(あらすじ)暁年の立てた計画は無断で流用され、功績は全て敵に奪われてしまっていた。今や、必死の思いで守ってきた楡の木は悪人共によって手折られようとしていた。そして暁年を社会的に葬り去ろうとする「査問委員会」が開催されようとしていた・・・。はたして暁年は楡の木を守り、唯子を取り返す事が出来るのだろうか?
---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父(M商事・開発部・課長←オリジナル設定)
三好 満司:主人公の遠縁(暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
及川:鈴木貫太郎探偵事務所・探偵、一之介の部下 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
ヨハンネス・ルオト・ニルソン:環境保護団体「ブルーアース」N国支部リーダー(オリジナルキャラ)
金井由美:**市児童養護施設・非常勤職員、三好満司のマゾ奴隷11号(オリジナルキャラ)
金井真美:M商事・企画開発本部長付秘書、三好満司のマゾ奴隷12号(オリジナルキャラ)
星山真由:A〇Cテレビ・キャスター、アイドル女優
ニルソン
大河原:M商事・企画開発本部長 兼 開発部・部長 (オリジナルキャラ)
金本:M商事・企画部・部長、AJK団団員(オリジナルキャラ)
張本:M商事・企画部・課長補佐、AJK団団員(オリジナルキャラ)
木下:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・所長 (オリジナルキャラ)
来栖:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・監督 (オリジナルキャラ)
林:M商事・専務、AJK団団員(オリジナルキャラ)
川住:M商事・副社長(オリジナルキャラ)
中上:M商事・社長(オリジナルキャラ)
三坂重吾:M商事・会長(オリジナルキャラ)
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そしてその日がやって来た。
暁年は4日間も風呂もシャワーも浴びず、座禅を組み続けていた。それにも拘わらず暁年からは不快な体臭がせず、清潔な佇まいを保っていた。三好良枝が秋月家から持ち出したスーツに着替えると、いつもの商社マンに戻っていた。
「皆さん・・有難うございます。こんな大ごとになって、どうなってしまうのか全く分かりませんが、私はM商事という会社が、まだ商社マンの誇りを捨てていない会社だと信じています。どうか力を貸してください!」
その挨拶に応えたのは、ニルソンでも、良枝でも、暁人でも、綾乃でもなかった。
「ピヨ・・ピヨ・・」
秋月家の琵琶の木を巣だって行った雛たちが、楡の木の梢に戻って巣を作ろうとしているところだった。それをまぶしそうに見上げながら、暁年がショッピングモール建設予定地の出口に向かっていく。それに追いすがるように暁人が
「お父さん頑張って」
そう言いながら、満充電されたスマホを渡してくれた。
「暁パパ・・・無理しないでね」
綾乃がそう言いながら手作りのクッキーを渡してくれる。
「俺もついて行こうか?」
ニルソンが北欧なまりの英語でそう申し出るのを、へたくそな英語で辞退していた。
「じゃあ行ってきます」
数千人も集まった家族に向かって、暁年はそう言っていた。
「がんばれ!」
様々な言語で、そう激励されていた。
“Nenda kwa hilo !”
「힘내라 !」
“Animo!”
“去吧”
“Anna palaa!”
“Lycka till!”
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M商事株式会社東京本社本館中央大会議室に秋月暁年が入るのは、入社して以来20年、まだ数えるほどしかない。主に大河原本部長が大きな企画の説明する際に、数名の課長と共に入ってきたことがある程度だった。N国経済を常にリードしてきたM商事らしい大理石造りの本館の中でも、さらに重厚な家具と丁度品で飾られたこの会議室に入った者は、百年以上続いているこの会社の巨大な権力の重圧を感じざるを得ない。要はコケ脅しには最適な場所だった。
その中央大会議室の重厚な入口のドアの前で、秘書と思しき男女数人が、暁年の到着を待ち構えていた。
「呼ばれるまではここで待機しているように」
そう言った男性秘書の顔は強張り、暁年に対する苛立ちと不振がにじみ出ていた。先日の「ニュース・ルック・ウオッチ22」における暁年のインタビュー動画はM商事内でも話題になり、暁年の悪名は社内に轟いていたのだ。会議室前の大きなエントランスホールに用意されたソファに腰を下ろし、まんじりともしないで時間をやり過ごす。ふと懐に手をやると、綾乃から贈られたクッキーの袋があった。
「ポリッ」
(うん・・・確かに甘さ控えめで、素材重視の美味しい味だ)
暁人にならって、一かけらを握りこぶしの中に入れ、握っていることにした。
(お守りだよ・・・綾乃ちゃん、暁人・・・・唯子)
10分間ほど待たされた後、重厚なドアが中から開かれ、沈痛な面持ちをした大河原が中に入る様に暁年を呼び入れる。暁年はその表情を読み取ろうとしたが、能面のようなその表情は何も表してはいなかった。大会議室に入った途端、横一列に居並ぶ海千山千の重役達の何十という好奇の目が暁年に注がれる。暁年はそれでもその重圧を跳ね返そうと、クッキーを持った手をきつく握り、中央にポツンと置かれた椅子の前まで歩いて行った。
「企画開発本部・開発部第3課・課長・秋月暁年君だね」
中央に腰掛けた、議長役であろう副社長の川住がそう尋ねる。
「はい」
「君は何でこの場に呼ばれているか分かるね?」
「大体のところは・・・」
「宜しい。ではその椅子に腰かけたまえ」
「いえ・・・結構です。このまま、お受けいたします」
今回のこの査問委員会は私にとっては決闘となる。大地に根付くように自分の足で立っていたい。プールナーナンダに教わった「波動」を感じる極意の一つだ。これだけ多くの重役に囲まれ、ただでさえ気後れするのをより広い視座から跳ね返す・・・そんな決意が川住にも感じられたのだろう。そのまま黙認することにしたようだ。
「宜しい。それでは君の「担当任務の不履行、我が社に対する背任行為ならびに、公の場における誹謗中傷」に対する査問委員会を開始する」
手元の資料を川住が無表情で読みあげる。やはりその顔にも何の表情も浮かんでいない。
「えっ?・・・背任行為?・・・誹謗中傷?・・任務不履行だけではないのですか?!」
居並ぶ十数人の重役たちの前で思わず声を上げてしまう。あまりにも意外な告発に、査問委員会中であることも忘れ、暁年は思わず聞き返してしまう。
「不規則発言はやめたまえ。君には今の段階で発言は認められていない」
議長の隣に腰掛けていた社長の中上によって早速、窘められてしまう。
「・・・・・・」
「では、秋月課長への嫌疑に関して告発者である企画部・金本部長から説明頂きたい」
「分かりました。それでは、まず、秋月課長の任務不履行から・・・20**年4月*日、企画開発部・大河原本部長からの命で「**市ショッピングモール」の建設予定地における座り込み等による反対運動の処理を任された秋月課長は、直ちに座り込みを行っていた外国人の排除に向かいました。しかし、説得に成功したにもかかわらず、なぜかその外国人が去った後も、その場に残り工事の妨害に加わりました。これがその際の写真です」
資料が映されたプレジェクター画面に、暁年がまごつく作業員に囲まれながら楡の木の前で座り込んでいる写真が映し出される。多分、張本が2日目に望遠レンズで撮影したものだろう。
「彼はその後、その外国人が戻って来るまでの6時間を単独で、その後、彼の家族や当の外国人と共に3日間に亘ってその場を離れませんでした」
「これに関しては事実に相違ないか?」
発言を求める様に川住副社長が、暁年に向かって尋ねる。
「はい・・・しかし、それは座り込みを行っていた外国人・・パタンジャリ・プールナーナンダさんの座り込みの目的、およびその行動概要を聞き出し、今後の工事計画を損失の無い様に修正するためです。交渉戦術としてはごく当たり前の事だと思います」
「家族を呼んで、まるでキャンプをしていたような状況だったそうじゃないか?君は、そこに写っている楡の木を守るために、その外国人を使って「やらせ」で座り込みをさせようとしたんじゃないかね?」
林専務がそう言い募ると、再び張本が写した写真をプロジェクターに投影する。そこには、ランタンを囲んで楽し気に話している秋月家と綾乃、そしてプールナーナンダの姿が克明に映っていた。
「確かに私は最近になってあの楡の木を大事に思う様になりました。しかし、当時は違いました。彼と親交を深めている間にそう考えるようになりました。彼はインドでは優秀な科学者であり、同時に聡明な宗教家という事でした。無碍に扱うことは失礼だと感じ、家族と共に向かい入れることにしました。商社マンファミリーが国外要人と家族ぐるみで親交を深めるのは、我が社においても重要な慣習であると、当社創立者の坂本弥太郎からの伝統と考えますが?」
「あんな薄汚れた老人が「要人」だと。聞くところによれば「波動エネルギー」とかいう訳の分からぬ妄想を並べ立てて、インド科学アカデミーを追われたらしいじゃないか?」
場内から一斉に失笑が漏れる。「波動って・・・アニメかよ?」「いかがわしいオタク物理学者だな・・・」そんな揶揄まで聞こえてくる。
「いえ・・・実際、彼と親交を深め、その話を聞いてみると、彼ほど立派な人格者を見たことがないほどの・・・・」
暁年がそう言いかけたとき、プロジェクターにプールナーナンダの調査報告書が映し出される。国内最大手の信用調査会社の報告書だった。
「この人物は、物理学教授として20数年前に某国立大学に迎えられています。しかし、次々と問題行動や奇行を繰り返し、半年もしないうちに罷免されています。その時点で国外退去処分になっていますが、どうやらそのままN国に不法に滞在し、国内を放浪しているとのことです。放浪中も先々で問題を起こしているようで、地方の新聞やミニコミ紙などを追ってみると、彼と思われる人物による事件が各地でいくつも報じられています」
金本がプレゼン資料をクリックするたびに、地方紙が取り上げたプールナーナンダと思われる人物の写真と記事がいくも映しだされる。彼独特の風貌と僧衣が映し出され、紛れもない当人であることが誰の目にも明らかだ。記事の内容はどれも自然保護を訴えての座り込みやデモ行動、関係者との小競り合いや衝突など、如何にもプールナーナンダらしい行動だった。暁年はプールナーナンダのこれらの行動が20年前から変わらず続けられていることに、むしろ誇らしげな感慨を抱かざるを得なかった。
(あの人は全くぶれていない。20年前から外見だけでなく、その主義主張まで今と全く変わっていない)
どうやらその度に巧みに検挙の手を逃れているようで逮捕歴はないらしい。そして、怪我人や事故も全く出ていない。それもいかにもプールナーナンダ「師匠」らしい・・・。
「このような問題人物が「立派な人格者」だと?不法滞在をしながら工事妨害を繰り返すテロリストじゃないか。お前はいったいどんな判断基準を持っているんだ?そんな偏った判断だから、我が社の名誉を傷つけ、商社マンの顔に泥を塗るんだ!この場でここに居る重役の方々に謝罪しろ!」
「・・・・・・・・・」
「秋月君、何か言う事はあるかね?」
「それらの事件は結局検挙・逮捕に至っていません。噂レベルで人物が特定できていない以上、査問委員会の証拠からは抹消していただきたい」
だが、プロジェクターにはどこで手に入れたのか、警察の捜査資料が映し出される。
「新聞に掲載されている時点ではな・・・。だが、その後の警察側の調査で、そのプールナーナンダの仕業であることが、指紋等で明らかになっている。指名手配こそされていないものの、札付きのテロリストなんだよ」
金本がしたり顔で付け加える。だが、暁年も負けていない。
「こんなものをどこで手に入れた?この入手方法や経路こそ違法性が高いんじゃないか?」
金本や林が係わっているかもしれない謎の組織・・・一之介から聞かされているAJK団の不気味な影がちらついているようで、暁年は忍び寄る恐ろしさを感じざるを得なかった。だが、暁年の真意を知らない重役連中は、暁年が見苦しい抗弁をしているようにしか見えない。中上社長があきれ顔で指摘する。
「その人物が犯罪者であることには変わりがない!少なくとも立派な人格者とは言えまい」
「ほとんどが開発者側の誤解や無理解による軋轢です」
「それを証明する証拠はあるのかね?」
「もともと本人と特定できないものを・・・」
流石の暁年も沈黙するしかない。それを受けて議長役の川住副社長が厳粛に宣言する。
「金本部長の資料は証拠として有効と認めます。金本部長は先を続けてください」
「はい。それでは秋月課長の「我が社に対する背任行為ならびに、公の場における誹謗中傷」に関する告発です。まず先日行われました我が社がメインスポンサーを務める番組「ニュース・ルック・ウオッチ22」の一場面をご覧ください。
【「あなたは・・・先ほど星山真由キャスターの取材動画に写っていた方ですね・・・ええと・・・秋月係長・・・会社の方が自分の作業場で座り込みですか?・・・」
「はい・・・この木はここに在った神社の・・・今は廃神社になってしまっていますが、ご神木の最後の一本なんです。全てのご神木がある企業によって根こそぎ切り倒されてしまったために、この木にその役割が授けられたようです」】
「このように、秋月課長は自分がM商事の課長であることを名乗ってから、我々がご神木を切り倒したと誤解されかねない発言をインタビューでしています」
明らかに悪意のある編集だった。暁年は私人であることを明言していたはずだった。
「ちょっと待ってください・・・私はこの発言をする前に「これは会社人としての立場ではなく、あくまで私人としての参加です」と明言していたはずです。その時私は有給中で、私服での対応です」
「分かり易い様に端折った編集をしているだけだ。ただでさえお忙しい重役たちの時間をお前は無駄にしているんだからな・・・。それに会社人や私人など社外の人間にとって区別が付く訳がないだろう」
金本はそう言って連なっている重役連にごまをすりながら先を続ける。
【「そのあんたの会社が・・・その木を切り倒そうと今までしていたんでしょ?いまさらなにを・・・人の迷惑を考えていないの?」
「その通り・・・ここにいる人々は、そんな思いで集まってくれた人々なんです。何でこの木が私たちに必要なのか、実は私も分かっていない。この木を切り倒したら、どうなってしまうか全くわからない。でも、このたった一本の楡の木を守りたいと、それだけの思いで集まってくれた人々なんです」】
明らかに暁年の都合の悪い部分だけを集めた酷い編集だった。だが、編集されている内容は、突き詰めれば暁年が言いたかったことに他ならない。
「・・・・・・・」
「お前は理由すら分からずに、我が社に莫大な損害を与えようとしているんだよ。一本の楡の木のために多くの人に迷惑をかけようとしているんだよ?M商事の迷惑も、社会の人々の迷惑も、何も考えずに・・・」
「待ってください。私が出した案でも、工事中断による損失を入れても1億円は浮きます」
「変更の理由がなければ、金を浮かしたところで、認められるわけがないだろ!おら・・・理由を言ってみろよ!理由をよ!」
「・・・・あえて言えば・・・直観です・・・・・」
暁年がそう言った途端、金本は呆れたように天を仰ぐようなそぶりをしながら、居並ぶ重役に向かって激しく言い募る。
「査問委員会の重役の方々?今の聞きました?こいつは「直感」で環境保護団体を煽り続け、M商事を全世界の誹謗中傷にさらしているですよ!」
「な・・・何を言っている?泥を塗る?誹謗中傷をする?」
「そうだよ、お前の後にインタビューに答えた環境テロ組織「ブルーアース」N国支部リーダー、ニルソンの証言を聞いてみろ」
ニルソンの北欧訛りの英語とともに、N国語訳の字幕スーパーが画面に表示される。各国でネットで出回っている動画の一つのようだ。
【我々は、M商事開発部の秋月課長の考え方に同調してここに集まっている。この土地に「超高効率ソーラーシステム」を導入しようとしているようだが、我々としては反対だ。あのシステムには問題が多い。同じ計画変更であるなら、秋月課長が進める「楡の木のあるショッピングモール」計画の方が妥当性が高いとみている。そのため、我々は「超高効率ソーラーシステム」の導入反対と楡の木の温存を求めて、この座り込み行為を秋月課長と共に行っている。秋月課長のM商事での活躍を願ってやまない。もし、楡の木が切り倒されるようならM商事に抗議行動を起こすとともに、M商事が関連している商品の不買運動を起こす予定だ。】
ニルソンはこんな事まで話していたのか・・・。私と会った時、彼はM商事が「超高効率ソーラーシステム」の独占販売契約を結んでいることを知っていた。国際的な環境団体である彼らの元には、様々な情報がCIAやMI-6並に入って来るようだ。しかも「超高効率ソーラーシステム」に致命的な問題があることも掴んでいるようで、M商事社員である私に導入を再検討するようにまで話してくれていたのだ。そこまで考えて「ハッ」とする。初めて、自分にかけられている「背任行為」が何なのか思い至る。楡の木の前で座禅を組みほとんど情報が入ってこなかった暁年は、他の社員からの冷たい視線の意味にやっと思い至る。
「我が社が「超高効率ソーラーシステム」の独占契約を結んだことは秘中の秘だった。株価への影響や競合他社への優位性の確保・・・考えたらキリがない。まさかその情報を外部の、しかも環境保護団体に知られているとは・・・。しかもそれが「問題あり」と指摘されるとは・・・。彼は、ス〇ーデン王室の王位継承権第5位の皇族だ。国外では絶大な信頼性を得ている活動家だ。単なる環境保護団体のリーダーのたわごとでは済まないのだよ!秋月君・・・とんでもないことを仕出かしてくれたな・・・」
中上社長が怒髪天を抜く勢いで暁年をにらみつけている。やはり・・・重役連中は、私が自分のプランを採用させるために「超高効率ソーラーシステム」の情報をリークしたと思い込んでいるのだ。
「何をお考えかわかりませんが、私は決して背信行為などしておりません」
そう言った時だった。プロジェクターに「ブルーアース」N国支部に入っていく暁年の姿と、意気投合し握手を交わしながらニルソンと共に支部から出て行く秋月の姿が映されていた。
「これは先日の重役会議の直後、我々がそこの大河原本部長に「超高効率ソーラーシステム」の事を説明申し上げた直後の写真です」
「大河原君・・・まさか秋月君に「超高効率ソーラーシステム」の事は話していないだろうな」
「社長・・・彼もこの計画のもう一人の当事者です。知っておいてしかるべき存在です」
「つまり、この写真を撮られたのは、「超高効率ソーラーシステム」の事を知った直後なんだね?」
「・・・・そう言う事になります」
無念そうにそう言った大河原の顔はやはり何の表情も浮かんでいない。
「これではっきりしましたな。秋月がニルソンにこの情報を伝え、我々の計画をつぶすために「問題があるシステム」などと言う話をでっちあげたんですよ」
そう言いながら、勝ち誇ったように金本は秋月に近づくと、見下す様に言い放つ。
「まったく、商社マンの風上にも置けないやつだな!」
「何の証拠もない、推測だらけの結論だ。君たちはそうやって私に対するイメージ操作をするだけで・・・・」
そう言いかけたときだった。M銀行個人口座の口座情報・入金者リスト一覧がプロジェクターに投影される。
「この日の翌日・・・そう、秋月課長がブルーアースに「超高効率ソーラーシステム」の情報を漏洩したと思われる日の翌日、ブルーアースから秋月暁年課長の個人口座に100万円が振り込まれました」
どよめきが会議室内に響き渡る。もし事実とすれば背任行為そのものだ。
「これは我がM商事とグループ関係にあるM銀行の内部監査組織から今朝ほど送られてきた情報だ。もう言い訳もできまい」
「・・・・・・」
その送金がブルーアースとわざわざ名乗っていることなど、背任罪をわざわざ宣伝するだけの行為だ・・・しかもわざわざ自社関連グループの銀行などを使う事などありえない・・・。嵌められたのは誰の目にも明らかだった。しかし、NGOである環境保護団体が収支報告をこの時期に明かすことなどありえない。それだけに・・・今この段階では完璧な証拠となりうる。楡の木を伐採した後に確認が取れても、すべて間に合わない・・・全て計算づくの罠・・・この場で反論のしようもない鉄壁な証拠・・・。
「環境保護団体が個人の口座に?これはいったいどういう事でしょね?しかも、送金票には「第3課秋月課長宛て」とまで書かれていたそうですよ」
金本が嵩にかかって言い募るのを暁年は黙って聞く他ない。
「そんなあからさまな事をわざわざ・・・」
今まで能面を通し何の表情を浮かべていなかった大河原が、さすがの事に顔を歪め、愚痴を独白してしまう。だが、何もならないことを彼も身をもって知っている。ただただ絶望し、首を横に振っている。
「そもそもこのような大事な時期に、反対派のリーダーに会うこと自体が問題だ。しかもその団体から寄付を受け取っていた疑いがもたれた・・・それだけで十分でしょう」
議長役の川住が重々しく裁決を下すように言い添える。
「それじゃあ済まされんでしょ?」
金本が秋月の肩をつかみ、跪かせようと力を入れ始める。
「いったい君の個人口座には今後どれほどの金が振り込まれるんだろうね・・・」
金本の大柄な身体が伸びた太い両腕が、華奢な秋月の肩に重くのしかかり、屈服させるように力が込められていく。
「お前は伝統あるM商事に泥を塗り、すべての商社マンの誇りを傷つけたんだ!任務不履行どころじゃない、会社への誹謗中傷、背任、背信行為・・・なんと恥知らずな奴だ!さあ、ここにいる重役の方々の前で、土下座して謝罪しろ!」
そして、醜く歪められた口の端を暁年の耳元に近づけると、憎々しげに言い添える。
「もうこれで、お終いなんだよ・・秋月!お前も、楡の木もな」
「くっ・・・・」
金本の力が勝り、秋月の片膝が床に突いてしまう。
「さあ、土下座・・ド・ゲ・ザ」
「土下座・・・N国人らしくやってみろ!」
「土下座しろ!!」
ついには両膝が床についてしまう。暁年はフト・・握りこぶしを見る。
(綾乃ちゃん・・・ゴメン。これ、役に立たなかったよ)
そう思いながら握りこぶしを開き、中のクッキーを見る。バターとアーモンドの良い香りが、手のひらから立ち上り、暁年の鼻腔をくすぐる。その香りと共に暁年の目の前に人差し指を口の前で立てた唯子がほほ笑んでいる。
【グチは言わない。決して挫けない。約束だったでしょ!】
「シー」そう言いながら唯子が微笑み始める。
気が付くと、両ひざをついたついでに、中央会議室の分厚い絨毯の上にどっか腰を下ろし座禅を組んでしまっていた。
(なんだ・・・こっちの方が大地を・・・地球の動きを直に感じられるじゃないか・・・)
金本があまりにも不可解な暁年の行動に唖然として、声を上げそこなっている。一列に顔を並べた重役たちもあまりの暁年の行動に顔を引きつらせているだけで何も声を上げられない。
パリッ・・・・
M商事始まって以来の事だった。査問を受け、居並ぶ重役たちの前で胡坐をかき、お菓子をほおばる社員が出たことなど・・・。
(うん・・・真心の味だ)
M商事中央会議室の大きな空間のまん真ん中で、大理石の床と、その上に乗った毛深い絨毯を通して、大きな気の流れを感じ取っていた。
「なっ・・・何をやっている!さっさと詫びろ!土下座しろ!」
金本が暁年の肩に手を再び伸ばし、掴みかかろうとする。暁年はその腕をさっと捕まえる。
「なんだ・・・おら・・・なんとか言え!!」
「喝!」
気合いを入れたとたん、金本の身体が数メートル先まで飛ばされている。金本は自分が何をされたのか訳も分からず、呆然とその場で尻餅をついている。暁年に力がみなぎり、悪に打ち勝つ気力と体力が充実し始める。
シー
【グチは言わない。決して挫けない。約束だったでしょ!】
(わかったよ唯子・・・)
(でももう一口、クッキーを頂いてゲンをかつごう)
カリッ・・・
「議長・・・今の金本部長のお言葉は私に発言を求めたと考えて宜しいですか?」
「あっ?・・・ああ」
暁年に触れられた途端、数メートル先に飛ばされた金本を唖然と見つめながら、川住副社長が暁人氏の発言を許す。
「それでは言わせてもらいます・・・この金本企画部部長と、そこに居る林専務を、業務上の背任および背信行為で逆にこの場で起訴させていただきます」
「な・・何だと?」
「「M商事・査問委員会・会則・第12条の5・・・査問委員会に出席もしくは召集を受けたものは、その身分や国籍、性別にかかわらず、公明正大をもって動議を上げ、議論を尽くすことが出来る」違いますか?」
「確かに・・・そのような規則はあるが・・・査問を受けているのは君だぞ・・・何の証拠もなく、そのような動議をもたらすことは当委員会を混乱させるだけで認める訳にはいかない」
「そうだ・・・お前は何も資料を持ってきていないじゃないか・・・おら・・・証拠を出せよ!証拠だよ!」
流石の金本も、怖くなったのか暁年に近づこうとせず、犬の遠吠えの様に遠巻きにそう言い募る。
「証拠ならさっきから出ているじゃないですか・・・」
そう言うと、暁年はプールナーナンダが写っている一枚のミニコミ誌の広告欄を指さす。プロジェクターに大きく映し出された画面の端に「M商事」の広告がくっきりと映っている。
「あん?何を言っている・・・天下の「M商事」がミニコミ誌の一つや二つ、広告を出すのは当たり前だろう」
「そうでしょうか?では、プールナーナンダ博士が取り上げられている地方紙やミニコミ誌全てにM商事の広告が載っていたとしたら?・・・」
暁年はそう言うと、渡された資料でプールナーナンダが写っている記事の一つ一つを指さしていく。「M商事」と書かれた広告の部分を・・・・。しかも、どれも同じ図柄、デザインの広告・・・。先ほど移されたプロジェクター画面が巻き戻され、暁年の言っていることが事実であることを、すべての重役たちが目の当たりにする。
「今あげられた記事全てに、同じ図柄、同じ大きさのM商事の広告が載っています。なぜなら・・・誰かが書かせたからですよね。膨大な広告料と引き換えに・・・」
「何を言っている・・・わが社は・・・どの時期のどの地方紙にも・・・」
そう言ったものの、金本の説明は急にしどろもどろになり始める。
「広報部長・・・どうかな?」
それを川住副社長が受け、広報部長に向き直る。
「申し訳ございません・・・わが社はあくまで全国組織です。全国紙以外の地方紙や、ましてはミニコミ誌に広告を入れたことは、未だかつてありません・・・」
それを聞いた林専務が色をなして弁明を始める。
「それは企画部が独自に打って出た広告でして・・・、私が企画部長を務めた12年前から・・・あのランダムに地方紙を選びまして・・・」
「ランダム?・・・では、その支出状況をすぐに調査したまえ」
中上社長が、事の成り行きがおかしくなり始めたのを察知し、事態の収拾に乗り出す。しかし・・・
「その資料ならここに御座います」
そう言って、大河原がプロジェクターを切り替え、企画開発部本部長権限でアクセスしたPC画面を投影する。
「過去20年間に企画部で独自に地方紙に広告を打ったのは、38回。そのほとんどがここ10年間・・・最近ですと20**年*月*日~*日のK地方新聞に6日間、20**年*月*日~*日のS地方日報に2日間、20**年*月*日~*日のA県日報に4日間、20**年*月*日はR県の県庁所在地のミニコミ誌・・・」
そう指摘される度に林と金本の顔が青ざめていく。どれもプールナーナンダが記事に載った日と重なっている。
「すべてにプールナーナンダ博士が掲載された日や月だけに広告を入れています。これがランダム?確率的にはどれほどのものでしょうか?」
大河原がそう言って一同を見渡す。
「それが何なんだよ?偶然なんだよ・・偶然・・・どこが悪いんだよ。捏造記事のよ・・・」
そう口を滑らせた金本がハッと口を押える。
「やはりそうでしたか・・・今、大河原本部長が示されている価格・・・全国紙ならいざ知らず、地方紙の広告料としては相場の100倍・・・いえ、場所によっては1000倍近い価格です」
暁年が価格の点についても指摘する。中上社長が確認するように広報部長に向き直る。
「秋月課長の仰る通りです。確かに相場の100倍以上の価格ばかりですね。時間を頂ければ新聞各社の広告料相場一覧をお取り寄せできますが?」
「いやそれには及ばん」
中上社長はそう言うと林専務に向かって詰問をし始める。
「なぜこのような事を?」
「それは・・・」
林はそう言ったまま、言葉を濁してしまう。
「金本部長はどうかね?」
金本も下を向いたまま、何も言う事が出来ない。
「それは私が代わりにお応えしましょう」
そう言ったのは暁年だった。
「あるところに電話を入れてもいいでしょうか?」
中上が大きく頷く。秋月はスマホを取り出すと、プロジェクターの画面入力端子に繋ぎ、重役全員が見える形でテレビ電話機能を立ち上げる。そこに映ったのは鈴木一之介だった。
「鈴木貫太郎探偵事務所の鈴木一之介と申します。私は、AJK団と言う宗教がらみの団体の被害者の依頼を受け、その調査を行っています。そこに関係している企業が金田興産・・金本部長と林専務のお二人が役員に名を連ねている会社です。そして、その金田興産が全国各地でやっている事・・・」
そう言って、各地の地方新聞社の記事を映し出す。それはプールナーナンダが事件を起こしたとされる記事が載ってから数か月後、その地方の比較的大きな神社が廃神社になり、その跡地にレジャーランドや、中には風俗店街が出来上がるといったことが、怒りとともに取り上げられている記事だった。
「プールナーナンダ博士は、N国の神社に生えているご神木に大変興味を持たれ、その保護を訴えてこられました。これらの記事は、博士が保護を訴えたご神木を有していた神社ばかりなのです。そして、その開発にあたったのが・・・金田興産です」
どよめきが重役会議に起こる。
「もしよろしければ、証拠として御社にこの記事などを送りします。林専務と金本部長が、金田興産の役員であることは、公表されている名簿を見れば明らかでしょう。もっとも御社が知らないとは思えませんが、もし掴んでいらっしゃらないようであれば、これも送りますよ」
一之介が挑戦的に中上を見る。中上が急いで人事部長を振り返る。自分のPCに向かった人事部長が首を振る・・・。
「そのような報告は受けていません・・もし受けていれば、利益相反行為で、この会社とのJV事業に彼らが関わることは本来出来ません・・・」
「何だM商事・・コンプライアンスがなってないな~」
「こら・・・暁人・・・お父様の会社よ」
三好良枝が暁人の不用意な発言を窘める声が筒抜けで聞こえてくる。重役一同はそれを屈辱を持って迎い入れるほかない。
「ちょっと俺にもかせ・・・」
北欧なまりの英語がいきなり割り込む。
「私はヨハンネス・ルオト・ニルソンだ・・・君たちが忌み嫌う環境保護団体「ブルーアース」N国支部リーダーだ。その私からお願いがある。すでに秋月課長には伝えた通り、君たちが独占契約をした「超高効率ソーラーシステム」には重要な欠陥がある。すぐに導入をやめた方が御社のためだぞ・・・」
英語が堪能な秘書が、同時通訳を始める。だが、さすがにみな商社マンだけあって訳がなくとも大意を掴んでいる。
「そう考える根拠を教えていただきたい?」
王族の一員でもあるニルソンに向かって、さすがに中上も緊張の色を隠せない。思わず敬語で語りかけている。
「発明者がそう言っているからだ」
「発明者?」
「おい・・・冗談だろ・・・君たちがプールナーナンダ博士と秋月課長の親交を深めさせているのはその為じゃなかったのか?」
「おい秋月・・・何のことだ?」
暁年にとっても寝耳に水の事だった。思わず首を振ってしまう。
「そうか・・暁年は知らなかったのか・・・こりゃいいや・・・ちょっとだけ言わせてもらえば、彼は来年、ノーベル物理学賞を取るだろう。「波動エネルギー」理論の検証実験が昨年度成功したからだ。実用化にはまだほど遠いが、その理論を使えば「超高効率ソーラーシステム」の改善はできる」
その時はじめて、中上の脳裏に、ノーベル賞がス〇ーデン王立アカデミーから授与されることに思い至って、その言葉の重さを再認識させられる。
「君たちが今付き合っているベンチャー企業「リリス・ジェネシス・カンパニー」はその欠点を知りながら、膨大な契約金で「トーマス・エレクトロニック社」に独占販売させる予定だ。もちろん我々はこの事実を近日中にプールナーナンダ博士の論文と共に詳細に公表する。株価は大暴落するだろう。この事実を知ってしまった以上君たちは、インサーダーになる。今後は「リリス・ジェネシス・カンパニー」「トーマス・エレクトロニック社」の株は動かさないように。国際的な非難を浴びたくなかったらな・・・」
そう言った顔はすでに笑っていなかった。睨みつけられた中上は、顔面蒼白になりながら秋月に振り返る。
「秋月君・・・なぜこの事実をもっと早く・・・」
「私は何度も、林専務や金本部長に警告しておきました。ほら・・・」
そう言って秋月は自分のメールの送信遍歴を見せる。だが、彼らがそれに応えた形跡はなかった。
「これ以上は、インサイダー情報を疑われるためコンプライアンスに従うほかありませんでした。せっかくニルスンにテレビでリークしてもらったのに・・・」
そう言いながら、ニルスンに再び向き直る。
「ところで、「ブルーアース」から100万円を受け取ったと疑われているんだ。何か知っているかい?」
「おいおい・・・お前の会社はそんな手垢のついた金融操作も見抜けないのか?M商事はいつからそんなぼんくら商事になった?その手の証拠はいくらでも送ってやるが、情報が命の商社がそれで大丈夫か?」
そのあまりにも直接的な言い方に、秘書の同時通訳が止まってしまう。だが、中上はその意味をすぐに理解し、いたたまれなくなって謝罪する。
「申し訳ない・・・それには及ばない。失礼した・・・もう十分だ・・・秋月君の身の潔白は十二分だ。」
「おい・・・勘違いするなよ。俺の聞きたいのは楡の木がどうなるかってことだ。中上社長、M商事はどう判断するのかね?」
「本来ならこの査問委員会の決定をもってお返事しなければいけない所だが・・・」
そう言って一同を見渡す。全員頭を俯け、恥ずかしさに顔を上げる事すらできない。
「私が者を代表して明言しよう。楡の木は絶対に守って見せると・・・」
「おおおおおっ!」
「父さんやったね!」
スマホを通じて数千人規模の大歓声が伝わってくる。同時にこのM商事・本社大会議室はしんと静まり返り、部長連は素早く対応を指示する電話やメールを送り始めている。今やこの対応に一刻も早くしなければならない。てきぱきと働く重役連の間を縫う様に、警備員が姿を現し、林元専務と、金本元部長の身柄を拘束する。警察が現れるまで、彼らは警備詰め所に留め置かれることになる。
「さあ秋月・・・これからが大変だぞ・・・「楡の木の在るショッピングモール」企画のバージョンアップだ。それに、プールナーナンダ博士の扱いも・・・それだけじゃない、「超高効率ソーラーシステム」の我社の関連部門の早期引き上げと、契約解除申請の手続き・・・やることは満載だ!」
そう言った大河原に、暁年は申し訳なさそうに答えた。
「これからもっと大事なことをしなければならないんです」
「何だね?」
「MROって呼んでます。今夜はもう帰って結構ですか?」
「MRO??・・・もちろんだ・・・そうだな・・・君はまだ有給中の身だったな」
「いえ・・謹慎中でしたが・・・」
「それはもうとっくに忘れられている感じだが・・・」
そう言っててきぱきと働き出す商社マンを、大河原も、暁年も、頼もし気に見つめていた。
「まだこの会社は何とかなりそうだな」
「そうですね・・・」
「そうだ・・・その魔法のクッキーを一つ分けてくれないかね?」
「私の家来になります?!」
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<作者後書き>
ほとんどエロなしでここまでお付き合いいただき感謝です。
次回からは一転して「セックスバトルロワイヤル」編に入ります。
いよいよ唯子を掛けて、満司と暁年のセックスバトルが始まります。
そして「黒・唯子」こと「唯魔子」さんの御登場となります。
こうご期待!!
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