「先生、どうすれば、先生みたいな体になれるんですか?」
大浴場の女湯で湯船に浸かっている少女が、傍にいる理華に向かってたずねる。
理華の周りには、三、四人の裸体の少女たち――いずれも理華たちの教え子――が、彼女を取り巻くようにして浴槽に身を沈めている。
教え子たちからのまさかの問いかけに、理華は半ば困惑したかのような表情で顔を赤らめる。
「あなたたち、そんなどうでもいいことを聞いてどうするの?」
「え――?
だって、あたしたちも、先生みたいな抜群のスタイルと大きいオッパイを持ちたいんです」
呆れながら言い返す理華に、件の女子生徒は率直な言葉をかける。
彼女の今の言葉に、理華は更に呆れてため息をつく。
「あなたたちは、スタイルやオッパイよりも、勉強の方が大事でしょ?
いい成績を収めて無事に学校を卒業し、大学へ進学し、立派な仕事に就くこと。
それこそが、今、あなたたちにとって大事なことなんだから。
抜群のスタイルだのオッパイだの、そんなもの、二の次、三の次以下よ」
教師としてもっともなことを言う理華に、周囲の女子たちから一斉にブーイングがかかる。
しかし、すぐにブーイングが止むと、別の女子生徒が口を開いた。
「ちなみに、先生って、石上先生とはもうヤっちゃったんですか?」
まさかの問いに、理華は驚愕しながら顔を赤らめる。
「あ、あ……あなた……何、言ってるの……!?」
余りの驚愕に、理華はまともに言葉を返すことができないようだ。
すると、周りを取り巻いている女子たちが一斉に歓声を上げた。
「あ――! その様子だと、とっくにデキちゃってるんですね!」
「ふ、ふざけたことを言わないで! ど、どうして、私が石上先生なんかと……!」
「だって、“イシテツ”…じゃなかった、石上先生って、理華先生に思いっきりホの字だから」
「そうそう、初日と二日目の見学の時も、満更でも無い様子みたいだったし」
「あの様子だと、とっくにデキちゃってんじゃないかなぁ……と思って」
半ばからかうかのように言って来る教え子たちに、理華は恥ずかしさと怒りが混ざった形相を真っ赤にさせる。
「あなたたち、そんなこと、冗談でも嘘でも受け付けられないわよ!
石上先生はただの同僚であって、それ以外の関係じゃ…」
「そんなに顔を真っ赤にしてムキになってると、余計にそうなんだって思われますよ―――」
理華の必死の反論を、女子生徒のからかい半分の言葉がさえぎる。
すると、大浴槽の辺りを嬌声と笑い声が覆う。
一方、大浴場の入口手前では、二人の女子生徒が並んで体を洗っていた。
「あなた……天江君とはいつ頃から付き合っているの……?」
「……今年の一学期から……」
「もっと長いこと、付き合っていると思ってた……」
横にいる女子生徒からの問いかけに、桜月は自らの体を洗いながら返答する。
色白の素肌は泡にまみれ、浴場の湯気に煽られているせいか、ほんのりと赤らんでいるように見える。
桜月の横では、葵が、湯桶に溜まったお湯で体にこびり付く泡を流している。
物思いに耽るかのような重い表情をうつむかせながら、再び口を開く。
「あなた……天江君のことが好きなのね……」
やっかむかのようなつぶやきが横から流れ込むと、桜月は驚きながら顔を赤らめる。
「ヤ、ヤダ、もう……どうして、そんなことを……?」
「好きでも何でも無かったら、大事な体を男の人に投げ出すなんて、あり得ないはずだわ」
そう言葉を返す葵の脳裏には、修学旅行前、桜月、静流と一緒に、輝男相手にラブホテルで繰り広げたセックスの模様が克明によみがえった。
「それはあなただって同じでしょ?」
横にいる桜月が、体を洗いながら葵に言葉をかける。
桜月もまた、先日のラブホセックスを思い出しているのだ。
今の桜月の言葉に、葵は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら身を固くする。
「ヤダ……! 日向さんったら……変なことを言わないで……!」
半ば狼狽したかのような口ぶりで反論すると、そのままソッポを向ける。
しかし、桜月は構わず言葉を続ける。
「黒山さん、あなたも天江君のことが好きなんでしょ?」
ストレートな問いかけに、葵は顔を真っ赤にしたまま言葉を詰まらせる。
わずかな沈黙の後、桜月に背を向けたまま、口を開く。
「変なことを言わないで。私は別に天江君のことなんか…」
と、否定的な返事を言おうとした刹那、
「天江君のことが大好きなんだよね」
ヌッと真正面に姿を現した理華が、笑みをこぼしながら言葉をかけて来た。
突然、姿を現した理華に、葵は驚きの余り、言葉を失う。
一方の理華は、お湯に濡れた裸体をしゃがませながら葵をまっすぐ見つめる。
「せ、先生まで、私をからかっているんですか!?」
「からかってなんかいないわ。
ただ、あなたに、少しは素直になりなさいと言いたいだけ」
笑みを絶やさずに言う理華に、葵は気まずそうな顔を見せながら口ごもってしまう。
葵が何も言い返せないのを見ると、理華はそのまま言葉を続ける。
「黒山さん、あなた、天江君が既に他の女の子と付き合っているのが、我慢ならないのね。
だから、素直に好きだって言えない。そうなんでしょ?」
「そ、そう言うわけじゃ…」
「あなたも日向さんと同じように天江君と付き合えば、済むことなんだから」
「何、言ってるんですか!?
先生ともあろう人が二股、三股を勧めるようなことを言うなんて……!」
葵は困惑の念を隠さず、理華にそう言い返す。
普段は厳しく、それでいて生徒を思う気持ちも強い女性教諭が、教師としてあるまじき言葉を平然と言ってのける様に思わず戸惑ってしまう。
しかし、理華は困惑を隠せない葵を前にして、まったく動ずる気配を見せない。
「せっかくだから、この機会に、天江君のことをもっと知っておく必要があるわ。
あなたが好きになった人は、他の男の子とは違う並みの男じゃないってことを……」
笑みを絶やさずに言う理華に、葵は顔を真っ赤にしたまま閉口する。
すると、理華は、葵の後ろにいる桜月に目を向ける。
「日向さんも、せっかくの修学旅行の記念に、もう一つくらい、大切な思い出を持ちたかったんでしょ?」
「せ、先生……!」
理華の今の言葉に、今度は桜月が顔を真っ赤にしてしまう。
◇ ◇ ◇
ホテル一階のゲームセンターに、何人かの男子生徒たちがいる。
このホテル内の貴重な娯楽施設で、彼らは心行くまでゲームを満喫している。
店内のレーシングゲーム機で、一人の男子生徒が勢い良くハンドルさばきを披露する。
しかし、男子生徒――すなわち、輝男の操作するマシーンは、コーナーにぶつかってしまう。
“GAME OVER”の文字が表示された画面を見て、輝男は落胆したかのようにため息をつく。
すると、制服のポケットから振動音が鳴り出した。
チェアに腰を下ろしたまま、ポケットからスマートフォンを取り出し、電話に出る。
『あ――輝ちゃん? アタシよアタシ!』
「何だ、君か」
『何だは無いでしょ!? せっかく、わざわざ電話して来たのに』
電話の向こうから聞こえて来る聞き慣れた少女の声に、輝男は苦笑いを浮かべる。
『輝ちゃんさぁ、しばらく会ってないばかりか、遠く、京都まで修学旅行に行ってるから、メッチャ寂しがってんじゃないの?』
「いや、そんなことは無いさ」
『アタシとヤれない寂しさから、毎日、夜通し、オナってたりして』
電話の向こうからからかい半分の哄笑が聞こえて来ると、
「小春、いい加減にしないと、電話を切るぞ」
輝男はムッと不機嫌な顔を見せて、電話の向こうにいる少女――すなわち、小春に向かって言う。
『もう、冗談よ、冗談』
小春が電話越しに詫びの言葉をかけると、
『でも、まさか、そっちで他の娘とヤりまくってるなんてこと無いよね?』
嫉妬と疑念混ざった言葉を電話の向こうから掛けてくる。
小春の今の言葉に、輝男は平素の表情を装うと、
「そっちこそ、今の言葉、冗談にもならないぞ」
ため息交じりにつれない返事をする。
既に、今回の修学旅行で桜月や理華、バスガイド、そして葵と体を重ねているが、そのことをおくびにも出さない。
知られたら絶対にタダじゃ済まないとわかっているからこそ、平静さを装いながら真実を隠そうとする。
『ところでさぁ、輝ちゃん、そっちでうちのバカ兄貴とケンカしちゃったりしてない?』
「何のことだ?」
『実は兄貴のところも、今週、京都に修学旅行に行ってんだけど……
もしかしたら、輝ちゃんとこと鉢合わせでもして、一悶着起こしてないかと……』
「そんなの初耳だよ。アイツらもここに来ているなんて、思っても見なかったよ」
何気ない態度を装いながら、事実とは違うことをサラッと言ってのける。
今日の日中、大富 豪の同級生でもある神城美子と偶然、出会ったことで、彼らも修学旅行で京都に来ていることを既に知っているのだ。
しかし、輝男はそのことも隠しながら、小春と電話越しの会話を続ける。
もちろん、美子とセックスしたことなど一言たりとも触れようとしない。
『じゃあ、みこっちとも会ってないんだね?』
「みこっち? 大富と一緒に修学旅行に来ている同級生か何かか?」
『うん。アタシが輝ちゃんのことを話したら、すぐに輝ちゃんのことを狙ってきてさぁ……』
「俺、今日までずっと、他校の生徒と顔を合わせて無いから」
『本当に?』
「お前、俺のことを疑ってるのか?」
『ヤダ、もう、輝ちゃんったら……』
半ば呆れたかのように言う輝男に、小春は笑いながら言葉を返す。
「じゃあ、もう、電話を切るぞ」
『あぁ、ちょっと待ってよ。もう少し、話をさせて』
電話の向こうから更なる会話を求める小春に、輝男は通話アイコンをタップすることで応じた。
通話を終えた輝男は、すぐにスマートフォンをしまうと、そのまま腰を上げた。
(あの小春のことだ。神城さんともヤったなんてことが知れたら、絶対、面倒なことになる……)
ゲームセンターから出て行きながら、さっきまで電話をしていた小春のことで不安を募らせる。
同じ学校に通う小春の知人――もしくは友人でもある神城美子との密室セックスを思い出し、内心、嘆息する。
清楚な容姿に似合わず、積極的にみだらに耽り、淫欲を煽ってくる美子の感触を思い返しながら、同時に、他の女の子に噛みつかずにはいられない小春の気性を脳裏にこびり付かせる。
(もちろん、俺としては、神城さんのことは内緒にしたいけど……
神城さんはどうするつもりなのか……?
あの小春にバレたら、絶対にタダじゃ済まないはず……)
美子、そして、小春のことを思いながら深くため息をつく輝男。
他校の女子生徒にまつわるちょっとした憂慮を胸の内に抑えながらゲームセンターから出て来ると、
「あ、天江君」
後ろから輝男に呼びかける声が聞こえて来た。
輝男が振り返ると、そこには一人の女子生徒が立っていた。
亜麻色のボブショートをし、均整の取れた肢体を制服に包ませている。
「君は……?」
目の前にいる女子生徒に、輝男は思わず首を傾げる。
まるで、初めて会ったかのような態度を見せると、
「もう、アタシのことを忘れるなんて。
一昨日、昨日と一緒に見学に行ったC組の苑田栄子よ」
輝男と向き合う苑田栄子(そのだ・えいこ)は、ムッと不機嫌な顔で彼をにらむ。
すると、輝男は、栄子に向かって半ば気まずそうな笑みを見せる。
「あ――ごめん。君のことをすっかり忘れてたよ」
本当に思い出したのか、とりあえずその場をごまかしているのかわからないが、栄子に向かって詫びの言葉をかける。
謝る輝男に、栄子は半ば呆れたかのような顔を見せながら、ため息をつく。
「しょうがないよね……
見学に集中していたか、理華先生や黒山さんばっかり見ていて、アタシのことなんか全然、振り向いてくれなかったんだから……」
すねたかのように言う栄子に、今度は輝男が呆れ顔を見せる。
「仕方ないだろ、修学しにここに来ているわけだから……」
「よく言うわよ。祇園で先生や黒山さんがコスプレしてた時は、他の男子と一緒に見とれていたくせに」
なおもすねる栄子の言葉に、輝男は何故か顔を赤らめる。
初日、祇園を訪れた際に見た、桜月、理華、葵の舞妓姿を思い出し、そのあでやかさについつい顔を真っ赤にしてしまう。
すると、栄子は輝男をまっすぐに見つめながら話を切り出す。
「ねぇ、天江君って、今、暇?」
「あ、あぁ……
別に今のところ、何かやらなきゃいけないこととかって無いけど……」
輝男がそう返事をすると、栄子はすぐに輝男の手を引っ張った。
「おい、何、するんだよ? 苑田!」
「暇なら、ちょっとうちらに付き合ってくれる?」
戸惑いながらたずねる輝男の手を引っ張りながら、栄子は嬉しそうな顔で言う。
期待に胸を弾ませるような面持ちで、輝男と共にいずこかへと消えて行く。
◇ ◇ ◇
ホテル・ベスト京都の二階は、輝男たち明朝学園高校の生徒たちが、それぞれ男女、半々に部屋を占めている。
その内の一つ、入り口ドアに“103”と記されたプレートが貼られている。
ドアの向こう、和風の大部屋の真ん中では、四人の女子生徒がババ抜きやスマホゲームに興じている。
すると、ドアが外から開いた。
「あー、栄子、もうお風呂から上がったの……って、ええ!?」
女子生徒の一人が、部屋に入って来た栄子を見て驚く。
彼女が見つめる先には、嬉しそうな顔で輝男を引っ張ってきた英子の姿があった。
「えへっ、天江君、連れて来ちゃった」
栄子が嬉しそうに言うと、
「え―――マジ―――!?」
「栄子、やるじゃん!」
その場にいたルームメイトたちは皆、驚きと喜びの混ざった声を上げる。
既に、寝間着代わりに長袖の体操着を着ている彼女は、男子の思わぬ来訪に、誰一人、嫌な顔を見せない。
未だ困惑の顔を見せる輝男の後ろに回ると、栄子は彼の背中を押して、部屋の真ん中に連れて行く。
栄子を含む女子生徒全員は、喜色満面と言った様子で輝男を取り囲んでいる。
「やっぱり、天江君って、間近で見るとカッコいいよね」
黒のストレートロングヘアをし、整った美貌を持つ女子生徒が言うと、
「体の方も結構、引き締まってそう」
長身にショートヘアの女子生徒が、興味津々と言った様子で輝男を凝視する。
まっすぐに自分を見つめるいくつものまなざし、一人一人違うも、いずれも可愛く、きれいな容姿に、輝男は見取れる以上に困惑の念を募らせる。
何故、女子たちの部屋に無理矢理に連れて来られたのか、その理由がわからないからだ。
輝男は、向かって右側の端に座っている栄子の方を振り向くと、
「一体、俺に何の用だ!?」
声を上げて彼女に鋭く問いかける。
輝男の今の問いかけに、栄子はニヤッと笑みを歪めると、
「天江君、アタシたちとエッチして……」
何の迷いも無く、自らの目的を言う。
栄子の今の言葉に、輝男は唖然としたまま、言葉を失ってしまう。
唖然とする輝男に構わず、ショートヘアをした長身の女子生徒――桃井香蓮が言葉をかける。
「せっかくの修学旅行だから、記念に天江君に抱かれたいと思ってね……」
香蓮が自分たちのよこしまな切望を言うと、
「実は私も、前々から天江君とエッチしたいなぁ……って思って」
香蓮の横にいる黒のストレートロングヘアをした長峰寿里が、わずかなためらいも無い口調で言って来る。
「そうそう。天江君だって、せっかくのチャンスを無駄にしたくないでしょ?」
「こんなに可愛い女の子が五人も相手をしてあげると言うのに、何もしないなんて、男としてもったいないじゃない」
残る女子生徒二人も、煽るような調子で、輝男に言葉をかける。
しかし、輝男は、彼女たちの今の言葉に頬を緩め、気分を昂らせるどころか、困惑の色を増していく。
「君ら……一体、自分たちが何を言ってるのか、わかってるの?」
呆れ顔で深くため息をつきながら、前言を翻させようと言葉を返す。
「別に好きでも何でもないただの同級生の俺と、皆してエッチしたいなんて……
そんなことで、自分の体を傷付けても、後々、むなしい思いをするだけじゃないか」
もっともらしい言葉を言って、栄子たちに何とか思いとどまらせようとする輝男。
彼女たち自身のことを思っているのは間違いないが、それと同時に、既に桜月や葵、更には理華とも関係を持ってしまった以上、他の同級生女子とも体を重ねることに、少なからぬ重荷を感じているのだ。
いたずらに自己負担を増すだけになるかもしれない事態を、輝男はどうしても快諾する気にはなれないようだ。
輝男の今の言葉に、女子一同は沈黙でもって応じる。
わずかな沈黙の後、寿里が口を開く。
「天江君って、思ったよりも堅いんだね……」
寿里がそう言うと、
「だったら、なおさら天江君に抱かれたくなったじゃない!」
栄子はにこやかな顔で、募る一方の淫欲を輝男にぶつけて来る。
「女の子なら誰であろうとすぐにガツガツと食らい付くヤリ〇ンよりも、天江君のように事を真面目に考えることができる男の子の方が、相手にし甲斐があるってものよ」
香蓮もまた、笑みを浮かべながら、栄子と同じ気持ちを言ってのける。
彼女たちの今の言葉に、輝男は呆れ果てた様子で言葉を詰まらせる。
自分のところの学校の同級生女子で、ここまでエッチに積極的な娘は、今まで見たことが無かったのだろう。
「心配しないで。天江君があたしたちとエッチしたことは、絶対に皆に言わないから」
「だから、お願い! 一回でいいから」
他の女子生徒二人が、すがるような調子で輝男に訴えて来る。
修学旅行とはいえ、旅の解放感に煽られて、普段、抑圧された思いを、この時ばかりはと発散させようとする。
輝男は、自分との淫欲を求め、自分を取り巻く栄子たち同級生女子五人と改めて向き合う。
一人、一人はもちろん違うが、いずれもきれいで、可愛らしい容姿をしている彼女たちを前にして、否定的な返事を言うことも、この場から逃げ出すことも、何故かできずにいる。