※この作品はR-18です。

続・続・月下香の檻 楡の木の下で   作:シン之助

7 / 8
 秋月暁年・唯子の夫婦は、唯子をレイプした調教師・三好満司から脅され、SMショーへの出演を強要されていた。しかし、息子の暁人、探偵の鈴木一之介、謎の求道者・プールナーナンダの協力で起死回生の作戦に打って出る。満司に戦いを挑み、三好親子を更正させることで、唯子の窮状を脱しようというのだ。
 しかし、卑劣なAJK団の逆襲は暁年達の知らぬ間に密かに進行していた。唯子は密かに拉致され、暁年の務めるM商事内にもAJK団の魔の手が伸びていた。そして公正なはずの報道機関にも・・・


第34話 生本番

---------登場人物---------

秋月 暁人:主人公

秋月 唯子:暁人の母

秋月 暁年:暁人の父(M商事・開発部・課長←オリジナル設定)

三好 満司:主人公の遠縁(暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)

三好 聖満:満司の子

三好 良枝:満司の元妻

藤原 綾乃:暁人の同級生・恋人 (オリジナルキャラ)

鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)

及川:鈴木貫太郎探偵事務所・探偵、一之介の部下 (オリジナルキャラ)

パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)

ヨハンネス・ルオト・ニルソン:環境保護団体「ブルーアース」N国支部リーダー(オリジナルキャラ)

金井由美:**市児童養護施設・非常勤職員、三好満司のマゾ奴隷11号(オリジナルキャラ)

金井真美:M商事・企画開発本部長付秘書、三好満司のマゾ奴隷12号(オリジナルキャラ)

星山真由:A〇Cテレビ・キャスター、アイドル女優

大河原:M商事・企画開発本部長 兼 開発部・部長 (オリジナルキャラ)

金本:M商事・企画部・部長、AJK団団員(オリジナルキャラ)

張本:M商事・企画部・課長補佐、AJK団団員(オリジナルキャラ)

木下:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・所長 (オリジナルキャラ)

来栖:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・監督 (オリジナルキャラ)

林:M商事・専務、AJK団団員(オリジナルキャラ)

川住:M商事・副社長(オリジナルキャラ)

中上:M商事・社長(オリジナルキャラ)

三坂重吾:M商事・会長(オリジナルキャラ)

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 「**市ショッピングモール」予定地のわずかに残った自然・・・楡木とその周辺の草木のまわりを、多くのテントが取り巻いていた。

 

(反対運動派が押し寄せている)

 

 そう思った暁年の動きが止まる。

 

(違う・・・・)

 

 彼らがどんな種類の団体かはすぐに分かった。テントのまわりにはゴミやたばこの吸い殻があふれ、うつろな目をした人々の関心は手元にあるスマホの事だけのようであった。テントには「ブルーアース」や「シー〇ェパード」「グ〇ーンピース」などと言った自然保護団体のロゴが入っていたがどれも偽物だろう。一昨日見たブルーアースのロゴとはかけ離れたデザインだけ見てもすぐに分かってしまう。中には保護を訴えているはずの楡木に向かって立小便する輩までいる始末だった。

 

「自然保護団体の諸君・・・私はM商事開発部の秋月と言います。そちらの代表の方とお話ししたい。要望を聞こう」

 

 現場事務所から借りたハンディタイプの拡声器を使ってそう言った時だった。比較的大きめの石礫(いしつぶて)が秋月の顔面をかすめて飛んでいく。

 

「うるせー。ひっこめ。」

 

 それが合図だったのだろう、一斉に小石が秋月に向かって投げつけられる。

 

(こいつら・・・デモ行動と暴動を勘違いしているんじゃ?)

 

 這々の体(ほうほうのてい)で逃げ出そうとした時、TVカメラがその様子をとらえていることに気が付く。

 

「私は今、「**市ショッピングモール」の建設予定現場にきています。キャスターの星山真由です!」

 

 声優のようなキャピキャピ声の女が、現実感を感じさせない言い回しで実況を始める。被害にあっている当事者には苛立ちすら感じる喋り方・・・。

 

「あっ・・・今、担当者の方が石礫を投げられているようです。これは大変なことになってきました!」

 

 ひたすら緊張感のない声・・・カメラのロゴを見ると、都心のキー局のカメラクルーだ。ここまでは追ってこないだろ・・・そう思ってカメラクルーに向かって秋月が突進する。突然、石礫の一つが秋月の顔面にヒットする。丁度カメラが目の前に来た時だった。小石が当たった額に手をやった暁年は、だがほとんど痛みがない事に気が付く。どうやら石ではなく発砲スチールのようだ。何かの間違いか?でも助かった・・・。そしてあれほど投げられていた石礫が急に止まる。

 

「お話を伺って良いですか?M商事としてこのような抗議行動を、どうお考えですか?」

「えっ?」

 

 とっさのことに言葉が出ない。しかも、この場面でいきなりきくか?早く逃げた方が?事件に対する現場意識のなさ・・・呆れ気味で沈黙してしまう。

 

「ああっ・・・ダメダメ・・・何ですか今の?」

 

 営業スマイルを浮かべていた星山真由の顔が、急に素の表情に戻る。

 

「ええっ?」

「金本部長・・・今回の「超高効率ソーラーシステム」の話題振りをするのですから、宜しくお願いしますね」

 

「いや・・・私は秋月だが・・・」

「えっ?」

 

 しまったという顔の真由はそのまま逃げるように、秋月から遠ざかっていく。

 

「馬鹿!あいつじゃないわよ・・・あっ・・・あっちだわ」

 

 真由が指し示す方を見ると、金本が先ほどのデモ隊に囲まれている。

 

「自然保護団体の諸君・・・私はM商事企画部・部長の金本だ。君達の代表と話しがしたい」

 

 カメラが再び撮影を始める。暁年に集まっていた一団が急に取って返すと、今度は金本を囲み始める。だが、もう用意していた石礫が無くなったのだろう、デモ参加者はワーワーと奇声は上げるだけになっていた。すでに何の迫力もない。

 

「うわっー」

 

 それをワザとらしく避ける真似だけをしながら、金本がカメラの前に躍りでる。

 

「あっ痛いぃー」

 

 何も当たっていない顔を抑えながら身を折る金本に向かって真由がインタビューを行う。

 

「お話を伺って良いですか?M商事としてこのような抗議行動を、どうお考えですか?」

「はいっ・・・我々M商事はこの事態を真摯に受け止めております。環境保護団体様方の意向を鑑みまして「超高効率ソーラーシステム」を本施設に導入し、環境負荷のほとんどない社会を実現していく所存です!あぁ痛いぃー」

 

 わざとらしい演技をしながら、金本はしかし明瞭な言葉で「超高効率ソーラーシステム」の宣伝をしっかりと話し始める。

 

「何と素晴らしいことでしょう!まさに画期的なアイディアですね」

「環境保護団体の方々如何ですか?」

 

 そう言うと真由は今まで暴徒のように集まっていた群衆に向かってマイクを向ける。マスクやサングラスをして顔を隠したデモ部隊の面々が口々に話し始める。

 

「素晴らしー!」

「これを待っていたんだ・・・」

 

 まるで手のひらを返したようにM商事や金本を称賛し始める。

 

「デモは解散だ!さすがM商事・・・環境問題への取り組みも万全だ」

「さあみんな引き上げるぞ!」

「これで環境がまた一つ守られた!」

 

 先ほどまであれ狂うような態度を示していたデモ部隊は、突然、テントの解体をはじめ、三々五々散り始める。

 

「金本部長・・・素晴らしいですわ。部長のたった一言で、デモ隊が納得して解散していきます。部長こそ地球環境保護の鑑ですね」

 

「いえいえ・・・こんな事はほんの手始めですよ。われわれM商事はこれからも環境第一、地球資源の有効利用と自然環境の両立、これらを推進してまいります」

 

 真顔で答えた金本の回答を受けて、星山真由が次のように締めくくる。

 

「「超高効率ソーラーシステム」は環境問題の切り札になるかもしれません!」

「ハイカット!」

 

 唖然としてその様子を見守る暁年は、開いた口が塞がらない。

 

「やらせもいいところじゃないか・・・」

 

 テントの後片付けも早々に、デモ隊を騙った代行屋連中が、ゴミをそのまま残してさっさといなくなっていく。

 

「今夜の「ニュース・ルック・ウオッチ22」と「今夜の色々な出来事23」を通じて今の部分を繰り返し報道させて頂きます。部長有難うございました」

 

「通常の10倍近い金を渡したんだ!よろしく頼むよ!!」

「はい♡・・・それはもうたっぷりと・・・ウフ♡」

 

 そう言うと、星山真由とカメラクルーは何事もなかったようにその場を離れ始める。地道な取材と入念な調査・・・それがこのキー局を運営する新聞社が日ごろ言っている事だった。

 

「こんな茶番が報道だと・・・あの女がキャスターだと・・・」

 

 そう独り言を言った暁年に金本がしたり顔で近寄って来る。

 

「おやおや・・・M商事きっての環境保護商社マンの秋月課長じゃないですか?」

「いつからあんたは環境第一、地球資源の有効利用と自然環境の両立を推進するようになった?」

 

 思わず言い返す暁年に向かって、金本が吐き捨てるように言い添える。

 

「カメラの前だけに決まっているだろ」

 

 その目はもう笑っていなかった。カメラのレンズが金本から離れた途端、この男は笑っていない。

 

「邪魔なんだよ。これからこの木どもを切り倒すから、部外者は外に出て行ってもらおうか?」

「部外者?査問委員会があるまでは、私はまだ開発部の課長だが・・・企画部のあんたこそ部外者じゃないか?」

 

「まだ大河原のやつに聞いていないのか?「超高効率ソーラーシステム」の導入が決まってからはここの開発は企画部が取り仕切ることになったんだよ」

「何だって?」

 

「そうそう・・お前の書いた企画書・・・中々よく出来てたじゃねえか。楡の木をソーラーに変えてそっくり貰ってやったよ。良かったな無駄にならなくて。もちろん、手柄はこちらが頂くがね・・・けへへへ」

 

 思わず睨みつけていた。最初からこれが目的だったのか・・・・。

 

「すべてあんたのお膳立てか?」

 

 金本の能面のような顔に、突然見下したような笑い顔が浮かび上がる。

 

「まだだよ。これからもっと酷いことになって行くからな」

 

ゴッゴゴッ-

 

 その時、金本の背後からブルトーザーを乗せたトラックが十数台、大地を震わせながら近づいてくる。

 

「ひひっ・・聞こえるか?地獄の声が・・・さあ、どけよ」

 

金本が暁年の肩を掴み、押し倒そうとする。

 

(しまった・・・金本の行動の方が何手も先を言っている・・・どうしたら良い?)

 

 嘲笑を浮かべた金本はじわじわと暁年に迫りながら肩を掴む力を強めていく。じりじりと下がり続けた暁年は、いつの間にか楡の木のすぐ下まで追い詰められている。

 

(どうしたら良い?)

 

「残念だが、もうチェックメイトなんだよ」

 

(どうしたら良い?どうしたら・・・)

(どうしたら良い?)

 

【ヒトの肉体はエネルギー循環路とエネルギー中枢とが合一した時、身体エネルギーの活性化が起きる・・・暁年・・・喝!】

 

 突然、プールナーナンダーの声が聞こえたような気がした。身体が熱い。肩を掴んだ金本の腕を思わずつかみ返していた。

 

「喝!邪淫退散!!」

 

 気合一閃、金本の身体が宙を舞っているのが目の前に見える。

 

「なっ・・・何だと?!」

「喝破!」

 

 高圧電流に触れたように、暁年に腕を掴まれた途端、金本の身体がはじけ、暁年の数メートル先まで飛ばされている。暁年の身体から陽炎の様な気が上がっているのが金本にも感じられる。

 

「何が何でも・・・楡の木を守る」

 

 暁年はそう言ってその場にしゃがみ込んでいた。多分、あのホオジロたちの残留思念が有ったあたり・・・まだそのかけらの輝きが残っていそうだった。そのかけらの一つ一つが温かく感じられる。

 

「おい!あいつを取り押さえろ!」

 

 金本が金切り声を上げて、トラックから降りてきた運転手と、ブルトーザーのオペレータに命ずる。既に二人のまわりには十数人の人垣が形成されている。

 

「部外者が乱入している!こいつを捕まえろ!」

 

 だが、その命令を彼らはきょとんとして聞いている。

 

「何だ・・・秋さんじゃないっすか?」

「コイツ誰です?」

 

「俺は企画部部長の金本だ。こいつをすぐに捕まえて現場からつまみ出せ」

 

 そういった金本を作業員達は胡散臭げに見つめる。

 

「違う・・・違う・・・俺じゃない・・そいつだ」

 

 だがその言葉は作業員達に通じない。あっという間につまみ出されたのは金本の方だった。

 

「あの馬鹿どもが・・・今に思い知らせてやるぞ、後悔するなよ」

 

 現場事務所に戻った金本は、警備会社に増員を要請しようと受話器を取り上げた。

 

(こうなったら、予算度外視で要請してやろう。企画部の怖さを嫌と言うほど現場作業員共にも分からせないとな・・・)

 

「ああ・・M商事の金本だ。警備員の増強だ。50名・・・いや100名を送れ!・・・いきなり無理だと・・・M商事をなめるなよ。潰されたくなかったら死ぬ気で送るんだよ。そうだいい心がけだ」

(全員一人残らず排除して、今夜中に楡の木を切り倒してやるぜ!)

 

 だが、受話器を置いた金本の目の前で信じられない事が起こっていた。寝袋やテントを担いだ一団が、わらわらと現場事務所の目の前を通り過ぎていく・・・

 

「ほ・・本物・・・だと・・・」

 

 ヨハンネス・ルオト・ニルソンに率いられた環境保護団体ブルーアースの一団は、礼儀正しく現場事務所の受付で入場者欄に記名をしたあと、堂々と場内に入り込んでいたのだ。

 

「何で部外者を入れている?!」

 

 金本に掴みかかられた受付警備員は意外そうに答える。

 

「環境保護団体は入れて良いと・・・ご自分で4日前に・・・」

 

----------------

 都市キー局のA〇Cテレビの報道番組「ニュース・ルック・ウオッチ22」は、メイン・キャスターを報道畑出身者ではなく、タレントや歌手に日替わりで努めさせるバラエティー色の強い報道番組で、そこそこの視聴率を取っていた。特に星山真由は個性派俳優で知られ、この番組の看板になりつつあった。

 

「本番10秒前です・・・8、7、6、・、・、・・・・・」

 

 本番前の緊張が、スタジオを覆い、テーマソングが流れ始め、ディレクターがキューを送る。

 

「ハーイ・・・こんばんにゃ・・・「ニュース・ルック・ウオッチ22」の時間だよ。今日はキャスター・星山真由の日だよ!今日の特集は「**市ショッピングモール」の建設予定現場・・・ここですごい事が起こったので、真由がばっちり伝えるにゃ!」

 

 番組トップのあいさつが終わると、その日のトップニースを報道部のアナウンサーが伝え始める。星山はその隣で視聴者目線のコメントを面白おかしくアドリブでいい加減に付け加えていく。その声はアニメ声の媚びた音声で、聞きようによっては親近感の持てる心地よい声だ。だが問題意識の低い心無いコメントの数々は、当事者を酷く傷つけ、言葉の暴力となって襲い掛かる。その残酷なコメントとキャピキャピのアニメ声とのギャップで、この個性派女優の人気はうなぎのぼりに高まっていた。そして、今日の特集のコーナーのビデオ画像が流れ始める。

 

「この秋月っていう課長・・・もう最悪・・・環境保護団体の皆さんに石礫を投げつけられて、大企業のいかにも下っ端・・・でも、ここで登場・・・バーン・・・金本部長!・・・地球環境の事を一番よく考えてるお方・・・」

 

 星山自身がアフレコを入れたビデオ画像が快調にオンエアされ始める。都合よく改変され編集を入れられた動画は実態と程遠い。だがそんな事はどうでもいい。私さえきれいに映っていればそれでいい。その動画を満足そうに星山が見ている。

 

「秋月課長を身を挺して庇ったのは素敵なおじさま・・・金本部長でーす。その場に集まった多くの環境保護団体の皆さん・・・この人は違うとすぐに分かって・・・素晴らしい説明を納得されて聞いています。そうです、最新の機械「超高効率・・・・」

 

 ここが一番伝えなければいけないところ。これを伝えないと私はM商事から金がもらえない。M商事に睨まれれば明日からでも直ぐに干される。さあ、私のもらったお金に対する対価を沢山見せて!

ところが・・・いきなり録画のビデオ映像がそこで止まってしまう。

 

「な・・・何よ・・・早く流しなさいよ!」

 

 だがADが「×」の仕草を星山真由に送っている。

 

 「何でよ・・・早くやれって言ってんだよ、AD風情が何やってんだよ。これじゃ金が出ねえだよ!」

 

 そう言った途端、マイクのスイッチが入っていることに気が付く。オンエア画像にはビデオ画像ではなく、スタジオ内にいる自分が映し出されている。気が動転し、クラクラとし始める。そして急いで取り繕ったように言い換える。

 

「もう・・・ADさんたら・・・早くお願いにゃ・・・」

 

 だがADは依然として「×」の仕草を送っている。

 

「と・・・とりあえず・・CMにゃっ・・・」

 

 そう言ってその場を切り抜けた。

 

「どうしたのよ一体?」

「それが・・・このビデオつかえません」

 

「何でヨ・・・」

「他局を見てないんですね?」

「本番前に他局なんか見ないわよ」

 

 そしてCMが終わり、本番が開始される。だが、再開されたオンエア画像にはスタジオに居る真由の姿は映っていない。報道畑の地味な格好をした新人女性アナウンサーが、現場と思われる真っ暗な広場で、マイクを握っている姿が映し出されていた。

 

「先ほど、星山真由キャスターがお伝えした「**市ショッピングモール」の建設予定現場前です。ご覧ください・・・」

 

 モニターを見た真由の目が驚愕で見開らかれる。何百人もの人々が、楡の木の前に座り込み、一人の男の前で座禅を組んでいるのだ。座禅を組んでいるのは老若男女、さまざまな国々・人種の人々であった。カメラが人々の前に移動し、新人アナウンサーが座禅の一番中心の人物に声をかける。

 

「あなたは・・・先ほど星山真由キャスターの取材動画に写っていた方ですね・・・ええと・・・秋月係長・・・会社の方が自分の作業場で座り込みですか?」

「あっ・・・これは会社人としての立場ではなく、あくまで私人としての参加です。この楡の木を残しておきたくて」

 

「この楡の木をですか?・・・たった一本の木のために何で大の大人がこんなに集まっているのでしょうか?」

「はい・・・この木はここに在った神社の・・・今は廃神社になってしまっていますが、ご神木の最後の一本なんです。もともとはご神木でもなんでもなかったようですが、全てのご神木がある企業によって根こそぎ切り倒されてしまったために、この木にその役割が授けられたようです」

 

「役割ですか・・・?」

「ええ・・・この木はこの町を守っているらしいのです」

 

 暁年が真顔でそう言った途端、星山真由の嘲るような笑いが画面の端から聞こえてくる。

 

「あははははっ・・・このおっさん馬鹿じゃないの?」

 

 そして、中継画面がスタジオ内に切り替わる。

 

「ねえ・・・そこのおっさん・・・ええと、秋月課長だっけ・・・一本の木が町を守っているって、まじで考えているの?」

 

 大金を掴み損ねた恨みが、星山の負の側面を強調するように現れている。普段のキャピキャピした声は鳴りを潜め、星山の素の低い声がなりふり構わず罵声を浴びせ始めている。

 

「じゃあ聞きますけど、あなたは何に守られているんですか?」

「私はね・・・何にも守られてなんかいないのよ!すべて自分ひとりで勝ち取ってきたの!誰の世話にもならず、全部自分ひとりで勝ち取ってきたのよ!」

 

「もう一つ聞いていいですか?あなたは今動いていますか?止まっていますか?」

「はぁ?馬鹿じゃないの?見て分からないの?止まっているに決まっているでしょ?頭も悪いけど、目も悪いようね!」

 

「ある科学者に言われたんです。我々は地球の公転によって1年で9億4千万km移動し、時速83万kmで天の川銀河の周りをまわり、時速200万kmで他の銀河と離れつつある」

「一体何を言ってるのよ?」

 

「我々はいろいろな物に動かされ、いろいろな者に助けられ、いろいろな物に守られている。これは自明な事です。あなた以外は中学生でも知っている。でも気づかないんです。少し思いを馳せれば、いくらでも有るんです。我々を守り、助ける存在が・・・。地球の大気は我々から有害な紫外線を和らげてくれている。バンアレン帯は、有害な太陽風を防いでいる。我々の体内にいる有用菌は、乳酸菌の例をとるまでもなく、無くてはならない存在なんです。私たちは、そう言ったものへの思いをもう一度考えるべきです。何でこの木が私たちに必要なのか、実は私も分かっていない。この木を切り倒したら、どうなってしまうか全くわからない。でも、太古の人々は、ここに在った木たちを大事にし、守り、守られてきた。それがご神木だったんです」

「なんかすごくいいこと言っているみたいに聞こえるけど・・・結局、宗教よね。何の根拠もない、絵空事よね?」

 

「でも・・・私は感じるんです。ここが・・・。この木を倒してはいけないと、なんとなく思うんです」

そう言って暁年は自分の胸を押さえて見せる。

「そのあんたの会社が、いえ、あんたが、その木を切り倒そうと今までしていたんでしょ?いまさらなにを・・・人の迷惑を考えていないの?」

 

「その通りなんです。私も・・・この木の前に来るまで気が付かなかった。分かっていなかった。その科学者に言われるまで・・・あなたはそんな事がなかったですか?心の底から感動する景色とか・・・、胸を打つ自然の営みに心を躍らせたことはないですか?ここにいる人々は、そんな思いで集まってくれた人々なんです。このたった一本の楡の木を守りたいと、それだけの思いで集まってくれた人々なんです」

 

そう言って暁年は、自分ん周りに集まっている人々を指さす。暁年にインタビューをしていた新人アナウンサーが、その中に居た一人の外国人に向かってインタビューを行う。

 

「あなたは確か環境保護団体「ブルーアース」N国支部のリーダー、ヨハンネス・ルオト・ニルソンさんですね。この行動は一体何なんですか?」

 

 半眼に開いていた目が開かれ、そのN国語の問いを一瞬戸惑ったように聞き返す。

 

「ああ失礼しました」

 

 そう言ったあと、新人アナウンサーは流暢な英語で質問を始める。しばらくの英語のやり取りが続く。律儀なアナウンサーはその内容に驚きながら熱心にメモを取っていく。時には深刻に、時には大仰に驚きながら、数分話し込む。録画であれば絶対にカットされているだろうシーンが克明に映し出されていく。

 

「あにょ・・・いちいちオーバーなアクションするの止めてくんない?わざとらしんですけど」

 

 大きな欠伸をする仕草をしながら、星山真由がその新人アナウンサーを揶揄し始める。自分のインタビューが長すぎたことに気が付いたその新人アナウンサーは早速メモを見ながら、和訳しようとして逡巡の表情を浮かべる。

 

「あの・・・その前に・・・これを訳して本当にいいのですか?」

 

 そのアナウンサーに浮かぶ逡巡の色を見て、同じ報道畑にいる局アナがプロディーサーを振り返る。プロデューサーが青い顔をしながら首を振っている。

 

「あの・・・佳山さん・・・報道部の佳山さん・・・あの・・・今のは・・・」

 

 局アナがそう言いかけた時、番組を乗っ取られていると感じた星山真由が勝手にコメントを出してしまう。

 

「あんた本当は全部分かってないでしょ?今の英語・・・出来るもんなら全部訳しなさいよ。正確にね・・・」

 

 恥をかかせてあげる・・・星山は挑戦的で意地悪な表情を浮かべていた。

 

「分かりました。それでは・・・」

 

 外国留学が長かった新人アナウンサー・佳山嘉代にとって、それは造作もない事だった。新人故に星山真由の真意も分からず、馬鹿正直にメモを読みながら訳を始める。

 

「只今、インタビューに答えられたのは環境保護団体「ブルーアース」N国支部のリーダー、ヨハンネス・ルオト・ニルソンさんです。この方は、ス〇ーデン出身の王族の方で、現王室の親族に当たる方でもあります。では訳します・・・・」

 

 そう言ったところで、画像がCMに急に切り替わった。

 

「王族なんて聞いてないわよ!」

「英語で言っていただろ!!」

「そんなの分かる訳ないでしょ!」

 

 スタジオは大混乱になっていた。急遽、地方局から上がった、地方ネタのビデオ動画が流され始め、番組が終わるまで新人・アナウンサー佳山佳代もキャスターのはずの星山真由も登場することはなかった。

 

-----

 このハプニング続きの「ニュース・ルック・ウオッチ22」は惨憺たる視聴率になった。そのため星山真由がこの番組に姿を現すことは2度となかった。だがこの回は「まぼろし回」としてSNSにキャプチャ動画が次々と載せられ、驚くべき再生回数が記録されていくことになる。最初は星山真由のアンチファンによって

 

「AD風情が何やってんだよ。これじゃ金が出ねえだよ!」

 

 といった問題発言が繰り返しアップされていった。だが、その後、暁年とニルソンのインタビュー動画が各国語の翻訳字幕がつけられてアップされると、全世界的な規模での再生回数になっていき、1週間後には数億回の再生が記録されていった。

 気が付くと、楡の木の周りには数千人の座り込みが押し寄せる事態になっていた。さすがのM商事も、国際的に話題になりつつある座り込みをただ見過ごす他なくなっていた。

 

-------------

 こうして、暁年の査問委員会が行われるまでの・・・そして三好満司とのセックスバトルが開かれるまでの1週間が過ぎて行った。

 結局、暁年は楡の木の前に座禅をし続け、プールナーナンダとの修行を行うことが全く出来なくなっていた。食事や差し入れは、周りに集まってきた支援者からいくらでも施しを受けることが出来た。質素に見えるその食料は、しかし、自然派趣向のオーガニック素材がほとんどで、唯子が作るクッキーや手料理を彷彿とさせた。

 暁人と綾乃も一緒に座り込みをしたそうだったが、一之介と共に唯子の捜索を続けてくれていた。唯子の代わりに秋月家を支えたのは、今や完全に正気を取り戻した三好良枝だった。秋月家における家事の数々が、良枝に人間性と正気を少しづつ取り戻させていたのだ。プールナーナンダはその後も楡の木の前に現れることはなかった。ただ一人、秋月家にある暁人が植えた琵琶の木の前で座禅をし続け、秋月家を守るようにその場に居続けた。その懐にあったホオジロの巣は、琵琶の木に移され、雛たちも今や巣立ちの時を迎えようとしていた。

 一之介の必死の捜査で、唯子が拉致されている場所が、児童養護施設の女子職員のマンションであることを2日前に掴んでいた。だが、唯子の存在を示す証拠がなかった。捜査権のない一之介が、それ以上の追及をすることは叶わなかった。時間だけがむなしく過ぎて行き、ついに当日を迎えてしまう事になった。




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次号はいよいよ「楡の木篇」最終回になります。
暁年はこの事態を逆転させることは出来るのか?
明日はどっちだ・・・

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