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「――卒業、しちゃったわねぇ」
「何よ? しみじみ語っちゃって、年寄りくさい」
見慣れた白亜の校舎。桜舞う正門前。装いを正した
「まあ感傷に浸りたくなるのも判らないでも無いか。
「ちょっ、変な言い方しないでよう! 確かにイヤな事だってあるにはあったけど、最後にあの人から内ポケットのボタン貰う事は出来たんだからっ」
「お情けで貰っただけでしょぉ? 向こうにはとっくに彼女が居て、ボタン一つあげるぐらいどうって事無いからってんで、躊躇いもなくプチンしてポトリじゃない。遠くから見てたけど、あんなの情緒もへったくれも無かったわよ」
「あううう~~。でもでも、私にとっては大切な思い出の一ページなのぅ」
「ハイハイ。まーったく、年がら年中片思いで告白すりゃあ毎度盛大に玉砕玉砕また玉砕。そんな恋愛してて何が楽しいんだか」
呆れるように夕呼が肩をすくめる。男に不自由しない彼女に、自分のこの気持ちは分かろう筈も無い。だがそれも今日までだ。この春から自分は大学生になる。実家から通えなくもないが、思い切ってアパートを借りて一人暮らしだって始める。そうすれば、そうなれば、学園時代とはきっと何もかもが変わる筈だ。学び舎を巣立つ寂寥と、漠然とした期待。その両方に、まりもの胸がとくとくと拍動を強める。
「見てなさいよ夕呼。私だって大学に入ったら、身を焦がすような恋に燃えてみせるんだから!」
「あらそう? じゃあせいぜい頑張んなさい。そして思い知る事ね。単に歳を重ねたってだけじゃあ、いつまで経っても大人になんかなれやしないって事を」
「そんな事ないわよぅ! 大学でならきっと、素敵な人との素敵な出会いだって沢山あるんだもんっ」
「あればいいわねぇ~。まあ大学のガキ共なんて碌でもない方が九割九分なんだから、あんまり期待しない事ね」
「そっちこそ、年上のミドルだか何だか知らないけど大概にしときなさいよ。後になってからやっぱり若い男と遊んどきゃ良かった、なんて言い出したってフォローしてあげないんだからねっ」
「言わないから安心しなさい。――まあそうね、それじゃあ一つだけ、まりもにあたしからの『助言』をしてあげる」
またか。まりもは少し身構える。お得意の物理学を応用した占いだか未来予知だか良く分からないが、夕呼は時折『助言』と称してはまりもにそういう話を吹き込むのだった。
「心しておくことね。アンタのこの先の恋愛事情、当分ガタガタの荒れ模様よ」