 舞妓姿もちゃんと様になってたし……)

 

 内心、そうつぶやきながら、さっき、舞妓に扮した理華たちの姿を思い出す。

 すると、すぐに別の光景が脳裏に浮かび上がる。

 

 桜月、理華、そして、葵と幾度も繰り広げたセックスの数々――

 

 舞妓姿、着物姿の理華たちと、過去にこの手で抱いた彼女たちの姿が、輝男の脳裏に交互に浮かび上がる。

 途端、輝男は顔を真っ赤にしてしまう。

 目の前の光景と過去の記憶に、思わずドキッとなってしまったのだ。

 

 「おい、天江、どうしたんだ? 顔が赤いぞ」

 

 横から、男子生徒の一人が不審げにたずねると、

 

 「もしかして、着物姿の先生に見とれたんじゃないのか?」

 

 別の男子生徒がからかうかのように言葉をかける。

 輝男は紅潮を抑えられないまま、ハッと我に返ると、

 

 「べ、別にそんなんじゃないよ!」

 

 声を上げて必死の反論を試みる。

 彼らはからかうだけで、それ以上の追究をしなかったが、輝男は理華や桜月たちとの秘めた関係の一端を隠すのに気が気でなかった。

 そして、自分の内でわき上がった煩悩と動揺を振り払うかのように、思いっきり空を見上げる。

 真上の空は薄暗くなり始める。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 星々がきらめく夜空が、ホテル・ベスト京都を見下ろす。

 ホテル内の大浴場に、輝男たち男子生徒が裸体をさらけ出している。

 輝男が浴槽に身を浸からせていると、

 

 「お前、特別、運動をやっていないはずなのに、体がよく引き締まってるな」

 

 横で同じように湯船に浸かっている石上が、輝男に話しかけてきた。

 彼の目は、輝男の無駄の無い引き締まった裸体を注視している

 

 「これでも、日々、食生活に気を付け、健康管理を怠ってませんから」

 

 「そうか……。でも、運動神経もいい方なんだろ?

 今からでも、どこか運動部に入って、活躍しようと思わんか?

 お前なら、そこそこいい結果が出せると思うぞ」

 

 「気持ちは嬉しいですけど、今は生徒会の仕事と勉強で手一杯ですから」

 

 「それならば仕方がないが……」

 

 石上はため息交じりにそう言うと、一呼吸、間を置いた後、再び、口を開く。

 

 「天江、すまんが、俺の背中、洗ってくれるか?」

 

 「はい」

 

 二人はそう言葉を交わしながら、浴槽から出て来た。

 間も無くして、腰を下ろす石上の背中を、輝男が泡立ったバスタオルでゴシゴシと洗う。

 

 「天江、もうちょっと力を入れろ!」

 

 「はい、どうですか?」

 

 「まだまだ!」

 

 石上は表情を苦くさせながらも、輝男に向かって背中越しに苦言を言う。

 輝男がちゃんと力を入れているのを認めながらも、まだまだ不十分だとプレッシャーをかけようとする。

 輝男と石上がそのまま根競べを続けていると、

 

 『先生って、ホントにオッパイ大きい!』

 

 壁の向こうから、女子と思しき少女の嬌声が聞こえて来る。

 今の壁越しの嬌声に、輝男と石上は共にドキッと顔を赤らめる。

 そして、その場にいた他の男子生徒も、輝男たちと同じ反応を見せる。

 

 

 壁の向こうにあるもう一つの大浴場では、浴槽に浸かる理華を女子生徒たちが囲んでいる。

 彼女たちは皆、生まれたままの姿をさらしている。

 

 「先生、ホントにスタイルもいいし、オッパイも大きいし……

 どうすれば、そうなるんですか?」

 

 「ど、どうって? 知らず知らずの内にそうなったに決まってるじゃない……」

 

 まさかの問いかけに、理華は思わず恥ずかしそうに赤らめる。

 普段からは想像もつかないしどろもどろな返答をすると、

 

 「嘘ばっかり。本当は彼氏にでもオッパイを揉まれたんでしょ?」

 

 別の女子生徒が、イタズラっぽい笑みを浮かべながらからかうかのように言葉をかける。

 

 「あなた、ふざけたことを言うんじゃありません!」

 

 理華は顔を赤らめながら、女子生徒に向かって強く叱り付ける。

 しかし、女子生徒は萎縮するどころか、してやったりといったような顔を見せる。

 

 「そんなにむきになるってことは、本当なんですね」

 

 「何、言ってるの!? そこは、普通、“ごめんなさい”って言うべきなのに……!」

 

 「だって、オッパイって、好きな男の人に揉まれると大きくなるって言うし……」

 

 湯気が立ち込める浴場で、理華と女子生徒が言い合いを繰り広げていると、

 

 「まったく……そんな迷信にもならない戯れ言なんか真に受けて……」

 

 浴槽へと歩み寄った葵が、理華をからかう女子生徒たちを鋭くにらみながら苦言を言う。

 しかし、次の瞬間、背後から伸ばされた手が、葵のEカップバストをわしづかみにした。

 

 「良く言ういわよ。黒山さんなんか、先生よりオッパイ大きいくせに」

 

 背後から胸を揉んでくる女子生徒が、からかい半分、やっかみ半分に言葉をかける。

 葵はすぐに、怒りに顔を真っ赤にして後ろを振り返る。

 

 「あなた、いい加減にしなさい!」

 

 「その大きくて形のいいオッパイ、アタシにも分けてよね」

 

 背後にいる女子生徒が、葵にそう言葉をかけながら、彼女の美巨乳を揉み出す。

 

 「いいぞ――! やっちゃえ――!」

 

 「もう、何、言ってるの!? いい加減、黒山さんをいじめるのはやめなさい!」

 

 囃し立てる別の女子生徒に、理華はすぐに怒りの声を上げる。

 喧騒に沸き立つ浴場の片隅で、桜月は一人、顔半分まで湯船に浸かる。

 

 (もう、皆ったら……)

 

 水面にブクブクと泡立てながら、内心、恥ずかしそうにつぶやく。

 一方、壁の向こうでは、

 

 「おい、向こうの様子、見えるか?」

 

 「見えるわけ、ねぇだろ」

 

 壁の向こうから聞こえるかしましい喧騒に、男子生徒たちが居ても立っても居られない様子を見せている。

 二メートルは優に超すであろう壁を昇ろうとする男子さえ現れたが、

 

 「こら、お前ら! 何をやっとる!」

 

 その場にいた石上が怒号を上げながら、覗き見を試みようとした男子生徒たちの首根っこを抑え付けようとする。

 喧騒の輪から一人外れる輝男は、顔を真っ赤にしながら、前傾姿勢で身を縮こまってしまう。

 

 (ヤバい……勃起が収まらない……!)

 

 紅潮した形相の奥で、固く突っ立つ自分自身に苦悶の声を上げる。

 壁の向こうから聞こえる女子生徒たちと理華のやり取りは、輝男をすぐに勃起へと追い込んだのだ。

 固く膨張する自分自身に対する羞恥の念が、輝男の動きを妨げる。

 桜月、理華、そして、葵を幾度も抱き、彼女たちの生まれたままの姿を何度も見ているが、それでも、壁の向こうで響く嬌声を耳にし、その嬌声に囲まれているであろう彼女たちの姿を想像すると、やはり、他の男子たちと同様、劣情を催さずにいられない。

 賑やかなざわめきが各々の大浴場を覆う中、修学旅行第一日目は夜の部へと差し掛かる……

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