程なくして夜が訪れる。
好き好んでゾロアークの根城のみがある道へと来るような島民も居らず、ひとまず自分が直接的に殺したところを見た者は誰も居ない、で済みそうであった。
ゾロアークの死体を幾つか引きずって海の方へと行けば、最初に岩と共に海に落としたゾロアークの、その血の匂いを嗅ぎつけたのか、数多のサメハダー達が群がっているのが見えた。
今回は、細切れにする必要までは無さそうで、必要な労力が大幅に減った事にもほっとして、順々に死体を投げ込んでいく。
中にはまだ辛うじて息のあったゾロアークも居たが、別に仕留める事もなく、投げ捨てて。
突然の豊漁に、サメハダー達は更に集まってきて、ゾロアーク達は等しく食い散らかされていく。
散らばった脚刀の破片や、血を帯びた土も掬っては海に投げ捨てて。
そして最後に長の砕けた髪留めを投げ捨てると、ムラクモは少しだけ疲れたように座り、空を見上げた。
多分、前の世界と変わらない月がそこにある。
「……平和だな」
自然と、そんな言葉が口から出ていた。
自分が排除して平和にしたから、ではなく。単純に、殺しなんて事が基本起きないこの世界が。
誰もが生きる事そのものに必死にならず、殺し合いなどまず発生しないこの世界。
それに寂寥感を覚えるのにはいつまで経っても変わらないが。
「…………それで良いのだろう」
ムラクモは、そう独り言ちた。
過去の記憶はない。ただ、体に染み付いている記憶ばかりが、この世界で相容れずにこのような行動を起こさせている。煙を出す玉の作り方も、爆音を出す玉の作り方も含めて。
でも、記憶そのものに関しては別に取り戻そうと思えていない理由もきっと、そこにある。
そうまでしなければ生きられなかった、その元の世界は、自分にとっても辛かったのだろう、と。
「…………」
立ち上がる。
痕跡を残していないか、もう一度確認し。
完全とまではいかないが……ひとまず、精緻に調べようと思う者が居なければ、今回もまた、ばれる事もないだろう。
そう結論付けて、帰路に着く。
道中、小川で念入りに血を洗い流してから、家にまで着くと、弓矢を仕舞う。
そこから後はいつも通りに日課をこなして、いつも通りに寝た。
*
翌日。
今日も恫喝に来るのではないかと戦々恐々としている商店街に、しかし意外にもゾロアーク達は来なかった。
その翌日にも、更にその翌日にも。まるで唐突にどこかに消え去ってしまったように。
程なくして、各所から噂が流れてきた。長とその側近達が纏めてどこかに消えてしまったらしいだとか、ケッキング達に復讐をしに行った残党達が返り討ちにされただとか、ゾロアークの髪留めの部分のようなものが海の底を漂っていただとか、魚の腹の中から赤黒い毛が大量に出てきただとか。
明確な事は何も分からないままであるが、和を乱す邪魔者が消えた事に対しては、別に誰も深くまで追求しないまま、その内話題としても上がらなくなっていく。
ムラクモはそんな日々も特に何も変わらず過ごしていた。海の藻屑にしたとはいえ、ばれる可能性は否定出来ず、ばれてしまったならば正直に言おうとも思っていたが、今のところはその必要は無さそうである。
今日もカミナリのしっぽ亭にて、黙々と飯を食べていると。目の前にむらまさが座ってきた。
ダイケンキの中でも巨体を持ち、それに相応以上の豪快な剣技を振るう剛の者である。
「……なあ、ムラクモ。やっぱりおめえとは戦えねえのか?」
そのむらまさが、どこか伺うように聞いてきた。
「前も言っただろう。戦い方が違い過ぎると。
正々堂々、何でもあり。どちらでも、勝負にならない」
「そりゃ、そうだけどさ。…………いや、聞かなかった事にしてくれ」
「……そうか」
そう言って、むらまさは飯を注文しに一度席を離れる。
その間に、飯を食べ終えたムラクモは席を立ち。
「ご馳走様」
そう言って、盆と共に食器を返した。
「どういたしましてー」
返事を聞きながら、ムラクモはいつも通りのゆったりとした足取りで、店を後にする。
……そのムラクモを、盆を受け取った店主のビクティニ……ティニと、そしてむらまさは、じっと見ていた。
その二匹だけは、いつもは骨を綺麗な形にして残すムラクモが、あの日以後、骨まで食べるようになった事に気付いていた。
そしてダイケンキが刃毀れした脚刀を再生させる為には、骨を多量に摂取する必要がある事も知っていた。
けれども……居なくなった翌日でさえも平然と過ごしているムラクモに。
聞いたとしたら……脚刀を見せてみろと言ってしまえば、そのままどこか遠くに行ってしまいそうなムラクモに。
それを聞く事は、どうしても出来なかった。
おしまい。
キルスコアは大体50くらいですね。
そして、この先でケッキングファミリーと(今作には出てこなかったけれど)エンニュートファミリーも全滅させる事が確定しているので、この島に来てからムラクモくんは100くらいのポケモンと、そして人間も殺している事になります。
……うん、ヒスイってそこまで魔境じゃないと思うんだ。
でもまあ、ムラクモくんは、バッドエンドルートを突き進んでいったヒカリに最後まで付き従っていたから。この位でも良いかと。
で、こちらのifムラクモくんのプロフィールをちょいと。
名前: ムラクモ
種族: ヒスイダイケンキ
性別: ♂
体格: 平均的
性格: 大人しい。無口。だが、交友関係は少なからずあり、話しかけてくればきちんと受け応えて話も弾む。
職業: 木彫り職人
特記: 記憶喪失、暗殺者
強さ:
ヒスイダイケンキとしてはとんでもなく強いが、種族としての域は出ない、言ってしまえば、ある程度の才能と努力を積み重ねれば到達出来る強さ。
しかし、それよりも異端なのは、どんな手段でさえ躊躇なく使えるところと、殺す事に一切の躊躇も感情も出さないところ。そして、その手段に関しては、木彫りを続けた事によって培われた手先の器用さ……レジェアルで主人公が使っていためかくしだま、ばりばりだまを自作して使うところまで含む。
まあ、タイトルに関しても、これ冥人の戦い方だなっていうところから来てたり。
で、ケッキングファミリーが残っていて、
・先代から、現当主が害悪になるのならば滅ぼしてくれと直々に頼まれる
・50匹くらい、直接殺す描写を書きまくりたい
・ムラクモ側が激情に駆られて殺す様を書きまくりたい
という構想やら欲求はあるんですが、まー、書くとしてもかなり先になるかな、といったところ。