しかし、AJK団の逆襲は密かに進行していた。暁年や唯子に悪の手がじわじわと迫っていた・・・
--------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父(M商事・開発部・課長←オリジナル設定)
三好 満司:主人公の遠縁(暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
及川:鈴木貫太郎探偵事務所・探偵、一之介の部下 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
ヨハンネス・ルオト・ニルソン:環境保護団体「ブルーアース」N国支部リーダー(オリジナルキャラ)
大河原:M商事・企画開発本部長 兼 開発部・部長 (オリジナルキャラ)
金本:M商事・企画部・部長 (オリジナルキャラ)
張本:M商事・企画部・課長補佐 (オリジナルキャラ)
木下:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・所長 (オリジナルキャラ)
来栖:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・監督 (オリジナルキャラ)
林:M商事・専務(オリジナルキャラ)
川住:M商事・副社長(オリジナルキャラ)
中上:M商事・社長(オリジナルキャラ)
三坂重吾:M商事・会長(オリジナルキャラ)
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「秋月君に査問委員会の招集がかかっただと?」
大河原は秘書から聞かされた開催予定を聞いて、招集を働きかけた金本の部屋に怒鳴り込んでいた。
「工事を3日間遅らせただけで査問とは前代未聞だな」
誰を、いつ、何のために・・・すべてを省略していたが、金本にはすぐに通じていた。大河原が乗り込んでくるのは先刻承知だったのだろう、ふてぶてしい笑いすら浮かべている。
「その原因を作ったのが本社社員である方が遥かに問題なのが分からんのかね?」
「現場所長の木下君の証言を聞いただろう?彼はそれを条件に、老人の譲歩を勝ち得たんだぞ。交渉戦術としては当然の帰結だ」
「その秋月のとった行動が、環境保護団体を刺激し、100張りものテントが工事現場で居座りを続けていることは知っているのだろうな?」
そう言ってSNSの画面を印刷した資料を突き付けられる。
「これは!?」
「大都会の自然のオアシス」
と題した一連の秋月暁人の投稿・・・テントに泊った秋月一家の3日間の様子が、写真入りでSNSに公開され、評判になっている・・・。それが環境保護団体の目に留まり、テントによる座り込みの引き金になってしまったようだ。
「さっき10万リツイートを超えたそうだ。我社の社員が妨害工作を行い、その息子が活動家を煽る・・・とんでもない失態だよ」
たしかに日付は今日だった。わざわざSNSを印刷するような人物が毎日ウオッチングしているとは考えられない。環境保護団体の動きもあまりにも早すぎる。
(こいつ仕掛けやがったな・・・)
金さえ積めばSNSを炎上させることも、10万リツイートを演出することも自由に出来る時代だ・・・。そのテントも本物の環境団体かすら怪しい。どれも企画部長ならいとも簡単に実現できるだろう・・・。
「環境テロ組織「ブルーアース」の連中だ。N国支部のリーダーと秋月が密会している証拠写真もある。これで、秋月の野郎もおしまいだな。これ以上庇いたてすれば、お前の任命責任も追及してやるからな」
「「環境テロ組織」っていうのは少し問題のある表現だな。国際的な環境保護団体だぞ。一部の先鋭的な連中以外は穏健派が多い。どちらかと言うとまともな団体だぞ?」
「へっ・・・何をいまさら・・・せいぜい首を洗ってまってるんだな」
勝ち誇ったようにそう言う金本を睨みつけながら、大河原は急いで自室に取って返すと、秘書を呼び出していた。
「秋月君に至急来社するように伝えてくれ。そうだ・・・3日前に1週間の有休をとっているはずだ。いいか、大至急だ・・・」
普段温厚な紳士で通っている大河原には珍しく、声を荒げ怒りも露になっていた。秘書は蒼白な顔になりながら、暁年が出るまで5分おきに電話をかけ続けていた。
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「秋月課長が出社しました」
秘書から案内されて企画開発本部長室に入室した秋月暁年は、テントに滞在したときの格好まま・・・Gパンにワークシャツ、薄手のセーターにウインドブレーカーと言った出で立ちだった。
「すみません・・・自宅に寄っている時間が惜しくて・・・」
そう言って恐縮するその顔はどう見てもただの「人のいいおじさん」にしか見えない。大河原は長い商社マン生活を振り返って、このタイプの社員を秋月以外お目にかかったことがない。もっと切れ者の社員も、もっと世渡りが下手な社員も、いろいろと見てきている。だが、ここまでちぐはぐな男も居なかった。人心掌握術やプロジェクト管理能力はずば抜けているくせに、社内における立ち回りが不器用で、何より自己アピールが何も出来ない。出世欲や権勢欲がないのか、手柄は全て直属の上司に奪われてしまっていた。いや、見方によっては当人が手柄を渡してしまっているようにも見えたほどだ。我社の莫大な利益をもたらす優れた企画のいくつかは秋月の功績によるものであったが、ほとんどは彼の元上司たちがその功績を独り占めにしていた。その事実を知るものは大河原を除いて会長の三坂重吾ぐらいしかいない。反・三坂派の中上社長がその事実を知る由もなかった。
「そんな事はどうでもいい・・・君は自分の置かれている立場が分かっているかね?」
「それが・・・ここ2日間、スマホも使えない有様でした。電源を入れた途端、呼び出しを受けて、たった今到着したばかりです・・・」
そう言って、携帯一つで出社してきたことを素直に詫びる。その顔は困惑で溢れている。
「老人を説得するために君がとった行動は、私は正しい判断だったと思っている。あの場に君が居座ったことを、反・三坂派がガヤガヤと文句を言っているようだが、この件は何とか収められそうだ。何より木下所長や、現場監督の来栖君から丁寧な説明があったからね」
その言葉を聞いて暁年はそっと胸をなでおろす。しかし、大河原の顔からは厳しい表情が消えない。
「だが・・・環境保護団体を現場に入れたのはやり過ぎだったな。SNSであっという間に拡散して、今は収拾がつかないほど混乱した状況だ。活動家たちのテントが100張りも現場内に入り込んで抗議活動をしている・・・工事どころではない」
「環境保護団体を入れた?・・・誰が?」
「君と言う事になっている・・・金本部長の報告では君が・・・」
そう言って渡された金本の告発文書には、先鋭的な環境保護団体として有名な「ブルーアース」幹部と暁年が会話している写真が載っていた。
「張本君が監視カメラでとらえた画像だと・・・」
「これは先月・・・あの現場に在った廃神社のご神木伐採の抗議を受けた時のものです。我々とJVを組む前に、地元企業の金田興産が行っていた開発事業への抗議です。もしこの3日間だとしたら・・・私は会社の作業着など来ていませんよ。この格好だったんですから」
秋月はあの日、スーツ姿で現場に出かけて行き、そのまま居座って本日を迎えている。現場事務室でしか配布されない作業着を、有休をとった身でわざわざ着ているというのはおかしい。
「確かに会社のロゴ入り作業着を着て、わざわざ環境保護団体と抗議活動の打ち合わせをしていると考えるのは不自然だ・・・だが、それを証明する手立てがない・・・君がとった座り込みの行動を環境運動と見せるための作為的な演出だな」
そして、ハッとした表情を暁年が浮かべるのを、大河原がうなずいてみせる。
「そうだ・・・金本の目的は、君がきっかけで環境保護団体が動き出したと上層部に思わせることだ。君と環境団体が何らかの繋がりがあるように匂わせればそれだけで良いんだ・・・例え事実じゃなくても、君の環境保護団体の癒着のイメージ形成が目的だろう」
「そんな事までして・・・・。」
そう言った暁年の顔に逡巡が走る。「楡の木のあるショッピングモール」構想を早い段階で説明しようと考えていたが、今ここできり出すのは得策ではない。何と言っても、数字的な裏付けが無ければ商社は動かない。
「とりあえず、ブルーアースのN国支部に行ってみます。もし彼らだとしたら、なんとか環境保護団体の誤解を解いてきます。ブルーアースのリーダーとはあの時に知己を得ていますので、分かってもらえるはずです」
大河原の顔がさらに厳しくなっていく。
「ううむ・・・それは迂闊な行動だぞ秋月君。張本課長補佐にそんなところを撮影されでもされたら・・・君は正真正銘、環境団体との癒着を疑われることになるぞ。いやむしろ、ブルーアースが関係ないとしたら・・・これは罠だぞ」
だが、暁年の顔は涼しいものだった。要は時間との戦いだ。ここで、時間を食うと問題は拡大していくばかり・・・トップに切り込むのが一番早い。あの楡の木が保護されれば、双方で良いはずだ。
「そんな事にいちいち躊躇していたら埒があきませんよ。私はどうなっても構いません。ちょっと楡の木が心配なだけです」
ついそう言っていた。大河原の片方の眉がつり上がり「いま何を言った?」といった風にこちらを睨みつける。
「実は・・・現場に残しておきたい楡の木がありまして。明日の朝一番に企画書を出します」
ここは早々に逃げるに限る。そう言い残し、急いでブルーアースのN国支部にむかっていた。
「おい!秋月・・・・しょうがないな・・・解決の目途が立ったら連絡だけはしろよ」
昔の商社マンはみんなこんな感じだったな・・・大河原は懐かしそうに、秋月の暴走を困り顔で見送っていた。
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環境保護団体「ブルーアース」は、他の先鋭的な環境保護団体の「シー〇ェパード」よりは穏健で、「グ〇ーンピース」と同じ程度、WWF(世界自然保護基金)やナショナル・トラストよりは遥かに過激なグループに位置していた。座り込みやデモなどの直接行動の他にも、ちゃんとしたロビー活動も行っており、世界的にみると政治への影響力も十分にあった。N国支部は、官庁街にある雑居ビルの1室、暁年の勤めるM商事から歩いて10分程度の場所だった。
暁年がブルーアースのN国支部に到着すると、幸いN国支部のリーダーであるヨハンネス・ルオト・ニルソンは在社していた。忙しそうに部下に指示を出している姿は2年前に会った時と変わらない。精力的な活動を今も変わらず続けているようだ。秘書が興味なさそうに秋月の名刺を受け取ると、ニルソンに一応の取次ぎをする。
「ネルソンは今非常に忙しく、しばらくお待ちになっていただくか、明日またお越しいただく他ありません」
流暢な英語でそう返される。出直してこい・・アポなしで突然現れた秋月に、言下にそう言っているのは明らかだった。
(今は時間が惜しい・・・)
秋月は秘書の制止を振り切って、事務室内に入り込む。
「お待ちになって下さい・・・ニルソンは今忙しく・・・」
もみ合う二人に気が付いたネルソンが、秋月の服装に目を止める。
「N国人のビジネスマンにしてはラフな格好だな」
そう思いながらハッとして手元のスマホを見つめる。
「大都会の自然のオアシス」
秘書から受け取った名刺とスマホを交互に見比べていたニルソンは、秋月の服装を見てSNSに上っている画像と同じことに気が付いたようだ。
「君・・・会う事にしよう。少し時間を作ってくれ」
北欧なまりの英語でそう秘書と暁年に答えていた。
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「我が社の工事現場での抗議活動を直ちにやめてもらいたい」
そういきなり切り出す暁年に、ニルソンは不快感一つ示さずに
「何処の工事現場だ?」
と切り返す。この手の抗議は慣れているのだろう、活動計画表を取り出しながら真摯に答えようとしている。暁年がショッピングモールの事を話し始めると、2年前の事を思い出したようだ。
「あああっ・・・あの時の「ご神木切り倒し」の廃神社跡地か・・・N国人は時々馬鹿な事をするからな・・・だが、今回、我々は関与していないよ」
「やはりそうか・・・・」
とすると・・・私が行かなくても、彼らは早々にひきあげていく・・・私と大河原本部長が失脚すれば・・・。
「最近、我々の名前を騙って抗議行動を行い、対象となった団体から和解金を脅し取る連中がいる。彼らは金さえ受け取ると、さっさと引き上げてしまうので、環境がかえって保全できなくなる。」
「その連中はどういった奴らなんですか?」
「それを聞いて、どうするつもりです?」
「そいつらと交渉して、引き上げさせないようにしないと」
「はぁ?」
「楡の木を残しておきたいんですよ!」
ニルソンは目の前のサラリーマンが、今まで会ってきたN国人と違っている事に興味を持ち始めていた。
「詳しく話を聞かせてください。それにここに写っている僧侶・・・もしかしてプールナーナンダ博士ですか?」
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「もう・・・私は子供じゃないわ。このぐらいの事は私一人で出来るわよ」
そう言った唯子だったが、聖満の里親申請の書類書きは遅々として進まなかった。里親申請の書類は何十枚にも亘り、あと数時間はかかりそうだった。辟易とした職員は、書き方の説明もおざなりで、申請書の粗探しばかりしている始末だった。もともと専業主婦の唯子はこの手の書類作業に疎い事もあって、書き損じの山がたまっていく。男の連れがいなくなった途端、職員も横柄な態度をとり始め、いらだちを隠さなくなっていく。
「奥さん・・・今日の処はもう勘弁してくださいよ。次回にでも持ってきてくださいよ・・・次回の申請は一ヶ月後になります。宜しいですね?」
「一ヵ月も?・・・いえ・・・今仕上げますので」
そう言いながら必死で書類を書いていると、一人の女子職員がお茶を唯子に、ジュースを聖満に運んでくる。
「書類の受付、私が代わりましょうか?」
その女子職員が苛立ちの隠せない職員にそう申し出る。まだ20代後半だろうか・・・ネームプレートには「金井由美」と書かれている。正規の資格を持っていない非常勤のパート職員のようだ。顔立ちは冷たい印象を与える整いすぎるくらいに整った美人だった。
「ああ助かるよ・・・でも君は・・たしか・・・聖満君の担当を外されたんじゃ・・・」
横柄な職員が、聖満の書類を見ながら不審そうに由美を振り返る。
「でもお疲れなんでしょ?今回、この書類を受け付けるだけなら・・・お気になさらないでください」
「そうかい?悪いな・・・」
そう言うが早いか、その横柄な職員は厄介事を押し付けられたことにホッとしながら、そそくさと相談室を離れて行ってしまう。
「聖満君お久しぶり」
そう気さくに由美が聖満に話しかける。聖満は一之介と暁年が帰ってから、相談室に移動しており唯子のそばでゲームをし始めていた。
「なんだ由美か・・・」
よく知っている間柄なのか、聖満は携帯ゲームから一瞬目を上げると、そう言ってまたゲームに戻ってしまう。
「だめでしょ・・・そういう時は「今晩は」っていうのよ」
唯子にそう言われ、聖満はゲーム機から顔も上げずに仕方なさそうに
「コンバンワ」
ボソッとそう言うだけだった。
「フーム・・・」
腕を組んで叱ろうとした唯子に向かって
「まあまあ・・・最初はそんなものですよ」
由美がとりなすようにそう言う。
「聖満君の里親申請ですよね。あの事情をちらっと、あちらで聞いていました。書類を見せていただけますか。あら・・・秋月唯子様・・・そうですか・・・あなたが秋月唯子さん」
そう言ってじっと唯子の顔を見つめる。何も知らない唯子は、由美の目に情念の黒い炎が宿っている事など気が付くはずもない。
「助かりますわ・・・先ほどの職員の方、横柄で何となく怖くて・・・本当に有難うございます」
ホッとした表情を浮かべた唯子は、再び書類作成に取り掛かる。
「旦那様とお二人で聖満君の里親になろうと・・・まあそれはそれは」
一瞬見下したような、小馬鹿にしたような蔑みの笑いがその表情に浮かぶ。書類書きに夢中になっている唯子は、そんな由美の冷笑に気が付かない。
「でも、お子さんがいる家庭は里親には中々なれないですよ」
「ええ・・・ダメもとでも良いからと。主人と話し合って。この子が幸せになるなら」
「フーン」
その目は値踏みするように、唯子の全身を上から下まで舐めまわすように見つめている。
「幸せねぇ?」
流石の唯子も、その声音に何か侮蔑のニュアンスが混じっていることを感じ取った。書類書きの手が止まり、思わず由美の方を振り返る。その顔には、先ほどまでの親切そうな職員の仮面を脱ぎ捨てた、由美の素の表情が浮かんでいた。冷酷に人を見下し、侮辱するような蔑みの笑いを浮かべている。
「聖満君・・・あなた今日まで満司様・・・お父さんの処に居たんじゃないの?」
「ああっ」
興味なさそうに聖満がそう答える。
「どうやってここまで来たの?」
「その女と、2人の男どもがいきなり部屋に入り込んできて、ここまで連れてこられた」
ぶっきらぼうにそう答える聖満を尻目に、
「失礼ですけど・・・聖満君をどうやってここまでお連れになったのですか?「男ども」ってどなたですか?」
「えっ・・・あの・・・その・・・」
「それに旦那様はどちらに?」
「主人は急用で、会社の方に・・・」
「本当に旦那様なのかしら?・・・それにもう一人の男って?」
「・・・・・・」
一之介所長の事をここで話すと、何か迷惑を掛けそうな展開になってきていた。何も答えられなかった。
「これでは実の父親・・・三好満司様に来てもらわないと」
「そ・・・それは困ります・・・それでは・・・またあの不道徳な男にこの子を預けることに・・・と言うか、彼は犯罪歴や義務教育履行違反で保護対象者から外れたのでは」
「何を言っているの?あなたこそ幼児誘拐をしたのよ?分かっているかしら?」
「え・・・え?・・・面会禁止の父親の元から連れ戻した事情は・・・さっきの職員の方に・・・」
この職員の人、何かおかしい・・・。今・・・満司様って・・・そう思った時、軽いめまいを感じ始める。
「あら・・・そんな事を聞いていないわ。どうやってあの狭い部屋から、この子を」
「何で狭い部屋などと知っていりゅの?」
やはりおかしい・・・ろれつが回らなくなっている。あたりがぐらぐらと揺れているように感じる。
「あなたよりは満司様の方が信頼できるわ・・・現場職員としてそう判断せざるを得ない」
「なにゅ・・・何をひって・・・いりゅ・・・」
「ふん・・・牝豚が・・・お前・・・満司様の牝豚奴隷13号よね?」
「へつ・・・?」
ニッと邪悪な笑みを浮かべた由美は、セーターの襟首を少し横にずらす。そこにはManji’s Slave No.11と書かれた卑猥な淫紋が胸の谷間にクッキリと掘られていた。部屋が急速にぐるぐると回り始める。
(まさか・・・このひと・・・)
そして・・・・唯子は半分ほど飲んでしまっていた湯呑を無念そうに見つめる。
(先ほど出されたお茶・・・)
気が付いた時には遅かった・・・テーブルの上に突っ伏すように顔をうずめていた。それを冷笑を浮かべた由美子が、冷ややかに見下している。おもむろにスマホを取り出すと、写メを撮りながら、電話をかけ始める。
「満司様ですか・・・あなた様の牝豚奴隷11号です・・・・はい、聖満様がまた連れ戻されてきました。ええ、先ほど正規職員は帰りましたので、私の判断で手続きなしでお渡しできます。それと・・・写真の女性・・・やはり13号でしたか・・・が連れてきましたので、ご指示の通り例の薬を飲ませました。これからお引き取りに・・・牝豚13号の方も・・・はい分かりました。他の職員には気づかれないように、上手くやっておきますわ・・・・」
邪悪な笑いを浮かべた由美は話していたスマホを置くと、介抱するふりをしながら唯子の手に手錠をかけると、そのまま相談室の椅子に寝かしてしまう。
(あと6時間は目を覚まさないわね)
由美はニヤリと笑いながら、唯子の隣に座って関心なさそうにゲームをしている聖満を冷ややかに見つめていた。
(気持ち悪い子・・・)
満司様はあと30分でここに来る。久しぶりに受ける調教を想像するだけで肉體が疼き始めるのを感じていた。
「やだ酒臭い・・・この女酔っぱらっているわ・・・里親などもってのほかね」
そう言いながら、唯子が苦労して書いていた書類を全て破り捨てていった。
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暁年はブルーアースのN国支部を離れると、私服のまま会社に取って返していた。もしテントを張っている連中が金をせびるだけのいかがわしい団体なら、楡の木の保護など何も考えずに、金を受け取った途端に居なくなってしまう可能性がある。企画書に3日もかけることは出来ない。
とりあえず今は「楡の木のあるショッピングモール」構想の企画書を仕上げることに専念しよう。出来れば大河原本部長に約束したように明日の朝までに・・・。普通にやっていたら、5人の部下を使って1か月以上かかる仕事だ。もともと在るショッピングモールの資料に変更箇所だけを切り張りしていけば、なんとか明日の朝までには大河原本部長を説得できる程度の資料にはなるはずだ。
「やはり今夜は徹夜になりそうだ」
唯子に急いでLineを入れると、すべてを忘れて企画書づくりに専念していった。
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暁人と綾乃、プールナーナンダは正気を取り戻した三好良枝を、いったん秋月家に連れて帰ることにした。満司が現れた途端、良枝が再びマゾ奴隷に調教される可能性がない事もなかいからだ。少なくとも良枝の新たなアパートが見つかるまでの間は、引き取るべきだ・・・電話口の暁年も強くそう主張していた。一之介も、10年以上正気を失っていた良枝が社会復帰をする間、誰かが面倒を見なければならないことを重々承知していた。聖満の奪取に成功した二人は、電話口で意気揚々とそう話し、秋月家で良枝を預かることに強く同意していた。どうやら向こうもうまく行っているようだった。
オドロオドロしい刺青の消えた良枝の肢体は、異常に大きな乳房やくびれた腰だけが目立ち、その上露出度の高い服装をしているため、暁人にとっては目のやり場が困る程妖艶であった。
「あっ!暁人の目イヤラシイ!変態!変態暁人!」
そんな暁人の様子にいち早く気が付いた綾乃が、嫉妬交じりに揶揄する。
「そんな・・男だったらこんな露出の高い服を見させられたらみんな・・・」
「あら?プールナーナンダさんは何ともないわ!」
「あの人と一緒にしないでくれよ~」
だが、良枝のアパートにはまともな服や下着は一つも無かった。そのままの格好で、秋月家に向かったが、すれ違う人々が好色そうな目を向けるか、非難がましい目を向けてくるのが痛いほどわかる。
「ほら・・・何か着替えを買わないと」
こうして、良枝のアパートの近所の衣料品量販店により、綾乃のセレクトで「普通の主婦」らしい衣装を選び、その場で着替えてもらった。もっとも巣を抱えたプールナーナンダは入店を拒否され、外で待たされることになったが・・・。
暁人たち4名が帰宅をすると、秋月家の錠の交換に立ち会った及川が合鍵を持って待っていた。
「いいかいこれが暁人君の分、これがお父さんとお母さん。これは綾乃ちゃんの分・・それぞれ3本づつだから無くさないように気を付けてね」
「えっ・・・何で綾乃まで?」
「あら・・・これは当然だわ。暁人の部屋は私の部屋でもあるもの」
「おいおい・・・」
「それとも、まだ私の知らない変態本を隠してるんじゃないでしょうね?変態暁人!」
「はいはい・・・鍵を持っててください・・・」
そんな二人を、プールナーナンダも、及川も、そして良枝さえも、眩しそうに見つめている。
「なんだか良いな~。俺も早く嫁さん欲しいな~」
そう言いながら、役目を終えた及川が帰っていく。
「わしはここで座禅を組むことにしよう」
そう言うとプールナーナンダは、庭に生えている琵琶の木の根元に、どっかりと腰を下ろしてしまう。
「その木は僕が子供の頃、食べていた琵琶の種を植えたら生えてきちゃった木なんだよ」
暁人は綾乃に説明しながら、幼かったころの平和な家庭を思い出してしみじみとそう言っていた。
「うむ・・・確かに御主の気が強く感じられる。いい木じゃな」
そう言ったまま、半眼に目を閉じて瞑想にふけっていくようだった。全く微動だにせずに庭先で座禅を組むプールナーナンダを見ながら、綾乃がこっそりと暁人に耳打ちする。
「なんだかプールナーナンダさん・・・番犬っていうか・・・番仙人って感じね」
「多分僕たちを守ろうとしてくれているんだ。お父さんが満司を打ち負かすまで」
そう言った暁人は、居間に満司が取り付けて行った梁やフックを、一つずつ外し始めているところだった。綾乃が暁人に寄り添うように甲斐甲斐しく手伝いはじめる。
「わたし・・・ここにあるものでお食事を作るわ・・・皆さんお腹すいたでしょ?」
そこには、狂気を微塵も感じさせない「三好良枝」が凛として立っていた。かいがいしく台所に立つ良枝は、立派な「母」を感じさせていた。
(やはり、お父さんの親戚だな・・)
暁人は、秋月家が再び正常に回り始めたことをしみじみと感じていた。綾乃の目が暖かく微笑んでいた。
「それにしても、母さん帰ってくるの遅いな・・・書類書きに戸惑っているのかな?」
暁年や一之介から近況を知らせるLineやメールは頻繁に届いていた。しかし、唯子からの連絡が何も届かない。
「お父さんは大変なようだし・・・僕が迎えに行こうかな?」
そう言った時、一之介から連絡が入った。
「満司の様子がおかしい。この時間になってもマンションはもぬけの殻だ・・・唯子さんと聖満は何時ごろに帰ってきた?」
「いえ・・・どちらも帰って来ていませんが・・・・」
「何だって?一時預かりの許可は俺が帰っていく時点でほぼ了解が得られていた・・・」
一之介の中で嫌な予感が膨らんでいく。
「いいか、君のお父さんにはこのことを知らせるな。俺がこれから唯子さんを迎えに行く」
そう言って一之介からの電話は切れた・・・・。
--------------------------
一之介が児童養護施設に着くとすでに唯子の姿はなかった。
「秋月唯子様は聖満君をつれてお帰りになりました」
先ほどの疲れ果てた職員はすでに帰宅した後で、非常勤の女性職員が興味なさげに夜間受付窓口から顔を出し、対応を始める。
「秋月唯子さんは里親申請書を出されたのですか?」
「個人情報なのでお答えできませんわ」
事務的に答える女性職員は「個人情報保護」を盾に何も教えてはくれそうにない。
「じゃあ一時預かりは正式に許されたのですね」
「それも個人情報ですから」
そう言う女性職員に蔑みの笑いが浮かんでいる。
「でも聖満君はここに居ないんですよね?ええと金井由美さん?」
窓口のガラス越しにネームプレートを見て一之介がそう個人名を名指ししても、射るような眼でこう答えるだけだった。
「それも個人情報です・・・・・」
あまりにも事務的な対応に、一之介も苛立ちが隠せない。
「こっちも子供の使いじゃないんですよ。何か伝言とか書置きとかないんですか?」
「それならございます。鈴木一之介様ですね」
なぜそれをもっと先に言わない・・・苛立ちを隠せない一之介に身分証明書まで出させて、金井由美が一枚のメモを渡す。
「これが秋月唯子さんからの伝言メモです」
一之介は冷笑を浮かべた由美から慇懃無礼に渡されたメモをひったくるように受け取とる。
【暁人と聖満君を直接会わせるのは気が引けます。今夜は聖満君と近場のシティホテルに泊まります。何かあったらメールかLineをください。唯子】
唯子の筆跡を知らない一之介はその内容を見て思わず毒づいてしまう。
「あれほど軽率な行動は控えるように言ったのに・・・」
とりあえず迎えに来た旨を唯子にメールすると、すごすごと引き上げる他なかった。
「ばーか!」
なすすべもなく引き上げていく私立探偵に冷笑を浴びせながら、由美は先ほどから疼きっぱなしの股間をきつく閉じ合わせ、満司に施されたクリトリス・ピアッシングを刺激し始めていた。
「へへっ・・・上手く追い返したじゃねえか?」
「ああん・・・満司様♡」
満司が由美の舌を奪った途端、由美は蕩けるようにその身を満司に預けていく。二人の足元には手錠をかけられ、薬で眠らされた唯子と、その隣で感心なさげにゲームに高じる聖満の姿があった。
「11号・・・しばらくお前達のマンションを借りるぜ。俺のマンションはどうやらあの探偵の野郎に見張られているようだ。13号と共にこれから一週間徹底的に調教してやるからな・・・」
「ああっ♡・・・何なりとお使いくださいませ。明日から1週間有休をとります。たっぷりとご調教くださいませ・・・あああっ♡・・・有難うございます・・・有難うございます・・・満司様♡」
本作品はPixiv(会員登録が必要)においても掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15898576
(Pixivは予約投稿機能が有料のため不定期で遅れてアップします)