恋とは甘くて苦いもの、なんて誰かが言っていた。だが俺らの恋というのは苦味なんてない、甘すぎる恋だった。
「ふぁぁ〜〜」
大きいあくびをしながら自転車を漕いでいる彼の名前はてらもち。といっても学校の奴らから呼ばれているあだ名のようなものだ。
その日は青い空に白い雲、日差しが激しいが、風もあって過ごしやすい日だった。
「よ!てらもち!」
「うぉ!ってなんだ幾四音かよ、びっくりさせるなよな」
「へへ!悪りぃって!というかお前もふらふらと運転するなよな!あぶねぇだろ」
「お前がいきなり乗ってきたからだろうが!」
いきなり俺の自転車の後ろに乗ってきた彼の名前は幾四音。俺とは小学校から一緒だったいわば幼馴染みたいなものだ。頭の方はさほど俺と変わらないが運動神経がいい。野球部に入っていたらしく、走・攻・守全てを完璧にこなすほどの実力を持っていた。俺も試合見にいった時のあいつの姿はスゲェと思ったさ。
「というかてらもち〜先週のテストどうだったよ?」
「ほとんど惨敗だったわ、お前は?」
「俺も惨敗だったわ〜特に古文とかわけわかんなくね?」
「俺はそれよりも物理が特にダメだったなぁ。量子力学とかなんのこっちゃ!」
いつも通りの何気ない会話、何気ない日常、2人はその何気ない風景を楽しんでいた。
「そういやさてらもち〜」
「ん〜?」
「お前S○Xとかしたことあんの?」
「ブフォ!!」
いきなり幾四音からそんなことを言われ俺は吹いてしまった。
「うわっとと!なんだよいきなり!」
「それはこっちのセリフだ!いきなりなんてことを言い出すんだ!」
「え〜だってなんかお前童貞みてぇな顔してんだよなぁ〜」
「どんな顔だよ!というかそれはお前もだろうが!」
「んまぁそうなんだけどさぁ〜」
落ち着け……俺らは高校生だ。男子高校生の会話なんだからこんなの当たり前なんだ、平常心平常心………
「なら丁度いいな!お前の初めて、もらってもいいか?」
「………………………………は?」
平常心を装っていたがいきなり何を言い出すんだこいつは!初めてをもらう?女子ならまだわかるが、いやわかんないが!男に言われた、しかも幼馴染の幾四音から!馬鹿なんじゃないのか!?あいつは女よりも男の方が好きなのか!?どうりで最近俺を見る目がおかしいと思ってたんだ!飯の時も妙に俺によく関わってきてたし、今もそうだが俺に対しての距離感(物理的に)も近かったし、あいつは俺が好きなホモだったのか!?
「お……おい幾四音。馬鹿げてるこというかもしんねぇけど……」
「おん」
「お前って、俺のことが好きなのか?」
「おん、好きだよ?」
「……いつからだ?」
「初めて会った時から」
「………小学校からか?」
「おん」
「……なんでここでいきなり言ったんだ?」
「テストも終わって明日から夏休みだからなぁ〜丁度いいしお前に告っとこって思った!」
なんだその夏休み前に告ってる女子みたいなことは!
……いや実際そんな状況だなおい!
「お……お前女には興味ないのか?例えばほら!クラスのマドンナの黒鉄さんとか!」
「あ〜あの子ねぇ〜」
黒鉄さんはクラス一、いや学校一可愛いといっても過言ではないほどの美貌を兼ね備えている同級生だ。誰にでも優しく接しており、アニメや漫画などのキャラのイラストを描くのがめちゃくちゃ上手い。
「あの子なんかよりも、お前といた方がなーんか楽しくできんだよなぁ」
「黒鉄さんをあの子なんか呼ばわりかよ………」
言われてみれば、こいつと女子がつるんでるところなんてあんまり見たことねぇな。
「ま……まぁ黒鉄さんは高嶺の花だから仕方ないとして……ほかにも可愛い子はたくさんいるだろ!?例えばのあとか!幼馴染だろ?」
「あ〜のあねぇ〜」
のあは俺と幾四音と同じく小学校からに一緒だった幼馴染だ。女子であるにもかかわらずいっつも俺らみたいな男子とつるんで話し合っており、好きなものも男子が好みそうなものばっかりだ。何かと仲もいいし幼馴染属性というのも高い。
「でもそれってお前にも言えることじゃね?」
……………確かにそうだな。
「ま……まぁもうすぐ学校に着くしさ!この話はとりあえず終わりにしね?」
「それもそうだなぁ〜学校の奴らには内緒にしときたいし、ここで終わりにするかぁ」
ふぅ、このまま難を逃れ………
「いっとくけど、俺は本気だからな?あの手この手使ってぜってぇお前のこと振り向かせてやるよ」
…………られそうにもないな。
自転車を置き、幾四音と別れ俺は自分の教室へと足を運んだ。ちなみに俺は2年A組。幾四音は2年C組だ。正直言うとまだ授業どころか朝の挨拶も始まっていないのにぐったりしている。この後どうなることやら………
「お、てらもちじゃん。おっはー」
「おうのあか、おはよ〜。って相変わらずだらしねぇ格好してんな」
色々なばしょをだぼだほにして、お菓子を食いながら挨拶をしたこいつがさっき話に出ていたノアだ。元々ボーイッシュな見た目をしていることもあって、実は女子の中でもこいつのことが好きって奴もいるらしい。
「というかお前、朝から菓子食ってんのか、体重とか大丈夫なのか?」
「女子に体重のことを聞くなんて、ナンセンスな男だぜてらもち〜」
「お前はあんま女扱いあんまされたことねぇだろ」
「てっらもっちく〜〜ん」
「あっぶね」
なんか赤い何かが飛んできたが、俺はさらっとさけた。そしたらそいつは思いっきり壁に激突した。
「あだ!んもぉ!なんでさけんのさてらもちくん!」
「さけんにきまってんだろ。というかお前も学べ。毎朝毎朝こうなるのわかってんだろ」
いきなり俺に向かって突っ込んできた赤いこいつはダイスこと夢神美咲。俺が高校生になりたての時にのあ以外で初めて話した者である。こいつは性格自体は悪いやつではないんだが、なぜか俺に対して必要以上に絡んでくる奴だ。まぁ毎回こいつのことは元気がいい犬か猫だと思っている。ちなみにこの高校は髪の色染め禁止なのだが、こいつはなぜか生まれつきに赤髪だったらしいから学校からは許可は出ている。
「ふぁぁぁ〜朝から元気だなぁお前らは」
「あ!プロパチくんおはよ〜珍しいねこんな時間に来るなんて」
「昨日色々やってたら寝るの遅れたんだよ。おかげでこんな時間に来ちまったしよぉ」
「別に遅刻じゃねぇからいいだろ」
「俺は早めに学校に来て学校で二度寝すんのがルーティーンみたいなもんなんだよ。まさか家で二度寝するなんて……」
「あいっ変わらず訳わかんない価値観してんねプロパチは」
あくびをしながら歩いてきたこいつはプロパチ。学校内や放課後などで幾四音と一緒に遊んだりしている高校からの友達だ。こいつは俺らには全くわからない価値観を持っているからか、一年間一緒にいたのにこいつの行動だけはどうにも読めない。
「おーい、もうすぐでチャイムなるから席着いとけー」
そう考え込んでいたら先生が来た。俺は席に向かい、カバンを置いて黒板の方に目線を向けた。
キーンコーンカーンコーン
「おーしじゃあまずは号令から」
「起立ー」
「気をつけー」
「礼ー」
「「「「「おはようございます」」」」」
「はいおはようさん、では出席をとるぞ〜」
なんの面白みもなく淡々と出席をとっているのは担任の紅蓮先生。スタイリッシュで身長も高いし生徒の信頼も高い歴史の先生だ。ピンク色の髪にピンク色のベストを羽織った結構奇抜な格好をしているが、本人はあんまり気に留めていないらしい。色々なものをピンクで揃えているから、生徒の間では「怖い顔してるけど、意外とピンク好きなのでは?」という噂も流れている。
「よし、休みはいないな〜?ほんじゃ一つ連絡がある。みんな知ってると思うが、明日は終業式がある。それが終わればお前らの大好きな夏休みが始まる。絶対にハメを外すんじゃないぞ!詳しい話はまた明日話すから今日はここまででいいか。では号令!」
「起立ー」
「気をつけー」
「礼ー」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
さてと、1時間目は確か数IIだったな、準備しとくか。
「いや〜明日から夏休みだね!みんな夏休みは何すんの〜?」
「俺はとりあえず課題終わらせるかな。それからゲーム三昧」
俺とプロパチは帰宅部だから夏休みは暇な時間が多い。ちなみにのあとダイスも帰宅部なのでこの子達も暇な時間が多い。
「えぇ〜それじゃ去年と一緒じゃ〜ん今年は色々と遊びましょうよ〜」
「そうそう、ダイスの言うとおりだせ?今のうちに楽しんでおこうぜ?課題なんて後からでもいけるだろ!」
「いいねぇ〜いいねぇ〜俺もさんせー」
そう言えば、去年はこいつらとあんまり仲良くなかったからあまり遊んでなかったな。今じゃこいつらと仲良いし、楽しく遊べるだろ
「わぁ〜ったわぁ〜った、だけど課題は定期的にやっとけよ?後々痛い目に会うしな」
「わかってます!」
「そんなんわかってるって」
「へ〜い」
「あ!幾四音も誘おうぜ!あいついると絶対楽しいって!」
ドキッ!
「ん?どうしたてらもち」
「あ……あぁ、なんでもねぇ……」
な……なんで今幾四音の名前が出ただけでドキってきたんだ?今までこんなことなかったのに。そ…そうだ、いつも通りにすればいいんだ、いつも通りに………
「いっとくけど、俺は本気だからな?あの手この手使ってぜってぇお前のこと振り向かせてやるよ」
だめだ!どうやってもあいつの名前が出るたんびに朝言われた言葉を思い出してしまう!
「お〜いてらもちく〜ん?大丈夫?顔真っ赤だよ?」
「おいおい熱中症か?お前らしくねぇな」
「飲みかけだけどほれ、いるか?」
「あーー平気平気。なんでもねぇって、あとのあは飲みかけのもんを人に渡すな」
幾四音は友達、それはのあだってダイスだってプロパチだって知っていることだ。なのにどうしてもあの言葉が頭から離れない。まるで恋心を持った少女が彼のことしか考えられないような………
あれ?まさしくこれに当てはまってないか?いやいやいや!まさかな!俺が幾四音のことを思ってる訳………じゃないよな?
「……………………」
正直言うと今日の授業はあまり頭に入ってこなかった。ぼーーっとしている時間が長く、そのことで先生にも注意をされてしまった。ほとんど板書もできておらず、ダイスやプロパチのノートを見せてもらってしまった。自分自身は黒板に向いているはずなのに、意識は完全に上の空だった。昼休みの時もいつもなら幾四音と一緒なのだが、今日は購買でパンを買い屋上で食べた。こんなにもあいつの言葉で気持ちが不安定になるのは初めての経験だった。
その日の放課後
「んじゃ!みんなそろそろ帰ろ!」
「あぁ悪りぃ、このあと先生に呼び出しくらってさ、先帰ってくれよ」
「えぇ〜しょうがないなぁ、それじゃのあちゃんにプロパチくん!先に帰ろ〜」
「俺も先公から呼び出しくらってるから2人で先帰ってくれよ」
「えぇ〜のあちゃんも〜?ま……まさかプロパチくんも!?」
「俺はなんもねぇよ、でも珍しいな、お前ら2人が呼び出し喰らうなんて」
「色々あんだよこっちにも」
「ま、しゃーねぇよな。よしダイス!帰りゲーセン寄ろうぜ!」
「おぉ!いいねぇ〜あの時の格闘ゲームは負けちゃったけど、次は負けないぞぉ〜!」
「望む所だ!」
そう言って、ダイスとプロパチは一足先に帰っていった。
「お前も呼び出しくらってたのか、何やらかしたんだ?」
「やらかした前提で話進めんな、あと呼び出しくらってるってのは嘘」
「え?」
そう言ってのあは荷物をまとめていた俺の目の前に立った。
「単刀直入に聞くぞ?お前…………幾四音のこと好きだろ」
「は……はぁ!?べ……別に好きじゃねぇし!第一俺とあいつは男だろ!?なんで男同士が好きになるんだよ!」
「……ははww!その慌て具合。やっぱり図星かww!そうかと思ったよwww」
「な……なんで……」
「なんでわかったかって?そりゃ、朝からのお前の様子見りゃ一目瞭然だろ?ま、あいつらは全然気づいてなさそうだけどな!」
「お……俺は断じて……」
「そんな隠すなって!もうわかりきってんだからさ!俺に隠したって仕方ないだろ〜?」
「…………」
ここまで言われてしまうと一周回って清々しい。おんなじ場所で、おんなじ時間を過ごしてきたこいつには、何もかもがお見通しってわけか。
「………この気持ちの高鳴り、あいつの名前が出る度に何度も鼓動する心臓、これは……恋……ってやつなのか?」
「………紛れもなくそれが恋って感情さ。恋の形なんて人それぞれなんだし、俺は全然文句は言わないぜ?」
俺よりも恋愛経験が豊富だったのあの言葉には、とても説得力があった。
俺はこのまま思いを伝えられなかったらどうなってしまうのだろうか?
小中高一緒ではあったが、大学はそうとはいかない。それぞれの道をいき、それぞれの人生を歩む。それは覚悟していることなのだが、本当にそれでいいのか?このまま気持ちを伝えられずに人生を歩んで良いのだろうか。かけがいのない存在、寄り添っていたい存在、心が落ち着く存在。それが幾四音だった。
「俺は……幾四音が好きた!今すぐにでも思いを伝えたいくらいに!」
「よく言った!」
「あだ!」
そう言ったのあは思いっきり俺の背中を叩いた。
「それでこそてらもちだ!実は俺……いや、私もお前らのことがお似合いだと思ったからな。私にできることならなんだって言ってくれ!力になってみせる!」
「のあ………」
思えば、いつも俺たちのことを見守り、俺たちのことを助けてくれたのはお前だったな。のあ。ってヤッベ!俺先生に呼び出しくらってんだった!
「悪りぃのあ!先生に呼び出しくらってんの忘れてた!また明日な!」
「おう、じゃあな!」
そう言って俺は慌ててカバンを持ち、急いで教室を抜け出した。
「…………全く、変わんねぇな。あいつは」
そう言ってのあは、1人教室でニコっと笑っていた。
急いで職員室に向かっている途中、窓から声が聞こえてきた。野球部の奴らがランニングの声かけをしていた。そこには、キリッとした顔つきをし、真面目に野球に取り組んでいた幾四音の姿があった。
「……俺は、あいつのああいう所に惚れたんだな」
夏休みに一度だけ見に行ったあいつの練習試合。照りつける太陽の下で、思いっきり汗を流し、勝ちを掴み取ったあいつの姿や笑顔は、太陽よりも眩しく、カッコよかった。
「待ってろよ幾四音!お前の望み通りに思いをぶつけてやるぜ!」