ただ二人だけの為の島 作:赤鱶
「この技、骨抜っていうんですよ……」
私の息が荒いのは、果たして脇腹に空いた風穴だけのせいでしょうか?
たぶん顔も赤いでしょう。 だって陽務君、いいえサンラクさんとこんなに密着しているんですから。
「やりやがったな……! ぐっ……」
ゴキリ、これで最後です。
身体を響いた振動はサンラクさんの股関節を外したものです。
正直なところそれだけで頭がどうにかなってしまいそうなのですけれど、目の前に無力化されたサンラクさんが横たわっています。 ……やっぱり頭がどうにかなってしまいそうです。
「死ッ」
「全部、憶えてますから」
いつかサンラクさんに四肢の腱を切られた私は、頭突きで状況の打開を狙った事がありました。 真正面から挑んで、戦って、楽郎君の意識の全てが私に向いているその喜びと、返り討ちにされた僅かばかりの悔しさが、今でも脳裏に焼き付いていて、だからこの状況からでも打開策は無くなっていないのも良く分かっているんです。
「お互いナイフは落としてしまいましたものね……お腹は裂けませんよね……」
器用に跳ねて噛み付いてくるサンラクさんには悪いのですけれど、いつもは私が殺されてしまって長く一緒には居られません。
だからこの状態はとっても貴重で、殺されてあげるわけにはいかないんです。
「その身体が、小さくて良かった……」
現実の体型と大きな差があると勘が鈍るので、私のアバターは現実の私と殆ど同じ体型をしています。
そう大きくないこの身体でもすっぽりと包み込んでしまえる小さな女の子の身体で、未だ諦めずに文字通り喰らい付いてくるのがとても嬉しくて、少し愛おしくて。
「こうすれば……頭突きは出来ません、よね?」
「ふっざけんな!」
はしたないし、早鐘を打つこの鼓動も伝わってしまうのでしょうけれど……反撃を封じる為ですから。
その小さな身体を全身で抱き締めて、土埃に塗れたおでこをくっつけ合って、体重を掛けて抑え込んでしまいます。
現実じゃこういう事は出来ません。 私の方が身体が小さいし体重もたぶん軽いでしょう。 そもそも殿方の、陽務君の身体に触るなんて、あまつさえ押し倒すなんて出来るはずもないです。
小さくて、柔らかくて、……少しだけ土と血の匂いがします。
頭がふわふわして、危険だらけの森の中にいる事を忘れてしまいそうになる、そんな時間。
これは陽務君の身体そのものではないのに、面影があの笑顔を思い出させるから、どうしようもなく胸が熱くて、この想いが体の奥から熱に変わって噴き上がってくるような錯覚すら覚えて
サラサラの金の髪も、尽きせぬ意志を宿す目も、歪んだ口角から覗く白い歯も。
さっき思いっ切り殴り付けてしまったから口の端が切れてしまっていますが、その傷も含めて全てが、今だけは私の、私だけのものです。
「サンラクさん、可愛いです」
「くっ……そりゃあ、そういう風に作ったからな……」
そうじゃないですよ。 打てる手を全部封じられた今この状況で、そんなギラギラした目を向けてくる、それが可愛いんです。
きっと悔しさと苦しさで埋め尽くされた感覚の隙間に、どこまでも純粋な楽しさがあるから、だから貴方の目はあの日のものと同じで、だから私は貴方が好きで、
文字通り鼻先の触れ合う距離で、お互いの目しか見えないような距離で、真正面から見詰め合えるこの瞬間がどれだけ嬉しいか。
きっと、まだ貴方は分からないんでしょうね。
「本当に……愛い方ですね」
「ほざけッ!」
密着しているんですもの。 ここは寝技の間合いです。
素人がどうこう出来るはずもありません。
反撃の鏑矢、行動の起点を抑え込んでまた私の勝ちです。
「サンラクさん、お話……しましょう?」
「するか死ねこのアマ! ……どうしてもってんなら今回みたいなラッキーパンチだけじゃなくて実力で俺に勝てるようになってからにしろよ」
「約束ですよ?」
「俺は約束は守る男だ」
今は敵同士で、でも少しだけ信じてみたくなって。
だから、名残惜しいですがこの時間はおしまいです。
「暴れないで……ください……っ!」
「ふ、ぐ……」
やっぱり何か狙って身体を動かしたのを征して、その細い喉に手を掛けて、
想い人と仲良くなるために殺すなんて間違ってる、そう頭の何処かで声がします。
苦しむ表情に、私の中で何かが壊れていくのが、分かって、でも緩めないで、手の中で、いのちが――
結局リスポーンしたサンラクさんに散々殺された。 やっぱり悔しいです。
美少女がゼロ距離でラブアタック(物理)してくるので流石の朴念仁もダメージ()喰らってるの図