〈31-A〉
「……………はぁ……………」
夜の街並みをとぼとぼ歩きながら、まりもは浮き立つような週末の空気に見合わぬ暗い嘆息を洩らしていた。
「やっと担任を受け持てたのはいいけど、問題児がいっぱい……こんなんで大丈夫なのかしら私ぃ……」
彼女の嘆きの理由はそこにあった。昨年までの副担任経験を踏まえ、この春から与えられた正担任の職務。教員のキャリアとしては極めて順調なステップだ。だが問題は担任となったその新一年生の生徒達、これが中々に曲者揃いなのだった。
「初日から遅刻欠席当たり前、同級生とトラブル起こして途中退出、夕呼の差し金もあるとは言え勝手に制服改造……他にも授業サボって校内徘徊に暴力沙汰に不順異性交遊に……ぁぁぁんんんもおおおお~、この数週間だけでどんだけ問題起こしてくれるのよぉぉぉ……」
生徒の不始末は担任の監督責任、つまりは指導力不足の顕れ、と見なされる。そんな事はまりもにだって分かっていた。だが何度注意しようが奔放極まる生徒達に始終振り回され、放課後を迎える度に学年主任やら教頭やらに呼び出されてガミガミとお説教を喰らわされ、こんな毎日が続いて心身共に疲弊しない訳が無い。しかもその出口が全く見えないのであれば尚更だ。
嗚呼、誰か私に安らぎを。……視界の端をよぎる赤提灯や縄のれんから無理くり目を背け、まりもは高架下の薄暗い道へと足を進める。こんな心境で酒に逃げたら間違いなく身の破滅を招く。そうと考えた訳では無かったが、過去の経験が自分にそう訴えていたのは確かである。
「……………はぁ……………」
こぼれた嘆息は何故か二つ分。あれ? と思って顔を上げると自分の他にもう一人、数メートル先に背広姿の男が肩を落としながらとぼとぼと歩く姿があった。自分とは違うところから発せられた嘆息の発生源はきっとあれだ。
あの様子だと何か仕事でミスでもしたか、もしくは抱えた案件がうまくいってないとか、いずれそんな感じだろう。どこの業界でも組織でも、末端の苦悩は皆似たものか。その大変さが身につまされ、まりもは再び大きな嘆息を洩らしてしまう。前方の男と、またも同じタイミングで。
「……ん?」
向こうもこちらに気付いたようだ。こちらを見て微かに目を瞠るような仕草をした男は、しかし不審者と見られるのを避けたい心理でも働いたのか、すぐさま視線を逸らした。そこへまりもはつい反射的に「あの、」と追って声を掛けてしまう。
「――――はい?」
しまった。どうしよう。胡乱げな男の目つきがこっちの次の言葉を求めている。しばらく何も言えずにいると「何でしょうか」と男の方から近付いてきた。ガードを照らす街灯の下、まりもは改めて彼の容姿をまじまじと観察する。
顔立ちからして自分よりはだいぶ年上、三十代後半か四十代半ばぐらいだろうか。表情こそ疲れ切ってはいるが、その瞳は奇妙に澄んでいる。崩れたネクタイ。少し白髪の混じった頭髪。ストレスと不摂生にたるんだ顔と腹肉。そんな冴えない容姿を持つ男から放たれる深い哀愁感はいかにも中年男性特有のもので、憔悴と諦念に満ち満ちたその雰囲気にまりもは小さく息を呑む。
「失礼ですが、どこかでお会いした事が?」
「え、あ、いえ。そうじゃないんですけど」
「では何か用事でも」
用事なんて何も無い。だが何故か声を掛けたくなってしまった、ただそれだけだ。ハの字に落ちた眉を見ていると否応なしに、自分に何かしてやれないか、という気持ちを駆り立てられる。自分だって似たような表情をしていたクセに。こっちの顔を凝視していた男が徐々にその視線を下げてゆき、胸の辺りを注視したところでその喉がごくりと生々しい音を立てた。そのタイミングで、まりもは意を決した。
「すごくお疲れみたいだったので、その……私にしてあげられる事、無いかなって」
果たして数分後。二人の姿は高架下歩道のすぐ脇、コンクリート製の橋脚と鬱蒼たる茂みに囲まれた暗がりの只中にあった。雲間から覗いた月の光が照らす二つの影は、既にねっとりと絡み合っていた。
「……さっきは変な目的なんて何も無いって言ってたけど、ひょっとして君、こういう趣味でもあるの?」
「んぁっ、はふぅ、趣味とかじゃ、ないですっ。……けど、あ、あぁっ……」
男が再びキスを浴びせてくる。煙草の匂いを絡ませた、味の濃いキス。その一方でニットセーターの上からぐにぐにと両胸を揉みしだかれ、胸の頂点を爪でかりかりと引っ掻かれ。布越しに感じるもどかしさにまりもは身をよじりながら、徐々に強まる興奮を噛み締める。
「だって、普通有り得ないじゃないか。こんな綺麗なお姉さんが『良かったら癒されませんか? 私の身体で』なんて言いながらスカート捲ってくるだなんてさ」
「はうっ。だ、だってぇ……おじさんが私の身体、もの欲しそうな目つきで見てたからぁ……。それにおじさんだって、すぐがっついて来たじゃないですかぁぁ……」
「当たり前だよ、こっちはしばらくご無沙汰だったんだ。そこにこんな美人でいい身体してるお姉さんが誘惑してきたら、辛抱なんて出来ないって」
男の手つきがだんだん激しさを増してゆく。ぐい、とセーターの裾を捲られベリーピンクのブラをずらされ、露わになった乳房に男はすかさずしゃぶりついてきた。
「きゃぁんっ」
生温かい人間の口中がまりもの乳首をねっとりと包む。粘膜と唾液に絡められ、ざらつく舌に舐めつけられる性感帯。それに脳の何処かがびりびりと、まるで炭酸水が弾ける時みたいな感覚が生まれる。歯の裏側を上手に使って乳頭をぎうと柔く潰されると、まりももいよいよ吐息を荒くせざるを得ない。
「ああ、女の胸だ……若くて、
「あん、んっ、んんふっ……好きなんですか、おっぱい?」
「好きだよ。特に、コレみたいな大きくて柔らかいのがね」
「じゃあ……たくさん味わって下さい。ミルクは出ませんけど、ふふっ」
じゅぱじゅぱ、と音を立てて男が乳首を貪る。ねっとりと絡みつくようないやらしい吸い方。房同様少し大きめなまりもの乳頭を執拗に舐りながらもう片方も指でこりこりと捻り、男はその感触とこちらの反応をたっぷり堪能しているみたいだった。母乳こそ出ないが、代わりに胸からじわじわと沁み出すようなこの感情はきっと、無心になって胸を弄るこの男の姿にくすぐられた母性のようなものだろう。
「……ああ、こんな美巨乳見た事無いよっ。きれいに形整ってて、重量感も触り心地もすごくて、ちょっと楕円形の乳輪と乳首がぷりんぷりんで……ああぁ、もっと弄りたくて堪らない。ずっと吸ってたいっっ……じゅぷ、」
「はぅ、あ、はぁぁぁ……ね、こっちもちゅぱちゅぱして。――んっ、あぁん、すごく上手。もっと好きにしていいですよ、私のおっぱい」
「ちゅぱっ、くぷ、ちゅるるるぅぅ…………はぁ、はぁ。夢みたいだ、こんな……こんな素敵で美人なのに、僕なんかにこんな事させてくれる
喜びと切なさをその顔いっぱいに湛え、男がこっちを見上げた。まるで赤ん坊の如き無垢さで。
「もぅ~。おじさん可愛い、そんな顔で見られたら、もっとおっぱいあげたくなっちゃう。なーんにも心配しないで、もっと甘えて。ね?」
よしよし、と優しく頭を撫でながらまりもは男の乳舐りにその身を委ねる。こうしていると何故か自分までもが癒される心地だ。相手の名前も職業も知らないのに。実際されている事と言えば、こうして胸を好き放題嬲られているだけでしかないのに。その行為は社会に疲れ切った二人に惜しみない滋養の波動を注いだ。そして男女としては、それだけに留まらない別の欲求を喚起させる行いだった。
「――ちゅるんっ。はぁはぁ、ああ……欲しい、君が、君の事が……」
「……私ももう、おじさんの事欲しくて堪らなくなっちゃってます。下さい、ココに……」
フレアスカートを脱ぎ落とし、ショーツの端をめくり上げる。曝け出した女の花びら。そこからこぼれた愛液が糸を引いてまっすぐに垂れ落ち、月明かりに輝く銀色の光を放った。その光景を彼はどんな気持ちで凝視した事だろう。男の股間がずくりと持ち上がったのがズボン越しでも分かる。
「熱くてカタいの、欲しいんです。奥までいっぱい……いっぱい、おじさんのカタチにして」
「……なんていやらしい子なんだ。何度も疑うようでアレだけど、本当に
「やだ、違うって言ってるじゃないですか。私はしがない
「君みたいに魅力的な女教師なんて見た事無いよ。しかし全く、世の中に神様ってのはいるもんなんだな……いや、女神様か。勿論君の事だけど」
男もズボンを下ろし、下着の裾からイチモツを覗かせる。みきみきと血走り暴走寸前まで漲った男の象徴。顔に似合わず立派にそそり立ったモノを見て、素敵、とまりもはうっとり呟いた。
「本当にいいのかい? その、生でなんて、」
「……今夜は大丈夫、です」
その時のまりもは、ちょっとした火遊びに興じるみたいな心境だった。今夜は大丈夫。そう述べたのも実のところは嘘。けれどこんなにも気持ちが昂っていては、例え避妊具の用意があったとて自制なんて全然効きそうになかった。中に熱いの注いで欲しい。あのとぷとぷに癒されたい。そういう強い欲求と衝動に、まりもは完璧に支配されていたのである。
「でももしもの事があったって、おじさん逃げるような人じゃないですよね」
「怖いことを言うなあ。尤も君みたいな美人なら、その『もしも』だってこっちは大歓迎だけど……ね」
「あぁっ……嬉し、……あ、ふわわああぁぁあ……」
ずっぷり、とめり込む男根。このところ忙しかったせいで、久しく味わっていなかった挿入の快感。その味わい深さはきっとお互い様だったのだろう。身も心も目の前の男と同調したかのように、まりもは彼と全く同じふにゃふにゃのとろけ顔を浮かべてしまう。
「……っく、柔らかくてぐちょぐちょだ、それに締めつけも凄くて……何だこれっ。
「あは、良く褒められます。『君のアソコは天性の名器だ』って」
「本当にただの教師なのかい……? こんなに美人でエッチな身体だったら、一流企業の社長の秘書とか愛人でだって食っていけるじゃないか」
「……そういうのは卒業したんです。学生のうちに」
ふわりと過去を匂わせるように、まりもはあえてぼかした物言いをする。当時のその男とは実際に
「――――なるほど。じゃあ今夜はじっくり堪能させてもらうとしよう。庶民には本来手を出すことも叶わない、この最高級ディナーの味を」
「そんな持ち上げないで。おじさんさえ良ければ何度だって……んっ……はぁ、ああぁ」
膣内で肉竿の往復運動が始まった。お互い立ったままでの接合は深い所までは届かないものの、角度の変化を付けやすい。そのメリットを活かしてまりもは腰を左右に振り、相手のピストン運動に合わせて亀頭を四方八方から責め立ててゆく。
「んおっ……ああ凄いっ、君のナカ良過ぎて脳が溶けそうだっ……こんな極上セックス、生まれて初めて経験する……っ!」
「おじさんのばきばきオチンチンも私のイイ所にごりごりして、とっても気持ちいいですよっ。あん、あん、あんんんっ」
「こ、こら、もっと声抑えないと。誰かに聞かれでもしたら事だぞ」
「あふっ。だったらおじさんが塞いでぇ……んっ、ちゅ、ふむんっ……!!」
男のキスに口を密閉され、まりもは鼻息のみで喘ぎ乱れる。膣内をずるずると嘗め尽くされるような硬い肉棒の動き。それに互いの愛液がシェイクされて潤滑の度合いを増し、抽挿がどんどんスムーズになってゆく。
「んんっ、はぁ、オチンチン、だんだん深いトコまで来てるっ。もっと来て、奥まで来てえっ。服汚したっていいからあぁっ」
その哀願に男は無言で頷き、がばりと脱いだ背広を下に敷いてまりもの身を横たえさせた。まりもは両脚を高く上げて自ら男を迎え入れる体勢となり、男はそのまま体重を掛け真下に向かって腰を振り始める。荒々しい雄の種付けプレス。膣穴を容赦無くどすどすと杭打ちされ、まりもははしたなく嬌声を上げて涎を垂らし歓喜する。
「はっ、ん、あっ、そこ、そこどちゅどちゅして! びりびりが気持ちいいのっ……おじさん凄いのおぉぉおぉっ」
「ああいいよっ、僕も気持ちいいっ。そろそろ出したいっ。――いいのかい、中に出すよ?!」
求めていたのはそれだ。まりもは両脚を男の腰に絡め、しっかりと抱え込む。
「出してっ、ナカ出してっ。アクメおまんこにおじさんのねっとり精子、全部出してええぇっ! あっあっ、ああうあぁぁぁあぁ…………んんぅぅ~~~~~~っ!!」
頭の中で快楽の火花を散らし、まりもは盛大に昇天した。ぎゅうぎゅうに締められた膣内で、猛り極まった肉竿から粘ついた熱源がびゅるりと放出される。向こうもかなり溜まっていたのか、その射精は勢いのついた数射を終えても肉竿ののたうちと共に「どぷどぷ、どぷん、とぷ――」と数十秒にも渡って続けられた。
「…………んっ、あふぅ……。……ゆっくり抜いて。中に出したの、よーく見て」
「――ああ……」
たっぷりと余韻を味わった男が、その名残を惜しむかのように時間を掛けて肉棒を引き抜いていく。つぽん、と水濡れた栓抜きみたいな音。男はそのまままりもの押し広がった足の付け根、即ち花弁のど真ん中に両手を添え、掻き分けるようにして中の様子を覗き見た。
「……見える? おじさんのどろっどろ精子、ココにたぷたぷぅ、ってなっちゃってるの……」
「月明かりで良く見えるよ。……あぁ凄い、これが中出し……ひくひくとうねって、どんどん奥に呑み込まれて……こんなにたくさん出したってのに……」
「もっと出してもいいんですよ。おじさんだってまだ足りないでしょぉ? ほら……」
先端の残り汁をまぶした指で雁首をつるつると撫で、裏筋から根元までをツウウとひと摩りしてやると、それだけで肉竿の角度はたちまち全開状態へと立ち直る。あれだけ放った直後なのになんて逞しい事か。その回復速度たるや、まりもが今までに見てきた中でも間違いなく随一だった。
「上のお口でも下のお口でも、全部飲んであげます。だから今日は目一杯気持ち良くなって、それでイヤな事なんて綺麗さっぱり忘れちゃいましょ? ――お互いに」
「そうだね……全部忘れよう。君を抱けるってだけで、今日はもう人生最高の一日なんだから」
濃厚なキスを交え、今度は男を座らせその上に跨って、お返しとばかりに種搾りプレスで鉄塊の如く聳え勃つ男根を責め立てる。それに男は吐息を荒げて悦び、自分もまた涙を流しながら恍惚の笑みを浮かべた。
その後も暗がりの中で、まりもと男は盛りのついた犬猫のように交わり続けた。お互い何度果てたか分からなかった。時計の短針が0から1を回る頃になってようやく行為は終わり、次に会う約束もせぬまま二人は高架下で別れ、それぞれの家路へと着いたのであった。
と、ここで終われば話はただの青姦体験記。実はこれには続きがあった。丁度この一週間後、まりもは再び彼と出会うのである。それもあろうことか、白陵の学園内で。
「……ど、どうも」
「……初めまして」
そんなぎこちない挨拶を互いに交わした二人が実はつい先週肉体関係を持った間柄であることは、恐らく周囲にバレてはいなかった筈だ。少なくとも、夕呼以外には。
『ずっと訝しがってたクセにって? あの時も言ったじゃないか。突然こんな美女に声掛けられてた上にあんな事までさせてくれるだなんて、僕の人生に絶対有り得る筈無い、って思ってたんだよ。今まで一度も女性にモテた事無かったし、社会人になってからは出会いすらも無くて、女と言ったらお金払って相手して貰うのが当たり前だったからね。……あの日は家に帰ってからも暫く、夢でも見てたか狸に化かされてたんじゃないか、ってフワフワして寝付けなかったよ』
それでも田浦はしっかりと憶えていた。まりもが自らを『
『それでトントン拍子に売れ出した……なんて、そんな虫の良い話は無かったけどね』
それでも活き活きとした姿勢に好感を抱かれたか、幾つか手応えを得られる事例はあったらしい。本人曰く「自分はあれこれ考えず猪突猛進するのが性に合ってると気付いた」とか何とか。そうして溌剌と迎えた週末の今日、たまたま訪れた白陵柊の、しかもたまたま抱えていた英語用教材をプレゼンするその席で、これもたまたま英語教師として場に同席したまりもと思いがけず再会を果たし……そうした一連の裏話を、まりもは田浦に奢ってもらった夕食の席で明かされたのだった。
「偶然というか奇跡というか、こういう事って世の中に本当にあるもんなんだな。お陰でまたちょっと生きる希望が湧いて来たよ。ありがとう、神宮司さん」
とくん。彼のその屈託のない笑顔に、まりもの胸はときめいた。自分のした事が誰かの為になっている。そういう感触を得られるのは単純に嬉しかったし、目の前で喜びを一杯に表す田浦を見ていると、何だか自分も同じ気持ちになれるような、そんな気さえした。思えばこの時既に、まりもの内には一つの情が沸き始めていた。この男、田浦に対する、女としての情が。
食事を終えてお店を出た直後。良かったら今夜のお礼をさせて下さい。まりもはそのように彼を誘った。この一週分の慰労。互いの肉で隙間を埋め合う快感。それを欲していたのは田浦も、自分も、同じだった。