ただ二人だけの為の島 作:赤鱶
「あら?
「ちょっと、勝てない敵がいまして」
「なるほど。 勉強熱心ねぇ」
「負けたくないだけっす。 悔しいんで」
レイに手痛い敗北を喫し、妙な口約束を交わして暫し。
やられっ放しは性に合わないのでコテンパンにしてやったのはいいが、懐に入られると体術で為す術もなくやられるのは変わらない訳で。
特に古武術だか護身術だか知らないがナイフを逸らすのが上手い、それが俺の戦い方と相性が悪いのは目に見えている。
その上で体術で抑え込まれるのだから、近付かれた時にどうにか戦う手段が必要になるのだ。
「でも言ってもNPCでしょ? この前みたいにバグ技使って攻略完了、とかしないの?」
「プレイヤーですよ?」
「……えっ」
これは安いけれど、打撃中心の技を覚えるだけのもの。
自前のプレイヤースキルで足りる、使っても逸らされて関節を極められるのが目に見えている。
こっちはいいお値段するけれど、寝技への対処も教えてくれるもの。 新AIで技のレベルが向上している、と…… 買いだな。
「もしかしてサバイバル・ガンマンの話なの?」
「もしかしなくてもサバイバル・ガンマンの話っすけど」
買わなきゃいけないものは決まったのでチャプターだとかライバル化√だとかの俺には分からない事を呟き始めた岩巻さんから目を逸らし、いつものワゴンへ。
「結局売れ残りも買うのね」
「ライフワークっすから!」
◆◆◆
「は、はしたない……!」
何のことはなくて。
初めてサンラクさんをやり込めて空気に酔って色々とやって、今になって恥ずかしがってるだけです。
「でも、可愛かったです……」
まさかああいう容姿が好みだとかそういう事はないのでしょうけれど、効率化の果てに作られたものだとしても、陽務君のアバター、サンラクちゃんはとても可愛らしく仕上がっていました。
「……」
それを、私は……どうしたんでしたっけ
手を握った。
込められた力が、掌を軋ませる。
思い出すのは、己の手の内で命が消えていく感覚で。
他ならないサンラクさんの全てを私が握っていて、奪っていくその感覚が、脳裏の何か大切なものを舐めるように焼き焦がしていくのがありありと分かって……初勝利の味にしては随分と重く粘つく心にこびり着く感情に身悶えしそうになる。
思わず吐いた溜め息に籠もる熱に頬が熱くなるのが分かって、ひどく恥ずかしい。
これではまるで――
手が、何かを求めて彷徨った。
視線を落とし、手を伸ばし……
◆◆◆
ここでワゴンの中から発掘したクソゲーを一つ紹介しよう。
ベルセルク・オンライン・パッション。
山盛りのバグのせいで普通に遊べない、と残念なことになっている格闘ゲームなのだが、どうにも好き者はいるもので。
オンライン対戦はバグを把握したプレイヤー達がコマンドを打つような気軽さでバグを呼び出し、ヒトの形を積極的に捨ててバグで殴り合う、人外魔境のトンチキ格闘ゲーに成り果ててしまっているらしい。
付いたあだ名は通称便秘、まぁ題名が悪かったな。
ゲーム内の格闘もまた参考になるだろう、という思惑はこれが「格ゲーだったから」当てが外れたものの、それでも参考になる技術は転がっていそうだった。
「プレイヤーの本能を突く流派、か」
思い返せば心臓狙い首狙いこそ武道の技術で回避されたが、顔面狙いは上手くいく事も多い。
恐らく同年代の少女、その顔面を積極的に狙っていくのはどうかと思うが、まぁこっちもアバターは幼女だし向こうも容赦なく攻撃を叩き込んでくるのでおあいこだろう。
有用性はそれなりにあると判断して、サバイバル・ガンマンでも使えるように流派の本質を学ぶべく偉大なる先人に教えを請う事にした。
◆◆◆
「もう玲も14歳となりますね。 古くは元服、成人と数えられた歳です。 これまでは身体への負担が大きいとして教えてきませんでしたが、そろそろ歩法を学ぶのにも良い頃合いであると判断します。」
「分かりました。 姉さん」
我が家で受け継がれている古武術は、護身術という体裁を取ってこそいますが、どちらかといえば攻めの技法が多いのも事実です。
それが良いことなのか悪いことなのかは何とも言い難いのですが
、無闇矢鱈と振るうようなものでもないし、誰かを守れる力でもあります。
それに……最近増えた『趣味』に活かせる側面も大きいですね。
暴力が肯定された無法の孤島だからこそ、ただ楽しみのためだけに使うことができる……現実で必要になったときはおそらく躊躇っている場合ではなくなっているでしょうし、そういう意味でも力を振るう練習があってもいいのでしょう。
……言い訳ですよ。 ハリボテの大義名分です。
思っていたよりずっとずっと強かったサンラクちゃんに食らい付くためにも、絶対に欠かせない要素になってしまっただけなんです。
だってあんなに情熱的な目で見てくれるんです。
少しくらい、いいじゃないですか。