皆で一緒にクリスマスパーティー ●
粉雪が舞う夜空が、ホテル・ベイサイドベストを見下ろす。
かつて、静流とのお見合いの舞台となったこの場所に、輝男の姿がある。
輝男は今、ホテル・ベイサイドベスト一階にある小ホールの真ん中に立っている。
しかし、小ホールにいるのは輝男だけではない。
「去年なんて、ママとお義兄ちゃんと三人で美味しいごちそう食べただけなのに……」
横にいる瑠奈が声をかけると、
「どうせなら、皆さんと一緒に、楽しくクリスマス・イブを過ごそうかなと思ってね……」
瑠奈のすぐ横にいる真純が、にこやかな顔で言葉を返す。
そして、輝男の傍にいる少女に目を向ける。
「静流さんがお力を貸してくれたからこそ、今日、このようなパーティーを開くことができたのですから……」
「このようなことでしたら、私もいくらでも力をお貸し致しますわ」
輝男の傍に立つ静流は、柔和な笑みを見せながら、真純に言葉を返す。
しかし、この場にいるのは、彼女たちだけではない。
「七瀬、それに純ちゃん、せっかくのパーティーなんだから、失礼の無いようにね」
「うん、わかったよ、お姉ちゃん」
「あーあ、どうせなら、お兄さんのすぐ隣にいたかったのに……」
大きな円形のテーブルを挟んで、輝男の向かいに立つ七海、七瀬、純が口々に言う。
テーブルのせいで輝男と距離が離れたことに純が愚痴をこぼすと、
「そんなことを言わないで。私だって先輩のすぐ隣にいたかったんだから……」
七海は純をたしなめつつも、輝男と一緒にいたい正直な気持ちをつい吐露する。
そして、輝男の傍に立つ静流のすぐ横には、
「黒山さんったら、今日は随分とオシャレに着込んじゃってるわね」
「そう言う雨宮先生だって……」
「まさか、せっかくのパーティーにラフな格好で顔を出すわけにはいかないじゃない」
葵、理華、真白が言葉を交わしている。
葵はシックな黒のロングワンピースを着用し、理華は高級感あふれるグレーのワンピースを身にまとっている。
そして、真白は、白のカーディガンに同色のロングスカートといういで立ちをしている。
ごちそうや飲み物が並べられている円形のテーブルを取り巻く女性たちを、輝男は一人、一人、目で追う。
すると、ストレートティーが注がれたグラスを手にした真純が、口を開いた。
「皆様、今夜は、クリスマスパーティーにお越しいただき、まことにありがとうございます。
ささやかではありますが、せっかくの聖夜を、日ごろから仲良くお付き合いさせていただいている皆様と楽しく過ごしたいという一心から、今回、皆様に無理を承知で招待致した次第です。
今年一年の労をねぎらう上でも、今宵は、仲良く心に残る楽しいひと時を過ごせればと思う所存です」
流れるように挨拶を言う真純に、輝男たちは皆、真摯に耳を傾ける。
「では、皆様、乾杯の音頭でもって、楽しい宴の始まりと致しましょう」
真純がそう言葉を続けると、
「ちょっと待ったぁ―――!!」
ホールの扉が開くなり、威勢のいい叫び声が聞こえて来た。
突然の叫び声に輝男たちが驚くと、そのまま扉の方に目を向けた。
視線の先にあったのは、荒く息を吐きながら呼吸を整える小春の姿があった。
「もう、皆、薄情なんだから!
ちょっとばかり遅刻したくらいで、このアタシをほったらかして勝手にパーティーを始めようとして!」
つかつかと歩を進めながら言うと、その場にいた静流を押しのけるようにして、輝男のすぐ真横に着いた。
「ちょっと、あなた! いきなりやって来て、何してるの!?」
「アンタ、いくら何でもズル過ぎるわよ!」
「一番、遅刻したくせに、お兄さんにまとわりつかないで!」
突然の乱入と輝男への密着に、葵、瑠奈、純は一斉に非難の声を上げる。
しかし、小春は葵たちの非難を無視して、輝男をまっすぐに見つめる。
「ちょっと遅れちゃってごめんね。でも、これからタップリ楽しく過ごしましょう」
「あ、あぁ……」
満面の笑みで言って来る小春に、輝男は若干、引き気味に苦笑いを見せる。
真純は、突然のこのハプニングに動ずること無く、再びグラスを持ち上げる。
「では、皆様、改めて、乾杯と致しましょう」
「乾杯!!」
真純の今の言葉を合図に、輝男たちは一斉に乾杯の音頭を取った。
輝男たちのいる小ホールに賑やかな声が絶えず響く。
「はい、輝ちゃん、あ――んして」
小春は大皿に盛られたパエリアをスプーンですくうと、そのまま輝男に食べさせようとする。
「やめろって……。それくらい、ちゃんと自分で食べれるよ」
困惑した表情を赤らめながら、輝男は丁重に断りを入れる。
そして、自分で小皿にパエリアを盛ると、そのまま自分の手で食べていく。
テーブルには、その他にも、クリスマスにちなんだ豪華なごちそうが多数並べられ、参加者一同が思い思いに食べていく。
「これはこれでいいんだけどさ……
どうせなら、お兄さんのすぐ隣で食べたかったなぁ……」
「私も輝男さんに、あ――ん…って、食べさせたかったのに……」
純と七瀬が料理を口にしながら、半ば不満そうに愚痴をこぼすと、
「しょうがないでしょ。もう、アイツらが、すっかり兄貴の周りを固めちゃってるから。
どう頑張ったって、アタシたちが割って入れる余地なんて無いんだから」
瑠奈はムッと不機嫌な顔を見せながら、向こうにいる輝男をじろっと見据える。
瑠奈の視線の先には、小春や静流、葵、そして、七海に取り囲まれている輝男の姿がある。
「お姉ちゃんったら、ちゃっかり輝男さんのすぐ傍にいて……」
姉が輝男の近くにいるのを認めて、七瀬が更に表情を曇らせる。
「もう、いい加減にしなさいよ! せっかくのごちそうが不味くなる!」
七瀬の愚痴に、瑠奈は更に苛立ちを募らせる。
せっかくのクリスマスパーティーなのに、最愛の義兄が他の少女たちに取られているのを目の当たりにして、瑠奈は今までに無いくらいにご機嫌斜めである。
募る一方の苛立ちを示すかのように、手にした鳥の丸焼きにがぶり付く。
一方、輝男たちと瑠奈、純、七瀬の間にある一角では、
「まったく、あの娘たちも何、必死になってんだか……」
「しょうがないでしょ。まだまだ、あの娘たちには大人の余裕なんて無縁なんだから……」
輝男を取り巻く葵たちを見ながら、真白、理華は苦笑混じりにつぶやく。
「でも、あの人たちも、先生方にとっては可愛い教え子たちなんでしょ?」
「まぁ、そうですけど……」
「あの娘たちもあの娘たちなりに楽しんでいらっしゃるんですから、ここは温かく見守ってもらえないでしょうか」
真純は理華と真白にそう言葉をかけながら、葵たちに取り巻かれている輝男に目を向ける。
「正直、私も去年の今頃は、まったく想像だにしていませんでした……
うちの義息(むすこ)が、これだけ多くの人たちと仲良くし、絆を結べるようになるなんて……」
「おっしゃる通りですわ」
「輝男君のどこにそれだけの力……というか魅力があるのか……
正直、今でも信じられないくらいです」
「それは、先生方がよくご存じのはずでは……」
柔和な笑みで言って来る真純に、理華と真白は思わず顔を赤くして言葉を詰まらせる。
思わず痛いところを突かれたかのような二人を見て、真純はついクスッと笑みをこぼす。
瑠奈たちが羨望のまなざしを向け、真純が優しく見つめる先で、輝男は依然として、葵と七海、そして、小春、静流に取り巻かれている。
「じゃあ、アンタたち、二学期に入ってから輝ちゃんとエッチし始めたってわけ?」
小春はまるで勝ち誇ったかのような笑みを見せながら、目の前にいる葵と七海に言う。
小春の今の言葉に、七海は恥ずかしそうに顔を赤くしながら言葉を詰まらせる。
しかし、七海の横にいる葵は、鬼の形相で小春をにらむ。
「いつ頃からかは関係無いわ!
肝心なのは、どれだけ深く関係を結び付けているかどうかよ!」
「それだったら、アタシだって負けてないわよ!」
「よく言うわ! 一人だけ東京の学校に通ってて、毎日のように顔を合わせることもできないくせに!」
「何よ! 距離なんて関係ないじゃん!
……ってか、アンタ、確か、生徒会長やってんだってね?
いくら、その人が大好きだからと言って、事あるごとにヤりまくるドスケベ生徒会長なんて聞いたことがないわ!」
「ド…ドスケベ生徒会長ですって……!?
あなたみたいに、日頃からバカみたいに遊び呆けてそうな空っぽ頭のバカ女にだけは言われたくないわ!」
「自分のドスケベさを棚に上げて、偉そうに言うんじゃないよ!」
売り言葉に買い言葉と言わんばかりに、罵声の応酬を繰り広げる葵と小春。
いずれも気が強く、相手を完全に打ち負かさなければ気が済まない性分である。
「おい、黒山! それに小春もいい加減にしろ!」
激しく言い争う二人の間で、輝男は、困惑しきった表情で声を上げる。
すると、輝男の右腕に何者かがギュッと抱き付いて来た。
輝男はそのまま、口論の場から引きずり出されていく。
「このままでは、いつ火の粉が降りかかるか、わかりませんわ」
静流は輝男の腕に抱き付きながら、彼を葵と小春から引き離そうとする。
「実は、輝男さんと私のために、部屋を一つご用意致しましたの。
今夜は二人きりで聖夜を過ごしましょう」
困惑の収まらない輝男に構わず、そっとささやくようにして輝男に言葉をかける。
すると、今度は、輝男の左腕に何者かが抱き付いて来た。
輝男は、大きく柔らかなふくらみが左腕に当たるのをすぐに認めた。
左腕の方を振り向くと、
「も、百川……!」
輝男は驚きながら、自分にしがみ付く七海を認めた。
七海は頬を赤らめながら、輝男と静流をじろっと見据える。
「最上さん、ズルいです! 私だって、天江先輩と今宵は一緒に過ごしたいのに」
抜け駆けを図ろうとする静流を非難しつつ、自分の率直な気持ちを続けて言う。
しかし…と言うか、当然と言うか、静流は七海の今の言葉を聞いても、輝男の腕に抱き付いた自分の腕を離そうとしない。
「そんなに輝男さんとご一緒になりたいのなら、他の日にでもなさって下さいませ。
あいにく、今夜は私と一緒に夜を過ごすことになってますから」
静流が平然とした調子で七海に言い返すと、
「アンタ、どさくさに紛れて、ふざけたマネ、するんじゃないよ!」
「百川さん! いくら可愛い後輩でも、今の戯れ言は断じて許されないわ!」
小春と葵が、それぞれ、静流と七海に向かって怒りの声をぶつける。
すると、
「もう、皆、いい加減にしろ!!」
たまりかねた輝男が腹の底から制止の叫びを上げる。
どのくらい時間が経ったか――
テーブルに並べられたごちそうも、ほとんどわずかしか残っていない。
「もう、宴もたけなわって感じね」
「うん……」
あらかたごちそうを食べ尽くした感のある純と七瀬が、ため息交じりに言う。
二人の傍では、瑠奈が向こうにいる輝男を密かに見つめていた。
輝男はグラスに注がれたサイダーを飲みながら、辺りの光景を見渡している。
輝男が見つめる先には、瑠奈と純、七瀬、葵と理華、真白、七海、そして、真純を取り巻く小春と静流が、それぞれ固まりながら会話を交わしているのが見える。
輝男は平素の表情を見せつつ、視線の先にいる彼女たちを見つめ続ける。
そして、
(皆、俺とエッチしちゃってるんだよな……)
平素の表情を装う奥で、深くため息を付く。
真純と瑠奈――
理華と真白、葵、そして七海――
小春に静流、純と七瀬――
この場にいる女性たち全員とセックスした時の記憶を思い出し、輝男は深くため息を付く。
数にして十人。
それだけの女性、少女たちを抱いたことに、我ながら驚嘆し、かつ、呆れてしまう。
どれだけの女性を抱き、犯せば気が済むのかと、自己嫌悪にも似た気持ちさえわき上がってしまう。
しかも、輝男が抱いた女性は他にもいる。
(桜月……)
輝男は目の前にいる真純たちを眺めながら、この場にいない一人の少女に思いを馳せる。
(本来なら、この場に必ずいるはずなのに……どうして……?)
優しい笑顔を見せる桜月の姿を脳裏に浮かばせながら、今、このパーティーに顔を見せていない桜月に思いを馳せている。
そんな輝男を、瑠奈は重い表情で黙って見つめる。
(今日のお義兄ちゃん、何だか元気がない……。もしかして……)
平素の表情を装う義兄の心境に気付いてか否か、憂慮と推測を心の中でつぶやく。
一方、向こうの席にいる理華は、空になったグラスをテーブルの上に置くと、
「しかし、ただ食べて、飲んで、おしゃべりするだけだと、何だか物足りないわね」
ため息交じりにそうつぶやく。
「確かに……
せっかくのクリスマスパーティーなのに、もう一つ何か面白いものでもないと」
葵が傍から同意の言葉をかけると、
「じゃあ、ここはどうでしょう。皆さんでカラオケ対決をすると言うのは?」
「カラオケ対決?」
静流からのまさかの提案に、一同は声を揃える。
「ここにいる皆さんでカラオケを歌って、一番、高得点を出した方が、今夜、輝男さんと一緒に一夜を過ごすと言うのは……」
静流が対決内容を言い出すと、
「お、おい! 何を勝手なことを!」
「冗談じゃないわ! そんなの認められないわよ!!」
輝男は驚きの声を上げ、瑠奈は怒りに声を張り上げる。
自分との一夜というとんでもない提案に、輝男は驚き、かつ戸惑う。
一方の瑠奈は、最愛の義兄を奪われかねない事態に嫉妬と怒りの混ざった思いを募らせる。
すると、
「いいわ、受けて立つわ!」
「悪いけど、この対決、アタシの楽勝だけどね」
勝負に臨むような厳しい表情をした葵と、自信に満ちた笑みを浮かべる小春が即応する。
「教師たる者、公然たる不純異性交遊を放置するわけにはいかないわね……」
「そうですね」
理華と真白が続けて言うと、
「わ、私……自信ないけど、先輩のためならどんなことでも頑張る……!」
「お兄さんと久しぶりにエッチできるなら、アタシ、マジで全力を出すから!」
「私……絶対、負けたくない……」
七海、純、七瀬もまた、カラオケ対決に臨む熱意を言う。
「皆さん、かなりやる気があるようですので、これからカラオケセットを用意致しますね」
静流は葵たちの戦意を認めると、すぐ傍の壁に括りつけられている内線用の受話器を手にして、何やら用件を伝える。
自分の意思を無視して事が進んでいく状況に、輝男はただ嘆息するばかりだ。
◇ ◇ ◇
小ホールに備え付けられた移動式カラオケセットのスコアに、“90”の数字が表示される。
セットの横に立つ葵が、マイクを置いてその場を去っていく。
「皆には悪いけど、この勝負、私の勝ちね」
自信に満ちた笑みを浮かべてつぶやく葵。
彼女は今しがたまで歌を熱唱し、90点をたたき出したのだ。
「あぁ……これで、輝男さんとの一夜が……」
葵が目の前を通り過ぎる中、椅子に腰を下ろしていた七海が重くうな垂れている。
別の席では、
「まさか……私がこの中で、一番、最低の点数を出しちゃうなんて……」
今回のカラオケ対決の言い出しっぺでもある静流が、今にもくずおれそうな状態で重くうな垂れている。
悲嘆に暮れる静流を見かねてか、輝男がすぐ傍まで歩み寄り、苦笑いを浮かべながらもなだめようとする。
一方、カラオケセットの横では、次の挑戦者である小春がリモコンを操作している。
「あいにくだけど、このアタシが余裕で百点、叩き出してやるんだから」
小春はそう言うと、曲のセレクトを完了し、マイクを手にした。
イントロが流れ出すと、神妙な面持ちを見せながら歌を歌い始めた。
小春が歌っているのは、とある女性歌手の代表曲である切ないラブバラードである。
まるで本人になり切ったかのように、流れるような歌声を披露する。
その姿に、輝男たちはついつい見とれてしまう。
やがて歌が終わると、カラオケセットに点数が表示された。
スコアには、“96”と点数が表示される。
「嘘! 最高得点じゃない!」
スコアの点数を見た理華が思わず驚きの声を上げる。
しかし、当の小春は半ば残念そうな顔を見せる。
「マジで百点狙ったんだけどなぁ……。まぁ、でも、これで満足するか」
小春がマイクを置きながらそうつぶやくと、
「何、言ってんの!? まだ、勝負は終わってないわ!」
瑠奈がムッと厳しい表情を見せながら、こちらへと歩み寄って来た。
小春と入れ替わるようにしてカラオケセットの前に立つと、
「百点叩き出して優勝するのはこのアタシよ!
せっかくのクリスマス・イブの夜は、瑠奈がお義兄ちゃんと一緒に過ごすんだから!」
鼻息も荒く息巻きながら、リモコンを操作して曲のセレクトにかかる。
これまで、真純を除く女性陣全員が挑戦したものの、現時点では小春が暫定トップにある。
最後の一人となった瑠奈が、マイクを握り締めながら歌を歌い始めようとする。
メロディに乗って熱唱する瑠奈。
今、彼女が歌っているのは、巷で大ブームとなっている人気アニメの主題歌である。
同級生にして友人である純と七瀬が囃し立て、合いの手を打つ中、輝男はストレートティーを飲みながら、義妹の熱唱に耳を傾けている。
そんな輝男を、向こうから二つのまなざしが見つめる。
「葵さん……さっきからずっと気になってたんですか……」
「何が?」
「今日の天江先輩、何だか、元気が無いみたいで……」
「あなたも?」
「じゃあ、先輩も?」
七海と葵は小声で話し合いながら、向こうで平素の表情を見せる輝男を見据える。
一見したところ、輝男には何もおかしい点は認められない。
しかし、何故か、葵も七海も、輝男の様子が見た目とはまったく違うと確信してやまない。
今、輝男は、周りの雰囲気に無理にでも合わせようと必死になっているかのようだ。
少なくとも、二人はそう強く確信している。
そこへ、何者かが静かに歩み寄った。
「ごめんなさい。
どうしても言わなきゃいけないことがあったんだけど、とても言いづらくて……」
葵と七海の横に歩み寄った真純が、やや曇った笑みを二人に見せる。
「実は桜月さん、今、風邪でかなり具合を悪くして、寝込んでいるの。
本人は今日のパーティーに来たかったらしいんだけど、とてもパーティーに行ける状態じゃなくて……
始まる少し前に、私の方に連絡をよこしたんだけど、せっかくの楽しいパーティーに水を差してはいけないと思って、このことは皆には黙っていて下さいって言ってきたわ」
そう説明する真純は、笑みを見せてはいるがとても残念そうな様子である。
葵と七海は、真純の説明に言い返そうとしないが、重い表情を見せ、納得の意を示そうとする。
彼女たちにとっても大事な友人でもあり先輩でもある桜月の今の窮状に、思いを馳せずにいられない。
病のせいで大切なパーティーに行けなかった悲しさ、悔しさを、我が事のように痛感する。
そして、改めて、大切な人の一人と一緒にいられない寂しさを押し殺す輝男に目を向ける。
間も無くして、瑠奈の熱唱が終わった。
カラオケセットのスコアに数字が表示される。
“69”――
「え――! そんなぁ――――――!」
熱唱の末のまさかの低数字に、瑠奈は今にも泣き出しそうな声を上げながら、その場で膝を屈してしまう。
「よっしゃ――! この勝負、アタシの勝ちよ!」
瑠奈のカラオケの点数を見た小春は、勢い良く席を立つと、そのまま輝男のもとへ歩み寄る。
腰を下ろしていた輝男の腕を引っ張り、そのまま連れ出そうとする。
「お、おい、何をするんだ!?」
「約束通り、優勝したら、今夜は輝ちゃんを独り占めだから!
さぁ、早速だけと夜通し、思いっきりヤリまくろうね!」
困惑する輝男に、小春は喜色満面といった様子で言葉をかける。
今の彼女は、輝男との聖夜の営みのことで頭が一杯の状態である。
「まったく、この小娘は、遠慮というものを知らないんだから……」
遠くから傍観している理華は、輝男を引っ張ろうとする小春に、呆れ顔でため息を付く。
すると、
「ねぇ、理華さん……」
横にいる真白が、神妙な面持ちで理華に言葉をかける。
理華が真白の方を振り向くと、
「あなたももうわかってるかしら?」
真白は顔色一つ変えず、理華をまっすぐに見つめて言う。
「今日の天江君、何だか元気が無いみたい……」
そう言葉を続けながら、遠くから輝男をジッと見据える。
真白の今の言葉に、理華もまた改めて輝男を見据える。
「あの娘に無理矢理引っ張られて、嫌々な気分になってるから……じゃないわね」
理華がそう言うと、真白は思わず呆れ顔でため息を付く。
「彼、始まった時から、いまいち気が乗っていない様子だったわ。
決して、パーティーが嫌いだというわけでもないし……
自分を取り巻く女の子たちが鬱陶しいわけでもない……」
「皆まで言わなくていいわ。私だって、ちゃんとわかってるわよ」
理華はそう言い返すと、自ずと重い表情を見せる。
「日向さんがいないせいね……」
寂しそうにつぶやく理華に、真白は無言でうなずく。
「あの娘がこのパーティーに顔を出さないなんて、余程のことでもない限り考えられないし……」
今、この場にいない教え子の一人に思いを馳せながら、理華は向こうにいる輝男に目を向け続ける。
担任が視線を送っていることなど露知らず、輝男は小春の手を振りほどく。
「まだ、パーティーは終わってないんだから。
パーティーが終わったらちゃんと付き合ってやるから、それまで大人しくしてろ」
「わかったわ。だから、ちゃんと約束を守ってよね、輝ちゃん」
まっすぐに自分を見つめながら言って来る小春と向き合いながら、
(桜月……。君とも楽しく一緒に過ごしたかったのに……)
この場にいない桜月に思いを馳せ、寂しい思いを必死に押し殺す。
小春を受け止める気持ちに変わりは無い。
しかし、せっかくのパーティーにただ一人、顔を見せていない愛しい人のことをどうしても忘れることができない。
粉雪が夜空を舞い続ける中、宴は終わりへと向かい、新たなる聖夜の一幕へとつながっていく……