〈02〉
次の出会いは割とすぐに訪れた。いや、そもそも出会い自体はそれよりずっと前だった。所属サークルの一期上の先輩。入学直後から自分に殊更親身に接してくれていた彼は、自分と新井が破局――と言うには始まりすらもしなかったのだが――を迎えた事をどこかで聞きつけたらしく、それから毎日のように声を掛けてきた。
「なあ神宮司~、元気出せよ。男女の仲なんざそういう事もあるって。落ち込んでたらせっかくの美人が台無しだぞ~?」
「先輩には関係ありませんっ。ほっといて下さい」
「何だよ~、気に掛けてやってんじゃんか。それよりこういう時はさ、憂さ晴らしにパーッと飲みにでも行こうぜ。バイト代入ったから奢ってやるぞ」
「……そうやって先輩、色んな
「んなワケ無いじゃん! 俺はただ可愛い後輩が落ち込んでんのを見てらんない、ってだけだってば」
その先輩の名も今では思い出せない。特に取り立てて褒めるところも無い、容姿も性格も至って並の人物。親身に、というのも翻せば馴れ馴れしいとすら取れる彼の言動は、正直言ってその時のまりもにはひたすらうざったいものでしか無かった。
だがそんな彼の言う事にも一理はあった。落ち込んでばかりいても仕方無いのは事実。それに奢ってくれるとまで言っているのだし、ほんの気晴らしに酒席を付き合って貰うぐらいなら、まあいいか。……そう考えてしまったのが失敗の元だった。
「うへへ~。せんぱ~い、もう飲めませぇ~ん。ちょっとどっかで休んでいきまひょうよ~~」
「おぉいいぜ。…………ほら着いたぞ。ココでいいよな、
「どこでもいいれすよぉ~。ゆっくりできればぁ、どこだってぇ~~~」
そうして連れ込まれたのは繁華街の一角にある、少し古いムーディな宿泊施設。いわゆるラブホテル、と呼ばれるその薄暗い一室にあって、酩酊していたまりもはもはや自暴自棄になっていた。もう何だっていい。こんなにぼろぼろになった心と身体を慰めてくれるのなら、相手なんか誰だって。
それに向こうだって以前から自分を狙っているフシがあったのだし、酔わせてこんな所へ連れ込むからには最初からすっかりその気なのだろう。それをまりもは判っていた。一緒にシャワー浴びようぜ、という先輩からの露骨な誘いですらも、断るつもりは毛頭無かった。
「――あっ、んっ! 先輩もっとぉ、もっとめちゃくちゃにしてえっ! 好きなだけしていいから、何もかも全部忘れちゃうぐらい、私のことめちゃくちゃにしてよおぉぉっ!」
初めての時とは対極に、雄の猛りを穿たれて獣の如く叫ぶ、本能剥き出しのセックス。その最中も別段気持ち良さなどは感じなかった。ただ愛している訳でも無い男に好き放題姦される、という被虐的なシチュエーションそのものが心に負った傷口をゆすいでくれるような、そういう錯覚があった。
全開にしたシャワーの雨滴を浴びながらぱんぱんとバックで突かれ、空のバスタブの中で抱き合いながら乳房をまさぐられ、ベッドに場を移して太ももの片方を抱えられたまま側位で秘所をほじくられ。そうやって蹂躙され堕ちていくことすらも、その時のまりもには絶望のぬるま湯に浸かっているような心地以外の何物をも覚え得ぬものだった。――もう、いいや、これで。捨て鉢な選択をした自分の事を愚かだと、もう一人の自分が罵倒する声を心の何処かに聞き留めながら。
「ほらっイイだろまりも! アイツの事なんか忘れてよお、俺と付き合おうぜ、なあっ!」
「あっ……あっ……! 何でもいいからもっとぉぉっ! 胸もアソコも、私のカラダ全部、もっといじめてええぇぇえぇ……っ!!」
「う、ヤベっ、良過ぎてそろそろイきそうだっ。……このままいいよな。生だけどいいよな、なっ……まりもっ」
「いいからぁぁあぁぁっ! もっとおぉっ、もっとおぉぉぉおぉ~~っ!!」
「あああイクぞっ……イク!! ……うお、あ――――」
その感覚に初めて目覚めたのは、先輩が絶頂を迎えた時になってようやくだった。自分の中に精を撒き散らした肉竿が快感の余韻に打ち震えるあまり、膣内のとある箇所を『ずりゅんっ』と滑らせたその瞬間、恥骨から脳天までを一気に突き抜けるような強い快感がまりもを襲ったのである。
「んぁっ……あああっ……?! い、今の、すご……っ。ね、先輩、もう一回。今のもう一回して、さっきのすごいのぉ。ねぇぇってばあぁ……」
そこからは完全に攻守が逆転した。慣れないながらも自分から腰を動かしてあの強い快楽を求め、次の瞬間には自ら彼の上にまたがって貪欲にさっきの気持ち良さの原因を探り続けた。その積極的なまりもの姿勢に、初めのうちは弾む乳房を揉みしだくなりして愉しんでいたらしい先輩も二発、三発と果てる度に徐々に顔色を青白くしていき、七発目に至る前にとうとうまりもを引きずり下ろしてしまった。
「……も、ダメ……お前……ヤバ、…………過ぎ」
まだなのに。さっきの気持ちいいの、まだ味わえてないのに。気絶するように寝落ちた先輩の傍らで、まりもは己の指で秘所を虐め、欲しいだけの快感が得られぬ切なさに涙を流しながら夜通し身悶えし続けていた。
「……んぅぅ、だめぇ……コレじゃ届かない……それに指じゃダメ、あの『ぷりっ』て感触じゃなきゃダメなのぉ。これじゃ足りない……満足できないよぅ……んんんんっ……」
翌日以降、その先輩がまりもに声を掛けてくる事は無くなった。当初は既成事実を盾に更なる関係を迫られるか変な噂を立てられでもしたら、と気を揉んだりもしたものだが、結局のところそれは自分の杞憂に過ぎなかった。
周囲にもそれとなく探りを入れてみた限り、彼も一夜のみの関係を喧伝して歩くような真似はしなかったらしい。良かった。事実関係はともあれ、少なくとも今後の大学生活の瑕疵となり得る事態はひとまず避けられた、とまりもは安堵に胸を撫で下ろしたのだった。――そう思っていたのは実のところ、当の本人だけだったのだが。
ずっと後になって彼女は知る。この日を境に少しずつ、だが時を経る毎に確たる根拠をもって、陰で自分が『狂犬まりも』と呼ばれるようになっていった事を。