愛で始まる関係もあれば、カラダで始まる愛もある。
男と女、ですから。
まあ、気にしても仕方がない。
結局、なるようになるから。
隣同士の部屋にいて、お互い意識はしていて。でも階下には家族がいるし、お互いの立ち位置も微妙なラインにあった。だから、お互い足踏みしていたんだ。相手が一歩踏み出してくれるのを、ただ待っていた。
期限つきの同居だと自覚しあいながら、なにも出来なかった。
それを変えたのは、やっぱりお互いの勇気。ほんの少しだけ、勇気を振り絞って。俺たちは全く同じタイミングで、お互いの部屋を訪ねようとしたのだ。
部屋を出て一歩踏み出したその場所でバッタリ顔を見合わせた俺たちは、お互いが何を考えたかすぐに察し合い、そして。そして、――特別な関係になったんだ。
ベッドの上で四つん這いになり、お尻を向ける先輩。噎せかえるくらいに立ち込める、メスの匂い。生まれて初めて見るオンナノコは、まるで身体の一部とは思えない。でも目を逸らせない、心がざわめいて仕方がなくなる。触れたい、味わいたい、――欲しい。その感覚に突き動かされ、気が付けば舌を這わせていた。
溢れてくる蜜を味わいながら、自分自身を扱き立てて。本能のままに、理性が蕩けていくをただ、感じていく。先輩への気遣いも何もかも、ほどけて消えてしまう。
「んー……、舐められるのって、こんなに良いんだぁ……」
甘く上ずった声は、それさえ心地良い。でも、もっと。もっと……。
衝動に身を任せ、そのまま先輩へと身体を押し付ける。入りたい、ただそれだけを考えながら。
柔らかく緩んだ肉の谷間に、俺が食い込んでいく。舌でさえ上手く入らないほど狭い所にこんなモノを捩じ込んで良いのか、と一瞬だけ思ったけれど。そんなものは、秒で頭から消えてしまった。僅かにあった抵抗感さえ、すぐに分からなくなる。
圧倒的に、気持ちいい。気持ちよすぎる。先輩の全てが、気持ちいい。
程なく先輩のお尻と俺の腰が密着し、その体温が混ざりあう。根本まで全て、先輩の中に埋まっている。もうこれ以上は入れない、入れられない。――完全に、一つになれた。
そう自覚した、次の瞬間。身体の芯が、戦慄いた。
身体を動かす事さえ出来ないほど凄まじい律動が、全身を貫いて――
「ぁ、出ま……すっ!」
許可を得る暇なんか無いまま、俺は。先輩の腰を掴んだまま、射精していた。
精通して以来、こんなに激しい射精は経験したことがない。何もかも規格外の、初めての体験。気絶しそうになりながら、それでもなんとか意識だけは保ってみたけれど。
でも、それも長くは続かなかった。射精が終わると糸が切れたように、目の前が暗くなっていく。
弛緩した身体が離れ、先輩から俺が抜け落ちたのを感じながら、意識が薄れていく。最後に俺が見たのは、先輩のオンナノコから逆流する、紅いものが混ざった白濁液だった。
それから俺たちは、毎晩のように求めあうようになっていた。
母さんたちに気付かれたらどうしよう、と警戒はするけれど。我慢はやっぱり出来ないから。
俺たちは愛し合う、でも。でも……。
「先輩と、キスしたいんだ」
「勝手にしろリア充」
俺の相談を大上段から叩き落とす匡は、メガネのくせに今日も冷たい。なんなんだ、お前のメガネは伊達や酔狂なのか。その辺察しろよなメガネなんだから。
勝手にできたら、苦労はないんだ。
でも、出来ないから悩んでいるんだよ俺は。
あの日以降、俺たちは特別な関係になった。愛し合っている、と思う。なのに。
なのに先輩は。
「……キス、してくれないんだ。俺がしようとすると、なんとなく逃げちゃうし」
何度か試みた事はあるけど、一度も成功していない。強く拒絶されてはいないけど、スカされてしまうというか先回りで逃げられるというか。強引にすればできるかもしれないけど、そんな事それこそ出来ない。だって俺、千夏先輩が好きだから。嫌がることは、したくない。
「先輩、キス嫌なのかな。それとも俺とだから、嫌なのかな……」
考えたくないけど、そうだったらどうしよう。……いや、キスより上の事はいっぱいしてるんだけど。
「まあ、人にも色々あるからな。本人がしたくないなら、仕方ないだろ」
「そりゃそうだけどさー……」
身体だけの付き合いみたいで、寂しいんだよ。
そういう仕事のお姉さん達の中には、キスNGだって人も多いらしい。キスは気持ちが入る行為だから、仕事ではしたくないんだとか。先輩もそういう気持ちなんだとしたら、複雑だな。俺じゃない他の誰かの為、ってことだから。
……考えたくない、でも考えてしまう。そう言えば、雛のバカが余計なことを言って話が拗れかけた時、「好きな人に同居のこと隠したいのはわかるから」って言ってたっけ。あの時はなんとも思わなかったけど、もしかして「
そうなると、俺は。俺は――。
一度胸に刺さった棘は、どんどん深く食い込んでいく。
俺は先輩を愛している、先輩もそうだと思っていた。でも先輩にとって俺は、オトナのオモチャみたいなものでしかないのかもしれない。
身体は繋がっても、心までは許していない。そこまで好きな訳じゃないから、本気にはならない。そんな悪い夢のような、でもあり得なくはない結論。達したくない、でもはね除けられない。
悩んでも悩んでも、答えは出てくれない。
夜が訪れ、家族が寝静まり。いつもの時間が来ても、心のざわめきは治まらないまま。
ベッドの上で、ただなんとなく天上を見上げながら。俺は、そんな堂々巡りを続けている。
――と。
「大喜くん、来たよ」
下着姿の先輩が、微笑みながら入ってきた。今日もしたい、と言うんだろう、濃密に色気が溢れている。誰よりも愛しい人、誰よりも大切な人。
なのに。なのに。
「……すいません、今日はちょっと」
わざと寝返りを打って壁の方を向き、ちょっとだけ拗ねてみる。こういうのは感じ悪いかな。
俺は、先輩が好きだから。先輩が幸せなら、それで良いんだ。そう思うべきなんだ。それが一番なんだ。
先輩が誰を好きだろうと、俺はそれを咎めちゃいけないんだから。
どんなに辛くても。苦しくても。先輩の、為ならば。
「大喜、くん……? ね、どうしたの? どうして――泣いてる、の?」
そう聞かれて初めて、涙が流れているのに気が付いた。止まらない、止められない。こんなことじゃ、いけないのに。
俺は先輩を第一に考えなければならないのに。
なのに。
「ね、大喜くん……。私、なにかしちゃったのかな……」
違います、そうじゃないんです。そう言いたいけど、口からは嗚咽しか出てくれない。
――嫌だ。やっぱり俺は、嫌なんだ。俺以外を好きになってほしくない、俺だけを愛して欲しい。俺とずっと、一緒にいて欲しい。先輩を、独占したい。そんな酷い事を考えてしまう自分が、嫌で嫌で仕方がないけれど。でも、溢れる
「先、輩……っ、俺を、好きでいて、下さい……! 他の人となんか……! いや、で……すっ」
絞り出した言葉はまるで、子供の我儘だ。
でも先輩はそんな俺の頭を撫でて、優しくこう言った。
「私は、大喜くんが好き。大喜くんじゃなきゃ、好きになんかならない。それは絶対だよ、約束する」
その言葉は優しくて、暖かくて。小さな子供のように、俺はただ泣き続ける。幸せな手の温もりを感じながら。
「……だって、恥ずかしいもん。私可愛くないし、お肌も綺麗じゃないし。間近で見られたら、大喜くんに嫌われちゃうかもしれないもん」
泣き止んだ俺がようやく尋ねて知った、キスしない理由。それは余りにも、小さな事だった。いや本人的には大きいかもしれないけど。
先輩はただ、顔を近づけるのが恥ずかしかった。それだけ、だったんだ。他に好きな人なんかいない、俺の邪推でしかなかったわけで。
考えてみたら、最初の時からずっと俺は先輩を後ろから愛していた。だって先輩がそういう姿勢だったし。それはつまり、顔を向かい合わせるのに抵抗があったからだったのか。
そして俺は、一度も直接「キスしたい」とは言わなかった。恋人同士なら無言でも出来るものだと思い込んで、意思を伝えようとしなかったんだ。
つまり、俺も先輩も等しく悪かった。それだけ、だ。
だから、伝えよう。真っ直ぐに。
「千夏先輩は、可愛いし綺麗です。例えそうでなくても、俺は千夏先輩が好きなんです。だから、キスしたいんです」
先輩はちょっとの間、恥ずかしそうに俯いて。そして顔を上げ。
「うん。……じゃあ、しようか」
俺を抱き締めて、唇を合わせあう。熱く柔らかな感触と、僅かに感じる吐息。
先輩のオンナノコにしたように舌先で歯列を押し開き、その奥へと入っていく。
舌が触れ合い絡み合い、唾液が混ざりあう。キスより上の事はしているのに、なんて思い上がりも良いところだ。キスって、こんなにも気持ちいいのか。
腰が砕けそうになりながらも無理矢理身体を奮い立たせながら、それでも離れたくない。
酸欠で目の前が暗くなり出してようやく、お互い唇を離しあう。
先輩の身体は紅潮し、僅かに足が動いただけでクチュリと水音を立てていく。キスに酔っているのはお互い様で、もう身体は止まらない。
俺のベッドに身を横たえた先輩に覆い被さり、再びキスをする。キスしながら、先輩のオンナノコへと俺を向けていく。
キスだけでも蕩けている俺たちがこのまま繋がったなら、どうなってしまうのか。そんなの、考える迄もない。
「っん、ぬぅ、ー……っー!!」
唇が固く結ばれあい、二人の声は出口を失ってお互いの身体を貫いていく。気が狂いそうな快感の暴力に、ただただ翻弄されることしか出来ない。
噛みつきあう獣のように、ベッドの上を転げ回りながら。ただひたすら、互いを貪るだけだ。
先輩の身体の奥深く、突き上げながら何度も何度も射精して。その度に、唇を強く吸いあって。夜が明けるまで俺たちは、全身で交わり続けた。
「痛いよう……」
「俺もです……」
嵐のように過ぎ去った一夜の後、俺たちは揃ってツケを払うことになってしまった。
キスのしすぎなのか、唇が痛い。痛いと言うか、熱い。なんか腫れてるし。お陰で母さんに生暖かい目で見られ、気まずいったら無い。
学校が終わったら部活休んで医者行こうかな、これが続くと大変だ。
「……治るまで、キスはお預けかな」
先輩もそう言ってはいるけれど、でも我慢できるかな。俺は毎日だってしたいけど。
まあ、良いか。後でゆっくり考えよう。
「キスは、ですよね?」
「だね、キスだけお休みしようね」
笑いあって二人、仲良く家を出る。今日も学校だけど、それが終わったら俺たちの時間が来る。
これからもずっと、一緒なんだから。
キスして愛して、ずっと。ずっと。