そんな諾子(なぎこ)に変化が訪れる。夫・悠年の地方支社への単身赴任と息子・悠人の国内留学が重なり、諾子は女手一つで留守宅を預かることになってしまった・・・。
---------登場人物---------
春日
春日
春日
藤原 綾乃:悠人の幼馴染・同級生
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所所長・探偵
BJ:分析屋・KR薬品N国支社ゲノム解析研究所研究員
山本洋魔子:AJK犯罪代行サービスエージェント
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その大型の化学分析装置は世界に7台、N国にはKR製薬N国支社ゲノム解析研究所(旧・NP食品遺伝子研究所)にしかない代物だった。その装置を擁する研究施設の裏口近くに1台の古びた自動車がひっそりと停車していた。私立探偵・鈴木一之介が駆る愛車ミニクーパーMK_VIIIだった。すでに深夜になり、郊外にあるその建物の周りには常夜灯と非常口を示す緑の掲示装置以外の光は見えない。遠くには幹線自動車道の明かりが瞬き、時折市街道を通る車のヘッドライトが漏れ見える程度であった。
その自動車の助手席に、裏口から姿を現した男が無言で入り込んでくる。3月とは言え、花冷えのする深夜、ダッフルコートを羽織ったその男は監視カメラに映らないようにフードを目深にかぶっていた。一之介が信頼を寄せている便利屋「分析屋BJ」だ。彼はNP食品がKR製薬に乗っ取りを受けた後も運よく会社に残れることができた残留組の一人だった。すでに出世の見込みがなくなった彼は、小遣い稼ぎで小口の分析仕事を秘密裏にこなす「分析屋」と呼ばれる便利屋の一人になっていた。一之介はこの男の本名も、なぜBJと名乗るかも詮索しない事にしていた。それが探偵と便利屋の仁義だった。BJは会社が保有する世界有数の高度な分析装置にこっそりとアクセスし、精度の高い仕事を正確にこなしてくれる。ただそれだけだ。依頼業務以外の話は一切なし、何も余計な詮索をしない・・・それが仁義だ。BJは法外な料金を要求してくる以外、一之介にとって有難い寡黙な便利屋の一人なのだ。
解析結果が書かれたレポートと現金を無言で交換すると、BJは無言で立ち去るのが常だったが、今日はなかなかミニクーパーから出ようとしない。
「これ・・どこで手に入れた?」
その彼が、初めて分析結果以外の事で言葉を発していた。怪訝な顔を浮かべる一之介を見てBJが言い訳がましく説明する。
「これは向精神薬の一種だ。α1受容体遮断作用やD2受容体遮断作用も認められる。一般の覚せい剤や麻薬と違って、芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素が中枢神経系に直接作用し、細胞を変容させてしまう。しかも性中枢を極端に肥大化させ、意識中枢を乗っ取って減少させていく物質ばかりだ。テストステロンやエストロゲンなどの性ホルモンまで含有している。モノアミン神経伝達物質が強度の依存性をもたらし、ウイズドロウ症状が・・・」
「ああっ?何を言っているかさっぱり分からねえな・・・もうちょっと嚙み砕いて言ってくれないか?」
興奮気味に早口にまくしたてる便利屋を一之介は何とか押しとどめる。
「ああっ・・すまない。α1受容体やD2受容体はAADCのドーパミンの生合成経路でも機能する。TPHはセロトニン合成の律速酵素で、TPH1とTPH2の二種類のアイソフォームが・・・・」
「おい・・・冗談だろ?」
きっと彼にとってはそちらの方が化学的に「嚙み砕い」た状態だったのだろう。一瞬、出来の悪い生徒を前にした教師の顔になったBJが、苦笑いを浮かべながら続ける。
「そうだな・・・レイプ犯が使ったら、全部を和姦にできるほど催淫効果の高い物質ってことだ。しかも催眠誘導性があるのでレイプ後は都合のいい暗示を掛けておけば、いくらでも逃げおおせるだろう。強烈な依存性があるから、この薬が大量に手に入れば中毒患者を意のままに操ることも出来る。やろうと思えば被害者を自分のセックス奴隷にすることも可能だろう。どんな貞操な人妻だろうが名だたる聖人だろうが、薬学的にはド淫乱なセックス奴隷に堕とすことが簡単に出来る・・・」
「おいおい・・・それこそ冗談だろ」
その目は冗談を言っているような目ではなかった。
「今日は何でそんなに饒舌なんだ?おしゃべりになる薬でも飲んだのか?」
「この薬・・・見たことがあるんだよ。うちの所長が追っていたからな・・・」
BJにとっての「うちの所長」と言えば・・・
「それって・・・NP食品の山本倭男さんの事か?」
「ああ・・・ノーベル賞級の発明を何度もしていた天才なのに・・・突然失踪したことになっている・・・とっくに殺されてるんじゃないかってもっぱらの噂だ・・・クソッ・・・特許から名誉まですべてKR製薬に奪われて・・・死人に口なしだ・・・・」
「山本所長は何を追っていたんだ?」
「その薬の対抗物質さ」
「対抗物質?」
「言っただろ。その薬は「中枢神経系に直接作用し、細胞を変容させてしまう」って。脳細胞や神経細胞を変容させて、淫乱で、操作しやすい人間に根本的に作り変えてしまうんだ。通常の麻薬や覚せい剤なら、監禁して禁断症状がなくなるまで薬を断ち、長い時間かけて精神作用が正常化するのを待てば良い。しかし、この薬の場合は、脳細胞や神経細胞を何らかの方法で正常な状態に修復しなければ永久に元には戻れない。一度薬に手を出したが最後、極度の淫乱症を抱えたまま、何でも言う事を聞く人間が出来上がってしまうんだ。山本所長はダメージを負った脳細胞の修復が可能な根本治療薬を秘密裏に開発していたんだ・・・」
「それは実現できたのか?」
「分からない・・・山本所長が失踪している今・・・すべては闇の中だ」
「対抗物質が存在せず、こんな薬が大量に出回ったら、N国はアヘン戦争時の清国のようになってしまうぞ」
「安心しろ・・・この薬が大量生産できるとは思えない。不純物質もかなり混じっている。工業的な化学合成ではないはずだ。多分、生物的なプロセス・・・かなり特殊なバクテリアやそれを内包した生物を使った手工業的な製造工程だろう。薬品会社でないとすると・・・いったい誰が、どうやって、何の目的で、こんな危ないものを出回らせているんだ?」
BJらしくない・・・こんなBJを今まで一之介は見たことがなかった。まるで取りつかれたように尋ねるBJに、一之介は押され気味になりながら問い返す。
「山本所長を探すつもりか?」
「・・・・・あの人には、返せない程の恩がある・・・あの人がいたときの研究所は大変だったが生き生きとしていた。何より「夢」があった。しかし今となっては・・・」
「聞いちまったら最後・・・後戻りできなくなるぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
BJの表情が曇り始める。迷っている顔・・・。一之介はそれに答える前に、試すようにBJを問い質す。
「呪術を使った合成って信じられるか?」
唖然とした表情がBJに浮かび、すがる様に一之介を見返す。
「まさか・・・お前が追ってる例の宗教団体・・・その絡みか?」
今度は一之介が強くBJを見返す番だった。BJの顔が悲し気に背けられる。
「・・・・・・・・・申し訳ない。俺が信じられるのは化学だけだ・・・オカルト絡みは御免だ・・・」
そう言って、ミニクーパーを後にしようとドアに手をかける。一之介がすかさず最後の大事な質問を浴びせていた。
「最後に一つだけ教えてくれ・・・こいつが大量生産できないなら・・・少量しか手に入れらないなら・・・悪党どもは、どの程度希釈してこいつを使うんだ?どのくらい薄めても効果が出てしまうんだ?その時の副作用は?」
「分析に出されたものが原液としての仮定だが、10ppm・・・いやアルコールに混ぜて摂取させれば1ppmもあれば十分だ。つまり酒一升瓶に0.002gほど混入させ、コップ1杯ほど飲ませれば、数時間は強烈な催淫効果が現れる。濃度が濃ければ摂取量はもっと少なくて済だろう。ただし、酒に混入した場合は酩酊したような意識混迷が伴うはずだ。どちらにせよ、今言った量で、薬が完全に抜ける2~3日間は催淫効果と催眠誘導状態が緩やかに維持される。大量に飲ませれば肉體の疼きや暗示にかかりやすい状態がかなり長く続くだろう。だがこの程度の濃度なら副作用はまずない。ただし、人によっては薬が抜けた後も、後遺症が残るかもしれない。たった1ppmの摂取で脳神経系が変質し、淫乱な体質に変わってしまう場合もあるからだ。人体実験をしてみなければ細かい数字は分らんが、確率的には百分の1以下だろう。ただし、淫乱症を発症した場合は、マインドコントロールを受けやすい性向にも変わっている可能性が高い。対抗物質が無ければ絶望的だ・・・」
BJはそう言いながら、一之介を振り返りもせずに、逃げる様にその場から立ち去っていった。一之介の手元には、絶望的な内容が記された分厚い資料が残されているだけだった。
「N国が危ない・・・」
この悪魔の媚薬がAJK団を通じて一般市民レベルに波及し始めているのは事実だった。
「捜査権が有ったら・・・」
一之介は無力感を痛切に感じながら、ただ手をこまねいているしかなかった。
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その日は4月にしては気持ちのいい良く晴れた日の午後だった。何時もの様にだらしない恰好で近所のパチスロ店で時間をつぶしていた加木充司(じゅうじ)は、契約時に渡された盗聴防止装置付きの携帯電話が久々に鳴り響くのを、慣れない手つきで取り出していた。人目を憚る様に店外に出ると、秘話通話ボタンを押す。
「あん?加木だが?・・・・」
「ご本人様確認のため、お客様が契約された8桁の暗証番号キーを押してください」
あらかじめ録音された自動音声のアナウンスが聞こえ始める。
「ちっ・・・面倒だな・・・5569****・・・・」
「加木充司様ご本人であることが確認されました。それでは当社のエージェントにお繋ぎします」
しばらくのコール音の後、その邪悪な職業とは裏腹の麗しい女性の声が聞こえ始める。
「お待たせしました。AJK犯罪代行サービスの山本洋魔子です。ご依頼だったターゲットの状況が変化しましたのでお知らせいたします」
「こうやってわざわざ電話してくるってことは、それなりに「犯り易く」なったって事だろうな?」
「ええ・・・それはもう絶好のチャンスですわ。ターゲットは今後一年近く、一人住まいになります。・・・専業主婦の人妻が・・・閑静な住宅街の庭付き一戸建ての広いお宅に・・・一年近くも・・・一人住まいになるのですよ。もし、ご自宅で何かあってもどなたもお気づきにならない状況かと・・・。しかも専業主婦の方ですから、お宅からしばらく出てこれない状況が続いても、誰も怪しむものなどおりませんわ・・・。生真面目な亭主や、世事に疎い息子に気が付かれずに、十二分なご調教が可能かと」
「ほう・・・」
「それにご契約になったターゲット・・・さすがお目が高いですわ。美人で、スタイルがよく、清楚で、旦那様思いの、貞操感のしっかりした奥様と、ご近所でもご評判の方でした。その奥様が、健気にも、旦那様や息子様が出張や国内留学でお家を空けるこれからの約一年間、お一人でお家を守っていらっしゃるのですから・・・。もう私心配で・・・。もし悪い殿方が強引に押し込んで無理やり何かされても・・・周りの方々が気づく様な事はありませんわ。その上、清楚で貞操がしっかりしていると評判の方なので、大騒ぎをしたり、警察沙汰にするようなことも出来ないかと・・・クッフフッッ本当に心配・・・。悪い殿方が悪事を働くにはまさにうってつけの好機と思わないかと・・・うふふっふ」
「けっ・・・悪い殿方・・・ってのだけ余計だ」
「いえ、私は一般論を申したまでですわ・・・うふふっ」
「それより、急に亭主や息子が帰ってくるようなことはないだろうな」
「ご安心くださいませ。今までの調査結果からゴールデンウィークが明けた後は、夏休み期間になるまで、家人が返ってくることはまずないと踏んでおります。ご家族を構成する方々のプロフィールを含めた動向調査結果と、注意点、ウィークポイントなどを後程レポートにしてお送りいたします。ご心配でしたら、追加料金はかかりますが、旦那様や息子様の常時監視オプションを設定できますが?急なご帰宅時にアラートを発する事が可能です。例のお薬との同時購入ならさらにお得ですわ。当社としましても万全な凶悪犯罪ライフをお楽しみいただくために、2点のオプションを是非お薦めしておりますの」
「いや・・・常時監視オプションは必要ない。動向調査結果の報告だけで十分だ。さすが高い金を払っただけはあるな」
「おほめ頂きありがとうございます。それでは、常時監視オプションは無しと・・・お薬の方は如何致しますか?こちらの調査では奥様はともかく、旦那様の方は少し手強い方の様ですが?・・・」
「おう・・・そんな事まで調べているのか・・・確かに悠年の野郎には12年前に酷い目にあっている。そんなものは使わねぇで、竿一本でジワジワと堕してやるのが調教師の腕ってもんだが・・・今回はそんな事は構っていられねえ。復讐のチャンスを10年以上待っていたんだ。どんな手段を使っても悠年のやつに一泡吹かせてやらねぇと気がすまねえ。念には念を入れて、確実に手堅く堕としてしまいたい。そうだな・・・1回分で良い。それだけあれば十分だ」
「まあ・・・流石ですわね。すぐにご指定の場所にお送りいたします。劇薬ですので、くれぐれもご使用はお気をつけくださいませ。貞淑な奥様とお聞きしております。耐性のない方にご使用しますと、中にはたった一度のご使用で、手の付けられない淫乱症になって元に戻らない方もいらっしゃいますので・・・」
「けへへっ・・・それはそれで面白いんだが・・・今回はじっくりと、時間をかけて、心の底から俺様の所有物(もの)にしたいんだ・・・飲ませる量には気をつけよう」
「まあ・・「愛」を感じる素晴らしいご計画ですわ・・・それでは詳しい説明書をつけてお送りします。他にご用命は?」
「今のところない」
「今のところ?」
「言ったろ・・・これは悠年への復讐なんだって。あいつの家族全員の破滅が俺様の目的なんだよ。あの女は手始めに過ぎない」
「まあ・・素晴らしいご計画ですわ。それでこそ伝説の調教師・加木充司様ですわ」
「あの女の調教が終わったら、あんたにも協力してもらう。じっくりと一家を追い詰めるためにな・・・。そのために高い金払ってあんたを指名したんだからな」
「有難うございます。・・・心得て居りますわ・・・その時が私、とても楽しみですのよ」
「ははっ・・・さすが稀代の女王・・・洋魔子女王様だな」
「有難うございます。それでは今回のご契約はこれで完了と言う事で、残金のお支払いとお手持ちの暗号携帯電話器のご返却を・・・」
「この携帯電話なんだが、そんな訳で今後もお願いしたいことが出てきそうだ。しばらく持っていたいんだが?」
「もちろん構いません。暗号化回線の基本使用料が発生しますが、当社の万全なアフターサービスを期待されて、そう仰る方が多いのです。気軽に簡単に凶悪犯罪が行えると大人気でございますわ・・・・それではそのように契約を変更いたします。ええ、有難うございます。それではこれで失礼いたします。・・・・この世に悪徳と邪淫が栄えますように・・・ハイルサタン」
「おぉっ・・ハイルサタン」
そう言って携帯が切れた。充司は邪悪なほくそ笑みを浮かべたまま、しばらくはその真っ黒で武骨な携帯電話を握り続けていた。これから行う淫靡で悪辣な計画に、充司の股間は早くも膨み、人並外れた巨大なものがピクンピクンと卑猥に波打っていた。
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花曇りが続く空模様で陰鬱な気分に浸っていた金井由美は、突然かかってきた一本の電話に不快感は頂点に達していた。既に夜の10時を回っている。ここ**市児童養護施設『樅の木』の消灯時間はとっくに過ぎており、非常勤の夜間職員数名しかいない。こんな時間に電話をよこすなんて・・・・
「はい児童養護施設『樅の木』です。この時間はお電話による受け付けを・・・まあ♡・・・加木様♡・・・」
はじめこそ事務的で投げやりな応対をしていた由美だったが、充司の声を電話越しに聞いた途端、媚びを売る様な猫なで声を上げ始める。
「今夜・・・清充君をお迎えに上がる?・・・ええっ構いません、私の方でちゃんと手続き書類を整えておきますわ。はい・・・正規職員は既に帰っておりますので、操作はいくらでも・・・。すぐに清充君をお渡しできまるようにしておきます。ええ・・・お言いつけ通り、犯罪歴や義務教育履行違反の記録は全て抹消しています。はい・・・警視庁や厚生労働省の記録までは消せませんでしたが、ここ**市の記録は完全に・・・。ですので、保護対象者から充司様が外れた情報はしばらくこの施設では分かりません。ええ、正規職員がいないときに来て頂ければ、これからもいつでもお引き取り頂けます。ええ、今夜なら22時の夜間帯でしたら・・・まあ♡・・・私も一緒に♡・・・」
充司の声を聴くだけで、その巨大な一物が股間を押し広げる感覚が思い出され、由美は思わず股間をきつく閉じ合わせていた。充司に施されたクリトリス・ピアッシングが先ほどから疼きっぱなしの股間をキリキリと刺激し、今にも嬌声を上げてしまいそうだった。
「ぇえ・・・此処でですか?・・・はい・・・お申しつけのままに」
由美は辺りを伺い、誰にも見咎められていないのを確認すると、スカートの中に手を差し込み、先ほどから擦り合わせていた股間に三本の指を差し込んでいた。
「ああっ♡・・・今夜は何なりとお申しつけ下さいませ。半年ぶりですわ・・・今夜はたっぷりとご調教くださいませ・・・あああっ♡・・・有難うございます・・・有難うございます・・・充司様♡」
受話器を握りながら、由美は辛抱できなくなってショーツのクロッチの脇からクリトリス・ピアッシングを軽く摘まみ上げていた。充司に露出性癖を植え付けられた肉體が、誰かに見られるかもしれないというスリルからかえって興奮し、その指の動きを止められない。
「オマンコ・・・イク♡・・・オマンコ気持ちいい♡・・・由美のオマンコは充司様のものです。・・充司様に全てを捧げます・・・オマンコ・・・イク♡・・・由美・・イク♡・・・イク♡・・イク♡♡」
今夜の調教を想像しただけで由美は軽い絶頂を迎え、身体をのけぞらせながら受話器を置いていた。あの気持ち悪い子・・・清充を早く起こさないと・・・。
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その日は五月晴れの気持ちのいい天気だった。春日悠人は自宅の最寄り駅に降り立ったすぐ直後から、癒されるよな、温かな優しい故郷の空気を感じていた。実家から離れてまだ2カ月だというのに、ゴールデンウィークを利用して戻る故郷は、やはりとても懐かしく、心安らぐ場所だった。自分を心待ちにしてくれている母親に早く会いたい・・・そう思うと、思わず足早になってしまう。そして、すぐ目の前に飄々とした感じのサラリーマンがゆったりと歩いている姿に気が付く。
「父さん!・・・偶然だね・・・父さんも今、赴任先から帰ったところ?」
「おう・・悠人か・・・少し大きくなったか?・・・どうだSSHは・・・」
未来の研究者や高度技術者を養成するために政府が鳴り物入りで設立したSSHは全寮制の特別高校(SSH:Super Science Highschool)で、寄宿生活を送りながら様々な実験・実習とともに24時間体制で科学技術教育を集中的に学習する特別な高校であった。1年間限りの国内留学だったが、悠人は県内でも数名しか選ばれないそのSSHへの国内留学生に選ばれたのだ。全国各地から選ばれた優秀な高校生達は、みな個性的で、知的な魅力に富んだ天才揃いだった。
「うん・・・みんな凄いやつばかりだ。母さんには寂しい思いばかりさせているけど、とてもいい経験になっているよ。毎日が楽しくて、新鮮なんだ!」
「悠人は確か宇宙飛行士になりたいんだっけ?」
「うん・・・月や火星にいつかは行ってみたいな」
「良い夢を持ってるね。羨ましい・・・ぜひ実現できるといいな!」
悠年は希望に燃える悠人をまぶしそうに見つめながら微笑んでいた。
「父さんの方はどう?」
「ああ、慣れない職場にもやっと慣れてきた。こっちと違って海が近いから、魚料理がうまくてな・・・」
すこしやつれた感じを滲ませながら、それでも悠人を心配させないように悠年は明るく答える。
「父さんはいつ頃戻ってこれるの?」
「う~ん・・・1年という約束なんだがね・・・」
その中に一抹の不安を感じた悠人は思わず本音を漏らしていた。
「母さん一人じゃかわいそうだよ・・・SSHに選ばれた時、父さんまで家を離れるなんて思ってもみなかったよ。父さんはいつも母さんに寄り添っていてくれると・・・」
「大丈夫・・・きっともっと早く帰ってこれるさ」
そう言って頭をぼりぼりと掻き始める。商社マンである悠年は「部下から信頼され、上司から疎まれる」不思議な存在のサラリーマンだった。いつも地方に飛ばされそうになりながら、その人柄なのか、悪運が強いのか、その度に本社にしぶとく復帰することが許されていた。同期に一回り以上離されながらも、何とか本社勤務を続けている。
しばらく二人で世間話をしながら歩いていると、なつかしい我が家のすぐ目の前まで来ていた。閑静な住宅街にある庭付き一戸建ての2階屋・・・母、春日諾子が女手一つで健気に守り通している家族の城が、すぐ目の前にあった。
「ただいま・・・っ」
悠人が呼び鈴を押した途端に、計ったように玄関のドアが開き、満面の笑顔を浮かべた諾子が温かく二人を迎え入れてくれた。
「はい・・おかえりなさい!」
きっと、二人が到着するのを心待ちにして、玄関先で待っていてくれたに違いない。目に入れても痛くないほど愛おしい息子と、その後ろで優しい笑みを浮かべている愛する夫を、諾子は慈愛に満ちた目で迎え入れてくれていた。
「あれ?誰か来ているの?」
勘のいい悠人が怪訝な顔を浮かべる。玄関に見慣れない女性ものの靴が並べられている。
「悠パパ!・・・お帰りなさい」
そう言って諾子の後ろからエプロン姿の藤原綾乃が姿を現し、悠年に丁寧な挨拶をする。
「なんだ・・・綾乃か・・・」
「あら?悠人も帰ってきたんだ・・・ふーん・・・」
そんな綾乃の様子を見て、諾子は思わず微笑んでしまう。
(綾乃ちゃん・・・さっきまで悠人の事しか話していなかったのに・・・)
悠人に無関心を装いながらも綾乃の頬はうっすらと赤く色づき、つっけんどんな言葉とは裏腹に、その目は嬉しさに溢れ、もう悠人の事ばかりを見つめていた。
「何だよ・・・顔になんかついているか?」
急に見つめられて、悠人は訳も分からず、頬を不思議そうに撫でている。
(悠人はいつ、綾乃ちゃんの気持ちに気が付くのかしら?・・・本当に朴念仁ね)
そんな若い二人を微笑ましく眺めながら、諾子は悠年から旅行バックを受け取ると、綾乃と二人で作りかけていた夕食の準備を再開すべく、キッチンに戻っていった。
「やっぱり自分の家は良いな~」
悠人は久しぶりに戻った我が家の「匂い」を胸の奥に吸い込んでいた。
「確かに我が家には独特の香りがあるね」
そう言って悠年も、そこはかとなく漂ってくる夕餉の香りと、春日家に香る独特の清々とした空気を感じていた。それはとりもなおさず諾子の人柄が醸す、淑やかで爽やかな空気の匂いだった。
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「悠人は本当に羨ましいわ。あんな素敵なお母様が居るんだから・・・」
まるで自分の部屋にでも入る様に、当たり前のように悠人の部屋についてきた綾乃は、制服の上にエプロンを付けたままの姿で、悠人にそう言っていた。
「あのさ・・・ここは僕の部屋なんだから」
「あら?ここは私の部屋でもあるわよ!悠人だってそう言ったじゃない?それに今日の夕食は私も作ってあげたんだからね!」
「どうせほとんど母さんが作ったんだろ?」
「なっ・・ジャガイモの皮をむいたのも、小麦粉をふるいに掛けたのも、みんな私よ!」
「ああっ・・・「誰でもできる」下ごしらえ系ね・・」
「そんな事はないわ・・・玉ねぎのみじん切りは涙が出て出来なかったもん・・・って何言わせるのよ!」
春日悠人と藤原綾乃は、物心ついた時からのまさに腐れ縁だった。春日家から歩いて5分と離れていないご近所に藤原家が有った。二人は幼稚園・小学校・中学・高校と同じ学校に通っている。同い年の一人っ子同士、兄妹のように家族ぐるみのお付き合いをしてきていた。互いの両親も仲が良く、4人の親に見守られて本当の兄妹のようだとよく言われた。旅行やキャンプ、買い物や着るものまで、制服を着るようになる中学まで一緒だった。
それが小学3年生の時、綾乃の母親が癌で急に亡くなった。悠人はずっと傍にいて、泣きじゃくる綾乃を慰めながら、こう言っていた。
「これから辛くなったら・・・僕の部屋にいつでも来て。この部屋は綾乃の部屋でもあるんだから。いつでも一緒だよ」
それは悠人の心からの声だった。それ以来、二人は本当の兄妹の様になって行った。そして綾乃にとって諾子が綾乃の母親代わりの「諾ママ」に、悠年がもう一人の父親「悠パパ」になった。
毎日当たり前のように会っていた。だが・・・悠人がいなくなって・・・遠く離れた地方都市にあるSSHに悠人が選ばれ、急に離れ離れになってしまった。悠人にとっては念願の宇宙飛行士になるための第一歩。悠人は県内でも数名しか選ばれないそのSSHへの国内留学生に選ばれたのだ。その知らせを聞いた時、綾乃は自分の事のように嬉んでいた。
だが、悠人が居なくなって初めて、綾乃は自分が悠人に好意を寄せていることに気がついていた。それは兄や弟に感じる事のない特別な感情・・・「恋」であることに今更ながらに気が付いていた。
(でもこの感情は、悠人には知られたくない・・・)
もし告白してしまったら・・・全てが失われてしまうかもしれない。もし告白して、悠人が自分の事を何とも思っていなかったら・・・。もし告白して、悠人が自分を単なる「妹」としか見ていなかったら・・・今のこの温かな春日家の団欒すら失ってしまう。
(ゴールデンウィークが終わり、悠人がまたSSHに戻ったら、しばらくはここに来ないようにしよう・・・)
綾乃は心にそう誓っていた。悠人が居ないこの家に来たら・・・この部屋に入ったら・・・多分泣いてしまうだけだ・・・。
【これから辛くなったら・・・・・・・いつでも一緒だよ】
(嘘つき・・・)
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「悠人、綾乃ちゃん・・・御飯が出来たわよ~」
階下から諾子の朗らかな呼び声が聞こえる。
「はーい!今、行きまーす」
負けじと明るい声を上げながら、綾乃は精一杯の返事を返していた。
「綾乃はいつも元気だな~」
底抜けに明るい綾乃をあきれ顔で眺めながら、悠人は綾乃と二人で階段を下りていた。
(人の気も知らないで・・・・)
つんけんと階段を下りていく綾乃を見ながら、悠人はそのコロコロと変わっていく表情に魅了されていた。
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久しぶりの一家団欒だった。綾乃と二人で腕によりをかけて作ってくれた料理がテーブルの上に所狭しと並べられている。隠し味に大蒜を入れた唐揚げ、何日も前から煮込んでいる絶品のスープカレー、エスニックなバーニャカウダーの香り・・・どれも手の込んだものばかり・・・そして僕の好物ばかりだった。
話題は最初こそSSHの変わった天才達の話や父の出向先での失敗話が続いたが、やがて母さんや綾乃の苦労話に移っていった。2か月ぶりに夫や息子の顔を見て安心したのだろう、母さんは父さんに甘えるように、少し食って掛かるもの言いだった。今日は綾乃がそれに加わり、賑やかさはより一層際立っていた。
「・・・そりゃあ寂しいわよぉっ・・・ねえ綾乃ちゃん?」
「えっ?ええっ・・・とっても寂しかったです」
いきなり振られた綾乃はたじろぎもせず、じっと僕を見ながら咎める様に付け足す。
「でしょ?・・・まさか2人そろって出て行っちゃうなんて思ってなかったし・・・」
「悪かったよ」
父さんは母さんに謝りながらも、ニコニコと少しも悪びれる様子がない。
「でも・・・悠人はSSHに選ばれた訳だし・・・」
綾乃はそれでも僕に味方してくれるようだ。
「そうね・・・悠人は仕方ないわ・・でも父さんはまた部下の方を庇って、自分が飛ばされちゃうんだから・・・」
しかし、父さんが身代わりにならなければその部下の方は退職しなければならなかった。父さんだから1年の出向で済んだのだ。それは母も承知している。やっぱり今日の母さんは甘えているのだ。
「でも綾乃は時々遊びに来ているんだろ?」
「ううん・・・最近ピアノのレッスンがきつくて・・・ほとんど毎日ピアノの前に釘付けなの・・・音大ってそんなに甘くないのよ」
そう言って少し暗い顔になる。
「そんなに厳しいのか・・・」
綾乃の表情を読み取れなかった僕は、その真意を正確に推し量れないでいた。
(悠人を思い出さないように来ないだけなのよね・・・)
すでに綾乃から恋心を打ち明けられている母だけが、朴念仁の我が子をもどかしく感じている。でもその時の僕は、そんな綾乃の乙女心を理解するほど大人にはなっていなかった。むしろ、青年期特有の万能感・・・自分の夢や希望をかなえる事で心の中はいっぱいだった。綾乃は音大で、僕は理系の大学か総合大学・・・きっとそうなると思っていた。
(大学生になった時、僕たちはどうなってしまうのだろう?)
そう・・・あと2年で僕たちは違う道を歩むことになる。そして、ふと疑問に思った。父さんと母さんはどうやって折り合いをつけているのだろう。一人でウチを守る母さんは何を考えているのだろう?
「母さんも父さんの所に行けばよかったじゃない」
僕は軽くそう言っていた。
「もうっ・・・簡単に言って。そうしたら誰がウチを守るの?綾乃ちゃんの母親としての務めは誰が果たすの?」
そう言った母さんの顔には、もう全く甘えが無かった。
「大人にはね・・・人の為にしなければならない事がいっぱいあるの。自分の欲望やその場の感情に流されてはいけない事が沢山ね・・・。そのためには自分を律して行動しなければならないの。昔お父さんに教わった事だわ・・・」
父さんが頷きながらニコニコと母さんの顔を見ていた。僕は急に母さんが頼もしく見えていた。この時、僕は「強い愛」をまだ知らないでいた。この後、僕が嫌と言うほど思い知る「強い愛」をこの時僕はよく分かっていなかった。
「とにかく・・・二人とも来年には帰ってくるんでしょ?」
「それまでしっかり守るから。おウチも綾乃ちゃんも・・・だから立派にやり終えて帰ってらっしゃい」
手を腰に当てながら母さんはそう言うと、ニッコリとほほ笑んだ。その微笑みを僕は今でも忘れられない。もう二度と見る事の無くなってしまったこの素敵な笑顔を・・・。爽やかで、清々しくて、とても頼もしくて、慈愛に満ちたこの笑顔を、僕はもう二度と見ることは無くなる。卑劣な悪魔たちの手によって母さんは・・・・。
この時もう既に、悪魔たちの計画が着々と進行していることなど、ここに居る誰一人として知る由もなかった。僕たちのこの平和な家庭は、儚く、脆く、砂上の楼閣に過ぎない事を、僕たちはこれから思い知る・・・・。
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