彼女は初めて出会った時からというものの、どこか郷愁を抱いているニンゲンだった。
他のニンゲン達とは全く違う外見をした、妙な板を持つ彼女はヒカリと言う名だった。
そのヒカリに興味を持つワタシ達。その中でワタシと共に行く事を決めた彼女は、とても余裕の無い表情をしていた。
共に野に駆け出したワタシとヒカリ。ビッパとムックルを背後から気付かれずに捕まえるも、コリンクに見つかってしまう。苦手な電撃を放つコリンク。足が竦んで動けないワタシ。
あわや攻撃を放たれようとした時。ヒカリがワタシを抱えて逃げたのだ。ワタシはヒカリに助けられた。
その後なんとかしてコリンクを捕らえた時、ワタシは結局、ヒカリの何の役にも立てなかった事にとても惨めになっていた。
後にニンゲンの言葉が分かるようになった頃。その余裕のない表情の理由が、あの三匹を捕らえられずにその日を終えていた場合、当てもなく野に追い出されるという事になっていたという事を知ってからは、それはワタシを酷く追い込んだ。
ワタシは強くなろうと決意する以上に、強くならなければいけなかった。
ワタシとヒカリはその日以降も野に駆り出された。ワタシもヒカリも子供だと言うのに、しかし何の事も果たせないニンゲンは要らないと言うばかりの空気だけはワタシも感じ取っていた。
もし見つかってしまったならば、逃げる事など適わないだろう巨大なギャロップが居た。
水の中をワタシなどより何倍も速く駆け、そして強烈な水砲を放ってくるフローゼルが居た。
苦手な雷や草を操ってくるポケモンにも意を決して立ち向かわなければいけなかった。
だから、だから、ワタシはどんな手を使ってでも強くならなければいけなかった。どんな手を使っても、勝たなければいけなかった。
ワタシはワタシを守ってくれたヒカリと共に歩みたい。ヒカリを守れるようになりたい。
それなのに、それなのに。
ある時、周りをしきりに気にしながら、開けた場所で、ワタシだけを連れてきたヒカリ。
皆には内緒にしておいてね、と前置きをして。
「私ね、未来から来たの。多分、百年以上先の未来から。
だからね、今の異変が解決したら、多分帰る事になると思うんだ。
そして……その時きっと、貴方達は連れていけない。
……ごめんね。本当に、ごめん」
ふざけているのか?
どうしたら良いのかワタシは考え始める。
この体に進化してからというものの、より深くまで思考出来るようになった気がしていた。どうしてか、特に不意打ちだったり騙したりだと、そういう策略を考えるのが得意になった。
「貴方だけには、先に言っておかないといけないと思っていたの。
ずっといつも、一緒にいてくれたから」
だから、すぐに色んな策が思い浮かぶ。
今のワタシの力なら、ヒカリをどこかに連れ去ってしまう事も可能だ。だが、常にヒカリと居たワタシは、ヒカリと居た世界しか知らない。人の手が届かない場所にまで連れ去る事は出来ない。
ヒカリが、ワタシの頬に両手を添えて、額を合わせた。
「本当に、ごめんね」
「グゥ……」
ワタシは悲しげに呻いた。
しかしワタシは、ヒカリを未来に帰る事など許さない。絶対にだ。
「少しだけ、一緒に居ようか」
「グゥ」
*
ヒカリは、あの時空の裂け目を一日に何度も振り返る。また、妙な形をした、神々しいとしか形容出来ないような板も何度も手にとっていじくり回している。毎日、少なくとも十回以上はそうしているし、時空の裂け目という場所で、十年以上という歳月を過ごしてきたらしい。
ヒカリの郷愁はそれほどに強いものだ。まず、それを理解しなければいけない。
それに対し、ワタシはヒカリと出会って精々二ヶ月と言ったところだ。
そう考えていると。
「ムラクモっ、お願いっ!」
「グルアァッ!」
新しく来た洞窟。ヒカリとどこか同じ臭いがする……多分同じく未来からやって来たであろうノボリというニンゲンと共に進んでいる洞窟の中で、ワタシはボールの中から飛び出す。
目の前には紫色の巨大な、四肢を翼に変えたポケモン。多分ゴルバットの進化系だろう。しかも大きさからしてオヤブンだ。
アシガタナを抜き出し、放たれる風の刃を切り裂きながら距離を詰めた。
ヒカリは、ワタシが殺す事を好んでいない。相手は何だって殺しに来る事も珍しくないというのに、だ。
殺して良いのならば別にそのまま四肢を切り落として終わらせるのだが、その代わりにワタシはアシガタナの腹で叩きつけようとする、が、ひらりと躱された。
反撃にと毒の力を込めた翼で鋭く切り裂こうとしてくるのを、ぎりぎり受け止める。
ぐ、ぐぐ……。全身の力で耐えながら。
「みずのはどうっ!」
その判断は目の前のオヤブンが同じく超音波でも放とうとしたのより一瞬速く、水の衝撃で吹き飛ぶ。
至近距離で放ったそれに、流石に地面へと倒れ伏すオヤブン。だが、流石にそれでくたばる訳もなく起き上がって再び飛んだところを。
ゴヅゥッ!!
と背後に周り込んだヒカリがメガトンボールを投げつけた。
「ギャッ!?」
オヤブンはボールから出てくる事は無かった。
「いやはや、手慣れたものですね。私も加勢しようかと思いましたが、そんな必要は全くありませんでした」
「いえいえ……ムラクモが凄いだけです。二ヶ月足らずでこうしてオヤブンと対等以上に戦えるようになってくれたので」
「そうですか。
それではひと悶着ありましたが、それでは出発再開と致しましょう!」
私もボールの中へと戻る。
もっと成熟した大人というものは、どこかしら地に足が付いている部分がある。記憶を喪っているというノボリでさえも、その独特な口調は、他のニンゲンには全く見られないものだ。そういう点は大人であれば誰であれ、見た目から性格、仕草など様々な部分に自ずと出ていた。
ヒカリにはまだ、それがない。十数年という歳月では、ニンゲンという生き物はまだ、自分というものを落ち着かせられないらしい。
それは即ち。
ヒカリに強い郷愁があったとしても、それはまだ幾らでも塗り替えられるという証左でもある。
ワタシはそう考える。
キングであるオオニューラと交流をした後、ドーミラー達を治療した後に作ったベースキャンプで一晩を過ごす事になった。
イモモチとは違う、保存食をメインとした、余り色気の無い食事をする。
ヒカリはワタシの他にも捕らえたポケモンの幾つかを携えており、ヒカリは彼等彼女等に、別け隔てなく接する。
毛づくろいをしたり、好物の木の実やらを分け与えたり。
しかし、それぞれがニンゲンの言葉をもう理解しているとは言え、ニンゲンのように明確な意思疎通が出来る訳でもない。
ヒカリは未来から来た。ヒカリは今の異変を解決したら、その未来に皆を置いて帰るかもしれない。
それをワタシは皆に伝えられない。ワタシはワタシだけが悩んでいる。
……?
それは何を意味するのだろう。どうしてヒカリはワタシだけにそれを伝えたのだろう。
ワタシがこうやって悩む事くらい分かるはずだし、帰ると決めているならワタシに出来る事はない……いや、そもそも、そもそもだ。帰れるとして、帰ると決めているのだろうか?
ヒカリも悩んでいる?
……ヒカリは地に足が付いていない。
伝えられているワタシだけがそれを変えられる?
ワタシは立ち上がろうとして、やめた。ベースキャンプの中、皆が居る中では駄目だ。ワタシだけに伝えられたならば、ワタシとヒカリだけが居る時でないといけない。
それならば、今の任務を終えた時が良いだろう。
だから、策はそれまでに考えるべきだ。どうすれば、ヒカリをここに留められるか。郷愁を上書く事が出来るのか。
……それまでに、ワタシはそんな策を思い付ける事が出来るだろうか?
進化して思慮をより深く巡らせる事が出来る様になったとは言え、ワタシはそれに自信を湧かせる事が出来なかった。
*
翌日。
オオニューラの助けを借りて、山の頂上まで登りきる。
信条があるのは分かる。それはそれとして見てるだけでも腹が立つツバキとやらのポケモン達を一閃して薙ぎ倒した。
だが本来の目的である、キングを鎮めるという事に対し、ワタシは表に立つ事は無さそうだった。
何せ、相手はマルマイン。ワタシには苦手な雷と草を得意とするキングである。多少歯痒くもあるが、その役割はゴウカザルのセイテンに譲る事にした。
ボールの中に居ても、外の事は音でしか伝わってこない。どうしてか落ち着く暗闇の中で、ヒカリがキングに立ち向かっているその揺れを感じ取る事しか出来ない。
雷と爆発の衝撃が響いてくる。余程の覚悟と度胸がなければそれだけで身が竦んでしまいそうな激しさ。それに対してヒカリは逃げながら隙を突いてシズメダマを投げまくっているのが分かる。
「ぜっはっ、ぜっはっ!」
呼吸は激しく、けれどその動きには微塵の怯えも感じられない。ワタシ達を連れて駆けるその足はいつもと変わらない。
そう。
初めてのキングとの戦いで、大木を両断するカマを持つバサギリ相手でも。
華麗に踊りながら、その足で蹴られたら臓腑諸共貫いてきそうなドレディア相手でも。
一歩間違えたらマグマの中に落ちてしまいそうな灼熱の中で、その巨体を生かして突進してくるウインディ相手でも。
ヒカリは怖気るどころか、楽しんでいた。大の大人でも動けなくなるような脅威の目の前であれど。
一際巨大な爆発音の後、ワタシの隣のボールが握られた。
「セイテンッ! 火炎放射ッ!」
「カァァッ!!」
飛び出すと同時にゴオォッ!! と炎が浴びせかけられる音がした。
バチチッ、ヂヂヂヂッ!!
反撃の雷撃。
「ギャアッ!!」
「セイテンッ、……まだ行けるよね!? マッハパンチから回り込んでもう一度火炎放射!」
「ググッ、キアッ!」
「よしっ! ありがとう、戻って!」
ボールがワタシの隣に戻される。
「次までに仕留める……!」
ワタシは……キング相手にも微塵も怯まず、前を向き続けるそんなヒカリに、憧れていたのだ。
きっと、コリンクから助けられたあの時から、ずっとずっと。
だから、だから、ワタシはヒカリを失いたくない。
ベースキャンプに戻った後は、流石に疲れてしまったらしく、ヒカリは眠り始めてしまった。
ラベンはそれを見て、帰るのを翌日にする事にした。
「聞いているだけでも足が竦んでしまいますよ。そんな相手に、よくもまあ」
セキからの報告を聞きながら、ラベンはしきりに関心していた。
素直な称賛。それを聞いていると、ワタシ達も鼻が高くなる。
「しかしながら……彼女が落ちてきた事はやはり、この現象と何か関係があるのでしょうか。
シンオウさまの意志は、この異変を解決していけば分かるのでしょうか……」
「さあな。ただな、このヒカリって二十にもならねえ子供に、俺達はとんでもなく助けられている。それは紛れもない事実だろうよ」
その神々しさを感じさせる白い板が、服から僅かにはみ出していた。
「パパ、ママ……」
ヒカリが、呻くように寝言を呟いた。
……ワタシは、どうしたら。
*
*
長い旅路の末に、夕方頃にコトブキムラへと帰って来た。
見慣れた景色に辿り着けばこれまでの疲労がどっと来る感覚に襲われる。
それでもヒカリは、まずはデンボクへ報告にと、ワタシ達をまたボールへと戻すとギンガ団宿舎へと向かった。
……多分、ヒカリが初日に三匹を捕まえる事が出来なかったとしても、野に出される事はなかっただろう。
ただ、デンボクというニンゲンは、空から降ってきたという特異な余所者が認められる為には、自らが役立つ事を示さなければいけない事を分かっていた。
そうでなければ、酷く惨めな思いをするだけだと知っていた。
だからこそ、脅す程の強い言葉を使って、ヒカリを死にものぐるいにさせたのだ。
そうして、今ではギンガ団の中でも随一の活躍を見せるヒカリからの報告を聞いて、デンボクは一時の思考の後に労いの言葉を掛ける。
「うむう、くたびれたであろう。イモヅル亭にて英気を養え。
ムベには伝えてある。最高のイモモチをふるまえと」
そのイモモチはワタシ達には振舞われないが、後でこっそりと分け与えてくれるのが楽しみだった。
実際、格別な味だったイモモチをワタシも堪能した後、ニンゲン達はゆっくりとし始める。
ワタシ達も各々好きな場所で休憩し始める。ゴウカザルのセイテンはやはり高い所が好きなようで、寝る時も木の上だったりギンガ団宿舎の上だったりに居る事が多い。
ワタシは、少し悩んだ後にギンガ団宿舎の同郷のヒノアラシとモクローも居る、ラベン博士の元へと戻った。
「ピノ?」
「ポゥ?」
進化したと言えど、ワタシが悩んでいる事にはすぐに気付かれた。
とは言え、言葉という便利な意思疎通の手段も持たなければ、彼等は未だ人の言葉を精緻に介する訳でもない。
「グゥゥ……」
唸りながら、硝子張りの水槽へとワタシは入った。生温い、ぼうっとしていたら疲れもあってすぐにでも眠ってしまいそうな水の中。
縁から顎を出して、再びワタシは呻いた。
ワタシは結局、ヒカリと共に居られるような策を何も見つけられなかった。
いや……そもそもワタシは、そうする事を望んでいなかった。
*
ワタシはヒカリの事が好きだ。
常に目の前を向いて、どんな時も怖気ず、脅威へと向かっていくヒカリの事が好きだ。
そう、ワタシはそんなヒカリの事が好きなのだ。ワタシはそんなヒカリと共に歩みたいと思ったのだ。
けれど、どうしてヒカリはそこまで頑張れるのだろうと思った時、やはりそれは、郷愁が強いからだと言うことに気付いてしまった。
ワタシがヒカリと共に歩みたいとどんな手段を取ったところで、それがヒカリの帰郷を妨げる事になるのならば、ワタシはワタシの愛するヒカリを否定する事になるのだ。
だから。
ワタシは扉を叩いた。ヒカリに分け与えられた宿舎の扉。
「……はーい、どなた?」
「グゥ」
「あ、ムラクモ? 今開けるね」
どたばたとしながら扉を開けたそのヒカリの顔には、隠しきれていない涙の跡があった。
ワタシとヒカリは部屋の中で向かい合う。ヒカリの隣には、その神々しさを感じさせる板が置いてあった。
ヒカリがおずおずと聞いてきた。
「……怒ってる?」
いや、と首を振った。
「……私を、どうしたい?」
ワタシはまた、首を振った。
何もしない。
悲しいけれど、寂しいけれど。引き止めたいけれど。ずっと一緒に居たいけれど。
でも、それでもワタシはワタシが好きなヒカリを否定してまで、一緒に居たいとは思わなかった。
だから、ワタシは立ち上がって、ヒカリの隣に座り直した。
それだけ。
でも、でも……もし叶うならば。ワタシというダイケンキ、ムラクモを骨の髄までヒカリに染み込ませて、忘れさせたくない、というのもあった。
「……ごめんね」
昼間とは全く違う弱さを見せるヒカリは、ワタシに体を預けてきた。
進化したワタシに比べたら、とても華奢な体だった。しかし、その体には驚く程の度胸と力がある。それを誰よりもワタシは知っている。
とく、とく……。どく、どく……。
互いの鼓動がそれぞれを伝わって感じられる。
ひゅるるる、と風の音ばかりが聞こえてくる。
ただそれだけの時間が、暫く続いた。
それだけで、けれど。ワタシは段々と心苦しくなってきていた。
これまでこうして、ワタシとヒカリだけの濃密な時間を過ごした事なんてなかったのに気付いてからは特に。
鼓動は僅かながらも時が経るに連れて速くなっている。
ワタシの雄は気を抜いてしまえばすぐにでも顔を出してしまいそうだった。この畳の上に、逃れようのない痕跡を残してしまいそうだった。
……嫌われたくない。
その一心で必死に自分を落ち着けながらも、ヒカリは眠くなってきたようで、ワタシに更に体重を預けて、両腕を回してきた。
「……ァ……」
ワタシは顔を畳に埋めた。
この止められない激しい鼓動をヒカリは、ヒカリは。
「……ねえ、ムラクモ」
「グ、グゥ!?」
「私ね、もちろん、元の世界に帰りたいって思ってる」
「……」
「でもね、ここの世界も少しずつ気に入り始めているのも事実なんだ」
「……」
「元の世界には、イモモチより美味しいものなんて幾らでも溢れてるし、遠くの場所に行くのにもひとっ飛びで、体を疲れさせる事すら必要ないし。
遊ぶ物も方法も沢山あるし、それに、食べるものも寝る場所も、着るものにも何にも困る事もない。
でもね、ここまで誰かから求められた事なんて、今まで一度もなかったんだ。
私、元の世界でも結構優秀だったけれど、あっちの世界、私くらいの才能を持った人なんて山程居るし、何なら私より小さいのに優れた人だって沢山居るの。
でも、私以上に優れていても、今の私より輝ける事なんて早々ないんだ」
「…………」
「だからね。だからね。帰れるとなっても、私はきっと迷うと思うんだ。
だから、私はね、ムラクモ。私が未来から来たって事を、貴方にだけ話したんだ」
「……グゥ?」
ぎゅ、とヒカリが私を強く抱いた。
「……ムラクモ。良いよ」
な、何を?
ヒカリは立ち上がると、灯りを消した。
一気に殆ど暗闇になった中で。
「ワタシもね、貴方の事が好きなの。だから……出来るなら……私を貴方で染め上げてみてよ」
どくん、と胸が跳ねた。
*
ほんの僅かの、外からの月明かり。ただそれだけの、輪郭だけが見えるばかりの室内。
ワタシの目の前ではらり、はらりと服が脱がれていく。
半ば呆然としているワタシに、ヒカリは言った。
「流石に寒いね」
そう言いながら、ヒカリはワタシを誘うように寝床へと歩いた。
自ずと、ワタシも立ち上がってそれに続く。
ごくり。
気付けば唾を飲んでいた。胸はこれまで以上に高鳴り、雄は既に顔を出していた。
ヒカリはワタシの方を向き直って膝を着く。
それにワタシは顔を近づけて、口を開けた。
「ん……」
くちゅ、くちゅ。
温かく、ねっとりとした唾液。薄く短い舌。
ワタシはその後頭部に前脚を添えながら、ゆっくりと押し倒した。
体と体がありのままで触れ合う。口と口が、胸と胸が。ワタシの方が体が大きい。股間はヒカリの股よりやや下の方にあった。
ヒカリの長髪をかき分けて、首に前脚をあてがう。口を大きく開けて、より深くまで舌をねじ込ませる。
「ん、ん……」
ヒカリの鼻息がワタシの髭を撫でる。こそばゆい、が、それがワタシの熱を更に持ち上げた。
一度口を放す。
細い糸のような混じり合った涎が、ワタシからヒカリへと垂れていった。
はーっ、はーっ。互いに呼吸を整える。闇夜に慣れてきた目がヒカリの肢体を艷やかに映し出していた。
ワタシは腕をヒカリの口へとあてがう。
「んン!?」
ワタシの口の矛先は、胸へと向かっていた。大きく口をあけ、甘く噛み付く。
「ンンッ!」
ぴちゃ、ぴちゃ。小柄な体に相応な大きさの乳房。舐め回しても何も出てこない。けれど、その突起を舐め回すのはどうしてだろう、とても唆られるものがあった。
嬌声を隠すように、口を抑えつけている腕に噛みつかれる。甘噛みなんてものじゃない。けれど、嫌がってはいない。
強い痛み、けれど、だからこそ嗜虐を唆られる痛み。牙を放して、一度大きく下から舐め上げた。
びくんっ! とヒカリが強く震えたと同時に、ぷつ、とワタシの腕から血がつー、と流れた感覚。でも、ワタシの血がヒカリの中へと流れ込むと思うと、それも悪くはなかった。
胸の狭間に顔を埋めて再び舐める。ヒカリの匂いが、熱が、鼓動が直に感じられる。僅かにしょっぱい汗の味が舌から伝わってきた。
そして、それ以上に、ヒカリの股間から段々と別の甘い匂いが感じられ始めていた。
ワタシの雄ももう既に出来上がっていて。ワタシは行為をやめて、腕を放した。
再び見えたヒカリの赤い顔。激しい運動をした後のように呼吸を必死に整えている中。何か言おうとしたのを、ワタシは遮ってまた口を交わした。
全て、ヒカリの全てをワタシの色に染め上げたかった。帰りたくない、離れたくないと思わせたかった。ヒカリの腕はワタシを強く抱いて放さなかった。ヒカリもそれを望んでいた。
鼻から吸い込んだ息が、ワタシの胸を介してヒカリの中へと送り込まれる。ヒカリの吸い込んだ息がワタシの中へと戻ってくる。
そしてワタシはとうとう、ワタシの雄をヒカリへと当てた。
より一層、ヒカリが強くワタシを抱き締める。
すー、はーっ。すーっ、はーっ……。
言葉も何も交わしていないのに、互いの呼吸を合わせる、ただそれだけで、ヒカリの心の準備がいつ整ったのかが分かった。
ワタシは一気にねじ込んだ。
ぶつ、と音がする。
「〜〜〜〜!!!!」
ヒカリが震える。しかし、ワタシはもう、止まれなかった。
後ろ脚を踏みしめる。腰を振る。熱いヒカリの中、気を抜けば、すぐにでも出てしまいそうだった。思い切り叩きつけたかった。でも、華奢なこの体にはそれは耐えられそうにない。注意深く、でも出来るだけ強く、腰を振る。
ワタシの背中に、必死に我慢をするように爪を立てられた。互いの牙が皮を裂こうと言うほどに強く噛み立てられる。
フーッ、フーッ! スーッ、フーッ!!
それでもヒカリは拒絶しなかった。ワタシはそれを感じていた。
ずんっ、ずんっ! ずんっ、ずんっ!!
気持ち良かった。とても気持ち良かった。こんな時間がいつまでも続いて欲しいと願う程だった。
でも、でも。幾ら我慢しようとも限界はすぐに近付いてくる。終わりたくない。けれども。
ずんっ…………。
どぷ、と出たワタシの精。止まっても、ひたすらに長い時間飛び出していって。それはヒカリの愛液と混じりながら外へと漏れ出していく。
荒みきった呼吸が口を交わしたままに、繋がったままに、徐々に、徐々に落ち着いていく。
ふーっ、ふーっ……。ふーっ……はーっ。
口を放す。雄も抜いて、ヒカリを抑えつけていた体重を放した。目と目が合う。
……やり過ぎてしまったかもしれない。
ヒカリの下半身はがくがくと震えて、開いたままの口からは涎がたらたらと流れ続けている。
そう思っていたけれど、ヒカリが口を動かした。
「一緒に、寝よう?」
疲れ果てた、小さな声。
「……グゥ」
頷いて、ワタシはヒカリを抱き直す。
ゆったりと、程良く温かく。ワタシとヒカリはそうして目を閉じた。
*
一足先に眠りに就いたヒカリ。
寝息は今までの何よりも柔らかで、苦しい寝言を言うこともない。
……ワタシは、ヒカリを染め上げる事が出来たのだろうか? ヒカリは、それでも帰れるとしたら、まだ迷うのだろうか?
でも、どうなろうとも。
その時が来るまで、ワタシは寄り添おう。ただひたすらに、ひたすらに。
ほんの僅か、眠りを妨げない程度に、抱く前脚に力を込めて。
ワタシは、そう決めた。
まだクリアしてないんで主人公が現世に帰る事になるのかどうか知らないんですよね〜
それはそれとしてヒスイダイケンキ格好良い。濡れる。
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